今回はぐんちゃんの汚染完了……でいいのかな? なお話の予定です。そろそろ話を進めないといつのわゆ編に突入するのか分からなくなるからね、仕方ないね。
新学期。つまりは四月の第二週辺りからの事なのだが、勇者部にとってその日は大きな変化があまり無い日だった。
クラスメイトの顔は半数以上が変わったが、勇者部員達は最早お約束と言わんばかりに全員同じクラスであり、それをなんとなーく想像していた園子を除く新三年生組はクラス発表の張り紙を前に微妙な顔をしていた。
しかし身内と同じクラスと言うのは色々と気が楽な物。出席番号の関係で全員の席は結構離れてしまったが、それでも問題なし。どうせ休み時間になったら自然と集まるのだから。
担任と半分ちょっとの生徒が変わっただけの新しいクラスが結成され、それから暫く。その日は新一年生の勧誘が行われる日だった。
「勧誘には新部長である樹ちゃん後輩と、人当たりのいい園子に友奈……あとはストッパーとして銀。で、俺達は部室でお留守番と」
今頃は比較的人当たりがよくコミュ力も高い上記の四人がどこかしらでビラでも配って勇者部に新一年生を加入させようと必死だろう。そんな中、美森、夏凜、千景、ハゲ丸の四人はお留守番。風は今日、高校の方で用事があるのでここには来ない。
半分しか居ない部室の中でハゲ丸が作ってきたケーキを食べながら夏凜は手を上げて一つ思っていた事を口にした。
「はい、アタシは誰も来ないと予想しまーす」
「右に同じ」
夏凜の言葉に続く美森。その言葉を聞いてハゲ丸はでしょうね。と言わんばかりに頷いてから美森の淹れてくれた緑茶を口にした。流石和に関しては誰よりもな美森。緑茶がかなり美味い。
「……どうして?」
その言葉を聞いた千景は首を傾げた。
やる事は比較的ハードな方だが、それでも愉快で楽しい部活だ。そこに人が来ないと言うのは千景にとっては疑問でしかなかった。
が、その言葉に夏凜が答える。
「まぁ原因の一つは園子ね。園子はみんなご存知の通り乃木家のお嬢様。そんな人が居る部室に入ろうだなんて誰も思わないもの」
「実際、小学生の時も私達が友達になる前はぼっちのようなものだったものね」
「園子自身はすっごい良いヤツなんだけど、それをネームバリューが邪魔しちまってんだよ。曲がりなりにもこの四国で一番偉い家のお嬢様だからな」
三人の説明を聞き、千景は納得したかのような声を漏らした。
サブカルの知識がある千景にとってその人の心情を想像するのは難しい事じゃない。むしろ簡単だ。しっかりと向き合ってみれば家柄なんて一切気にせず、権力はそこそこ振るうが、それでも無実の誰かを傷つけるような事は一切せず、友達思いのいい人。そんな評価になるのだが、そうでなければ家柄がすごい高く、想像できない程お嬢様で権力もかなり持っている。そんな先入観が邪魔をして乃木園子という少女をよく見る事ができない。
故に納得できた千景は次は? と口を開いた。
「このビラよ。最早ただの落書きじゃない」
「友奈と園子に好き勝手させた結果がこれだよ」
「お菓子食べ放題、勇者らしいことをしよう、戦うお役目なんてないヨ……内輪にしか通じないネタよね、これ」
勇者部所属の千景にだって最初以外は何のことを言っているのかサッパリわからん状態。そんな事ばっかり書いてあるビラの端っこの方に銀が何とかねじ込んだのであろう勇者部の普段の活動とホームページのURL。ハッキリ言ってこのビラで誰かが釣れるわけがない。
三人は駄目だこりゃと言わんばかりにハハハと笑ってからお茶を啜る。千景も苦笑しながらお茶を啜り一服。
「……まぁ今年も同じメンバーと顔を合わせる事になるわね」
「もしかしたら美少女ぞろいのこの部室に変な事考えた馬鹿が来るかもしれないけどな」
「大丈夫よ。そんなのすぐに来なくなるわ」
「……キャラが濃いものね。私以外」
「千景、安心しなさい。アンタも十分にキャラが濃いわ」
「えっ……?」
少なくともこの個性しかない集団の中で個を確立させている時点で千景も相当キャラが濃いのは確定的に明らか。
それを自覚していなかった千景は「嘘でしょ?」と言わんばかりに目を見開いているが、美森がそっと肩を叩いて首を横に振った。その通りだという事だろう。
千景も勇者部に入部して三か月近い。最初は会話するだけでも声が小さかったり言葉が詰まったりとしていた千景だったが、最近は声はあまり大きくない物の言葉が詰まることも少なくなった。ついでに結構生意気な事も時々言うようになった。
何気に勇者部全体からの汚染を知らぬうちに受けているのである。
ちょっと落ち込んだ千景は夏凜のにぼしの袋に手を伸ばし、ぽりぽりとにぼしを齧りながら天井を仰いだ。サラッと先輩の物に手を付けている時点で結構図太い神経をしているのに彼女は気が付いていない。
そして暫く四人が適当な雑談をしながら待っていると、部室のドアが開いた。
「駄目でしたー」
「何がいけなかったんだろ?」
「んー……なんでだろうね~」
「あらまこの人達、まさかの自覚無し」
そこから入ってきたのはやはり樹新部長を始めとする残りのメンバーだった。その四人しかいないのを見て、留守番組の四人はやっぱり。と言わんばかりに苦笑する。
「まぁまぁ。その内誰か入部しに来るかもしれないし、あまり落ち込まないの」
まぁどうせすぐに勇者部のアレな評判が広まって僅かな入部希望者が消えてしまうのだろうが。
夏凜の優しい言葉を聞いてその通り、と新入部員なしの現実を振り切った友奈と園子はハゲ丸からケーキを受け取るといつものようにそれを口に運んで笑顔を浮かべる。切り替えが激しい上にご機嫌取りが簡単なピンクと紫だ。
対して樹はちょっと疲れた表情で椅子に座ると、スマホを取り出して何やらそっちに集中し始めた。
「……樹さん。何、してるの?」
「スケジュール合わせ。実は今月からボーカルレッスンとかが本格的に入ってくるから、その予定合わせ」
「……そういえば、歌手志望、だったかしら?」
「うん。まだ歌手の卵だけどね」
この春から樹は本格的に歌手になるためのレッスンに通う事となる。今までも新人アーティスト育成プロジェクトとして何度かレッスンを受けてきたが、この春からはそれが本格的となる。
一応彼女が歌手の卵として頑張っている事は千景もよく存じている。勇者部のSNSグループでそういった話題は結構出てきているし、早いうちからそれは知らされていたからだ。
ゲームばっかりで家にこもってばかりの自分とは違い、歌手というアイドルにも近い存在になるために頑張っている彼女は真逆の立場の人間だ、と千景は思っていた。
普段は先輩達に生意気で、でも誰かを引っ張る事だってできて、今回もこうして一部長として新入部員を勧誘するために人前に出て頑張っている。
「でも、まずは上がり症を治しましょうって言われててね。どうしてもそこで躓いちゃってるんだ」
「……上がり症?」
樹のその言葉を聞き千景は首を傾げる。
上がり症。樹がそんな、誰かの前に出るのが恥ずかしいと思う人間だという証拠を千景は見たことが無い。少なくとも先輩の前であれだけ生意気な事をできていたら上がり症からは程遠い人間だ。
「ここだと遠慮無用っていう雰囲気があるから好き勝手できるけど、それを外に持ち出すのって結構難しくてね」
「……でも、いつもは」
「それは人が少ないからだよ。十人以上の前に立つと結構上がっちゃうよ? それに猫も被っちゃうし」
調整完了、とわざとらしい声を出して樹はスマホを机の上に置いた。
かつては大赦印が入っていた端末も今や彼女の趣味を反映したちょっと小さめの、緑色のスマホケースが取り付けられた可愛らしい端末だ。その端末に映っている物を樹はそっと千景の前に差し出した。
それは、勇者部に入ってすぐの頃。まだおどおどしていた樹に美森が手品を披露している写真だった。風が撮ったその写真に写っている樹は今とは違い縮こまっている感じに見える。
「これが丁度一年前のわたし。あの時は先輩二人とお姉ちゃんだけの空間だったんだけど、二人を前にするとガッチガチに緊張しちゃって。それが解けて暫くしてからハゲ先輩が入ってきて、この人達を相手に遠慮するのも馬鹿らしいなーって思ったら自然とこうなったんだよ」
そう、樹は最初、どちらかと言ったら千景よりの人間だった。
人前に出るなんて。誰かと話すなんて。年上と話すなんて。緊張して、どんな言葉なら嫌な顔をされないかを探って、結果言葉が詰まって。しかしそれも気が付けばどうにかなっていた。
言うならば樹は、千景がなれる可能性の一つだ。
過去の一切を考慮しないこの時代、この空間で、千景がなれてもおかしくない人物の一人。友奈のようなコミュ力は無いし、園子のような大らかさもない。しかしそれでも人前に立って誰かを引っ張っていける。
それが樹だ。
「千景ちゃんもコミュ障なんでしょ? だいじょーぶだいじょーぶ。嫌いな人には嫌いって言えばいいんだし、遠慮が要らない人には思いっきり当たればいいんだよ」
「……嫌いな人には、嫌い…………」
頭の中に過るのは、父を始めとする自分の過去に関わった人間たち。
誰一人として自分を助けてくれなかった。石を投げ差別するのを楽しみとし当然とした最低な人間ども。
もし友奈が。園子が。樹が、あの中に放り込まれたのなら、彼女達は一体どうするのだろうか。
きっと、必死に抵抗する。例え一人だろうと、彼女達は抵抗するだろう。千景は、それを実行に移すだけの度胸が無かった。拳を振るわれればそれを受け入れなければならない。そうでなければもっと痛い思いをする。そう思っていた。
だが、殴り返していたら? カッターナイフでも持って思いっきり暴れてやれば?
今までサンドバッグだった自分が勇気を出して拳を握り返していたら? きっと、それだけで何かしてくる人間は減っていた。
アレは遠慮が要らない人間たちだ。そんな人間たちに遠慮していた。嫌いな奴らだったのだからそれ相応の事をしてやればよかった。
「……樹さんは、もし……もし、苛めらたらどうするの? 例えば、村ぐるみで苛められて……親からも見捨てられたら」
「え? うーん……子供の足だと逃げられないし……とりあえず苛めてきた子のランドセルとか机の中に犬の糞でも放り込むとか上履きにコッペパン詰め込むとか嫌がらせかな?」
上履きにコッペパンを詰め込むのは果たして嫌がらせなのだろうか。ただ勿体ない事をしているだけに過ぎない気がする。
「あとは、助かる方法を探すかな。村ぐるみで駄目なら電話して村の外に助けを呼べばいいんだよ。昔のわたしはできないだろうけど……でも、お姉ちゃんならきっとそうするし、今のわたしもそうする。助けてって叫ぶのも重要だけど、所かまわず助けを求めるのも必要だと思うな」
まぁ、実際にその状況じゃないから好き勝手言えるだけなんだけどね、と樹は最後に言葉を付け加えた。
そうやって苦笑しながら好き勝手言う樹の言葉に千景は思い至る部分が幾つかあった。
昔の千景は、彼女の言う昔の樹だ。遠慮して、人と触れ合うのが苦手で……幼い頃から村ぐるみの苛めという洗脳じみたことをされたがために村の外に助けを求めるという事を考えられなかった。
今の千景ならそれを考えられる。園子やハゲ丸のような大人がどこかに居ると信じて、助けを求めるだろう。だが、数か月前の千景は助けの手を伸ばされるまで助けの手を伸ばす事ができなかった。自分は助けられない、無価値で、愛される事無く、必要のない人間だと決めつけていたから。
「でも、その前に一発くらい殴るかな。だってサンドバッグになってるとかムカつくじゃん?」
「……そんな簡単に人を殴れるの?」
「殴れるよ?」
そう言うと樹は立ち上がり、そっとハゲ丸の側に近寄った。
そして立って立ってとジェスチャーするとハゲ丸は何も言わずに立ち上がり、そしていきなり強烈なボディーブローを受けて崩れ落ちた。
樹さん、腰の入ったいいボディーだ。
「ほらね?」
いや、それ多分ちょっと違う。とは千景の言葉だ。
でも、そんな生意気さ……いや、図太さとも言えるそれも生きていく上ではきっと必要なのだ。
目の前の困難に対して立ち向かってみる事も。かつて行って無理だと諦めたソレを、貫き通す努力をする事も。
「樹ちゃん後輩ぃぃぃ……お前今日という今日こそは許さねぇからなあぁ!!?」
「あ、やべっ、逃げろっ!!」
「逃がすかクソ緑ィ!!」
そして立ち上がったハゲ丸に割とマジで追われる樹。樹はすぐさま部室の外へと駆けて行き、ハゲ丸は割と本気でキレた状態で樹を追った。流石に何もしていないのにボディーは結構イラッと来たらしい。
開けっ放しのドアから樹の悲鳴とハゲ丸のゲスい笑い声が聞こえてきたため、本気で怒っている訳ではないのだろうが、それでも結構マジなお仕置きが執行されている事だろう。具体的には思いっきりバックドロップとか。
「……あんな図太さも、大事なのね」
だが、きっと彼女のような図太さは生きていく上で必要だ。
今日の今日まで逃げていたあの過去に……あの村と決別する勇気が。生まれ故郷を完全に捨て去りこの時代で生き抜くと言う覚悟をぶつける図太さとも言える物が。
「樹ちゃんのはちょっとやり過ぎだけど、わたしも思いっきりぶつかってみる事は大事だと思うよ?」
「友奈さん……?」
「ぶつかってみなきゃ分からない事もあるからね。駄目だったらぶつかって殴り飛ばしちゃえば勝ちなんだから!」
と、言いながら友奈はその場でシャドーボクシング。神すらぶん殴って見せた彼女の精神論とも言える物は、実際重要な事だ。
千景の父なんて千景の助けをうるせぇ黙れと一蹴してきたのだからこっちだって意趣返しにぶん殴ってやればよかった。大の大人が逃げるための相談をする事もなく、考える事すらできずにされるがままだなんて。
だが、一蹴してきたのだからこっちだって突きつけてやろう。
千景特製の絶縁状という拳を。
「……ありがとう、友奈さん」
「え? わたし何かお礼されるような事言った?」
「はい。一度思いっきりぶつかってみる事……私、今までやったこと、なかったから」
あの村の一人一人に喧嘩を吹っ掛けるなんて真似まではしないし無駄なのでやりたくもないが、父に絶縁状叩きつける程度はしてもいいだろう。
千景は友奈に礼を言ってから立ち上がると、園子の元へと向かった。
今までは将来はこの時代に住むか。それとも過去に戻るかを保留という形にしていたが……もう迷う必要はない。
あの自分の事しか考えられない父に絶縁状叩きつけてこの時代で園子と藤丸という姉代わり兄代わりと共に生きる。今までどうして保留にしてきたのか、最早今の千景には分からなかった。
きっとこれが昔の樹が今の樹に変わった理由なのだろう。千景にはそれが理解できた。
だから変わっていくために。変わるための第一歩として、過去を捨て、未来に生きる。
「園ねぇ」
「なぁに?」
「……私、もうずっとここで生きる。西暦には、戻らない」
千景のその言葉に園子は目を見開いた。
だが、すぐにそっか。と言って笑顔を浮かべた。今までなぁなぁにしてきたこの気持ちを、まずは園子にぶつける。彼女に流され、選択肢を与えられるだけではなく、自ら選択するために。
「だから……今度、一度だけ西暦に戻りたい。あのクソ親父を……ぶん殴りたいから」
「……うん。じゃあそのための準備とか色々としよっか」
園子の言葉に千景は頷き、一度だけ窓の外を見た。
窓の外では青い鳥がとんでもない表情をしてこっちを見ていた気がしたのだが、果たしてその真実や如何に。
『……千景ってあんなにアグレッシブな事を言うやつだったか? いや、そもそも久しぶりに見に来たらどうして千景が小さくなってこんな所に……』
そんな声が聞こえたような聞こえなかったような。
若バード「なんかちょっと目を離したら子孫とロリ化した仲間が仲睦まじくしている上に仲間の方がアグレッシブな事を言いだしていた件」
高奈神「またまたやらせて頂きました~(テヘペロ)」
という事でぐんちゃん最後の汚染(?)はイっつん&ゆーゆからの図太さ&自分の想いを伝える事、でした。これにてぐんちゃんに対する汚染はクソレズ化、にぼっしー化、女子力魔神化、少女漫画大好き化、生意気化、コミュ力上昇となりました。汚染の天と地の差が酷すぎる。
これにてぐんちゃんは高奈ちゃんにクソレズ的行動をするようになりしきりに煮干しとサプリを口に運びながら女子力女子力言って少女漫画を読みながら生意気な事を言いつつもコミュ力で相手と円滑に交流を進めていくという何かもう分からない存在になりました。
と、いう訳で。これにてぐんちゃん汚染は完了。頃合いを見てぐんちゃんを西暦に放り込む話に入ると思います。
しかし、ロリぐんちゃんのまま勇者にすべきか中学三年生の原作状態で勇者にすべきか……迷う……
のわゆ時のぐんちゃんの年齢
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小学六年生~中学一年生のロリぐんちゃん
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中学三年生~高校一年生の原作ぐんちゃん
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そんな事よりタマっちにセクハラしてほしい
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ワザリングハイツに狙われるロリぐんちゃん
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皆に大人ぶってカッコつけるぐんちゃん