桃鳥姉の生存戦略   作:柚木ニコ

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十二ノ幕.まばたき一つぶんの英雄

 

 

 『モビー・ディック』号のちょうど真上。

 ある程度の高度でまとめてボタ山みたいになっている『赤犬』の発射した無数の火山弾を『固定』で食い止めているミオは、それだけでわりといっぱいいっぱいだった。

 

「ぬぐぐぐ……!!」

 

 全身の毛細血管が発火しているようだ。脂汗が吹き出て、じっとりと背中を濡らすのが気持ち悪い。

 度重なる能力の使用、おまけに虎の子の"覚醒"まで使っている現状は消耗が激しく、能力を維持しているだけでがんがん体力がすり減っていくのが分かる。

 

 他の能力者の"覚醒"事情なんか聞いたことないからアレだが、ミオの場合は体力と集中力をごっそり持っていかれるので乱発はできないし、やったとしてもすぐにぶっ倒れるのが関の山。それが体感的に理解できていたから、本格的に使用したのだって実は初めてである。

 

 ほぼ出たとこ勝負だったけれど、効果はあった。

 

 大将『赤犬』の、燃えさかるマグマを自在に操る『マグマグの実』は有名だ。海賊にとっては恐怖の代名詞として語られるそれは当然、『白ひげ』だって知っている。

 ということは、海賊に向けて『赤犬』がマグマをぶっ放すくらい『白ひげ』は先刻承知していたはずで、問題があるとすれば相手がそれをやらかすタイミングだろう。

 

 そして、そのタイミングはミオが崩した。

 

 状況を確認して心構えを作り、立て直して、対抗策を講じる。

 

 それをこなすための数秒さえ稼げれば、あとはお父さんがなんとかしてくれる。その確信があればこそ、ミオはここで切り札を切った。

 

 したたる汗を拳で拭えば、遠目に見える『白ひげ』が能力を込めて得物をおおきく振りかぶるのが見えた。『グラグラ』と『コチコチ』の相性は最悪なので、能力が当たれば『固定』はあっさり解ける。

 

 果たして──能力を乗算して超重量の薙刀から繰り出される一撃は、宙に留まっていた巨大な黒山をまっぷたつに両断した。

 

「よっしゃあ!」

 

 思わずガッツポーズを作れば海賊側からも歓声が上がる。『覚醒』も解除したので身体がちょっと楽になった。

 雲間が晴れるように空が割れ、膨大な巨塊と化した火山弾が新たな衝撃に耐えきれず砕け散り、バラバラバラと落下してくる。ある程度の損耗は避けられないが、銃器の扱いに長けた傘下の海賊や隊長たちがとりわけ危険そうな塊を各自で撃墜している。火花と斬撃が虚空へと乱れ飛び、あれだけの絶望と恐怖を振りまいていた拳がみるみる削り取られていく。

 

「うぉわ!?」

 

 これなら『モビー・ディック』も大丈夫そうかなと考える余裕もなく飛来した弾丸を慌てて避けた。

 火山弾を通せんぼしたのがよっぽど腹に据えかねたのか、潰せと怒鳴る声はミオにも聞こえていたので狙い撃ちされるのは仕方がない。

 せっかく守った『モビー・ディック』号にこれ以上傷をつけられても困るので、見張り台から飛び降りて回避行動。一瞬目眩のように景色が白んだがぐっと堪えて、なんとか甲板へ着地して転がるようにその場で伏せた。やばい、思ったより消耗が激しい。余裕がない。

 

 逆巻く敵意の矛先がこちらに向くのを感じる。

 

 場所が場所なので直接乗り込んでくるような海兵はいないけど、その分狙撃の数が多い。戦争には呼吸みたいなものがあって、海兵が攻勢に転じる気配を台無しにした戦犯を許せないというのはわかる。逆の立場なら自分でも切れる。

 

 そんな中で、かすかな焦りの混じるセンゴク元帥の放送が響いた。

 

『これより速やかに、ポートガス・D・エースの──処刑を執行する!』

 

 まずい。『赤犬』の邪魔をしたのが裏目に出たか、それとも作戦予定の延長線上にあったことなのだろうか。なんにしても時間がない。処刑台まで距離がある。もどかしい。

 ここからリスタートして全力疾走しても処刑台まで何分かかる? おそらく海兵も殺到してくるだろう。いちいち捌いていたら間に合わない。

 

──それなら。

 

「軍曹! 行って!!」

 

 万が一のためにポーチとは分けていたものをポケットから引っ張り出して軍曹に放り投げる。

 器用に片脚に引っかけて受け取ったそれからミオの意図を察したらしい軍曹は、一瞬迷うような素振りを見せてから『任せろ』という感じで顔を上げ、それまで溜め込んでいた海水を噴出しながら『モビー・ディック』号の舳先から勢いよく落下。子猫くらいの大きさになって氷と船の隙間すれすれに身を躍らせて海面に着水する。海兵も海賊も手の出せない海中から岸へ向かうようだ。

 軍曹なら包囲壁が鋼鉄だろうがなんだろうが登攀できるし、何より海兵にさほど警戒されていないだろう。運んで欲しいくらいだったが、あいにくミオは目立ちすぎてしまった。

 

 そのとき、弾切れなのか銃撃が一旦鳴りを潜めたので急いで『モビー・ディック』号から離脱──視界の隅で突如としてぶち上がった海流に驚いたが──とにかく進めるだけ進もうと宙を滑走路のように『固定』しようとした──瞬間、ぞわりと肌が粟立った。ミオは己の直感に従い、能力の使用を取りやめてそのまま氷上まで真っ逆さま。

 

「"ホワイト・ブロー"!」

 

 落下速度を緩めなかったことが功を奏し、ミオの頭上すれすれを真っ白な煙の長い腕が、さながらロケットパンチのように通過した。

 その技には覚えがある。全身を煙と化して海賊を捕縛することに長けた自然系能力者で海兵のひとり。ロシナンテとも付き合いがあったという、いつも葉巻を二本咥えた壮年の……。

 

「げぇっ、スモーカーさん!」

 

 これ以上ないほど眉間に皺を寄せ、筋骨隆々とした白髪の海兵──通称『白猟のスモーカー』が片手を煙、もう片方の腕で愛用の十手を構えてミオを睨み据えていた。

 銃撃が途切れた理由はこれだった。他の海兵はまだ二の足を踏んでいるようだが、彼の能力ならたとえ氷上が砕けても落水しなければなんとかなる。というか、この人も招集されてたのか。実力あるんだから当然か。

 咄嗟に方向転換しようとしたが、察したようにスモーカーが遮るように動く。

 

「……おれァ、賞金稼ぎとしての『音無し』を評価してた」

 

 伸ばした腕を戻し、咥えた葉巻を千切れそうなほど噛みしめながら低くつぶやく。

 

「それがよりにもよって、『白ひげ』の娘とはな」

「さっき縁切られましたけどね」

「アホか。所属がどうあれ『白ひげ』の母船を守った時点で『白ひげ』側だ」

 

 呆れたように言われ、それもそうだと思った。

 そもそも、海賊の味方をしているのだからスモーカーがミオを倒す理由は余りある。正直、とてもやりにくい。実力も根性も申し分のない気骨のある海兵さんなのだ。好漢で、縁があり、情もある。

 

 そして何より──()()だった。

 

 ミオは彼の十手に応えるように佩いた刀の柄へ指先を這わせ、とん、とん、と小刻みに跳ねながらまっすぐにスモーカーを見て笑ってみせる。

 

「ですね! お察しの通り僕はエースと『白ひげ』が大事なので、そこどいてください」

「行かせるかよ。てめェはここで捕縛する」

 

 宣言通り、もわりとスモーカーの姿が煙でブレた。

 身体のいちぶが葉巻の煙に似た紫煙となって渦を巻き、のたくりながら猛烈な速度で迫ってくる。本人の言葉通り『モクモクの実』はとりわけ捕縛に特化された能力だ。

 物理的な攻撃は本人が煙なのでダメージそのものが通らず、たとえばエースのような能力者でもなければ拮抗状態を作り出すことすら出来ずに逃げるしかない。

 

 他に有効打があるとすれば覇気を込めた攻撃か、そうでなければ。

 

「できるものなら!」

 

 逃げても追尾されてしまうとなれば、短期決戦が望ましい。正面から迎え撃つ。

 至近距離まで迫る煙へと無造作に片手をふらりと持ち上げて触れようとしたのだが、第六感に閃くものがあった。身体が本能的に跳び退る。

 

「チッ」

 

 舌打ちがひとつ聞こえ、煙の隙間から覗く十手の先。そうだった、スモーカーの十手にはこれがあった。海楼石の仕込まれた先端が己を狙っていたと悟り自分の直感に感謝する。

 海楼石なんて食らったらただでさえ尽きかけている体力が底を突いてしまう。

 

「勘働きの良さにその厄介な能力。なるほど、『生き残る』わけだ。だが、今のではっきりした」

 

 何かの確信を得たようなスモーカーの様子からミオの眉間にも皺が寄る。

 お互いの手の内をそこそこ知っている相手は厄介だ。舌打ちしたいのはむしろこちらの方である。『鷹の目』とは別の意味でやりにくい。他の海賊もミオのことには気付いているが相手がスモーカーだと分かって手を出しあぐねているようだった。

 強烈な踏み込みと同時、繰り出された十手の先を抜いた庚申丸で薙ぎ払い、咄嗟にベルトから引き抜いた柄尻でスモーカーを狙うが器用にも部分的に煙が拡散して避けられてしまう。

 

「おれみたいな自然系は、直接触れなきゃ止められねェ。だろう?」

 

 言うが早いか、スモーカーが攻勢に転じる。身体の変化は最小限、二の腕を煙にして間合いを変えながら十手での猛追にこちらも庚申丸で応じるしかない。

 相手も能力者である以上、ミオの海楼石が当たれば無力化できるのは分かっているがそれを許す相手ではない。近付きすぎると十手の(かぎ)で刀身を持っていかれてしまうし、一時的な二刀流にならざるを得ないこの状況では能力行使も難しい。

 

 ミオの両手を塞ぐ。単純だが有効だ。

 

 スモーカーの狙いを悟り、じわりと内心焦りが生まれた。

 

 業腹だが、スモーカーの推理は正鵠を射ている。

 

 チェレスタから受け継いだ『コチコチの実』の能力はけっこうピーキーで、実のところそうなんでもかんでも『固定』できるわけではない。

 

 自然発生しているならともかく、能力者の生み出した現象なら『本人の意思』が繋がっているものには直接触れる必要がある。

 

 さっきの火山弾のように能力者から切り離されたものはその場で『固定』できるが、本人の制御下にあるものはたとえ"覚醒"していてもたぶん無理だ。スモーカーの有する『モクモク』の場合、よっぽど拡散していれば有効かもしれないが『腕を変化させて捕らえる』程度の使用では支配権はあちらにある。

 

 そんなわけで自然系にはそこそこ、超人系や動物系への優位性はほぼ皆無というのがミオのくだした自己評価である。

 

 以前のトレーボルとは本当にたまたま、相性がよかっただけだ。散らばったベトベトは本人と繋がってなくて『固定』できたので脅威にはならず、油断してくれていたから彼の生身に直接触れて、丸ごと停止させることもできた。

 

 意識ごと対象を『固定』するには相手の了解を得るか、そうでなければ思考の空白を狙うしかない。コラソンは本人が望み、ミオが応えたからこそなし得た例外中の例外である。戦場なんて極限状況の中では上手くいったとしても数秒がせいぜいだろう。

 

 とはいえ、それは能力者に限った話。

 

 こんなしち面倒くさい能力者とまともに戦っていては、いつまで経っても処刑台にたどり着けない。お綺麗な決闘試合ではないのだ。

 

「せいッ!」

 

 満腔に力を込めて十手の先を弾き飛ばし、ミオは大きく真後ろに跳んだ。

 すかさずスモーカーが距離を詰めようと飛び出すが、ミオがもう一段跳ぶ方が早かった。自分の真後ろの空間を『固定』して、三角飛びの要領で更におおきく跳躍してスモーカーという障害物の真上を飛び越える。

 

「逃がすか!」

 

 咄嗟に下半身を煙に変化させ追いすがるスモーカーにミオは中空で体勢を立て直し相対すべく刀を構えようとした、瞬間だった。

 

 ぐらん、と目の前が不規則に揺れた。

 

「──ッ」

 

 無茶に無理を重ねた反動だろうか、時間にすれば秒にも見たぬほんの僅かな間隙だが、それを逃がすほどスモーカーは甘くない。

 伸びてきたパンチを中途半端な体勢では避けきれずまともに食らってしまい、氷面でバウンドされる間もなく十手の先が突き刺さる。

 

「げうッ……!?」

 

 海楼石の仕込まれた先端が食い込み肺の空気が残らず押し出された。間髪を入れず全身に煙がまとわりついて、武器が弾き飛ばされる。背中がひどく冷たい。氷面のせいだろう。海兵サイドらしき歓声が聞こえた。

 生理的な涙を浮かべ、吐きそうな咳をするミオの前に油断など欠片も見せないスモーカーの眼差しはひどく怜悧だが、どこか怒りを孕んでいるようにも見えた。

 

「……たったひとりでよくもまぁ、ここまで荒らしてくれたもんだ」

 

 『音無し』とスモーカーの付き合いはさほど浅くはないが、長年に渡り海賊を殺さず捕らえてくる手腕や己にも他人にも公平な様子は彼の気に入るものではあった。

 だからこそ、『白ひげ』の娘だったという事実がひどくスモーカーの癇にさわる。氏素性を隠して賞金稼ぎをしていたことも海軍を小馬鹿にしているようで気に入らない。

 

 そして理由がどうであれ、今回ミオはやりすぎた。

 

 戦争開始時における元帥への攻撃に始まり、大将『赤犬』の放った火山弾すべてをたったひとりで食い止めてみせたのが決定打だった。

 

 おかげで『赤犬』の実力が文字通りの大量破壊兵器であることを体感として味わってしまった多数の海兵は、氷面が砕けていないにもかかわらず再突入をためらっている。

 スモーカーのような能力者や己の実力に自負を持っている者は果敢に飛び出しているが、そこまで突出していない海兵は明らかに腰が引けていた。ここに来て臆病風を吹かすんじゃねェと断じてやりたいところだが、原因が原因だけに迂闊に責めるのは酷だとも理解できる。

 

 『徹底的な正義』を掲げている『赤犬』は、その気になれば海兵の犠牲を厭わず再び"流星火山"を発射するかもしれない。()()()()()()()()()()()()()()()()、と海兵たちは骨身に沁みるほど理解してしまっている。本人のまったく意識していない副産物だろうが、『赤犬』の性格を知悉している海兵だからこそ出てきた弊害だった。

 

 軍隊でも海賊でもない、ただのいち個人が戦争をひっかき回している。

 

 それは、エース救出のためにインペルダウンから脱獄すらしてみせた『麦わらのルフィ』にも比肩しうる危険な存在であることの証左といえた。ここで殺されても文句は言えない。

 

 それに──なにより。

 

「あんた、()()()にどう言い訳するつもりなんだよ!」

 

 激昂を抑えきれず、スモーカーは吠えた。

 跳ねっ返りの自分を見捨てもせずに相手をしてくれたロシナンテ中佐のことを、スモーカーはまだ覚えている。忘れられるわけがない。

 ドジが多くてお人好しで誠実で、何より己の正義に忠実だった。スモーカーは彼を慕っていた。……かつて、スモーカーの問いにミオは『大事なひとだ』と口にしていた。ミオにとってのロシナンテも、ロシナンテにとってのミオも、互いに大事な存在なのだと。嘘のない言葉だった。ミオを気にかけていたのもそれが理由だった。

 

 それがスモーカーには我慢ならない。自分のみならず、今や遠い記憶になりつつあるロシナンテすら裏切っているようで許せなかった。

 

 怒声を全身に浴びたミオはびくりと肩をそびやかし、束の間スモーカーの言葉を反芻するように瞬きを繰り返してから、不意に。

 

「……ふはっ」

 

 気が抜けるように、笑った。

 

 馬鹿にしているわけでもなく、ただ、本当に予想外のことを言われて堪えきれず吹き出した。そんな印象だった。

 そしてその名前を口にするのが懐かしいとばかりに目を細めて、口の端をゆるく持ち上げる。

 

「ロシナンテはまぁ、怒るんじゃないですか。すんごい怒って、それから泣く。めちゃくちゃ泣く。あ、案外に手ぇ早いからぶん殴られるのが先かなぁ。でもしょうがないですね、ロシーの恩師に手出したのは僕だし」

 

 せいせいとした口調だった。

 まるで弟妹喧嘩の延長であるとでもいうような、なんてことのない物言いにスモーカーは鼻白む。

 自分がしでかしていることの重大さをまったく理解していないのか、それとも理解した上でこその台詞なのか。

 

「でも、それをここで出してくるのは()()()ですね。というか、スモーカーさん。駄目です」

「あァ?」

 

 なにがだ、と続けようとして──違和感に気付く。

 身体のあちこちが動かない。動かそうとしてもひどくぎこちなく、にぶく、重く──否、動かせない。まるでその場に縫い止められたかのようだ。

 

 固まり、凍り付き、それは『モクモク』の能力を発現していた箇所から──。

 

 うっそりと眇められた桜色がスモーカーを見上げている。

 

 薄いくちびるが、諭すように色のない言葉を紡ぐ。

 

「化けて出たりしないんで、僕みたいなのは問答無用で首を落としていいですよ。ここは戦場(いくさば)、恨みはしません」

 

 本気だと分かる声音だった。

 

 もしこの場でスモーカーが殺したとしても、ミオは半句ほどの文句も言わずに笑って逝くだろう。生きることを欠片も諦めていないくせに、心からそう思っている。

 

 それを本能的に察したスモーカーの背筋がぞわりと粟立った。

 

 眼前で転がっているのは賞金稼ぎの『音無し』ではなかった。それは何もかもが停止した世界でうつろに突っ立っているだけの、呼吸しているだけの死人だった。

 

 吐き気のする異形だった。

 

「だから、捕縛とか、しかるべき裁きとか、極めつけの非日常にそんなのを持ち込んだら駄目です。つけ込まれる。僕とかに」

 

 死人が喉をふるわせて音を作り、十手の鈎を掴んで、ぐっと身体を乗り出し器用にスモーカーに手を伸ばす。その背中から細長い物体が突き立ち、服の布地が不自然につっぱっているのが視認できた。

 

「な、──!?」

 

 十手の先がミオの胸、ちょうど心臓の真上あたりを貫通している。それは貫いているというより、手応えとしてはむしろ素通りしているようだった。人間の持つ最重要ともいえる臓器が、存在していないかのように。

 ありえない光景に寸の間思考が止まり、反応が遅れ、それが決定的な隙となった。

 

 ミオが笑う。人を惑わす猫のそれ。

 

「あいにく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 海楼石が仕込んであるのは十手の先端だけだ。

 それをどうやってか、物理的に避けていたとするならミオの能力は封じられてなどいない。

 

「その、残念でした」

 

 たよりなく、おぞましい温度の指先が蛇のように這い上がり──スモーカーが知覚できたのはそこまでだった。

 

 

 


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