どうかボクを許さないで
いつかボクもキミのもとへ行くから
エピソード8 羽ばたいた新天地
「うっ負けたぁぁ」
「へっへっへっへまたまた勝っちまったぜぇ」
「次は私がデュエルしてもいいかなっ?」
あのデュエルギャング?とのデュエルをしてから何日か穏やかな日々が過ぎていった。
あれから健斗と葵と会うこともなく、中学校も無事卒業できた。
今は陽介や明莉と机の上で行うデュエルを堪能しており、煌遊が連敗記録を伸ばしている所だった。
デュエルを終えると、机の上に広げられたカードを片付けてデッキをシャッフルして再度机に置くと明莉が煌遊にデュエルを挑むのであった。
断る理由がない煌遊は、二つ返事で了承すると再度自分のデッキをシャッフルして明莉の準備を待つのだ。
明莉の準備が整いデッキを机に置いてからデュエルは始まった。
「じゃあよろしくねデュエル」
「うん。こっちも全力でいくよデュエル」
控えめな明莉のデュエルという可愛い掛け声によってほんわかした雰囲気のまま始まったデュエルは煌遊の先攻から行われるがすでに死んだような目の煌遊であった。
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「煌遊君デュエルありがと。楽しかったよ」
「どういたしまして……こっちはボロ負けだけど」
結局明莉ともデュエルしても勝てなかった。
【聖刻龍】でずっとデュエルしていたが何回やっても聖刻龍関連のカードが1枚も引けないのだ。
度重なるドローやデュエルのもつれで、デッキ枚数が少なくなってようやく引けても今の状況では全く使えないカードばかりが手札に来て手も足も出せなかった。
「それにしても煌遊。いっつもそのデッキ使ってるよなぁ。1回もちゃんとデュエルできてる所観たことないぞ」
「んっまぁ聖刻龍はずっと使ってきたからこれ以外のデッキに変えるのはなんだかね」
「でもこれからは勝たなきゃダメだからこのままって訳にはいかないだろ?」
「うっ……それは」
煌遊が聖刻龍のデッキをシャッフルをしてからデッキケースに片付けていた。
あまりにも勝てない煌遊を心配している陽介が、煌遊に少しだけ呆れながら言うと明莉もうんうんと頷くのである。
どうにか新しいデッキをといつも考えるがどうにも昔から使っていた聖刻龍を手放せないし、また昔みたいに使えるかもしれないという微かな希望が煌遊から聖刻龍からデッキの鞍替えを戸惑わせているのだ。
この前のデュエルだってドレッド・ルートが所持しているデッキを勝手に借りてデュエルしていたのだ。
「一応考えとしてはこれを使おうかなって」
「それってこの前のショップ大会での景品で貰ったパックで当てた奴じゃねぇか?」
「このカード煌遊の使ってるカードとちょっと雰囲気違うよね」
煌遊は、自分のカードを漁りながらたまたま参加賞で貰ったパックで当てたカードでデッキを組もうと提案するが、今まで使っていた聖刻龍とあまりにもかけ離れたカードだったので二人とも驚いてまじまじとカードを見つめる。
テーマ毎にある程度枚数が出ているので何かないかと3人で余ったカードを漁り出してデュエルは終了となったのだ。
それからもほとんど毎日、煌遊は夜中にデュエルギャング?であるMの所に行ってはドレッド・ルートのデッキでデュエルをしていた。
最初はあまり歓迎されてなかったが、ドレッド・ルートが普通のモンスターであることを証明してからはデュエルもよくやってもらえたのである。
昼夜共に充実した生活を送っていた煌遊は、とうとう明日には入学式を控える身となる。
「あの先生……今大丈夫でしょうか?」
「どうぞ」
「失礼します。すいません先生……あ、あのボクの入学式の参加は大丈夫です」
「大丈夫とはなにが大丈夫なの煌遊くん?」
「参加しなくて大丈夫だと言うことです」
「あら?なんでそんなこと言うのかしら?」
「ボクの入学するデュエルアカデミアには、入学式に保護者が同席しなくても問題ないですし……陽介や明莉の入学式にここのことだって」
「煌遊くん……貴方は昔からいつも難しいことばかり考えて、自分のことを蔑ろにする癖がありました。私は貴方達皆が立派に育って優しい人に育ってくれれば嬉しいかぎりなんです」
入学式前日の夜煌遊は、この施設の園長である先生の部屋に入室して彼女に入学式の参列に相談しているのだ。
書類整理をしているのか縁眼鏡をかけたまま煌遊の方を見ながら何か急用かと心構えをしていた先生はじっと彼の言葉を待つ。
煌遊は何か言いにくそうにぽつりぽつりと言い出すと静かに聞いてくれる先生。
いつも笑顔で皆に優しくしてくれた先生が珍しく黒色の縁眼鏡越しに煌遊を見つめる。
その瞳は鋭くもなければ問いただそうというわけでもない。悩んでいる煌遊の考えをゆっくりでも言えるように促すような雰囲気で見ていたのだ。
彼の考えを聞いてからふくよかな身体を庭の方に向けて、明るい月明かりに照らされる施設の庭を見ながら思い出話をするように語る先生。
少しだけ長い白髪の彼女は一息ついてから、窓のガラスに映る立っている煌遊の表情がなにか悪さをしたような感じで少しクスッと微笑んでしまう。
「ふふ。私は貴方の実際のお父さんとお母さんじゃないわ。でも私は貴方達皆を実の子供のように思ってるわ。だから煌遊くん貴方は何も遠慮はいらないの」
「でも……ボク」
「私はなんて親思いの子供を預かれたのかしら。全く貴方って子は……煌遊くん貴方の言いたいことは分かるわ。でもだからと言って貴方達の大事なお祝い事を蔑ろにしていい理由にはならないの」
「…………」
先生にとっては煌遊のことも陽介や明莉、他の子供達も皆大事な家族であり誰一人かけてはいけないのだ。
入学式という一大イベントに少しでもそばにいてやりたいと思う先生の親心からしっかりと祝いたいのである。
彼女の言葉にとうとう何も言えなくなった煌遊は口を小さく動かすだけで、その場を後にしてしまった。
「煌遊くん……貴方は何を目指してるのかしら?」
煌遊がまるで自分が幸せになってはいけないと言いたげなほどに孤独を求めているようで心配そうに彼の背中を見守るのであった。
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長い冬が終わり暖かな春へと移り行く中まだ寒さは残っていて辺りを歩く人もまだ防寒対策に油断がない。
煌遊も朝早くから電車に乗り、責が空いていても立ったまま右手で吊革を握って、以前試験会場として訪れたデュエルアカデミア-イペロコスに一人で眠そうに外野景色を見ながら向かっていた。
新しい制服となる紺色のブレザーに灰色のスラックス、白色のYシャツに藍色に赤色のラインが入ったネクタイに革靴の格好の煌遊は、新品の制服なためどうしても衣装に着られてしまっているように見える。
彼が1人なのは結局先生と喧嘩をしたわけではなく、たまたま施設の子どもが風邪をひいてしまいそちらの看病に付きっきりなので煌遊が先生の同伴を辞退したのだ。
これには園長もどうしようもできず煌遊に謝って看病することとなったのだ。
【小僧貴様はこれでいいのか?】
【これでって?】
【こうやって独りでいようとすることをだ】
【……それなら前にも言った通りオレはもう独りになるって】
電車が目的地の最寄り駅に向けて走っていく中、煌遊は外を見たまま意識を自分の内側に向け始めた。
意識を精神世界に向けていくと視界が暗くなっていき、先程まで聞こえなかったトラゴエディアの声が聞こえてきて、声が響く方を見上げればそこには、片手が鋏状の巨大な化け物であるトラゴエディアがいた。
黒く塗りつぶされたままの精神世界では、何をしても意味がないのを知っているトラゴエディアは恐らく床である場所に座りながら身体をずずっと縮め、彼のこれからのことを話す。
この精神の持ち主である煌遊でさえ、今自分がどこに立っているかあやふやな状態でもトラゴエディアの前で決意を言葉にする。
彼の目は、昔のような輝きはなく少し隈が出来て死んだような脱力感が漂う黒色の瞳がトラゴエディアを真っ直ぐ見るのだ。
【トラゴエディアよ。主の決めた生き方だ。我輩達にはどうにも変えられん。主もそれが茨の道であろうと進むのであろう。その目を見れば分かる】
【ドレッド・ルート遅れて出てきたくせになにを抜かすのだ。それにあんなやる気のない死んだ目で何が分かると言うのだ。昔我等を求めていた頃の小僧の方が余程】
【うるさい!!】
トラゴエディアと煌遊が話していると、闇の中からずずっとドレッド・ルートがその巨大な姿を見せる。
白い骨のような外郭を身に付ける巨人である彼は、この大きさでは会話どころではないので、煌遊と同じくらいのサイズにまで身体を縮めていく。
姿を見せたドレッド・ルートは、一応主である煌遊の生き方を否定しそうな雰囲気のトラゴエディアに前もって釘を刺し、今一度濁った主の目を品定めをするように見る。
小学生時代から共に歩んできたトラゴエディアとドレッド・ルートからすれば、トラゴエディアの言うとおりあの事件以来煌遊の目は輝きを失った。
受験会場で出会った幼馴染との再会も彼の心を揺さぶるも、上手くいかずどんどんと彼の心が光から遠ざかって逃げてしまっているのを、この世界から見てきた二人にとってそれでいいものかと少し心配にもなっていき。
上手く自分の考えを言えないトラゴエディアは、いつものようにキツい言い方で言おうとする前にドレッド・ルートが割り込んだせいで標的を煌遊からドレッド・ルートに変えて噛みつくように言ってきて。
この全てを諦めてしまった目が、トラゴエディアの神経を逆撫でしてきて苛立ちを覚えて鋏状の右手で煌遊を指しながら、出会った頃の方が良かったと言おうとしたが、言いきる前に煌遊の一言で遮断された。
【もう昔のことを一々言うな……。あれはただの思い出だったんだ。オレの生き方はオレ自身が決める。まずは約束を果たす……それだけだ】
ただ小さく絞り出すように言い切った煌遊。
昔皆で笑いあったのはただの思い出であの頃にはもう戻れない。
だから先を進もうにも、それにはあまりにも自分の足取りが重すぎた。
未来を夢見るのも、過去にすがるのも自分にはどちらも難しくて手を伸ばしてもひたすらに走っても届かずずっともがいているだけだ。
だったら辛い約束も辛い過去も全て捨ててしまいたい。もう誰にも関わりたくない。
だから煌遊は、自分の夢も約束も全てそっとあの日の思い出と共に自分の闇の中に捨てた。
【主……。我輩は精霊ではなく闇のカードだ。それは紛れもない事実であり、主の呪いにこそなれど加護も手助けすることもできない。だが主の出した答えを我輩は認め、最期まで付き合おう】
【……その小僧。先程はつい言い過ぎた……我もお前の生が終わるくらいまで寄り道をしようと大したことじゃない。だから小僧とずっといてやる】
【……ドレッド・ルート……トラゴエディア。でもそうしたら世界一で強いカードって言う証明は】
【そんなものはどうでもいい。我輩の力を信頼する主といれればいい】
【そんな何年何十年と先のことを一々急かす気はない。どうせ貴様に力を貸した時から乗り掛かった船だ。貴様との寄り道くらい楽しむぞ】
【何も言わず帰ったな】
【一々気にすることもあるまいトラゴエディア。今が今生の別れでもない】
煌遊の言葉にも二人は怒らず、このままでもいいと言いながら彼の頭を撫でる。
いつも怒っているトラゴエディアも素直に謝り彼との今後を楽しむ予定で、あまり怒らないドレッド・ルートも、世界で強いカードの証明よりも煌遊との時間を優先していた。
これには煌遊も驚いて再度聞くが答えは変わらず答えを聞いた彼自身も、少し恥ずかしいような嬉しいような複雑な感情が押し寄せてきて顔を伏せて、精神世界から現実へと意識を戻す。
帰っていく背中を静かに見守っていた二人であった。
自分の精神世界とはいえ、かなり恥ずかしいことと普段聞かない激励を貰ったせいか照れ臭い感情が押し寄せてきている煌遊は、耳まで熱くなるのを感じてしまうと誤魔化すように次の停車駅を確認する。
デュエルアカデミア-イペロコスの最寄り駅なのでそろそろと降りる為にカバンの持ち手をきゅっと握りしめた。
煌遊はデュエルアカデミアに向けて歩いていくと、何人か同じ制服を着た男子と女子と出会うが、煌遊から話す事はなく無言で進みデュエルアカデミアに辿り着く。
デュエルアカデミアに辿り着いた彼は、多くの非とが写真を撮っている入り口にある入学式の看板を素通りしていき、敷地内に入り昇降口へと向かうのだ。
昇降口に張り出されているクラス表の前も人混みが酷く中々見れないので、大人しく人混みが無くなるのを待つことにした。
【おい見なくていいのか小僧?】
【別にクラス表は逃げないから人が居なくなったら見る】
人混みが苦手な煌遊は人混みから少し離れた所で人混みが減るのを待ちながら半透明で現れるトラゴエディアと話していた。
あくまでトラゴエディアも他の人に感知されず、二人とも言葉を口から発しているわけではないので、煌遊が独り言を言っている痛い奴には見えないから彼等はこの会話方法を好んで行うのだ。
そうやってある程度の時間を待つと人混みが少くなり、煌遊もクラス表で自分の名前を探す。
クラス毎に別れた大きく白い紙を見ていくと一番端にかけられていたEクラスに書かれていた。
【主こっちだ。Eクラスのようだが】
【Eクラス?一番遅い文字だな】
【ありがとうドレッド・ルート。Eクラス……でもクラスなんて何処でもいい。オレは出来ることをするだけだからな】
【我のことは無視か小僧ぉぉぉ】
【いや……返しづらいこと言ったらこっちも反応に困るぞ】
【小僧はいつもドレッド・ルートばかりだな。我はもうずっとデュエルにも出ていないというのに!!】
Eクラスのクラス表の前でボーッとしたような雰囲気で見ている煌遊は、半透明で上半身だけ出てきているトラゴエディアとドレッド・ルートと会話をしている。
ドレッド・ルートは、煌遊の名前を見つけて教えてくれたが、トラゴエディアは見たまんまのことしか言わないので反応に困った煌遊は無視をした。
だがトラゴエディアはそれをよく思わず怒ってはハサミ状の手をブンブン振って怒り、少し前のデュエルギャング?とのデュエルで、ドレッド・ルートは使ったのに自分はいつも観戦者としか扱われず、文句を言っている。
最初の頃はもっと静かでミステリアスで危なさそうな性格を想像していたが、蓋を開ければ暇を最も嫌う気分屋のワガママでこれには手を焼いている。
煌遊はそんなトラゴエディアに聞こえないように小さくため息を吐いてから教室に向かってしまう。
───Eクラス教室
「……」
長蛇の列を抜けてようやく入れたEクラスの教室。
綺麗で管理の行き届いている教室は、なんだか視覚や嗅覚から感じる見た目や臭いが新鮮であったが、周りの人のそわそわした態度や話し声に逆に冷静になってしまう。
そのせいか煌遊は、自分の名前が書いている机をさっさと見つけて座ると、他の生徒に話しかけられないように寝たフリを決めていた。
「はじめまして。皆さんご入学おめでとうございます」
「イケメンじゃない?」
「うわ眩しっ」
「……」
恐らく担任でも入ってきたのか周りの話題が変わった。
だから煌遊はのっそりと上半身を起こして、担任を見て感想を思い浮かべる。
背は高く体型も筋肉が着きすぎてなくてモデル体型みたいに細いし色も丁度いい白さだ。
顔も皆が言うとおりイケメンなんだろう。パッチリとして優しそうな二重に綺麗な緑色の瞳、スラッと高い鼻に薄い唇で笑顔がよく似合う
髪だってオレと違ってマッシュとツーブロックを合わせた髪型でワックスでセットもしているのか髪の毛の束が綺麗に纏まってる。
その癖全くテカっておらず、綺麗なワックスの使い方で正直羨ましい。
スーツだって綺麗でシワひとつないネイビーカラーでしっかりと決まってるし。
あれが大人のお洒落かあのタンクトップ集団も見習ってほしいな。
顔や体型に格好の評価をしていた煌遊だが、元々スルースキルの高い彼は、イケメンな担任が何かを言っていてもあまり聞いてなかった。
よく観察している煌遊だがイケメンでも同性に恋をするようなこともなければ、今までで好意を抱いた人は一人しかいないからこの担任に取られるようなことを心配することはないので、眠そうな目で見ているのだ。
だが周りの女子はイケメンと言ったり、男子は担任の爽やかさに眩しいと言いながら目を反らせたり、自分との顔面偏差値の差に絶望して灰になったりと女子より多くのリアクションを起こしていた。
「ではそろそろ移動しましょう」
「はい!!」
担任が左手首に巻いている腕時計で時間を確認してから、移動するように皆を促すのだ。
煌遊を除く生徒は元気な返事をしてから立ち上がって廊下に並び体育館へと移動するのだ。
───
──
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───体育館
体育館の近くまで移動すると体育館から何やら音楽が流れており、入学生歓迎ムードであり、扉が開いてから入学生の入場と共に入学式が始まりを告げる。
何事もなく自分の椅子に座れた煌遊は、静かに偉い人であろう人の話を聞きながらあとどれくらいで終わるか気になってチラチラと時計を見て退屈しのぎをしていた。
───
──
─
「新入生の皆さんご入学おめでとうございます。私がこのデュエルアカデミア-イペロコスの校長
【はぁっ長い話が始まったな……】
【なんだあの老いぼれは?】
【ここの校長だ。元プロデュエリストとして名を馳せたらしいが、なんでか今はここで校長をしてるようで】
【元プロデュエリストか……じゃあデュエルも強いのだろうな】
【あぁっオレなんかよりずっと強いだろうな】
【なっ!?小僧っ!!心で負けてどうする?そこは勝てるくらい言わぬか!!】
【いやオレも自分の力量を知っているつもりだ。だから相手と自分の差をしっかりと計れると思ってる。あの校長はオレより遥かに強い。だから負けるという結果を出したんだ。
それに自分の力量が分からないでところ構わず噛みつくのはバカのすることだぞ】
【ふ、ふん我とてそれくらい知っておる。だが我等の力を使えるのだからもう少し上を見ろとだな】
【……何を騒いでいるトラゴエディア?】
【むっドレッド・ルートか?実はこの小僧が……】
【ふむっ、主。我輩ももう少しは上を見た方がいいと思うぞ。なにせ我輩達とは違って一度きりで短い人生だから後悔のない物にするんだ】
【わ、わかったから……】
「であるからして……では皆さん互いに切磋琢磨して素晴らしい学生生活を送ってください」
壇上に上がり、自己紹介をしているブラウンカラーのスーツを着た還暦を迎えたであろう老人を煌遊は見ている。
その時に退屈過ぎたのかトラゴエディアが半透明で上半身だけ出てくるとあれが誰か聞いてくるのだ。
煌遊は長い話が始まってここから少しの間はどうにもできないので自分の少ない知識でなんとかトラゴエディアに説明するも、自分との力量の差を言い自分の想像している結果を言うとトラゴエディアに怒られた。
ハサミ状の手をバチンバチンと開閉しながら校長を指して言うのだ。
いつも居眠りばかりしているドレッド・ルートがトラゴエディアのハサミ状の手を開閉している音といつもの荒げた声に起きたのか事情を騒いでいる奴から聞く。
トラゴエディアから事情を聞くと、相変わらず意識の低い煌遊に珍しく説教をすると煌遊も頭が上がらないのか、恥ずかしいのかわかったと言って早々に切り上げてしまう。
それが丁度校長の挨拶が終わるタイミングと一緒だった。
煌遊からすれば、トラゴエディアとドレッド・ルートとの会話をしていたので、ほとんど意識してなかったが時間はだいぶ経っていたようで周りの生徒も入学式の最初の頃ようなやる気等が減っており、今にも消えてしまいそうな程にやつれていた。
どうやら校長のありがたい言葉が長すぎて寝ないように努力して体力を大幅に使ってしまったようだ。
校長の挨拶以降の行事は何事も問題なく終わった。
「皆さんお疲れさまでした。あと少しなので頑張りましょう!!」
「はーいっ」
入学式が終わり教室に入るとあのイケメン担任が皆を労いながらあと少しだけと言うのだ。
入学生も入学式での来賓の言葉や校長の言葉等でかなり体力が削られているのか朝のような活きの良さはなかった。
「では改めまして。私は
雨宮宗平と自己紹介をした担任の話を聞きながらプリントを見たり、明日の日程を聞いたりとプリントに書ける内容は書いて体力が削られても、すべきことはしっかりと行っていくのだ。
それは煌遊も例外ではなく、聞きながらペンを走らせて明日からの生活に支障がないようにしているのだ。
「最後にですが明日は皆さんのことを知るために自己紹介をしようと思いますがせっかく我が校に入学できたので明日は入試で使ったデッキを用意して皆さんでデュエルをしましょう」
準備する物や、予定を書いていたが最後の言葉に大半の生徒は喜んでいたが、煌遊だけはペンを走らせていた手を止めて、絶望してしまったような表情で呆然としていた。
まるでどこぞのシンクロ召喚を嫌っていて、フィールド魔法と合体したり、最後のドローに全てをかけたものの茶色の機械の胴体をドローしてしまうような肩幅が広すぎる人物の表情に近かった。
「ではまた明日8時30分までには教室に来てくださいね」
雨宮先生の言葉を最後に皆帰ってよくなり、煌遊もどうしたものかと悩みながら歩いていくのだ。
【聖刻龍】は全くデッキとして動いてくれないのでこれじゃあ入学早々笑い者にされてしまい、最悪のスタートになってしまいそうで答えが出ないまま学校の中庭を歩いていると、誰かとぶつかったのか煌遊は倒れてしまう。
「すみません。考え事をしてました」
「いえこちらこそって……齊廸くんでしたか。入学おめでとうございます」
「あっ!?高橋先生!!あ、ありがとうございます」
「入試の実技試験以来ですね。どうですか?あの後なにか不調などはありますか?」
「い、いえ……なにもないです」
「それはよかったです」
「あ、あの心配してくださりありがとうございます。す、すいませんが失礼しますっ!!」
「あっ、齊廸くんっ!!行ってしまいましたか……やはりアークロードが警戒するほどの者には見えませんが……」
ぶつかった者同士倒れてから立ち上がる間に謝り相手の顔を見ると忘れもしないあの実技試験の相手だったので驚いてから固まってしまう。
高橋が煌遊にお祝いの言葉を贈りながら微笑むと、煌遊も緊張した顔立ちでお礼を言うのだ。
二人の間に僅かだが、気まずい空気が漂うと高橋の方から話題を振って空気を変える。
煌遊からすればあの出来事は自分の身体に外傷は無くて、ただ闇が抜けただけなので、なんともないと言えばなんともないのでなにもないとだけ答えた。
どうしても高橋の事が苦手なのか早口でお礼を言ってから走り去ってしまう煌遊の背中を見送りながら、彼との会話のやり取りでどうにも自身のデッキの精霊であるアークロード・パラディオンが言うほどの人物に見えないでいた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
走り去った煌遊は無我夢中で学校の寮まで走るのだ。
荷物はすでに運んであり、今日の午後から入れると担任の雨宮も言っていたのでそのまま玄関に向かうのだ。
だが入り口にはすでに本日の予定を終えていた上級生が、新入生へ挨拶をしており、すぐには自分の部屋には入れそうになかった。
「おう初めましてだな」
「は、初めまして齊廸煌遊ですよろしくお願いいたします」
「齊廸?変わった名字だな。オレは2年の寮長
「で次が」
「オレは齊廸と同じ中学の
「おうよろしくだ。中々すげなお前は」
「よく言われるっす」
「まぁ次がつっかえてるからどんどん行けよぉ~」
「うっす」
「はい」
身元確認ではないが軽い自己紹介をしていくと煌遊は、自分より高く恐らく180cm位はありそうな先輩を見て挨拶する。
熱血系なのか短いスポーツ刈りの黒髪ヘアスタイルが筋肉質な身体によく似合うし、肌荒れもなくて綺麗な少し焼けた肌。
眉毛等は少し太く、男らしい男でブレザーよりも学ランや応援団長が着そうな長い学ランの方が似合いそうだ。
自分のようなひょろいもやしとは違うスポーツマンで、これはこれで羨ましいとまた観察していた煌遊は、自分の後ろの人物を見て驚愕した。
なにせ中学で同じ決闘部に所属していたが真面目に活動していたのなんて3年になるくらいでそれ以前はまさに絵にかいたような不良だったクラスメイト結城皇餓がいたのだ。
コイツは見ないでもよく分かる。服では隠されているが歴戦の喧嘩を乗り越えてきたスポーツマンとは違う実戦で鍛え上げられた肉体。
それは細くても無駄な贅肉なんてなく、腹筋はコンクリートの壁なんじゃないかってくらいに硬い。赤色の瞳はギラギラしてまるで餓えた獣のような目でどこぞのバンドマンじゃないかって位イケメンなのが腹ただしい。
ブレザーでだいぶ落ち着いた見た目だが、その赤色のメッシュが入った金髪は中学から何も変わっておらず、自分よりも長くてヘアピンとワックスを駆使したアップバングとウルフヘアを融合させた凄まじいヘアスタイルはいつも驚かされる。
そんな二人をよく観察して感想を思った煌遊は自室に向かい今からの歓迎会や明日の備えをしようと思っていたら、後ろから皇餓に肩に手を回された。
「齊迪つれねーじゃねーか。オレらの仲だろ。挨拶くらいしろよなー」
「ご、ごめんっヨォー」
「おいおい。そんなヘタレなヤツじゃなくてよ。いつものヤツをキめようぜ」
「い、Yaaayっ」
「Yaaay」
煌遊は皇餓との挨拶をするが、このノリは相変わらず苦手で苦笑いのまま挨拶として握り拳をそっと当てる。
苦笑いのまま寮の廊下を歩くと煌遊の部屋である009の前に着いたのでそこで別れた。
「あぁー疲れたーっ」
【主疲れたのは分かったがそのままベッドに寝るな。着替えろ】
【全く小僧は同居人が来る前に済ますことは済ますぞ】
この部屋は二人一組で使う部屋で、広さは中々で設備もエアコンや、パソコンが1台置かれていた。
後は調べる気力がないのか彼は闇のカードの言葉通りに荷物を片付けていた。
荷物といっても元々多くの荷物を持っている訳ではないのですぐに終わるのだ。
後は同居人を待つだけなのがあそこで挨拶をしていたり部屋の番号を間違えたりしたら時間がかかるだろうから相手が来るまで寝ることにする。
なんとか投稿できました
一応次回から学園編として1度区切ろうかと思ってます
新しいルールや禁止カード等で色々とありそうで友人と楽しそうです
あと煌遊君のデッキもなんとか新しいの考えなきゃなーと思いながら思い付かないです