桃鳥姉の生存戦略   作:柚木ニコ

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4.錯綜千夜一夜

 

 

 ニュース・クーに挟まれていた新しい手配書を部屋でめくっている内に一枚に目が留まり、わなわなと震え、ミオはゴンッとテーブルに頭を叩き付けた。

 ベッド脇で最近編み物に目覚めた軍曹がびくりと脚を動かす。

 

「海軍じゃないのかよぉおおお!!」

 

 

 痛恨事である。

 

 

 確かに、今年はルーキーが豊作な年だなぁとは思っていた。去年が不作だったのかもしれない。

 思い出すに、キャベンディッシュさんくらいしか印象に残っていない。

 シャボンディ諸島で恒例のバイト中になぜか花屋の前でばったり会ったところ、身構えられたのだ。一度、どこぞの海軍の駐屯所近くで海賊を引き摺っているところを見られたらしい。

 貴族のようなひらひらした衣服を纏った長身痩躯の、豪奢な金髪の巻き毛に端整な顔立ち。『美しき海賊団』という三日くらい徹夜したテンションでないと出てこなそうな名前の海賊団の船長は、その名に恥じない華やかな美形青年だった。

 そんな彼に新人さんは狩ったりしないから安心してください新世界で頑張ってね! と激励したらブチギレされた。

 

「間違いなく新世界の台風の目となるぼくに目を付けないなんて、賞金稼ぎの風上にも置けない! どうかしているとしか思えないね!」

「え、うん?」

 

 いや、目を付けないとかそういう話ではないのだけど。

 しかしキャベンディッシュさんは立て板に水とばかりに己の美辞麗句と愛馬の自慢をぺらぺら話し始め、いかに自分がこの先の海で脅威となるのかを説いてきた。

 十分くらいは聞いていたのだけど、いい加減面倒になってきたので迷惑そうにしていた花屋さんでいっとう綺麗に咲いていた薔薇を一輪購入して、キャベンディッシュさんに差し出した。

 

「キャベンディッシュさん!」

「そう、だから……うん?」

 

 差し出された薔薇を見てきょとんとするキャベンディッシュさんに、ぎこちなく笑った。

 

「キャベンディッシュさんがとっっても優秀な船長さんだということはよーく分かりました! 応援していますのでお近づきのしるしにどうぞ!」

 

 我ながらこんな感情の入らない言い方ができるのだなと思ったのだけど、キャベンディッシュさんはぱぁっと輝かんばかりに眩しい笑顔を浮かべて、薔薇を受け取ってくれた。

 

「そうか、狩らないとはそういうことか! きみがぼくのファンならそうと言えばいいものを! 新世界での活躍を楽しみにしていたまえ!」

 

 キラッキラの笑顔を浮かべたキャベンディッシュさんは、行くぞファルル! と手にした薔薇をてっぺんからむしゃむしゃ食べながら愛馬を駆ってどこぞへと去って行ってしまった。ああそれ、食べるんだ……。

 キャラが濃いというか、あそこまでナルシストなひとはあんまり見たことがなかったから驚いた。

 

 閑話休題。

 

 エースの弟らしい(しょっちゅう自慢している)『東の海』のモンキー・D・ルフィくん然り、『南の海』のユースタス・キッド氏然り、彼らが新聞を賑わすこと賑わすこと。このツートップに最近仲間入りを果たしたのが、『北の海』の海賊。

 

 ハートの海賊団船長、トラファルガー・ロー。その異名は『死の外科医』。

 

 手配写真の中のローはいつも被っていた帽子はそのままに精悍な顔つきになり、身体も大きくなっていた。相変わらず隈はひどいようだけど。無事に成長してくれていたのがわかって泣きそうになった。

 嘘ですちょっと泣きました。ホッとした。よかった。めっちゃ嬉しい。

 

 けど、海賊! 完全に想定外! なんでだ!

 

 あれ、おかしいぞ? おかしいぞ? ……おかしいぞ!?

 

 自分の部屋なので遠慮せず、腕を組んで考え込みながらウロウロウロと歩き回る。

 

「ひょっとして僕の記憶に間違いが……? いやいやいや、あん時保護されたって言ってた。それは絶対」

 

 ドフィがあんな切羽詰まった場面でわざわざ嘘を言うとは思えない。だから、僕はローは海軍に保護されてすくすく育ち軍医のルートへまっしぐら、と思っていたのだけど。

 

 もしかして、前提条件が違うのだろうか。

 

「……ん?」

 

 そこではた、と。

 最後までローと一緒にいたであろう『当事者』に確認してなかったことに気が付いた。

 

「ロシーには、聞いてない……!」

 

 ぬあああああ聞けばよかった! これは僕がドジッた! でもあの時聞ける雰囲気じゃなかった、だめだ言い訳はするまい。

 

「え、え、え!? てことは、あの時海軍が保護したのはローじゃなかった? それとも海軍から海賊堕ちしたってこと? あああわっかんねぇええ!!」

 

 頭を抱えてごんごろごろと部屋中を転げ回る。ベッドの足に激突した。痛い。

 しばらく悶絶してから身体を起こし、外の空気が吸いたくなってのろのろと外に出る。今日は久々の交戦があって、もちろん勝利した我が白ひげ海賊団は宴を開催している。僕もご相伴に預かったのだけど、まぁみんな呑むわ食べるわ。胃の内容量的な問題で一抜けして戻って朝の新聞を確認していたのけど、まさかこんな爆弾があるとは。

 

 どれだけ思考に埋没していたのか、すっかり深夜である。

 

 喧噪も遠く、甲板のあちこちには飲みつぶれた船員が三々五々にくたびれ果てていた。いつの間にか風も冷えていて少し肌寒い。

 水とあとなんか、果物でもあればいいなと思いつつ厨房を目指す。そういえば、今日はサッチさんが悪魔の実を手に入れたと自慢していた。「オークションしねぇの?」「しねーよ!」とか、からかわれていた。

 

 サッチさんが能力者になると、また海に落ちた能力者の救助要員が減るなぁ、とそぞろ歩いているとなんだか宴に似つかわしくない不穏な空気を感じた。反射的に気配を消しながら物陰に隠れ、様子を窺う。

 

 眉間に皺が寄るのがわかった。

 

 ちょっと遠目だけど、言い争っているあれはサッチさんと……ティーチ?

 

 ぶっちゃけ、ティーチはちょっと苦手だ。

 

 マーシャル・ティーチ。白ひげ海賊団の中でもわりと古株。たまにやりすぎることを除けば大雑把でおおらかで、そこそこに力量はあるのに上昇志向には乏しい。そんな印象。

 そう毛嫌いする要素なんてないし、彼も古いといえばそれなりなので多少の親交はある。そう声高に仲が悪いわけでもないのだが、不思議と好きになれないのが自分でも謎だ。

 

 けれど……なんというか、自分とは違う意味で白ひげの『家族』とはズレがあるような気がするのだ。単に生理的に合わないだけで、そんなの気のせいだと言われりゃそうかもしれないけど。

 

──などと、考えながら眺めている先でティーチが大ぶりのナイフを取り出し、慣れた手つきでサッチさんの肩目掛けて埋め込むのが、まるでコマ送りのように映った。

 

 飛び出す暇もないほど、鮮やかな手並みだった。

 

「ッ!」

 

 ティーチはそのまま片手でサッチさんが持っていた悪魔の実を強奪し、咄嗟に取り戻そうと動くサッチさんへ、もう一撃とばかりに引き抜いた血濡れのナイフを振りかぶった。

 正気に返った僕はとっさに手を伸ばして能力発動。

 ぜんぜん関係ないが、それまで『技に名前をつける』という文化が自分になかったので考えたことがなかったのだけど、エースにあった方が絶対いい! と激推しされたため、最近ひとつだけ名前をつけた。それがこれ。

 

「『凝結』!」

「!?」

 

 彼の握っていたナイフを腕ごと『固定』しようとしたら、そこはさすが古参というべきか、咄嗟に手を離されてナイフのみを固定できただけだった。

 ティーチの狙いは正確だった。確実に致命傷になる場所を狙っていた。

 

 産毛が逆立つような怒りがあって、感情のままに怒声を飛ばす。

 

「ティーチ! そこで何やってんだッ!」

「げぇ!」

 

 ティーチはあからさまにイヤなところを見られた、という顔をして慌ただしく視線を巡らせて中空に『固定』されたままぴくりとも動かないナイフに舌打ちすると、あっさりとこちらから背を向け──あろうことか舳先に足を掛けて海に躍り出る。

 

 巨体が水没する大きな水音が響き、嘲弄まじりの笑い声が夜の中でいやに広がった。

 

「ゼハハハ! とんだ邪魔が入っちまったが『ヤミヤミの実』はもらってくぜェ!」

「がっ、くっそ、待てティーチ! あの野郎……!」

「サッチさん動いちゃだめです!」

 

 サッチさんの声は掠れていた。泡食って駆け寄ったものの、暗くて傷の確認ができない。

 

「止めんなミオ! 今ならまだ、」

「怪我人が夜の海に入ったらどうなるかなんてサッチさんがよく分かってるでしょう!?」

 

 引き剥がそうとしてきた腕を掴んで凄むと、サッチさんが低く唸った。間近で見る顔色は白く、掴んだ布がじっとりと湿っている。出血量が多いのだ。

 今にもティーチを追いかけて入水してしまいそうなのを必死で押さえつけながら、慌てて僕は大声で誰でもいいから呼んだ。

 

「だ、誰かぁ! 来て下さい! サッチさんがぁああ!!」

 

 最初に駆けつけてくれたのは、お父さんの様子を見ていなければならない看護師さんのひとりだった。彼女は一目見てサッチさんの怪我に気付いて的確に指示を出してくれた。近くにいて、比較的酔いが回っていない船員を捕まえてサッチさんを医務室に運び込む。その職業意識の高さ、さすがです。

 少し遅れてあらわれたのはお父さんとマルコさんだった。マルコさんは真っ先に血で汚れた床を見て顔をしかめ、お父さんはこちらに視線を向ける。

 

「なにがあった?」

 

 誰何の声はいつになく硬い。

 

「僕も細かいことは……でも、ティーチがサッチさんをそこのナイフで刺して『ヤミヤミの実』、だっけ? サッチさんの戦利品だった悪魔の実を奪って、海に飛び込んだ」

 

 そこの、とまだ固定が溶けていないナイフを指差した。

 てらてらと濡れた色はサッチさんの血で、今更になってぞわりと悪寒が走る。うなじがざわついて、落ち着かない。

 

 今、絶対にティーチはサッチさんを殺す気だった。

 賞金稼ぎにせよ海賊にせよ、やくざな商売をしていると欲望と殺意の気配には敏感だ。だから、愕然とした部分もあったのも、本当だ。

 

 白ひげだって世にその名を轟かせる、歴とした海賊団。どんな思惑を持った船員がいたって不思議じゃない。知ってたはずなのに。

 

「慌ててナイフは『固定』した、けど、……間に合わなくて、ごめ」

「謝るな」

 

 お父さんにぴしゃりと制されて、反射的に口を噤む。

 

「ミオは悪くねぇ」

 

 口にしようとしていた言葉は形にならず、俯いて唇を噛みしめた。

 そうは言って貰えても、起きてしまったことを止められなかったことが、ひどく悔しい。

 

「──ティーチとサッチがどうしたって!?」

 

 後ろからの声に振り向くと、大分呑んだと分かるのに顔色が白くなってしまっているエースだった。彼はつい最近二番隊の隊長に昇格した。

 白ひげ以前の、彼が船長をしていたスペード海賊団の面々とティーチは、彼の部下ということに、なる。

 

「エース……」

 

 そこまで考えたら、なんだが目の前が暗くなって、ぐらぐら揺れた。いっぺんに色々起きたので突き抜けていた混乱が戻ってきた気がする。

 いつの間にか服と指についていたサッチさんの血を、エースから無性に隠したくてしょうがなかった。

 

 僕はティーチ苦手だけど、べつに嫌いだとか、憎いとか思ったことはない。ただなんとなく、本当になんとなく合わないなって、それだけで。

 

 でも、エースにとってティーチはもう守るべき部下で、食堂で隣に座ってご飯を食べながらお喋りしたりして、たまに笑い合ってた。そしてサッチとティーチは友人だった。僕はそれを知っている。

 

 なのに、ティーチは彼を殺そうとしたのだ。

 

 ティーチにとっての白ひげは、エースは、サッチは、簡単に捨てられるものだったのだろうか。こんなにあっけなく、もう用はないとばかりに。

 それとも、そんなにサッチさんが手に入れた悪魔の実が欲しかったのだろうか? わからない。聞けもしない。ティーチは逃げちゃった。サッチさんの傷も深い。

 

 どうしよう、エースになんて言えばいいんだろう。

 

 急にひどく心細くなって、言葉を探して、出てこなくて。

 

「エース、説明はおれたちがする。ミオは部屋に戻れ」

 

 ばん、とマルコさんに強めに背中を叩かれて我に返ることが出来た。

 

 何も言えずに頷いて、それでも足元がなんだかふわふわして頼りなくて、後ろでエースが何か言っているのによく聞こえなかった。

 戻る途中で手を洗って、部屋に入ってのろのろと小さな箪笥から服を取り出して、着替えて、その辺りでようやく。

 

「……そっか」

 

 ちょっとだけ、わかった気がした。

 

 白ひげは海賊団だけど、この十年、紛れようもなく僕の『家族』だった。泣いて笑って喧嘩して、それでも離れようなんて、微塵も考えついたことがなくて。

 それは、みんな同じだと思っていたのだ。強固な繋がりがあると信じていた。馬鹿みたいに思い込んでいた。

 

「不思議だね」

 

 それを、ティーチは。

 

「今、やっとドフィの気持ちがわかったよ、少しだけど」

 

 十年経って、本当にやっとだけど。

 

「家族が家族を捨てるって、こんなにさびしいんだ」

 

 それに、とてつもなくむなしくて、しんどい。

 

 殺そうとかは思わないけど、やり切れない怒りに似た感情が確かにある。

 悔しくて、悲しくて、胸の奥がつぶれたみたいに苦しい。なんで、どうして。そんな風に思ってしまう。

 ベッドにもたれるようにずるずるとうずくまって、膝を抱えて頭を押しつけていると軍曹が寄り添ってくれる気配がした。手を伸ばして、ぬいぐるみみたいに抱き締める。すべすべの感触が心地良かった。

 そのまま、寝付くこともできず、まんじりともせずに夜明けを迎えた。

 

 朝の光が窓から差し込んでくるのが、他人事みたいに見えた。

 

 すると、控えめなノックの音。

 

「ミオ、起きてるか?」

 

 エースの声だった。

 

「起きてるよ」

 

 顔も上げずに返事をするとドアが開いて、足音がする。潮と朝の匂い。

 

「あー、軍曹。わりぃけど、ちょっとミオ貸してくれ」

 

 軍曹はちょっと考える素振りを見せてから、僕の腕からすり抜けてベッド下に潜り込んでしまった。普段はあまり使わないけれど、そこには軍曹の巣がある。

 のろのろと顔を上げると、エースは見たこともない神妙な表情で僕の前であぐらをかいて──ガツン!と両側の床に拳を打ち付けながら頭を下げた。ぎょっとする。

 

「オヤジたちから聞いた! さっきはありがとう!」

 

 思ってもみなかった言葉に思わずこちらも膝立ちになって慌ててしまった。

 

「い、いや、止めるの間に合わなかったしサッチさん怪我しちゃったし、悪魔の実もティーチも逃がしちゃったから、」

「あそこで止めてくれたから、だ」

 

 自分でもよくわからない感情に突き動かされて言い繕ってしまうと、エースはそれを一言でぶった切った。

 こちらを見据える瞳はそれこそ炎のようで、ひゅ、と息を呑んでしまう。気圧される。

 

「怪我は治るけど、死んだら終わりだ。サッチは重傷だけどちゃんと生きてる。おまえがあそこに居合わせなかったら、たぶん、サッチは……」

 

 そこから先は言葉にならず、エースはぎゅっとくちびるを引き結んで、もう一度しっかりと頭を下げてから顔を上げた。

 

「ティーチの馬鹿を止めてくれて、ありがとう。二番隊隊長として、改めて礼を言わせてくれ」

 

 エースはこちらを真摯に見つめたまま、決然と言った。

 

「これから、おれはティーチを追う。どんな理由があるにせよ、サッチに手を出したティーチにはおれがけじめをつけなくちゃいけねぇ」

 

 ティーチは白ひげ海賊団において最大の禁忌を、鉄の掟を犯そうとした。『仲間殺し』は大罪であることは周知の事実である。

 サッチさんがなんとか生きているのは幸いだが、だからといってティーチが彼を殺そうとした事実は消えない。だから、エースは行かなくてはならない。

 

 それがひとつの隊を預かる者の責任で、義務だ。

 

「ティーチが、エースの部下だから」

「ああ、オヤジにはもう話をつけてある。すっげぇ反対されたけどな」

 

 そういえば、あれから何度か怒鳴り声を聞いた気がする。あんまり意識していなかったから自信ないけど。

 しかし、お父さんに反対されたというのが引っかかった。

 

 裏切りには制裁を。

 

 それは『船』という、沈むと全員諸共に沈む宿命を背負っている運命共同体においてはごく当然の約束事である。まして今回は『家族』に手を上げたティーチが相手だ。

 すぐに賛成してもよさそうなものを、お父さんが異を唱えたのは何故だろう。

 

「すぐに荷物をまとめて、行ってくる」

 

 だけど、これは『白ひげ海賊団』の中で起こった出来事だ。

 『食客兼賞金稼ぎ』の自分がくちばしを突っ込んでいい問題じゃない。

 

 筋は通されるべきもので、それを違えることを白ひげは何より厭う。わかっているからこそ迂闊なことは言えなかった。

 

「……わかった。気を付けて」

「ああ、それとこれ。ミオにも渡しとくな」

 

 目の前でびりっと破かれたのは白い紙。エースのビブルカードだ。

 

「いいの?」

「? 当たり前だろ。おれのストライカーもだけど、ミオの船もグランドラインを逆走できるんだから」

 

 エースの持ち船である『ストライカー』は、彼の『メラメラの実』の能力を動力源として動く船だ。風や潮目に左右されることなく自在に走れるから、小回りも利いて好きに航行できる。

 僕の『モビー・ジュニア』も普段は帆船だけど、軍曹に引っぱってもらえばどこにでも行けるから買い物なんかで重宝されているのだけれど、さておき。

 

 渡されたビブルカードにはエースの字で番号が記されていた。電伝虫の番号だ。これからも僕はあちこちを渡り歩くから、どこかでエースとかち合うことがあればいち早く察知して会うことが出来る。それくらいならば、大丈夫だろう。

 僕も慌てて戸棚から自分のビブルカードを出して裏に番号とサインを記すと、その部分を破ってエースに渡した。

 

 そうしてお互いのビブルカードを交換して、握手を交わした。

 エースのそれは僕の『おでかけ』とはワケが違う。

 海賊の中でも最も忌み嫌われる行為を犯したティーチという罪人を追いかけるのだから、何があるのか分からない。

 

「行ってらっしゃい、エース」

 

 だから、いちばん相応しいと思える言葉を贈った。

 

「御武運を」

「おっ、それ、格好よくていいな」

 

 そこで、ようやくエースはいつもの……にはほど遠いけど、ぎこちない笑みを見せてくれたのだった。

 

 

 

 




巻くのはここまでです。

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