もしかしたら消されるかも…
◇
一瞬気を失っていた。走馬灯なんてものを初めて見た。
本当に死にそうになると見るもんなんだな。
辺りを見るとまだホワイトサーペントは俺とミューリを睨みながらウロウロしていた。
何か様子が変だ。何故襲ってこない。かなりの時間をこうして睨みあっているだけで襲う気配は今まで一度もない。
そして鈍った頭でも正解にたどり着いた。コイツらは俺たちが死ぬのを待っている。わざわざ危険を犯してまで餌にありつく必要もない。
俺たちはただ待っているだけで死ぬような餌としか見られていないのだろう。
頭にキた。コイツらはただ環境に適しているから危険生物なだけであって、何ら野性味もない。
「この、ペットどもがッ!!」
そして俺は動き出した。なけなしの魔力。そしてもう尽きている体力。
普通なら体が動くはずはない。だが俺は気力だけで体に鞭を打ち、走り出す。
「自分から牙をもいだようなお前らなんかに、死んでも俺の肉を喰わせてたまるか!!」
しかし、気力だけではどうにかなるはずがない。ものの100m動いたか動かないかぐらいで、バランスを崩し倒れた。
もう限界だった。
あんなに啖呵を切ったというのにここでもう終わりだ。
まだテンブリス大陸に上陸していないのにここで終わりなのか。
ずしりという雪を踏む音が聞こえる。辺りにあのホワイトサーペントが四体。
これで本当に終わりだ。
「ごめんな、ミューリ……俺、お前を守れ…なかっ……………」
◇
「待ちなさい、貴方たち」
その聞いただけでも腹の底から凍えるような声でホワイトサーペントは動きを止めた。
今まさに指一つも動かせない餌を喰らおうとしていた所だった。それに一切の不満もせず、年端もいかぬ少女の一声で動きを止めたのだ。
絶対服従の関係がそこにあった。
「ふふ、なんと運のよい殿方。ウチがたまたま今日決めた散歩の道で倒れているんですもの」
少女はこの極寒の気温だというのに薄い着物一枚しか着ていない。さらには肩を大胆に出し、本来の着物ではあり得ない
そんな格好でこの極寒の地を平気な顔で歩いている。
「運も実力の内と言いますし、それに…」
そう。彼女こそ噂の氷雪族。
「さきの啖呵、痺れたわ。ウチの
別名、
「あんさんはこの地を生き残った
白いサキュバス。
彼女は発情した顔でレシストの体をまさぐった。
「あぁ、これや。久しぶりの男子の体や。さぁ、ウチらの村に案内しよか」
レシスト、そしてミューリはホワイトサーペントの背に乗せられ、吹雪の中に消えていった。
◇
「……チが……きや」
「そ……んずるいわ。……ぶりの……やよ?」
「そうや…皆で………く食べたらえ…」
「イヤや!……」
辺りが騒がしく、徐々に目が覚めてきた。
目の前には半裸の女性が五人いる。
全員が全員出るとこ出てるし、顔立ちも整っている。
多分夢だろう。
「あ、起きたん?大丈夫?今あんさんを暖めてあげるからなぁ」
目の前の女性が俺が起きたことに気付くと覆い被さるように抱きついてきた。
彼女の体はヒンヤリしていて凍えていた俺にはかなりキツイ。
「ちょい!何勝手に始めようとしてんねん?皆で分けあうって言うたやんか!!」
「やかましい!ウチが見つけたんやで。あんさんのお種を恵んでもらえるんはウチが最初。その後に貴女たちが恵んでもろうたらええのに」
「ズルイズルイ!ウチだってもう何年も抱いてもろうてへんのやで!我慢できひん!!」
彼女たちの口喧嘩でようやくこれが現実であると理解できた。
なんだこれは。全員が全員俺なんかと釣り合う筈がない美女たちで、それが俺を取り合っているようだ。
うん、こんなのあり得ない。
しかし俺の体にフニフニと柔らかい二つのモノが当たっているため俺を現実逃避させてくれない。
「あ、あのー」
俺は未だギャイギャイと口喧嘩している彼女たちに話し掛けた。何とか状況整理しないと。
「ああ、堪忍な喧しゅうって」
「いえ、それより貴女方が俺を助けてくれたんですよね?」
「そやそや。あんさんも凄い度胸の持ち主やなあ。まともな装備も無しでこの大陸に来るなんて自殺行為やで」
「まあ、色々ありまして。それでもう一人、俺の連れがいたと思うんですけど」
「心配せんでもあの子はうちらで治療してます」
ああ、良かった。本当に良かった。
「ありがとうございます。必ずこのご恩を返します」
そして、俺のその一言で彼女たちは動きをピタリと止め、目の色が変わった。
殺気だとかこちらを害そうとする気配はない。だが、明らかにこの空気は不味いと感じた。
「あんな、ウチらは【氷雪族】っちゅう種族でな、女しかおらへんのよ」
「男は産まれへんし、産まれてきても必ず女。そもそも子を産むことすら出来ひん」
「せやけどウチらは子を残してきた。どないして子を産んだ思う?」
「えっと……」
「そう、外からの外来者を手厚うもてなして、ウチらを抱いてもらう」
「お種を恵んで貰うんや」
ヤバい。彼女たちは発情したみたいに頬を上気させている。そして、何よりもその目だ。獲物を捕らえた捕食者の目をしていた。
「この死の大陸を生き残ったあんさんに天国を見せたる」
瞬間、俺は【肉体強化】の魔術を発動させ、覆い被さっていた彼女を引き剥がし、彼女たちと距離を取った。
「お願いです。こんなことを言える立場じゃないってことは分かっています。命の恩人である貴女たちを傷付けたくないんだ」
彼女たちはキョトンとし、互いに顔を見合せ次の瞬間にケラケラと笑い出した。
「あはは、あんさんは何か勘違いしてんのちゃうん?」
「何も取って喰おうとするわけちゃうんよ」
「ウチらと気持ちええことをしまひょって言うてんのやで」
「ああ、そうか。あんさんもしかして童貞なんやろ?」
「何も怖いことはあらへんで。うちらが一人前の男にしたる」
そして彼女たちは何を思ったのか纏っていた服を脱ぎ、生まれたままの姿となった。
「な、ななな、何をしているんですか!!」
俺は彼女たちを見てはいけないと目をつぶった。一瞬桜色の何かが見えたような気もしない。
「あはは、その反応はほんまに女を知らへんねんなあ。ウチちょいやる気湧いてきたわ」
「ウチもウチも。今までの男と違うて可愛すぎる」
「分かる分かる。何て言うんやろう、抱き締めたなる」
ああ、クソ。目をつぶっているから彼女たちがどう動いているのか分からない。
なりふり構わず全力の肉体強化で振り切ることは可能だ。しかし、それでは彼女たちに怪我をさせてしまう。
「はい、捕まえた」
そうこうしている内に背後から抱きしめられた。
「あは、顔に似合わず立派な物を持ってんちゃう」
「あふ、ちょっ、駄目です」
彼女は慣れた手つきで俺の下着の上からまさぐってくる。
「あら、ウチがいない間に随分と楽しそなことしてんちゃうん?」
一際幼い声が聞こえた。それと同時にその声の主から凄まじい怒気が発せられる。
「あっ、ニクス様」
「ねえ、知ってんわよね。外来人来たらまずウチん所に連れてくるって」
「そ、そやけど、そないしたらウチらの番になる前に干からびて死んでまうやん」
「やかましい!この五人を捕らえな」
そして、そのニクスという子の言葉に命じられ五人はどこかに連れていかれたようだ。
「もう目ぇ開けてもええわぁ。堪忍な、あんさん」
そしてようやく目を開けることが出来た。
目の前には声の主である幼子が立っていた。あの五人も絶世の美女であったが、この子と比べてしまうと霞んで見えてしまう。
「ウチは氷雪族の女王、【ニクス】や。あんさんの名を教えてもろてもええか?」
まだ10歳ぐらいの年齢に見えるその子は改まって自己紹介をした。
「レシスト、【デスペラティオ・レシスト】と言います」
「レシストな。これからよろしゅうな旦那様」
「……はい?」
とんでもないことを言い出したぞ、この子。
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氷雪族
フリギディッジ大陸に住む種族。京都弁で話す。
氷雪族はかなり特殊な種族で子を産んでも女の子しか生まれてこない。しかも成長すれば必ず美女になる。
そして、氷雪族は年間平均気温-50℃に耐えられるよう、自らの体温・体感温度を調整する特殊な魔術が常に発動している。しかもこの魔術は魔力の消費がほぼゼロに近いため、この魔術が切れることはない。
そして、氷雪族全員が全員好色であり、万年男日照りなため、外から男が来たとなるともう大変なことになる。
人口約400人が一斉に牙を剥き、踊り食いされる。
氷雪族の村にたどり着いても生きて帰ってこれないのはそのため。