Wonderful World!!   作:ワイバーン

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ニクスはあんな頭ん中ピンク色ですが、かなり闇があります。
今回そのニクスに人生のターニングポイントとなる非常に重要な話となっております。

ちょっと批判が来るかもしれませんが読んでいただけると幸いです。




第8話「独りじゃない」

 

 あれはまだ船旅の途中のことだった。

 

「お願い、ニクスはこのままじゃ身勝手で自己中心的な大人になっちゃう」

 

 俺が寝ようとしたところにミューリが恐る恐るノックをして入ってきた。こういうしおらしい態度を取っているミューリは悩みごとがあるときだ。

 案の定、ニクスのことで頭を悩ませていたらしい。

 

 ミューリは船医として必ず毎朝昼晩と船員の体調状態をチェックしていた。

 それには勿論ニクスも入っており、問診を行おうにも一言、「平気」で済ませてしまうようだ。

 

 ミューリは諦めずにニクスに話しかけるもことごとく撃沈。仕舞いには「ウザい」と逆ギレされてしまったようだ。

 これ以上は自分の手に負えないと判断しニクスと一番中の良い俺に相談に来たというわけだ。

 

「難しいな」

 

「……そっか」

 

 俺の出した答えは難しい。

 あの子の環境は難しすぎる。女王という立場、魔術の才能、それに誰にも負けたことが無いという。

 プライドがガチガチに固まってしまった。

 

「だが、一族の頂点に立つものとして、そういう下の者に舐められないようにするのは大事なことじゃないか?」

 

「レシスト!」

 

 あまりにも冷たく言い放つ俺に信じられないという非難の声。

 

「考えてみろ、あの子は一国の王なんだぞ?それを俺達が良いように曲げてみろ、戦争になるぞ」

 

「だけど!それでレシストは納得しているの!?」

 

「ああ」

 

「ッ!私は!…私は……」

 

 ミューリもその難しさを理解している。人として子供を正しく導きたい。

 しかし、それを行えば何千人もの血が流れるかもしれない。

 一人を取るか、何千人を取るか。

 これはそういう問題だ。

 

「夜遅くにごめん、それと変なことを言って、怒鳴っちゃってごめんね。おやすみ」

 

 ミューリはパタンと弱々しくドアを閉め自分の部屋へと帰っていった。

 

「……そんなの俺だって何とかしたいさ。こう見えても先生なんだぞ」

 

 誰もいない扉に向けて泣き言をぶつけた。

 

 そして翌日、そこにはニクスに諦めず話しかけているミューリの姿があった。

 そうだよな、お前はそういう奴だよ。

 

 

 

 

 俺とニクスは港町から離れたちょっとした広場のようなところに来た。

 

「ルールは簡単だ。相手が気絶するか参ったと降参するか。それでいいか?」

 

「構わへん。そうや、ハンデとして先にレシストから攻撃してもええで。ウチはそれを完璧に防いだるさかい」

 

 自分に対しての絶対の自信。あの歳でこうまでプライドが高い子は見たことがない。

 それも今までの環境のせいだろう。

 

「一瞬で決まっても泣き言言うなよ!」

 

 瞬間、俺は全身に魔力を巡らせる。【肉体強化】を施し一気にニクスとの間合いを詰める。

 対しニクスはそれを見ても怯みもせずに俺を待ち構える。

 ホントどんな度胸の持ち主だよ。10歳でこれはあり得ないぞ。

 

 そんな考えを振り切り、俺はニクスの顎を目掛け拳を振るう。先のミューリが行った脳を揺らす攻撃。

 顔の前まで拳が来ているにも関わらず、ニクスは瞬きせず拳を凝視している。

 瞬間俺は理解した。嵌められた。

 

 もう左拳は止まらない。だが、まだ足と左腕がある。全力で地面を蹴り後方へと退避する。そして左腕で顔を覆うようにして防御を固める。

 

 次の瞬間、ニクスは透き通るような透明な氷塊へと変化した。これはニクスの【雪月花(せつげっか)万華鏡(まんげきょう)】。故に次に起こることも理解している。

 バキィィンという強烈な破砕音と共に氷塊が爆発を起こす。爆発により氷塊は細かな破片となり、四方八方へと爆散する。

 後方へと退避し、左腕でガードをしていたがそれはあまりにも遅すぎた。顔面以外の身体中に破片が突き刺さり、全身に鈍い痛みが走る。

 

 ミューリの奴、これをよく耐えたよな。

 

 そんな間抜けな感想を抱きながら俺はもう地面に這いつくばっていた。

 

「まんまと引っ掛かったなぁ」

 

 どこかに隠れていたニクスが声をかけに来た。

 

「へへ…一杯食わされ…たよ」

 

「かんにんな、痛かったやんか?今ミューリを呼んでくるさかい、ちょい待っとってや」

 

「また…逃げるのか?」

 

 俺は気力を振り絞り、フラフラになりながらも立ち上がる。

 

「ちょ、ちょい!動いちゃ──」

 

「喧嘩はまだ終わってねぇぞ!」

 

 辛うじてまだ握れる左手で拳を作り上げ、ニクスに振るう。だがそれをパンチと言うには余りにも力が籠っていない。

 当然、そんな拳はニクスに届くはずもなく、空振りした勢いで俺はまた地面に転げ落ちる。

 

「レシスト!」

 

「触るなッ!!」

 

 見ていられなくなったニクスは俺に駆け寄ろうとするが、俺の怒鳴り声でその足が止まる。

 

「な、何で?何でや!?もうレシストは血だらけでちゃんと立てへんやん!もうウチん勝ちやんか!?」

 

 ニクスはもう何がなんだか分からなくなってしまったようで、涙声で俺に訴えかける。

 

「勝ちだと?泣きそうな奴が勝ちだと?今にも泣きそうな子供が何言ってんだ!勝った奴はな、負けた奴を見下ろしふてぶてしく笑うんだよ!!」

 

「うっ…うぅ、─」

 

「泣くんじゃねぇ!勝ったんだろ!?笑えよ!!」

 

「で、でぎないよ……でぎるわけあらへんよ!」

 

 ニクスはボロボロ泣きながら俺を心配そうに見続ける。

 

「…ルールは伝えただろ……気絶させるか、降参させるか。俺はまだ気絶もしてねぇし、降参もしてねぇぞ」

 

 そして俺はもう一度立ち上がる。

 その様子を見たニクスは恐怖で顔を歪めている。

 俺は鬼のような形相をしているんだろうな、きっと。

 

「い、嫌や。来いひんで……来いひんで!!」

 

 ニクスはジリジリと後ろへ下がる。

 遂には腰を抜かしたようでその場へペタンと尻をついてしまった。

 

「どうした?何で攻撃して来ない?確かにニクスの言う通り、俺は後一発で倒れるような状態だ。お前は強いんだろう?」

 

「……ッ!ッ!」

 

 恐怖でもう言葉すら出なくなったようだった。

 誰がどう見てもニクスは戦意喪失していることは明白。ならばニクスのためにも早くこの悪夢を終わらせよう。

 

「なんだ、もう声も出ないのか?なら、俺の勝ちだな!!」

 

 そして俺がニクスの肩に手を置いた瞬間に、恐怖の臨界点を越えたようで気絶した。

 

 

 

 俺もようやく治癒魔術を発動させる。ミューリ並みの瞬間治癒ではないが15分もあれば完治できる。

 

 なぜ俺が治癒魔術を発動させなかったか。それは血だらけの方が迫力が増すだろうと思ったからだ。

 この戦闘でニクスには二つのことを学んでほしかった。

 一つ、それは自分が格下に思っている相手に負けること。

 もう一つ、それは戦闘が怖いことを知ってほしかった。

 

 ニクスはプライドの塊だ。このままでは人間的にネジ曲がってしまう。それに戦闘にも影響され、油断して負けてしまうこと。それを知ってほしかった。

 そして、これから魔族と戦うことになるのだ。血だらけになりながらも自分を殺そうと殺気を当てられる、なんてざらのことになるだろう。そして結果はこの通り、俺相手でも恐怖で気絶してしまうのだ。

 

 俺は気絶したニクスを背負い宿へと戻っていく。

 

 

 

「…ん…、……言っ………よね!絶対…静だっ…!!なんで医…の言う………聞けないの!?」

 

「い…、お…えが…クスが─」

 

「御託は…い!」

 

「はい」

 

 なんややかましいなぁ。

 やかましくて寝ていられへんわぁ。

 目ぇ覚ますと、どうやらレシストミューリに怒られてるようだ。

 

「あっ気付いた、ニクスちゃん?ごめんねウチのバカが。恐かったでしょ?」

 

 するとミューリは優しゅうウチんおつむを撫ぜた。なんか昔母様に撫ぜられたことを思い出すかのようやった。

 レシストは心配そうにウチを見てる。せやけどあの鬼のような顔忘れられず、目ぇ逸らしてまう。

 

「ほら、ニクスちゃん怯えちゃってるじゃない!あんたは出てきなさい!」

 

「あっ、ちょっ!ミューリ待て!俺はニクスに─」

 

 レシストは言葉の途中で部屋を追い出された。

 いらへんお世話やといつものウチなら言うていたやろう。せやけど今は助かった。あの顔がちらついてウチは上手く喋られへんかったやろう。

 

「ニクスちゃん、ホントごめんね」

 

「な、なんで…」

 

「うん?」

 

「なんでレシストはあんなんしたん?ウチんことが好かんのかいな?」

 

 もしそうやとしたらどないしよう。レシストに嫌われたらウチどうしたらええのやろう。

 

「そんなことないよ」

 

 ミューリは優しゅうウチを抱き締めた。

 この人はなんでウチに優しゅうしてくれるのやろう。ウチはこの人にあないに酷いことをしたのに。

 なんで。わからへんことだらけや。

 

「それはね、レシストがニクスちゃんを心配だからだよ。ニクスちゃんを思ってあんなことをしたの」

 

 いっこも分からへんかった。意味がわからへん。

 

「わからへん。いっこも分からへんよ!?

ウチを思うならもっと優しゅうしてや!あんなんされたら、ウチんことを好かん思うで!

もうわからへん!わからへんで!!

うっ、うぅ、うぁぁぁああああん!!」

 

 溜め込んどったなんかが爆発したようやった。

 

「よしよし、そうだよね。分からないよね。今は思いっきり泣きなさい?」

 

「うぁぁぁああああん!!いややぁ!わからへん!わからへんよ!ぁぁああああ!アアアアアアン!!」

 

 

 

 宿の廊下に座り込み、ニクスの泣いている声を聞いていた。

 ホントに爆発寸前だったんだな。思いっきり泣いて少しはスッキリしてくれればいいけど。

 ミューリには助かりっぱなしだ。俺だけじゃあニクスを助けられなかったな。

 

 

 

 ニクスちゃんは泣き疲れてベッドでぐっすりと眠っていた。それも右手の親指を吸いながら。

 それは孤独感やストレスを感じるとおしゃぶりをする赤ん坊の名残。つまりニクスちゃんは過度なストレス、そして孤独感に苛まれていた。10歳にもなってこれは本当に危ない。

 遅かれ早かれ壊れてしまう。

 荒療治かもしれないがレシストのしたことは、こうして泣くという感情をリセットさせることになり、結果的には良かった。だけどあのバカ、一歩間違えれば大変なことになっていた。

 だからといって、私だけではこの子を救えなかった。私は壊さないようにしようと必死になって進展しなかったろう。

 

 絶対に救い出す。医者として、一人の人間として。

 身近な人を救えないで何が医者だ。

 

 私が決意を新たにしていると、そっとドアが開きレシストが入ってきた。

 

「ニクスは?」

 

 とはいっても顔を除かせる程度。

 レシストもニクスちゃんのことを気にかけている。

 

「泣き疲れて眠っちゃった。私はこの子と一緒に寝るから」

 

「そうか。ニクスのことよろしく頼む」

 

「当たり前よ!私は医者よ!」

 

 そしてレシストは音を立てないよう静かにドアを閉めた。

 私もニクスちゃんが眠るベッドに入り、ニクスちゃんの頭を眠るまで撫で続けた。

 

 

 

 その日ウチは夢を見た。

 いつもの夢や。真っ暗な暗闇にウチだけがおる。誰かを呼んでも返事はのうて、どこまで行っても無限の闇。

 ほんでウチは怖うなり泣きながらその場でうずくまる。目ぇ覚ますまでこの闇が私を覆う。このままウチは闇に溶かされてまい死んでまうかと気狂うほど泣き叫ぶ。せやけどそれも空しゅう一層闇深まり、ほんで気づくとウチは目ぇ覚ます。

 せやけど、この日だけは違うた。優しゅうウチを抱き締める誰か。その人の顔も見れず、ウチん首も回らへん。

 せやけど不思議と恐怖は無かった。とても安心する。まるで、まるで─

 

 

 

「母様?」

 

 せやけど目の前にはアホ面のミューリが寝とった。

 ちゅうかウチはミューリと一緒に寝たん?

 

「~~~~ッ!!」

 

 凄い恥ずかしゅうなりウチは声にならへん声をあげながら飛び起きた。

 

「あ、ニクスちゃん、おは、よう~」

 

 起きた思たらすぐに寝直した。

 

「ちょい!起きなさい!状況を説明しなさいよ!!」

 

 ウチん大声は宿屋に響いた。

 

「えへへ、ニクスちゃん~」

 

 

 

 

 ニクスのモーニングコールに飛び起きた俺は厄介事はごめんなのでのんびりと支度をした。

 部屋を出て朝食を取ろうと食堂を見ているとミューリとニクスがこちらをチョイチョイと手で招いている。

 どうやらニクスは普段通りの様子だ。

 昨日はあんなことをしたから、一生目を合わせてもらえないかと思っていた。

 

「昨日は本当にすまなかった!」

 

 俺はすぐさまニクスに謝った。誠心誠意を込めた謝罪だ。

 ニクスは俺の様子に戸惑っていた。

 

「それに俺はまだニクスに本当のことを伝えてないんだ」

 

「な、何?」

 

 俺はあのニクスにぶつかっていくミューリの姿を見てニクスを正そうと思ったわけじゃない。

 ニクスの芯がとても純粋だから。

 自分の知らないことには興味津々でその顔は生き生きしている。そしてそれを理解したときの嬉しそうな笑顔。天真爛漫とは正にこの子のことだ。

 その笑顔が、俺達が手を差し伸べず知らぬ存ぜぬで責任を放棄して、永劫失われても良いのか。

 あの子が将来、圧政を引いてしまい、他の氷雪族から指差されて良いのか?

 そんなことは断じて許されない!

 

 だが、これは俺がニクスに一番伝えたいことではない。

 俺が一番伝えたかったこと、それは─

 

「俺達は仲間なんだ!だからニクスはもう一人じゃないんだ!!」

 

 俺は我慢できずにニクスを力一杯抱き締めた。お前はもう一人じゃないんだとわからせるため。

 

「レシ…スト……ふっ」

 

「寂しかったろ?辛かったろう?だけど、これからはそんなこと一人で背負うな!俺達が一緒に背負ってやるから!!

俺達は支え合っていかないと生きていけない生き物なんだから!」

 

「レシスト…れしすと……れしすとぉ!」

 

「ああ、お前はもう一人じゃない!」

 

「うぁぁぁああああん!!うぁぁぁああああん!!」

 

 






──レシストが降りてくる少し前

「……ったく、あいつ遅いな。何やってんだか」

「あ、あのね、ミューリ?」

「うん?」

「今までひどいことしてごめんなさい。ウチを許してくれる?」

「よく言えました!とは言っても許すも何も私は最初から怒ってないけどね」

「ほ、ホント?良かったぁ。
それと、一つお願いがあるんやけど…」

「なになに?私でよければ聞くけど?」

「笑わんといてくれる?
あ、あのね、……これからも……時々でいいから……………………一緒に寝てくれる?」

「……えへへー」

「あぁー、ひどい!笑わんといてって言うたのに!もう知らへん!」

「あー、ごめん、ごめんなさい」

「知らへんもん!」

「ごめんなさいニクスちゃん。ゆるしてーなんでもするから!」

「……ほな、一緒に寝てくれる?」

「勿論だよ!あっ、あのバカようやく降りてきた!ほらニクスちゃん!」

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