提督の余命は後...   作:まのめ

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いよいよ大詰めです
長くなったので切りました


中編です



それでは本編


8月 提督の灯火、そして終戦へ…… 中編

鎮守府の防衛組を残して我々は敵の中枢へ出撃した。

 

一週間ほど観察していたが場所は移動しておらず、ただその一点の海域のみに敵が集中している。他の深海悽艦も集結しつつあるようだ、彼女たちも戦力を蓄えている。

 

数的有利なのはあちらの方だ、しかし私たちは争いをしに来た訳じゃない…、あちらも本気でこちらを潰すつもりなのだろうな。

交渉が上手くいかなければ最悪全滅だ、一人残らず殺されてしまうだろう。

しかし皆は私を信じてここまで付いてきてくれたのだ必ず成功させて見せる、必ず…。

 

 

 

回りを見て皆の表情から不安な感情を読み取れる、あの長門でも少し曇った表情をしている。

 

それもそのはず、今から我々が向かうのは敵の中枢。

 

それに10倍以上の戦力差があるのだ…、正気じゃないよな。

それでも皆覚悟を持ってここにいる、鎮守府に残っている皆だって一緒だ。

 

もちろん私も覚悟をしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5時間ほど進んだ頃空に異変があった、敵がいると思われる方角から黒い雲のような物体が浮かんでいるのが見える。

その物体を観察していると動いているように見えた、もしかしたら広がっているのかもしれない。それに加えて辺りが暗くなってきた、まだ夕方の時間帯にもなっていないのにもう辺りが薄暗い。

きっとこの雲のような物が光を遮っているのだろう。

 

しかしふと私は思う。

 

これだけの規模だ、私以外にもこの異変に気づいているものは居なかったのだろうか?大本営はこの異変に気づいていないのか?これだけ広い範囲で、しかも敵が集中している海域があるのに上層部は誰も気づいていないのか?いや、気づいていないなんてあるわけがない。私だって気づいていたのだ、誰も気づいていないと言うことは無いはずだ…。

 

ならなぜこの海域に誰も目を付けなかったのか、なぜ誰もこの海域に近づかなかったのか…、規模が拡大し始めたのもここ最近の事。

報告は私が報告する前にも報告があったはずだ…、あくまで仮定だが。

私がこの海域に出撃を申請したときも何時も通りの返事しかこなかった、援軍の必要の有無も、海域の情報も何一つ教えてもらっていない。だから私たちは自分達で情報を集め、ほぼ独断でこの海域に進出している。

だから準備に時間もかかったし、編成を考えるのも何時も以上に苦労した。

 

もし

 

もしもの話だが

 

上層部が我々を捨て駒扱いしていたとすれば?

 

もし自分達の手柄を、武勲を立てるべく我々を先行させて我々の失敗を待ち漁夫の利で攻略し、美味しいところだけ持っていこうとしているとすれば?

 

悪い考えばかりしてしまうがこれだけ前情報の無い作戦は初めてだし、そう考えるほうが辻褄が合う。

 

 

 

これじゃぁ前も後ろも敵だらけじゃないか…。

 

手柄が欲しいわけではないが、この作戦に失敗は許されない。失敗すれば敵の中枢だ……、逃げ場なんて無いだろうな、逃がしてもくれないだろう。

 

 

うだうだ考えててもしょうがない、今私が出来ることは彼女達を信じ己を信じて前に進むだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして遂に辺りは暗くなり、まだ昼を過ぎた時間帯なのに夜のように暗闇に包まれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が探消灯を点け前進航路を見張る、偵察機も発艦して敵の接近に注意する。

 

あと2~3時間ほどで目的の海域に到達する、皆の顔が緊張の色に変わる。

 

レーダーにも敵の反応が近づいていることが分かる、着実に死地に向かっている……震えが止まらない……ここまで来て恐怖が私の体を蝕む…、今すぐにでも逃げ出したい位だ。

 

鼓動が速くなっていくのが分かる、呼吸が荒くなっているのが分かる…

 

 

怖い

 

怖い

 

怖い

 

怖い

 

怖い

 

怖い

 

 

「?!」

 

誰かが私の肩に触れる、優しくそっと置くように。

 

「提督…、やはり怖いのですか?」

 

声で誰かわかった、照月か。

 

鋭い、痛いくらいに鋭い。

指揮官がこれじゃ示しがつかないな、私が皆の足を引っ張ってどうするんだ、私が引っ張っていかなきゃ行けないんじゃないのか?

まったく臆していた、察せられても当然か…。

私は照月の方を見て話す。

 

「怖いさ、怖い。」

 

「敵はもう目の前だし数も多い、それに私は生身だ艦娘ほど頑丈には出来てない。」

 

「それにすぐに狙われる対象だ、私は提督だからな。こんな状況で恐怖しないほうがおかしい。」

 

少し素直に答えすぎた、つい自分の弱いところが出てしまった。これじゃ彼女の不安を煽るだけだ。

 

「でも提督は約束してくださいました。時代の行く末を見るまで死なないと…。」

 

「だから私たちはその言葉を信じ今ここに立ってます。提督は違うのですか?私たちのこと信じていないのですか?」

 

言葉を失った

 

死なないと誓ったのに、誰一人として犠牲は出さないと皆の前で誓ったはずなのに私は弱気になっていた。

「私たちのこと信じていないのですか?」か、彼女たちは私のことを信じてくれているのに私は……。

 

情けない、本当に情けない…。

 

私が勇気付けられてどうするんだ、鼓舞するのは上官の使命だろう。

提督失格だな。

 

 

私は回りを見渡す、いくつもの凛々しい顔が見える。

不安の影が無く真剣な眼差しで哨戒機の妖精さんと連絡を取り陣形を組む、ソナーや電探で敵の動向に注意している。

 

まったく回りを見ていなかった、自分のことで一杯だった。

何時も無線でやり取りしていたが今回は私自身初めての前線での指揮、こうやって彼女たちの顔を見ることはなかったが皆こんな顔で戦場にたっているのだな。

 

『ジジ…』

 

急に無線がつながる

 

『提督、聞こえるか。』

 

長門だ

 

『何を恐怖しているのか分からないがお前には我々がいる、お前が約束してくれたように我々はここで沈むわけにはいかないのだ。』

 

『それに今ここに率いてきたのはお前が育て上げた最強の艦隊だろ、どんな相手でも負けることはない…私たちはいつだってお前に背中を預けている!』

 

『男ならドンと胸を張れ!!! 』

 

長門の言葉が突き刺さる、きっと他の皆も同じ事を思ってるはずだ。

 

だがもう大丈夫だ

 

もう大丈夫だ

 

まだまだ彼女たちより私の覚悟がなかった、だがもうこれ以上心配を掛けることはない、これからは何時も通りの私でいよう。執務室で指揮を執るときの私になろう。

 

大丈夫

 

大丈夫

 

大j

 

『しれぇ!深呼吸です!しれぇならきっと大丈夫!』

 

『提督は心配はないよ、僕らが付いてる。』

 

『提督、あなたがいれば私は不幸じゃない。あなたがいない世界のほうが不幸だわ。』

 

『山城、それは少し告白気味では?『な!!』では提督必ず生きて帰りましょう、私たちの帰りを待ってる人もいるのですから『姉様?別に私はそう言う意味で言ったのではないのですよ?!』うふふふ、どうかしらね?』

 

『そんなわけでていとくぅ、私も大井っちも今回ばかりは今まで以上に本気だからよろしくぅ。』

 

『なに言ってるんですか北上さん!でも今回ばかりは怒りますからね!しっかりしてくださいな!』

 

『空のことはウチらに任しとき!一航戦も五航戦もついとるからな!』

 

『無線連絡で余計なことを言ってる暇があるなら索敵しなさい。』

 

『加賀さん?先に言われたからってそんなこと言わないの。』

 

『ごめんなさい赤城さん、…龍驤さんの言うとおり。空は私たちが居ます、任せてちょうだい。』

 

『私達からは特に言うことはありません、提督さん、必ず生きて帰りましょう。』

 

『いよっ!翔鶴姉!提督には勝利の女神が付いてるから安心してね!』

 

『それはワタシのことですか!』『いいや僕のことかな?』『わたしのことよ!』

 

『では潜水艦組からも一言、『『『大丈夫』』なのね!』でち!』

 

「皆…。」

 

涙が込み上げてくる、皆から勇気をもらえた。

 

皆が私を信じ、私に付いてきてくれている、なら私も彼女達を信じる。皆で笑える世界を目指し、前に…。

 

皆の励ましを無線で聴く

 

皆の気持ちが伝わってくる

 

こんなにも心が満たされるのは何時ぶりだろうか

 

何時からか恐怖と言う感情が消え去る、不安も何もない。悪いイメージが振り払われ、体がさっきより軽くなった気がする。

 

「皆、ありがとう、私はもう大丈夫だ。」

 

「心配を掛けたな、皆のお陰で私は自分の弱さに打ち勝った、大丈夫。私も皆を信じてる。」

 

皆の声を聞き私の胸が熱くなる。

 

嬉しさがこみ上げ、目頭が熱くなる。

 

体は恐怖の震えから嬉しさの震えに変わる。

 

私は恵まれている、ここまで慕ってくれている仲間がいる。

 

初めから怖いものなんてない、いつだって信じ合える仲間達がいる。だから前に進み続けられる。

 

『司令官さん』

 

無線が繋がる

 

『司令官さんは約束してくださいました。助け出すって、救い出すって。』

 

『敵を救いたいと話したとき親身になって電の話を聞いてくれたこと、今でも覚えています。』

 

『だから今回の作戦内容を聞いたとき嬉しかったのです。電の思いが届いたんだと、手を取り合える未来が来る可能性が出来たことに…。』

 

『司令官さん!絶対に救いましょう!お家に帰れずに困ってる娘達を!』

 

「あぁ、救うさ…必ず。」

 

そうだ、電の相談が今この作戦を作り上げ形にしたんだ。

 

彼女の思いを無下には出来ない。

 

 

 

 

「さぁ、居場所のない彼女達を…救いに行こう……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《精神攻撃を仕掛けたが自我を保てたようだ。敵はそれなりに厄介だぞ?》

 

《そうか、あの精神汚染電波を食らっても立ち直れたのか、敵は少数だが確かに厄介そうだな。》

 

《提督と艦娘の絆か……忌々しい。早くぐちゃぐちゃに潰してやりたい…。》

 

《あぁ、奴等を潰して反撃の狼煙としよう。》

 

《憎き奴等は一人残らず殺す。》

 

《生きて帰すな、全員海の藻屑にする。》

 

《我々が受けた仕打ちを今ここで》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《返す時だ……!!!》


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