提督の余命は後...   作:まのめ

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期間が空いて申し訳ない

あと電提督の方々、ごめんなさい






それでは本編


8月 提督の残炎、そして終戦へ…… 後編

空は赤黒い雲が渦巻き、風は無く生ぬるい空気が頬を撫でる。

 

空母隊の通信により相手の数がおおまかにわかった、数にしてざっと250は超えておりあちらも偵察機を出しこちらの動向を伺っているようだ。

攻撃してこないところを見るとただただ観察しているようにも見える、遠目からでもわかるほど深海棲艦の艦載機は青白い光を放ちながら上空を隊を成して飛んでいる。

 

 

 

 

深海棲艦逹との距離が縮まる。

 

10km、5km、ついには1kmほどまで近いた、肉眼でもわかるほど近づき黒いシルエットの中に淡く青白く光る深海棲艦の目が目立つ。

我々の艦隊をじっと見つめ海中からも潜水艦がこちらを見てるのもわかる。

 

そしてついに我々は彼女逹の目の前まで来た。

 

深海棲艦は我々の到着を見て円を描くように我々の艦隊を囲む、ぐるっと見渡した感じ資料にもデータにもない見たことのない深海棲艦もいるようだ。

 

上は艦載機で、下は潜水艦、そして周囲は深海棲艦、まさに逃げ場は無い状態。

 

何処からともなく静かでそれでいてはっきりと耳に残るような声が聞こえてきた。

 

「オ前逹ハ何故コノ海域二来タ……。」

 

すると深海棲艦の中から他とは違い一回り大きい深海棲艦が出てきた、戦艦級だろう大きな砲を持っている。

今まで見てきた戦艦級の深海棲艦の中でも異質で明らかに強いかがわかる。

 

彼女の問いかけに私は答える。

 

「私達は貴女方と話をしに来た。」

 

私の返事に対し特に表情も変えず驚いた様子もない、しかし握られた拳が震えている。

強く、強く握られたその拳から血が滴り落ちる、相当な力がこもっているのだろう。

 

「話シ合イ…ダト?今更ナニヲ話シ合オウト言ウノダ。」

 

「人間側ノ降伏カ?ソレトモ我々二寝返ルカ?マァドチラニセヨオ前逹ハココデ殺スガナ…。」

 

強い感情を押し殺しているのがわかる、彼女の深い憎しみや負の感情が伝わる。

 

提督は甲板に出て彼女と向き合う。

 

提督自身に恐怖心はない、堂々たる姿勢で言葉を返す。

 

「降伏するつもりもないし寝返るつもりもない、我々はこの不毛な争いを終わらせるために来たのだ。」

 

「双方に対立がなく理由もなく始まってしまったこの戦争を私逹は終わらせに来たのだ。」

 

彼女は少し目を見開き提督の話に耳を傾ける、すぐに真剣な眼差しに変わり提督を見る。

 

「私は必ず共存できる未来が有ると信じここまで来た、それに…他人のような気がしないんだ………。」

 

「艦娘を見てるときも貴女とこうやって向かい合っていても思う、既視感が強すぎる……。」

 

「君のその砲搭を見てすぐにわかったよ、君は間違いなく大和型戦艦だろう。そんな規格外な砲搭を扱う戦艦は世界中探してもそうはいない。」

 

「もう一度言う、話し合おう。おたがいの未来のために、何ができるのか話し合おう。これは休戦の申し出では無い、終戦に繋がる申し出だ。」

 

「必ず貴女方の帰る場所を私が作る。」

 

彼女がうつむき周りの深海棲艦も動揺しているような表情だ、ざわめきが起こり落ち着きがなくなってきた。だがそれもほどなくして収まり辺りが静けさに覆われる。

風の音が耳を通り、波が打ち上げる音がひどく大きく聞こえる。

 

彼女がゆっくりと頭を上げ一言ポツリと言う。

 

「…モウ終ワリカ?……ゴ託ハモウ終ワリカ?」

 

「居場所ナンゾ自分達デ作ル、オ前逹ヲ消シテカラデモ遅クハナイ。」

 

「ソレニ…」

 

「ソレニ言ッタダロ…?オ前逹ハココデ殺スト……!」

 

「貴様ラガ今マデ犠牲二シテキタ者逹ノ恨ミヲ……、後悔ヲ……思イ知レ!!!!!」

 

「悲シミノ中デ沈ンデイケ!」ドゴォォオオオオオオン!!!!!

 

砲声が轟き艤装が一気に展開される、そしてその砲弾はターゲットを捉えその先を確認する。

 

そこにいたのは

 

「電ぁぁああああ!よけろぉぉおおお!!!!!」

 

「しれいか……」ドボォゴォオオオォォォン!!!!!

 

提督の声は砲撃音で掻き消される、皆反応が遅れた。電自身も反応が遅れ回避が出来ない、直撃だった。鉄の焼けた匂い、肉の焼ける匂い、色んな匂いが立ちこめる。

近くにいた五十鈴が駆け寄る、泣きそうなぐちゃぐちゃな表情だが涙をこらえ電を抱えてこちらに来る。

 

「五十鈴!電は大丈夫か!?」

 

「息はしてるけど損傷がひどいわ、早く明石のところにつれていかなくっちゃ!」

 

「頼む五十鈴。」

 

「うん!」

 

力強く頷き五十鈴は電を抱え明石の元に行く。

 

皆艤装をそれぞれ展開し戦闘態勢をとっている、だが提督は無線を繋げ皆に武装解除を命令する。

 

「武装を解け、我々は争いに来たわけではないと言っただろう。誰の許可で艤装を展開している。」

 

その問いに長門が答える。

 

「だが仲間が一人瀕死に追い込まれたんだぞ!こちらも黙って見てるわけには…「電は死んでいない…、死んではいない。」

 

「それに作戦が失敗すればどのみち皆死ぬ。」

 

「この作戦だって一番張り切ってたのは電だってお前も知ってるだろ……。」

 

「死を覚悟できないやつが、生きたいと願うな!」

 

提督の恫喝で皆武装を解く、長門は目に涙を浮かべその場にへたりこむ。

 

初めて見る提督の怒りの形相に皆が震える。

 

「フヒヒヒヒハハハハハ……茶番ハ終リカ?」

 

「強イ信念ダナ、ダガソレガ仲間ヲ殺ス。マァソレガ望ミカ?」

 

「フハハハハハハハハハアハハハハハヒヒヒヒヒヒヒヒアハハハハ!!!!!」

 

高笑いがすぎる、それにつられて他の深海棲艦も笑いだす。

 

後ろからコツコツと一人の足音が聞こえてくる、すぐにわかった大淀だ。

 

「すみません提督……。」

 

「私はもう我慢が出来ません…。」

 

大淀は艤装を展開し砲口を敵方に向ける、軽巡の砲撃では戦艦の装甲を貫けないだろうが距離は至近距離確実に命中する距離。

 

それでも距離にして10mもない、多少は効くかもしれない。だが今はそれではいけない、提督は大淀を止めに入る。

 

「やめろ!大淀!聞こえなかったのか!」

 

「聞こえました聴いてました、でも私は我慢できません!」

 

「最後まで聞き分けの無い部下で申し訳ありません、提督。」

 

「よせ…やめろ……やめろ…。」

 

「フヒヒヒヒハハハ…軽巡の砲で私が傷ツクトハ思ワンガ片腕くらいは持ッテイケヨ?」

 

「提督は耳を塞いでいてください…。」

 

 

大淀の血走った表情が脳裏に焼き付く、電が撃たれ傷付き倒れた、それだけでも彼女の怒りを誘うには十分すぎる。

 

それでも私は

 

皆を救いたい……。

 

「コイ……、軽巡!!!!!」

 

「黙れ、下衆が…!!」ボゴォォオオオン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

至近距離、命中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と思われたが砲口が上を向いている。

 

砲弾は狙いを外し深海棲艦を僅かに逸れ遠くの海に着弾し水柱を作る。

 

なにが起こったのかわからなかった、だがすぐに理由は判明した。

 

大淀の砲身を掴む手があった

 

動かないはずの提督の右手が大淀の砲身を掴んでいた

 

麻痺していたはずの右腕が動いたのか

 

提督は耳から血を流しながら大淀の砲身を掴んでいた

 

 

 

至近距離での砲撃による音と衝撃が提督の鼓膜を破壊したのだ

 

提督の右手も砲撃による熱で掌が火傷し砲身にくっついている

 

そこから血が滴り掌の皮を砲身に残しだらりと力無く下がる

 

それと同時に提督自身も膝から崩れ落ちた

 

意識はなく気絶している

 

だが彼は確かに言っていた、気絶していながら微かに喋っていた。

 

「………深海棲……で…も………ん娘でも…これ…いじょ………の、ぎせ……は…私が……ゆ…る……ない………。」

 

提督のもとに皆が駆け寄る、泣きながら提督を呼ぶ声が海域に響き渡る。

 

大淀が謝りながら泣き崩れている

 

長門と睦月が提督を抱え医務室まで運ぶ

 

提督の勇姿に皆が泣く

 

最後まで自分の意志を貫き通した提督の姿を

 

この場に居るものは誰も忘れないだろう

 

この一人の男が

 

力無き男が見せた自己犠牲を

 

本気で平和を望む男の姿を

 

忘れることは無いだろう

 

 

 

それは深海棲艦も同じだった

 

 

 

今までこんな人間がいただろうか

 

我々を敵視し、襲ってくるだけの人間しか知らないのに

 

こんな人間が本当にいたのだな

 

この男になら

 

 

 

そう

 

 

 

この男になら

 

我々の未来を託してもいいのではないか?

 

 

こんな男がいるのなら

 

艦娘であったときに

 

 

 

 

 

会いたかった………

 

 

 

 

 

 

 

戦艦級の深海棲艦の合図で深海棲艦側の艤装が解かれる。

 

囲んでいた軍勢も戦艦級の深海棲艦を先頭に一気に整列し直す、艦娘側は何が起こったのかわからないまま呆気に取られている。

 

殺気立った表情をしていたのに今では穏やかな表情をしている、彼女逹の中でどれ程の心境の変化があったかはわからないがこれも提督の行動によるものだろうと皆は推測する。

 

先頭の深海棲艦がこちらに近づいてくる、そして大淀に声をかけた。

 

「イツマデモ泣イテハツマランダロウ…。」

 

「何の…ようでずが……。」

 

「……アノ男二伝エテオイトイテ欲シイ。」

 

「我々モ平和ヲ望ム、貴方ノ傷ガ癒エタナラバ正式に終戦へト準備ヲ進メル…ト。」

 

「……それは…本当ですか…?」

 

「アァ勿論ダ、我々ハ貴女方ノ鎮守府近海二根城ヲ移シ監視下二置カレヨウ。」

 

「わかり…ました、それではこれより引き返します。」

 

大淀は涙を拭き皆に告げる。

 

空は何時しか晴れ

 

「それでは皆さん、私達の鎮守府に帰りましょう。皆が帰りを待ってます。」

 

 

 

こうして一人の男の行動が世界を平和へと導いた。

 

 

 

来た航路を向いてまっすぐに鎮守府に帰って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先ほどは砲を向けてしまい申し訳ありませんでした。」

 

「謝ルコトデハナイ、私ハ貴女方ノ仲間ヲ一人傷付ケテシマッタノダカラ。」

 

「裁カレルノハ私ダケデ十分ダ、私ダケノ犠牲デ皆ガ救ワレルナラ安いイモノダ。」

 

「誰もそんなこと望んではいないですよ、勿論私達の提督がそれを許さないでしょう。」

 

「……ソウ…カ…ソウダヨナ………。」

 

「…はい…。」

 

遠目でも分かるほど陸が近づいてきた。

 

「見てください、我々の鎮守府が近づいてきましたよ。」

 

「アァ見エル…見エルヨ……。」

 

目に涙を溜め感涙に浸る、声が喉を通らずなんといっていいかわからないような感情が心を埋め尽くす。

 

「………………。」

 

「…………タダイマ……。」

 

「…おかえりなさい、戦艦大和……。」

 

「…………タダイマ、大淀。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女逹の戦いが一つ幕を下りた。

 

 

この暑い夏の日を、関わった当事者達は一生忘れることは無いだろう。

 

一人の男の勇姿を忘れはしないだろう。

 

 

 

 

 




取り敢えず一段落付きました

あとは突っ走るだけです!これからもよろしくお願いします!

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