風が頬に当たって鋭い痛みが走る。鼻先が冷たい。息が苦しい。
足元は海面ギリギリだ。
ひしめく軍艦の隙間を奇跡的にすり抜け、広い海へ。流星のように、疾風のように、弾丸のような速度で改造ボンチャリが走る。否、走るというよりもはや真横に吹っ飛んでいるといった方が適切だ。
改造ボンチャリに残った最後の機能。魔改造の果ての究極の悪ふざけ。残っていた衝撃貝と噴射貝もろもろすべてを組み合わせて作り上げた、圧縮空気を衝撃波とともに瞬間的に開放する疑似エグゾーストキャノン。
その威力は絶大だった。絶大すぎてボンチャリの方が壊れそうだ。こんなの派手な自爆である。
ともすれば意識すら持っていかれそうになる中、抵抗するように僕は必死でがなっていた。
「エースのばああああッッかああああ!!」
というか、大声で愚痴っていた。
「なんで! あそこでついてくんの!!! もう馬鹿! くそばか! ふざけんなよおおおおおお!!!」
だってそうだろう。あそこでエースがこっち来なければ、こんなわけわからん賭けに出る必要なかったのだ。
ルフィくんのこととか考えちゃって振りほどけなかった僕も悪いが、全面的に悪いのはエース。そうでも思わないとやってられない。
「ビブルカード渡せたのだけはね! よかったけど! それにしたってさぁ!」
ビブルカードをエースに渡せたから、これでもう、『モビー・ジュニア』にはなにもない。
手紙もメモも海図も航海日誌も燃やしてしまった。書架は売り払い、エターナルポースはぜんぶ叩き割って海に捨てた。電伝虫も出発前に野生に返してしまったし、財産だって僅かな現金を残してシャッキーさんの店で借りていた部屋に置いてきた。
だから、この戦争に臨んだ時点で『モビー・ジュニア』にあったのは、食料など最低限の荷物とボンチャリ、そして医療器具だけだった。
がらがらになった『モビー・ジュニア』は、僕がはじめてこの船に足を踏み入れたときとはまったく違っていた。なんだかとてもからっぽで、びっくりするほどさびしかった。無性に泣きそうになったけれど、どうしても必要な措置だったから仕方がなかった。
もし、『モビー・ジュニア』が海兵に奪われてしまうような事態に陥ったとしても、万に一つだって『白ひげ海賊団』へ辿り着くことがないように。……結局あそこで『モビー・ジュニア』は壊れてしまったから、僕の判断は間違ってなかったといえる。
処分にあたり、いちばん困ったのはビブルカードだった。濡らそうが燃やそうが消失しない命の紙は保存に便利だが処分に難渋する。海兵の手に渡ったら最も困るものなので、迂闊なこともできないし、こうして信頼できる人間の手に渡すことができてよかったと思う。
だからって、よかった探しにも限度ってもんがある。
だって、僕だって、僕だってさぁ……。
「僕だって! ローと! コラソンと! ハートのみんなのところに! 帰りたかった!! 帰りたかったに決まってんじゃんかぁああ!!!」
掛け値なしの本音だ。
そのために頑張って、歯を食いしばって、ぎりぎり死なずにここまで来たのに。結局突っぱねなきゃいけなくなって。
「そんで二人に! いっぱい、謝って! これからは、ずっと、いっしょだって……!」
そう言って、抱きしめて、ローにぶつぶつ文句言われながら怪我治してもらって、お説教されながらコラソンとご飯食べて、たくさんおしゃべりしたかった。
けど、僕のせいでローたちまで轟沈したらと考えてしまったら、そんな弱音も本音も後回しにするしかなかった。
「話すことも、話したいことも、いっぱいあるんだよ……!」
あふれてくる悔しさを誤魔化すようにぎりっとくちびるを噛みしめたら血の味がした。
僕とローが再会して、一緒に過ごせた時間はまだほんの少しで、コラソンなんかもう分にも満たないぐらいで。
足りない。足りない。なんにも足りてない。だから早く帰りたい。そのために今頑張るしかない。そのためのひと踏ん張りだ。気合だ。
わかってるから、現状の不満を怒鳴り散らすことくらいはせめて、勘弁してほしいところだ。
「だから、はやく、かえりたいよぉおおおおお!!!」
肺の酸素が空になりそうなほど叫び、不意に第六感に響くものがあった。
反射的に身体ごと振り向いて──ぞっとした。
エグゾーストキャノンの効果は抜群だった。この速度では『青キジ』は追いつけない。どころか、これに追いつける船だっていない。
けど、『速度』に関してならば誰にも負けない、他の追随を絶対に許さないものがたったひとり、いる。
視界の端で閃くものが見えた。
自分の頬がひきつるのが分かる。『黄猿』だ。ほんとに釣れたよ。ひとり釣れたら御の字と思っていたが、いざ明確に狙われているとなればその緊張は段違いだ。
文字通り光の速さで追いかけて来ている『黄猿』を退けるには、どうすればいいのだろうか。かなりの距離があるが、そんなのすぐに詰められてしまう。なんせ相手は光速だ。
「はは」
変な笑いが漏れた。というか、笑うしかできない。全身から冷たい汗が噴き出して、呼吸が耳障りだ。
空間を固定して明後日の方に反射できないかと考えたけど、僕が認識して固定するまでのタイムラグで確実に死ぬ。
そこで天啓のように脳裏に閃いたのは、さっきのマルコさんとビスタさん。ビスタさんは刀身の反射を利用して光弾を弾いていた。
光と化している本人に、それができるだろうか。そもそも僕にそれを為せるだけの技倆があるかどうか。
──否、ちがう。
できなくたって、やるしかない
そうでなきゃ、僕は帰れない。
そのためなら、なんだって。
「できる」
自然と心が静かになる。肚が決まって、腰が据わる。
左手をハンドルに固定していてよかったと心底思う。
柄に触れて、握る。指先が馴染んでひとつになる。これまでずっとずっと、細胞の奥に染み込むように鍛錬してきた。一日だってサボッたことはない。それを信じる。僕は僕を信じて、いのちをかけて博打に出る。
一点賭けだ。
鯉口を切る。引き抜いて、神経を研ぎ澄ます。晒した刀身がぬめるような煌めきを放っている。
高速と光速。
勝負は瞬きの間につくだろう。
すべての音が遠ざかる。景色が止まっているようだ。
感じ取れるものがある。空気に混じり、空間に混じり、いっさんに駆けてくる存在がひとつだけ。怒りと焦燥。憎悪と敵意。殺意を含んだ正義を掲げる矛盾のひかり。
──それを。
ふと、頭の中がからになる。
──いま。
刹那にも満たない時間だった。
けれど見えた。光の線。
それがかざした刀身にぶつかって、折れ曲がって、明後日の方向に消えた。
光速で近づいてきたのだから、遠ざかるのだって光速だ。人に戻るのも間に合うまい。あくまで人の意思で姿を変えているのだから。
異様な軽さに視線をずらすと刀身が半ばからぽっきり折れていた。
「ごめんね、庚申丸」
気づけば、エグゾーストキャノンの効果もそろそろ切れようとしていた。徐々に速度が落ちている。
刀身に額を押し当て、万感の思いを込めてささやく。
「今まで、本当に──ありがとう」
みんなに合流して、落ち着いたら弔ってやらなければならない。ここまで一緒にきた相棒の喪失は悲しいが、お別れができるのは幸いかもしれない。
悲しむのも惜しむのもあとだ。ここでぐずぐずしてはいられない。
もう一度『黄猿』が追いついてくる前に、なんとか合流しなければ。海中は能力者にとって魔女の釜の底。『ポーラー・タング』号に拾ってもらえれば、勝機はある。それだけを今は考える。
鞘に庚申丸をおさめ、僕はハンドルを握り直した。
「もうちょっと走ったら、軍曹いっかい潜ってみてくれる?」
返事代わりに背中をタップされながら、方向を定めようと海面の様子を見つめる。
──このとき、僕は完全に油断していた。
最大の脅威をなんとかいなすことができたと安心していた。安堵してしまっていた。
だから、気付くのが遅れてしまった。
それが致命的な僕の──しくじりだった。
唐突に、突然に、上空から飛来した拳を模した溶岩の塊。
気付いた時にはもう、遅い。
迫ってくる。
ひどくゆっくりと、憤怒の拳が迫ってくる。
咄嗟に空間をいくつも『固定』したが、ろくな集中もできなかった空間の壁をそれはめきめきと破り抜きながら押し寄せて、僕ごとボンチャリを無慈悲に押し潰した。
「──」
海水が猛烈な勢いで蒸発する音がする。何かにひどく身体を引っ張られた。
視界が暗くなって、感覚が錯綜する。
捻れて、軋んだと思った。そしたらずんと重くなった。かぁっとお腹が熱くなって、引き千切れんばかりの激痛で声も出ない。喉がごぼりと音を立てて、海中なのかと遅れて悟った。
潰れたなと思った。骨どころか、肉がつぶれて、挽かれたかもしれない。麻痺したように身体が動かない。
ああ、どうしよう。また怒られる。心配もさせちゃうなぁ。はやく合流しなきゃいけないのに、なんでこう、うまくいかないんだろう。ままならなくっていやになる。
……せっかく、せっかくここまで来れたのになぁ。
やるせないなぁ。しんどいなぁ。
どうしよう。困った。困るよ。どうしよう。
これ、ローでも治せるかなぁ……?
×××××
『赤犬』が苛立ち紛れに撒き散らした火山弾は、本人も知らぬ間に『赤犬』がこの世で最も憎悪している少女を撃墜していた。
それは大海に逃げた小魚に石を当てるぐらいの馬鹿みたいな確率で、本当に偶然の産物で、そういう意味でミオは究極的に運が悪かった。
それまでの戦争においてやらかしてきた無茶無謀の数々で運を使い果たしたツケが回ってきた、といってもいいかもしれない。
嵐のような狂乱が過ぎ去った海はいちぶが騒がしく、いちぶは静かだった。
戦争の舞台となったマリンフォードの湾内、及びその周辺は戦後処理の軍艦や運悪く残っていた海賊船などで慌ただしく、まだ騒乱の気配が漂っている。
静かなのは、今回の戦争から逃れるために海兵たちが避難させていた住民たちの居住区の周りである。
海面には大小さまざまな木片や瓦礫の欠片、ときにちぎれた腕や誰かの靴、轟沈した海賊船のものらしき髑髏のついた旗などのガラクタが浮かび、無数の土砂と血肉を巻き込んだ海中はにぶい土色に濁ってすこぶる視界が悪い。海兵たちもまだ手が回らない箇所ということもあり、漂っているのはさめざめとした潮騒と船の屍体ばかり。
現実にまろびでた地獄のような光景の中に、ぽつんと、小さな白いものがあった。
かろうじて浮力の残る木片に、小柄な体躯が寝そべるように浮かんでいた。そして、それに寄り添うように──守るように、大柄な蜘蛛が木片を支えている。
ミオと軍曹だった。
うつ伏せのままぴくりとも動かないミオの意識は完全に喪失している。けれどまだ、ミオはかろうじて生を維持していた。それは軍曹の功績だった。
あの、『赤犬』の落とした火山弾が直撃する寸前、軍曹はとっさの判断でミオを海中へ引っ張り込んだのだ。おかげで二人とも即死だけは免れたが、代償は大きかった。
ボンチャリは全壊し、軍曹はその脚の半分を喪った。
ミオも文字通りの虫の息だ。胸から腹にかけての傷は肉が抉れて、おそらくは内蔵まで達している。軍曹が糸でできる限りの止血を施してはみたが、血液はじわじわと糸を超えて海中に染み出している。かすかに生きてはいるが、それだってなにかの気紛れか奇跡のようなものだ。
奇跡が尽きた瞬間、ミオは死ぬ。
軍曹も脚を喪ってしまったために思うように動けず、海流に流されるままにこんなところまできてしまった。『ハートの海賊団』捜索のために海底まで行きたいのは山々だが、この脚ではそれも難しい。
それに、ミオも能力者のせいなのか、軍曹が木片を支えていないとすぐに海に引きずり込まれそうになるのだ。これでは迂闊に動くことすらままならない。
今、ミオに必要なのはローだと誰より分かっているのに、それができない我が身が歯痒かった。
人間はとても脆いのだ。軍曹はそれを知っている。軍曹の脚はもげたところで時間が解決してくれるが、人間は、ミオは、そうはいかない。
ミオの呼吸は細い。糸のようだ。体温も低く、失血も多い。顔色は髪色と競うように白く、死蝋のようだ。これ以上水に漬けていたらミオの体力が底をつく。海兵に見つかっても殺される。誰も助けてくれない。助けてくれる人間との合流は絶望的だ。これでは、わざわざミオを苦しませる時間を長引かせているようなものだ。
八方塞がりだった。
それでも軍曹はなんとかしたかった。軍曹にとってのミオは、最初で最後のともだちで、かけがえのない相棒だった。
軍曹には仲間と呼べるものがいない。本来のフクラシグモは確かに海王類すら餌にする凶悪な蜘蛛だが、ここまで賢くなったりしない。軍曹は、フクラシグモの中でもとびきり異形の成長を遂げてしまった、極めつけの異端だった。
軍曹のナワバリにしていた海域は、ある時、周囲の島ごと空中に浮かび上がってしまった。
その時の軍曹はただのフクラシグモで、周囲の環境変化に思うところなどなく、本能の赴くままに獲物を狩って貪っていた。海を切り取られたため、ナワバリは激減したが雑食だから食事には困らなかった。島にはさまざまな動植物があふれ、気の向くままに果実を、花を、魚を、動物を食べて暮らしていた。
変化が訪れたのは、ある時期を境にやたらと襲いかかってくるようになった凶暴な獲物を返り討ちにして食べ続けていた頃からだ。
それは本当に突然の出来事だった。あまりにも唐突に視界が広がり、思考が芽生えた。みるみるそれは明瞭になり、獲物を食べるごとに増していくようだった。
その島の名は、『メルヴィユ』といった。
そこは、かつての『海賊王』と雌雄を決した『金獅子のシキ』が舞台に選んだ巨大な実験場。
シキ子飼いの研究者、Dr.インディゴの実験によって進化を促す薬剤を投与され凶暴化した動物たちを捕食し続けた軍曹は、その屍体から微量の薬剤を摂取し続けることになり──結果、その脳は異常なまでの進化を遂げてしまった。
蟲にあらざる思考回路、そして理性を会得してしまった軍曹は以前のフクラシグモとしての生活を送れなくなっていた。もはや自然とともに生きるには、軍曹は賢くなりすぎてしまったのだ。
あの島の異常性すら察せられるほどに進化を遂げてしまった軍曹の居場所は、もはや『メルヴィユ』には存在しなかった。たまに見かける妙な連中に気付かれて捕縛されたらと考えたら、空中庭園と化していた『メルヴィユ』からの脱出を試みるまで、そう時間はかからなかった。
そして飛び降りた途中で嵐に遭い、流された先で出会ったのがミオだった。
ミオは軍曹を恐れず、異様に賢しいことにも頓着しなかった。あちこち抜けていて、適当で、雑で、名前をくれて、相棒と呼んで、一緒にご飯を食べてくれた。
月日を過ごす内に、ミオの心の奥底にあるおぞましさや、いびつさに気付いた。『白ひげ』がミオを『魔女』と称したが、これほどぴったりな異名もないかもしれない。ミオの中身はいつだって穴だらけで、空っぽで、不均衡で、でこぼこだったから。
それでも人を愛し、誰かのために『人間』であろうと足掻く姿は滑稽で、醜く、そして尊かった。
人にあらざる魂を抱えたままひたすら『人間』たらんとするミオと、もはや蟲にあらざる魂と成り果ててしまった軍曹。
こんなにも広い世界で出逢った魂の同胞の存在に、軍曹は心から感謝した。
だから、軍曹はミオと生涯一緒にいようと誓った。誰でもない、己の心と魂に。
だから、こんなところでミオに死んで欲しくなかった。まだまだ一緒にいたかった。だけど、けれど、どうすればいいのかが分からない。ここにはミオの味方がいない。軍曹だけではミオの零れ落ちそうな命を掬い出せない。助けて欲しいと、誰に祈って、願って、請えばいいのか、神を知らない軍曹にはわからない。
それでも何かせずにはいられなくて、いてもたってもいられず、軍曹はミオを糸で木片に固定して、祈るような思いで一度だけ潜水した。
瓦礫をのけて、土砂をかきわけ、濁った表層を越えて、海の底、深海を目指して、ひたすらに下へ、下へと。
ミオの安否も気にかかるため捜索は数十分程度で、目立った戦果は得られず、暗澹たる気持ちで軍曹は木片に繋いだ糸を辿って海面を目指し──その糸が、瓦礫同士に押し潰されて千切れていることに気付いた。
「──!!」
例えようのない恐怖と不安で全身の産毛が逆立ち、全力で海面へ浮上した軍曹が見つけたのは先程までミオが倒れ込んでいた木片と、その木片にべったりと残る血溜まり。
その血溜まりには、いくつもの
×××××
『彼』がその存在を見つけることができたのは、まったくの偶然だった。
戦争の終焉を見届けることもなく、『上』の命令に従ってとある人物を血祭りにあげた帰り道。
これ以上の騒ぎに巻き込まれるのは御免だったから人気のない居住区の端から、空に浮かぶ雲に己の能力で糸をひっかけて移動を始めて──それに気付いた。
最初はただの土左衛門かと思い、素通りしようとして、けれど第六感に訴えるものがあった。
それが不思議で、不審で、改めて近づき、確認して、それが棺桶に片足どころか身体ごと半分ぐらい突っ込んでいる己の最愛の『家族』であることに、全身の産毛がそそけ立つような驚愕を覚えた。
それからのことは無我夢中で、彼自身あまり覚えていない。
止血に巻かれていた布のようなものを切断して、溢れ出す血液の隙間を縫うように己の能力を最大限に使用して患部へと潜り込ませた。
無数の糸が単細胞生物のように撚り集まり、繋がり、それはどんな腕のいい医師すら到底敵わない集中力を以て慎重に、繊細に、緻密に進められた。
血は水より濃いとはよくいったもので、彼と実の血縁関係にあるためか、患部との馴染みは抜群に良かった。彼はその場でできる限りの措置を施し、欠けた内蔵を織り上げ、肉を捩り、神経を紡いで皮膚を覆った。
そして、彼は最後に患部どころか小さな全身を繭のようにぐるぐる巻きにして硝子細工でも扱うような繊細な動作で胸元に抱え込み、全速力でその場を離れた。
行く先はとりあえず近海に停泊させている自船、ひいては彼の統治する国である。
約束通り『盛大なおもてなし』をしてやるから、どうか死んでくれるなと──ドフラミンゴは腕の中のミオを、もう一度抱きしめた。
……このとき、ドフラミンゴはふたつほどミスを犯していた。
ひとつは、本人は気付いていなかったが、彼の能力が半ば暴走していたこと。
胸が焼けて爛れて膿んでくじれてしまいそうな戦慄と焦燥と怒りと不安と憎悪と惑乱の只中、ドフラミンゴは文字通り、己の持ちうる能力のすべてをその小さな体躯に空いたおおきな穴へと注ぎ込んだ。
感情によって振り幅を左右される悪魔の実の能力は、まさしく悪魔の如き権能を発揮して欠けた臓器や筋繊維、皮膚や血管といった患部の隅々にまで浸潤し──その全てを見事に修復してしまった。
それは『赤犬』の攻撃で喪ったもののみならず、ミオが
そしてドフラミンゴの犯したもうひとつのミスは──突然激減したビブルカードに泡を食ってむりやり浮上した、とある海賊船のとあるクルーが、空を渡って自船へと降り立とうとする彼を双眼鏡越しに目撃していたことだった。
これにて『頂上戦争編』は完結となります。
えらく中途半端なのは仕様()なので、ご寛恕頂ければ幸いです。
皆様、ここまでのお付き合いありがとうございました!次回シリーズはまだネタを練っている段階なので、のんびりとお待ち頂ければ幸いです。