Phantasy Star Contractors 作:FatherBear
鏡の世界が崩壊後、俺の意識は完全に失われた。だがその反面、目覚めは早かった。
「………ん…」
そこには、見慣れた天井が広がっていた。"研究所時代に"。
「やぁ、お目覚めかい?エリザベス?」
「貴様ッ…!ルーサー…!」
勢い良く起き上がって正面、俺がこの"世界"で最も嫌いな人物。虚構機関(ヴォイド)の総長にして現アークスのトップに君臨するルーサーが、そこにいた。
「…!?……?」
これまたあまりに突飛過ぎて状況が頭に入らなかった。さっきからなんだ。何が起きている。
「はっはっは…その様子ではあまり状況が読み込めていないらしい」
「なぜ俺はここにいる…?ここは…俺が…」
「木っ端微塵に破壊されたよ、君の同類と共にね。全く…共食いの習性など与えた覚えなんてないのにね」
「…別に俺が喰った訳ではない…」
ここで俺はこの不可解な状況に対して不本意ながらルーサーに聞いてみる事にした。
「…ルーサー…」
「なんだい?共喰らい?」
「…俺がこうなった経緯をはぶらかさず全て話せ。何がどうなったらこうなる」
「そうだね…ここに至るまで…話すとしよう。まずは……」
※
「…知ってしまった」
ナプターの構えたライフルから銃弾が放たれる。その銃弾は的確にエリザベスの頭に命中する…
「鬼さんこちら♪」
カシャコッ
銃のレバーを引く音が治療室に響き渡る。
「手の鳴る方へ♪」
ズダダダダダッ―ンッ!
謎の女がそう言った後、再び銃弾が放たれる。だが、それはエリザベスに向けたものではなかった。
ガッキャキャキャキャキャァァァンッッ!!!!!!!!!
ナプターの放った銃弾だ。謎の女が撃った銃弾はナプターの放った銃弾に当たっては跳ね返り当たっては跳ね返りを繰り返した。銃弾から銃弾の跳弾である。そのまま銃弾は全弾叩き落とされた。1つの例外もなく。
「なっ!?」
ナプターも面食らったのであろう。そのまましりもちをついてしまった。
「あらあらあら?この程度で腰を抜かしていてはいけませんねぇ、ナプターさん」
「きっ、貴様ッ!何をする!リサ!」
「何?何って、今さら何を言っているんですかぁ、リサはちゃんと任務を遂行してるじゃないですかぁ」
「何ィッ!?」
するとリサと呼ばれたキャストの女はこう言う。
「'あなたの依頼"で…"あなたを殺せ"、と仰せつかっております~。依頼ってことは…撃ってもいいんですよね?殺してもいいんですよね?」
「お前…な、何を…」
すると、狂喜に満ちた顔でこう言う。まるで、遊園地に行くぞ、と言われておおはしゃぎする子供の様に。
「リサはですね~、撃った感触を味わうのが好きなんですよぉ。今までさんざん、ダーカーや原生種、龍族、機甲種…多種多様なモノを撃ってきましたぁ。けど…」
リサがライフルにフォトンの集中させる。
「リサは誤射を除いて、人を撃った事はないんですよぉ~!」
初めて人を撃つ感触を心地よく味わう為に。
ズザッシュ
ナプターは呆気なく殺された。脳天、ど真ん中に銃創が出来ている。大量の血液が流れていた。
「なぁんだ、意外と味気ないモノですねぇ。もっと気持ちよいモノかと思っていたんですが…。興ざめですねぇ」
人を殺した直後に発せられたとは思えない言葉が彼女の口から飛び出た。
「さてさてさてさて、これで"表向きの"任務は終了です。そろそろ本題に入るとしましょう。エリザベスさん?……あら?」
ナプターに撃たれた訳でもなく、エリザベスは気を失っていた。恐らく彼の中の眠れる食いしん坊を押さえ込む為に治療ポッドの強制凍結システムが働いたのであろう。宿主が撃たれかけたのだ。【鬼】なら必ず出てくる。が、そんな【鬼】の事情を彼女が知る訳もなく。
「まぁどうでもいいです。リサは任務を終了しました。後処理は任せる事にします。ではではでは!ではではでは!」
リサは光の中に消えていった。
※
「…リサが…?ナプターを…?」
「あぁ、彼は僕としても邪魔な存在だからね。害虫の如く勝手に動き回る、彼はね。あぁ安心したまえ、死体は処理しておいたよ。」
「【鬼】に…か?」
自分でも何言ってるんだ、という質問であった。そんなもの食わせる訳はない。しかし予想に反しルーサーはこう答えた。
「あぁ、もちろんさ。彼らも肉が食いたいとしつこかったからね。あの太い体はさぞ美味であったろう。まぁ最も、あの体は脂肪分が肉体を形作っているようなものだ。」
「あまり旨くはないだろうな。今頃腹壊して便器に殺到しているのではないか?」
「だろうね。さて、続きを話すとしよう。その後…」
※
静寂に包まれた治療室で再び自動ドアの開く起動音がした。そこに大柄ではあるものの、四眼のスマートな見た目をした"蒼い"キャストが姿を現した。
「ルーサー…、エリザベスの収容されている治療ポッドを発見したよ。これからそっちに護送する」
『あぁ、それには【蒼鬼】が眠っている事も忘れないでくれたまえ。慎重に頼むよ』
「了解。クーナちゃん?そっちはどうかな?」
「…今解凍作業を開始した所です。ガブリエル、サボらないでくださいよ?」
「しないしな~い」
僕の名前はGabriel(ガブリエル)。虚構機関内に存在する機密部隊に籍を置いている。クーナちゃんとは良き相棒として一緒に働かせてもらっている。…けど、相棒とは名ばかり。こういう上官の指令でもない限りは個々として動いている。…ちなみに最近のクーナちゃんのトレンドは"龍族"だ。何で知っているか?…さて、なんでだろうね?
「【鬼】…」
クーナちゃんがそう呟く。
「【鬼】がどうかしたの?クーナちゃん?」
「いえ…別に…」
「…?」
どうしたんだろうか。【鬼】について知りたい事があればなんでも聞けばいいのに。なんせ…
「はっはっは!クーナちゃん変なの~…ってうわおおお!!!!クーナちゃん!!マイで僕を切りつけるのは止めよう!?」
「うるさいこのバカリエル!無駄口を叩く前にまず目の前の作業を終わらせなさい!」
なんせ、僕も…
「ふぅ…。なんとか運び出せたね」
エリザベスの大きな紅い身体を担架に乗せ、治療室から出す。
「それで、どこに運ぶんだったかな?」
「忘れたんですか?全く…アークスシップ艦底研究所8階072号室ですよ」
「あっはっは!ごめんごめん。それにしても遠いなぁ。ここ確か地上23階だよねぇ?」
アークスシップ内には様々な公共機関が存在する。政治等を行う首脳部。各シップの治安を守る為に配属された警察署。そして今僕達がいる病院等々、様々なモノが存在する。この病院は一般人はもちろんの事、アークスも利用する。大抵はメディカルセンターに行けばどうにかなるのだが、今回のエリザベスの損傷を見る限りではそれは例外だった。
「そうですね。さぁ早くテレパイプを…」
「おっとっと。そうだった…。長時間の現場張り込みはイヤだねぇ。ここがシップ内だって忘れちゃうよ」
「全く…」
※
「…それで?俺はここに運びこまれた?その…"とある二人"に?」
ルーサーはなぜか俺を運び出したという"とある二人"の名前を出さなかった。「こんな奴がプライベート云々~」と言うはずもないだろう。何か別の理由だとすぐに察した。
「そうさ。精々感謝することだ。その"二人"に」
「感謝?何を感謝すればいい?地獄に引き戻されただけではないか」
「何、心配することはない。君を利用する為に僕はここに運んでもらったのだから」
何…?
「利用…だと?」
ふざけるな
「ふざけ…るな…!この糞外道が!俺は貴様に散々搾取されたんだぞ!もう十分だろうに!!」
それに…俺の"姉"も…!
「姉さんはッ…!お前の蛮行の為に殺された!」
勢いよく飛び上がりルーサーの首に飛びかかる。が、しかし。
「おっとっと。元気がいいのは良いことだけど、粗相は頂けないなぁ?【蒼鬼】の依代クン?」
「ッ!?」
突然現れた"蒼い"キャストに首を掴もうとした腕を捕まれ、
「よーいしょっ!」
「うぐぉあぁ!!!」
そのまま腕を"変な方向"に曲げさせられた。感覚からしてフレームが折れるまではいかなかったものの激しい痛みを味わう事になった。
「おいおい、君は死にたいのか?わかっているだろう。【鬼】の自己生存本能の強さを」
「だからこそ【蒼鬼】は出てこない。その自己生存本能を遵守するが故にね」
誰だ…コイツは…!?何故【蒼鬼】の事を?それに…【鬼】の事まで…!
「…そうそう…君を利用する、と言ったね」
「それが…どうした?」
「僕の研究の手伝いをしてほしいんだ」
「"遊び"の間違いじゃないか?ルーサー」
コイツにとって俺達はただの実験材料に過ぎない。利用しただけ利用して、最終的には殺されるのだ。「知り過ぎた」という風に。
「…確かに、今まで君達姉弟にした事を鑑みればその発言は必然と言えるだろう。しかしこの研究は僕個人の為だけではない。アークス全体いや、このオラクル全体の為だ」
「…一体、何を言って…?」
「一端のアークスでも知っているさ。【深遠なる闇】。これが復活の兆しを示している」
………は?
「お前…今なんと言った?俺の聞き間違えか?【深遠なる闇】だと?」
「そうだ。この事象自体にはかなり興味はあるが、僕も馬鹿ではない。そのまま放置すればオラクル全体が消えてなくなってしまう。研究も出来なくなってしまう」
……確かに、そうだ。遊んでいる場合ではないな。
「そうか…」
…だがコイツは自らの遊びの邪魔をする者をなんとも思わない人物だ…本当に害なのだろうか…?
「あぁ、そうだ」
そもそも、【深遠なる闇】など本当に復活したのか?
「…了解した」
心ではわかっていても、実際には要求を呑み込んでしまっていた。俺は情けないながら今の状況を優先に考えた。ただでさえ隔離された場所でルーサーと謎の蒼いキャスト。劣勢なのだ。断ればどうなるかわかったものではない。ルーサーはフッと笑うと俺にこう言った。
「そうかそうか、わかってくれたか」
「…ルーサー、後は任せて貰ってもいいかな」
「構わないよ、元よりそのつもりだ」
「じゃあ、借りるよ」
「あぁ」
先ほどまでルーサーの横に立っていた蒼いキャストが俺にゆっくりと近寄る。よく見ると奇妙な顔だ。四眼とはまた不気味だ。するとその特徴的な顔を俺の顔の横に近付けると。小声でこう言った。
「…悪い様にはしないよ。さっさとここから出よう」
「……!」
その男は俺の手を取り、立ち上がらせた。
「歩けるかい?まずはここを出ようか」
「あ、あぁ…」
こうして俺は何がなんだかいまいち掴めずに忌まわしき部屋から出るのであった。
※
「やれやれ…意外と暴力的なんだね?彼」
「そのようですね」
エリザベスとガブリエルが出た後、入れ違いで入室した長い銀髪を後ろでまとめた、ポニーテールの髪型にした女性が答える。その眼には生気はなく、死人の眼に近かった。
「彼、"君の弟だろう?"教育が成っていないんじゃあないかい?」
「申し訳ありません」
「それで…君に任務がある」
「はい、何なりと…」
運命は必然である、とは良く言ったものだ。優しいものだ。もうレールが引かれているのだから。だがしかし…
「…………以上だ、」
運命とは、
「"フェリシア"君」
時にそのレールを破壊するものである。
※