P.S デカレンジャー見終わったんでシンケンジャーを見始めました。殺陣がマジで凄いですね。流石東映とでも言うべきでしょうか……
それに話も面白いです。
5/25日追記
この話はしずくIFを含めたそれ以降のIFの話を書く前に執筆した話です。なのでしずくIFを含めたその先のIFで主役となったキャラは修羅場に参加しません。ご容赦を
これは千景が来るちょっと前の出来事。
風と夏凜の二人は園子から一つ頼まれごとをされた。それは、とある林のすぐそばにある社の様子を見て、時間と余裕があれば掃除をしてきてほしいという物だった。
園子から時々変な電波な言葉を聞くことは多少あるが、こういう頼み事としてよく分からない事を頼まれるのは結構新鮮と言うか珍しい事だった。が、風自身当時は受験勉強真っただ中。偶には体を動かしてスッキリしたいというのもあり、夏凜も丁度暇していたのでそこまでランニングしつつ移動するのなら丁度いい運動になるという事で二人は駆け足で掃除道具を片手に社へと向かって走っていった。
そして社に着いた二人は明らかに年単位で手入れがされていないその社をようやく見つけると、それが園子の言っていた社に違いないと断定してさっさと掃除を始めた。
「いやー、偶にはこうやって外で掃除ってのもいいもんよねぇ」
「あんたは受験勉強をサボる口実が欲しかっただけでしょ」
「だって仕方ないじゃない。ずっと勉強ばっかりだと気が滅入っちゃって女子力下がっちゃうんだから」
「その程度で女子力は下がりゃしないっての」
風の詭弁に夏凜は溜め息を吐きつつも落ち葉を箒とチリトリを使って集め、適当な場所に山盛りにする。
これだけあるとどこかの空き地で許可を貰って焼きいもなんて事もいいかもしれない。そんな事を思いながらも冬の寒空の下、二人はせっせせっせと社を掃除していく。
しかし無言で掃除するという悲しい状況にはなるはずもなく、二人は適当に話題を見つけるとそれについて時々言葉を交わしていた。
「しっかし、アタシも夏凜たちも青春真っ盛りな年頃なのに色のある話って一切ないわよね」
「あによ。別に彼氏なんて居なくても問題は無いわ」
「何よ可愛げがない意見ね」
「可愛げが無くて結構。あたしは勇者だからそういうのは必要ないのよ」
「もう勇者じゃないでしょうに」
「うぐっ……」
風から色恋沙汰に着いて話を振られるのはこれで何度目か。だが勇者部の中では唯一色の付いた話を持ち合わせており、恋人がほしいと言う願望が一応は存在する風にとってはこの青春真っ盛りとも言える女子中学生時代に彼氏の一人ができなかった事は大変遺憾な出来事だ。
もっとも、そんな事に余裕を裂いていられないのがこの中学生時代だったのだが。
しかし、世界を救った集団の一人なのだからそういうご褒美があっても神樹様はバチを与えないんじゃないかと思うのも事実。
未だに色を知らない友奈やそんな友奈にガチな美森、そして友奈に対してはクッソチョロい夏凜のようなのは論外だが、唯一の男性メンバーであるハゲ丸や許嫁がいるんだよーとサラッと言ってきそうな園子、女子力が風に次いで高そうな銀などは多少の色の付いた話があってもおかしくないんじゃないかと風は思う。
樹? お姉ちゃんはそんなの認めません。
「ま、まぁ? もしかしたら友奈とか園子とかアンタとかハゲ丸とかが誰かと付き合ってる世界とかあるのかもね」
「何よそれ。平行世界って事?」
「そうそう。平行世界は無限にあるって言うじゃない? だからもしかしたらそんな平行世界があるんじゃないかって話」
「……そういえばそんなこと昨日のテレビで言ってたわね。夏凜、あんたあの番組見てたでしょ」
「べ、別にいいじゃない。暇なんだもの」
この世界が基底なのか、それとも他に基底となる世界があるのかは分からないが、それでも平行世界とは無限に存在してるものだ。
この場に居るのが夏凜ではなく樹だった世界。そもそも二人がここに来なかった世界。そんなくだらない派生をした世界だって間違いなく存在している。故にどこかでバタフライエフェクトが発生してハゲ丸と誰かが付き合っていたり勇者部のメンバーが顔も知らない男と付き合っていたりする可能性だって十全にあり得る。
もしかしたら友奈と美森の立場が逆で友奈が美森ガチ勢のやべー奴になってる可能性だってあるのだ。
「まぁもしあのハゲ丸と勇者部のメンバーの誰かが付き合ってたとか、そんな平行世界があったら面白そうじゃない?」
「それもそうね。案外東郷が付き合ってたりとか!?」
「ないわよ、ないない。そんなの世界が崩壊したってあり得ないわ」
あはははと笑う二人は、だがそんな世界があっても面白いと思いそれについて話を膨らませながら掃除を続ける。
「他には……そうね、案外園子がハゲ丸と付き合ってたりとか?」
「うっわあり得ないわねそれ! でもホントにあるんなら実際に見てみたいわ!!」
「銀とかも面白そうよね! 案外乙女になっちゃってるかもよ?」
「あのハゲ相手に? それウケるわー!」
『ふーん。それ、実際に見てみたい?』
「まぁ見れるもんならね。一日だけでもいいから見てみたいわー!」
『一日だけでいいの? よーし、久しぶりのお客さんだし頑張っちゃうぞー!!』
「おー、頑張ってみなさ…………ん? ねぇ夏凜、今の誰?」
「え? 友奈じゃ……ってここに友奈居なくない? え、新手のホラー?」
二人は和気あいあいと話していたが、突如として聞こえたらしい友奈の声らしきものに寒気を感じて二人で抱き合いながらガクガクと震えていた。
が、暫く待っても友奈の声はもう聞こえてこず、結局は自分達の気のせいだという事でなんとか落ち着く事ができた。が、直後に風の携帯が震えた。それに対して二人は飛び上がりそうな程にビックリしたが、すぐに電話を飛ばしてきたのが部室で待機中であるはずのハゲ丸であるという事に気が付き、一応電話に出た。
『あ、風先輩っすか!?』
「おー、みんなの愛しの風先輩よ。どったの?」
『すぐに戻ってきてください! 俺も何が何やらでよく分かって――』
『ちょっとズラっち! 誰と電話してんの!?』
『いいからこの状況について説明してください藤丸先輩! じゃないとわたしも本気で怒りますよ!!』
『二股以上してるとかいい度胸ね桂ァ!!』
『とっとと説明しやがれ女の敵ィ!!』
『ちょ、おまっ、やめっ、だれかたす』
通話口から聞こえてきたのは正しくカオス。
園子、樹、美森、銀の怒声。そしてそれに押しつぶされるハゲ丸の悲鳴。というか聞こえてきた言葉が明らかに穏やかじゃない。
とにかくこのまま放っておくと事態の把握もできずに何か面倒事に巻き込まれそうなのですぐに戻るために掃除用具の片付けに入ったのだが、直後に今度は友奈から電話がかかってきた。
あーもう今度はなに! と悪態を吐きながらも今度は友奈からの着信に応答した。
『あ、もしもし、風先輩ですか?』
「そうよ! 友奈、今一体何が……」
『それですけど風先輩。ホントに口で説明するのは難しいので戻ってきてもらえますか?』
「って東郷!? あんたさっきハゲ丸の方で荒ぶってなかった!?」
そして今度は先ほどハゲ丸に対して怒声を浴びせていた美森の冷静な声が聞こえてきた。先ほどあれだけ怒声を浴びせていたのに通話口から聞こえる美森の声はヤケに落ち着いている。
それに対して友奈があはは……と苦笑し、美森も確かにそうですけど……とちょっと困った感じの声を出した。
『とにかく戻ってきてもらった方が一番話が手っ取り早く終わりそうなんです』
友奈のその言葉に風と夏凜は首を傾げつつもとりあえず友奈の言葉に従って部室に戻る方が先決だと決め、すぐに二人で片付けた掃除用具を片手に讃州中学の方へと急いで戻っていったのだった。
****
風と夏凜が部室に戻ると、そこでは混沌が引き起こされていた。
ハゲ丸の事をまるで牛裂きをするかのように両手両足を抱えて四方向に引っ張る園子、樹、どうしてか髪型を変えている美森、銀。その中心で半分気絶しているハゲ丸。そしてそんな五人を遠くから苦笑しつつ見守っているもう一人の美森と友奈。
なんというか、この時点でよく分からない。なんで美森が分裂しているんだ。そしてどうしてハゲ丸はあんな極刑にされされているのだ。
「でさー、こうして中学生の時の体に戻ってみるとわたしって肩こりとか全然なかったんだなーって……あ、戻ってきたよ、東郷さん」
「あらホントね。あと肩こりについてはわたしはずっと酷いままよ。胸が重い重い……」
何故かちょっと老人臭い事を話していたもう一人の美森と友奈は風と夏凜を手を使って呼び寄せると、五人の騒乱に巻き込まれない位置で頭に疑問符を浮かべる二人に向かって一応現状の説明をし始めた。
「まぁ現状ですけど、こうなっています」
「大変だよねー、藤丸くんも」
肝心の説明は、かなり雑だった。
美森はなんだか疲れた様子で現在拷問に合っている藤丸に手を向け、友奈はどこかのほほんとした様子。
この騒動の中で笑顔のままで居られるとは流石友奈だろうか。それを褒めたい気持ちにはならないが、黄色と赤色にとってはあのカオスの詳細な説明が欲しかった。
「いやいや、それだけじゃ分かんないわよ」
風の言葉に夏凜が頷くが、夏凜はどこか友奈からちょっとした違和感を感じていた。
いつもの友奈ならもっと活発と言うかはしゃいでいる感じなのだろうが、今の友奈からはかなり落ち着いた様子を感じ取れた。大人の余裕とでも言うべきか。そんな感じの物が友奈からは感じられる。
対して美森も友奈の側に居ると言うのにかなり落ち着いている。余裕を持っているとでも言うべきか。
その様子に対する答えを友奈は口にした。
「実はわたし達、どうも平行世界からここに意識だけ飛ばされてきたみたいで」
『…………は?』
「私の場合は肉体が分裂したみたいで……」
『……へ?』
友奈の口にした言葉に思わず風と夏凜は呆然とした。
何せ平行世界から意識だけ飛ばされてきたと言われてもパッと来ないし美森に至っては肉体が分裂とか言ってやがる。
確かに今ハゲ丸を牛裂きの刑に処している美森も今目の前で話している美森も同一人物にしか見えない。
「い、いや、そんな事信じられる訳が……」
信じられない。そう言おうとした風だったが、一概に否定できない状況を自分達は体験しているのを思い出した。
勇者だとか神様だとか。そういうファンタジー漫画のような事を自分達はこの身で体験している。故に平行世界から意識だけ飛ばされてきたなんていうファンタジーもあり得なくはない。
寧ろ先ほどのホラー現象により聞こえてきた言葉の主がこれを起こしたと思うと色々と合致してしまうのだ。
「……うっそでしょ?」
「ホントです。ちなみに、私は今から大体十年後の未来から来た藤丸……じゃなくて東郷美森です」
「わたしも大体十年後の未来から来た結城友奈だよ。夏凜ちゃんも風先輩も若いね~」
『十年後ぉ!?』
そしてこの二人はまさかの十年後の未来から来たらしい。
流石に驚いたが、二人の雰囲気を見ていると確かに二人がお淑やかに成長したらこんな風になるんだろうなー、的な雰囲気を感じられる。特に友奈なんてかなりほんわかとしている。
「あ、ちなみにですけど、私も友奈ちゃんも、別の世界の十年後から来ました」
「というか藤丸くん以外はみんな別の世界から来てるよね、これ」
「えぇ、確実にね」
もうこの時点で風も夏凜も頭がパンクしそうである。
つまるところ、この場にいるほぼ全員はそれぞれ別々の平行世界から意識だけを飛ばされてきた存在であり、美森だけは何故か体が分裂してそれぞれの体に別々の精神が入り込んでいる。
風と夏凜はたっぷり五分ほどかけてそれをようやく理解した。
元々ファンタジーな事に巻き込まれるのには慣れているし、何よりそう思わないとやっていけないとうのが一番の理由だった。
「……ま、まぁ大体理解したわ」
「ここに居る全員がこことは別の平行世界出身だとして。ハゲ丸はどうなのよ。あいつは特にそういうの無いワケ?」
「あぁ、あの人……じゃなくて藤丸ね。彼だけはちょっと特別なのよ」
「藤丸くんだけ明らかにここに居る全員の出身世界の記憶を全部持ってるんだよね。わたし達十年後組の分までしっかりと」
「そのせいであんなことになってるのだけどね……」
つまり、今あそこで今にも八つ裂きになりそうでたしゅけて……と小さく助けを求めている彼は、この中で唯一、この場にいる全員分の世界の記憶を保持している。
だが、そうだとしても気がかりなのはどうして彼がああやって四人から牛裂きの刑に処されているのか、だ。
電話からは何やら二股だー、とか色々と物騒な言葉が聞こえてきたが、彼にそんな肝が存在しているとも思えない。なのでそれを二人は美森と友奈に聞いた。
そして帰ってきた言葉は。
「実はわたし達、それぞれの世界で藤丸くんと付き合ってる、ないしは結婚してるんですよ」
「わたしなんて結婚済みだったし、友奈ちゃんもこの間付き合い始めたらしいわ。で、あっちの言葉を聞く限りあの人、それぞれの世界でそれぞれとお付き合いしてたみたいね」
美森の言葉に口が開きっぱなしの風と夏凜。
全員が自分達を除く全員がそれぞれの世界のハゲ丸とラブロマンスをしている……のが驚いたのではない。
一番驚いたのは。
『と、東郷が男と結婚んんんんんんん!!?』
「あぁ……はいはい、分かってましたよこの反応。あの時とほぼほぼ同じ反応をどうもありがとうございます」
「あはは。日ごろの行いだね、東郷さん」
「友奈ちゃんは大人になってからちょっと毒を吐くようになったのは変わらないのね……」
まぁ当時の行い故、仕方が無い事である。
****
その後、なんとか事態を飲み込んだ風と夏凜は美森、友奈と協力して藤丸の四肢を掴んで牛裂きの刑に処している四人をなんとか引き剥がし、風の部長権限によっていったん落ち着かせた。
そして藤丸はいきなり拷問にかけられたが故かこの中では一番立場が中立な夏凜が一旦部室から退避させ、それぞれから事情を聞いた。その結果。
「えっと、あんたらはハゲ丸と付き合っている世界から来た乃木と東郷、それから樹……なのよね?」
「世界とかそんなの知らないし……ズラっちと付き合ってたのはわたしだし……」
「どうしてこんな事に……また天の神か神樹か大赦か……」
「園子さんも東郷先輩も眼中になかったはずなのに……」
「で、銀だけはまだ交際前だと」
「んだよ……わりーかよ……」
あーもう空気がギスギスだよ。風は額に手を当てて天井を仰ぎ、その後ろで未来の美森と友奈が苦笑している。
彼女たちは大人だ。故にこの事態を見てすぐにここが過去の世界であること、そして美森が二人存在している事から、またファンタジー案件だと飲み込んで感情を整理して傍観に徹していたのだが、この中学生組はそんなの知った事かと自分の彼氏、ないしは想い人の取り合いに発展してしまった。
しかも自分の彼氏が四股以上かけていたと思い込んだ状態で。
もう少し自分の彼氏を信用してやれよ……と思う反面、まぁ今までイチャイチャしていたのに唐突に周りの女が彼女面し始めたら内心穏やかじゃないだろうなぁ、とは一応納得できた。
「んで、東郷」
『はい』
「うわっ、二人とも返事してきた。紛らわしっ」
「……それじゃあ私は鷲尾か須美って呼んでもらえれば大丈夫です」
「そうなの? なら現代東郷は須美って呼ぶわね。んで、東郷」
「はいはい、東郷さんですよ」
「一応落ち着いたわけだけど……ここからどうするの?」
ここは大人である美森か友奈に仕切ってもらった方がいいだろう。そう思い美森に言葉をかけたのだが、美森はさぁ。と言葉を漏らすのみ。
彼女だってこの状況が一体どういう事から起こってしまった状況なのかが把握できていないのだ。そんな中で適切な回答を出せと言われても流石に無理がある。流石にこの四人を放置していたら面倒な事になるという事でこうして四人を解放したわけで。
東郷の言葉に風は頭を抱え、友奈は一人呑気に懐かしいな~、なんて言っている。
「……まぁ、ともかく! 今ハゲ丸は誰の物でもない状態なんだからくれぐれも取り合いとかしないように!」
とりあえず、今できる事はこんな注意くらいだろう。
流石にこれ以上の事を言う事は無理だ。これで一件落着。後はこの六人が元の世界に戻るまでの間、いつも通りに暮らしてもらえればそれでいいだけだ。
いいだけなのだが。
「……そう言ってフーミン先輩がズラっちを寝取る気じゃ」
「は?」
「……ありえるわね」
「ちょ」
「お姉ちゃんでもそれだけは許さない……!!」
「おまっ」
「とりあえず風先輩からボコるとすっか……!!」
「まっ」
この四人、ちょっとばかり愛が重すぎじゃないだろうか。
立ち上がり寄ってくるヤケに怖い四人を前に風は顔を青くしながらあとずさりし、そっと後ろの方で待機している美森と友奈に助けを求めようとして。
「友奈ちゃん。どうせ過去に来たんなら中学の中をぐるっと見て回らない?」
「あ、それいいね! 久々に母校を見るのも面白そうだよね~」
「ちょ、そこの赤青コンビはどこ行く気!!? 置いてかないで!!?」
振り返ってすぐに大人の余裕と言うかマイペースっぷりを発揮して美森と友奈は部室の外へと歩いていってしまった。
結果、風は怖い雰囲気を醸し出す園子、須美、樹、銀に囲まれ冷や汗ダラダラ。なんで好きでもない男への好意むき出しな奴らの嫉妬でボコられなきゃならないのだろうか。そんな無常な今を悲観しながら、ふと思い出した。
『一日だけでいいから見てみたいわね』
『一日だけでいいの?』
自分の口にした言葉に対して返ってきた友奈らしき人物の声。
もしかしてあの言葉がこの現状を引き起こした元凶であり、そして解決の糸口なのではないかと。
命の危機に瀕した風はそんな閃きによって浮かんだ作戦をすぐさま実行に移した。
「待ちなさい! 一日だけ! 一日だけ待ってればきっと全部元に戻」
『覚悟ォ!!』
「あんぎゃあああああああああああああああああああ!!?」
そしてすぐさま四人にボコられた。
口は災いの元。それを身をもって体験した風なのであった。
****
「それで結局こうなったの?」
「平行世界の我ながら落ち着きがないわね……」
「でも、こうも落ち着いている東郷を見るのってなんか不気味ね」
「……もういいわよ。そこらへんの言葉は言われ慣れたから」
校内探検から戻ってきた友奈と美森。そして藤丸を落ち着かせて部室に返した夏凜は部室の壁際でお茶を片手に苦笑を浮かべていた。
結局こうなった。その言葉の真意は今椅子に座っている藤丸を中心に繰り広げられている光景だ。
「た、助けてくれよ三人とも……」
座っている彼の真正面から園子が抱き着き腹の部分に顔を埋め、その左右から樹と須美がガッチリと彼の腕をホールドして離さない。しかもにらみ合っている。
最後に唯一この中では交際に発展していなかった銀がその三人を恨めし気な目で見ている。唯一の敗北者だ。
もし藤丸がどこか一つの世界の記憶しかないのなら彼の態度次第でもう少しマシな状況になったのかもしれないが、この場にいる全員分の世界の記憶を持ち合わせてしまっているからこそこんな事になっている。
一応園子達も頭では現状を理解しているのだ。だが、それでも譲れない物という物はある。その結果がこれだ。
「よかったね藤丸くん。ハーレムだよ?」
「偶にはそういうのもいいんじゃないかしら、あなた?」
「お前らちょっと辛辣じゃね!?」
「そんな事無いよー? ね、東郷さん?」
「そうよね、友奈ちゃん」
『ふふふふ』
「お前ら揶揄ってんだろ絶対に!!」
そして大人組である友奈と美森は大人の余裕からかハゲ丸の事を揶揄って遊んでいる。
そしてそんな風に余裕な二人を見て中学生組が更にぐぬぬ……と声を上げる。その態度がどこか気に食わないのだろう。
園子からの締め付けが強くなり腹の中の物が押されて出そうになるハゲ丸。その様子を見て友奈と美森は笑っている。しかし夏凜と今はぶっ倒れている風だけは胃痛のような物を発症していた。
何せ藤丸の周囲で発生している嫉妬空間とそんな嫉妬空間を若いわねー、なんて言って弄んで笑っている大人組に囲まれているのだ。もう胃がキリキリする。
「でも、明日までの辛抱じゃない。風先輩曰く、この状況も明日までなんでしょ?」
「そうそう。折角こんな事になってるんだしもっと面白い事しない?」
『……面白いこと?』
ギロッと四人の目がこっちに向いた。
こわっ。
「例えばコイバナとか」
「わたしもコイバナは気になるかな。中学時代の藤丸くんがどこまでヘタレなかったのか気になるし」
「俺はヘタレなんすね、友奈さん……」
「あなたは完全にヘタレよ。私に手を出してくる時だって散々良いって言ってるのに何度も確認してくるし……」
「ちょ、そういう事はあんまり外では言わない約束だろ!?」
「ほら、この人って夜の話とかは照れてこういう事言いだす人だもの」
「あ、わたしもキスの時とか何度も確認してきたかも。でもそんな所が可愛いんだけどね~」
「そういうのは情けないって言うのよ、友奈ちゃん」
大人組がもう言いたい放題である。そして言いたい放題言うたびに中学生組から視線が飛んでくるが、大人組はそれをサラッと受け流す。これが大人の余裕という物だろうか。
それに大人だからかかなり精神的に余裕を持っているのか、今の現状を楽しんでいるのかずっとニコニコしている。
二人からしたら青いとしか言いようがない過去のメンバーに微笑ましさを覚えている。
自分の夫だったり恋人だったりにべたべたされるのはちょっといい気分ではないが、それでも彼女たちは大人。そこら辺の心の整理はしっかりと吐いているし、夫もしくは恋人が中学生に取り合いされているだけと思えば微笑ましいだけだ。
それに、こうも青い園子や銀を見るのはちょっと楽しいし、生意気な樹がこうもべたべたしているのも微笑ましい。
唯一、自分の事を鷲尾須美と名乗る東郷美森からはちょっとただならない雰囲気を感じるが……そこら辺は彼に任せておけば万事解決だろう。
「でも、行き遅れが確定していないそのっちや銀を見るのも珍しいわね」
「あ、それわたしも思った。十年後だと二人とも行き遅れ確定してるもんね」
「私の所なんてあの人を逆レして寝取ろうとかしてたわよ? しかも私の目の前で」
「うわぁ……わたしも藤丸くんをしっかりとガードしとかないと……」
「あー……この二人の言ってる事あたし何となく予想できるわ……」
『流石に好き勝手言いすぎじゃない!!?』
しかし事実である。
美森の世界の園子と銀は行き遅れを拗らせて人の夫を妻の目の前で逆レしようとした罪歴がある。
友奈の世界ではいい感じに場をセッティングしてくれた恩人ではあるのだが、結婚願望が特に強い銀からは結構恨めしい視線を飛ばされているし、園子もそろそろ婚期を逃しそうなので焦っている。
そんな彼女たちがいつ暴走を始めるかなんて分かった事じゃない。もしここで起こった事を元の世界まで覚えていられたら先に予防線を張っておくのが吉かもしれない。
急に行き遅れとか言われた園子と銀はちょっと内心穏やかじゃないが、それでも平行世界の事だとぐぬぬして耐え切る。
彼女達も互いの世界の園子と銀がちょっと行き遅れになりかけている感があるので何とも言い難いのだ。
「じゃあはい、ここは一旦彼から離れてコイバナしましょうか」
「そろそろ藤丸くんも疲れ切った顔してるからね~」
離れてと言われて離れたらあの二人が独占してしまうんじゃ。そう思ったが、仲介として平行世界の記憶が混入していない夏凜が入った事でなんとか藤丸は解放されて六人からはちょっと離れた位置に座らされた。
「助かったよ夏凜……」
「別にいいわよ。ただ、あんたって実は女たらしだって事が分かったわ」
「たらしてねぇよ。どの世界の俺も一途だっての……」
「でもこうして色んな世界で別々の恋人作ってる時点でたらしてるじゃない。もしかしたらハーレムでも作ってたんじゃないの?」
「馬鹿言え。俺の評価なんて基本的には論外だぞ? 確かにそんな平行世界もあるかもしれないが、基本的には一人のパートナー見つけるだけだよ」
押されると弱いとは一応思ってはいるものの、流石にハーレムやら二股やらをするような度胸、ハゲ丸にはない。確かに、もしかしたらそんな世界があるのかもしれないが、少なくとも今、ハゲ丸にある記憶には女関係にだらしない記憶はない。
しかし、自分の物のようで自分の物ではない中学生組とバカップルみたいにイチャイチャした記憶だったり大人組とのほほんと時々いちゃつきながら過ごしていた記憶がある物だからヤケにこっぱずかしい。
夏凜との記憶はないため夏凜とは比較的マトモに話せているが、大人組を除くあの四人とはマトモに話せる気がしない。
「へぇ、須美ちゃんは私達とは根本から違う世界なのね。まさか私が記憶を失わない世界があるなんて……」
「自分から須美ちゃんって言われるのは違和感しかないわね……」
「わたしからしたら東郷先輩が二人いる時点で相当な違和感なんですけど……」
「もう東郷さんが分裂しようと何しようと違和感も何も無いかなーって」
「友奈ちゃん? あなたの中の私はどうなってるの?」
「それは東郷さんが一番分かってるよね? ね?」
「はい……」
そこではい、じゃないだろ。と夏凜がツッコミを入れたが、どうしてだろうか。美森が一人で分身したとしても違和感が無いと言うか。
寧ろ自ら分身して「友奈ちゃああああああああああああん!!」と叫びながら彼女を囲む姿が容易く想像できてしまう。というか普段から残像を出してしまっているのだから想像に難くない。
対してハゲ丸からしたら今の友奈の凄みはこれから先の未来に色々とやらかす彼女へ向かって友奈が冗談を含めてちょっと凄んで見せただけに見える。
友奈も二十を超えた辺りで結構天然も抜けて冗談を言うようになったりするようになってきた。天然人たらしなのは変わらないが。
「友奈って大人になると結構変わるのね……」
「あいつも結構冗談言うようになったり黒い事言うようになるからな。園子や銀に向かって行き遅れ確定組とか言ったり」
『誰が行き遅れ確定組だぁ!!』
そしてハゲ丸の言葉に園子と銀が反応した。
彼の記憶にある二人……特に美森の世界での記憶のあの二人はもう結婚なんてできないんじゃないかと言うほどだった。ほぼ真昼間から公園のベンチでワンカップの酒を片手に呑んだくれているあの二人が結婚できるなんて到底思わない。
それを知っている美森と、自分の世界でも行き遅れ確定組な友奈は苦笑しているが、須美と樹は首を傾げている。
「行き遅れじゃないもん! ズラっちが貰ってくれるもん!」
「あ、アタシだってズラが!!」
「そ、そういうのは元の世界の俺に言えって! この俺に言っても意味ないだろ!? だからあんまくっ付くな!!」
行き遅れと言われた二人が頬を膨らませながらハゲ丸に引っ付いてくる。それをハゲ丸は顔を赤くしながら拒否するが、二人はそれでも離れない。
「ちょっとそのっち!」
「先輩はわたしのです!」
そしてその二人を見てから須美と樹までもがくっついてくる。そして再び始まるハゲ丸に対する牛裂きの刑。
「あばばばばばばばばー!!?」
「はぁ……もう放っておいた方がよさそうね。私帰るわ」
「あ、それなら夏凜ちゃん、今日は泊まってもいいかしら? 流石に分裂した状態で家に帰るのはマズいだろうから」
「別にいいわよ? っていうかここまで落ち着いてる東郷を見るのも違和感あるわね」
「二児の母になるって自覚すると結構変わる物なのよ?」
「二児……? マジで? あの東郷が?」
「人間、数年もあれば変わる物よ?」
「じゃあわたしも久しぶりに夏凜ちゃんの家に泊まろうかな。東郷さんとも色々と話したいし。夜の事とか」
「あら。こっちの友奈ちゃんは内面も結構成長してるのね。いいわよ、じっくり話しましょうか」
「なんだろう、このママ友の会話に混ぜられた感……」
「ちょっ、まっ、たすけぎゃあああああああああ!!?」
こうしてハゲ丸は四人に牛裂きの刑に処され、夏凜、美森、友奈は夏凜の部屋へと向かいその日は泊まり、次の日には記憶も無くなった状態で元に戻り、美森も無事一人に戻りましたとさ。
ちなみにハゲ丸は異常なまでに痛む両手両足に顔を顰めながら次の日も普通に登校した。が、彼はしきりに自分の記憶にもない癖に修羅場怖い修羅場怖い……とうわ言のようにつぶやいていたとか。
なお風はちゃんと樹に回収されて自宅に帰ったが、平行世界からの記憶が混入した人物のその日の記憶は存在せず、後日園子がハゲ丸を連れて二度手間となる社掃除へと向かったのだが……この修羅場を引き起こした張本神が新たな戦いの幕を開ける事を、勇者達はまだ知らない。
時系列的にはちーちゃん加入前の話。そして修羅場はまさかの高奈ママが風&夏凜の戯言を聞いて善意のみで起こした模様。
そして肝心の修羅場は大人組である美森&ゆーゆは修羅場に参加しませんでしたが他の四名は無事修羅場を引き起こした模様。
次は一応本編をちょっとずつ書く予定ですが、その合間に須美IFその2、しずくIF、銀IFその2の順番で書いていこうと思っています。でも多分本編ももう少しで幕間が終わってのわゆに入る予定です。
ではまた次回お会いしましょう。