艦隊マニフェスティア ~大鳳総理とミッシェル・陸奥~ 作:鑪川 蚕
キィンッ!キィンッ!
硬質な水晶がぶつかりあって奏でるような案外心地よい高音で大鳳は目を覚ます。
デジャビュを感じつつも、起き上がって周りを確かめた。白い空間がまたしても広がっていたという事はなく、どこか大きな建物のホールだった。優に30mはありそうな天井にはステンドグラスがはめ込まれ、外の世界の光を色づけて中へと届けている。天井、壁の至る所に緻密で豪奢な装飾がなされ、西洋の城のように麗しい。床は大理石が隙間なく埋め込まれ、天井からの光を照り返すほど綺麗に磨かれている。
「この紋様は?」
床一面に幾何学的で奇怪な模様が描かれていた。漫画でしばしば登場する魔法陣のようだ。
その模様を恐る恐る指でなぞっていると、あることに気づいた。
「私、こんな手袋をつけていたかしら?」
大鳳の右手には白手袋をはめられていた。もちろんはめた覚えなどない。服も青い縦ラインが特徴的なノースリーブの可愛らしい白いセーラー服。私服でも買った覚えがない。何より極めつけに、隠す機能がまともに働いていないミニスカートを着るような趣味はしていない。少しかがんだだけで日曜夕方長寿アニメの海産物JS並みに青白の縞々パンツが露わになる。元々の制服のスカートもこの程度短かったがスパッツを履いていたからセーフだ。
「恥ずかしい…」
誰かが覗いているわけではないが、なんとなく気恥ずかしい。スカートをできる限り下に降ろしていると新たに重大な発見をした。人類が初めて火を発見した時と同じくらい重要であろう。
胸に起伏がある。
何故あるのかはわからないが、あるのだ。大鳳はシャボン玉を触るように、消えないようそっと手を添えた。フニッと柔らかい触感が伝わる。本当に存在するのかと何度も何度も触り、揉み、つまみ、いじり倒す。襟をめくって、その存在を直に確認する。滑らかな乳白色の丘に薄い桃色の小さな花が咲いていた。決して大きいとは言えない。むしろ小さい部類に入るだろう。しかし、これはあの名前で呼んでも差し支えないのでないだろうか。
「…おっぱいがある」
嗚咽混じりの震えた声で、その喜びを噛み締めた。大鳳は泣いていた。おっぱいを丹念に揉みながら歓喜の涙を流していた。男女入れ替え青春ラブストーリーの男子高校生のように。
「もう悩まなくていいのね…!」
大浴場に入るたびに誰かの胸と無意識に比べること。
新しい艦娘、特に駆逐艦が着任する度に心が荒むこと。
仲間だと思っていた瑞鶴が実は卑しい女だったこと。
嫌いな牛乳を毎日飲み、育乳エクササイズを熱心に行うが、筋肉のみが育つこと。
改二になった翌日、土気色の眼差しで五十鈴を睨んでいた龍驤に、未来の自分を重ねたこと。(最近、瑞鳳が仲間入りした)
すべての悩みはこのおっぱいが解決してくれた。
このおっぱいは小さなおっぱいだが、大鳳にとって大きなおっぱいなのだ。
「何してるのよ…」
そんな大鳳に冷水をぶっかけるような発言が大鳳の背後から聴こえた。おっぱいに左手を添えたまま後ろを振り返ると、呆れ顔をした美少女が立っていた。
透き通った黒が煌めく、前が几帳面に切り揃えられたショートカット。幼さが残るものの意思の強さを感じさせる顔つき。中世の大臣のように金の細やかな刺繍が散りばめられた黒の燕尾服、大鳳のものより更に短いスカート、そこから伸びる、ほどよく引き締まった太ももがストッキングと相まって妙に艶めかしい。
「どなた…かしら?」
失礼ながら、この和洋折衷美人とお知り合いになったことはないはずだ。
「ムツよ。わからない?」
「ああ、ムツさんと仰るのですか。初めまして、私は大鳳といいます」
「だーかーらー!陸奥よ陸奥!長門型戦艦2番艦の陸奥!」
「は?」
何を言っているのだろう、この少女は?
陸奥はもっと身長が高いし、髪もライトブラウンのボブカットだ。制服は露出面積の大きい特撮の女ヒーローみたいな制服で、胸も深い谷間ができるぐらい大きい。
この少女の胸は今の大鳳と同程度かそれ以下だ。
「どうやら心底からは信じていないみたいね」
誰でも信じないと思う。見た目も声も全く違う人物が仲間の名を語るなど嘘だと捉えるだろう。
しょうがないわね、と少女はため息をつくと呪詛を唱えた。
「長月一七日フタヨンイチナナ、『ふふ、寝顔は可愛いのね…。……誰も見ていないわね。………………。て、提督!?起きてらしたのですか!何もしていませんよ、はい!』」
え、と大鳳の顔はこわばる。
その事を何故知っている。未遂で終わったが今でも思い出す度、壁に頭を打ち付けてしまう恥ずかしき事件を。
「秘書艦に知らないことは無いのよ」
得意気に胸を反らす美少女。そのドヤ顔はなんとなく見慣れたもので。
信じられないものの信じるしかない、目の前の少女が
「本当に…陸奥さんなんですね」
「そう言ってるでしょ」
「でも何もかもが違いますよ?」
「それはアナタもよ」
ほら、とポケットから取り出したコンパクトミラーで大鳳の顔が映る。陸奥がタイミング良く鏡を持っていることなどどうでもよくなるぐらいの衝撃がそこに映されていた。
「………どなたですか?」
大鳳とは似ても似つかない赤茶色のショートで、丸みを帯びた可愛げのある顔の美少女が映っていた。
大鳳が口を開ければ、少女は口を開ける。頬を引っ張ると、少女も自身の頬を引っ張る。何もかも寸分違わず真似される。
「なんてこと…」
「わかった?残念ながら、これが現実よ」
「陸奥さんは、怖くないのですか?」
「怖いわよ。でも2隻とも狼狽えてるだけじゃ何も始まらないでしょ」
「…強いですね」
「私から言わせれば、こんなところでおっぱい揉み続けてる方が強いわよ。まあそれで大鳳ってわかったから良かったけど」
「ちょっと!それどういう意味ですか?!」
「その程度の大きさで喜ぶなんてアナタとロリコンぐらいなものよ」
「い、言ってはならないことを…!!」
「『おっぱいがある…!』」
「真似しないでください!!」
見知らぬ場所で見知りあった者を見つけた安心からか2隻でギャーギャー騒ぎあう。そのせいで奥の扉ごしから聴こえる2人の声に気づかなかった。
「ほらやっぱり聞こえます!」
「シノブ一人で確認すればいいダス。なんでボクまで」
「それは…」
「はっはーん?もしや怖いのダスか?」
「うぅ…」
「シノブは怖がりダスなぁ!あ、ボク用事を思い出したダス。帰るダス」
「もぉ!ナイカクのイジワル!」
「はいはい。どーせサギョー員がサボってるだけダスよ。工期を延ばして費用を上増ししようと考えているダス」
軽口を叩く人物は怯える女性に扉を開けるよう促した。恐々と開け、2人はそっと覗こうとした……。のだが、シノブと呼ばれている女性が扉に体重を預けすぎて、ベクトルに従い扉は勢い良く開いてしまった。
そして二人の眼に映ったのは
互いの小ぶりな胸を揉み合う可憐な少女達であった。
「はぅわ……」
「ごゆっくり~~…ダス」
今度こそ物音をたてず閉まった扉からパタパタと一人分の足音が遠ざかっていく。
残された美少女達はしばし呆然とすると、顔を見合せ全く同じ台詞を叫ぶ。
「「もしかして、鳥が喋ってるーーー!!?」」
ぱーぱらぱーぱぱーぱらぱらぱ
ぱーぱらぱーぱぱーぱらぱらぱ
(中略)
ぺれぺれぺれーぺぺぺぺぺぺぺ
やっとー(J●SR●C)