その日、桐ケ谷和人はある人物から呼び出しを受け、行き着けの喫茶店、“ダイシー・カフェ”を訪れていた。
菊岡誠二郎――総務省のVR関連部署に属するという話だが防衛省とのつながりも臭わせる、謎の多い人物だ。
和人も胡散臭いものを感じてはいるが、かつて自身の巻き込まれたVRゲームにまつわる事件で事情聴取を担当した縁から彼はその後も様々な便宜を図ってくれた。その恩義もあり、結果として菊岡の持ち込んでくるVR関連の依頼を和人は断りきれず、対する和人の方も彼の権限を頼りにすることもある、利用し・利用されの微妙な腐れ縁となっている相手である。
なお、今回はこの場に和人の恋人である結城明日奈や義理の妹である桐ヶ谷直葉を始め、VRゲームを通じて知り合った友人達も多くが顔をそろえている。
菊岡からの呼び出しということで「また和人に厄介ごとを持ち込んでくるつもりでは」と警戒したためだ。しかし、その一方で和人は、今回はそうした胡散臭い話ではないだろうと予想していた。
菊岡の方から、友人達の同席に関して「かまわない。それどころか是非同席してほしい」という返事があったからだ。
その依頼の性質上、菊岡は厄介ごとを持ってくる時は必ず和人ひとりに話を持ってくる。そんな菊岡が友人達の同席に難色を示さなかったことは、和人に今回の話がいわゆる「余り人に聞かせたくない話」ではないと予感させていた。
事前に伝えておいた、友人達が全員そろう時間はすでに過ぎ、予定通り全員がそろっている。そして――
「やぁ、そろってるかい?」
こちらも予定通り。トラブルによる集合の遅れを考慮して余裕を持たせ「じゃあその5分後に」と返された宣言の通り、時間ピッタリに菊岡が姿を見せた。
だが、今回は菊岡の側もひとりではなかった。和人も初対面となる恰幅のいい男が一緒だ。
「今日はすまないね」
呼び出しに応じてくれた和人らを労うと、菊岡は男を和人の正面の席に案内すると、自身はそのまま対面には座らず、和人から見て左側、ちょうど両者の中間にあたる席に座る。
「菊岡さん……?」
「今回は僕も頼みを聞く側でね」
和人に答えると、菊岡は自身が案内してきた男へと視線を向ける――それを受け、男は一拍間を置いた上で口を開いた。
「初めまして、桐ヶ谷和人くん、そしてそのご友人達。
私は……」
そして、和人に向けて一枚の名刺を差し出した。受け取った名刺をみんなでのぞき込むと、そこに書かれていた名は――
――阿須葉宇逗巳
((……どう読めとっ!?))
「読みづらいですよね」
心の中でツッコんだ一同のリアクションは予想の内だったようだ。苦笑まじりに男は続ける。
「『あすは・うずみ』と読みます。
VRゲーム“GBN”運営の外渉担当をしています」
「GBNの……?」
男の挙げた名前に、和人は覚えがあった。
GBN――正式名称『ガンプラバトル・ネクサス・オンライン』。
数あるVRゲームの中でもとりわけ異彩を放つことで、一部のVRゲーマーの間では非常に有名なゲームである。
というのも、このゲームにおいて実力を最も左右する要素が、プレイヤースキルでもゲーム内でのキャラクターのステータスでもなく、“リアルで制作したガンプラである”からだ。
『ガン』ダムの『プラ』モデル。故に『ガンプラ』――アニメ『機動戦士ガンダム』に端を発する一連のシリーズのプラモデルを制作し、それを専用の拡張機器“ダイバーギア”でスキャン、VR空間に反映させ、実際に搭乗して戦うゲーム、それがGBNだ。
元々はVRゲーム台頭前からPCゲームとして存在していた古いゲームであったが、ガンダムというコンテンツの人気と現実で作ったプラモデルに搭乗できるというロマン溢れる特色によって、シリーズのファンだけでなく幅広いユーザーを獲得し続け、VRゲーム化を経て再びかつての隆盛を取り戻しつつあった。
「それで……そのGBNの運営の方が、私達にどんな用件で……?」
「一言で言えば、モニター……オープンベータテストへの参加の依頼です」
和人からゲームの概要を説明され、その上で聞き返す明日奈に、宇逗巳は単刀直入にそう答えた。
「近日、GBNにおいてダイバーギアそのものの更新も含め、システムの根本からの大規模なアップデートを計画しています。
それに際し、新規ゲームと同様に新バージョンのベータテストをオープンで行い、事前にシステムの不具合を徹底的に洗い出した上で実装しよう、という話になりまして」
「そんな大規模なアップデートを……?」
「はい。
というのも……現在、GBNではある特定の手段によるチート行為が問題となってまして」
和人に答えて、宇逗巳は再びそこで間をおき、説明を再開した。
「“マスダイバー”……いつしかユーザー、私達は“ダイバー”と呼んでいますが、彼らの間で定着した名前です。
“ブレイクデカール”と呼ばれる不正なパーツを用いて、ゲーム中でのガンプラのパラメータを不正に引き上げる行為が、現在横行しているのです。
ブレイクデカールはすでに非常に幅広く流通している上、その偽装も巧妙で実際に使用されない限り使用者を特定することはできません。
しかも、ゲーム内のログデータにまで干渉する機能、現物の自壊機能まであるらしく、使用後に当該プレイのログや実物のガンプラを調べても、ブレイクデカールの使用を決定づける証拠は何ひとつ出てこない有様で……
そのため運営からの直接の取り締まりは困難で、現在はゲーム内で直接遭遇する、善意あるダイバー達による自治対処に頼らざるを得ない状態となっています」
「なるほどな」
そんな声をはさんで、菊岡や宇逗巳にコーヒーを差し出すのはこのカフェのマスターにして和人達のゲーム仲間でもあるアンドリュー・ギルバート・ミルズ――なお、「名前が長い」という理由で、和人達は彼のことはリアルでもゲーム内のアバター名である“エギル”の名で呼んでいる。
「そのマスダイバーの不正を根絶するには、もうシステムの根っこから根本的に対策するしかない……そのための超大型アップデートというワケか」
「はい。
そして、それほどに規模の大きなアップデートであるだけに不具合も多く発生することが予想されるため、ベータテストとして大規模なデバックを行うことになったんです」
「そして、そのために優秀なVRゲーマーを大々的に募集することにして、キミ達と私的なつながりのあった僕を頼ってきた、と、そういうワケさ。
もちろん、僕もそのベータテスターに誘われている」
「……ひとつ、わからないんですけど」
と、手を挙げたのは朝田詩乃だ。
「それなら、もうGBNをプレイしているプレイヤー……ダイバーでしたっけ。その人達に頼めばいいんじゃないんですか?
どうして、GBNどころかガン……プラ? そのプラモデルにも関わりの浅い私達に?」
「もちろん、GBNのダイバーのみなさんにもお願いしています。
みなさんにお願いしたいのは、新規ユーザーとしての視点からのモニターです」
詩乃の疑問は予想の範疇だったのか、宇逗巳は迷わずそう答えてきた。
「GBNは、VRゲームが普及する前からPCゲームとして運営されてきたゲームです。
それ故に歴史が長く、古参のダイバーも多い……そうしたゲームでは、アップデートの内容がそうした古参のつなぎ止めに走り、新規ユーザーを置き去りにしたものになりがちです。
そうした事態を防ぐために、新規ユーザー枠のベータテスターも一定数お願いして、彼らからの意見も取り入れるようにしているんです」
「ついでに、ソイツら新規組がそのままゲームにハマってくれればさらに良し、か……商売人だな」
ゲーム内でも商売人プレイヤーとして活動しているエギルが、売る側からの視点で付け加える――対する宇逗巳は苦笑するのみだ。どうやら図星だったらしい。
「ただ、新規ユーザーと言っても何もわからないほど完全な素人ではちゃんとした意見が出せるか疑問が残ります。
なので、こうして他のゲームですでにVRゲームの豊富な経験を積んでいて、且つ、GBNをプレイしていないVRゲーマーに声をかけているんです。
そして私が担当することになったVRゲームがALO……最初、各種族の領主の方々に優秀なプレイヤーを紹介してもらおうと連絡をとってみたのですが、思ったより人数が集まらなくて……
そんな時、個人的な知り合いであった菊岡さんが優秀なVRゲーマーとのパイプを持っていることを思い出し、あなた達を紹介してもらうことにしたんです」
そこで一度話を切り、宇逗巳はコーヒーでノドを潤して、
「もちろん、参加していただくお礼という形にはなりますが、みなさんの負担はこちらである程度引き受けます。
ダイバーギアは無償提供、プレイするにあたり必要となるガンプラも、提携ショップで購入すること、HGブランド限定という条件で週に一体まで購入費用をこちらで持ちます。
工具や工作スペースに関しても、提携ショップのモデリングブースの優先使用権が認められます」
「ずいぶんと破格の条件だことで」
「これでも、既存ユーザーによるガンプラやGBNのゲーム内有償コンテンツの売り上げで十分に賄えるレベルですから。
それよりも、マスダイバーの横行によってダイバー減少、ひいてはゲーム事業の縮小につながるような事態こそより大きな損失になると我々は考えています」
肩をすくめる篠崎里香にも、宇逗巳は冷静にそう答える。
「あなたがALO担当ということは……他のVRゲームにも?」
「はい」
尋ねる詩乃に、宇逗巳はうなずいた。
「じゃあ……GGOにも?
私、この間のBoBで本選出てるんですけど……」
「あぁ、GGOですか。私達の会議の中でも名前が挙がってました。
GGOの担当班は運営団体のザスカーに直接働きかけたようです。
アメリカのザスカー本部からは、すでに協力するとの返事をいただいている、と」
「ザスカーは乗ってきたんですか、この話……?
だって、商売敵のゲームの話でしょう?」
「乗った方が旨みが大きい……そう判断したんだろうね」
直葉に答えたのは、宇逗巳ではなく菊岡だった。
「今回の問題は他のゲームの話だと静観していられるような類じゃないからね。
チート対策は、それこそVRゲームが出てくる前のPC用オンラインゲームの時代から、どのゲームでも一様に頭を悩ませている問題だ。
そんな中で、今回GBNがやろうとしている対策アップデートはその規模の大きさという意味で前代未聞の思い切った手だと言える。何しろお金がかかるからね」
「つまり……自分達ではお金の問題からやりたくてもそうそうできない大規模対策を今回GBNがやってくれるから……」
「話に乗っかれば、大規模対策のノウハウや効果のほどのデータを、自分達がお金をかけることなく手に入れられる……ってこと?」
「そういうことです」
和人のつぶやきに加わってくる明日奈に、和人が、そして宇逗巳がうなずいた。
「話を戻すと、GGO班はBoB歴代本選出場者には一通り声をかけるつもりのようです。
他にも……」
◇
「レン! こっちこっち!」
GGO――VRゲーム『ガンゲイル・オンライン』内、ゲームの舞台となる未来世界の首都・グロッケン。
その一角にある酒場で、やってきた小柄な少女のアバター、レンを手招きしたのは、彼女に負けず劣らずの金髪美少女ちびアバターのフカ次郎だった。
「聞いた!? つか見た!? ザスカーからのメール!」
「う、うん……」
テンションの高いフカ次郎に対し、レンは少々げんなり気味だ。
というのも、この話題、レンにとってはすでに二度目だったから。
レンのリアルは花の女子大生であり、さらにその女子大の付属高校にもGGOをプレイしている、ライバルとも言える親しい後輩達がいる――そして、レンもその後輩達も、“スクワッド・ジャム”という大会で上位入賞を果たした実力者同士である。
と、いうワケで――彼女達のもとにも届いたのだ。GGO運営団体“ザスカー”からの、VRゲーム業界をまたいで行われるチート対策の一大プロジェクトへの協力依頼のメールが。
その件で、興味津々で一緒にやらないかと誘ってくる後輩達に振り回されて大変だったのだ――そのことを話すと、フカ次郎はケタケタと笑い声を上げた。
「まぁ、レン……いや、リアルの話だからコヒーか。コヒーは押しが弱いからなぁ。あの子達みたいにぐいぐい来られたら、そりゃ断るの大変だよねー」
「う、うん……」
フカ次郎の指摘に、レンはおずおずとうなずいた――そう、レンは今回、この話を断るつもりでいた。
その理由は、彼女がVRゲームを、GGOをやるようになった理由にあった。
レンのリアルは身長180センチを超える長身のモデル体型――と言えば聞こえはいいが、その実、この体格のおかげで得をしたことはほとんどなかった。
街に出れば好奇の目で見られるし、オシャレをしようにも日本人女性の平均身長を大きく上回る彼女の身長ではそもそも入る服を探す時点から一苦労だ。
結果、その体格は彼女に強烈なコンプレックスを植えつける結果となってしまった――そんな自分から別の自分、アバターになれることに魅力を感じたのが、VRゲームを始めた理由。
しかし、そこでも何の運命のイタズラか、長身のアバターばかりを引き当ててしまうという引きの悪さにさらされてしまい、様々なゲームの体験版をさんざん渡り歩いた末にようやくGGOで今の激レアちびアバターに巡り逢えた――というのが、GGOをプレイするようになった理由。
別にGGO以外のゲームに興味がないワケではない。元々VRゲームを始めた動機が動機だ。GGOも十分に楽しませてもらっているが、絶対にGGO一本に絞らなければならないというような縛りがあるワケではない。
だが、GGOと出逢うまでの経緯が彼女に二の足を踏ませていた。もし、かつてのようにGBNでも長身のアバターを引き当ててしまったらと思うとどうしてもためらってしまう。
今でこそ長身コンプレックスも多少改善の向きは見られるが、それでもやはり抵抗感があるのは否定できなくて――
「『また背の高いアバター引き当てちゃったらどうしよう?』とか思ってるでしょ?」
「う……うん……」
しかし、そんな考えは目の前の親友にはお見通しだった。素直にうなずくレンだったが、フカ次郎はニッコリと笑って、
「しかし安心したまえ、レンくんっ!
GBNには、そんなレンにピッタリの、他のVRゲームにはない特徴的なサービスがあるんだよっ!」
「……というと?」
「ズバリ、アバターの見た目のカスタマイズが自在にできる」
聞き返すレンに、フカ次郎はサラリと答えた。
「元々GBNはVRゲームじゃなかったからね。
実際に顔を合わせて、実物のガンプラを動かして戦わせる“ガンプラデュエル”から始まって、今みたいにガンプラをスキャンしてのネット対戦、けどVRゲームの登場前だったからPCゲームとして始まった“ガンプラバトル・オンライン”……略してGBOを経て、VRゲームに対応したGBNに続いているのさ」
「なるほど……それでタイトルに『ネクサス』なんてついてるんだね」
「継承」「次へ」といった意味を持つ単語がタイトルに入っていることに納得するレンにうなずき、フカ次郎は続ける。
「当然、GBNになる前はアミュスフィア対応じゃなかったから、アミュスフィア対応ゲーム特有の縛りであるアバターの強制自動生成もなかった。自分達で自由にカスタマイズしたアバターを使うことができた。元々アニメの原作があるゲームだから、『その世界の登場人物になりきりたい』って声もあったし。
そんなゲームから移行した経緯があるからね。旧バージョンから引き続いてアバターのカスタマイズ機能が実装されてるんだよ」
「じゃあ、最初から好きにアバターを作れるってこと? 今のバージョンでも?
だったら最初に私がVRゲーム始めるって言った時にこのゲーム紹介してくれれば良かったじゃない! そうすれば背の高いアバターばっかり引き当てて凹むこともなかったのにっ!」
「レン、ガンプラやらないじゃない」
「う゛……っ」
反論は実にごもっともな理由で封じられた。
「しかも、アバターがらみのサービスはそれだけじゃない。
古参からのユーザーに配慮して、彼らがPC版時代に作ったアバターをGBNでも使えるように、“アバターの容姿データのコピー機能”まで実装されてるときた!」
「アバターの容姿のコピー?
それって、つまり……」
「新規だろうがコンバートだろうが、自分でカスタマイズする以外にもGBOや他のVRゲームでのアバターの姿をそのまま引き継げる。
コヒーの場合、そのちっちゃかわいいレンちゃんの姿のまま、GBNの世界を、新しいVRゲームの世界を駆け回れるってこと!」
言って、フカ次郎はレンの鼻っ柱に右の人さし指を突きつけ、
「フフンッ、ためらう理由、ひとつ消えたね?
さて、どーする、レン? 新しい自分を探しに行くかい? それとも、このままGGOに引きこもる?」
フカ次郎にそんなことを言われては、レンの選べる選択肢など限られていた。だから――
「……その言い方はずるいよ、フk……美優」
ため息まじりに、リアルの親友に少々の苦情くらいはぶつけさせてもらうことにした。
◇
「新バージョンのベータテスト……ですか?」
「あぁ」
一方、ベータテストの話は宇逗巳が和人達に語った通り、GBNの内部でも動き始めていた。呼び出されたバーチャル世界の中のカフェで、聞き返す少年アバターのダイバーに対し、青年アバターのダイバーがうなずく。
青年の名はクジョウ・キョウヤ。現在GBNにおいて頂点に君臨するチャンピオン。事実上の最強ダイバーである。
対する少年はミカミ・リク。まだGBNを始めたばかりの新人ダイバーであり、キョウヤとはひょんなことからマスダイバーの乱入事件に巻き込まれた時に助けられた縁でフレンド登録を交わした間柄だ。
「キミも巻き込まれたことがあるからわかっているだろう……マスダイバーの問題の大きさは」
「はい……」
キョウヤの言葉にうなずく――ブレイクデカールを使い強化されたマスダイバーの強さは、実際に対峙した身としてよくわかっている。
それに、ブレイクデカールによるチートの影響はキャラクター、ガンプラの不正な強化に留まるものではないことも問題であった。
ブレイクデカールの使用はGBN内のプログラムやデータに深刻なバグを生じさせることがわかっているのだ。実際リク達も、出向いた初心者ミッションでマスダイバーの起こしたバグに巻き込まれた結果、初心者には手に余りすぎるほどに強力なボスキャラクターに襲われるハメになった経験がある。
このままブレイクデカールが出回り続け、バグが蓄積されていけば、いずれ冗談では済まされない事態に陥ることは、初心者のリクにも容易に想像できた。
「それで、抜本的なアップデートが必要とされることになったんだが、そのベータテストに、キミ達も参加してくれないか、とね」
「それはわかりましたけど……どうしてその話をオレ達に?
まだGBNは初心者なのに……」
「確かに、アカウント情報上、特にプレイ時間において、キミ達はまだまだ初心者サーバーへの出入りが許されているほどの新人だ。
だが、先日プレイを共にした上で、僕はキミ達に確かな伸び代を、成長の可能性を見た。
新人でありながら、確かな腕前を持つダイバー……そんな稀有な条件を満たすキミ達だからこそ、僕は協力を請いたいと思ったんだ」
聞き返すリクに、キョウヤはそう答えた。
「今回のベータテストでは、今までGBNに参加していなかった、他のVRゲームのプレイヤー達からも幅広く参加者を募っている。
まだ正真正銘右も左もわからないだろう彼らに親身になってあげられるのは、まだ同じような状態だった頃の記憶が鮮明なキミ達の方が適任だろうと判断したのさ」
「なるほど……」
「それで……どうだ? 参加してくれるか?
我々経験者組が新しいアバターを作らなくてもいいように、今回は今のままのアバターで参加できるようベータテストサーバーとの行き来に制限は設けられてない。
ベータテストに参加しながらでも現行バージョンを楽しむことも可能だし、逆に、仲良くなったベータテスターに現行バージョンを体験してもらうことも……」
「いえ……大丈夫です」
さらに誘いの言葉を投げかけるキョウヤに対し、リクは静かにうなずいた。
「オレも、マスダイバーを放っておけないって思ってるのは同じです。
まだまだ、マスダイバーに立ち向かうには力不足なオレ達にも、できることがあるなら……やってみたいです」
「そうか……ありがとう」
協力を快諾してくれたリクに対し、キョウヤは礼の言葉と共に頭を下げた――頂点に君臨する身でありながら、それにおごることなく下げるべき時には迷わず頭を下げられる。本当に器の大きい人間だとリクは思う。
「詳しくは後で、マニュアルにまとめてメールで送っておくから……」
「はい。
ユッキー達にも、伝えておきます――きっとみんなも二つ返事だと思いますから」
「そうか。頼む」
リクの返事にうなずくと、キョウヤは改めて頭を下げてその場を後にした。
「………………」
カフェの喧騒に紛れて、今の会話に聞き耳を立てていたくの一風の姿の少女アバターの存在に、気づかないまま。
◇
「キリトくん」
普段プレイしているVRゲーム『アルヴヘイム・オンライン』――“ALO”のゲーム内にかまえたプレイヤーホーム。
その一室でくつろいでいた桐ケ谷和人――アバター名“キリト”に声をかけてきたのは明日奈だった。
なお、彼女のアバター名は“アスナ”――いわゆる“本名プレイ勢”である。
「今回の話、どうするの……?
やるにしても、ガンプラなんて、私達……」
「確かに、そこがちょっとハードルになるけどさ」
アスナに答えて、キリトは軽く肩をすくめて、
「それでも……オレはやってみようと思う」
「それって、やっぱり……」
「あぁ……
セキュリティ強化の話が、業界を通じて……となれば、巡り巡って、ALOのためにもなるし……オレにとっても、勉強になると思うんだ」
「……そっか。
じゃ、ALOの攻略はしばらくお休みだね」
「悪い、アスナ。
こっちはしばらく頼む」
ため息まじりのアスナに返すキリトだったが、
「……言い方が悪かったかな?」
そんなキリトに、アスナは首をかしげた。どういうことかと首をかしげるキリトに対し、告げる。
「私達みんな、攻略はしばらくお休みだね」
「え…………?
『私達みんな』……って、アスナも……?」
「ALOのためにもなるんでしょ? なら無関係じゃないかな、って。
あとは……別のVRゲームにも挑戦して、プレイヤーとしての視野を広げられれば、攻略の上でも助けになるんじゃないかな? 息抜きにもなるしね。
リーファや他のみんなも、同じ考えみたいだよ」
「じゃあ……」
「うん。
私達みんなで、GBNに挑戦する。
幸い私達はこのホームがあるから、コンバートでもいけるしね」
現在巷に氾濫するアミュスフィア対応のVRゲームは、基本的に“ザ・シード”と呼ばれる開発・運営パッケージによって制作されており、そのデータにはある程度の互換性がある。
そのため、異なるVRゲーム間でもアバターのデータをコンバートして引き継ぐことで、新たなゲームでも高いステータスで始めることができるようになっている。
とはいえ、アバターの容姿を始め、所持金やアイテムなど、世界観に基づく要素は引き継げないため、キリト達のように拠点を持つか、信頼できる他のプレイヤーに預けるなどの対応策がどうしても必要になってくるのだが。
「じゃあ、まずはプレイに必要なダイバーギアの受け取りと、ガンプラを作るところからスタートだな」
「そうだね。
私達、ガンプラは素人同士だけど……」
「大丈夫ですよ、パパ、ママ!」
キリトとアスナに答えたのは、肩に乗るくらいの小さな少女だった。ALOの世界にあわせた妖精の姿で、アスナの肩に舞い降りる。
ユイ――以前二人が巻き込まれたVRゲームがらみの事件で保護したAI、すなわち人工知能のキャラクターだ。
そのことからユイは二人のことを両親と認識していて、事件が解決した後もこうして二人のもとに“娘”として留まることになっていた。
「初心者ダイバーのためのガンプラ作りについて扱っているサイトは、バッチリ検索済みです!」
「さすがユイちゃん」
「ありがとう、ユイ。
それじゃあ、明日さっそくダイバーギアの受け取りとガンプラ選びだ」
「うん」
「そちらの方も、バッチリ検索してますよー♪」
キリトの言葉にアスナがうなずき、ユイもまた二人の前に件の検索結果を表示する。
「パパやママの家から最寄の、ダイバーギアの受け取りができるショップがあるのは――」
◇
翌日、お台場・ガンダムベース東京――
「くぅ~~っ! オレ達“風林火山”もついにガンプラバトルデビューか!」
選んだガンプラの箱を手に、壺井遼太郎は興奮を隠し切れずに声を上げた。
和人のゲーム仲間であり、ギルド“風林火山”のギルドリーダー・クライン――それが彼の、ALO内でのキャラクターだ。
彼ら風林火山もまた、和人達と同様にベータテストの依頼を受けていた。そのため、今日はこうして、ベータテストで乗機とするガンプラを作るために施設内のガンプラ専門店を訪れていた。
「こんな機会でもないとガンプラになんて打ち込めないもんな」
「オレ達、ゲームだ飲み会だでいつもからっけつだもんなぁ」
「ま、飲み会減らせばどうにかなる話なんだけどな」
「それができれば苦労はないって」
「違いないな!」
もちろん仲間達も一緒だ。口々に言いながら思い思いにガンプラを選んでいて――
「いい、みんな!
ベータテストだろうと、参加するからにはてっぺん目指すよ!」
『おーっ!』
「ん…………?」
聞こえてきた声に遼太郎が顔を上げると、声の聞こえた方には女子高生の一団がいた。
「へー、こんなかわいいのもあるんだ。ベアッガイだって!」
「いっそ、私達もこっち方面でいってみる?」
「いやいや、てっぺん目指すってボスも言ってるじゃん」
「だから、これで強いガンプラを作るの!
かわいくて、しかもバトルにも勝てる! もう最強でしょ!」
「おもしろそう!」
「私達のいつものアバター、完全にかわいさ放棄してるもんね……」
『それ言っちゃダメ!』
「あの子達もベータテスターなのか……」
もれ聞こえてくる会話に遼太郎がつぶやく。ベータテスター仲間のよしみ、声をかけてみようかと一瞬考えるが、
「いやいや、いかんいかん」
ゲーム内ならともかくリアルではいろいろと厳しいご時世だ。すぐに我に返って自重。自分のガンプラ選びに戻る――
壺井遼太郎ことクラインの率いる、ギルド“風林火山”。
新渡戸咲ことエヴァの率いる、スコードロン(他のゲームでいうギルドや、GBNでいうフォースにあたるチームのこと)“SHINC”。
両者の腐れ縁がまさにここから始まっていたことを、彼らはまだ、知らずにいた。
◇
それぞれが、それぞれに決意を、覚悟を固め、準備に勤しむ中、ついに迎えたベータテスト当日――
「やっちまえーっ!」
「ひゃっはーっ!」
「楽しいぜぇーっ!」
早速大暴れしている連中がいた。
数は五機。使用しているガンプラは全員がMS-06ザクⅡで統一されているが、そのすべてが特に改造もされていない素組のノーマル機のようだ。
だが――偶然遭遇し、交戦状態となった経験者組の操る改造ガンプラの一団は現在完全に圧倒されていた。
特に強化もされていないノーマル機を相手に、バトルに勝利すべくカスタマイズを重ねてきた改造ガンプラが――理由は簡単。
火力が違いすぎるのだ。主に手数的な意味で。
ザク軍団の得物はこれまた標準装備のザクマシンガン。これだけなら特に脅威と言えるものではないが――問題はその数。
全員がそのザクマシンガンを両手持ち。計10の銃口が単一方向に、集中して銃弾をばらまくのだ。無改造とはいえ、集中して叩き込まれればその威力は決して侮れないものとなる。改造ガンプラとてまともにくらえば撃ち抜かれるレベルだろう。
「なっ、何なんだアイツら!?」
「近づけねぇぞ、あんなの!」
「全員無改造ってあたり、招待組だろうが……」
「連携もへったくれもねぇな、オイ!」
「大丈夫だ!」
たまらず岩陰に退避し、口々に声を上げる改造組――予想外の火力に驚く一同にリーダーが告げた。
「あんな考えなしに撃ちまくっていれば、どうせすぐに弾が……」
「アレ」
だが、リーダーの言葉を仲間のひとりが遮った。指さした先をリーダーも見て――
「げ」
青ざめた。
ザク軍団の後方に――
予備と思われるザクマシンガンが山積みになっているのを目の当たりにして。
◇
「高射速射連射乱射ァッ!
弾ある限り撃ちまくれぇっ! それが我ら、全日本マシンガンラバーズの生き様よぉっ!」
経験者組を圧倒するザク軍団のリーダーが上機嫌で音頭をとる――彼らこそ、今GGOでいろいろな意味で名が知られつつある一団だった。
とにかくマシンガンが撃てればそれでOK。連携どころか勝ち負けすら度外視。あ、でもできるだけ長く撃ちたいからなるべく負けずに戦い続けたいなー。
そんなとんでもないプレイスタイルを大会の場だろうと遠慮なく貫くその潔さと、それでも大会の度に着実に最終順位を上げているその成長ぶりで、今やGGO内のミニ大会“スクワッド・ジャム”の隠れた名物チームとなりつつある、彼らのスコードロンの名は「全日本マシンガンラバーズ」。
ちなみに「全日本」とあるのは、メンバーの中に沖縄や北海道からログインしているのがひとりずついるからなんだとか。
「生身だろうがガンプラだろうが、やっぱマシンガンは最高だぜ!」
「こっちは筋力値とか関係ないから簡単に両手持ちできるしな!」
「おまけに母艦も用意すれば予備のマシンガンも持ち込み放題だぜ!」
カスタムガンプラをものともせずに撃ちまくる中、思い思いのコメントが飛ぶ――そう、彼らはこの日のために、全日本マシンガンラバーズのGBNデビューを華々しく飾るために……とにかくマシンガンを大量に持ち込むために、母艦まで用意していた。
よく見ると彼らが撃ちまくっている場所の後方に『機動戦士ガンダム』に登場した陸上戦艦ギャロップが停めてある――そしてそのコンテナの中にはザクマシンガンの予備がギッシリ積み込まれている。
ガンプラでマシンガンを撃ちまくりたいがためにここまでするか、と言うことなかれ。ここまでやるのがマシンガンラバーズなのだから。
しかし。
「よっしゃ、このままアイツら蹴散らして、初勝利ゲッt
彼らはやはり、全日本マシンガンラバーズだった。
撃ちまくり始めた当初は調子がいいが、一度流れが狂うとあっという間に崩れ落ちる――プレイスタイルが極端であるが故の急転直下。そのあまりにもネタ感極まるやられっぷりもまた、SJで彼らが愛され馬鹿集団としてもてはやされる理由のひとつなのだから。
まさにその流れをこれから再現してやると言わんばかりに、メンバーのひとりのザクの頭が吹き飛ばされ――否。
“斬り”飛ばされた。
突然、衝撃音と共に頭部の上半分が消失したのだ。
とはいえ、生身のキャラクターと違いこれはキャラクターが操縦するガンプラだ。その程度では倒れず、何があったのかと周囲を見回す――そんな状態でもなお、前方に向けてマシンガンを撃ちまくりながら。
と、攻撃をやめない彼にさらなる一撃。襲撃者が背後に降り立ち、その勢いのままに振り下ろした赤熱する刃によって、左右真っ二つになってついに沈黙する。
「なっ、何だ!?」
「新手か!?」
ここに至って、ようやく仲間達も襲撃に気づいた。一斉に相手の乱入した地点へとザクマシンガンの銃口を向けて――
「……足りねぇなぁ」
そんな声が、相手の着地によって巻き起こった土煙の中から聞こえた。
「こんなもんじゃ、ぜんぜん食い足りねぇっ!」
さらなる声と共に、土煙が吹き飛ばされて――
「もっと、てめぇらの強さを味わわせろぉっ!」
真紅に輝く“鬼”が、その姿を現した。
◇
「フンッ、こんなものか」
そこから先は、まさに一方的な“蹂躙”だった。全日本マシンガンラバーズを、さらに彼らと戦っていた経験者組のフォースを蹴散らすと、真の“鬼”――GN-XⅣの改造ガンプラ、オーガ刃-Xを駆る経験者ダイバー、オーガは軽くため息をついた。
「他のVRゲームで経験を積んであるだけあって動きはいい……
だが、ガンプラの出来が糞不味すぎる」
残念そうにつぶやくと、マシンガンラバーズのザクⅡの残骸を見下ろす。
「経験者組も、招待組を侮ってチャチなガンプラでしか来てないみたいだしな……」
次いで、マシンガンラバーズの次に蹴散らした経験者組のガンプラの残骸にも視線を向ける。
「他のVRゲームで優秀なヤツらを呼んだって言うから、期待して来てみればこのザマか。
この分じゃ、他のヤツらも期待はできそうにないな……」
言って、この場を去ろうときびすを返して――
「あら、それはちょっとつまんないわね」
「あん……?」
そんな彼を呼び止める声は、傍らの岩山の上から聞こえてきた。
見上げると、そこに一体のガンプラがゆっくりと、そして優雅に舞い降りるところだった。
改造機だ。ベース機は――
(EW版のウイングゼロ……
シールドを持たせた上で可動域にも手を加えている……バード形態を組み込んでいるな)
「……つまんねぇ改造してやがる」
EW版としてリデザインされた際に排除されたウイングガンダムゼロの飛行形態“バード形態”――その復活はEW版ウイングゼロを改造する上で誰もが思いつく定番の改造パターンだ。
ありがちな改造を施している新手のガンプラに、流行に乗ったにわかかと早くも興味をなくしているオーガであったが、
「あら、言ってくれるじゃない。
火器度外視のガチ近接仕様……撃ち合いの楽しさも知らない、殴り合うしか取り柄のないド脳筋がやりがちな『つまんない改造』してるクセしてさ」
ウイングゼロに乗る女性はしっかりやり返してきた。自分のつぶやきをしっかり拾い、使い回してきたその言葉に、オーガは不愉快げに眉をひそめた。
「言ってくれるじゃねぇか……
オレに対してそんな大口叩くんだ。お前はそれなりに楽しませてくれるんだろうな?」
オーガの言葉と共に、彼の駆るオーガ刃-Xが身を沈めてかまえて――
「――――――っ!?」
気づき、急速後退――直後、オーガのいた地点を赤みがかった桃色の閃光が貫いた。
(GN粒子によるビームの狙撃――っ!)
「デュナメスか、ケルディムか!」
飛来した攻撃から相手の正体を看破するオーガをよそに、ウイングゼロに乗る女性も狙撃の主に苦言を呈する――
「ちょっと、エム!
今いいところなんだからジャマしないでよ!」
「すまない、ピト。
お前に興味がなさそうだったから、逃げられないよう牽制をと思ってな」
女性に答える男は、望遠映像でも辛うじて視認できるか否かという遠方にいた。
この距離から、オーガに対して回避を要するほど正確な狙撃をやってのけたことも驚きだが、彼の乗っている機体はオーガの予測したガンダムデュナメスやケルディムガンダム――原作での狙撃特化機ではなかった。
もっと射程の短い、砲撃戦仕様のガンダムヴァーチェ。その装備を銃身の延長、精密狙撃デバイスの増設などで狙撃仕様に改装したガンプラを使っているのだ。
その名も“ガンダムヴァーチェSCVM”。なお、SCVMは『スナイパーカスタム・バージョンM』の略である。
そのガンプラに搭乗しているのは、仮想コックピットがとても窮屈そうな巨漢だ――投影された望遠映像に映る相棒の機体とオーガ刃-Xの姿を見つめながら、告げる。
「これで、スナイパーの存在を知ったソイツはうかつに背を向けられなくなった。
思う存分やっていいぞ、ピト」
「なるほど、そういうことね。
前言撤回。ナイスアシストだわ、エム! 愛してる!」
一方、ウイングガンダムを駆る、ピトと呼ばれた女性はそんなエムの言葉に歓喜の声を上げていた。嬉々として愛機をオーガ刃-Xの前に跳び下りさせる。
「そんじゃ、始めましょうか。
一応名乗っておこうかしら?――私の名前はピトフーイ」
「……ニューギニア固有種の毒鳥の名前か」
「あら、博識ね。日本じゃマイナーな鳥なのに。
ちなみにガンプラの名前もそっち由来ね――名づけて、ウィングガンダムピトフーイ!」
「……いいだろう。
オレはオーガ。ガンプラはオーガ刃-X!
食らってやるぜ――毒鳥だろうがな!」
「上等!」
ピトフーイがオーガに返し――両者のガンプラが地を蹴った。
◇
「……よし」
東京、桐ヶ谷家――準備を終え、和人は自身のアミュスフィアを手に取った。
根っからのゲーマーである和人としてはベータテスト開始と同時にログインしたかったのだが、仲間達の都合が合わず、こんな時間になってしまった。
もう早いプレイヤーはログインしてVR世界でガンプラに乗って飛び回っているに違いない。自分も後に続かなければ――
「ユイ、サポート頼むぞ」
〈はい!〉
声をかける和人に、彼のノートPCを介してユイが答える――GBNもALOやGGOと同じ“ザ・シード”規格のVRゲームだ。規格が同じゲームであるなら、ユイもまたプレイヤーと同様にデータをコンバートすることで行き来することができる。
そんな義娘の返事にうなずき、和人は一足先にダイバーギアにセットした自身のガンプラに視線を向けた。
ベース機はガンダムバルバトス――そこに自分達のALOでのプレイスタイルを参考に、様々なパーツを増設したミキシングビルドだ。
そして得物は、自身の得意とする長めの片手剣――その二刀流。
「いくぞ、ガンダムバルバトスDS」
“二振りの刃”、デュアル・セイバー……故にDS。
仮想世界で自身の愛機となるガンプラの名を呼ぶと、和人はアミュスフィアを装着するとベッドに横になり、
「リンク、スタート」
仮想世界へと、ダイブした。
◇
「………………っ」
五感が復活し、ゆっくりと目を開く――気づけば、和人はアバター“キリト”として、ロビーのような施設の中に立っていた。
「ここがGBNのスタートポイントか……」
つぶやき、キリトが周囲を見回すと、
「キリトくん……だよね?」
声がかけられた。
振り向くと、そこには現実で会う“彼女”とそっくりの容姿のアバターがいて――
「……アスナ、か?」
「うん。
SAO時代のアバターのデータ、バックアップとってあったヤツから容姿のデータを使ってね」
そうすれば、キリトくんも一目で私を見つけられるでしょ?――そう付け加えて、アスナはキリトの目の前でクルリと身をひるがえして見せる。
ゲーム内の近未来的な衣装に身を包んでいるが、その容姿は現実の彼女と比べて何ら遜色ないものだった。
「キリトくんは、ALOのアバターをコピーしたんだね」
「容姿だけだけどな」
二人とも、今回は結局コンバートではなくGBN運営が用意してくれた無料アカウント開設権を使っての新規キャラクターだ。GBNがキャラクターのパラメータ以上にガンプラの出来の方を重視するゲームだということで、コンバートでパラメータを引き継ぐ必要性は薄いと判断したためだ。
「ユイちゃんは?」
「もう来ると思うけど……」
二人の容姿についての話が一区切りついたところで、話題は二人の“義娘”のことに移行――尋ねるアスナにキリトが答えると、
「もう来てますよ~」
聞き慣れた、しかしどこか困った様子のユイの声が聞こえた。
しかし、周囲を見回してもそれらしい姿は見えなくて――
「ここですよ、ここ~」
その声は足元から。見れば二人の足元に、球体のマスコットロボット、“ハロ”が転がってきている。
まさか――
「ユイ……なのか?」
「はいです……」
「ユイちゃん、そんな姿に!?」
「調べてみたら、このハロってキャラクター、作品によってはパイロットと一緒にロボットに乗り込んでサポートAIのようなこともしてたらしいんです。
その設定に倣って、私達みたいなサポートキャラは容姿データのコピーなしでコンバートするとこの姿になっちゃうらしくって……」
ハロを抱き上げて――というか持ち上げて、となりのキリトと共に驚くアスナに対して、ハロ改めユイが答える。
「うぅ……こんなことなら私もALOでの容姿データをコピーすればよかったです……」
「だ、大丈夫だぞ、ユイ。
ナビゲーションキャラの容姿もカスタマイズできるそうだから、すぐに人間の容姿にしてやるからな!」
「じゃあ、まずはアバターの容姿をカスタマイズできるポイントやアイテムを手に入れないとね」
「ポイント稼ぎと、容姿アイテムの手に入るミッションか……
ランク上げなきゃ参加できないのもあるだろうから、ランク上げもしないと……」
キリトとアスナの方針はとりあえず決まった。すでにログインしているであろう、まだ合流できないでいる仲間達にその旨を伝えると、一足先に目的のミッションを吟味しようとミッションカウンターに向かう。
目的のカウンターはすぐに見つかった。幸い空いていたこともあり、カウンターにたどりつくなり受付嬢のNPCに声をかける――
『あ、あのっ!』
しかし、その声は意図せずしてハモった。
見れば、すぐとなりに小柄な、全身ピンクのミニタリールックに身を包んだ少女がいた。ちょうど声をかけるタイミングがかち合ってしまったのだろう。
「あぁ、すみません。
どうぞお先に」
「いや、キミの方がお先にどうぞ」
我に返ったのは少女の方が先だった――譲られたのを受け、キリトもまた譲ろうとする。
と――
「あのー、どうかしましたか?」
そんな二人に気づき、短剣を腰に差した少年が駆けてくる――
キリト。
レン。
リク。
後に、マスダイバーの暗躍とそれに伴ってGBNに襲いかかる危機に立ち向かうことになる三人のダイバー。
彼らの出会いは、まさにこの瞬間の出来事であった。
あとがき
以上、SAOとガンダムビルドダイバーズのクロスオーバーSSをお送りしました。
正式タイトルはイカジャムに倣って
「ソードアート・オンライン・オルタナティブ・ガンプラバトル・ネクサスオンライン」
となります。
……うん。長い!
一応形式としてはSAO世界を土台に「SAO(アニメ化済み部分)オールスター×ビルドダイバーズ」ということで。
そんなことを謳いながらユウキがいませんが、「彼女のリアルの生活環境上ガンプラ作りようがないだろ」ということで泣く泣く不参戦となりました。
続きを匂わせる終わり方してますが今のところ続く予定はありません。完全な一発ネタです。
ただガンプラを出せなかったキャラが多数いることを始めいくつか心残りを残しているので、ひょっとしたら数話くらいは書くかも……?