Wonderful World!!   作:ワイバーン

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ここら本編の共通ルート開始です。


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第1話「旅立ち」


◇

 

 物心ついた時から俺は決まってある夢を見る。それも最低最悪な悪夢をだ。

 小さな女の子が天使のような歌声でこの世の全ての悪意を凝縮させたような歌を歌う。

 それと同時に見たこともないような異形の怪物たちが現れ、次々と人々を喰らっていく。

 親を目の前で食われ、泣き叫ぶ子供。

 目を虚ろにさせ、頭だけとなった我が子を大事そうに抱える母親。

 これは夢だと叫び、自ら頭を地面に叩きつける者。

 地獄という言葉がふさわしいほどの凄惨な光景が目の前に広がる。

 

 そしてこの星はどうあっても助からないとそう思ったとき、彼ら四人が現れた。

 一人は人の身ほどの巨大な剣を持つ中年の男性。

 一人は隻眼隻腕の魔族の女性。

 一人は奇怪な服を着た氷雪族の女性。

 最後は額にもう一つの目を開眼させた男性。

 その四人が現れてこの悪夢は終わる。

 

 ただ一言言えるのはこの四人が集まったとしてもどうにもならないだろうとこと。

 この四人がいれば大抵の困難は乗り越えられるという確信にも近い感覚を覚える。

 だがこの状況だけはどうひっくり返っても無理だ。どうしようもない絶望とはまさしくこのことだろう。

 ただのちっぽけな四人が星を喰らう無限の怪物をどうやって絶滅させられるのだろうか。

 

 だから、ここでこの夢は終わる。

 この星には怪物に喰われて終わりなのだ。

 

 

◇

 

「……」

 

 ひどい目覚めだ。最低最悪の悪夢を見たということは分かるがどういう内容だったかはまるで思い出せない。

 そこだけ霧がかったような感覚だ。

 

 それよりも早く着替えないと。もうそろそろアイツが声をかけてくる時間だ。

 

「レシストー!朝だよー!ご飯できてるから早く降りてきなさーい」

 

 下の一階から幼馴染というか姉のような存在が声を上げる。

 

「起きてるよー。もう少し待っててくれ」

 

 彼女はミューリ。俺が赤ん坊の時、彼女の両親が経営する病院の前に捨てられていたらしい。

 それを不憫に思ったミューリの両親は俺を息子として快く迎え入れてくれた。

 あの二人がいなかったら俺は命がなかっただろう。

 それからは俺とミューリと両親の四人で暮らしている。

 

「着替えにいつまでかかってるの!?私はもう行くからね!」

 

 おっと、昔のことを思い返していたらもうこんなに時間が経っていた。

 俺も時間ギリギリだな。

 

 俺は急いで身支度をし、ささっと朝食を食べて家を出た。

 

 

◇

 

「じゃあ昨日の復習からしていこうか。今、君たちが住んでいるヴァート大陸はすごく危ない状態だ。どういう風に危ないのかわかる子はいるかな?」

 

 はーい、となりの大陸から食べ物が来なくなっています

 

「そうだね、正解だ。もっと詳しく言うなら隣の大陸、つまりインフォース大陸から食べ物や物といった物資が止まってしまっている状況だ。じゃあ次の質問、何故インフォース大陸から物資が止まっているのでしょうか?」

 

 昔、魔族が攻めてきてインフォース大陸を征服したから!

 

「そう、その通りだ。みんなよく復習しているね。先生は優秀な生徒を持って鼻が高いよ」

 

 俺はこの小さな村の学校の先生をしている。そしてさっきこの子たちが言っていた通り、このヴァート大陸は大きな危機に直面していた。

 ヴァート大陸は全域が密林で、まともに暮らせる土地が少ない。さらには世界樹と呼ばれる【ミューリグノム】という巨木がヴァート大陸中に根を張り栄養分を根こそぎ吸い取ってしまう。これにより作物が育たなく食料というものがほとんどない。

 それをありがたいことに隣のインフォース大陸が援助をしてくれ、食料その他物資を提供してくれるのだ。ただその条件としてこちらが魔術を扱えるエルフを提供するというもの。

 なんでもあちらの大陸では魔術を扱える人間はいないらしく、魔術を扱えるエルフが非常に珍しいんだとか。

 

 まあそんなこんなでインフォース大陸とは協力関係だった。

 しかし20年前に突如としてインフォース大陸上空から地上を揺らすほどの凄まじい爆風と衝撃が数回発生した。それと同時にインフォース大陸からの連絡が一切取れなくなってしまった。

 極めつけはインフォース大陸を覆うかのように見えない壁が現れてしまい、入ることすら出来なくなってしまった。こちらの凄腕の魔術師が言うにはこの見えない壁は魔術で作られた高度な結界らしく、その結界を破ることは何世紀をかけても解析することすら出来ないそうだ。

 

 そんな芸当ができるのはこの星の中である一部の種族しか出来ないだろう。

 魔族。俺たちエルフ以上の魔力を持ち、好戦的な種族。

 200年前にインフォース大陸やこのヴァート大陸にも現れ、壊滅状態にされたらしい。

 尽きることのない魔力、火力の違う攻撃魔術、圧倒的な生命力、死ぬまで攻撃を止めない、まさに魔に身を堕とした種族。

 その魔族が再び現れ、インフォース大陸を征服したのだ。

 

 今はまだ保存されている食料があるからいい。だがそれもじきに尽きる。

 俺たちはこのまま緩やかに死ぬ。そんなことはまっぴら御免だ。このまま死ぬしかないなら最後まで足掻いてやろう。

 

「じゃあ復習はおしまい。最初の授業は魔術からだ」

 

 

◇

 

 その日の夜俺はミューリとその両親に魔族を倒しに行くことを話した。

 

「嘘でしょ…?嘘だよね?」

 

「いや、本当だ。このまま何もしないでいたら俺たちは死ぬしかないんだ」

 

「だからってレシストが行く必要ないじゃない!!」

 

「じゃあ他の誰かが何とかしてくれるのか!?今まで20年、あの結界すら解析できないままじゃないか!!」

 

「レシストだってその結界をどうするつもりなのよ!?」

 

「…テンブリス大陸に行く」

 

「なっ!!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ミューリの顔から血の気が引いていく。

 テンブリス大陸。魔族が住んでいるとされる大陸だ。

 

「そんなの、そんなの死にに行くようなものじゃない!!」

 

「それぐらいしないとあの結界を突破することは出来ないんだ」

 

「レシスト、本当に行くのかい?」

 

 ヒートアップしていた俺とミューリの会話を遮るようにミューリの父親が口を開いた。

 

「はい。父さんや母さんが俺を拾ってくれたから、俺はここまで生きてこれた。だから今度は俺が父さんと母さんを助けなくちゃいけない」

 

「私たちはそんなことを思ってお前を育てたわけではないぞ」

 

「そんなことは分かりきってるさ。だからこそ助けたいんだ。打算も考えずに俺を育ててくれた貴方たちの為に!!」

 

「……」

 

 父さん、そして母さんは俺の目をじっと見つめる。

 

「分かった」

 

「お父さん!」

 

 父さんの肯定の言葉にミューリは思わず叫んでいた。

 

「本気なの!?」

 

「こうなったらレシストは梃子でも動かないさ。ただし!絶対に生きて帰ってくること。それが条件だ」

 

「…分かった。絶対に生きて帰ってくる!」

 

 そう言うと父さんと母さんは納得したように部屋から出て行った。

 今この場に残っているのは俺とミューリの二人だけだ。

 

「……私も行く」

 

 長い沈黙を破ったのはミューリだったと同時にとんでもないことを言い始めた。

 聞き間違えじゃないならこいつは俺と一緒に行くとか言ったぞ。

 

「おい、正気か!?死にに行くようなもんだぞ!」

 

「それはレシストだって同じじゃない!それに旅の途中に風邪でも引いたらどうするの?それがただの風邪じゃなくて風土病みたいなものだったらどうするの?」

 

「いや、確かにそうだけどさ…」

 

「魔族と戦う前に病で死んでちゃ意味ないでしょ?私は攻撃魔法はヘタクソでも医学の知識はレシストよりあるんだからね!」

 

 やばい、このままじゃコイツも一緒に来ることになるぞ。確かにこいつは独り立ちしている医者だし、10歳になる前に一人で重病人を治した天才だ。だからこそ死にに行くような旅に連れていくことは出来ない。

 

「待て待て、ダメだ!!絶対にダメだ、お前は期待されている医者だろう?お前がいなくなったら父さんと母さんをどうやって支えていくんだよ」

 

「それはレシストも同じでしょ?先生が長期休暇取って誰が代わりに先生をやるのよ?」

 

「おチビたちは親の手伝いでもしてればいいんだよ!俺なんかいなくたって―」

 

「それ本気で言ってる?」

 

 あ、やばい。ミューリがキレた。

 

「レシストがいなくなったらあの子たちは悲しくてきっと泣いてしまう。あの子たちだけじゃないこの村の人もお父さんもお母さんも、それに私だって」

 

「……」

 

「みんな貴方に死んでほしくないのよ。レシストの言うことは分かるよ。このままじゃ絶対にダメなんてこと私だって分かってる。でも、それでも、それ以上に貴方に死んでほしくないのよ」

 

 ミューリは感情が爆発したようで目からポロポロと涙を流していた。

 

「…それでも俺は行く」

 

 コイツが俺を大事に思っているように、俺だって家族のコイツを大事に思っている。

 だからこそ―

 

「俺は絶対に帰ってくるから。魔族を倒して、みんなが笑える暮らしを取り戻してみせる」

 

「…約束だよ」

 

「ああ、勿論だ。俺が約束を破ったことあるか?」

 

「…分かった」

 

「もう遅い、明日も仕事だろ?俺だって朝早くに行く予定だ。もう寝よう」

 

「うん」

 

 なんとかミューリを説得させることが出来たみたいだ。

 そしてこれがここで過ごす最後の夜になるかもしれない。

 

 

◇

 

「あー遅いよレシスト!私1時間以上待ったんだからねー」

 

「んな…」

 

 翌日、朝早くに起きて支度を終え、村の出口に向かうとそこにミューリが何喰わぬ顔でいやがった。

 俺がちょっと感傷に浸っていたらコイツの能天気な笑顔が雰囲気をぶち壊しやがった。

 

「お前!!なんでここにいんだよ!あ、そうか見送りか。朝早くからご苦労なこった。じゃあなミューリ!」

 

「そんなわけないでしょ。昨日お父さんとお母さんに私も行くって説明したし、納得してたから」

 

「ふざけんなテメェ!!俺と昨日約束したこと一瞬で忘れやがったのか!?」

 

「覚えてます!ちゃんと【レシストが帰ってくる】ことでしょ?」

 

「それとお前がここで…待ってるって…」

 

「そんなこと私は一度も約束していません。さっ、それじゃ早く行きましょう?旅は長いんだから」

 

「ふ、ふざけんなー!!」

 

 こうして俺とミューリの旅は始まった。

 




登場人物紹介

レシスト

ハーフエルフの青年。冷静な雰囲気は出しているが素は短気で喧嘩ッ早い性格。
得意魔術は電撃魔術。


ミューリ

ヒロインの一人。
レシストより一歳年上なエルフの女性。一話では真面目な感じだが素はアッパラパーな能天気女。
得意魔術は医療魔術。医療魔術に極振りしすぎたせいで色々残念なことに。
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