プロローグその1
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誰かに聞かされたこの星の終末の話。余りにも荒唐無稽なその話を私は信じることが出来なかった。しかし、何故だか日に日に不安が積もっていった。このまま何も対策をしないで本当にいいのだろうか。取り返しのつかないことになるのではないか。私は致命的な間違いを犯しているような感覚だった。
そしてその日が来た。朝起きた瞬間から何かがおかしかった。心臓を鷲掴みにされているような、生きた心地がまるでしない。しかし、周りの者たちは普通の一日を送っているように見えた。
私だけがおかしいのだろうか。いや、きっとそうなのだろう。いつものように私の取り越し苦労なのだ。大丈夫。大丈夫。
普段ならそう気持ちを平静に保てるはずだった。だが、今日この日だけはそれが出来ない。そして私はとうとうその日が来たのかと悟った。
誰かに聞かされたこの星の終末の話。
見ただけで気が狂ってしまう、そんな化物たちがこの星を喰らい尽くす物語。
それが物語ではなく現実のものであると私はようやく確信した。
私が感じる最も嫌な空気を出す場所へと辿り着いた時、私は自分の目を疑った。
地平線の彼方まで倒壊した建物の瓦礫で埋め尽くされていた。辺りではあちこちで火災も発生している。もうここには命ある者は存在しない。そこまで完膚なきまで破壊されていた。
そして、その瓦礫の中心に恐らくこの大破壊の元凶である存在が佇んでいた。
それはあまりにも異形であった。それを見ただけで体の底から嫌悪感が湧き出してくる。こんな生き物がこの星にいるのか、いやそもそもあれは本当に生物なのか。
私は頭の中が混乱で正常な判断がまるで出来ていなかった。それもそうだろう。それの胴体は人間の成人男性の体だ。そこに何も異常性はない、本当に正常そのものだ。その異常性は首から上だ。人間の体にあるはずの頭部がそのまま樹齢数千年の巨木にすり替えられているのだ。
何の冗談だ、これは。こんなものがこの星に存在してたまるか!
「“シン・ガガダイン”!!」
私は問答無用で超級火炎魔術を放つ。たとえ火炎耐性があったとしてもダメージが通る貫通性能持ちの魔術だ。例外もなく全てを燃やし尽くす蒼炎の魔術。これを受けて無事だったものは存在しない。
しかし、それは何事もなかったかのように平然と立っていた。体に火傷の跡すらなかった。
そして私の攻撃を受けてようやくこちらに気づいたようだった。のっそりとした動きで私のほうに体を向け、木の枝が触手のように私を襲う。そのスピードは大したことない。問題はその触手があまりにも多すぎるのだ。数千、数万、いやそれ以上の触手に視界全てが埋め尽くされ後方へ逃げることしか出来ない。貫通能力を無視するような、そんなデタラメな奴に捕まっては逃げ出すことが出来ないかもしれない。ここは逃げの一手だった。
私は全身に魔力を注ぎ込み【肉体強化】を行う。瞬間、筋肉が増強され生身の肉体では到底出すことの出来ないスピードでその場を離脱する。
何もない空中を音速すら越える速度で蹴り出せば、そこは足場となり生身ではあり得ない三次元機動を容易く行うことが出来る。
いくら無数にある触手であろうと自在に空中を飛び交う私を捉えることが出来ない。さらに触手は鈍足、捕まることはあり得ない。
触手を交わしながらようやく頭が冷静に戻ってくる。そして奴を打ち倒す算段を見つけようと頭を巡らせる。
はっきり言って打ち倒す手段はある。しかし、その魔術を地上で放てば取り返しのつかない大惨事になってしまう。つまりは奴を何とかして遥か上空の宇宙空間へと放り出さなくてはならない。
しかし、実際問題あんな巨体をどうやって空中へ放り出そうか。恐らく奴は魔術全般に耐性があるのだろう。耐性を貫通する魔術を食らっていながらダメージすら無い。ということは魔術の力無し、物理的に奴を空中へ持ち上げるしかないのだ。
見た限り、奴の頭部にある巨木は重量数十tは下らないだろう。それを上空へ連れていくのだ。
「まあ、不可能だろうな」
自嘲気味に私は呟いた。
そう、不可能。
手がない。手詰まりだ。
だからと言って諦めるなんてもっての他だ。それはつまり我が親友との約束を破ることになる。それだけは絶対にあり得ない。例え私が死ぬことになろうとしてもそれだけは守り通さなくてはならない。それがあの日私が誓ったことだから。
それにまだ手はある。
「"ワームホール"!」
この日のために様々な書物を読んでいて本当に良かった。今使用した魔術、"ワームホール"は空間転移させる時空間魔術。使用者が念じた二つの空間を無理矢理通じさせ移転するというものだ。魔力を使用しているがあくまで空間と空間を繋げる穴を作り出すだけ。穴を通る際は魔力は何ら介していない。
私の読み通り奴は為す術無く背後に現れた空間の歪みに吸い込まれた。そして、遥か真上の宇宙空間に奴が姿を現す。
奴の正体は気になる。人間共が作り出した生体兵器かもしれない、それともこことは全く違う惑星から辿り着いた未知の生命体かもしれない、もしくは人間が突然変異を起こしたのかもしれない。色々な可能性が湧いてきては思考を邪魔する。
今やるべき事は奴を打ち倒すこと、その一点だけだ。
「消し飛べッ!!
"ガガディスフ・ドザラガン"!!」
極大魔術という魔術がある。
曰く、伝説の魔術。
曰く、滅びの魔術。
曰く、悪魔の魔術。
様々な呼び名があり、場所によっては敬畏、畏怖、禁忌といった感情を持たれることがある。多くの場合は負の感情寄りだが。
その極大魔術に共通していることは【大規模な破壊】を行うことが出来るという部分だ。村や国という規模では断じてない。大陸を容易く吹き飛ばす、という途轍もない威力である。
それが火炎属性の極大魔術、"ガガディスフ・ドザラガン"である。
極大魔術の爆風が地上に容赦なく降り注ぎ、まるで暴風が通りすぎたように辺りは荒野と化していた。
遥か上空の奴は跡形もなく消し飛んだ。"空間把握"魔術を発動し、上空にそれらしき反応も見当たらない。
「一、二、三、……計五体か」
そう、だからこの場にいる異形の化物たちは上空で消し飛んだ奴とは別個体なのだろう。
「いいだろう、貴様らが伝承通りの星を喰らう化物だというなら、相手にとって不足はない!!
――――――――――――――【―――――】、貴様らを滅ぼす者の名と知れ!!」
かくしてこの星の命運をかけた戦いが始まった。
しかし、これでさえもまだ終末の序章であると知るのは先のことだ。