モルゲッソヨ   作:キルロイさん

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 間隔を開けて並走する()()()()が、モルゲッソヨの潜伏域まで徐々に接近していく。

 

 エリカはキューポラから胸まで出し、心地よい風で髪を揺らしながら前方を注視していた。

 

 彼女としては身体を外部に露呈させたくなかったが、キューポラが削ぎ取られてささくれ立ったように尖っている鋼板によって顔が傷付くのは避けたかったのだ。

 

 それに対し、彼女の右側を並走しているみほは車内に身を隠す気はさらさら無いようだ。西住流の血筋なのか、幼少期から厳しい訓練を受けているのか、非常に大胆である。

 

 彼女たちの前方には撃破された戦車が点々と停まっており、モルゲッソヨもいる。モルゲッソヨは銀色の身体だから隠れていても反射光でその位置がすぐに判明してしまうから、容易に残存数を数えられた。

 

「バイロイト1から副隊長、今後は符丁は省略する。モルゲッソヨ残存数を六機に訂正。撃破された戦車の裏側で所々光っている物があるでしょ。あれがモルゲッソヨよ。 送れ(カウメン)

了解(ヤー)。確認しました。モルゲッソヨの弱点は?  送れ(カウメン)

「弱点は決まっているでしょ。チ○コよ 送れ(カウメン)

「えっ、おち○○んを狙うの?」

「そうよ」

「当たったら痛いのよ」

「それが狙いなのよ。そもそも、なんで副隊長は痛いことを知っているの?」

「私が小さい頃にお父さんとお風呂に入ったことがあって、その時に知っちゃった」

「何をしたのよ。正直に言いなさい」

「お父さんのおち○○んをギュッて握っちゃった。あの時のお父さん、今までに聞いたことが無い悲鳴を上げちゃった」

「何でそんなことをしたのよ!」

「だって、だぁぁぁぁぁって、興味があったんだもん」

 

 彼女は幼少期のみほを知っている訳ではないが、小学校低学年から砲弾の装填訓練をさせられたと聞いた事がある。そんな事を続けていれば、腕力や握力は相当強い筈だ。彼女の握力で握られた父親はどんな顔をしていたのだろうか。赤の他人だからこそ想像するだけで大いに笑える。

 

 それより、みほをからかうのは終わりにしよう。エリカは真剣な表情に戻すとみほへの説明を再開した。

 

「話を戻すわ。八八ミリ(アハトアハト)なら首から下のどこでも撃破出来る。アンタが持ってきた砲弾なら大きなヘルメットでもぶち抜けるわ」

「モルゲッソヨを撃破する度に数は減るの? 分裂したり合体したりして数が増減しないの?」

「戦闘中ではそのような事象は確認出来なかったわ」

「分かった。それで、これからどうするの?」

「私が前へ出てモルゲッソヨを誘引するから、副隊長はのこのこの現れたモルゲッソヨを撃ちなさい」

「大丈夫?」

「防御力は私が上よ。短い時間だけど経験も積んだ。他に適任者がいる?」

了解(ヤー)。指示に従います」

「では、始めるわ。以上(エンデ)

 

 エリカは右側に並走するティーガーⅠより先行すると、撃破された戦車に隠れているモルゲッソヨのうち一番左に隠れている一機に狙いを定めた。この配置のまま彼女が囮になって誘引すれば、彼女の右側で待機するティーガーⅠが容易に射撃出来る筈だ。

 

 だが、何となくだが先程までモルゲッソヨを屠った戦闘が通用するのか不安に感じる。モルゲッソヨ同士の意思伝達はどのように行っているのか見当つかないが、次々に屠られる仲間たちを見て対策を立てているのであろうとは想像出来たからだ。

 

 それが杞憂なのか確認するには攻撃をするしかない。彼女はモルゲッソヨの射程外で戦車を停止させると指示を始めた。

 

「弾種、榴弾。破片を撒き散らせてモルゲッソヨを動揺させるわ」

「榴弾、装填完了」

「てっ」

「発射!」

 

 モルゲッソヨの近くに着弾した榴弾は破片を宙に撒き散らせ、モルゲッソヨや撃破された戦車に次々と降り掛けていく。モロゲッソヨが人間並みの知能を持っているならば標的にされている事を自覚したであろう。だから、何かしら行動を起こす事を期待していた。

 

 だが、モルゲッソヨは微動だにせず物陰に隠れたままだった。そうであれば、モルゲッヨソがしびれを切らすまで何度でも射撃すればいいだけだ。

 

「弾種、榴弾。指示あるまで射撃継続。戦車、微速前進」

了解(ヤヴォール)

 

 砲手は二射、三射とモルゲッソヨの至近距離に榴弾を撃ち込み、操縦手は微速で戦車を前進させる。だが、モルゲッソヨは相変わらず物陰に隠れたままだ。遂にモルゲッソヨの射程距離まで接近したが、それでも反応は無い。

 

 エリカはモルゲッソヨの意図が見抜けず首を捻るが、丁度その時にみほからの通信が届いた。

 

「ごめんなさい。履帯が切られました」

 

 戦闘に参加したばかりでモルゲッソヨの機動特性を理解していない彼女らしく、忍び寄るように接近したモルゲッソヨに履帯を切断されてしまったのだ。

 

 そして、これがモルゲッソヨによる攻撃の第一段階でもあった。みほの通信と同時にモルゲッソヨも動き出したのだ。

 

 先程から物陰に隠れたまま沈黙を続けていたモルゲッソヨは、エリカから見て右方向に走り出し擱座された戦車の間を縫うように走り去っていく。

 

 思わずエリカは声を出した。

 

「えっ、ちょ、ちょっと、待ちなさい」

 

 モルゲッソヨはティーガーⅡではなく彼女の弱点に気づいていた。()()()()()()()()()()事に。

 

 モルゲッソヨが物陰に隠れ続けるのを阻止するには簡単な方法があった。撃破した戦車へ射撃して遮蔽物として利用出来ないようにしてしまえばいいのだ。当然ながら、その戦車の車内にはモルゲッソヨの粘液を浴びて救護を待つ生徒がいるし、モルゲッソヨの被弾でカーボンが剥離している可能性もある。

 

 エリカにとってその戦術は論外である。だから、彼女を始めティーガーⅡの砲手は他の戦車に被弾しないように注意を払っていた。それを見抜かれたのだ。

 

 彼女は困惑するが、何時の間にか残存するモルゲッソヨの全機も走り出しており、一両の擱座した戦車を目指して走っていた。どうやら、そこが集結地点らしい。そして……。

 

 エリカはモルゲッソヨの企みに気づくと思わず呻き声を出した。

 

「マジ、ヤバイ」

 

 擱座した戦車から五〇〇メートル以上離れた所に、履帯が切れたティーガーⅠがいる。そのティーガーⅠにモルゲッソヨは残存機全てをぶつけようとしていたのだ。

 

 おまけに、ティーガーⅠの右側から、エリカから見てティーガーⅠの裏側から攻撃を仕掛けようとしている。エリカがティーガーⅠの防戦に参加し辛い位置関係だ。だから、彼女は即断した。

 

「進路三時、戦車、全速前進」

 

 排気管から紫煙を盛大に吹き出し泥を盛大に跳ね飛ばしつつ戦車は前進する。既に集結地点には五機のモルゲッソヨが集結していた。間違いなく残存機全てだ。

 

 鋼鉄製の虎は獲物を捕獲しようとするかの如く一気に接近する。それに気づいたモルゲッソヨは一斉に駆け出した。ティーガーⅡの進路を横切る方向へ。そして、その先にあるティーガーⅠへ。

 

「いい度胸ね、望むところよ」

 

 全速で疾走するティーガーⅡから七.九二ミリ機銃弾が発射され、モルゲッソヨが走る地面の草を次々と弾き飛ばしていく。モルゲッソヨを撃ち倒すには効果が無いが注意を引く効果はある。それに顔を向けたモルゲッソヨは、その威圧感に負けたのか標的をティーガーⅡに変更した。

 

 その数は二機、残り三機はティーガーⅠへ向かっている。そのうち一機は間も無く腹部が破裂した。ティーガーⅠによる射撃だった。ティーガーⅡも射撃するが、モルゲッソヨの足元にある地面を耕しただけである。

 

 二機では物足りないが誘引に成功したエリカは新たな指示を下す。

 

「停止、続いて後進」

了解(ヤヴォール)

 

 全速で疾走していたティーガーⅡがつんのめるように停止すると、好機と捉えたのかモルゲッソヨが速度を増して一気に駆け寄って来る。そして、後進し始めたティーガーⅡに向けてモルゲッソヨは地面を勢いよく蹴ると、飛翔し突撃を掛けた。

 

 咄嗟にエリカは指示を伝える。

 

「停止、前方を右に振って!」

 

 操縦手の回避操作は間に合った。昼飯の角度と呼ばれる一時方向への変針により、飛翔してきたモルゲッソヨは車体前面の貫通に失敗した。

 

 だが、ティーガーⅡを狙っていたもう一機は、エリカの誘いに乗らなかった。標的をティーガーⅡからティーガーⅠに再度変更していたのだ。

 

 そのモルゲッソヨはティーガーⅠの左側から接近している。エリカは同士撃ちを避けるため射撃出来ないし、みほはティーガーⅠの右側から接近するモルゲッソヨの迎撃に気を取られていた。

 

 エリカの戦闘は終了した。

 

 モルゲッソヨはティーガⅠの砲塔天面に乗ると大型ヘルメットを脱ぎ、驚いた表情で振り向くみほの唇を奪った。そして、彼女を引きずり出し姫君のように抱きかかえると彼女と共に車内に姿を消した。

 

 車長を失ったティーガⅠは的確な防戦が出来なくなり、その隙を狙うかのように最後まで残ったモルゲッソヨが次々に飛翔していく。

 

「そんな……」

 

 茫然とするエリカは、モルゲッソヨが挙げた最後の戦果を見届ける事しか出来なかった。

 

 

 

     ◆◇◆◇◆

 

 

 

 戦闘は終結した。

 

 エリカ率いる黒森峰女学園臨時戦車隊が勝利したが、その代償は余りにも大きかった。

 

 残存戦車はティーガーⅡ×一両、それだけだ。

 

 そして、撃破された戦車の乗員ほどんどが銀色の粘液を浴びている。

 

 勝利したとはいえ彼女に高揚感は全く無かった。

 

 エリカは撃破されたティーガーⅠの左側にティーガーⅡを停止させるとそこから降りた。

 

 ティーガーⅠの乗員のうち被弾位置の関係により少量の粘液を浴びただけで済んだ操縦手が、転輪を背にしてもたれ掛っている。エリカはその操縦手に気づいたが、お互いに目を合わせただけだった。操縦手は脱力状態で立ち上がれず、エリカは銀色の粘液が付着するのを恐れて近寄れなかったからだ。

 

 エリカはその足でティーガーⅠの車体天面に上り、車長用のキューポラの前に立つ。車内の惨状を想像してしまい思わず身震いしてしまうが、意を決して車内を覗き込んだ。

 

 ペンキをぶちまけたかのように銀色になった車内、そして、同色になった一人の女子生徒が椅子に腰かけていた。ブーツ、スカート、ジャケットだけではなく、両足や両手も銀色の粘液に覆われている。

 

 エリカに気づいたのだろうか、彼女はゆっくりと顔を向けた。その顔は銀色の粘液で汚れていたが、間違いなくへっぽこ副隊長(にしずみみほ)だった。

 

 エリカは思わず胃液が逆流しそうになるが、それを必死に抑え込む。それを絶句による無言と捉えたのか、みほが口を開いた。

 

「私、汚れちゃった。えへへ……」

 

 力なく笑うみほの目には、今にも零れ落ちそうな涙が溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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