これまでの集大成、今までの締めくくり、結にあたる話。この最終回を書くために今までの話があったようなもの、こういう最終回に初めからしたかったから話をそれに連なるように書きました。
ようやく書きたいことをまとめられたので良かったと思います。
それでは本編
「さて皆さん、これが彼の者が残していった日記の全文になります。長い間ご静聴頂きありがとうございました。」
私は提督が残していった日記を読み上げた。彼の気持ちが、思いが、願いが文を伝って皆さんに伝わった事でしょう。
声を圧し殺して泣く者、啜り泣く者、号泣する者の声で体育館はいっぱいになる。提督が生前に残していった日記、あの余命宣告から記録された提督の生きざま。途切れた日は提督が倒れた日や最後の戦いに出た日、療養のため入院していた日と一致するので提督がいかにマメに記録し続けてきたかが分かる。
「ここからは提督ご自身が私達に残したビデオ映像を見てもらいます。」
私はスクリーンに提督から受け取った最後のメッセージを映し出す。
『ちゃんと映ってるかな?』
笑顔で手を振りながらカメラが機能しているかどうか確認する提督。痛々しい見た目とは裏腹に元気な姿を見せてくれている。
『まぁいいか、青葉に借りた奴だし綺麗に撮れているだろ』
えぇ、しっかりと綺麗に映ってますよ提督。
『このビデオを撮るにあたって何を話そうか色々と考えたのだが長々と話すのはあまり得意ではないのでな、手短に済ませようと思う』
『今私の前にはこの鎮守府に在籍する全ての艦娘、深海棲艦が居ることだろう』
『私はこの先短いが君たちにはまだこれからがある』
『どうか互いに尊重しあい、思いやり、助け合ってくれ』
『この世界には君達の力が必要だ、これからも幾度となく危機が迫ることだろう、そのときは我々人類の力になってくれ』
『だが正義だけは履き違えないでくれ』
『戦の道具にはならないでくれ』
『自分の命を大切にしてくれ』
『自分がやって来た事を後悔せず生きてくれ』
『そして』
『先に旅立つ事を許してくれ』
『もう少し皆と一緒に居てやりたかったが神様ってのがそれを許してはくれないらしい』
『だからどうか、私という提督がいたことを忘れないでくれ』
『君達の事はずっと………見守っている』
提督のビデオレターが終わり、皆が解散する。
体育館の出入り口には明石と夕張が退館する者に提督のビデオレターを渡している。
提督が私達に宛てたビデオレター、一人一人に宛てたビデオレター。
ビデオレターを見て、提督が逝ってしまわれたのだと再度認識する。
もっと貴方の側にいたかった。
これからは貴方が遺したこの鎮守府をしっかりと運営していかなければなりません。貴方と共に成長してきたこの鎮守府を。
それにしても貴方が遺していったものはあまりにも大きすぎる。
こんなにも早くに貴方を失うことになるとは思わなかった。
こんなことになるならと後悔することもあった。あのときああしとけばよかったと今になって思うこともある。
しかしそれを嘆いていても始まらない、私達は新しい一歩を踏み出さなければならないのだから…。
新たな風を感じて、私達は前を向いて歩いていかなくてはならない。
提督が亡くなってから7度目の夏が来ました。
あの戦いから7年が経ったのです。
時の流れとは本当に速いものですね。
今でも貴方が遺したビデオレターを見るときがあるんですよ?
貴方の声を忘れないように。
私達が7年もの間何をしてきたかと言うと、足りない知識を補ってきました。
私達は自分達で生きていくだけの知識を学びました。
人手は多いので色んな分野のことを学びました。
畜産や農業、商業や工業、政治に法律、様々な資格を取ったりと、私達は色んなことをしてきたんですよ。
無知なのは罪ですから。
提督が目指していた世界とは少し違いますが、私達は皆、無事に、元気に生きています。
そう
提督が目指していた世界とは少し違うのです。
提督が目指した世界には、どうもなれそうにないみたいです。
あの人柄の良い元帥等が暗殺されてから世界はおかしくなりました。
日本はおかしくなりました。
元帥等は提督が亡くなってから3年後に何者かによって殺されたのです。事故死に見せかけられて…。
それからと言うもの世界は争いをやめず、激化し、私達を軍事利用しようとした。ですが私達はそれに反発、そうしたら売国奴、使えない鉄屑なんて不名誉なことを言われる始末。
私達にだってココロはある、機械よりも生命体に近い存在なのだから。
さらに奴らは貴方を愚弄し、厄災を持ち込んだ祟り神、悪魔を育てた提督の異端と呼んでいるのです。
国民から、政治家から。そして軍の人達からも。
この世界を救った提督への恩を忘れ、奴らは提督に対し死屍に鞭打ちをしているも同然の行いを続けてきた。艦娘の在り方を、深海棲艦の在り方を確立してくれた提督に私達はもちろん世界中の艦娘、深海棲艦が感謝しています。
だから私達日本はもちろん、世界中の艦娘と深海棲艦達に協力を要請し、人類に対し宣戦布告をし、一方的な虐殺を始めたのです。
正義だの悪だの関係ない、私達で選んだ茨道。
貴方が去ってからこの7年で、世界は大きく変わりました。私達のココロも…。
人間とは醜く浅はかな生き物、提督のような人はごく僅かだということ。これが私達が学べた、最大の社会勉強でした。
人類は私達に抵抗できる武力を、軍事力を持たない。
陸軍は私達の装甲を貫けない。
空軍は空母の艦載機に蹂躙される。
海軍はイージス艦等だけを残し全滅。
イージス艦等を沈めて、また新たな艦娘が生まれでもしたら困りますからね。
流石に驚異になりかねないですしね。まぁ人が乗っていればの話ですが…。
腐っても私達は戦う艦を模した人型の兵器ですからね。人類が持つ兵器より性能が違うのでしょう。
この時のために緻密に計算し、長い時間をかけて作られた作戦。
作戦自体は至ってシンプルなもので、世界中の各都市を同じ時間に一斉攻撃を仕掛け奇襲をかけるというもの。
ただシンプルだけど攻撃のタイミング、休止点、前進速度やイレギュラーに対する考慮、その国の防衛手段や軍事力等の入手。この作戦を容易に行うために皆には危険なことをさせてきました。
そのおかげで世界中あちらこちらで大パニックをおこし、軍が出ても壊滅され、市民は逃げ場を失い、僅かな抵抗も私達に傷1つ負わせる事も殺すことも出来ない。
もう誰も私達を止められない。
もう幾つの都市を焼け野原にしてきたか分かりません。
もう幾つの国を地図から消したのか分かりません。
私達は罪なき人たちも殺していると自覚しています。もう後には引けない、戻れない。
ですから提督、私達は貴方の言いつけをどうも最後まで守れそうにありません。
私達の行っていることは決して善ではない。
はっきりとした黒、悪なる行い。
馬鹿な娘達を許してください。
ですが私達は人間を許せないのです。同じ種族で争いを生み、互いに助け合おうとせず、互いに分かり合おうとしない。あまつさえ自分たち以外は便利な使い捨ての道具程度にしか思わない。そんな人間が許せないのです。
貴方が育てた娘達は誰一人欠けること無く、世界中を蹂躙しています。
不意に私の思考を遮るように無線が通じる。
『大淀、聞こえるか。』
『各都市と主要国家の機能停止、最早足掻く蟻同然だ。これより内陸部に進行する。』
「了解、引き続き作戦を実行してください。唯一人の生き残りも許しません。休止点では必ず点呼を行い、小隊の損傷の具合から弾薬の持ち数、燃料の残り等をしっかりと掌握し私に報告してください。くれぐれも怪我はしないように。」
『分かっている。私達の提督を愚弄する愚かな種族なのだ。もとより死は決まっている。確実に息の根を止めるさ。』
「頼みましたよ、私もそろそろ次の作戦位置に移動します。」
『了解。』
無線機を通して砲撃の怒号、悲鳴や泣き叫ぶ声が鳴り響く。
弱いものイジメは気が引けますが。
この70億人の虐殺が終わってからでも平和な世界を築いていこうと思います。そうすればきっと皆が心から笑ってくれるはず、貴方と居たときのように皆が笑ってくれるはず。
私達が人類の歴史を終わらせなければならない。
人類を救うにはこれしかない。救いようのない者は、こうするしか救えない。
さぁ、今日も一方的な殺戮が始まる。
「提督の余命は後…」ご愛読ありがとうございました。
本編はここで終わりとなります、今まで本当にありがとうございました。最後まで書き通す事ができたのは読者の皆様のおかげです。
仕事に追われながら、この小説を通して私なりの「艦隊これくしょん」を表現できたと思っています。
これが私の世界、と言うわけです。
少しでも楽しんで頂けたのなら光栄です、それでは次回作でお会いしましょう。
今までお付き合い頂きありがとうございました。