第二話 宇宙◼︎◼︎◼︎「ベ◼︎ス◼︎ー」
原作のヒカリは変身時叫ばないのに、ルクスくんが叫んでるのは仕様です。
小さな作業室にアラーム音が響き渡った。
「ひゃっほい午前の仕事は終わりだぜ!」
『この数日でなんとなくわかったがルクスはオンオフのスイッチが激しいんだな』
「デバイスマスターなんていう過労死まっしぐらな仕事オンオフ激しくないでやってられるかよ!」
『まあ私を構成する存在も忙しい職場の長として働いてたこともある。気持ちはわかる』
「だよなー、ストレスためらんねーぜ!」
『でも、今年で26になる男の反応としては些か逸脱しているように感じるぞ』
すん、とルクスが真顔になる。
『人間というのは年を経るごとに良識と落ち着きを得ていくものなのだろう? ならばルクスもそうあるべきだ。違うだろうか?』
「そうだなヒカリ……」
ルクス・アルマドラ、26歳。宇宙人に諭される。
ウルトラマンヒカリ。別名ハンターナイトツルギ。その正論はまさに剣の如し。
ルクスは昼休みだというのにやたらともにょもにょした気持ちでテレビを昼の情報番組にチャンネルを合わせた。
「────以上が先日の未確認生物襲来についての管理局の公式発表であり、今後同様の事態が引き起こる可能性については──」
ルクスがテレビのニュース番組を見ながら、冷蔵庫から取り出した安物のサンドイッチををかじった。
「管理局のお偉いさんがたも大変だよな、あんな怪獣が現れてさ」
『この世界にはディノゾールのような怪獣は全くいないのか?』
ルクスのつぶやきに心の中から声が聞こえた。今ルクスと一つの命と体を共有する超人、ウルトラマンヒカリだ。
「んー、全くいないって訳じゃないんだけどな。大抵そういう生物はリンカーコアを持っていて魔力を用いた魔法生物として…………あ、リンカーコアっていうのは──」
『君たちの世界の人間が胸の中に持っている魔力生成器官、という解釈で合ってるか?』
「そうそう。んで、この世界に生きる生物がディノゾールみたいになろうとしたら相当デッカいリンカーコアが必要な筈なんだけど……」
『ディノゾールにはそんなものは存在しなかった、と』
「うん。だから割と管理局もてんやわんやでな。もうホントにディノゾールに関しては訳わからんだろうからな」
ディノゾールが現れた日、管理局の魔導師はまるで対応ができなかった。しかし、それはディノゾールが強すぎたという点も存在するが、どちらかというと未知の存在への迅速な対応が出来なかったという理由の方が大きい。
なぜか引っかからなかったレーダー。リンカーコアのない謎の超巨大生物。魔力攻撃が効かない存在。それは流石の管理局もはじめて対応するものであった。
加えて言えば、管理局は巨大な組織である。具体的にいうならばミッドチルダの企業の多くにはなんらかの形で管理局が絡んでいるくらい大きい。そのためトップから現場までの指揮がうまく伝達しなかったのも原因であると言える。
「でも流石ヒカリだな。自分ざっくりと説明してないのに」
『私は『光の国』では科学者だったからな。そういう学術面の知識ならば他のウルトラマンよりもあるつもりだ』
「へー、じゃあヒカリも技術畑の人種なんだな。なんか親近感わくよ」
『ルクスは確かデバイスマスター、だったか?』
「そそ」
ルクスが胸元から大きな懐中時計を取り出す。それは使い込まれたもののような鈍い光を称えており、骨董品として売れば物好きが高値で買いそうなものに見えた。
そしてルクスはそれを躊躇うことなく空中へ放り投げた。
「set」
ルクスが小さく呼びかけると懐中時計は空中で淡い光に包まれ、キーボードとなってルクスの手の中に収まった。
その光景にヒカリが感心の声を上げた。少しだけルクスが誇らしげに話し始める。
「こいつがデバイスってやつ。ま、自分は戦闘なんかしないから完璧に演算のためのモンなんだけど」
ルクスが軽くキーボードを叩くとホログラムが周囲に浮き上がり、その半透明なスクリーンに様々な情報を映し出した。
「魔法を使う魔導師って職業の奴らは戦闘用のモンを持ってる。自分の仕事はそういうデバイスを作ったりメンテしたりする事になる」
『……優れた技術力だな。科学技術という点においては君たちの世界は私の見てきた中でもトップクラスだ』
「そ、そうなのか? なんか照れるな」
『隣り合う世界を旅する技術もだが、魔力というものを演算式で制御するという形態も非常に興味深い。それは私の宇宙には存在しないものだ。
「なあヒカリは時々『この世界』とか『私の宇宙』とか『マルチバース』とかいうけどそれってどういう事なんだ?」
『君たちの世界の考え方として、この世界は隣り合う世界が無限に存在する、というものがあるんだったな』
「うん。自分たちはそういうのを、一応『次元世界』って呼ぶことにしてる」
『簡単に言うと、その君たちの考え方は宇宙を並列的に考えたものに過ぎない。実際の宇宙はもっと広大に広がるものだ。ルクス、あそこに本棚があるのがわかるか?』
ルクスがヒカリの言葉に従って壁際の本棚に目をやる。この部屋が個人の仕事部屋になったとき運び込んだ五段の本棚にはデバイスに関しての論文や専門書がぎっしりと詰められている。
「ああ、わかるよ」
『ルクスたちの言う次元世界というのはあの本棚の横に並んでいる本。しかし、私の来た宇宙は同じ段の本ではなく、さらに上の段に置かれている本という事だ』
「つまり、並列に広がる次元世界とはまた違う、直列に広がっていく並行世界……。そこはあくまでも同じ歴史を歩むかもしれない別の宇宙が存在する……みたいな感じなのかね」
『素晴らしい。ルクス、君は私が思ったよりも何倍も優秀だ』
「ヒカリの教え方がいいんだよ。それに、こんなのただ勉強しただけだ。誰にでもできることさ」
ルクスが手の中のサンドイッチを一気に口に入れて咀嚼すると、少し自嘲気味に笑みを浮かべた。
「自分なんて大したことない男だよ」
そしてポケットからタバコを取り出し、火をつけて口の中でふかす。そして、ゆっくりと紫煙を吐き出した。
心を一体化しているヒカリは、そんなことを言うルクスがほんの一瞬なんだか泣きそうな気持ちを抱えたことに気づいた。
そして何か言うべきか少し悩んでから、言葉を選ぶようにして口を開く。
『私は、ルクスが大したことがないとは思わない』
「ヒカリ……?」
『私と同化した時、ディノゾールと戦う時、お前の心の中には確かに『人を救いたい』という思いがあった。それは、なかなか持てるものではない」
「ーーーー」
『少なくともオレはそう思う』
「……そう、かな。そうだといいよな」
ルクスが少し照れた顔を隠すように前髪をいじるふりをして顔を隠した。まあ一心同体のヒカリにはそんな意図も、ルクスの感情もなんとなく伝わってしまっているのだが。
それを指摘しない優しさをヒカリは持ち合わせていた。
テレビをぼんやりと見ながら、ルクスがサンドイッチの最後の一口を飲み込んだとき、小さな作業室にノックの音が響いた。
「ん? 誰だろ」
ルクスが首を傾げながらキーボードを操作して扉を開ける。
「久しぶり、ルクス」
さらりと揺れる金髪。端正な顔立ち。男の夢を体現したかのようなプロモーション。そして浮かべられた柔らかな笑み。
『フェイト・T・ハラオウン』。
ルクスの親友クロノの義理の妹で、ルクスにとっては幼い頃から知っている妹分のようなもの。今は管理局の『海』の所属で執務官をやっている超のつくエリート局員である。
ちなみに階級はとっくの昔に追い抜かれている。
「ま、久しぶりっつても先月ヴィヴィオたちと一緒に飯食ったばっかだけどな?」
「あー、そういえばそうだったかも」
くすくすとフェイトが楽しそうに笑った。が、しかしその表情に少しの陰りがあるのをルクスは見逃さない。
「……ちょっと疲れてるか?」
「あー、やっぱわかる?」
「ま、少しばかりな。最近忙しいのか?」
「この前の怪獣がらみで、ちょっと」
「座れよ」とルクスがフェイトに椅子を進めて、インスタントのコーヒーを入れ始める。戸棚からマグカップを二つ取り出しながら、電気ポットで水を温め始めた。
「砂糖は二つでよかったよな?」
「あ、うん二つで」
「あいよ。…………よし、できた。ほいお嬢さん」
「ふふ、どうも
受け取ったフェイトがマグカップを両手に握って、ふーふーと息を吹きかける。
その様子を見ながらルクスも自分のコーヒーに口をつける。不味くもなく、だが特筆してうまくもない一般的なコーヒーの味だった。
ふと、フェイトがこちらをじっと見つめているのに気がついた。
「何か言いたいことでもあるか?」
「え。あー、あ! ルクスってブラックで飲むけど、苦くないの」
「お子様にはわからない味なのさ」
「む、私だってもう今年で20になるんだけど。お酒も飲めるようになるんだけど」
「自分にとってはフェイトも、ナノハも等しく子供だよ」
「あ、痛」
そう言ってルクスがフェイトの額を軽く小突いた。
フェイトはさして痛くはなかったが反射で思わず痛いとこぼして、軽く頰を膨らましてルクスを睨んだ。
「そういうルクスこそ、いつまでたっても変わってないじゃない」
「バカ言え。日々オッサン臭くなってるよ、自分は。最近はちょっと走るだけで体がガタピシ言うんだぜ?」
「変わらないよ」
フェイトは幼い頃と比べると随分成長した顔で、けれども変わらない笑みを優しく浮かべる。
「ルクスは、昔からずっとそんな感じ」
「さよで」
やれやれ首を振ると、それを見てフェイトが楽しげに笑った。それにつられるように、ルクスも少し笑みをこぼした。
「あー、なんか落ち着くなぁ」
フェイトがほう、と安心したように息を吐き出す。
「ただのやっすいインスタントだぜ?」
「じゃあ、出してくれた人のおかげかな?」
「それだけで価値が上がるとは、随分安い女だな、フェイト」
「自分を訪ねてきた年頃の女性にインスタントコーヒーしか出せない安い男には釣り合いかもね?」
「ぐ…………」
「ふふん」
フェイトが得意げに胸を張った。黒の制服に押さえつけられているグラマラスな部分が豊かに揺れた。
釘付けになりそうになる視線をそらして、間を持たせるようにルクスがコーヒーをすすった。
そんな二人を、ヒカリはルクスの中から微笑ましく思いながら見守っていた。
『────次の特集は、怪獣と共に現れた謎の『青い巨人』についてです』
付けっ放しにしていたテレビからそんな音声が聞こえてきた。
ルクスのカップを持つ手が少し揺れた。
『管理局は公式発表ではこの青い巨人については正体不明としか言及しておらず、一部の専門家の間では、怪獣と同等存在であり、あの戦いは縄張り争いの一環だったのでは、との事です」
「……怪獣と、ね」
「ルクス?」
ぽつりとルクスが呟いた。
『果たしてこの青い巨人はいったい何なのでしょうか? この巨人もまたミッドチルダに仇なす存在なのでしょうか────』
ルクスが苛立たしげに頭をかいた。
あんまり、気分が良くなかった。
ディノゾールが出した被害は確かに小さなものではなかった。多くの建物の壊滅。多数の死傷者。管理局への責任問題。
どれもディノゾールさえ来なければ生じなかったものだ。
しかし、今の被害に抑えられたのは紛れもなくルクスと同化している『ウルトラマンヒカリ』という名の、青い巨人のおかげのはずだった。
(自分のせいかもな、建物壊しちゃったし)
あまりにも報われない。ルクスとヒカリは文字通り命をかけた。しかし、それを理解する人はいない。故に感謝もされないし、あまつさえ恐れられもする。
ミッドチルダの人々にとっては、未知の生物、という点ではディノゾールもウルトラマンも同じなのだから。
『ルクス、私は気にしていない』
(自分が気にするんだよ。ヒカリはあんなに頑張ってくれたのに)
『人々も未知が恐ろしいのだろう。人としては当然の反応だとも言える』
(でもヒカリ……)
『いいんだ、ルクス。私は人々を守れればそれでいい』
「ヒカリは、優しいなぁ」
思わずルクスが声に出して呟いた。
「ヒカリ……?」
フェイトが可愛らしく、首を傾けた。
ルクスが、心の中で「あ、やべ」とこぼした。
ヒカリは小さくため息をついた。
「ヒカリって、人の名前? ルクスの知り合いにそんな人いたっけ?」
「あ、あー、その、だな……」
「もしいたとしてもなんで突然その人のことを『優しい』って?」
「それは……」
「もしかして誰かと念話でもしてたの?」
「いや、別にそういう訳では……」
「ねえ、ルクスどういう意味?」
フェイトの執務官としての推理スキルが、無慈悲にルクスを追い詰めていく。これを意図せずやっているあたり少しエグい。
『ルクス』
(おわっびっくりした! ヒカリ今自分余裕ないんだけど?!)
『まあ聞け。君の助けになるかもしれない』
(一応聞くけど、どんな?)
『私たちの仲間に『ウルトラマンオーブ』というウルトラマンがいる。彼は『オーブリング』を使って二人のウルトラマンの力を融合させることで戦う戦士だ』
(うん、それで?)
『なんでも、彼はある少女に名指しで『ウルトラマンオーブ!』と言われたことがあったらしい。そして彼は答えた』
(ふむふむ)
『『すごいな、そこまでお見通しか』、と』
(いや何開き直ってるんだよ?!)
『因みに子供たちへの言い訳の言葉は『ぼく、ラムネのお兄さんだよ』だったらしいな』
(雑! 誤魔化し方がすごい雑!)
銀河の風来坊。知らぬところで風評被害。
(つまりヒカリは自分に何言いたいんだ?)
『いや、開き直るのも一つの手かもしれない、と』
(なるべく正体隠せって言ったのヒカリだろ!)
ヒカリとしては、正体がバレても戦い続けたウルトラマンを知っているので、なるべくと付けていたのだが、どうやらルクスには伝わらなかったようだ。
ルクスは、ルクス視点で全く役に立たなかったヒカリのアドバイスを聞き流し、フェイトへと再び向き直る。
「なあフェイト! 昼飯食べたか?」
「まだだけど……」
「な、なら一緒にラーメンでも食いに行こうぜ。オレ、いい店しってんだよ」
「え、でも昼休憩そんなに長くないし遠くは無理だよ」
「ここの近くだし問題なし! よーし、そうと決まれば早速行こう! すぐ行こう! 早急かつ迅速に!」
よっしゃいこーう!とルクスがアホのようにテンションを上げて作業室から出て行こうとする。
そんなルクスを見てフェイトは呆れたように笑って、その後に続いた。
よし、なんとか乗り切った、とルクスがガッツポーズ。
ヒカリは『言い逃れの苦しさならオーブといい勝負だな』と思った。
フェイトは、まあ大したことではなかったのかも、と結論づけた。
二人が昼食をとるために(ルクスは二度目)、局の廊下を歩いていると、ルクスは突然額の奥あたりに少しばかりの不快感を感じた。
思わず顔をしかめてしまう。
(なんだ、今の……)
何かヒカリなら知っているだろうか、と心の奥底にいるヒカリに話しかけようとするのを、突然の警報が差し止めた。
『
フェイトとルクスの表情が一瞬で険しいものへと変わる。
「フェイト、悪いがラーメンは……」
「うん。また今度、だね」
そしてフェイトとルクスが分かれて走り出す。フェイトは執務官としての持ち場に、ルクスは非戦闘員のため、避難所へ行くことが定められている。
フェイトは迷いなく自分への持ち場へと向かい、ルクスもまた迷いなく
「ヒカリ、さっきのはもしかして」
『ああ、怪獣の気配だ。何となくでも感じ取れているのならば上出来だ』
ルクスが怪獣が降りてくると思しき場所へと近づくため、万が一にも知り合いと合わないような裏路地を走り続ける。
『ルクス、空を見ろ』
「……あれは、鳥?」
ヒカリに言われ空を見ると、五角形のシルエットがゆっくりと地上へと降りて来ようとしていた。
『……ルクス、奴は手強いぞ』
「見た感じなんかそこまで強そうには見えないけど……」
「油断するな。奴は
「倒した……?」
五角形のシルエットが、ゆっくりとミッドチルダの首都、クラナガンの年に降り立った。
その瞳は、くりりと丸い。翼と一体化した腕は先端に鉤爪が付いており、腹部には遠目からは小さな口のようなものが確認できた。
その名は、
かつてウルトラ兄弟の一人、『ウルトラマンジャック』に勝ったことのある怪獣である。
「どんなに強くても、自分は負けられない。自分は、ウルトラマンなんだから」
ルクスが小さく息を吐いた。そしていつものように頭をかこうとして、手が小刻みに震えているのに気がつく。
何が何だかわからなかった初戦と違って、明らかに緊張していた。
『ルクス、緊張するのはわかる。だが、お前は一人ではない。今は、私とルクスでウルトラマンだ』
「……そう、だな。ありがとヒカリ」
未だ小刻みに震える手を強く握りしめた。
緊張は、未だにある。けど、戦える。
「行こうヒカリ!」
『ああ、行くぞルクス!』
ルクスが右手を胸の前にかざすと青白い光とともに、青と金の『ナイトブレス』が現れる。
そしてルクスはナイトブレスとともに現れた金色の短剣型アイテム、『ナイトブレード』を、ナイトブレスに差し込んだ。
青白いスパークがルクスの体を包む。
「 『 ヒカリーーーーー! 』 」
そして、ウルトラマンは現れた。
光の柱が屹立し、街中のベムスターの前に、青い巨人──ウルトラマンヒカリが立ちふさがった。
夜の海を固めたかのような、深く落ち着いた色合いの青。冷静と、勇気の青。
そんな青色に体を染めた巨人をクラナガン市民や、管理局の武装隊の面々はただ呆気にとられたように見上げた。
「また、あの巨人……」
武装隊の一人が、ぽつりと呟いた。
「今度も助けに来てくれたのか?」
ニュースを見た市民の一人が疑問を口にした。
「がんばってくださーい!」
そして、以前青い巨人に助けられたと思っている少女は、大きな声で応援の声を上げた。
その、それぞれの視線と、思いを受けて巨人は静かにベムスターと相対した。
『お前の好きにはさせない』
ヒカリ/ルクスは、後方に控えた管理局の武装隊に対して、手のジェスチャーで「前に出るな」と伝える。
それは管理局の魔導師に被害を出さないためでもあったし、自分の戦闘に巻き込まないためでもあった。
『よし、行くぞ!』
ルクスは己を叱咤するように叫ぶと、ベムスターへ向けて右拳を振りかぶって走り出した。
『はああ!』
構えも何もない大ぶりのパンチはディノゾールへと当たったような奇跡は見せることはなく、ひらりとベムスターにかわされた。
返す刀でヒカリは蹴りを叩き込もうとするが、それもまたベムスターは大きく後ろにバックステップをしてかわしてしまう。
『ルクス、攻撃が大ぶりすぎる。もっとコンパクトに連打を叩き込め』
『んなこと言ったって……!』
『慣れない蹴りはするな。手刀をメインウェポンにするんだ、きっとその戦闘スタイルが私たちには一番だ』
ルクス/ヒカリの構えが、不恰好なファイティングポーズからヒカリの指示に従ったものへと変わる。
腰を少し落とし、左手を前に右手を後ろにした、手刀の構え。
その構えがすとんと自分の中に収まって行く感覚をルクスが感じた。
ベムスターが鳥のような声を上げると、頭部にある角のような部分が発光を始める。
『ルクス遠距離攻撃が来るぞ!』
『わかった!』
ベムスターの頭部から光線が発射される。亜音速の速度で飛んで来たそれを、ヒカリは両手でガードを固めて全て受けきる。
そして全てを受け終えると、ヒカリがベムスターへと向けて大きく踏み込んだ。
『食らえ!』
突き抜けるような鋭い手刀がベムスターに振るわれ、その巨体の脇腹を強く打った。ベムスターが悲鳴のような鳴き声をあげた。
『よし、これなら!』
ヒカリは苦しんでいるベムスターから離れると、左手を右手のナイトブレスへとかざした。青白い光が、ヒカリの手の中でスパークする。
『──! まてルクス! ベムスターに光線技は……!』
ヒカリ/ルクスが空に手をかざし、弾けそうになる光を無理やり制御して十字を組んだ。右手の光と、左手の光が結びついて、ただの光の粒子が一つの線となり紡がれて行く。
「 ナイトシュートッ! 」
青白い光線がベムスターへと向かって行く。その光線は未だやや収束は甘く、ヒカリが撃つものよりはやや太めだが、それでも威力は充分にあった。
それは間違いなくディノゾールを屠った一撃であり、遠い宇宙で数多の怪獣たちに引導を渡してきた、光の一撃。
正に必殺の光線。
そんな光線をベムスターは、
『は?!』
ベムスターは、腹部の『吸引アトラクタースパウト』と呼ばれる口を開くと、ナイトシュートを残らず取り込んでしまう。
ルクスが目を丸くした。
『ひ、ヒカリ! あいつ光線食べちゃったぞ?!』
『だから止めようとしたのだが……』
ルクスがヒカリが小さくため息をついたのを感じた。
『ベムスターは『吸引アトラクタースパウト』という口を持っている。これは、力場形成器官で空間を捻じ曲げて何でも体内に取り込むという機能を持つ。
そして、それは
『そ、それってつまり……』
『ああ理解が早くて助かる。ベムスターに
正確には、『今の』ルクスの光線では通用しない、になる。
もともと収束して光線を打つという技能が低いルクスではヒカリの中の
本来はナイトブレスなしでもベムスターが吸収しきれないほどの光線を放つポテンシャルを持つヒカリの体で、ナイトブレスありの光線を使ってもベムスターを倒せない程に。
ベムスターが光線を食らって気を良くしたのか、再び鳥のような鳴き声をあげて、その羽を羽ばたかせた。
ぶわり、と一回の羽ばたきで自動車が吹き飛ぶほどの風が巻き起こった。そしてベムスターの全長50メートル近い体が宙へと浮き上がった。
そしてそのままベムスターがヒカリの方へと体当たりを仕掛けてくる。
『くっ』
ヒカリが慌てたように側転して、ベムスターの体当たりを避けるが、そこを狙い撃つように飛んできた頭部からの光線に背中を撃たれてしまう。
巨体が衝撃に耐えきれずうつ伏せに地面に倒れ込み、アスファルトに舗装された道路が砕けた。
ルクスが悔しげに歯を噛み締める。
ベムスターは空で楽しげに笑うように鳴き声をあげると、再び地面にゆっくりと降り立った。
苛立ったように立ち上がろうとしたルクスが、何となく背後を見て息を呑んだ。
『ヒカリ、何か近接格闘の技とかないか?』
『ない訳ではない、というよりも私の主武装とも言える武器がある事はある。あるにはあるが何故だ?』
『ベムスターの攻撃をここで止めたい』
『? 避ければいいんじゃないのか?』
『駄目だよ、ヒカリ。避けられない。他の場所では避けれても、ここで避けちゃ駄目だ』
何故だ、と再び尋ねようとしたヒカリが、先ほどルクスが見た景色を思い返して、ルクスと同じ答えにたどり着いた。
『私たちの背後には、避難所があるのか』
『うん。ベムスターの体当たりがどこまで飛んで行くかわかんない以上、ここで俺たちは受け止めなきゃいけない』
『…………しかし、君がそれを使いこなせるかはわからない』
『いやそれでいい。自分は少しでも確率のある方にかける』
『……わかった。私のいう通りに操作するんだ』
ルクスがヒカリの声に従って右手のナイトブレスに手をかざすと、ナイトブレスから青白い光が上腕部と同じほどの長さまで伸びていった。
『これは、剣?』
『ナイトビームブレード。伝説のウルトラマン、ウルトラマンキングから与えられたナイトブレスに宿る、
『剣、か』
『使ったことはあるかルクス?』
『使ったことはなくはない、程度かな』
『心得がないより幾分マシだ。さあ、来るぞ!』
ベムスターがヒカリの方へと羽ばたきとともに突進を仕掛けて来る、それに向かい合いながらヒカリは左手を右手へと添えて剣を支えた。
右手一本で剣を構えたことのない人間がする、ひどく不恰好な構え方だった。
ルクスは両手で握ったナイトブレードを大上段に構えるとベムスターの脳天めがけて振り下ろす。
しかし、ベムスターは直前で頭部の角からビームを連続発射し、ナイトブレードの軌道をわずかに逸らした。
それた刃が、ベムスターの右の翼にかろうじてかすって、浅く細長い傷をつけた。
そのせいでベムスターがバランスを崩し、空中から落下し、ヒカリの体へとぶち当たった。
46メートル、6万1000トンの巨体が、ヒカリの腹部を押しつぶす。体重に耐えきれなかった体が腹の方から道路へと沈み、地中を走っていた水道管を盛大に押しつぶした。
集中が切れたことにより、右手のナイトブレードが霧散する。
巨人と一体化したルクスの視界の端に、泥混じりの噴水が吹き出したのが見えた。
『く、そ……!』
ルクスは舌打ちとともに、ベムスターの体を両手で掴み投げ飛ばそうとするが、それよりも早くベムスターがヒカリの体に馬乗りになる。
何をする気だ、というルクス中に疑問が浮かんで来るが、その答えは他でもないベムスターによって示された。
ベムスターの腹部が、大きく口を開けた。
すると、辺りの力場が歪み始め、辺りの砕けたコンクリートや、噴水となった水がベムスターの腹部へと吸い込まれていく。
ヒカリとルクスの背中にぞくりと冷たいものが走った。
『これは、ブラックホールとかの技術の応用なのか? ミッドではまだ少なくとも実用化してない技術なのは間違いないが……』
がくん、と巨人の体が、ベムスターへと引っ張られ始める。
『コイツ、このままオレたちを食うつもりか──!』
ベムスターが台詞をつけるならば『何悪あがきしてんだよ』とでも言うように、鳴き声をあげ、力場作用の出力を引き上げる。
先ほどよりも強く、ヒカリの体がベムスターの腹部へと引き込まれ始める。
『ルクス何とかして逃げるんだ! 一度ベムスターに捕食されれば逃げ出すのはほぼ不可能だ!』
『んなこと、今も全力で……!』
ウルトラマンの身体構造はとてもよく似ている。故に、人間が馬乗りの相手に対する対処法が基本的に拳でのものに限られているように、ウルトラマンもまた馬乗りの相手には拳で対応するしかない。
しかし、現在その腕はベムスターに吸い込まれようてしているため、ほとんど使えていない。
ここに意図しないベムスターの攻撃が対ウルトラマン戦術としてハマってしまう。
ルクスは比較的動かせる足で何とかベムスターを攻撃しようとするが、なかなか痛打が与えられない。
『これ、本格的に、ヤバイ……!』
ヒカリは必死にベムスターに吸い込まれないように争っていたが、ついに右手があと少しで吸い込まれる距離まで近づいてしまう。
絶体絶命の状況を感じ取った、ルクスが心の中で静かに覚悟を決め、そのルクスの覚悟のほどをヒカリが感じ取った。
『ごめん、少し無茶する』
ナイトブレスのある右手が、強く握りしめられた。
『そんなに食いたいなら、食いやがれッ!』
そして、勢いよくベムスターの腹部へと手が突っ込まれた。瞬間、ヒカリの腕に熱く燃える溶けた鉄の中に腕を突っ込んだ時の熱さを何倍にもしたかの様な感覚が襲って来る。
ルクスが、苦悶の声を上げる。
『ぐ、ぐうううううう』
そして、今度は左手もベムスターの腹部へと突っ込んだ。今までと比べると比べ物にならないほどの力が作用して、ヒカリの体を吸い込もうとする。
それよりも早く、ルクスはベムスターの腹部内の、左手を右手のナイトブレスへと添えた。
そこで、ルクスが痛みをこらえながら不敵に笑みを浮かべる。
『伸びろ、ナイトブレードッ!』
左手が右手のナイトブレスを操作して、ベムスターの腹部を突き破る長さまでナイトブレードを延長した。
瞬時に通常の長さの数倍まで伸びた刃がベムスターの腹部を貫通して、ベムスターを百舌鳥の早贄のごとく空へと吊り上げる。
『どんな、もんだ……』
ベムスターが苦しみの声を上げて、ナイトブレードから抜け出すと遠くの空へと飛び去っていく。
ヒカリはいつのまにかカラータイマーの点滅した体でふらふらと立ち上がり、ベムスターを追いかけようとしたが、ダメージが大きかったのかそのまま解けるように消えた。
ベムスター一戦目。
互いに手痛いダメージを負った上の、限りなく負けと言い切ってもいいドローと相成った。
「な、何とか追い払えたな……」
遠くの空に魔導師が飛んでいくのを見送りながら、ルクスは避難所へと走る。非戦闘員であるルクスが避難所にいないのは明らかにおかしい、なので今は「え? 最初からいましたけど何か?」と言った顔をするために避難所に急がなければならない。
戦闘直後の痛む身体に軽く回復魔法をかけて、何とか我慢すれば動ける程度まで治してしまう。
やたらと体を庇った走り方で、金髪の青年が右手の痛みを抑えながら避難所へと走り始める。
『ルクス』
「おわっ! だから突然話しかけないでと……」
『それは謝る』
ルクスは半ばこのヒカリの癖治らねえだろうな、と思っていた。
「なあヒカリ、ベムスターってさ」
『傷は浅い。一日以内にまた襲ってくるだろうな』
「だよねー」
『今回のベムスター戦どう思っている』
「どう、って……」
ルクスが先ほどの戦いを思い起こす。
「光線技が効かないっていうのは、結構キツイ、かな」
『そうだ。ベムスターに光線は効かない。ならば対策は自然と決まってくる』
「挌闘技、特にナイトブレードの扱い、になるのか?」
『そうだ』
ルクスの返答にヒカリが満足そうに頷いた。といっても心の中のことなので実際はわからないので雰囲気だけを感じとっただけなのだが。
「でも、剣ねぇ。あいにく自分に唐突にそんなこと言って教えてくれるようなお人好しの知り合いは一人も……」
言いかけて、ルクスの頭に一人の顔がよぎった。
「…………いたな、一人だけ。底抜けの、お人好し」
「すまん何も聞かずに自分に剣の扱い方を教えてくれ」
「え? あの、ルクス?」
「頼む」
時間は帰宅時。多くの管理局員が愛する家族が帰ろうとする時間に、ルクスはフェイトの執務官室の前で土下座をかましていた。
「あのルクス顔あげてよ」
「頼むフェイト一回でいいんだ! 一回やってくれたら満足するから!」
近くを通っていた男性局員がギョッとした顔でフェイトとルクスを何度も見た。
「ちょ、微妙に単語伏せて喋るのやめて!」
「頼む一回でいいから! ほんのちょっとだけでもいいんだよ!」
帰ります、と報告に来ようとしていたフェイトの補佐二人が気まずい顔をして静かに廊下の端に隠れた。
「い、いいから一回執務室に入ってよ」
「頼む一回だけの付き合いで──」
「早く入ってって言ってるでしょ!」
フェイトが半ばキレたようにルクスを執務室に叩き込むと鍵を閉めて、防音魔法を施した。
フェイトが少し赤くなった顔を咳でごまかす。
「それで、私に剣の稽古をつけて欲しいの?」
「ああ」
「期間は?」
「とりあえず半日で人並みに戦えるとこまで」
「何のために?」
「言えない」
「どうしても?」
「どうしても」
「私が、理由を言わなきゃ稽古をつけないって言っても」
「……ああ」
フェイトがその形のいい眉を少し歪めた。
「私がよくそれで頷くと思ったね」
「そこを何とか」
頼む、と頭を下げてくる付き合いの長い兄貴分にの姿に、フェイトはため息をついて、呆れたように笑った。
「……もう仕方ないなぁ」
ふわりと、端麗な顔を優しい笑みが彩った。
「今から近くの訓練場の予約してみるけど、まあたぶん大丈夫だと思うよ。あ、料金はルクス持ちでいい?」
「え、いいのか?」
なんで、という声が溢れでた。するとフェイトは一瞬その緋色の瞳をまん丸にした後、悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「ルクスと私の付き合いだよ? このくらい今更でしょ、怒るよ?」
やれやれとでも言いたげに肩をすくめたフェイト。しかしその態度はどこか楽しそうで、あまり怒っているようには見えなかった。
本当にフェイトは何も聞かず、そのままのルクスを受け入れた。半ば無理やりのお願いであったのに、今まで築いてきた信頼を理由に。
その事にかなりの有難さと、ほんの少しの罪悪感が胸を占拠した。
「悪いな、フェイト」
だから、ルクスは思わずフェイトに謝罪の言葉を漏らしてしまっていた。
本当に申し訳なく思うのなら、ルクスは事情を話すべきだ。しかしそんな事はできない、故にこの謝罪は只の自己満足で、エゴに過ぎない。
俯いた背中を軽く叩かれる感覚がした。
「何か、話せない理由があるんでしょ?」
「……ああ」
「いつかは話せそうな内容?」
「わかんねえけど、話したいとは、思うよ」
「なら今はそれでいいや」
ルクスが顔をあげると、目の前のフェイトは腕を後ろで組むとそのまま踊るように一回転。彼女の生まれつきの眩しい光の様な金髪が動きに合わせて動いて、辺りにシャンプーの匂いを漂わせる。
フェイトが手を後ろで組んだまま、ルクスを上目遣いで見つめた。
「話せる時が来るまで、待ってるよ」
そしてそのまま執務官室を出て行った。大方訓練場の予約でもしに行ったのだろう、と予想を立てる。
『ルクス』
「……ん?」
『ルクスは、良い友を持っているな』
「自分には勿体無いくらいだ」
『友とは勝手にできるものではない。見合う結果、言動によって自然となるものだ。
彼女、フェイトが良い友であるという事は、それに見合うだけの何かが、ルクスの中にあるという事だ』
「自分なんざ大した事はないさ」
『……ルクスのその自分を卑下しすぎる性格は、あまり好ましくないとオレは思う』
「気をつけるよ」
ルクスが頭をかいて大きく伸びをした。
「んー、負けれない理由が増えましたなぁ」
『その為にも、フェイトとの特訓に励もう』
「おうさ、フェイトのためにも、ミッドのためにも、ベムスターに勝つんだ」
よし、とルクスが気合いを入れる。
『…………なあ、ルクス』
「ん? どうしたヒカリ?」
『ルクスとフェイトは、所謂恋仲なのか?』
「は? 自分と、フェイトが? ないないないない」
『そうなのか?』
「ありゃ妹分みたいなもんだから。恋愛云々はねーわ」
『しかしフェイトの態度はどう見ても……いやルクスがそう言うならばそうなのだろう』
ヒカリは密かに友とよく似た色の瞳をした少女を応援しようと思った。
翌日、ルクスはフェイトとの訓練を終えるとそのまま家に帰って爆睡。ヒカリに手伝ってもらいながら仕事を速攻で終わらせて、ベムスターを待ち構えていた。
『ルクス、おさらいだが』
「戦える時間は三分。まだ使いこなせないだろう飛行はしない。ビームは厳禁。なるべく格闘戦、だろ? わかってるよ」
『ああ、それでいい』
ルクスは先日ベムスターが首都クラナガンを一望できる、少し離れた場所で空を睨む。
「…………来る」
ぴり、と額の奥を指す様な感覚とともに、地平線の向こうから黒い影が迫って来るのが見えた。
「行こう、ヒカリ」
『行くぞ、ルクス』
ルクスが胸の前に腕をかざすと青と金に彩られた『ナイトブレス』が現れる。
そして、ナイトブレスに、ナイトブレードを、差し込んだ。
青白いスパークが、体を包む。
「 『 ヒカリーーーーーー! 』 」
青い巨人と、黒い怪獣が相対する。
ベムスターはヒカリの姿を見ると、狂ったように鳴き叫んだ。
『前回の様な引き分けにはしない』
ルクスが右手のナイトブレスからナイトビームブレードを出して、構えをとった。
腰を少しおろし、左手を前に右手を後ろに。フェイトの指導と、ヒカリのアドバイスによって定まったルクスのナイトブレードを振るうための構え。
『お前はここで終わらせるッ!』
ヒカリが勢いよく走り出した。それに対してベムスターは頭部のツノから数発の光弾を出す事で、その歩みを止めようとする。
ルクスの頭に、フェイトの言葉が蘇る。
──剣に慣れてない人は結構ガードしたり、魔力弾とかを弾こうとしちゃうんだけど、それって悪手なんだよね。
──弾丸って早いし、小さい。そんなの素人じゃ弾けるわけないんだ。ガードしても結構痺れたりする。
──だからするなら回避だよ。大げさでもいいからまず回避。
ルクスがブレードを出したまま横にとんで光弾を回避する。
ベムスターがうまく攻撃が決まらなかったことに苛立った様に、そのまま光線を何度も放つがヒカリはその全てを慎重すぎるくらいに回避して行く。
そうした攻防が何度も、何度も繰り返される。ルクスはその度に、丁寧に丁寧に回避を続けていく。
ベムスターが痺れを切らした様に、翼をはためかせた。ぶわり、と台風でもなかなかお目にかかれない様な強風が辺りに巻き起こる。
そしてそのまま宙に浮き上がると、何時ぞやの時の様に体当たりを食らわせようと迫って来る。
ルクスの頭に、フェイトの言葉が蘇る。
──一撃必殺は狙わない方がいいと思う。慣れてない武器ならなおさら。
──敵が嫌がるのってなんだと思う? そうそうちっちゃいダメージの積み重ね。
──コンパクトに積み重ねられるダメージってめんどくさいし、案外防ぎにくい。
──だから狙うなら足とか手とか、機動力を削ぐっていうのも結構大事かも。
ルクスが迫って来るベムスターの攻撃を限界まで引きつけて、サイドステップ。そして、ブレードを一閃し、右の翼を中ほどまで切り裂いた。
『ーーーーー!』
ベムスターが苦悶の声を上げ、そのまま地面に落下する。そのチャンスを見逃さずに、ヒカリがベムスターの翼を掴んで、クラナガンの郊外、海の方へと全力で投げ飛ばした。
『お、らぁっ!』
ベムスターの巨体が宙を舞い、海へと叩きつけられた。
ヒカリはそれを追って徒歩で海へと向かい、足を踏み入れる。どうやら、推進はヒカリの足首ほどの様だった。
ルクスが倒れふすベムスターと己の距離を測り、これから走っても追撃は喰らわせれないと判断して、息を整えることに専念する。
小さく、息を吐く。
『よしよし、このまでいい感じだ。フェイト様様だぜ』
(ああ、本当に、驚きだよ)
ヒカリが声にはせずに、心の中で呟いた。
(まさか、
正直、予想外だ)
ルクスに戦法を教えたフェイトは、管理局の魔導師、つまり使う戦闘技術は管理局仕込みの、対魔導師の技術である。
対魔導師の技術、言い換えれば、
それは、驚くほど
故に、現在のフェイトからの教えは、ルクスにとって最良のものとなっていた。
ベムスターがよろよろと立ち上がると、再び羽ばたこうとして、右翼の切れ目のせいで空を飛べないのに気がつく。
ベムスターがふるふると体を震わせて、嚇怒をこめるように絶叫する。
怒れるベムスターの腹部が大きく口を開けて、辺りの海水ごとヒカリを吸引しようとする。海水が渦を巻き、次々にベムスターの腹部へと吸い込まれていく。
『あいつ、この距離で何を……』
がくん、とヒカリの足元が崩れて、体制が大きくブレた。
『な、コイツまさか海水ごと、海面ごと全部自分たちを吸い込むつもりか?』
『大量に吸い込めばオーバーロードは見えているだろうに、それ程までにオレたちが憎いか』
ルクスの頭に、フェイトの言葉が蘇る。
──危ないのは敵を追い詰めた時。
──そういう敵は何をしてくるかわからないから絶対に油断しちゃダメ。
──むしろ、そうなってからが本番、くらいの気持ちで望むべき。
(フェイトの言ってた通りだな……!)
ルクスが心の中で笑みを浮かべる。
全力でベムスターの吸引に抗いながら、左手を右手のナイトブレスへとかざす。すると、ブレードを出したままの右手が、ナイトシュートを放った時のような、青白いスパークに包まれた。
『悪いが、オレはもうお前には付き合ってやんねーよ』
青白い光が右腕の一点に集まり、次第にブレードを満たすように広がっていく。
光の刃が、眩しく輝き始める。
『 「 ナイトブレードアタックッ! 」 』
一閃。
銀色の刃が虚空で振るわれ、空気を裂くようにしてベムスターを真っ二つに切り裂いた。
ウルトラマンの王、ウルトラマンキングによって与えられたナイトブレスから放たれた斬撃は、空気も、ベムスターの腹部の力場作用による吸引力も、ベムスターの体をも、纏めて切り裂いた。
ベムスターの体がゆっくりと倒れて、海中に沈み、大爆発を起こした。
弾けた海水が空へ浮かび、即席の虹を作り出す。
そして、ウルトラマンヒカリは、その虹を背後にクラナガンを見つめると、空の彼方へと去っていった。
ずぞぞ、と騒がしい店内の無数の音に、麺をすする音が重なった。
「あー、美味いなぁこの店。いやー美味い」
「ーーー」
「幸せだわー、本当に幸せだわー。すんませーん替え玉一つ」
「ーーー」
あいよー、という店員の元気のいい声を聞きながらルクスはひたすらにラーメンをすすっていく。
『ルクス』
(おわっ、なんだよヒカリびっくりするじゃん)
『目の前の、そのままでいいのか』
ルクスは麺をすすりながら、対面に座る金髪の女性に目を向けた。その表情は怒りと呆れと喜びがないまぜになったような表情を浮かべており、ルクスには何故そうなったのかを伺い知ることはできない。
フェイトとしては、お礼をするというからきてみれば、連れていかれた先はラーメン屋。フェイトの乙女な部分は死んだが、そのラーメンがやたらとうまくてなんとも言えないという状況である。
(……とんこつラーメンってダメだったか)
根本的なところが違うと思うがヒカリは何も言わなかった。
ちなみにヒカリの地球人『セリザワ・カズヤ』の部分としては、「お前アホ。超弩級のデリカシー無し(意訳)」と言っていた。
「あー、フェイト? 美味しくない?」
恐る恐る尋ねると、フェイトはぎん、と目の前の唐変木に睨みを利かせて、絞り出すように言葉を発した。
「とっっっっても! 美味しい! です! ルクスのバカ!」
「えぇ……、美味しいならいいじゃん」
ぷいっとそっぽを向いたフェイトに、ルクスが困ったように頭をかいた。
そんな二人を、ヒカリは困ったように、かつ興味深く、慈しみの目で見守っていた。
第二話 宇宙大怪獣「ベムスター」
ウルトラマンジャック
第18話「ウルトラセブン参上!」
第37話「ウルトラマン夕陽に死す」
ウルトラマンメビウス
第18話「ウルトラマンの重圧」
ウルトラマンX
第4話「オール・フォー・ワン」
などなど多くに登場した怪獣。(劇場版は割愛)
頭からビーム出したり、噛み付いたり、手には鉤爪があったりするがその恐ろしさは腹部の口『吸引アトラクタースパウト』にある。その口は光線を問答無用で食い、力場を歪ませることによって自分よりも巨大なものでさえ食ってしまう。
ウルトラマンXでは、エックスを食べてしまったほどである。
対策としては斬撃を叩き込んだり、腹のなかに溶岩熱戦を打ち込んで消化不全を起こさせること。
ヒカリサーガ二話においてヒカリと戦い宇宙警備隊に入隊するきっかけとなった怪獣。
個人的にはメビウス・ブレイブに剣の技が多くなったのはナイトブレス依存なんだろうなあとか思ってたり。