刀使ノ巫女 ~信じた思いは煌めく刃となりて~ 作:巻波 彩灯
最近は新作小説の設定に勤しんでいました。でも、更新の事は忘れていませんでしたよ。
ゲームの方ではちょいちょい動きがありますね……今月でアーカイブスのイベントストーリーも終わりですよね。全然やれていない()
今回も果てしなくグダっています。それでも読んでやるぜという猛者は本編へどうぞ。
では、また後書きの方でお会いしましょう。
「ぐわ~! まさかとんぼ返りするとは思わなかったぜ……!」
車から降りると凪沙は体を伸ばす。一、二時間程度狭い場所に閉じ込められ窮屈な思いをしていた。
彼女の性分的に車移動は苦手なのだが、命令で東京から鎌倉まで乗せられたのだから仕方ない。
「そうですね。このまま、単独行動するのかと思いました」
紗夜も続けて降りる。彼女の隣には白髪のショートヘアの小柄な少女が俯いていた。
与えられた任務を失敗したという気まずさもあるのだろうが、そもそも人と話すが得意ではない事も起因しており、他人とはあまり顔を合わせたくないようだ。
しかし、紗夜は彼女の意をあえて無視して話しかける。
「紗耶香ちゃんはこれから学長と……だよね?」
「うん、多分」
あの高津学長のお気に入りである沙耶香とはすぐさま別れてしまうだろう。もう少しだけ話をしたい。
紗夜がそう思った矢先、例の人物が現れる。――高津雪那だ。
「紗耶香! 無事で何よりだわ」
雪那は脇目も振らず紗耶香のところへ駆け寄り、彼女を抱きしめる。
近くにいる凪沙や紗夜、ここまで彼女達を運んできた管理局員に労いの言葉一つもかけない。
それどころか、高圧的な態度で罵りの言葉を一つ二つと言い連ねた。あらかた罵詈雑言を言い終えた後、沙耶香を連れて立ち去っていく。
「相変わらず、いけ好かねえババアだぜ」
凪沙の発言に紗夜はただ苦笑いを浮かべるしかなかった。口は悪いが概ね彼女の意見には賛成している。
それでも自分が在籍している学校の学長だ。いや、その地位でなくとも表に出すのはいささか気が引ける。
紗夜は言葉を素直に吐ける凪沙が羨ましくも思っていた。
一方で年少組は車内で爆睡していた明を起こすのに苦戦していた。
「おい、起きろ明!」
「起きてよ! お姉ちゃん!」
先程から激しく体を揺さぶり、彼女の耳元にそれなりに大きな声量で声をかけているのだが、一向に起きる気配がしない。本人は夢心地に浸っているのか、とても幸せそうかつ満足そうな顔をして眠っている。
「はぁ……これはダメだな」
玲は匙を投げ、車から降りると建物がある方角へ目を向けた。そしてこう思った。ここがかの高津雪那が学長を務める鎌府女学院かと。
玲は折神家の敷地に行く事はあったけれど鎌府女学院に行く機会には恵まれず、行った事がなかった。しかし、噂は兼ねてから聞き及んでいる。あれこれ黒い噂が立ち込めていると。
そこまで信じていなかったし、気にも留めない。それよりも明がいつまで寝ているつもりなのかの方が気掛かりだ。
とはいえ、手段は出し尽くしている。まだ起きないだろうと判断した玲は彼女を背負って運ぶ事を思案しながら、ここまでの経緯を振り返る事にした。
敵対している部隊と交戦した後、和宗からの命令で紗耶香を保護しに行く事になった。
無事に彼女を保護したら、和宗に連絡し派遣された管理局員が運転する車二台と合流。二手に分かれて乗車し、ここに辿り着いた。
車に乗るとすぐに明は眠ってしまった。元々戦闘で切り込まれていたのにも関わらず、写シを剥がさなかった反動だろう。だから、そのまま放っておいた。それが今の状況にも繋がる。
もっと早目に起こしていた方が良かったのだろうかと少々後悔したところで間の抜けた声が聞こえてきた。
「いやぁ~、よく寝ちゃったよ~」
声がした方向に顔を向けると加守姉妹が並び立っている。方や疲れ切った表情で隣の人物を見つめ、もう片方はその視線の意を解せず体を伸ばす。
玲は伸びを行っている明に歩み寄り、怒気を静かに孕ませながら一言。
「ようやく起きたか、寝坊助」
日は昇っており、鎌府女学院の生徒達があちらこちらへと行き交っている。その中で明は校内を見て周っていた。
校舎内は解放感溢れる食堂と美濃関とはまた違った趣がある図書室だけを周り、その後は武道場を覗いていただけ。
大して周っていると言い難いが、彼女は気ままに散歩しているだけだから特に気にしないだろう。いや、気にするはずがないと言った方が正しいか。
千晶や玲などのここ数日行動を共にしていたメンバーは隣にいない。皆、昨日までの疲労が溜まっており寮で休息を取っている。明だけいつでもどこでも爆睡していた為、日がある内に起きて行動できているのだ。
「昨日の戦いは大変だったな~」
少し休憩で近くにあったベンチに座る。そして昨日の事を思い出す。
昨日は恐らくテロ組織側と思われる部隊と交戦。その中で明は二刀を扱う刀使と戦った。実力差は大きくあり、玲のフォローがなければ、まともに立ち合う事ができなかった。
だからと言って悲観的にはならない。悲観的に捉えたところですぐに強くなれる訳でもないからだ。
それなら前向きに考えていた方が良いだろう。と考えるのだが、これはこれで玲に怒られそうだなとも思った。
自分がそこまで考える事はしない分、彼女はもっと考えている。こればかりはもう少し見習った方が良いかもしれない。
「おねーさん、そこで何してるの?」
不意に呼びかけられ、自分の世界から脱する。声がした方に視線を合わせると自分より小柄で幼げが残る少女が目の前に立っていた。
少女は腰に御刀を携えている。つまり、刀使だ。身に纏っている服装は鎌府女学院のものではなく、茶色を基調とした制服。似たような服装をどこかで見た事がある。
「私? 私は日向ぼっこしているんだよ~」
「何それ? つまんなくない?」
「う~ん、こうやってお日様に当たっているのは気持ち良いよ? 後、お昼寝もできるし」
「おねーさん、絶対後の方が目的でしょ」
少女は呆れたように明を見つめる。薄紫のロングヘアーが風でふわりと揺れた。
「あ~、バレちゃったか~」
明は少女の言葉に緩く笑った。そこまで考えていなかったが、結局そうなるだろうから肯定するしかない。
ここに来ても彼女のペースは変わらず、至って普段通りに過ごしているだけ。ある意味、才能と言って差し支えないだろう。
場所や状況が変われば、人は今までのペースを大小関わらず崩す。酷い者には寝る事さえままならないという者さえいるのだ。
特に刀使は向かう先により環境の変化が激しい。それだけに彼女のマイペースさは刀使に向いていると言える。
「刀使らしくないよね、おねーさん」
「そうかな~? そうかもしれない」
明は刀使らしくないという言葉は聞き慣れていた。自分でもそう思う。ここまで呑気でのんびりとしている人間はそうそういないだろうと。だからと言って、今さら変える気もないのだが。
「そういえば、おねーさん。鎌府女学院の人じゃないよね?」
「それ、今聞く?」
「うん、今聞くの。おねーさん、弱そうだから相手にしないけど面白いから案内してあげよっかな~って」
「ほへ~、そうなんだ。じゃあ、お言葉に甘えて案内してもらおうかな」
弱そうという単語は聞き流し、少女の提案に乗る明。実際、御前試合に出場する為の予選では二回戦負けをしているし、昨日の朝に行われた稽古でもボコボコにされていたから弱いのは否定しない。いや、否定できない。
だから、弱そうと言われても何も言わない。言っても意味がないのは自分が一番分かっているからだ。
「にひひ、じゃ結芽のとっておきの場所へ案内するね」
結芽と自分の事を差した少女はとても悪戯っぽく笑い、先を行く。明はベンチから立ち上がり、少女の後ろを付いて行くように歩みを進めた。
結芽という少女が案内してくれた先は鎌府女学院よりも古くに建てられたと思われる建築物の軒下。折神家の屋敷の一部だろう。
目の前には脚立を使い天井に向かって何か作業している茶髪の少女が一人見える。
「刹那おねーさーん! 何しているの~!」
その呼びかけに応じるように作業していた人物は振り返って、こちらを見つめる。近眼なのかは不明だが、赤い瞳が睨み付けるかの様にも見えた。
そんな彼女だが鎌府女学院の制服に御刀を佩いている姿から刀使である事は間違いないだろう。
「結芽様……結芽様こそ私に何の用でしょうか?」
「もう! 刹那おねーさん、相変わらずカタイ―! って、あれ?」
刹那と呼ばれた少女の背後には、土や草などで固められた鳥の巣があった。その巣の中には雛鳥が何匹もいる様子が窺える。何の鳥の巣だろうかと結芽が思った瞬間、
「燕の巣だね~、縁起が良いね」
と一緒に来ていた明が口を開く。実家にも燕の巣があったなと懐かしみがら。
「ええ、そうです。……今はそれの保全作業をしていました」
刹那の説明を聞いて明はなるほどと思った。燕の巣の周りには落下防止や風よけ用に張られた桶や板がある。確かにこれは実家にもあった光景だ。
「あれが燕の巣なんだねー、初めて見たかも」
結芽は二人の会話を聞いて疑問が解決したと同時に少し親近感のようなものが湧いていた。自分の苗字が「燕」、その鳥を意味する漢字を使っているからだ。
「……近頃は確かに見かける事はないですね。私も地元では見かけませんでしたし」
「でも、私はたまにコンビニとかで見かけるよ~」
「え? おねーさん、もしかして燕ハンター?」
結芽は明に顔を向ける。偶然出会って気まぐれに案内をしている相手が目敏い方だとは思わなかった為、意外だと感じた。それほどに結芽にとっては燕という鳥は珍しいものだと考えていたからだ。
「そうかな~? 多分、住んでいる地域とか任務の問題だと思うよ?」
明は肯定はしなかった。美濃関付近の地域ではそこまで見なかったが、遠征任務で赴いた先の民家や商店でそれなりに見かけている。しかし、活動している地域によってはほとんど見ない事もある為、一概にも自分が燕を見つけやすいとは思えない。
ただ幸運の印を見かけるのはとても良い事だろう。燕は住み着いたところに福を与えるが、見た者にもきっと恩恵はある。そう前向きに思えるのが明だ。
「そっかー、ここら辺は古いのにあまり見かけないもんねー」
「環境の変化もあるでしょうけど、そういう風習が廃れていると風の噂で流れている程ですから……」
と刹那は少し落ち込んだ表情を見せる。荒魂の襲撃で巣が壊れたのを見かけたり、邪魔だからと撤去したという話を聞いたりした日には涙が溢れ出そうな思いをした。
それだけ彼女は心優しい。だから、今あるものを守っていきたいと思ったのだ。
「でも、ここに巣があるんだし、それで良いんじゃない?」
無責任で他人事とも取れる明の発言。しかし、刹那は肯定した。
「ええ、そうですね。私やこの事を知っているメンバーで大事にしようと思います」
話が一段落したところで、遠くから人を呼ぶ声がする。明達は声がした方に目を向けると、顔や背格好が良く似ている二人組の少女達がこちらへやって来るのを視認できた。
「上条先輩、ここにいたんですね! ……って、燕様もいるじゃないですか!」
「え、何? 私にも用があるの?」
この二人の事を知っている結芽は自分に用事があるとは思ってもいなかった。
何せ、この二人は自分のお目付け役ではなく、親衛隊第一席と第二席の部下。あるとしたら、一席の部下である刹那にだけだろう。
「ええっと、燕様に用事があると言えばありますけど……」
一人は表情を次々に変化させる。元から感情の起伏が大きい性分なのだろう。
しかし、方やもう一方は特に顔色を変えず、話題を切り出す。
「燕様、
「……綿貫先輩が? 獅童様は何か遠征に行かれるのですか?」
「その様です。詳しい話は集合した後に……」
「分かりました。向かいましょう」
そう言って刹那は結芽に「すみません、結芽様。お話はまた後で」と告げ、双子の刀使達と一緒に立ち去った。
「刹那おねーさんも忙しそうだなぁ~……」
結芽の声は少し寂しげなにトーンだった。ここ数日、遊び相手や話し相手が減ってきたせいで少し退屈な思いをしてきているからだ。
「らしいね~、でも君も何か呼ばれてなかった?」
「あっ、そういえば恋歌おねーさんが捜しているって言ってたね……って事は……」
噂をすれば、結芽の事を呼ぶ声が聞こえてきた。随分と荒々しく怒鳴っているの様にも聞こえる。
「やっば、見つかると面倒だから逃げよっと」
「え?」
「じゃあね、おねーさん。今度会ったら、遊ぼうね~!」
「あ、う、うん?」
急に置いていかれるという展開に流石の明も戸惑う。そもそも結芽が案内すると言い出して付いてきただけだから、この事態は想定していない。だが、そこまで気にせず再び敷地内探索しようと切り換えた。
「さてと、もうちょっと歩いていこうかな」
……彼女は気付いていない。先程まで話していた結芽という少女が折神家親衛隊第四席、燕結芽である事を。
そんな事に気付いたところで特別意識する彼女ではないのだが、それでもこれはこれで鈍感すぎるだろう。
明はその事実に興味を向けないまま、呑気で気ままに敷地内探索を楽しんでいた。
夕刻、明達は夕食を済ませた後に和宗がいる研究棟に集まっていた。次の任務に向けて招集がかかったからだ。
「お集まりいただきましたね。では、あなた達の任務について説明します」
小さな会議室で美咲希が部屋の一番奥に立ち、淡々と話を進める。追跡隊は各々好きな席に座って、耳を傾けていた。
しかし、この部屋にはもう一人いる。褐色の肌に長い黒髪を一つに結わえた少女が場を盛り上げようと口を開いた。
「美咲希さん~、そんな冷たい声だとアタシやる気出ないぞ~」
「余計な事は口に出さないでください、富張さん。質疑応答は後で行いますから」
「いや~ん、美咲希さん、冷た~い!」
口ではそう言っているものの
美咲希は全くもって彼女の反応を無視して話を続けた。
「昨夜、衛藤可奈美、十条姫和の両名が乗っていたと思わしき車を特定しました。そしてその両名が向かったされる場所も推定しました」
美咲希は言い終えた後、デバイスを操作してスクリーンを起動させると地図を画面に出した。逃走者達が現在いるであろう場所に赤いマークが示している。
「ここは……静岡ですか……?」
紗夜が確認の為に質問する。真面目な玲や千晶もその場所を凝視していた。
「はい、そうです。静岡県伊豆市にある山に彼女達は逃げ込んだのではないかと思われています」
「思われていますって、またアタイらはあやふやな情報に振り回されなきゃいけねえのかよ?」
「いいえ、今度は違います。親衛隊も出撃するとの事なので、比較的信憑性が高い情報だと信用してもらって構いません」
「親衛隊が? 獅童達が出るのか?」
凪沙は眉間に皺を寄せる。親衛隊が現場に出るのは、よっぽどの限りでないと機会はない。自分達の不甲斐なさもあるのだろうが、折神家自体もこの案件を重く見ているのが確かだと窺える。
これは思っていたより大事だぞと凪沙は改めて感じた。何せ、親衛隊まで出動するのだから。
「はい、獅童さん、此花さん、皐月さんが現場に行くと連絡が来ました」
「それもあってアタシも呼ばれたんだよね~。まだ見ぬ美少女達に会えるのも楽しみだし、マキマキ達のお手伝いもできるのって最高!」
「富張さん、口を慎んでください。まだ説明が終わっていません」
辛辣とも取れる一言が美咲希の口から発せられるが、鳳蝶は特に気に留めていない様子。それどころか恍惚な表情で美咲希を見つめているものだから、周りの人間に引かれてしまっている。
「それであなた達、追跡隊には親衛隊と共に伊豆に向かって逃走者達の捜索及びその身柄の確保をお願いしたいと思います」
「やる事は変わらないと捉えて良いんですね?」
玲は無機質な美咲希の目を見て言う。任務の内容はこの部隊が結成された時と同じ、増えたのは人数だけだ。
「はい、そうです。他にもあなた達が遭遇した部隊との交戦も想定してもらえばかと」
「そうですよね……私達がいて、あの人達がいないとは限りませんよね……」
千晶は少し不安そうな顔で呟く。個人差はあれど技量的には向こうの方が上だ。
その根拠に自分は外国人のような刀使と刃を重ね押されていた。勝つ可能性はないのかもしれないが、厳しいのは目に見えている。
「今回限りですが、戦力増強として富張さんにも出動してもらう予定です」
「という事で、アタシ富張鳳蝶をよろしくね!」
キラッという効果音が似合いそうな程の決め顔でアピールする鳳蝶。ただ追跡隊の大半はどう受けて止めて良いのか分からず、困惑するばかり。
「話の合間に答えてしまいましたが、質問はありますか?」
美咲希は何事もなかったかように進行を進める。鳳蝶がどんなに変人だろうが、興味はない。ただ和宗から言い渡された情報を彼女達に伝えるだけで良い。
「あ~、あんたには質問ねえが富張に聞きたい。お前、強いんだろ? 後でアタシと手合わせしようぜ!」
凪沙は左隣にいる鳳蝶と顔を合わせる。元々親衛隊の部下、そして今回の助っ人。つまりは確かな腕を持っていると信用しても良い。
しかも、今日は止める役がいないから誘っても怒られる心配もない。後は本人の意思だけだ。
「ふふっふー、良いよー! 私も凪沙ちゃんのような子に攻められるのは悪くないからね!」
「っしゃ、決まりだな! この後すぐにやろうぜ!」
「他に質問がある方はいますか?」
勝手に事を進めている二人を傍目に美咲希は他のメンバーにも質問がないか確認を行う。大体の事は分かっているから質問する必要がないと紗夜が代表して伝えた。
その意に美咲希は「そうですか。では、出発まで各自準備を整えてください」と言った後に解散を宣言する。
宣言後、各々が行動を起こしている中、鳳蝶は見つめていた。会議中、一言も話さなかった明を。
明は作戦会議が終わった後、寮の自室には戻らず外へ散策に出ていた。美濃関にいた頃も事が落ち着いたら夜の間に散歩をしていた。今は肩に相棒がいないだけで何も変わりもしない日課。
「みーつけた!」
急に声が聞こえたかと思えば、背後から誰かに抱き着かれた。明は特に動揺せず「誰?」と言い返しては抱き着いてきた腕を見る。
肘までの長さ白い手袋に鎌府女学院の制服……先程見たばかりのものだと考えていたら、相手が返答した。
「むふふ、誰でしょう?」
声質からして少女のものだが、調子が完全にセクハラを楽しむおじさんだ。明の中でそんな話し方をする人間は一人しか思い浮かばない。
「アゲアゲ……?」
「せいかーい! アタシは明ちゃんのアゲアゲだよー!」
「何でこっちに? ナギナギ先輩とはどうしたの?」
自分の用件をさっさと口にする明に鳳蝶は思った以上に読めない子だなと感じながら言う。
「それは後にしてもらったんだよ~。明ちゃんの事が心配でさ~」
「あれ? 私、アゲアゲに自己紹介したっけ?」
「そんな細かい事は良いんだよ! アタシは元気のない美少女が放っておけないの!」
と言い、鳳蝶は顔を明の顔に近づける。明は特に拒まないし、気にもしない。
「ねえねえ、明ちゃんはちゃんと休めたの?」
「休めたというか、結構寝たよ」
「そう? そのわりには少し疲れている感じがするんだけど」
先程の欲望丸出しとは打って変わって、本当に心配そうな顔をする鳳蝶。何となくだが、今の明は元気がない。そんな気がする。
「おかしいな~、車の中で寝ていたし、部屋に入った後もすぐに寝たんだだけど……」
明はそう言われるのが不思議だと言わんばかりの調子で言う。車の中ではかなり熟睡していて、着いてからも起きなかったと玲や千晶に言われた。部屋でも横になって休んでいたら目が覚めた頃には朝を迎えていた程だった。
まだ昨日のダメージが残っているのだろうか。確かに写シを剥がされる程に切り込まれては耐えていたのだから、精神的な疲労はどこかにあるかもしれない。
けれど、いつだろうとどこだろうと寝れるし、寝ていたのだから疲労はほぼ回復しきっているはずだ。
……こんな事を気にしても疲れるだけから、それ以上は考えもしないように明は究明を止めた。
「なんとかなるんじゃないかな。そんなに動きが重たいって感じていないし」
「うーん、そっか」
鳳蝶は明の答えを聞くと彼女を解放する代わりに眼前へと躍り出た。
背も高くスタイルも抜群な美少女なのに、口を開けば願望に正直な言葉が飛び出る鳳蝶。今の彼女はどこか寂しげで大人びた表情をしている。
そんな彼女を明はじっと見つめた。何事も受け止める茶瞳が静かに鳳蝶の言葉を待つ。
「でも、無茶しちゃ駄目だよ? その為にアタシがいるんだから」
「分かっているよ、かなちゃん達の事を止めるまでは倒れるつもりはないから」
明の瞳には強い光が一筋通っていた。
次からはようやく山狩りに入ります。マジで長かった……。
それとちょっと質問なんですが、ウチの明についての事をお聞きしたいなと思っています。活動報告を設けていますので、気が向いたら何か書いてくださると嬉しいです。
当該する活動報告→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=226193&uid=201775
では、今回はこの辺で筆を休めたいと思います。感想もお待ちしております。