艦隊マニフェスティア ~大鳳総理とミッシェル・陸奥~   作:鑪川 蚕

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3話 立候補

「この国、コッカには政剣という貴重な宝があって、それを奪わんとする正体不明の敵、ヤトーがいる、と(モグモグ)」

 「深海悽艦みたいな感じね(モシャモシャ))」

 「コクミンたちはそのヤトーに抵抗する術を持たない。持つのは光認試験を突破した選士たち、政霊だけ(パクパク))」

 「アタシ達、艦娘も似たようなものね(シャクッ)」

 「その政霊たちを束ね、各地で行われる戦挙に派遣し、勝利をもぎ取るのが総理なんですね(ンマンマ)」

 「提督と変わらないわね(ペロッ)」

「そして、この建物はコッカイといい、総理と政霊達の拠点になっていると(ムグムグ)」

「鎮守府と同じようなもんでしょ?(モガモガ)」

 

 一通りシノブから説明を受けた大鳳と陸奥は、白い丸テーブルに並んだケーキを食べながら話をまとめていく。ショートケーキは後を引かない甘さと程よくしっとりしたスポンジのおかげでいくら食べても飽きない。2人とも自分の身体ではないからかカロリーを気にせずどんどん口へ運ぶ。

 

「ところで総理はどこに?」

「それが…」

「さっき『総理はいない』ってナイカクが言ってたでしょ。ちゃんと人…いえ鳥の話を聞きなさい」

「ああ、そういえばそうでしたね。うっかりしてました」

 

 シノブではなく陸奥が説明したおかげで総理にどのように挨拶しようか気負わずに済んだ。シノブとナイカクが何か言いたげにしているが後で聞くとしよう。今はこのショートケーキに夢中なのだ。本当に美味しい。テイクアウト出来るだろうか…………「……って違ーーーうっっっ!!!!」

 

 大鳳はイチゴが刺さったままフォークの柄を机に打ちつける

。シノブらはびくっと肩を揺らし、陸奥は不快そうに注意した。

 

「イチゴ飛んだわよ」

「あ、ごめんなさい、じゃなくてっ!のんびりしてる場合じゃないです!だって提督がいないのと同じことじゃないですか?!」

 「別に大丈夫でしょ。提督がいなくても長門が指揮を取って逃れられない歴史の鎖を見事に打ち破ったじゃない」

 「最後らへんで提督は戻ってきてました!いや、そもそもあれ国民向け戦意高揚アニメですから!フィクションですから!」

 「総理の心配ばかりしてていいの?多分政霊もいないわよ」

 「ふふっ、まさかそんなわけない……、嘘でしょ……?」

 

 微かな笑みを浮かべながらシノブの顔を伺う。目が合うと彼女は伏し目がちに転がったままのイチゴへと視線をずらした。

 

 「いない、という訳ではありません」

 「あ、いらっしゃるんですか」

 「ここにはいませんが、リューナさんという政霊が1人います」

 「なーんだ、いるの」

 

 心配して損をした。二人はそう続けようとしたが、不穏な空気が口を塞ぐ。ナイカクは苦々しげに吐き捨てる。

 

 「でも、いないと同然ダス」

 「政霊は総理がいなければ、通常の10分の1程度にまで弱体化します。さらに…」

 

 シノブが説明を続けようとするも続けられない。仕方なしにナイカクが、バトンを受けとった。

 

 「政霊は基本的に敵の攻撃は無効化するダス。いわゆる無敵ダス。が、総理からの任命がなければ、その能力は失われるダス」

 「それはつまり…交戦時に最悪死ぬという…?」

 大鳳の問いに一人と一羽は何も答えない。肯定だ。

 陸奥はロッキングチェアに座るように椅子をカタカタと揺らしながら、天井をぼんやりと見上げた。

 

 「確かにいないも同然ね。リューナって政霊がどれだけ強いか知らないけれど、集団で攻め込まれたら勝ち目はほぼ無い。死んだら本当に政霊はいなくなるから、積極的に戦えない。基本は逃げ戦。そんなところかしら?」

 「ちょっと陸奥さん、そんな言い方」

 「いいのです。その通りですから」

 「……」

 諦めた、そんな苦しみが幻聴しそうな彼女の微笑に大鳳は胸が苦しくなる。

 「ただそれなら不思議ね。そんな状況ならもうこのコッカイは無くなっているはずよ」

 「それは魔法防壁のおかげダス」 

 

待っていましたとばかりにナイカクが食いついてきた。そして、胸を張り自慢げに語る。

 

「このコッカイにはシノブの力で強力な魔法防壁が張られていて、ヤトーの侵攻を防いでいるダス。防壁発動から一度も破られたことが無いくらい強靭ダス。さらに……この防壁の凄いところは」

「あー…ご自慢のところ悪いんだけれど」

 

唾を撒き散らさんばかり喋るナイカクを遮って、陸奥が呆れ気味に頬をつく。

 

「フラグよ?それ」

 

奥の扉が少し開き、レバーからスタッと手の平程の大きさの何かが軽やかに飛び降りた。後から知ったがこのコッカイで働くサギョー員という妖精らしい。ヘルメットを被ったサギョー員はその小さな見た目に似合わないほどの大きな声で緊急事態を報せた。

 

 「大変だギョ!マダホームにヤトー達が攻め込んできたギョ!」

 「「マダホームに?!」」

 

 その声にシノブとナイカクが弾かれたように反応する。「ほら~」と誰にも聞こえないよう陸奥は呟いた。

 

 「リューナ様が応戦しているギョが、強力なヤトーに追い込まれているギョ!」

 「そんな…!政霊指定都市はまだ大丈夫だと考えていたのですが……!」

 

悪い情報にしかならないとわかりつつも大鳳は手を挙げた。

 

「あの…政霊指定都市とはなんですか?」

「政霊指定都市は…コッカイとオトモダチ関係を結ぶことで、自治特権を認められた大都市です。特別財源、政霊による経済活性化推進など他の都市には無い権限があります。そして…最大の違いとして……特別な魔法防壁が張られています」

「その魔法防壁って……もしかして?!」

「ご推察の通り、わたしの能力で張られたものです。規模は小さいですが、このコッカイのものとほぼ同様の強度を持ちます」

 「それは……つまり……」

シノブは答えず、物憂げに首を振った。

 口に出したくない。そう聞こえた。

 確かにそうだ。ヤトーがいつでもコッカイを滅ぼせるようになったなんて言いたくもない。

 

 「これから、どうするつもりですか…?」

「どうしたら…、いいのでしょう…?」

「少しでも良い結果が残せるよう、やれる事は全てやるべきであって…」

 

 ガタッと机が揺れ、銀のフォークは皿からこぼれ落ちた。

 揺らした張本人はシノブだった。シノブは机に手をつき、瞳を潤ませ、あらん限りに叫んだ。

  

「……やってるんです!言われなくても、やれる事は全部!思いつく限りに!でも…、でもっ!なんにも助けられない…」

 

大鳳は発した綺麗な言葉を恨んだ。いきなり現れた他人を助けようとするくらいだ、何だろうとコクミンの幸せを願い、行動していたに違いない。ファンデーションでも隠しきれない目の隈がそれを物語っていた。

 

「総理がいなければ、何にも出来ません!だから、もう、終わりです。このクニは終わりなんです!」

 

落ちた涙がテーブルへと落ちていく。想いが詰まったそれは固く冷たい表面に弾かれ、潰れ、無様な形を残す。

 黒髪の映える少女が嘲笑うように彼女を諌めた。

 

「それはあなたが決めつけることじゃないわ。それに総理ならいるじゃない」

 

頬に手をつき、陸奥は新しく淹れた紅茶をかき混ぜる。

 

「冗談はよしてください。どこにいらっしゃるのですか」

 

 気楽な言葉に逆撫でられシノブは陸奥を睨み付けた。

 気にすることもなく、陸奥は紅茶を呷り、飲み干すと白手袋をはめた人差し指で、あるものを指した。

 

 「ここよ、ここ」

 

 自身の、なだらかな胸元を指していた。

 

 「アタシが総理になる」

 

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