底辺ウマ娘が異世界転移したら何気にチート臭かった件   作:うひひゃう!@

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執筆スピードがブーストしますた。


たーふとぴっくす 残された者たち

 三日間の忌引休み明け、あの子がもう、この世に居ないという事実がじわじわとあたしの精神を浸食してきました。

 

 はじめまして、神様。

 あたしの名はレッドデセーオ。亡くなったクイーンベレーちゃんの叔母にあたります。とは言っても同い歳ですけど。

 

 今日はあの子が神様の御元で困る事がないように、少しばかりお線香とお供えを用意してきました。だからあの子の事を少しでも好きになってくれます様にちょっとだけ、あの子のお話にお付き合いいただければ幸いです。

 

 あの子があたしの家にやって来たのは、当歳の秋、今のあの中二病全開な眼帯軍服ファッションからは想像もつかない事ですけど、家に来た当初はすっごくビクビクしていた記憶があります。

 

 あの子の母親で、あたしの二番目のお姉ちゃんでもあるピッツァクウカイ姉は、あたしが産まれた頃には既に引退していたし、そもそも家にも寄り付かなくなって久しく、初めて会ったのもベレーちゃんの手を引いて突然我が家に現れたこの時が最初で最後でした。

 

「今日からここがお前の家になる。あっちにいるのがお前の祖母にあたるレミニセントリー老だ。ま、ばっちゃ、とでも呼んで可愛がってもらえ!」

 

 あたし達家族への挨拶もそこそこに、幼いベレーちゃんに上から目線でそう諭す様は、親子の情というよりも、まるで得体の知れない異物でも見るような、そこから逃れようと必死な様な、何とも余裕がない様に見え、何とも言えない違和感が湧き上がるのを感じました。これがあの、ピッツァクウカイ? あたしん家で一番優秀でダービーや有馬記念にも出たと母さんが自慢していた? 

 

「クウカイ! ちょっと待ちなさい!!」

 

 ベレーちゃんを置き去りにしてさっさと出ていこうとする姉さんを追いかけて、母さんが家の外へと飛び出しました。それを追いかけたすぐ上のサンライズシュート姉さんと一緒にあたしも外へと飛び出します。今にして思えば、これが失敗だったんだと分かりますが、当時のあたしや一つ上の姉にそれを求められるのもムリと言うものです。

 

 ベレーちゃんは、初めて来た知らない家の中にただ一人取り残されてしまった訳ですから。

 

「あんな小さな子をほっといてどこへ行こうってんだい!? アンタには親子の情ってもんが無いのかい!?」

 

 アメリカ生まれの母は、大柄な金髪美人です。当時17歳でお腹の中にはまだ妹がいたので姉はそれを心配して追いかけたのですが、その大きなお腹がクウカイ姉のカンに触ったようで、

 

「うるせぇ! オレがそんなもん感じる訳ないのはアンタだって知ってるだろ! オレは、廃用手続きまで済ませて、やっと、やっとあの忌まわしい世界から自由になれたってのに、それをあのクソ野郎共がぁっ!!」

 

「だからって、あの子が何をしたって訳じゃないだろう!? 可哀想に、あんな怯えた表情の子、あたしゃ見た事ないよ!」

「だったら、アンタが笑顔にしてやれよ! 簡単な事だろう? 今まで大勢産んで、育てて来たアンタなら!」

 

 最早売り言葉に買い言葉。二人の罵り合いは留まる事を知りません。

 

「それこそおまえの義務ってもんさね! ウマ娘に産まれて、ウマ娘を産み、育てる。それこそあたし達ウマ娘の挟持ってもんだろう!?」

「! それをアンタが言うのかっ? 何処の誰とも知れない男共にホイホイとシッポ振って尾いて行き、何人ものクソ野郎とギシあんしまくった挙げ句、毎度毎度孕まされて認知もされない子供を大量生産して、国から貰う補助金で辛うじて食って行ってる、ウマ娘製造マシンのアンタがっ!」 

 

 ぱしっ!

 

 母さんがクウカイ姉の頬をひっぱたきました。目には涙が溜まっています。

 

「アンタの本心は良く分かった。あたしを蔑みたいなら、それはいい。でも、あの子がそんなに憎いのかい? アンタの妹達も、それに、アンタ自身も」「ああ、憎いさ! 決まってるっ!!」

 

 吐き捨てるように絶叫を振り絞ったクウカイ姉。その姿は今の今まで悪態をついてた姉ではなく、何となく捨てられた仔犬のように見えました。

 

「生まれた時からあった違和感を抑え付けながら、辛うじて生きて来たオレだ。心は男の筈なのに何故か女の躰、自分自身の姿を鏡で見るのさえヘドが出そうな程だってのに、周りを見ればオレとそっくりな女の顔が年代別にいくつも並んでる。そんなの悪夢に決まってるだろう?」

 

 後から知った事ですが、クウカイ姉は性同一性障害というヤツだったそうです。男の心を持ちながら女の子しか存在しないウマ娘に生まれたというのは悲劇と言っても過言ではありません。

 

「町中を歩けば男がエロい目でオレを見る。纏わりつく視線から逃れようと女社会に引き籠ろうとすれば、そこは孕まされるの上等のマタニティ生産業の歯車扱い。ましてや、そこから逃れようと廃用手続きまでしたってのに、手続きの間隙を衝かれてオレに色目を使ってたキモイ野郎の罠に嵌って無理矢理ドラッグレイプされて孕まされる。挙げ句にオレが前後不覚になった間にヤク中で逮捕拘禁? そんで刑務所ん中であのガキを産むハメになって、気がつけばあの異物を躰の中から出しちまったんだぞ! これで誰を恨むなって言うんだよ!? オレはもう、いつアイツを殺しちまうか分からない程追いつめられてるってのに!」

 

 母親が子供を殺す!? こんな田舎町で育ったあたしにはとても想像できないほど恐ろしい言霊に

 

「う、うわ〜ん!!」

 

 あたしの感情が爆発するのを止められ無かったのでした。

 

「デセーオ!? 大丈夫だからね! シュート、デセーオ連れて向こうに行ってなさい!」

 

 母さんに言われたシュート姉があたしを家まで連れて戻りました。さめざめと泣くあたしが家に入るのを、たった一人大人しく座って待っている無表情なベレーちゃんの姿が迎えてくれました。クウカイ姉のあの話を聞いた後だと何か恐ろしいクリーチャーのように感じてしまったのですが、実際そんな訳はなく、結局あたしの家に一緒に住むようになったベレーちゃんは普通の女の子のように健やかに育てられ、やがて表情を取り戻したのでした。

 

 これはかなり後になって、シュート姉から聞いた話ですが、あの後母さんの説得に応じてクウカイ姉は、ベレーちゃんのジェネラルスタッドブックへの登録だけはしてくれたそうです。もっとも、それ以降母さんがベレーちゃんを育てる条件で。

 

 クウカイ姉はその後、二度と実家に寄り付く事も無く、風の噂では何処か外国で性転換手術を受けたそうです。とてもベレーちゃんには言う事はできません。あなたのお母さんはお父さんになりましたなんて……

 

 しかし、おかげであたしとベレーちゃんは揃ってUTCでトレーニングを積む事が出来るようになったのです。その事に、ベレーちゃんと出会えた事にクウカイ姉には感謝しますが、それでも母さんにあんな酷い事を言ったクウカイ姉を許せそうもありません。

 

 それはさておき、当初、ベレーちゃんの能力はあたしはおろか、その頃走ってた同年代の娘達の中で頭一つ抜けた存在でした。あたしがハロン18秒で走ってた時、既に15―15まで進んでいて、スタッフさんからも、

 

「将来ダービー間違いなし!」

 

 と太鼓判を押されてた位でした。この頃から、自分自身に自信を持てるようになったベレーちゃんは、トレセン学園に入ったシュート姉の置き土産のラノベにハマり、中でもフルメタが大のお気に入りで、

 

「かなめ、いいなあ。あたしにも、あんな素敵なカレシ欲しいよなあ?」

 

 こんな風に普通の女の子みたいな会話を交わせるようになったのは良い事だと思いますが、アレをカレシに望むのは、ビミョーにハードルが高いと思います。

 

 そんな、普通の幸せに慣れたころ、好事魔多しというか、UTCでのトレーニング中、ある事故が起こりました。坂路であたしと併せていた時の事です。

 

「! ちょっと待って!」

 

 途中で止まったベレーちゃんはその場で蹲り、スタッフさん達もそれを見て慌てて駆け寄ります。すわ、骨折か? と緊張が走りましたが、ベレーちゃんはその後自力で立ち上がり、

 

「やっぱ、大丈夫みたいです。御心配おかけしました!」

 

 と、アピールしてその場は何とか収まったのですが、その日からあたしには、ベレーちゃんの動きに違和感を感じるようになったのでした。

 

「やっぱお医者さんに診てもらった方がいいよ! このままだと、どんどん悪くなっちゃうよ!」

 

 そう、諭すあたしに、ベレーちゃんは

 

「頼むから、ばっちゃが心配するような事は報告しないで、お願い! あたしは大丈夫だから!」

 

 そう言って頑なに医者に罹るのを拒んでいました。

 

 実際、普段のトレーニングには支障が無く、あたしよりも速いラップはこれまで通り刻んでいるので、やがてスタッフの皆さんもベレーちゃんの違和感を気にしないようになりました。

 

 でも、あたしはやっぱお医者さんに罹って欲しかったです。早いうちにきちんと治療していれば、ベレーちゃんがあたしですら勝ち上がれた未勝利を勝てない事なんて無かった筈なのに……それだけが今となっては最大の後悔です。

 

 

 

 そして、退学にさえなっていなければ、あんな酷い最期を迎える必要なんて無かった筈なのに……

 

 

 

 あの日、数年振りにあの忌まわしい組織が犯行声明を出しました。

 

 UKK団、正式名称は忘れましたが、口の悪いセンパイ達は

「ウマ娘の敵、このやろ、このやろ団」

 

 と、嘲り笑っていましたが、実際、身内がその被害者となってしまってはとても笑える話ではありません。

 

 奴らの主張はこうです。

 

『この世界から、ありとあらゆる兵器を根絶し、真の世界平和を実現する為に何を犠牲にしても全ての兵器を廃棄処分する』

 

 字面にすると、何か良い事をしている団体みたいですが、では何故奴らがあたし達ウマ娘を目の敵にしているのかというと、曰く

 

『ウマ娘は過去の大戦において最も大勢の人を殺した兵器であったからだ! その驚異的破壊力は、銃弾をも避け続けて接近し、強大なパワーで近代兵器すら素手で破壊する、正に神が創りし悪魔の兵器。ウマ娘がただ一人でも存在し続ける限り、我々人類に安息の日は訪れる事は無いのだっ!!』

 

 と、言う時代錯誤な主張を繰り返しては、時折表舞台に出て来ては破壊工作を繰り返し、やがて当局に取り締まられて壊滅状態になる。なのにそこから何度も復活しては、また破壊活動を繰り返す、そんな迷惑な組織なのです。

 

 今回のテロは、大勢のウマ娘が退学する11月1日を狙いトレセン学園を出ていくウマ娘を襲撃し、一網打尽にするという迷惑な事件でした。しかも、この時使われたのは、奴ら曰く

 

『彼奴等をこの世界から痕跡すら遺さず排除する画期的新型時空爆弾だ! これさえあれば全てのウマ娘と称する破壊兵器の群れを根絶出来る。我等が宿願が遂に叶う時が来たのだ!!』

 

 ……阿呆か!

 兵器の根絶を掲げる組織が新型の兵器に頼るとか、矛盾にも程がある! おかげでベレーちゃんの死体も遺さず消滅したとかで、お墓にも入れる物が無い。せめて遺品だけでもと思って母さんとトレセン学園に残ってる姉達と総がかりで元部屋を探したが、綺麗さっぱり片付いていた為、何も得る事が出来無かったのです。

 

 無論、白昼の電車を狙ったテロ、被害者はベレーちゃんだけではなく総勢132人が亡くなった大惨事で、他にも放校されたウマ娘が二人と一般の人が129人。どんだけ効率が悪いんだよとぐうの音も出なくなるまで問い詰めてやりたいものです。

 

 

 

 やっと、放課後になりました。

 久しぶりだと授業が長く感じて仕方なく、暇にあかせて神様と交信してしまいましたが、お耳汚しでしたでしょうか? 願わくば、せめてベレーちゃんに幸せな来世がありますように。

 

「おい、そこの後輩! おまえベレーの身内だったよな!?」

 

 ふと呼ばれて振り返るとそこに立っていた人達は……

 

「ああああっ!! 貴女達は」

「そうだ! アタシらは」

「カミノフシラビ!」

「レッドディザイア!」

「ユーワファルコン!!」

 

「じ、地獄三姉妹っ!!」

 

「「「誰が地獄三姉妹だっ!!」」」

 

 揃ってツッコまれました。




お線香とお供え︰何か色々違う気がするがデセーオちゃんは気にしない。

中二病全開な眼帯軍服ファッション︰転生当初のファッションは京王線での移動に際し自重した模様。

二番目の姉︰他にもアメリカ時代に三姉妹を産んでいます。

ピッツァクウカイ︰当初実名で出す予定でしたが、書き進めるうちに境遇が余りにアレな事になった為、敢えて名前を変更させて頂きました。

 尚、筆者に特定の個人、団体、サラブレッドを貶めるつもりはございません。優しい世界が出来るには、優しくなるだけの理由がある、と言う事の表現のため、敢えて不幸な者も出さざるを得ないと言う事、文学的表現の必然性と御理解賜われば幸いです。

廃用手続︰引退したウマ娘がその後母親になってもその子供がトゥインクルシリーズに出場しない場合、これを届け出ると廃用手当として約二百万円が国から支給される制度。通常は競走成績の振るわなかった者の遺伝子を排除する為に自主的に辞退する事が多いが、今回のクウカイのように精神面の安定の為と考えると結構必然性のある制度ではあるのでは?

性同一性障害︰この世界ではウマ娘の中に発症する確率が非常に多いとか。但し、トップクラスに行く程その確率は下るらしい。

UKK団︰正式にはユニバーサルキリンググッズノックアウト。第一次大戦時より存在する殺人兵器根絶を掲げる歴史的犯罪組織。第二次大戦時、ドイツではナチスを利用し、アウシュビッツに数万のウマ娘を集め大量虐殺を行うなど、全ウマ娘の天敵と言っていい非道の輩である。太平洋戦争では日米両国のウマ娘が共同戦線を張り、かの組織に壊滅的打撃を与えたと言う事もあったとか。

レッドディザイア︰多分皆様が想像しているのとは別人です。
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