遊戯王 世界の果てで   作:Thermidor

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力を持つ者にとって壊すことは容易い
されど人の心はどのような強者であれどうにもできない

ここから誰も動けない


エピソード4 小さき壁

「受験番号9番 齊廸 煌遊(せいひら てるゆき)です」

 

まだ寒い時期。

このデュエルアカデミアの入学試験に来ている生徒で溢れ返っていた。

 

入口となる校門には、スーツ姿の女性がおり、黒髪はしっかりと後ろで束ねられて纏まっている。

着ている紺色のスーツにはシワがなかった。

 

「受験番号9番の齊廸 煌遊さんですね? お間違いはないですか?」

 

「はい。 大丈夫です」

 

煌遊は自分の受験番号と名前を言うと、受付の女性が透き通ったハッキリと発音した声で身分の確認をした。

100枚は越えそうな程の受験用紙から、煌遊の受験用紙を渡す。

 

「では受験の注意事項をよく確認してください。 また学科試験の時に試験官から再度説明がありますので、分からないことがありましたらそちらで聞いてください。 受験頑張ってください」

 

「はい。わかりました」

 

受験用紙と共に注意事項が纏まった紙を受け取った煌遊は、返事をしてから1度頭を少し下げた。

受付が終わり、受験会場である教室に向かうため、校舎の正面玄関へと歩く。

 

受験会場となる校舎。

人で溢れている広い道を見ると、煌遊は苦い薬を飲んだようななんとも言えない表情で前を見ていたのだ。

敷地内の道とはいえ、まだ校舎に入ってないのに多くの受験者がいることにこのデュエルアカデミアでの倍率の高さが分かる。

だが煌遊はまだ校舎が開放してないだけで、ここで受験生が皆ここで待っているのであると信じていた。

 

【人が多過ぎて目障りだ】

 

煌遊がうんざりした表情で前を見ていると、半透明なトラゴエディアが煌遊の左上に浮遊しながら文句を言い切り刻んでやらんと、鋏を開けたり閉じたりして見えない威嚇をしていた。

 

「うるさい……そっちが勝手についてきたんだ。大人しくしてろ」

 

煌遊はトラゴエディアの方を見ることもなくうるさいと言うと、少し前へと歩き校舎内へと入った。

多くの人がいてガヤガヤと声が聞こえてうんざりしているのに、トラゴエディアの愚痴なんか聞こうと思えず乱暴な返しになったが煌遊はあまり気にしてない。

彼もここ数年でトラゴエディア達との関わり方が上手になったようだ。

 

【そんな冷たく言わなくていいとは思わないか?なぁドレッド・ルート?】

 

【主にも何か思うところがあるのだろう】

 

【それだとしてもだ。もう少し敬いの気持ちをだな……】

 

【敬うほどのことを我輩達はしておらん。それに我輩達は目的のために共に歩む運命共同体のような物だ。そこに敬いなどいらんだろう】

 

【それにしてもだなぁ…………ところで話は変わるがあの泣き虫小僧が変わったな】

 

【全く貴様は面倒だな。主に構って欲しいならそう言えばよかろう……だが主とてに()()()()()()()()()()()。多かれ少なかれ変わるだろうよ……Zzz…………】

 

【ち、違うぞ!!な、何をバカなことを言っている!!この偉大な我がってドレッド・ルート聞けぇぇぇ寝るなぁぁぁぁぁ!!!!】

 

校舎の入口前では、煌遊に置き去りにされたトラゴエディアがドレッド・ルートに独り言を言うように愚痴を言うと、煌遊の背中を見ていたが、当のドレッド・ルートはまだ眠り足りないのか眠そうに答えた。

煌遊の変わりようも仕方がないと割りきるドレッド・ルートとトラゴエディアであったが、トラゴエディアは、あの泣き虫がここまで冷たくなるのはつまらなく感じていた。

 

考え事をしているトラゴエディアに、ドレッド・ルートの一言が爆弾となりトラゴエディアの心を抉る。

"構ってちゃん"発言を聞いたトラゴエディアは、すぐに言い訳を言うのだが、話し相手のドレッド・ルートは寝ており、煌遊も離れているのでトラゴエディアのやりきれない叫び声だけが響いた。

 

寝ているドレッド・ルートを引き摺り、トラゴエディアは、特に見学することもないので諦めて煌遊の中に入ったのである。

 

廊下から張り紙と教師であろう人物が案内する通りに階段を上がり、5階にある教室へと向かうのだ。

そこが今回の学科試験の会場であり、受験票等の最終確認をする場所でもあった。

 

廊下は、綺麗に掃除をされていたが煌遊は、人混みの中で動いているため、あまり気にしていられなかった。

だがそれでも匂い自体は、この人混みでも感じるのか臭くない事に、掃除をまめにしてるんだろうなと感心はしているのであった。

他の事に気を取られていれば荷物を落としたり、転けたりする原因にもなること、なにより渋滞の原因になり更に人混みに身を投じる結果になるからだ。

 

煌遊は、知り合いに会うこともなく少し長い前髪を指でツンツンしながら早く着かないものかと思い歩いていた。

 

会場である教室に入ると、まだデュエルアカデミアといっても高校のせいか1クラスの部屋に机と椅子が並べられており、学年とクラスを表す札には[学科試験会場]とプリントアウトされた紙がセロハンテープでつけられてぶら下がっていた。

 

受験番号9番の煌遊は、入ってきた廊下から一番奥の教室なのか、彼の視線が受験番号が書かれた紙を何度も見返して奥へ奥へと向かっていくのだ。

 

学科試験──

 

それは、中学3年間、小学校6年間で習った【国語】【英語】【数学】【理科】【社会】の基本5教科とデュエリストの基礎である【決闘学】の集大成であり、今までの勉強の努力をぶつけるところである。

 

「────では説明は以上になります。また気になったことは随時挙手をして私にだけ聞こえる声で質問するようお願いします。不正は絶対にしないように……では時間になりましたら問題用紙を配りますので、それまで待機です。」

 

学科試験の説明をする黒髪ベリーショートヘアーをワックスで整えた試験官は、受験生をしっかりと見ながら不正はしないようにと念押しするのだ。

 

 

「では時間になりましたので試験を開始します」

 

学科試験開始の合図が宣言されると同時に配られる問題用紙。

受験生は、素早く後ろの席の受験生へと問題用紙を渡してから、問題用紙を開き問題を解き始めた。

試験会場では、カリカリと筆記用具が答案用紙の上で答えを書く際に聞こえる音が響く。

時間配分も余儀なくされるこのテストに受験生の表情はどんどんと険しくなっていく。

 

この学科試験という難関を越え、実技のデュエル試験を越えた者に

デュエルアカデミアの入学が許可される。

そのため誰もが表情が先程から険しくても真剣に解答用紙に、答えを書くのだ。

 

煌遊も例外ではなく、中学の入試を遅刻で受験できず地元の中学で3年間を過ごした彼にとって、約束を果たす場所であるこのデュエルアカデミア-イペロコスに受からねばならなかった。

 

煌遊は、口では面倒だの何だのと言っているがやはりまだ約束にすがっているのか何時にも増して真剣であった。

 

─────

────

───

──

 

「そこまで、鉛筆を置いてください。試験を終了します」

 

試験官が終了の宣告をすると、受験生達は疑われるのを避けるために鉛筆を置いていく。

答案用紙は、1枚ずつ試験官が回収していく。

答案用紙の回収を終えた試験官は、答案用紙の枚数を数えてから封筒に答案用紙を入れてから封をする。

 

「皆さんお疲れさまでした。ではこれにて学科試験は終了します。実技試験も頑張ってください」

 

試験官は、少し優しそうにはにかみながら言うと会場から出ていった。

 

「うわああああっ終わったぁぁぁ」

 

「手応えあったぜ」

 

「ここはこうであったから……」

 

「あれ?名前書いたよ、ね……?」

 

学科試験が終わり終わったことに安堵の声を上げる者、手応えを感じた者から、終わった後から押し寄せてくる不安に潰されそうな者、そして白く燃え尽きている者。その表現は千差万別であった。

 

【小僧どうだった?】

 

(バッチリだったよ)

 

【はぁ……そうか。それはよかった】

 

【主、気を抜くな。今から実技とやらがあるのだろう?】

 

「分かってる……全て"壊す"気でやってやる……それよりトラゴエディアお前そんなに心配だったのか?」

 

【ち、違うっ!?わ、我は貴様が落ちたらまた我等の最強への証明が遠退くから少し気にかけただけだ。決して断じて貴様が心配等ということはない!!】

 

【主、トラゴエディアを虐めてやるな。こう見えて我等も心配だったのだ】

 

(悪かった……それとありがと)

 

トラゴエディア弄りをしたからかトラゴエディアは、また冷静さを失い必死に弁明してる。

いつ聞いても華麗なツンデレ具合に煌遊は、心の中でため息をついた。

ドレッド・ルートの言葉を聞くと、少し驚いたような表情をしてから小さな声でボソボソとお礼を言う煌遊。

煌遊の頬が僅かに赤いので、照れているのだろう。

 

【ドレッド・ルート。聞いたか?あの小僧が珍しくお礼を言ったぞ。はっはっはっは明日は嵐だっ!?】

 

【南無……だが主がお礼とは珍しいな。どういった風の吹き回しなのだ?】

 

(そ、それは……お前たちがいなかったらここまで立ち直れなかったからな)

 

煌遊は、顔の筋肉を精一杯使って顔芸をしながら茶化してきたトラゴエディアに、無表情でゴミを見るような冷たい視線のまま鉄拳制裁を与える。

他の受験生からは、肩を回しているようにしか見えない仕草でやるのだ。

ドレッド・ルートが悶絶しているトラゴエディアに南無とだけ言うと煌遊がお礼を言うのは、珍しいのでどうしたか考えているのか僅かに表情が険しくなる。

 

「なぁ……なぁっおいっ!!ダメだ。無視してやがる。この根暗ありえねぇー」

 

声をかけられても、ドレッド・ルートとトラゴエディアと話しているので、ただ己の世界に没頭するように見える煌遊。

根暗と言われ、バカにされても気にせず、なにか話しているな程度の認知だった。

 

ヒソヒソと声が聞こえてくるが、自分のせいではないし、あの頃に比べればマシなので気にすることではないと考えて煌遊は未だに相手にしない。

 

約束の為、己の為、友の為、こんなところでの出会いを切り捨て、馴れ合いを投げ捨て、ここに受かる事だけを考えてていた。

 

健斗と葵とまた楽しく過ごしたい。

中学で出来た少し頼りない仲間を紹介したいと思っている煌遊に始まりの声が響く。

 

「ただいまよりデュエルアカデミア-イペロコスの実技試験を行います。受験生は、こちらへ」

 

黒髪短髪前髪を8:2で分けた若いスーツ姿の男性の試験官が会場に入ると、実技試験の会場に案内をするのだ。

今回は会場ごとある程度時間をずらしているのか、廊下で渋滞になることはなかった。

校舎からデュエルアカデミアの敷地内にある大きな体育館のようなドーム状の建築物へと歩いていくのだ。

この建築物は、デュエルアカデミアが所有しているデュエルスタジアムであり入口の扉は開放されている。

入口付近に[実技試験会場]と張り紙が壁にセロハンテープでつけられていた。

 

入口から入ると中の設備は文句のつけようがないくらいに綺麗にされており待合室から通路、デュエル場どれも新品と間違えそうなほど綺麗である。

 

試験官に案内されたスタジアムのデュエル場は、1度に多くの人がデュエル出来るような広さで何人かデュエルディスクを着けた試験官が立っていた。

また今回は一度に何人もの受験生をデュエルするために何個かデュエル場が設置されている。

 

「では受験生の皆さん……今からランダムで受験番号を呼び、アルファベットを言いますので呼ばれた方は言われたアルファベットを目印にデュエルスタジアムに歩いてください。また今からデッキの調整は禁止ですので怪しい行動は控えてください」

 

ここまで道案内をしてきた男性の試験官が受験生に説明をすると、皆が頷くのを確認した。

今からデュエルアカデミア-イペロコスの実技試験が始まるのだ。

 

────

───

──

 

「受験番号9番こちらへ」

 

「はい」

 

あれからランダムで受験番号を呼ばれていき、どんどんと受験生がデュエルしていく。

そしてとうとう煌遊の番号が呼ばれた。

緊張した面持ちで、先程の試験官が待機している場所まで歩く。

 

「ではAの所に行ってください」

 

「分かりました」

 

試験官は、煌遊から受験票を確認してからアルファベットの書かれた紙を渡す。

煌遊は、しっかりと返事をしてからそのアルファベットを見てAの文字が書いてあるステージへと向かった。

 

ステージに作られたパイプ椅子が置かれた簡易的な待機室に入ると、デュエルが終わったであろう受験生が絶望に満ちたなんとも言いきれない表情だったり、嬉しさのせいかニヤニヤしてる者とまだ試験を行ってないのか緊張している者の三分化していた。

 

────

───

──

 

「次は……受験番号9番いますか?いるなら入ってください」

 

「はい。失礼します」

 

【小僧その……なんだ、が、頑張るんだぞ。あくまで我等の為だからな!!】

 

【主。我輩達は今回のデュエルは主の大切なデュエルだから力は貸さぬが、良い結果を待っているぞ】

 

[あぁ頑張ってくる]

 

煌遊が待機室に入って受験番号を呼ばれるのを待っていると、試験を終えた者は帰宅していいのか自分を落ち着けてから、荷物をまとめて出ていくのを何人か見送っていた。

ようやく自分の受験番号を呼ばれると折り畳まれた待機状態のデュエルディスクを取り出し自分の左腕に装着した。

 

いざステージに入ろうとすると、先程まで煌遊の中で大人しくしていたトラゴエディアとドレッド・ルートが精霊が見えない他人には見えないが珍しく全体をしっかりと露にして半透明にもならず、応援する。

煌遊も少し照れ臭そうに頬をポリポリ掻いてから慣れない笑顔を浮かべてから頑張れとだけ言い残し、ステージへと向かった。

 

煌遊が入ったステージには、いくつものデッキを長テーブルに置いてある試験官がいて、煌遊は試験官へと近づきお互いの間が6m程の距離を保った状態で歩みを止めた。

試験官を見ると短く切り揃えられた黒髪をオールバックにしていて爽やかな笑みが似合いそうな体育会系のイケメンだ。

服装もシワ1つない藍色のスーツがビシッと決まって似合ってる。

 

「受験番号9番 齊廸 煌遊さんですね」

 

「はい。受験番号9番齊廸 煌遊です。今日はよろしくお願いいたします」

 

爽やかな笑みが似合いそうなイケメンが笑みを浮かべながら煌遊の受験番号と名前を確認した。

煌遊も返事をするとぎこちないが精一杯の笑みを見せる。

 

「私は本日貴方の実技試験の試験官を努める高橋 誠一 (たかはし せいいち)です。よろしくお願いします。そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。このデュエルは、勝ち負けがあまり重要ではなく貴方のデッキのバランスやプレイング、心の強さ等を主に見ます。」

 

「緊張なんて……っ」

 

誠一が煌遊に試験でどこを見ているか優しい声で説明しながらデッキをデュエルディスクにセットする。

誠一は、煌遊のずっと握り締められた手を見て緊張していると思い緊張を解すように言うのだ。

プロデュエリストを目指す者なら、もっと大事なデュエルや沢山の観客に見られている状態でのデュエルもある。

だから緊張しないようにと言うが、そこからその緊張を解すのは本人のすることなのでアドバイス等はしない。

 

煌遊は、誠一から緊張しないようにと言われて初めて自分が緊張していることに気づいた。

ハッと思いずっと握っていた手を開いて手のひらを見ると、手汗で汗ばんでいて学生服のズボンのポケットからハンカチを取り出し汗を拭う。

 

「スゥーッハァーッスゥーッハァーッ」

 

自分を落ち着かせるため深呼吸をしてから自分の両頬を叩いて、気合いを入れた煌遊。

自分のデッキをデュエルディスクに入れて準備万端だ。

 

「では準備もできましたし、これより実技試験を行います」

 

「はい」

 

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

高橋誠一VS齊廸煌遊




遅れて大変申し訳ありませんでした。
仕事と書き直しをしていたら6月に入ってしまいました。

新作パックも買いたいなぁと思いながらも中々買えずに悶々してます。

成長した煌遊の学園生活がかかった大事な試験を頑張ってくれますのでもう少し待っていてください。

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