銀色の幻想   作:三条蓮花

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第二話

「幻想郷………ねぇ、聞いたことないな。いやしかしそれはそうだ」

 

 

 

忘れ去られたもの達が集う場所であると八雲紫は発言した。それなら当然人に知られるわけにはいかない。

 

 

 

「それはどんなところなんだ?今私の頭には荒廃した町並みや汚れた空気が蔓延しているとか、そういうものが浮かんでいるんだが」

 

「あら、舐めないでくれる?忘れられるとはすなわち過去のものになること。じゃあ日本の過去は?文明開化が進む前は、この国はどんな姿だったのかしら?」

 

 

 

「その口ぶりからするに、現代とはとてもかけ離れた場所になるのか」

 

 

 

そんな稚拙な予測を発したら、紫は我が子を自慢する母親のような声音で尋ねてくる。

 

 

 

「銀。貴方は『美しい自然』を見たことはないでしょう?」

 

 

 

「人が手を加えずともそれが単体として価値を存分に知らしめているものを『美しい自然』と呼ぶのなら、なるほど確かに私は今まで一度も見たことはない。ということはもしやそれが「在る」と?」

 

 

 

もし本当にそうなら、今すぐにでも幻想郷に移りたい。

 

 

 

「ええ在りますとも、こんな世の中には決して存在し得ないような、かつての日本の原風景が」

 

 

 

「そうか………それは素晴らしいな。彼方に移り住んだらそれを眺めるのが一つの楽しみになりそうだ」

 

 

 

すると紫は少し驚いたような嬉しいような表情を浮かべる。

 

 

 

「貴方の言葉は嘘ではないのね。まさかこんなことを言ってくれる人がいたなんて、思いもしなかったわ」

 

 

 

「意外と他にもいるかもしれない。しかし私とてその原風景とやらを見たことはないのだから、楽しみになりそうというのはあくまで希望的観測にすぎないが」

 

 

 

「それでも構わないわ。きっと貴方なら幻想郷を気に入ってくれる。さ、そろそろ行きましょうか」

 

 

 

そう彼女が言った刹那、私と彼女の間に奇妙な穴が開いた。沢山の目が中に見受けられる。

 

 

 

そうだ、これは先程彼女の後ろにあったものと同一のものだ。となるとこれはなんだ?

 

 

 

「私は『スキマ』と呼んでいるわ。私の能力をちょっと応用して作った」

 

 

 

「能力?」

 

 

 

テレキネシスやパイロキネシスといった類いのものだろうか。

 

 

 

「そう、まあこれに関しては向こうに行った後説明するわ。とりあえず、このスキマは好きなところに移動するためによく私が使っているの」

 

 

 

そのスキマは、見れば見るほどこちらの気力が削られるようなおぞましいもの____というわけでもなさそうで、今のところ変な気分などにはなってはいない。

 

 

 

「……大丈夫そうだな。特に精神への危害はなさそうだ」

 

 

 

「ちょっと、見た目だけで判断しないことね。折角の移住者なんだから手荒にするわけないじゃない。それに私自身貴方ことは面白いヒトだと思っているわ」

 

 

 

「それはつい先程聞いたな」

 

 

 

「大事なことだから、ってやつよ」

 

 

 

私は腹を括った。さあ、そろそろお別れの時間だ。

 

 

 

 

「ところで、この穴は地面に空いているがこれは入ったらそのまま落ちるのだろうか」

 

 

 

 

「当然落ちるわよ?」

 

 

 

 

「………なるほど、大方、落ちても死なないようになっているのか。それなら安心だ」

 

 

 

 

私がそう安堵すると、穴を開けた張本人はニヤリとした笑顔を浮かべる。存外胡散臭い笑顔だ。

 

 

 

「まさか、本当に落ちても死なないとお思いで?」

 

 

 

「いや、死ぬかもしれないと思っているが、まあ死んだら死んだ時に考えよう。どのみちこの退屈な世界から離れられるには変わりないからな」

 

 

 

私がそう言い放つと、紫は少ししてため息をついた。何か気に障っただろうか。

 

 

 

「はぁ……、ほんと、貴方ってヒトは。まあいいわ。それより、覚悟は決まった?」

 

 

 

「そんなの、少し前に決まっていたさ」

 

 

 

私はそう口に出す。これで後戻りは出来ない。

 

 

 

混沌をたたえた穴まで近寄り、自分を幻へと移らせるその中身を覗く。どこまで落ち続けるのかはわからないが、不思議と安心した。

 

 

 

 

「……さらば、現の世界(げんだい)よ」

 

 

 

 

そう言って、私はその穴に足を踏み入れ______突如襲いかかってきた強烈な浮遊感に身を任せた。

 

 

 

 

……人生で初めて高いところから落ちたが、なるほど、これはこれで悪くない感覚だ。

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