SAO-A-GBNO   作:モリビト28号

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なんだかんだで続いた第1話。
まだまだ導入ってことでGBNの世界観説明回です。

12/5追記
誤植指摘ありがとうございました。修正させていただきました。


第1話「Let's start GBN」

「…………っ」

 五感が仮想世界にシフトし、身体のサイズの変化に伴う違和感が一瞬だけ――小比類巻香蓮、改めレンは電脳世界に降り立ち、ゆっくりと目を開いた。

 GBN日本サーバー、ロビータワーのスタート地点……現在位置を認識すると、次に確かめるのは彼女にとってもっとも懸念すべき問題。

「……よかった、ちっちゃくて可愛いままだ」

 自身の身体をぺたぺたと触り、具合を――具体的にはサイズを確かめる。

 アバターの容姿をコピーできるとは聞いていたが、それでも実際試してみるまではどうしても不安は拭えなかったのだが、無事一番の懸念はクリアされたようだ。

 さすがに服装は持ち越せなかったのだが、初ログインに伴うキャラクターメイドの服装アイテムが豊富だったおかげで、そちらもさほど苦労はなかった。

 レンがチョイスしたのは古巣・GGOでのコスチュームに近いデザインの野戦戦闘服――なお、決定ボタンを押した後で「可愛い服にすればよかったじゃんっ!」とようやく気づいて頭を抱えたのは誰にも言えない本人だけの秘密である。

 グリーンの密林迷彩だったので、これは後で初期ポイントを使ってパーソナルカラーのデザートピンクに色替えするとして、今はそれよりも先に――

「さて、フカは……」

 一緒にプレイする約束をしていた親友の姿を探す。

 彼女も容姿データをコピーすると言っていたから、その姿はよく知るもののはず。視界に入ればすぐにわかるだろう――

「やーやー、レン~っ♪」

 だが、それも『視界に入れば』の話だ。自分が見つけるよりも先に視界の外、背後から声をかけられ、レンは苦笑まじりに振り向き、

「遅かったね! 待ってたよ~」

「フカが早いんだよ」

 駆けてきた友人・金髪のちびっ子女子アバターのフカ次郎を出迎え、息の合ったハイタッチ。

 ちなみにフカ次郎の服もGGOでのコスチュームを踏襲した戦闘服だ。ヘルメットがないが、ストレージにでも放り込んであるのだろうとレンはさほど気にしなかった。

「それにしても、ここがGBNか……」

「レンが来る前にざっと見回ってみたけど、スタート地点の他にもショップとかミッションの受付カウンターとか、基本的な機能は全部このタワーに集約してあるみたいだよ」

「ゲームを始めたらすぐにやりたいことに取りかかれるようになってるんだね……

 設備が町中に散ってて最初からあちこち走り回らなきゃいけなかったGGOとは大違いだよ……うん、助かる」

「プレイ人口が多い分、常時初心者さんがわんさかいる状態だからねー、その辺に配慮してるんでしょ。

 ま、GGOみたいなパターンも、それはそれで初心者がアバターの身体に慣れるために走り回らせてるんだろうけどさ」

 そんな第一印象に関するコメントを交わしながら、ロビーを軽く見て回る。

「で、ミッションに行くとか、よそのサーバーの知人に会いに行くとかで遠出したい時は……アレ」

 言って、フカ次郎が指さしたのは自分達のいるロビータワーの外、空に浮かぶ何かのマークのようなものだった。

「アレ、サーバーやフィールド移動用のゲート。

 基本的にはガンプラに乗った状態でアレをくぐることで、他のサーバーや遠くのフィールドに移動するんだってさ……もちろん、ガンプラ持たずにログインしてる人のために、アバター単体専用のゲートもこのタワーにあるみたい」

「なるほど……」

 そんな二人の見ている先で、ちょうど何機かのガンプラが空を飛び、ゲートをくぐっていく。

 その先頭を行くガンプラに、レンは見覚えがあった――と言っても改造していないベース機の方だが。

(あ、グリモアだ)

 『Gのレコンギスタ』というタイトルに登場していた、グリモアという量産型モビルスーツだ――丸っこい頭部のデザインが気に入り、使用キットの候補に挙げていたのでよく覚えている。落選したが。

 今見たグリモアは本体の改造よりも、外部装備の強化に比重を振った改造がされているようだった。頭部が真っ赤に塗られていたのは、レッドベレーにあやかったのだろうか。

「で? 初心者の私達はこれから何しようか?

 というか……レン、ガンプラちゃんとできた?」

「本体は……うん、一応やりたかった改造は全部できたよ」

「『本体は』?」

「うん……

 塗装の方が、ね……間に合わなくて、色はまだ元にしたキットのまま。

 そう言うフカは?」

「フフンッ、バリバリに改造しまくったよ~♪

 GGOのプレイスタイルを意識した機体に仕上げたから、GGOと同じ感覚でコンビプレイできるよ」

「そっか。

 じゃ、組んだガンプラの試運転がてら、軽めのミッションでも行ってみようか」

「えー? さっさとガッツリ暴れられるミッション行こうよ~」

「私はフカみたいに他所のゲームでもバリバリ暴れてたりしないの……というか、フカだって今自分で『初心者だ』って言ってたでしょ。まずはこのGBNに慣れるところから始めなきゃ。

 それに、どんなフィールドがあるか見て回りたいし……どうせやるなら、楽しみたいじゃない?」

 話しながら、レンはフカ次郎の前に立ってミッションカウンターへと向かい、

 

 

 

『あ、あのっ!』

 

 

 

 しかし、上がった声はレンのものだけはなかった。

 見れば、すぐとなりにリアルなら高校生ぐらいの年頃の少年がいた。彼と声をかけるタイミングが重なってしまったようだ。

「あぁ、すみません。

 どうぞお先に」

「いや、キミの方がお先にどうぞ」

 我に返ったのはレンの方が先だった――譲られたのを受け、少年もまた譲ろうとする。

 と――

「あのー、どうかしましたか?」

 そんな二人に気づき、短剣を腰に差した少年が駆けてくる――

 

 

 

 それが、自分にとってとても重大な意味を持った出逢いであったとレンが悟るのは、もっと先のこととなる。

 

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第1話「Let's start GBN」

 

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「じゃあ……ケンカとかじゃなかったんですね」

「まぁ……声かけようとしたタイミングが被っただけだからな」

「どっちかって言うと……譲り合い? しかも始まったばっかり」

 やってきた少年は、リクと名乗った――キリトやレン、さらにアスナやフカ次郎も加わり、それぞれから事情を聞いてホッと胸をなで下ろす彼の姿に、キリトとレンは顔を見合わせてコメントを交わす。

「それで、えっと……リク、だったか。

 リクはどうして、こんなスタッフじみたことを?」

「ひょっとして、運営の人とか?」

「あ、いえ、そうじゃなくて……有志のお手伝い、みたいなもので……」

 キリトとレンに答える形で、リクは初心者を脱却したての自分達ならではの視点で、ベータテストからの新規参加ダイバーのフォローをしてほしいと頼まれたことを説明した。

「オレだけじゃないです。

 オレと一緒にGBNをやってる仲間や、他にも同じように手伝いに来てる人達もけっこういて……」

 

「リッくーんっ!」

 

 と、語るリクの言葉を遮り、彼のことを呼ぶ声が聞こえた。

 振り向くと、眼鏡をかけて帽子を被った少年ダイバーを先頭に、三人のダイバーがこちらに向けて駆けてくるところだった。

 先頭の少年以外は女の子だ――二人目は、桃色の髪にネコミミ。レンが「あ、かわいい」と反応しているがとなりのフカ次郎はあえてスルーした。

 そして最後のひとり、こちらは銀色の髪の、少しおとなしそうな女の子だ。

「あぁ、ユッキー、モモ、サラ」

「ひょっとして、あの三人が……?」

「はい。

 オレの友達のダイバーです」

 アスナに答えると、リクは彼女らに仲間達を紹介する。

「男の子がユッキー。桃色の髪の子がモモで、銀髪の子がサラ。

 普段、一緒にGBNをやってる仲間で、ユッキーとモモはリアルでも友達なんです」

「ユッキーです」

「モモです!」

「えっと……サラ、です……」

「よろしくね。私はレン!」

「フカ次郎だよ。よろしくー」

 自己紹介するユッキー達にレンとフカ次郎もあいさつを返して――フカ次郎の名乗りに、ユッキー達は首をかしげた。

「フカ次郎、って……」

「男の子の名前……?

 リアルじゃ男の子なんですか?」

「いやー、私のメインフィールドは純アミュスフィア対応のVRゲーだからねー。GBNと違って性別ごまかせないから、リアルでも性別は見た通りだよー。

 フカ次郎ってのは以前飼ってたペットの名前。なかなか許してもらえなかった『不可』と二代目のペットだったことから『次郎』でね」

 尋ねるユッキーやモモに、フカ次郎はカラカラと笑いながら答える。

「それで……そちらのイケメンさんは?」

「あ、あぁ。

 オレはキリト。こっちがアスナで……」

 続いてフカ次郎が話を振ったのはキリトだ。名乗って、キリトはその流れでアスナを紹介し、

「それから、アスナが持ってるハロが――」

「どうも」

 しかし、続いてアスナの腕の中のユイを紹介しようとする言葉を遮り、アスナが一歩前に出て、

「初めまして。

 私――“キリトくんの恋人の”、アスナです」

「アスナ――ッ!?」

 しれっと爆弾をブッ込んでくれた。

「こっ、恋人!?

 それって――」

「はい。

 もちろんリアルの」

 驚くフカ次郎に、アスナが答える――思い切り、フカ次郎をにらみつけながら。恋人のことを「イケメン」と評したフカ次郎への牽制なのは、誰の目にも明らかであった。

「当然、ゲーム上では結婚までいってるわ」

『おぉぉぉぉぉっ!』

 さらに追い討ち。宣言するアスナの言葉に色めき立つのはレンやモモで、

「フンッ、リア充め。爆発しろい」

 さっそくフカ次郎がやさぐれた。

「何でいい男はそろいもそろってもう恋人作っちゃってるのかな!?

 モモちゃん、一緒に泣こう!」

「なんで私も一緒に泣かなくちゃいけないんですか!?」

「……えっと……」

「女性陣があの手の話で盛り上がったら、下手につつかない方がいいぞー」

 そんなフカ次郎にモモまで巻き込まれた。(主にフカ次郎のせいで)カオスなことになりつつあるやり取りを前に対応に困るリクに、キリトは自身の経験から忠告して――

「ママ!」

 このカオスを止めてくれる救いの天使は、すでにアスナの腕の中に降臨済みであった。

「私のことも忘れないでくださいよーっ!」

「あぁ、ユイちゃん、ごめんごm

「って、『ママ』ぁーっ!?」

「ちょっ、フカ次郎さん、落ちついて!」

「いやモモちゃん、これが落ちついていられるワケないでしょ!

 ママって何、ママって!? リアルじゃ結婚してないんだよね!? 未婚の母ぁーっ!?」

「え、あ、その……」

 訂正。

 救いの天使であると同時に、さらなるカオスへの片道切符でした。

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして!

 ALO……『アルヴヘイム・オンライン』でナビゲーション・ピクシーをしてます、ユイです!」

 ようやく混乱も落ちつき、ユイのことを紹介できる空気が戻って来た。アスナに足元へと下ろしてもらうと、ボール型マスコットロボット・ハロを模したアバター姿のユイは自己紹介と共に前方に軽く転がることで一礼に代える。

「ナビゲーション・ピクシー……?

 ってことは、ユイちゃん、サポートAI? NPCってこと?」

「フカ、ALOのNPCってこんなにしゃべれるの?

 ってゆーか自分で考えて動けるの?」

「いや、私もここまで高度な人格型AIで動いてるナビゲーション・ピクシーなんて初めて見るよ」

「そ、そうなのかな!?

 ユイちゃんってそんなに珍しいのかな!?」

「レアなキャラクターだってことは聞いてたけど、そーかー、そんなに珍しいのか、アハハハハーっ!」

 フカ次郎とレンの話に、初対面組一同の視線が向けられる――返すアスナとキリトだが、その口調は焦りからか棒読みの色が濃い。

(あっ、あっぶなかったーっ!)

(ユイが茅場晶彦製のAIだっていうのは、さすがにバラせないからな……っ!)

 しかし二人が焦るのも無理はない――ユイのプログラムの根幹を作り上げたのは、かつて一万人の人間を仮想世界に閉じ込め、その内の約四千人を死に至らしめた“SAO事件”を引き起こした張本人、茅場晶彦その人なのだから。

 もしユイの正体が明るみに出れば、あらぬ疑いを持たれかねない。普段身内のプレイヤー達が固まってのプレイばかりだったせいで、すっかり警戒が緩んでしまっていたようだ。

「でも、そのユイちゃんがどうしてハロの姿に?」

「これ、仮登録の人が使う、仮アバターだよね?――私の時がそうだったじゃない」

「サポートキャラのアバターの初期設定でもあるんだよ。

 たぶん、容姿データをコピーせずにコンバートしたせいで、正規の容姿として登録されちゃったんじゃないかな?」

「正解です……」

 しかし、そんなキリト達の不安をよそに、一同の話は先に進んでいた。首をかしげるリクやモモにはユッキーが答え、そんな彼の仮説にユイが再び前方に軽く転がるようにうなずいて――傾きすぎた。勢い余ってそのまま前方にクルリと一回転。

「それで、ユイちゃんをALOでの姿に……そのものは無理でも、近い姿にはしてあげたくてね」

「アクセサリ報酬や、ポイント交換のアクセサリのためのポイント稼ぎのミッションを受けに行こうとして……」

「そこで私とお見合いしちゃったワケだ」

 そしてようやく説明が終息へ。アスナとキリトの話に、結論に至ったレンが苦笑する。

 と――

「リク! ユッキー!」

 いきなりの声はモモのもの。見れば、何やらやる気に満ちた表情で拳を握りしめている――クルリと振り向くとリク、ユッキーの肩をつかみ、

「キリトさん達に協力しよう!」

 突然そんなことを言い出した。

「私もハロのアバター経験してるからわかる! アレはアレで楽しかったけど、やっぱり人型のアバターの方がいいよ!」

「リク、ユッキー……私からもお願い」

「どうしよう、リッくん……」

「いいんじゃないかな。

 こうして話を聞くことになったのも何かの縁ってヤツだよ」

 力説するモモとそれに加わってくるサラ、二人の説得を受け、リクは決断を委ねてきたユッキーに答える形で了承して、

「となると、私達もお手伝いかね」

「話聞いちゃったもんね。

 GBNで何しようとか特に決まってなかったし」

 フカ次郎やレンもだ。決まっていなかった当面のプレイ方針にちょうどいいと話に加わってくる。

「みんな……ありがとう」

「お礼なら後々。

 マスコット的な意味でカワイイ今のユイちゃんが、女の子的な意味でカワイイ姿になってから聞くよ――どうせ一日二日で終わる話じゃなさそうだし」

 謝辞を述べ、頭を下げるアスナに答えると、フカ次郎はリクへと向き直り、

「そういうワケだから、ちゃっちゃとアクセサリとポイント稼ぎのミッション、行っちゃいm

「ストップ」

「ぐぇ」

 提案しかけたフカ次郎を、レンは後頭部でまとめた彼女の金髪を引っ張ることで止めた。

「その前に、まずは操作感覚とフィールドの把握、でしょ?

 キリトくん達もGBNは初めてみたいだし、下準備はしっかりと……ね?」

「ぶーっ」

 レンに止められてフカ次郎がむくれるが、レンは彼女に代わってリク達に尋ねる。

「リクくん、何か、ガンプラの試運転が思いっきりできて、フィールドも見て回れるようなミッションってないかな?」

「んー……」

「リッくん、それなら僕らも初めの頃にやった、ヤナギランのコレクトミッションなんかどうかな?」

「いいね。

 なら、オレ達の時より少し遠回りしようか。砂漠や寒冷地にも行ってみよう」

「何? いいクエストあるの?」

「はい……

 僕らも熟練の人から薦められたミッションなんですけど……」

 聞き返すアスナに答えて、ユッキーはそのミッションのデータを表示して見せた。

 

 

 

【採取は誰のために】

依頼人:カミオン隊のお婆さん

 

ヤナギランって知ってるかい?

 

可愛らしい花なんだけどさ、同じくらい可愛らしい娘がいつも探してるんだよ。

その子はヤナギランを見つけては、色んな場所に植え替えていてね。

どうやら生き別れた親御さんに自分を見つけてもらうための目印にしてるらしいんだけどさ……

 

あたしゃこの歳で身体も満足に動いちゃくれないが、

あんたは無駄に元気そうだ。

手伝ってやれないかね?

 

 

 

「全体マップを使った、アイテム採取ミッションなんですけど……」

「このミッションならフィールド指定も制限時間もないから、ミッションついでにGBNの世界を自由に飛び回れるんです」

「バトルとかはないの?」

「必須じゃないですね。

 他のプレイヤーと出くわしたら、フリーバトルを挑まれる場合があるぐらいで……」

 あくまでバトルの有無を気にする慎重なレンの問いに答えるリクだが、その頬は少し苦笑気味だ。

「リクくん……?」

「いや……実は僕らが受けた時にまさにその『フリーバトルを挑まれる』ことがあって……」

 首をかしげるアスナにはユッキーが答えるが、そのユッキーも何やら少し言いづらそうにしている。

 リクとユッキーの態度からその時に何かあったんだろうと察するアスナだが、このミッションを提案してきたのは他ならぬ二人であることを考えると、それほど深刻な話ではないのかもしれない。突っ込んで聞かないでおく、ぐらいでいいだろうと判断する。

「いいね。それでいこう。

 受注はキリトくんがした方がいいかな?」

「そうですね。

 報酬ポイントは受注者には多めに割り振られますから、直接ユイちゃんのために使えるキリトさんがいいと思います」

「だってさ、キリトくん」

「あぁ」

 一方、レンはこのミッションが気に入ったようだ。彼女とリクに促される形で、キリトがミッションカウンターで件のミッションを受注する。

「じゃあ、さっそく出発したいんだけど……

 ここから、どうすれば?」

「あぁ、こうするんです」

 キリトに答えると、リクがシステムウィンドウを操作――と、リクが操作する度に周りの景色が変わる。

 カフェテラス、展望室、ショップ……どうやらロビータワー内はメニューひとつでショートカットが可能な仕様になっているようだ。

 そして、何回目かの操作の後、たどり着いたのが――

「格納庫……?」

「ここで、まずは自分達のガンプラのチェックをするんです……ほら」

 アスナに答え、ユッキーが格納庫の中を指さすと、ハンガーの中にすでに各自のガンプラが、設定上の原寸大で実体化し、収まっている。

「ぅわぁ、おっきいです……」

「オレ達のガンプラ、ゲームの中じゃこんな大きさになるんだな……」

「キリトくんのガンプラは?」

「あぁ、オレは……アレ」

 ユイと共に感想をもらすキリトに、アスナが尋ねる――見回し、キリトは自分のガンプラ、ガンダムバルバトスDSを見つけた。

「キリトさんのガンプラ、バルバトスベースなんですね」

「あぁ、ユイのオススメでね」

「ユイちゃんの……?」

 リクに答えるキリトの言葉に、レンがアスナの腕の中のユイへと視線を向ける。

「はいです。

 パパは元のゲームで剣士さんでしたから、元にするガンプラも斬った張ったが得意なものを使った方がいいかと思ったんです」

 そんなユイはアスナの腕の中でそう答えて――

「あと、パパって、けっこうムチャな動きすることが多いので、機体の剛性の関係でインナーフレーム方式を採用したものがいいんじゃないかって」

「あー……」

 続く言葉に心から納得したアスナからの視線に、キリトはなんとなく気まずくて視線を逸らした。

「フカのガンプラは一目でわかるね……」

「フフン、GGOでのプレイスタイルに則ったって言ったっしょ?」

 一方、レンはフカ次郎のガンプラを一目で見抜いていた――近年の主流である2.5頭身のSDで、全身火器でゴテゴテに固め、多少デザインは違うが自身と同様にヘルメットまで被せているガンダムタイプだ。言い当てるレンに対し、フカ次郎は胸を張って自信タップリといったノリで答え、ストレージから実体化させた自分のヘルメットを被ってみせる。

 ちなみに、フカ次郎の機体の脇には『Ζガンダム』に登場したフライングアーマーが置かれている。どうやらフカ次郎のガンプラには単独での飛行能力はないようだ。

「そういうレンはあっちのSDでしょ?

 どうせ、『ちっちゃくてかわいい』って理由でSD選んだんでしょ? まぁレンらしいけど……って言うか、一目でわかるって意味じゃ人のこと言えないじゃん」

「あぅ」

 そしてフカ次郎の反撃がレンを襲う――そんなレンのガンプラはSDのゴッドガンダムとシャイニングガンダムの四肢を入れ替え、組み合わせた、いわゆる「キメラ」「ニコイチ」と呼ばれる改造パターンだ。頭部と脚部がシャイニングガンダムで、両腕と胴がゴッドガンダム、といった内訳だ。一応内部にも手を入れているような痕跡は見られるが、外観には特に手を入れたような様子は見られない。

「アスナさんのガンプラはアルケインがベースなのか……」

「見て、リッくん。

 腰につけてるの、ガンダムヴィダールのバーストサーベルじゃない?」

 そしてリクやユッキーの話題はアスナのガンプラへ。G-アルケインをベースにユッキーの言う通りガンダムヴィダールのバーストサーベルを追加、後はデザイン上の細かいマイナーチェンジに留めているようだ。

「で、リク達のガンプラは……ぅわすごいな」

「改造のレベルが違う……」

 最後に見上げるのはリクとユッキーのガンプラだが――キリトとレンが驚いた通り、手の入れ具合がキリト達の比ではなかった。

 自分達の決めたコンセプトを足した以外は装飾の追加程度に留まっているキリト、レン、アスナと違い、かと言ってベース機がわからなくなるほどいじくり倒したフカ次郎ほどでもない。ベース機がわかる範囲内で、それでいてかなり手が入っている。

「ダブルオーガンダムと……ジムⅢですか?」

「うん。

 オレのが、ダブルオーガンダムをベースにしたダブルオーダイバー」

「僕のが、ジムⅢを改造したジムⅢビームマスターだよ」

 画像検索で似た機体を調べ、尋ねるユイにリクとユッキーが答えて――アスナが気づいた。

「そういえば――モモちゃんとサラちゃんのガンプラは?」

「え? あー、その……

 実は、私もGBNはまだ始めたばっかりで、自分のガンプラ持ってなくて……」

 アスナの問いに、モモは苦笑しながらそう答える。

「いつもログインしてるお店がガンプラのレンタルサービスをやってるんで、普段はそれを利用してるんです。

 でも、今日は新規のベータテスターさん達のフォローって話だったから、フィールドには出ないだろうと思って……」

「一応、誰かのガンプラに同乗させてもらうこともできるから、フィールドに出ることになっても置いてきぼりにはならずに済むって、僕らも思ってたから……」

「レンタルせずに、アバターだけでログインした、と……」

「あの、それで……」

 モモとユッキーの説明に納得するキリトに続ける形で、モモが視線を向けたのは――

「それで……よかったら、アスナさん、一緒に乗せてってもらえませんか?」

「私?」

「はい!

 ユイちゃんのお話、いろいろ聞かせてほしいです!」

「あぁ、そういう……

 うん、いいわよ」

「やたっ」

「サラちゃんはどうするの?」

「あぁ、サラは元々、いつもガンプラを持たずにログインしてるんですよ。

 で……たいていはオレのダブルオーダイバーに」

 アスナのOKをもらってはしゃぐモモをよそに、レンの疑問にはリクが答えた。

「じゃあ、そろそろ行きませんか? みなさんのガンプラも大丈夫みたいだし」

「あぁ、そうだな……っと」

 と、そこへ出発を促してきたのはユッキーだ。うなずいて――キリトは肝心なことを聞き忘れていた。

「そういえば……ガンプラのチェックはここでするとして、ここからフィールドへは、どうやって?」

 尋ねるキリトの問いに、リクとユッキーはなぜか顔を見合わせた。「待ってました」とばかりにニンマリと笑うとキリト達へと視線を戻し、

「それはですね……」

「ガンダム定番の、“アレ”ですよ!」

 

 

 

    ◇

 

 

 

「なるほど、カタパルトか……」

〈ガンダムに限らず、リアルSFアニメといったらこれですよ!〉

 各自がガンプラに乗り込み、カタパルトへと移動――射出台に脚部を固定し、射出レーンへと運ばれる道中、バルバトスDSのコックピットでつぶやくキリトに、同様に自分のガンプラに乗り込んでいるユッキーが答える。

 キリトだけではない。他のメンバーも皆同様にすでに射出レーンへと運ばれていて……

〈これ……私達全員同時に発進しようとしてるよね?

 つまりそれだけの数のカタパルトがあるってことだよね?

 この施設盛りだくさんのロビータワーのどこにそんなスペースが……!?〉

〈あー、レン?

 ここ仮想世界だからね? バーチャルにその辺ツッコんでもキリないからね?〉

 割とどうでもいいことでレンがフカ次郎からツッコまれていた。

〈じゃあ、まず僕達が出ますから、同じように。

 ユッキー、ジムⅢビームマスター! 出ます!〉

 そんなレン達をよそに、まずはユッキーが先陣を切ってカタパルトから発進。それを見送ると、キリト達も通信モニター越しにうなずき合い、

〈フカ次郎!

 ガンパンツァーフカ次郎アームズ! いっくよーっ!〉

〈アスナ、ガンダムG-アルケインピアサー、発進します!〉

 続いて出るのはアスナとフカ次郎だ。フライングアーマーに乗ったフカ次郎がカタパルトから発進し、共に飛び出したアスナのアルケインピアサーがバーストサーベルを背部に回して飛行形態に変形、フカ次郎の後に続く。

「なら、オレ達もいくか」

〈あ、あの名乗りって、やらなきゃダメ……? 恥ずかしいなぁ……〉

〈絶対ってワケじゃないですけど……やった方が気分出て楽しいですよ〉

 いよいよキリト達の番だ――名乗りを恥ずかしがるレンにはリクが答える。

 そして――

〈リク! ガンダムダブルオーダイバー! いきます!〉

〈あー、もうっ!

 レン! シャイニングゴッドガンダム! Redy Go!〉

「キリト! ガンダムバルバトスDS! 出る!」

 リク、レン、そしてキリト――三人が、GBNの大空へと飛び出していった。

 

 

 

    ◇

 

 

 

 本来長距離移動用のゲートを使わなくても目的地に向かえるミッションではあったが、今回はキリト達へのGBN内の案内も兼ねている。一行はあえてゲートを使って遠くに跳んで、そこから目的地に向かう遠回りなルートをとることにした。

「みんなは、ガンプラ初心者なんですよね?

 ガンダムのアニメとかは、どのくらい見てるんですか?」

「んー……私は、アルケインで作るって決めてから、原作での挙動を知りたくて『レコンギスタ』を見たぐらいかな」

 その道中――雑談を振ってきたリクに対し、アスナは少し思い出しながらそう答える。

「キリトくんは?」

「オレはアスナと同じでバルバトスの動きが知りたくて『オルフェンズ』を見たのと……後は『ガンプラビルダーズ』や『ビルドファイターズ』とその続編の『トライ』をね」

「『オルフェンズ』はともかく……また世界観跳び越えたところに行きましたね」

「このゲームと同じでガンプラバトルを扱った作品だって言うから、参考になればと思って」

 アスナへの答えに苦笑するリクにキリトが返す一方で、レンもフカ次郎やユッキーと話している。

「フカのガンプラって、ベースは何使ってるの?

 私の調べた限り、そんなガンダムいなかったと思うんだけど」

「SDの……劉備ガンダム、だっけ。

 アレを芯に形状変えたり他のガンダムからパーツ移植したりね」

「あぁ、その肩、ヘビーアームズですよね、TV版の」

 ――ピクッ。

 レンへの答えに乗っかってきたユッキーの言葉に、フカ次郎の肩がわずかに震えた。

「腰のスカートパーツは、EW版のヘビーアームズで……」

 ――ピクリッ。

 再び、ユッキーの言葉にフカ次郎が反応する。

「全体的に、ヘビーアームズをTV版、EW版を混ぜてSD化したような……」

「ユッキーくん」

 そんな反応に気づかないユッキーに、フカ次郎は直接声をかけた。

「ヘビーアームズじゃないフカ次郎アームズ」

「え?

 でもそのパーツってヘビーアーm

「フカ次郎アームズ」

「いや、だから……」

「フカ次郎アームズ」

「……はい。フカ次郎アームズで」

((『ヘビー』って単語使いたくないのか……))

 何となくその意図を察するキリト達。中でもレンは「また太ったのかなー?」と親友らしく少し踏み込んだところまでいろいろと看破していた。

 と――

「……ん?

 みんな、アレ見て!」

 アスナのアルケインピアサーに同乗しているモモが、前方に見えてきたものに気づいた。

「なんか、海沿いにジェットコースターのレールっぽいのがある!

 反り返ったところで途切れてて……作りかけ? それともジャンプ台とか?」

「『ジャンプ台』でほとんど正解ですねー」

 それはモモの言う通り、上方向に反り返ったレールを鉄骨で支えたような建造物だった。それを見てモモに答えるのはユイである。

「アレはマスドライバー。

 ガンダムに限らずSF作品にたまに出てくる、宇宙まで物資や宇宙船を打ち出すための加速施設ですね」

「ここは『SEED』シリーズの世界観を再現したCEエリアだから……オーブのマスドライバーだね」

 ユイに捕捉するのはユッキーだ。そんなマスドライバーの上空を越えて、海上から陸地に入った一行が次に向かったのは、一面に森林や草原が広がる戦国伝エリアだ。

 境界にあたる森林を抜けた先、草原を進んでいるのは――

「アレ何!?

 お城が動いてる!」

「日本風の城だねぇ」

「アレは天地城。

 SD戦国伝の第二部、風林火山編に登場する、頑駄無軍団の移動城砦です」

 今度はリクがレンとフカ次郎に答える。

「あれはどこかのプレイヤー……ダイバーだっけ。その人が動かしてるの?」

「そういう場合もありますけど……全部が全部っていうワケじゃないです。あの天地城はNPDが動かしてるフィールドオブジェクトですね。

 公式にフィールドオブジェクトとして配置されているものの他に、フォースネスト……フォースの拠点として、ダイバーが使えるものも別個に用意されてるんです。

 手に入れる方法は、超高難度ミッションの報酬だったり、ポイント交換やビルドコインっていうGBNのゲーム内通貨で買うっていう方法も……」

「フォース……他のゲームで言うギルドやスコードロンか」

 アスナに答えるユッキーの言葉にキリトがつぶやき、次のエリアに入る。ここは――

「何か、空まで届いてるみたいな塔がある……」

「軌道エレベーターですよ、ママ。

 地上と宇宙を行き来する手段のひとつですね」

 『00』の世界観を再現した西暦エリアだ。天までそびえ立つ軌道エレベーターを見上げるアスナにはユイが説明する。

 その後も様々なエリアを回り、いよいよ目的地のヤナギランの群生地のある、宇宙世紀シリーズを再現したUCエリアに入る。

「この砂漠地帯を抜ければ、ヤナギランの群生地のある高原地帯ですよ」

「ふーん、砂漠か……」

 ユッキーの説明に、フカ次郎は少し考えて、

「ねぇねぇ。

 ちょっと地上降りてもいい?」

「フカ……?」

「こういう地形で役立つギミック仕込んでるんだよね、この子。

 ちゃんと動くか確かめてみたいんだけど」

「あぁ、そういうことなら」

 いきなりの提案に面食らうレンだったが、続く説明にリクはあっさりと納得した。

「じゃ、レン!

 フライングアーマーよろしく!」

「え!? ちょっと!?」

 リクの承諾を得るなり、フカ次郎は早速行動に移した。迷うことなくフライングアーマーから跳び下りて、無人となったフライングアーマーは丸投げされたレンがあわてて取り付き、コントロールする。

 一方、地上に降下するフカ次郎アームズは――

「よぅし――無限軌道、オン!」

 フカ次郎の操作と共に、その足の裏から駆動音が聞こえ始める。

 足の裏にキャタピラを仕込んでいたのだ――そのまま砂漠の大地に着地すると、砂地に足を取られることなくキャタピラ走行で走り出す。

「高速走行のためのギミックですか?」

「そゆコト。

 ホバー走行も考えたんだけど、火器ガチャガチャ積もうと思ったら負荷かけちゃうかなって」

 高度を下げ、声をかけてくるユッキーにフカ次郎が答えるのを見下ろしながら、キリトはリクに尋ねる。

「この辺には何があるんだ?」

「えっと……

 ……あぁ、アレですね」

 キリトに答えてリクが指さしたのは右方向に見える砂漠の先。

 緑はないものの砂地からは脱した、しっかりした地盤の荒れ地……その彼方で、何か巨大な建造物が大地に突き刺さっているのが見える。

「アレって……?」

「ガンダムシリーズの中でも特にメジャーな、円筒形のスペースコロニー……の、残骸ですね」

 首をかしげるアスナには、さっそくネットにアクセスして件の建造物を調べたユイが答える。

「スペースコロニーって……でも、ここ地上だよ?」

「っていうか、残骸って……?

 ひょっとして墜落?」

「それだったら、同じ悲劇でもまだよかったんですけどね……」

 聞き返すアスナやそこに加わるレンにはリクが答える。

「シリーズ最初の作品『機動戦士ガンダム』の舞台になった、宇宙世紀世界で初めて起きた宇宙戦争、“一年戦争”……

 その中で、宇宙からスペースコロニーを地上に落とす“コロニー落とし”っていう作戦が行われたんです」

「アレを武器として落としたってこと!?」

 驚くアスナに対し、リクはうなずいた。

「物語の中ではその後も何度か、攻撃としてコロニーや隕石を落とされたりしてるんですけど……アレは最初のコロニー落としで落とされたコロニーを再現したものです」

「私達の古巣のGGOでも、宇宙船が墜落したって設定はあるけど……規模がぜんぜん違うよ、コレ……」

 リクの捕捉説明に、レンの頬を冷や汗が流れる――たとえバーチャル、仮想の世界でも、できることならお目にかかりたくない光景だと心から思う。

「それで……その後、地球連邦軍がトリントン基地を建設したんです。

 GBNでもいろんなミッションのステージとして使われてる場所ですね」

「なるほど……」

 キリトがうなずいた、その時――突如、コックピット内に警報が鳴り響いた。

 レーダーが、こちらに向けて接近してくる機体――自分達とは違う、第三者のガンプラを捉えたからだ。

 しかも、その反応はこちらに向けてまっすぐ向かってきているではないか。それも、かなりのスピードで。

「何だ……!?」

「他のダイバー!?」

 未知の相手との遭遇に、とっさに急停止し、警戒を強めるキリトとレンだったが、

「大丈夫ですよ」

 そんな二人に告げたのはリクだった。

「オレのレーダーの方に、フレンド登録済みのマークが出てます。

 オレ達の知り合いですよ」

「リクくん達がいるのに気づいて、あいさつに……って感じ?」

「たぶん。

 何しろ、“オレ達にみなさんのフォローを頼んだ張本人ですし”」

 聞き返すアスナにリクが答えて――件のガンプラが飛来した。

 飛行機――いや、違う。変形して人型になると、キリト達の前に滞空する。

 飛行形態時に主翼だった部分を両肩に備えた、スマートなガンダムタイプ――

「ガンダム、AGE-2……」

 そのガンプラに、キリトは見覚えがあった――スマートで高機動、変形すれば長距離巡航も可能ということで、使用ガンプラの候補に挙げていたからだ。

 一方で、面識のあるリクは相手を観察しているキリト達にかまわず、相手に向けて声をかける――

「何かあったんですか?――」

 

 

 

「チャンピオン」

 

 

 

 ………………

 

 …………

 

 ……

 

 

 

『チャンピオン!?』

 

 

 

    ◇

 

 

 

「初めまして。

 クジョウ・キョウヤだ」

 とりあえず、地上に降りて互いに自己紹介することにした――ガンプラを専用ストレージに収納、無数のポリゴンと化して霧散していく機体の中から大地に降り立ったのは金髪の青年の姿をしたダイバーであった。

「初めまして。アスナです。

 ほら、キリトくんも」

「えっと……キリト、です……」

 そんな、キョウヤと名乗ったダイバーに率先して返すのは、同様に生身で地面に降りたアスナだ――彼女に促される形でキリトが、それに続いてレンやフカ次郎もあいさつを交わす。

「えっと……さっきリクくん、『チャンピオン』って……」

「はい。

 キョウヤさんはこのGBNの現ワールドチャンピオン――事実上、今GBNにログインしているすべてのダイバーの頂点に立つ人なんです」

「そんなに強い人なの!?」

「リクくん、そんなに持ち上げないでくれるかい?

 僕ひとりの力で手にした頂点じゃないさ――フォースの仲間達のがんばりはもちろん、ライバル達との切磋琢磨があったからこそ手にできた力と頂点だ」

「しかも人間もできてる!?」

 尋ねるレンだったが、リクの説明にビックリ。さらに謙遜するキョウヤの言葉に二度ビックリ。

「それで……今日はどうしたんですか?」

「いや、本当にただ通りかかっただけなんだ。

 ベータテスト初日ということで、フィールドにおかしなところがないか見回っていたら、キミ達の反応が近くにあるのを見つけてね」

「この人が、さっき話してた、リク達にベータテスターのフォローを頼んだっていう人なんだよな?」

「はい」

 リクとキョウヤの会話に加わってきたのはキリトだ。リクがうなずくと、今度はキョウヤがキリトに声をかける。

「どうだい? GBNは」

「あー……軽く見回っただけだけど……」

「面白い世界だよね、キリトくん」

「あ、あぁ……」

 横から口をはさんできたアスナにキリトがうなずく――自分のコミュニケーション下手を見越して、返事に窮していたところを助けてくれた恋人に内心で感謝する。

「でも……この世界、今マスダイバーっていうのが問題になってるんですよね?」

「あぁ……」

 一方で、現状の問題を指摘するのはレンだ。対し、キョウヤも神妙な表情でうなずいた。

「古参のひとりとして、この状況を見過ごしておけないと、独自にマスダイバーへの対処は行っていたんだが……そこへ今回のベータテストだ。

 何か力になりたくてね……知り合いに声をかけて、都合のつく人達に有志で手伝いをお願いしたんだ」

「本当に好きなんだねー、このゲームが」

「あぁ」

 声をかけてくるフカ次郎に、キョウヤは迷わずうなずいた。

「できることなら、キミ達にもこの世界を好きになってほしいな」

「好きになるかどうかはともかくとして……存分に楽しませてもらうつもりだよ」

 笑顔で告げるキョウヤにキリトが答える。ついつい挑発的になってしまうキリトの態度に「相変わらず人見知りとカッコつけが激しいなぁ」とアスナが苦笑して――

 

 

 

 突如飛来したビームが、彼らのすぐ側の地面を薙ぎ払った。

 

 

 

「きゃあっ!?」

「アスナ!」

 突然の衝撃に驚くアスナをキリトがかばう――舞い上がった砂煙に視界のほとんどが遮られてしまったが、

「――――っ!?」

 気づいた。

 砂煙の向こうにガンプラのシルエット――特徴的なあの影は、キョウヤのガンダムAGE-2の改造機のものだ。

 まさかこの一瞬の間にガンプラを呼び出し、自分達をかばったというのか――チャンピオンの名に恥じないキョウヤの反応の速さに、キリトは彼の実力を垣間見る。

「みんな、大丈夫か!?」

「は、はい……

 でも、何が……!?」

 尋ねるキョウヤに答えるリクが周囲を見回すと、

「リッくん、あれ!」

 砂煙の晴れてきた視界の先にそれを見つけたユッキーが声を上げた。

 彼の指さしたのはコロニーの残骸の方角。リクが基地施設があると言っていた方角だ。

 見れば、向こうでなおも巻き起こっている砂煙の中、いくつもの閃光が走っている――恐らくはビーム。交戦しているようだ。

 先ほどの一撃は、あの戦いの流れ弾がこちらにまで飛んできたということか――

「バトルしてるの!?」

「他のダイバー達同士がかち合ったのか……?」

 モモやリクがつぶやくが、

「いや……違うようだ」

 ひとり先立ってガンプラに乗り込んでいるキョウヤは、望遠映像でより詳細な情報を得ていた。

 と、再びこちらに向けての流れ弾。一同の頭上を駆け抜ける形でビームが放たれ、その衝撃で砂煙が吹き散らされ、ビームの主がその姿を現した。

 その正体とは――

「ちょっ!? 何アレ!?

 何かなまらでっかいのが出てきたんだけど!?」

「シャンブロ!?」

 思わず故郷の北海道弁が出たレンの叫びの一方でユッキーも声を上げる。

「知ってるの、ユッキー?」

「『機動戦士ガンダムUC』に登場した大型モビルアーマー、AMA-X7、シャンブロです!

 物語の中で、ダカールを襲った後にトリントン基地の襲撃を援護するために近隣の都市部に侵攻して……」

「ち、ちょっと待って!」

 フカ次郎に答えたユッキーの言葉に、アスナが待ったをかけた。

「さっき、リクくんあっちにまさにそのトリントン基地があるって言ってなかった!?」

「物語の展開通りにあそこにいる……!?

 まさか、ストーリー再現ミッションのエネミー!?」

 アスナの言葉にその仮説にたどり着くユッキーだったが、

「いや……だとしてもおかしい」

 それに異論を唱えたのはキョウヤだった。

「レーダー反応はNPDを示してる。ミッションのエネミーというユッキーくんの仮説は正解だろう。

 だが、シャンブロ討伐ミッションはシャンブロの広域殲滅能力の高さから、未参加のダイバーを巻き込まないようバトルフィールド指定のクローズド型ミッションになっているはずだ。

 なのに、僕達がこうして巻き込まれるなんて……」

「それって……?」

「何らかの原因で、バトルフィールド指定が解除されている可能性が高い」

 聞き返すリクに、キョウヤが答える。

「原因はバグか、何らかの不具合か……」

「バグって……

 まさか、ブレイクデカールの影響!?」

「そんな!?

 だってここは、そのブレイクデカール対策を試してるベータテストサーバーだよ!?」

「くそっ、対策がうまくいってなかったってことか……!?」

 あわてるモモやユッキーの会話にキリトがうめいて――

「…………ん?」

 とにかくガンプラを呼び出して身を守らなければとメニューを開いたリクが、メールボックスに着信があるのに気づいた。

 着信はほんの3分前。キョウヤと出くわした後のことだ。そして発信者は――

「運営からの一斉告知メール……?」

「え…………?」

 そのつぶやきにサラが反応するが、とにかくリクはメールを開いた。キリト達も自分達のを見るより早いとそれをのぞき込んで――

 

 

 

発信:GBN運営

題:不具合確認のお知らせ

 

 ただ今、UCエリアにおけるシャンブロ討伐ミッションにおいて、バトルフィールドのクローズが正常に働かない不具合が発生しております。

 巻き込まれる危険がありますので、ミッションに参加しないダイバーのみなさんは、当該エリアでの活動には十分に注意してください。

 

 

 

『………………』

 結論。原因は単なる不具合でした。

「よかったー。

 またブレイクデカールが原因のバグだったらどうしようかと思ったよ」

「せっかくここまで大がかりに仕掛けた対策がうまくいかなかったってことになるもんね」

「いやいや、落ち着いてる場合じゃないからね!?

 今現在いつ本格的に巻き込まれるかわからないって現状何ひとつ解決してないからね!?」

 一番の懸念が杞憂に終わって安堵するリクとユッキーだが、現状の危機は去っていない。思わずレンがツッコむと、

「あぁっ! アレ!」

 モモが、シャンブロの周辺にいる数体のガンプラ、その内の一体がシャンブロの巨大な腕に捕まったのを見て声を上げた。

 

 

 

    ◇

 

 

 

「ぅわぁぁぁぁぁっ!」

 シャンブロの大型アイアンネイルに捕まり、悲鳴と共に握りつぶされるのは『00』に登場したAEUヘリオン――無残に撃破された仲間の姿に、同じく『00』に登場するキャラクター、パトリック・コーラサワーの姿のアバターを使うダイバーは思わず歯噛みした。

 チャンピオンから声をかけられてベータテストに参加。試しにミッションを受注してフィールドに出向いてみたのだが、思わぬ苦戦を強いられていた。

 確かに重装甲が売りのシャンブロではあるが、それを抜きにしても攻撃の通りが異様に悪い。ダメージ計算にバグが生じてるのではと疑いながらも戦い続けた結果、ジリジリと追い込まれて仲間はみんな撃墜されてしまった。

「くそっ、ミッションクリア2000回、模擬戦負け知らずのオレ様が率いるスペシャルなフォースが……っ!」

 耐久値は……一割も削れていない。中堅とはいえプレイ歴の長い古参フォースである自分達と削り合いを繰り広げたにも関わらず、あまりにも削れていなさすぎる。

 これはいよいよ間違いない。ダメージ計算に不具合がある――と、コーラサワーが確信した、その時だった。

 シャンブロの機体から何らかの飛翔体が多数射出される――その正体に気づき、あわててコーラサワーは自機であるAEUイナクト(デモカラー)を後退させようとする。

 しかし、手遅れだった――シャンブロが攻撃を開始。両肩から拡散メガ粒子砲を広域放射し、それが先ほど射出した飛翔体に命中すると、別方向に反射される。

 飛翔体の正体はビームを反射させることで別角度からの攻撃を可能とするリフレクタービットだったのだ。複数回反射されたビームはコーラサワーの背後にも回り込み、全方位から襲いかかる!

「くそぉっ!

 オレは!」

 なんとかかわそうとするコーラサワーだが、シールドにあたるディフェンスロッドをかまえた左手はあっけなく吹き飛ばされ、

「スペシャルで!」

 コックピットへの直撃弾を右腕を盾に防ぐが大きく姿勢を崩し、

「2000回で!」

 再びの直撃弾を身をよじってかわすが頭部を吹き飛ばされ、

「模擬戦なんだよぉっ!」

 上空に逃れることも叶わないまま、完全にバランスを崩したイナクトが砂漠に仰向けに転倒した。

 身動きもままならないイナクトに向け、シャンブロが右腕を掲げ、振り下ろし――

 

 

 

 

 

 

 

「間、に、合えぇぇぇぇぇっ!」

 

 

 

 側面から飛び込んだシャイニングゴッドガンダムが、イナクトをかっさらって駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 振り下ろされた一撃は目標を叩きつぶすことなく、ただ砂漠へと叩きつけられるのみに終わった。レーダー反応の移動を追って、シャンブロがその頭部を走り去っていくシャイニングゴッドガンダムに向け――

「後を――」

「追わせるかぁっ!」

 リクとキリトがシャンブロに襲いかかる。ダブルオーダイバーとバルバトスDSの斬撃を、シャンブロは左腕で受け止める。

「リッくん! キリー! 離れて!」

「はい!」

「キリーってオレのことか!?」

 そこに声を上げるのはフカ次郎だ。キリトのツッコミと共に飛び込んだ二人が離脱し、フカ次郎アームズが両手にかまえた二丁のグレネードランチャーが火を吹いた。

 弾頭はシャンブロの足元に着弾、煙をまき散らす――それもただのスモークグレネードではない。レーダーかく乱粒子もまき散らすチャフグレネード。攻撃よりもレンを逃がすことを優先した弾頭選択である。

「レンさん! 僕らで援護するから!」

「その人を早く安全なところに!」

「うん!」

 SDガンダムでは抱えて運ぶのは物理的に不可能。持ち上げて運ぶ形になる――イナクトを仰向けに担ぎ上げたレンがユッキーとアスナに答え、シャイニングゴッドガンダムを走らせる。

「大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ……

 アンタ達は?」

「通りすがりのダイバーだよっ!

 それより逃げるよ! このミッションにバグが出てるって運営が!」

 尋ねるコーラサワーにレンが答えると、シャンブロが動いた。拡散メガ粒子砲とリフレクタービットを駆使し、キリト達を牽制しつつレンとコーラサワーを狙うが、

「させないって!」

 アスナがそれを阻んだ。ビームを反射しようとしたリフレクタービットにアルケインピアサーのバーストサーベルで一撃。破壊はできなかったが反射攻撃の妨害には成功した。

「レンさんが逃げ切るまで、時間を稼がないと……!」

 大型ライフル“チェンジリングライフル”をバルカンモードで連射するユッキーだが、元々が重装甲な上にダメージ計算も狂っているシャンブロの前には大したダメージにはなっていない。

 だがかまわない。レンがコーラサワーを連れて安全圏へ逃げるまで注意を引きつけられればいいのだから――そしてその目論見は成功した。度重なる命中でヘイト値を稼ぐことに成功したらしく、シャンブロはその頭部をユッキーのジムⅢビームマスターに向ける。

 その両肩の拡散メガ粒子砲がチャージを始める。リフレクタービットを使った包囲攻撃で一気にユッキーを仕留めるつもりか――

「させない!」

 しかし、キョウヤが、彼の駆るガンダムAGE-Ⅱマグナムがそれを阻んだ。

 拡散メガ粒子砲が放たれようというまさにその瞬間、射出したクリア刃を備えたファンネルがリフレクタービットを一掃。アスナが弾き飛ばすので精一杯だったそれを的確に破壊し、放たれたビームは反射されることなくただ上空に飛び去っていく。

「す、すごい……!」

「あれが、このゲームのトッププレイヤーの力……!」

 これでシャンブロは包囲攻撃の手段を失っただけではない。再チャージが終わるまでは拡散メガ粒子砲も使えない。攻撃を的確に無駄撃ちさせたキョウヤの手際に、アスナやキリトが感嘆の声を上げると、

「まだです! 油断しないで!」

 そんな彼らに呼びかけるのはリクだ。

「シャンブロにはまだ、頭部に大型のメガ粒子砲が!」

 と、まるでリクが告げるのを待っていたかのように、シャンブロがその頭部を、口を開くかのように上下に展開。その奥に備えられたメガ粒子砲が姿を現す。

 その狙いは――

「私達!?」

「アスナ!」

 自分達が狙われてる――鳴り響くロックオンアラートにそう悟ると、キリトはとっさにアスナのアルケインピアサーを突き飛ばして射線上から逃がす。

 そして自身も離脱――しようとするが、間に合わなかった。シャンブロの放った巨大な閃光が、キリトのバルバトスDSを真っ向から飲み込む!

「キリトくん!」

 その光景にアスナが声を上げ――

「待ってください!」

 そんなアスナに声をかけたのはユイだった。

「ビームの中に動体反応があります!

 これって!?」

 その言葉と同時だった。

「――っ、おぉぉぉぉぉっ!」

 咆哮と共に、ビームの流れが乱れる――まるで壁にぶつかる水流のように散らされると、光の奔流を受け止め、踏んばっているキリトのバルバトスDSがその姿を現す!

「キリトくん!?」

「こんっ、のぉっ!」

 アスナが驚くのに返す余裕はない。ビームが叩きつけられる勢いに押し流されそうになっている機体を懸命に支え、キリトはなんとか機体をひねった。ビームを受け流してその流れから脱出。その足で懐に飛び込むと、手にした二振りの太刀による連撃でシャンブロの肩に傷を刻む。

「キリトさん、大丈夫なんですか!?」

「あ、あぁ……

 でも、どうして……? まともに直撃を受けたのに……」

 リクに答えるが、自分がどうして無事だったのか、キリトにもわかっていなかった。答えながら、しきりに首をかしげている。

「まさか……ナノラミネートアーマー?

 『オルフェンズ』の機体はナノラミネートアーマーのおかげでビームが効かない……さっきのビームの散らされ方は、まさにそのナノラミネートアーマーのそれだったよ?」

「でも、アレって専用のコーティング剤を使わないとGBNでは再現されなかったんじゃ……」

 ユッキーの仮説にリクが口をはさみ、一同の視線がキリトに集まった。

「キリトくん、キミはナノラミネートアーマーのことは?」

「い、いや……

 アニメで見たからそういう装甲があるのは知ってたけど、さすがにGBNで再現できるとは思ってなかったから……ん?」

 尋ねるキョウヤに答えかけ……キリトの脳裏に何かが引っかかった。

「ラミネート……コーティング……」

「キリー?」

 フカ次郎が声をかけるが答えることなく、キリトはさらに自身の記憶を掘り返し、

「……確か、模型店のモデリングブースで、塗料の上から吹いたコーティング剤に、確かラミネートがどうのって……」

『それだぁぁぁぁぁっ!』

 リクとユッキー、二人のツッコミの声が唱和した。

「それ、ナノラミネートアーマー再現用の専用トップコートですよ!」

「つまり、本人も気づかない内に、偶然ナノラミネートアーマーの原作再現加工をしてたってことか……」

 なんという偶然か――しかし、今はその偶然に助けられた。声を上げるユッキーのとなりでリクが安堵の息をつくが、

「しかし、油断は禁物だ。

 ゲーム上のパワーバランスのためにナノラミネートアーマーのビーム耐性には上限が設定されているし、対実弾防御力は原作よりも低めに抑えられている。

 原作と同じだと思っていると思わぬ痛手を受けることもある。気をつけた方がいい」

「あ、あぁ……」

 一方で注意を促してくれるのはキョウヤだ。彼の忠告にキリトがうなずいて――

「おしゃべりはいいけどさ……広域攻撃、くるよ!」

 フカ次郎の言葉に全員が気を引き締める。そんな彼らに向け、シャンブロが拡散メガ粒子砲で閃光の雨をぶちまけてくる。

「散れ!」

 キョウヤの指示で一同が散開、降り注ぐビームの雨を回避するが、

「ビームが効かないならっ!」

 キリトはむしろ突撃を仕掛けた。ビームが効かない自分が突っ込んで、メガ粒子砲を沈黙させるつもりなのか――

「ムチャだ!

 下がるんだ、キリトくん!」

 しかし、シャンブロには強力な近接戦闘用武装としてアイアンネイルを備えている。それにビームだって、ダメージにならずとも使いようだ。その眩い閃光自体が目くらましとして機能するし、ここのような砂漠なら、地面に打ち込んで砂煙を巻き上げて視界を奪う――といった使い方も可能だ。アイアンネイルで捕まえるスキを作ることを考えるなら、ビーム兵器も十分に脅威たりえるのだ。

 キョウヤがキリトに警告したのも、そうした懸念からであった――そしてその懸念通り、シャンブロは拡散メガ粒子砲を地面に向けてばらまいた。

 たちまちシャンブロの周囲は砂煙でまともに視界が利かなくなった。あれではお互いに相手が見えない。レーダー頼みの戦いとなるが、それではレーダーから正確に相手の位置を割り出せる、AI稼動のエネミーであるシャンブロが圧倒的に有利となる――

「――――そこっ!」

 しかし、キョウヤの懸念はそこから大いに外れることとなった。

 砂煙の中、自分を正確に捉え、つかみかかってきた右のアイアンネイルを、キリトはバルバドスDSの身をひねって回避したのだ。

 いや――ただ回避しただけではない。装甲に阻まれこそしたが、回避のみならず反撃の斬撃まで叩き込んでみせた。

 さらに、左のアイアンネイルは跳躍して回避。空振りしたその左腕の上に舞い降りるとそこからさらに跳んで――

「これで……どうだっ!」

 シャンブロの左肩、その付け根に、太刀の一方を突き立てる!

 もちろん、シャンブロのすぐ目の前も立ち込める砂煙で視界が利かない状態だ。にもかかわらず、キリトはものともしないで正確にシャンブロに攻撃をお見舞いしてみせた。

 まさか――

「見えている――?

 いや――慣れているのか!? 視界が利かない中での戦いに!」

「えぇ、そうです」

 そんな、キョウヤの上げた声への答えは眼下から――

「アスナくん……?」

「あの程度の視野妨害、私もキリトくんもさんざん経験してますから」

 キョウヤに答えると、アスナはアルケインピアサーのサーベルをかまえ、

「だから、近接については任せてください。

 キョウヤさん、援護をお願いします!」

「あ、アスナくん!」

「モモちゃん、しっかりつかまってて!」

「はい!」

 言って、アスナもシャンブロに向けて突撃。キョウヤが止めるのも聞かずにキリトに合流する。

「キリトくん!」

「アスナか!

 なら――」

「いつものボス戦の要領でしょ!? 任せて!」

「まだガンプラで戦う感覚に慣れてない――最初の頃みたいに声かけ合って合わせよう!」

「OK!」

 キリトの呼びかけにアスナが返すと同時、シャンブロがその右腕を振り上げた。

 狙いはキリトだ――思い切り叩きつけられた一撃をキリトは身をひるがえしてかわし、

「スイッチ!」

 キリトの合図でアスナが飛び込む。シャンブロの狙いがキリトに向いたそのスキに距離を詰め、突き出したサーベルの一撃が、シャンブロの左脇からその肩を貫く!

 もちろんシャンブロも黙ってはいない。その身を激しくよじり、力任せにアスナを振りほどこうともがき始める。

 が――アスナはあっさりとその暴力の嵐から逃れた。

 サーベルの刃の部分が根元から外れたのだ。シャンブロと自らをつなぐもののなくなったアスナは振り回されるシャンブロの腕の間合いから素早く離脱する。

 代わりにサーベルの刃を失うことになったが、“元々そういう武器なのだから”気にする必要はない。腰の左右、サイドスカートの代わりに備えられた大がかりなサヤにサーベルの柄を戻す――すぐに抜き放つと、そこには新たなサーベルの刀身が取りつけられている。

 これが、バーストサーベルの特徴のひとつだ――サーベルの刃を取り外し、交換可能になっているのだ。

 そして、アスナがバーストサーベルを武器に選んだ理由でもある。普段プレイしているALOでは長らく速度と切れ味に優れる代償に強度に難のある細剣で戦ってきた、すなわち長くその強度不足に神経を尖らせてきたアスナだからこそ、刃を交換することで刃の耐久力を気にすることなく戦い続けることのできるバーストサーベルの継戦能力は非常に魅力的だった。

 さらに――

「――――今!」

 バーストサーベルのもうひとつの機能を使う。安全圏に離れたところで、“起爆”――突き刺した刃がその名の通り爆発。シャンブロの左肩を吹き飛ばす!

「ぅわぁ」

「キリトくん! スイッチ!」

「あ、あぁ!」

 突き刺した刃を爆破して相手を内側から吹き飛ばす――恋人のえげつない攻撃に思わず引きかかるが、呼びかけられて我に返った。自機を突っ込ませ、シャンブロのボディ、その右側面に太刀を水平に突き立てる。

 その太刀を足場に、上方に跳躍――目的は先ほどシャンブロの右肩に突き立てたままのもう一方の太刀。シャンブロの肩から引き抜き、飛び降りついでに機体重量を乗せた斬撃でシャンブロの右腕を根元から斬り落とす!

「す、すごい……」

「確かに、今回ベータテスターに声をかけたのは、他のゲームの強豪プレイヤーばかりだそうだけど……

 だからって、ガンプラを動かしたばかりの初心者ダイバーが、いきなりあんな動きができるなんて……!」

 その戦いぶりは、(それほど大きな差はないが)先輩ダイバーであるリクやユッキーから見ても見事なものであった。思わず圧倒され、二人がうめいて――

「ボサっとしない!」

 そんな二人に声をかけるのはフカ次郎だ。

「このゲームじゃどうか知らないけど、他のゲームだとコレ、あの二人に経験値全部持ってかれる流れだよ!

 人様におんぶに抱っこがイヤなら、さっさと動く!」

「は、はいっ!」

 フカ次郎の言葉に答え、リクがライフルモードのGNソードⅡでキリト達の援護につき、ユッキーもそれに倣う。

「そうそう、その調子!

 そんじゃ、私もデカいのぶちまけますかね!」

 そんなリク達に満足げにフカ次郎がうなずき、彼女の操作でフカ次郎アームズが両手にグレネードランチャーをかまえた。

 いや――グレネードランチャーだけではない。両肩、フロントスカート、サイドスカートに備えられたミサイルポッドがすべて展開され――さらに背後でも動きが。

 バックパックから伸びるアームが上方に展開。両肩のミサイルポッドよりも高い位置に持ち上げられたそれは、EW版ヘビーアームズの肩アーマーであったミサイルポッドだ。

 それに伴い、コックピットのフカ次郎の正面が真っ白に塗りつぶされる――画面を埋め尽くすほどに大量に出現した、ミサイルポッドのロックオンマーカーだ。そのすべてが画面中央の、両肩を失ったシャンブロに集まり、ロックオン完了を示す赤色に変わる。

 そして――

「いっ、けぇぇぇぇぇっ!」

 発射した。

 フカ次郎がトリガーを引いた瞬間、すべてのミサイルが、両手のグレネードランチャーが火を吹いた。弾頭の群れは一旦広がり、包囲するようにシャンブロへと襲いかかる。

 そう――

「キリトくん!」

「じ、冗談じゃないぞ!」

 “キリトやアスナと近接戦闘真っ只中の”シャンブロに、だ――口々に声を上げ、あわてて離脱するキリト達の目の前で、シャンブロに向けて破壊の雨が降り注ぐ!

「ぅおぉいっ!? 危ないだろ!?」

「いやー、あんだけ動ける子達なら、多少きわどいところに叩き込んでもかわしてくれるかなー? と」

「『多少』って何だっけ……?」

 キリトからの苦情にもフカ次郎はどこ吹く風。しれっと言ってのけたその言葉に、アルケインピアサーのコックピットでモモが自問する。

 だが――今の破壊の嵐を受けてもなお、シャンブロは健在であった。ギシギシと油の切れたブリキ人形のようにその頭部をフカ次郎アームズに向け、口腔内のメガ粒子砲をチャージする。

「フカ次郎さん!」

「あー、大丈夫大丈夫」

 警告するリクだったが、フカ次郎は余裕だ。

「だって――」

 

 

 

「たぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 

「ウチの頼れる相棒が戻ってきてくれたんで」

 上空から飛び込んできた影の振り下ろした右拳を受け、発射の瞬間シャンブロの口が閉じられた――行き場の失った閃光が口腔内で炸裂し、シャンブロの頭部が内側から吹き飛ぶ中、その爆発に巻き込まれまいと離脱するレンのシャイニングゴッドガンダムを見送りながら、フカ次郎はあっさりと告げる。

「よぅし、これで丸裸だ!」

「一気にトドメを刺しましょう、キリトさん!」

「あぁ!」

 これでシャンブロの武装は全滅だ。ユッキーが歓声を上げる一方で、リクとキリトがそれぞれに剣をかまえるが、

「待って!

 アイツ、まだ暴れるつもりよ!」

『――――――っ!?』

 アスナの警告に気を引き締めた、ちょうどそのタイミングでシャンブロが動いた。ホバー機構でその巨体を浮かすと、キリト達に向けて勢いよく突っ込んでくる!

 とっさに左右に分かれて回避するが、シャンブロは急速に反転。再び猛スピードで体当たりをしかけてきて――

「こんっ、のぉっ!」

 横から飛び込んできたレンが蹴りを叩き込むが、軌道をそらすので精一杯だ。あさっての方向に駆け抜けた先で再び立て直して向かってくる。

「くっ、シャンブロは機体が重すぎて、こういう不整地じゃホバー走行できないはずなのにっ!」

「どうかな?」

 思わぬ反撃に声を上げるリクだったが、キリトは冷静にそれに返してきた。

「ボス用に強化されてるってこと?」

「その必要すらないさ」

 聞き返してくるレンに答えるキリトだが、その頬には冷や汗が一筋。

 なぜなら――

「オレ達で、軽くしちゃっただろ」

『………………あ』

 気づいた。全員でシャンブロの姿を改めて確認する――

 

 両腕はキリトとアスナによって肩ごともぎ取られた。

 頭部はレンによって引き起こされたメガ粒子砲の暴発でキレイさっぱり吹き飛んだ。

 

「…………軽くなってるね」

「はい……って!?」

 レンにうなずき返して――と、そんなリクめがけてシャンブロが突っ込んできた。とっさにかわすリクだが、やはりシャンブロはその巨体を素早くターンさせてくる。

「くっ、しつこいっ!」

「武器がなくなったって言っても、あのなまらでっかい図体自体も立派な武器だよ! どうする!?」

 再度の突進をかわし、毒づくリクにレンが声をかけると、

「オレがいく!」

「って、キリトくん!?」

 飛び出したのはキリトのバルバトスDSだ。レンが驚く間にも一気にシャンブロとの距離を詰めていく。

 対するシャンブロも速度を落とすどころかさらに加速。キリトに向けての体当たりのかまえだ。

「キリトくん!」

 アスナが叫ぶ中、両者の距離がゼロになり――

 

 

 跳び越えた。

 

 

 

 器械体操の要領で、シャンブロを鞍馬に見立てて跳び越えたのだ――直前で跳躍、シャンブロの上に手をつき、タンブリングのように跳び越えてやりすごす。

(――ここだ!)

 そして、着地と同時に走り出し、シャンブロの後を追う。

 狙うのは、シャンブロがこちらを捕捉し直し、再度の突撃のためにターンする瞬間――

(――いくら動きやすくなってようが、ターンの瞬間なら減速するだろ!)

 その考えは図に当たった。シャンブロが反転しようと旋回、速度が落ちたところにバルバトスDSが飛び込む。

(このゲームに、ソードスキルはない……

 増してや、自分が撃つんじゃない。乗ってるガンプラに再現させようっていうんだ……っ!)

 操縦桿を握る手に力が入る。ここからは作戦どうこうという話じゃない。自分がどこまでバルバトスDSを動かせるかだ。

(――上等だ! やってやる!)

 キリトの操作で、バルバトスDSが旋回するシャンブロに蹴りを叩き込んだ。バランスを崩しホバー移動が中断されたスキに、両手に太刀をかまえる。

「――あれって!」

 その構えに、アスナは見覚えがあった。

「アスナさん……?」

 そんなアスナにモモが首をかしげる間に、キリトの駆るバルバトスDSがシャンブロへと突っ込み、

「オォォォォォッ!」

 キリトの雄叫びと共に、繰り出されるのは矢継ぎ早の連続斬り――時に一刀ずつ立て続けに、時に二刀同時に、次々に繰り出される斬撃がシャンブロに叩きつけられる。

(もっとだ……っ!)

 止まらない。五連、六連、七連……

(もっと速く……っ!)

 10連、11連……まだ続く。

(もっと速くだ!)

 思い切り突き込んだ右の刺突が、斬り刻まれて強度が著しく落ちた装甲に突き立てられる。串刺しにされたシャンブロの動きを押さえ込み、

(バルバトス!)

 トドメに放たれるのは、刺突と見紛うばかりに前のめりに繰り出された左下からの斬り上げ。シャンブロの正面を深々と斬り裂く。

 その拍子に右の太刀が抜けた。素早くキリトが離脱して――シャンブロの巨体が爆発、四散した。

 

 

 

「ふぅ……っ」

 爆散したシャンブロの残骸が、無数のポリゴン片となって消えていく――「こういうところは、他のゲームと変わらないんだな……」などと割とどうでもいいことを考えながら、キリトはバルバトスDSを操作。両手の太刀を背中のマウントに戻した。

「す、すごい……」

「リッくん、今何回斬ったか、見えた……?」

「いや……ぜんぜん……」

 サラが感嘆の声を上げる中、リクがユッキーの問いに首を振って、

「16回だよ」

 それに答えたのはレンだった。

「16連撃……

 それに、今の動きって……」

 そして、それに反応したのはフカ次郎だ。展開した武装を収納すると、キリトに声をかける。

「ねぇねぇ、キリー。

 今のって、ソードスキルだよね?」

「ソードスキル?」

「生身で斬り合う種類のVRMMOでよく実装されてる攻撃技だよ」

 横から尋ねるモモにはユッキーが答えた。

「熟練のプレイヤーなら、染みついた感覚に任せることで、実装されてないゲームでも擬似的に再現することもできるんだよ」

「実装されてないゲームでも?」

「元々、今出回ってるVRゲームはみんな“ザ・シード”っていう製作ソフトから作られてるからね。技として実装されてなくても、モーションデータ自体は残ってるから、それをなぞることで再現できるんだよ。

 GBNも、前身のGBOを再現する方向に作られてるだけでそこは変わらないから……」

 聞き返すリクにユッキーが答えると、

「だが、GBNは生身での戦いではなく、ガンプラに乗って戦うガンプラバトルだ。

 そこでソードスキルを使おうなんて、本家のダイバーでは思いつかない、おもしろい発想だ」

「そんな大したものじゃないさ。

 元々プレイしていたゲームで頼りにしてた技だったからな……ただ単に、ゲンを担いだだけさ」

 会話に加わってきたキョウヤにキリトが返して――

 

 

 

「“スターバースト・ストリーム”を……かい?」

 

 

 

『――――――っ』

 返されたキョウヤの言葉に、キリトが、そしてアスナやユイが息を呑んだ。

 今、キョウヤは――

「スターバースト、ストリーム……?

 それが、あの技の名前なんですか?」

「チャンピオン、あの技を知ってるんですか?」

「あぁ、よく知ってるよ」

 尋ねるリクやユッキーに、キョウヤはあっさりとうなずいた。

「スターバースト・ストリームは、“世界で一番有名なVRMMO”で名を馳せた“ある剣士”の代名詞とも言える技だったんだからね」

「世界一有名なVRMMO、って……」

「それって、まさか……」

 リクが、そしてレンがつぶやくのを聞きながら、キョウヤはキリトへと視線を戻し、

「キリトくん。

 キミは……」

 

 

 

 

 

 

 

「SAOサバイバー……なのかい?」

 

 核心を突く質問を、投げかけた。

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