それでは本編
提督が息を引き取りました。
11月19日の朝、その日秘書艦を担当するはずだった大井さんが起きてこない提督を不信に思い、提督の自室に入り起こしに行った際、提督はすでに息もなく死後硬直も進み、冷たく、固くなっていたそうです。
享年28歳でした。
第一発見者である大井さんの話では、提督の穏やかな顔を見ていい夢でも見てるのかと起こすのが勿体なく思ったほど見てくれは死んだようには見えなかった、とのこと。
しかし吐息も聞こえなければ、胸の膨らみによる上下、誰も止めてくれなかったうるさいほどに鳴り響く目覚まし時計がその異常さに目を向けさせた。
大井さんが言うには提督の枕元に封筒が置いてあり、その中身は一通の手紙が入っていた。
提督から私達に向けた手紙が入っていた。
鎮守府に在籍する艦娘及び深海棲艦と妖精さん、憲兵の皆様へ
突然のお別れで申し訳ない。
私には今自分の死期がはっきりと分かるのです、手で掴めるように容易く分かるのです。
私なりに何か残せるものはないかと考え、艦娘と深海棲艦の皆にはビデオレターを残そうと思う。
まずは妖精さん、艦娘達の日頃の整備、戦闘での補助等々、私では到底出来ないような細かな仕事、作業から我々の任務達成に力添え頂きありがとう。
君達のまさしく縁の下の力持ちとも言えるその働きぶり、そして何より私についてきてくれたことにありがとう。
君達ほどのエンジニアは世界を探しても人間ではまずいないだろう。どうかこれからも皆の力になってほしい。
万全なサポートで彼女達を助けてやってほしい。
私の小さな小さな親友達よ。
次に憲兵の皆様、鎮守府における日常の風紀の取締りから警護、警衛に至るまで24時間体制で鎮守府を外敵から守っていただきありがとう。
諸君らのおかげで我々は遠征や演習、戦闘に日々集中して活動ができた。
本当に感謝している、ありがとう。そしてお疲れ様です。
私はもういなくなってしまうがこれからも彼女達をしっかりと取締ってやってくれ。うちの子達は何かと暴走気味だから、間違いを犯しそうになったら私の代わりに止めてくれ。
私の良き理解者達よ。
さて私の娘達よ、いつも元気で華やかで、綺麗で輝いてる私の娘達よ。
辛いときも、悲しいときも、苦しいときも、嬉しいときも、いつだって私達は一緒だった。共に学び、共に悩み、共に飯を食らい、共に喜びを分かち合い、共に分かり合い、共に成長してきた。
例え上司と部下の関係だろうが家族のように接し、友のように語り合い、遊び、そして我が子のように愛した。
愛しい愛娘達よ。
そして深海棲艦達の力になってくれ。彼女達に地上での生活のしかたを何から何まで教えてやってくれ、先輩としてしっかりと頼むぞ。
まだまだ言いたいことがあるが残りはビデオレターに残しているからそちらを見てくれ。文字で起こすには長々と書き上げてしまうのでなるべく自分の声で、言葉で君たちに私の気持ちを伝えたい。
私の自慢の娘達よ。
今までありがとう。
今日まで生きてこれたのは間違いなくこの鎮守府に携わってきた君達のおかげだ。
生きる意味を与えてくれてありがとう。
共に戦ってくれてありがとう。
そして深海棲艦の皆、今まで辛い思いをさせてすまなかった。これから君たちにとっても住みやすい世界になることを願っている。
私に出来ることはもうないが君達の安全を、幸せを誰よりも願っている。
最後に分かり合えたことは本当に嬉しく思っている。これからは地上での生活が待っていると思うが分からないことはうちの娘達を頼ってくれ、色々教えてくれるはずだ。それと、仲良くしてやってくれ。
これから色んな苦難が待ち受けているだろうがお互いに助け合って協力し合って乗り越えて行ってくれ。
もう深海に棲む必要はない、君達を艦娘として受け入れられる世界にすることが私の最後の仕事。
そう、これが私に残された最後の仕事だ。
君達を地上での生活が可能になるように各鎮守府に施設の建設を依頼している。これからは艦娘同様、寮生活をしてもらい艦娘として受け入れる計画だ。
最後まで立ち会えないのが無念だがこれからの君達の安全を私は誰よりも願っている。
誰よりも君達のことを想っている。
海軍大将 笹木原 優治
追記
艦娘達宛に作ったビデオレターは執務室の私の机の引き出しに全員分入っている。
実に提督らしい文章だった、皆を労う提督のその文章はまさに彼の人柄そのものだった。
提督の遺体を運んでもらい、葬式の準備が始まる。
悲しむものは多かったが、皆覚悟していたのか、なんとなくわかっていたのか、静かに、ただ静かに準備が進められていった。
棺に提督が納まり、白装束に身を包む提督。その周りには綺麗に飾られた花達がある。
遺影の提督はあの戦いの後に撮った写真で、痛々しい見た目ながらも元気に笑う彼の顔が写っていた。
こうして顔を覗き込むと、また優しい声で私達に話しかけてきそうな穏やかな顔、まだ生きているのではないかと錯覚してしまうほどだった。
各鎮守府から弔電が届き、提督が亡くなったことを改めて実感する。
葬送のラッパが鳴り響く
提督に別れの敬礼を行う
私達を置いて、提督は長い永い眠りについた
そう、私達を置いて
こうなることは分かっていた
去年からこうなることは覚悟していた
はずだった………
何も今でなくてもいいではないか、もう少しお話ししていたかった。
私の気持ちを、きちんと伝えたかった。
ですがもう叶わないのですね。
遥かに遠い、私達の知らない場所に行ってしまわれたのだから。
私もいつかは
貴方と同じ場所に行けるのでしょうか
そんな戯言を浮かべながら、私は今日を生きていく。
提督の残していったものを大切にしながら。
葬儀が終わり皆に自覚が戻ってきたのか、悲しさの波が押し寄せてきたのか、皆ほぼ同じタイミングで泣き始めた。
それまで誰一人として涙を流さなかったのに、今まで我慢していた分が溢れるかのように、涙を流した。
提督が私達を愛してくれたように、私達も貴方のことを愛しています。
お慕い申し上げております。
どうか私達の行く末を見守っていてください………。
「青葉さん、皆を体育館に集めてください。提督が私達に宛てたビデオレターの視聴を始めたいので。」
「夕張と明石は機材の準備をお願いします。」
「私はその間に提督が私達に残したビデオレターを全員分用意してきます。視聴が終わった後皆に配りたいと思いますので。」
くよくよしてはいられない。悲しんでばかりではいられない。
私達には明日を生きる理由があるから。
いよいよ次が最終話となります。
最後までお楽しみ頂ければなと思いますので、最後までよろしくお願いします。