艦隊マニフェスティア ~大鳳総理とミッシェル・陸奥~   作:鑪川 蚕

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7話 小咄①

きつね色にこんがり焼けた七面鳥の丸焼き、肉汁がにじみ出すミディアムレアのステーキ、港から直送した新鮮な鯛のカルパッチョ、芳醇な薫りがかぐわしい十数年ものの赤ワイン、混じりけの無い澄みきった大吟醸などなど。

 

 日常ではお目にかかれないご馳走が所狭しと大ホール内の長テーブルに並ぶ。すべてコクミンの皆さんから頂いた食材使ったものだ。祝勝会にふさわしい晩餐と言えよう。すぐにでも舌鼓を打ちたいところであるが、ぐっとこらえセーラー服の少女はスポットライトに照らされた壇上へとシャンパングラスを片手に昇る。小刻みに震えるシャンパンがパチパチと拍手し、総理を迎えた。

 

 壇上に立ち、前を向くとムツ、シノブ、ナイカク、アリシア、シャロンが大鳳を見つめていた。どの視線もこちらへと信頼を寄せている視線だ。不思議な気分だった。自分が艦娘の時、敬礼を捧げていた提督はこんな景色だったのだろうか。

 

 声が上擦らないよう意識しながら、グラスを掲げた。

 

「それでは、みなさん、お手元にグラスのご用意を。私達の勝利と活躍ならびにコッカの発展を願って乾杯したいと思います」

「ちょっと待つダス。せっかくの総理の初陣と初勝利祝いダス。ここはカンパイではなく、カンショウにするのはどうダスか?」

 

 ナイカクがニヤニヤと口元を緩ませ、提案してきた。もう既に酔っている感じすらある。戦挙前は「こんなポッと出のヤツに任せて、勝てるわけ無いダス!」などと文句タラタラだったのに、調子の良いことだ。

 内心同じ感想だったから文句は言えないけれど。

 

 「へぇ、面白いわね」

 「なかなかの良案ですね」

 「余も賛成じゃ!」

 

 ナイカクの案はなかなか好評のようだ。みんな、こういうオヤジギャグっぽいの好きなのかしら。

 

 「みなさんも賛成なようですし、いかがでしょう?総理」

 「ええ、やりましょう」

 

 シノブに促され、改めて音頭を取り直す。

 

 元の世界に戻る方法の模索

 この世界についての知識

 次の戦いへの備え

 総理としての責任と振る舞い

 乗り越えなければならない課題は山積みだ。

 だけど、今は

 

 「それでは、みなさん」

 

ただ、この美酒に勝利と栄光を祈ろう

 

 

 

 

 「カンパ~~イ!!!」

 

 

 

 めちゃくちゃ笑われたし、次の日も、その次の日もネタにされた。

 

 

 

政霊達との談笑を一通り終えた後、果実酒のロックで唇を濡らしながらバルコニーにもたれ、下界を見下ろす。

 

 大地に直立に突き刺さった、山ぐらい大きな両刃剣の柄部分に、このコッカイはすっぽりと建っている。そんな高さからだから、昼間の戦挙の戦場となっていたマダホームなど微かに輝く星のようだ。眼下ではそんな星が点在している。そのほとんどの街や村では総理就任を祝って飲み明かしているらしい。

 

 総理就任と初戦挙勝利の噂は矢のごとく広がった。マダホーム周辺の村では討伐を恐れヤトー達が撤退していき、他の街を占拠していたヤトー達も息を潜めるように活動を停止し始めたとサギョー員が報告した。

 

 達成感は無い。眼を瞑って剣を振り回していたら、モンスターが死んでいた。そんな感覚だ。だから他の政霊が、特にシノブが自分を褒めそやすのはくすぐったくて、否定したい気分で。こうして会場から逃げている。こんなビギナーズラックは次から無い。次はもっと…、もっと……。

 

 「主賓がこんなところにいて、いいのかな~?」

 

 決意を固めていると、ふいに背中から声をかけられた。

 振り返ると、リューナ・ゼヨ・サカモトが酒瓶を片手にニヤニヤと笑っている。頬が赤く、軽く呂律が回っていないところから察するに、相当呑んできたのだろう。

 

 「あぁ、リューナさん。このような場は不慣れでして……。ここにいる全員が主賓ということで何一つご勘弁を」

 「アハハ、じゃあそういうことにしておこうかな。あたしもいなかったし。ごめんね、パーティーに参加できなくて」

 「私がそうするようお願いしたのですから、謝らないでください。もうマダホームの宴会は終わったのですか?」

 「みーんな酔い潰れちゃってさー、そのままお開き。みんな、弱いよねー」

 「あはは…そうでしたか……」

 

 リューナは呆れ顔を浮かべ、持ってきた酒をラッパ飲みする。確かその酒は祝勝会でも並んでいて、コッカ内でもアルコール値が相当高いことで有名だとシノブから聞かされていたが…。彼女のザルさ加減に大鳳は苦笑してしまう。飲み干したビンを転がすと、リューナは手すりにもたれかかった。

 

「そういえばコーデリアって名乗ることにしたんだね」

「コクミンを安心させるために政霊としての名前、コーデリア・ヤマモトを名乗った方が良いと、ナイカクが提案してきたので」

 

 戦挙後、コクミン達に総理就任を報せた時のことを言っているのだろう。「大鳳」以外の名で呼ばれる日が来るとは思ってもみなかった。

 

「それに、別の世界から異政界天生した艦娘が総理になりました、なんてことをコクミンに説明しても喜ぶどころか不安でしょうからね。異政界天生者特有のチート能力とやらも発現していませんし」

 「そっか。………いつ元の世界に戻る方法が見つかるかわかんないしね」

 「…そうですね」

 「…うん、そう、そうだよね。いつか……」

 

 あえて言わなかった、言えなかった最大の理由を口にされ、大鳳は言葉に詰まった。この世界に来て、ようやく一日が終わろうとしている。たった一日だ。なのに、この身体に、政霊達に、政界に別れを告げる日がいつか来るかもしれないことに一抹の寂しさを感じてしまう。リューナも同じ気持ちなのか、しばらく二人の間で沈黙が続いた。

 沈黙を破ったのはリューナだった。身を寄せ、お伽噺をねだる子供のように訊いてきた。

 

 「ねぇ、元の世界の話聞かせてよ。何か儲け話が埋まってるかも」

 「ふふ、商魂たくましいですね。いいですよ。何を話そうかしら。商売の話だと、コンビニとか?」

 「こんびに?何それ?!聞きたい!!」

 「クリアファイルやピンバッジ、ガラスコップを売っている雑貨店です。大きな特徴の一つとして、オマケにうどんやゼリーの無料券がついてくるんです」

 「え、ちょっと待って。あたし、それ普段食べるよ?お昼ご飯代わりにすると、その代金は必要経費になるから、……実質タダじゃん!!」

 「そう。実質無料です。でも、結構儲かっているようですよ」

 「すごい!考えた人天才じゃない!?その"こんびに"ってのやってみようかな。もっと街が盛り上がるかも!」

 

 この場に陸奥がいたら、ずっこけているだろう。幸か不幸か彼女がここにいないため、二人は楽しげに談笑を続ける。

 

 「あと、地域振興でしたら、うってつけのお祭りがありますよ」

 「お祭り?」

 「飛行機の模型をご神体と祭りたて、緑の法被を纏った参加者が踊り狂うお祭りです。踊っている間、ピエロ姿の巫女がスケート靴で大根をおろし、祈りを捧げます」

 「とんだ邪神教のお祭りだよ!情報が多過ぎて理解が追いつかないよ!真似できないよ!」

 「とても盛り上がるのですが……」

 「不思議な世界だね…。面白い!もっと聞かせて!!」

 「他には…百貨店などは?」

 「ヒャッカテン?辞書?」

 「それは百科事典…」

 

 夜は更け、満天の星空が彼女達の語らいに耳を傾ける。

 大鳳総理就任1日目の夜はもう少しだけ続く。

 

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