刀使ノ巫女 ~信じた思いは煌めく刃となりて~ 作:巻波 彩灯
このキャラの話し方、これで良いんだっけ? と迷いながら書いていましたのでおかしい所があるかと思います。その際は誤字報告してくださると助かります。
では、後書きでまたお会いしましょう。
美濃関学院の代表が決まる頃、他の学校の代表も決まった。そして会場である鎌倉へと代表選手が向かう前夜、美濃関学院女子寮の敷地内にて――。
「いや~、今日もお月様が綺麗だね~」
明はTシャツにハーフパンツといった姿で散歩していた。彼女の肩にはカブトムシのキヨマサがいる。
「明日はかなちゃんとマイマイを見送って、明後日には試合か~……今年はどんな人が出てくるんだろうね?」
肩に乗っているキヨマサに話しかけるが、キヨマサからは何も答えが聞こえて来なかった。しかし、明は気にも留めず話を続ける。
「去年みたいに居合いで戦う人もいるのかな? それとも見た事のない動きをする人がいるのかな? 何にしても楽しみだなぁ~」
独り言にしか聞こえないが、彼女はキヨマサと会話しているつもりだ。キヨマサも声は出せないが反応はしている。しかし、傍から見れば彼女は大声で独り言を言っている変人にしか見えない。
「私も強くならきゃな~……去年はかなちゃんに、今年はみーちゃんと負けているから来年こそは……!」
来年への抱負を意気込んだ後、自室に戻る為に建物内へと向かった。今夜は少し長くなりそうだと予感しながら……。
明は自室に戻ろうと廊下を歩いていたら、見知った人物が目の前を歩いていた。
「あれ? マイマイどうしたの?」
「あ、明ちゃん」
舞衣はワンピース姿であり髪を下の方で結んで下ろしている所為か、普段とは違う雰囲気が感じられた。その手には新幹線のチケットが二人分ある。
「可奈美ちゃんと明日の事を少しね……明ちゃんは散歩帰り?」
「うん、そうだよ」
「やっぱりね」
相も変わらない明に舞衣は優しく微笑む。対して明は舞衣が手に持っている物を見て改めて舞衣の言った事を理解した。やはり舞衣がそれを持っているんだなと。
「ねえねえ、今からマイマイの部屋に行って良い?」
「良いよ。明ちゃんの事だから言うと思っていたし、それに……」
舞衣の表情が曇る。何か悩んでいる様子だがすぐに誤魔化す様に笑みを浮かべた。
「私に話したい事でもあるの?」
舞衣から何かを察した明は穏やかな口調で訊ねる。舞衣はあまり悩みを表に出そうとせず抱え込むところがある事を知っているからだ。
「う、うん。そんなところかな……」
「じゃあ、決まりだね!」
そう言うと明は強引にこれから向かう部屋の主の腕を引いて、舞衣の部屋へと足を運んだ。
舞衣の部屋に入ると明は早速くつろぐ。まるで自分の部屋の様に。その様子に舞衣は苦笑いを浮かべていた。
「いやあ、マイマイの部屋っていつ見ても綺麗だよね~」
「そうかな……明ちゃんの部屋も綺麗だと思うよ?」
そう言いながら舞衣は飲み物を用意し運び床に置くとその場に座った。明は礼を言い舞衣が用意した飲み物を一口飲んだ後、話を続ける。
「私の部屋はそんなに物がないだけだよ」
明は飾り気のない自身の部屋を思い浮かべた。私物はそれなりにはあるが、この寮に来た頃とは荷物の量は大して変わっていない。強いて言えば、教科書やノート、衣類が少し増えたぐらいだ。
「そう言えばそうかも。明ちゃんの部屋ってあまり変わっていないって感じはするね」
舞衣も納得する。一年前に訪れた時と最近訪れた時と部屋の雰囲気は変わっていないし、そこまで物量も増えていない様に感じていた。
明はキリが良いと思い、一呼吸後に次の話題へと話を変える。
「ところでマイマイ、話したい事って何?」
ようやく本題に入った。明は舞衣の事を真っ直ぐ見つめる。舞衣は少し考え込んだ後、口を開いた。
「実はね……どうしたら、可奈美ちゃんに追い付けるのかなって……」
それを聞いた明は大して驚かず、ただじっと舞衣を見つめていた。舞衣は少し苦笑いをして俯く。
「変かな……? 変だよね……」
「私は何も変だと思わないよ」
「え?」
「私も似た様な事を考えていた事あるから変だとは思わないよ」
いつになく真剣な表情の明。彼女もまたそう考えさせる人物が近くにいる。
「明ちゃんも……? ちょっと意外かも」
「え? 意外?」
「うん。明ちゃんって、そういう悩みは無さそうに見えたから」
「あ~、確かに。悩んでいる時だって結局はまっ、いっかって考えちゃうし」
やはり明は明だったと少し安心したと同時に少しだけ羨ましく思う舞衣であった。
「でも、負けたくないと言うか引き離されたくないって言う気持ちはあるよ」
明は少し恥ずかしそうに後頭部を掻きながら視線を逸らす。呑気な彼女からして珍しい。しかし、彼女もまた人だと言う事を示していた。
「そっか、そうなんだね……私達って意外と似た者同士?」
「そうだね。同じお姉ちゃんだし」
「確かに」
舞衣の方がお姉さんっぽいが二人とも下に妹がいる姉同士。やはり通じるものがあるのかもしれない。ただ二人が悩みの対象としている人物は違うが。
「あー、それで話戻すけど……マイマイはかなちゃんに追い付きたいんだよね?」
唐突に話を本題に戻す。少し空気が和やかになったおかげか舞衣の表情もさほど暗くはない。
「うん」
「追い付いても、同じ景色って見えるのかな?」
「え……?」
舞衣も考えていなかった訳ではないだろうが、改めて言われると少し動揺する。果たして追い付いたとしても可奈美と同じ景色が見えるかどうか……などと。
「あ~いや、何ていうか同じ舞台に立てたとしてもかなちゃんと同じ様に見えないと思うんだ……よく分からないけど」
明自身は自分が言いたい事を整理しきれていない様子だが、舞衣はその一言を理解した。いや、元から理解していたと言った方が正しいか。
「うんそうだね。でも、見えるかどうかは分からないけど、同じ舞台に立ちたいとは思っているよ」
先程の動揺は嘘の様に舞衣の目は揺らいでいない。その瞳を見た明は自分が言おうとしている事は野暮だったと気付いた。
「えっと、何か変な事言っちゃったね……ご、ごめん、あはは」
明は先程まで考えていた事を止め、すぐさま謝った。その笑顔はどこかぎこちない。
「ううん、私も変な事言ったしお互い様だと思うよ。むしろ、こっちこそ話を聞いてくれてありがとう」
舞衣は全く気にせず、穏やかな笑みで返す。その様子に明も安堵し、いつもの笑顔になる。
「あ、そう言えば、明ちゃん。まだこの後も起きている?」
話が一段落したところで舞衣が次の話を切り出す。
「起きているよ。あれ? でも、マイマイは?」
まだ時間的には起きている学生の方が多い。しかし、刀使の学生達は日々荒魂と命のやり取りを行なっている為、休みが取れる時は取れる様に早くに寝る事が多いのだ。
加えて舞衣は明日御前試合に出場する為、鎌倉へと移動する。彼女が寝坊するという事は極めて無いと思うが、少しでも疲労を残すと試合に影響する可能性はある。その事を考慮して明は舞衣に訊ねた。
「さっき寝ようと思ったけどちょっと眠気が来なくて……だから、今からクッキーを作りに行こうと思うんだ。明ちゃんさえ、良ければ手伝ってくれない?」
「うん、いいよ! じゃあ、作りに行こうか!」
明達は立ち上がり、出入り口のドアへと向かう。だが、ドアまで数歩という所で先に歩いていた明はピタリと立ち止まった。明の肩に乗っていたキヨマサも危機を感じ、威嚇する様に角を上げる。
「明ちゃん……?」
不審に思った舞衣が声をかける。どこか思い当たる事があるという表情していながら。
「ドアの向こうに誰かが構えている……」
「明ちゃん、私がドア開けるね」
明はそう言った舞衣の何かを知っている表情を見ると頷き、舞衣に先頭を譲る。そして、舞衣がドアを開けると――そこには美濃関学院の制服に身を包み少女が正座していた。
少女を見た瞬間、舞衣は頭を抱えた。またこの人かと。
「舞衣様、御無事で良かったです……」
「あの……
舞衣は少女の名を口にした。思惟と呼ばれた少女は年頃の女の子とは違えた口調で話す。
「先程見知らぬ者と荒魂らしきものと一緒にいる所を見かけた故に、舞衣様の身に何かあったらと思いここに駆け参じました」
舞衣はこれを聞いて納得した。思惟は元々彼女が体得している流派の教えに則っている為、他の刀使達と交流をしない。それ故に明の事を知らないし、更に明が飼っているカブトムシの事情も知らないのだ。
「マイマイ、その人知り合いなの?」
舞衣の背後にいる明はひょっこりと顔を出す。明もまた思惟の事を知らない。ただ彼女は先程よりも警戒しておらず、とても穏やかな声音で訊ねてきた。
「うん。ちょっと前に居合いについて教わりに行って……」
「師よ……もしや、その方は師の御友人でありますか?」
割って入る様に思惟が舞衣に向かって疑問を口にした。舞衣に対する呼び方が明とまた違うが。
「そうですよ……って、思惟さん! その呼び方は止めてくださいって言ってますよね!?」
舞衣は師と呼ばれた事に困惑しながら注意した。しかし、思惟は悪びれた様子もなく、それが自然だと言わんばかりの表情をしている。彼女にとっての師は舞衣である事は揺るぎない様だ。
「えっと……つまり、これはどういう事なの?」
まだ事情を知らない明はこの二人のやり取りに置いていかれていた。舞衣は慌てて話の筋を戻す。
「わ、私は居合いについてこの先輩から教わったの……そしたら――」
「私から舞衣様に居合いを教えるなどとんでもない。私の方こそ師から教わったのだ。だから、舞衣様を師と仰いでも問題ない」
と思惟は言っているが、学年的には舞衣よりも思惟の方が上だ。ましてや一つ違いではなく三つも学年が開いている。そんな上級生から師と呼ばれれば、困惑する事は間違いないはず。
「あ~うん。そういう事なんだね」
二人の間に何があったのか良く理解出来ていない為か、かなり適当な感じになる明。むしろあまり理解しない方が良いのかもしれない。
「そう言えば、舞衣様の御友人に挨拶をしていませんでしたね。申し遅れました、私は
思惟はそう言うと軽く頭を下げた。しかし、正座をしたままだから視線は低い。
「私は加守明って言います。こちらこそ、あなたの師にお世話になっています」
明もその場で正座してキヨマサが落ちない様に気を付けながら軽く頭を下げる。その状況にもう舞衣はツッコミを入れない様にした。
明と思惟は互いに顔を上げると立ち上がった。思惟は明の肩に乗っているキヨマサがとても気になる様子。
「明殿の肩に乗っているカブトムシ……もしや、荒魂……?」
「いや、キヨマサはただのカブトムシですよ」
明は本当にそうだと言わんばかりに言う。思惟は不審に思うも舞衣のやや困った様な笑みから察し、これ以上は何も言わなかった。
「あ、そうだ。これから私達、クッキーを作りに行くんですけどしゆしゆ先輩もどうですか?」
「し、しゆしゆ?」
いきなり渾名で呼ばれて思惟は困惑する。いや、明にいきなりそう呼ばれたというのもあるが、そもそも彼女は全く渾名で呼ばれた事がない。その上、彼女が師と仰ぐ舞衣と行動を共にするという事も相まって嬉しさと困惑がごちゃ混ぜになっていた。
「思惟先輩って言うからしゆしゆ先輩って呼んでいるですけど……」
「な、なるほど、心得た。し、しかし、私も師と一緒にクッキーを作っても大丈夫でしょうか?」
「もちろん大丈夫ですよ、思惟さん。少し多めに作ろうと考えていましたし、何より人数が多い方が楽しいですからね」
「ならば、この観世思惟。お供致します」
思惟の少し大げさな言い回しに苦笑いする舞衣。しかし、彼女の根が真面目が故にそんな話し方をしているのは重々承知している為、何も言及する事はない。
そんな二人を見て明は微笑ましく思う。彼女達の事情は未だに理解出来ないものの彼女達は互いを尊敬し信頼している事は分かったからだ。
「じゃあ、行こうか」
舞衣の一言で彼女達は調理室へと向かう。その後、調理室にてクッキーを作るも予定よりも多く作った為、明と思惟はその余分なクッキーをある程度もらった。
そして後片付けを済ました後、全員自分の部屋へと戻り眠りにつく――何時間か過ぎた後、日が昇り始めた。
朝、美濃関学院の武道場から床を強く蹴る音や竹刀が空気を切る音が聞こえていた。中で竹刀を持った二人の男女が立ち合いをしている。
少女は制服姿に身を包み青年が繰り出す剣撃をまともに受けずに大きく避けていた。少女を追う青年は剣道着の姿でかなり体格が大きく、持ち前の瞬発力を用いて間合いを詰めて少女を追い詰める。
しかし、少女の顔に焦りは無かった。むしろ、この状況でさえ楽しんでいて女子とはまた違った男子のならではの動き、彼の鋭利な太刀筋から読み取れる想いを感じて取っている。
そして、青年の鋭い一振りを躱して死角に回り込むと一撃を入れた――。
「相変わらず強いな、衛藤は」
「剣持先輩も凄いですよ!」
事が終わると二人は穏やかな表情で先程の立ち合いについて話していた。たまに剣持と可奈美はこうして立ち合いをする事がある。
どうしてこの二人が朝から立ち合いをする事になったかというと約一年前までに遡る。
きっかけは剣持が武道場で稽古していた可奈美の太刀筋に一目惚れし、稽古を申し込んだ事からだ。また可奈美も剣持の太刀筋を見て、立ち合いたいと思いその申し出を二つ返事で了承して今に至る。
簡潔に言うと二人とも剣術馬鹿だったから成立している話である。
「そう言えば、鎌倉に行くのは今日だったよな?」
剣術談義も落ち着いた頃に剣持が御前試合の話へと話を変えた。
「はい、今日です。そして明日は……!」
可奈美は楽しみで仕方ないといった感じで話す声も高くなる。どんな剣術を用いる刀使がいるのか、彼女の最大の関心といったとこか。
「そうか。俺は当日行けないのが悔しいな」
「ええ~!! 剣持先輩来れないんですか~!?」
「ああ、そうだ。それに見送りも行けない。全部授業が被っている」
彼は刀使の生徒達と違い、刀匠科の生徒の為に当日もまた通常通り授業がある。
「そうなんですか……ちょっと残念だなぁ」
可奈美は剣持が行けない事に少し落ち込んでいた。一応、彼の事情は分かっているとは言え改めて言われるとへこむと言えばへこむ。
「まあ、その代わり帰ってきたらどんな刀使がいたか話してくれよ」
そう言うと剣持は可奈美の頭を撫でた。ほんの少ししたら止めたが。
「はい! 帰ってきたらいっぱい話しますから、その時は覚悟してくださいね!」
可奈美も笑顔で答える。その様子に剣持もつられて笑みを零した。
「ああ、楽しみにしてる。だから、楽しんで来いよ」
それから時間が経ち午前の授業が終わりを告げ、各地の代表者が開催地である鎌倉に向かい始める。勿論、可奈美や舞衣も例外なく移動していた。
その中、全国五校の訓練校――通称・伍箇伝の一校、鎌倉にある鎌府女学院は御前試合の会場近くにあるだけあって慌しくなっていた。
鎌府に在籍する一人の少女は友人達と共に明日の事で確認しながら校舎内を歩いていた。
「――で、明日は警備を含めた経路案内だけになるね」
「流石、
紗夜と呼ばれた長い茶髪の少女は友人に褒められながら書類を提出しに職員室に向かう途中、白いショートヘアーの少女とすれ違う。
「あ、
紗夜が一声かけると少女は振り返り、じっと見つめる。
「明日の御前試合頑張ってね!」
「うん」
少女はそれだけ言うとさっさと立ち去ってしまった。
「何、あれ? 本当に感じ悪いったらありゃしないんだから! 紗夜が気にかける事なんてないと思うよ」
「あはは」
正直すぎる友人の意見に紗夜は苦笑い。しかし、紗夜はずっと気にかけていた。あの少女の現状に自分達の学長が大きく関わっている事を理解している為、どうにか彼女の力になれないかと。
「あ~あ、それにしても今年は紗夜ですら補欠になれないってどんだけレベルの高い大会になるのやら……」
友人は明日行なわれる御前試合について切り替えた。
「そうだね。今年は
紗夜自身もあまり想像も出来ていない。彼女は昨年代表選手になれたが今年は友人の言う通り補欠にすらなれなかった。彼女の実力が低いというより全体のレベルがかなり上がり彼女より腕が立つ者が増えたというだけの話である。
「去年は抜刀術と迅移を使って戦っていた子がいたし、今年も変わった戦い方をする子がいるのかな?」
「さあ、どうなんだろう……?」
そうして友人と話を盛り上げていく中、紗夜は心の中である事を願っていた。今年も何事も起きません様にと。
その頃、奈良県の某所にて――。
着物を着た女性が竹林の中を歩き、目的の人物を見つけると足を止めた。その視線の先には一人の少女が目を瞑って正座をしている。
白い道着に紺色の袴、その腰には彼女の御刀――義元左文字を佩いている。一歩でも彼女の方へ踏み出せば、その御刀で斬られてしまいそうな雰囲気。
女性はしばらく待つ事にした。少し間の後、少女から口を開いた。
「……斬りませんよ、五条学長」
「そうならそう言ってくれへんと身が持たないわ……」
着物を着た女性――平城学館の学長・
少女は目を開き、いろはがやって来た事を認めるとゆっくりと立ち上がり向かい合う。
「久し振りやねぇ、
「ええ、それなりには」
「それは良かったわ」
少女――玄尚院玲の様子を見ていろはは笑みを零す。やはり自分の生徒が元気でいてくれる事は嬉しい事だ。
対して玲は少し怪訝そうな表情をしている。わざわざ学長がここまでやって来るなんて滅多にない事。何かしらあるのだろう。
「……私に何か用ですか?」
「そんな怖い顔して、せっかく別嬪さんやのにもったないで」
「……用件を言ってもらえますか?」
「少しは照れてもええのに……」
いろはは融通の利かない玲に苦笑いをした後、話を続けた。
「ほな、もうすぐ今年の御前試合が開かれる事は知っとるん?」
「ええ、知っていますよ。時期的にももう平城の代表も決まっているでしょう?」
「そうやねぇ、今年は玄尚院さんとあまり離れていない子達が代表になっとるんよ。それで玄尚院さんにとっておきのプレゼントを……はい」
いろはは懐から封筒を玲に差し出すが、彼女は左手で制止して受け取らなかった。
「やっぱり昔の事を気にしているん?」
「…………」
「でも、少しは前に進まなきゃいけないと思うんやけど……」
「私にはその資格はありません」
そうきっぱり断られるといろはは別に気を悪くせず、取り出した封筒を懐へ戻す。玲の決意はかなり固いものだと分かっていたからだ。
玲の方もいろはが言いたい事が分かっている。しかし、過去に自分が犯した過ちは刀使として恥ずべき事だと思っていた。だからこそ、頑なにいろはの好意を拒んでいる。
「そう言わんといといてぇな……まだ玄尚院さんは刀使やで。少なくともその事を悔いているんなら」
「…………」
玲の顔色は何一つも変わらない。しかし、思うところがあったのか紫色の瞳がどこか揺らいでいる様に見えた。
それを感じ取ったいろははこれ以上は何も言わず、踵を返して来た道へと戻って行く。玲はただその背中を見届ける事しか出来なかった。
頑なに刀使の職務に戻ろうとしなかった玲だが、この後に起きる大事件をきっかけに刀使としてもう一度戦う事を決意する事になるとは、今はまだ考えてもいなかった――。
今回は提供してくださったキャラクターが何名か出ていましたがどうだったでしょうか? またオリキャラを提供してくださった提供者の皆さん、大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。まだ出ていないキャラクターもいると思いますが、そのキャラクターもいずれどこかで登場しますので、その時を気長に待っていただければ幸いです。
それとまだ舞草のオリキャラを募集しています。ちょっと活動報告欄が埋もれていますが、この話が更新される頃にはもう一度上げますので気軽に提案していただければと嬉しい限りです。
そして今回のキャラ紹介は提供してくださったオリキャラです。このキャラクターは見た事はある方は見た事あるかもしれません。
観世 思惟(かんぜ しゆい)/女性/高2
在籍校:美濃関学院高等部2年/刀使
御刀:あずき長光。拵えにワンボタンで柄の長さを10センチほど延長してミニ長巻に出来る仕掛けあり。
流派・構え:神明夢想林崎流。林崎夢想流、林崎流、夢想流という感じに略称がある。抜刀術基本。御刀の柄に独自の工夫がなされ、抜刀時、柄尻を握ったり柄中を握ったりして抜刀の軌道やリーチを様々に変える。これは思惟の工夫ではなく、林崎流で用いる刀の柄は常よりも三寸ほど長いから。正々堂々の立合いは一切行わないため、試合と名の付くものには参加しない。戦闘となったら、必殺仕事人の中村主水っぽい立ち回りをすると思われる。
容姿:黒髪ロング。切れ長の目。紫様を細面にした感じ。
性格:融通が利かない上、伍個伝の教えよりも自流、林崎流の教えを優先しており、これにより他人にはあまり近づかず、荒魂退治に積極的に加わることもない。
とある一件より、柳瀬舞衣を師として敬っているが、思惟自身が高等部で年長なので、舞衣からは恐縮されている。というか人目に付きすぎて困っている。
手先が器用で、暇になれば木切れを見つけてきてマスコットフィギュアを彫り上げる。割と好評。
劇中の彼女と舞衣ちゃんの関係を詳しく知りたい方は臣史郎様の作品『究めゆく魂』を読んでみては如何でしょうか?
また他に提供してくださったオリキャラがいますが、一気に紹介すると混乱すると思いますので今回は一人に限定させていただきました。
さて、次回はいよいよ御前試合に突入します、多分。そして、事件も起こります、多分。
今回はここで筆を休めます。また感想や活動報告のコメントもお待ちしています。