ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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一気に原作三話消化。キャラ崩壊の限りを尽くした樹ちゃん後輩とわっしーの扱いやすさが尋常じゃない。


バーコードハゲ(バーコード無し)

 自室へと日課の訓練を終えて帰宅してきた夏凜は、ふと今日、勇者部で決められたことを思い出していた。

 

『時間無いから手短に言うけど、今週末に子供会のレクリエーションを行う事になったわ。で、やること用意することは大体このプリントに書いておいたから』

 

 そう言って渡されたプリント。そこに書いてあることに目を通せば、どうしてか夏凜が参加することが既に組み込まれていた。昨日の内にプリントを作ったのだろうか。それとも訂正したのだろうか。どちらかは分からないが、どっちにしろ自分が参加することが既に決められているということが何となく夏凜は気に入らなかった。

 何故なら夏凜はこの試作型勇者とも呼べる四人と謎のハゲを監視するために送られてきた人材だ。それ故に夏凜がこういった勇者部の行事に参加する義務は一切と言ってもない、と言いたかったのだが。

 

『え? もうあんた入部届書いてるから勇者部の一員にカウントされてるわよ?』

 

 と言って風が入部届を突き付けてきた事によって夏凜は黙ってしまった。

 その手の入部届は、別に守らなくてもいい。何故なら表面上の入部だから。だが、完成型勇者と自称している自分がそういうルールを守らないというのは勇者という名を汚すような気がして。反論したかったができずそのまま風の簡易的なミーティングは過ぎていき、気が付けば夏凜もレクリエーションに参加することになってしまった。

 それに、なんやかんや言って口頭で行くと言ってしまったのだ。言ってしまった以上行かなければならない。

 夏凜は自分の行動の浅はかさを軽く呪いながらも。しかし、やるんなら完璧にやってやろうじゃないかと。後悔しても仕方ないと立ち上がり、思った以上に軽い足取りで近くのコンビニに折り紙を買いに行ったのだった。

 

 

****

 

 

 という事があったのだが。

 夏凜が日曜日、意気揚々と自転車に跨って讃州中学の勇者部部室へ着いた時、勇者部の面々はまだ部室に来ていなかった。それに夏凜は疑問を覚えたものの、携帯で時間を見てみれば、まだ時間は集合時間の三十分前を示していた。

 なんだ、結構時間にはルーズなんだと。ちょっとはしゃぎすぎてしまった自分に反省しつつ、時間を適当につぶすことに。

 しかし、そこから二十五分経っても誰も来ない。流石にこれは可笑しいんじゃないの? と思いながらもまだ待つことに。そしてそこから十五分。全員遅刻か? と夏凜が軽くいら立つ。そのまま一時間が過ぎて集合時間から一時間十分経っても勇者部の面々は一人も来なかった

 

「なによ、あたしがバカみたいじゃ……」

 

 なんて口にした時だった。

 ふと、風の言葉を思い出した。

 

『当日、部室に来ちゃった、なんて馬鹿な事しないようにね~』

 

 あっ。

 夏凜は言葉を漏らし一応持ってきていたプリントを確認した。

 そこには現地集合という、今の夏凜の状況を簡単に説明するのに事足りてしまう言葉が書かれており、それを見落として部室へ来た夏凜は、なんというか。

 可愛く言えばお茶目。酷く言えば阿呆だった。

 

「……やっべ」

 

 思わず自分らしくない言葉が出てしまった。

 直後、そこにかかってくる樹からの電話。

 

「……で、出たほうがいいわよね?」

 

 そして電話に出る夏凜。

 

『あ、Hi-νガンダム先輩! 今どこにいるんですか!?』

「人違いです」

 

 そして切った。

 誰がHi-νガンダム先輩だ。

 そしてまた電話がかかってきた。樹からだ。

 

「はい」

『ナイチンゲール先輩! どうしてさっきは』

「人違いです」

 

 切った。

 誰がサザビーを強化発展した赤い機体だ。

 もうこれ以上間違い電話がかかってきては流石にイラつくと判断した夏凜は携帯の電源を切ろうとして。最後にまたかかってきた樹からの電話に一応出ることにした。

 

「はいもしもし」

『V2ガンダム先輩! なんでさっきから』

「人違いです」

 

 切った。

 誰がリガ・ミリティアのフラグシップ機として開発された機体だ。

 夏凜はもう携帯の電源を切って天井を見た。

 

「……帰ろ。あたしが行く義理なんてないんだし」

 

 夏凜は、ちょっと張り切っていた自分が馬鹿みたいだと思いながらも、しかしながらちょっとだけ重い足取りで自宅へと帰宅したのだった。

 そして帰宅してからは、なんというかいつも通りの休日を過ごした。午前中の時間を無駄にしたが、それだけだ。夏凜は何とも言えない感情を抱えながらも愛用のルームランナーで一通り走ってからシャワーを浴び、携帯の電源を付けようとする。

 が、それも何となく怖くて。もしも。いや、確実に勇者部からは電話の雨霰が飛んできていた事だろう。自分のミスで勇者部面々に迷惑をかけたという事実をなんとなく受け止めたくなくて、夏凜は手に取った携帯をベッドに投げ捨てた。

 もうこのまま晩御飯を買ってきて寝てしまおうかと思い、学校に行った時の荷物に紛れた財布を取り出そうと。

 ――ピンポーン――

 

「……え?」

 

 インターホンが鳴った。

 おかしい。この部屋の住所はまだ誰にも言っていないハズ。なのに誰か来るのはおかしい。

 ――ピンポピンポーン――

 

「……え、こわっ」

 

 また鳴った。

 一体誰が。何が来ているというのだ。

 ――ピンポピンポピンポピンピンピンピピピppppppppppppピンポーン――

 

「思った以上にしつこい!?」

 

 しかもリズムゲームされた。人の家のインターホンで。

 流石にイラッと来る夏凜。思わず訓練用の木刀を手にしてしまったが、流石にそれを玄関口に居るであろう誰かに振るうのはしつれいだと思って……

 ――テッテッテッテーテテーテテテテッテテーテテテテテテッテーテッテテー――

 なんでかインターホンから逆シャアのBGM、main titleが流れ始めた。

 その瞬間、夏凜は木刀片手に走り出した。

 

「いやどういう原理ィィィィィィ!!?」

 

 本当はうるさい! と叫びながらドアを開けるつもりだったが、思わず心の底から思ってしまった疑問を叫びながらドアを開け、木刀を突き付け。

 

「あだぁ!!?」

「あっ、ハゲが吹っ飛んだ」

 

 ドアに密着していたらしいハゲ丸に、威嚇として突き付けた木刀が当たってしまいハゲが吹っ飛んだ。

 え? どうしてハゲが? と思いながらも、視線を吹っ飛んだハゲではなく目の前に向けてみれば、そこには勇者部の四人がいた。

 

「え? あ、どうして……?」

 

 どうしてここが分かったのか。言葉足らずにそう聞くと、四人を代表して友奈がその問いに答えた。

 

「夏凜ちゃん、入部届に住所書いてたでしょ? それを思い出して」

「いやー、あれはファインプレーだったわ」

 

 言われた思い出す。そう言えば住所は書いた気がする。

 だが、今はそれどころじゃない。

 

「ってか、さっきのアレは何よ。どうしてあたしの部屋のインターホンが逆シャアのBGMに……」

「普通にドアの隙間から大音量で流しただけだよ?」

 

 そう言われてハゲ丸の手を確認すると、そこには確かにハゲ丸の携帯が握られていた。そしてそこからは未だにmain titleが流れているのを確認した。

 夏凜は近所迷惑だからとハゲ丸の携帯を奪って音楽の再生を止め、何しに来たんだと勇者部を問い詰めようとする。が、勇者部のフリーダムっぷりは夏凜の予想と予測と想像の更に上を行っていた。ちょっと玄関の前から離れた隙に勇者部の面々は夏凜の部屋に入り込んでいた。

 

「ちょっとぉ!?」

 

 思わず声を荒げながら勇者部の四人を追う夏凜。その後ろをついてくるハゲ。

 勇者部は既に持っていた荷物を部屋の中に置いて夏凜の部屋を物色していた。

 

「わぁ、このルームランナー、プロの選手みたいですね、Hi-νガンダム先輩」

「勝手に触んな! ってかHi-νガンダム先輩って何よ!!」

「だって、試作型のデータを使って生まれた完成機ですよね? ならHi-νガンダムじゃないですか」

「いや、確かに意味合いはそうだけどそうじゃなくて……あーもう!!」

 

 反論できない程度には意味が似通ってしまっているのがどうにも腹立たしかった。そして今思えば、樹が電話口から言っていた機体は全部そんな感じの背景を持つ機体ばかりだ。

 このガノタめ、と夏凜は軽く苛立ちながらも、ルームランナーの説明書を樹の顔に押し付け、他に何か馬鹿な事をしているやつがいないか視界を回すと。

 

「うわ、お水しかない」

「冷蔵庫覗かないで!!」

「うっわ、コンビニ弁当の空き箱ばっか」

「それ今日捨てる気だったから触んな!!」

「どう、ベッドの下に何かあったかしら?」

「ぐっ、ギリギリ……おっ、男性モデルのグラビア特集だってよ」

「死ねっ!!」

『アッー!!?』

 

 ハゲとレズを窓から投げ落とし、息を荒くしながらも一度落ち着く。ちなみに、ハゲ丸が発見した本は、その中にあるとある記事が見たくて買っただけであり、他意はない。ベッドの下に行ってしまった理由は、手が滑って入り込んでしまったからだ。そしてそれに手が届かなかったため放置していたのだが、それが仇となった。

 本当に他意はない。その更に奥には百合の花が咲くようなコミックがあることもない。絶対にない。黒歴史を書き記したノートなんてものもない。ないったらない。

 

「なんで勇者部はこうも阿保ばっか……」

「あっ、ちょっ、これ予想以上に速あああああばばばばばばばば!!?」

「いや何してんのよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 そして最大速度でルームランナーを動かした樹が左右のバーにしがみついた状態で足がルームランナーから離れてしまったため、ルームランナーに吹き飛ばされかけていた。それを救出して頭を一度叩き、どうしてこんなにフリーダムなんだと夏凜はため息を吐いた。

 気が休まらないとは正にこのことだろう。少し目を離したら別の問題が舞い込んでくる。

 

「夏凜ちゃん夏凜ちゃん!!」

「今度は何よ!!」

 

 そして今度は友奈からのコール。

 今度はいったい何の真似だと思いながら友奈の方を見る。

 そこにあったのは、夏凜が買った覚えのない。いや、買う訳の無い白い物。俗にいうケーキを両手で持って夏凜に向ける友奈がいた。

 そのケーキのチョコプレートには、チョコペンでHappy birthday夏凜とおしゃれな筆記体で書かれていた。

 この誕生日ケーキが誰に向けられたものなのか。それを察するのにそのチョコプレートは十分すぎた。

 

「えっ、な、なによこれ……」

「夏凜ちゃん、今日が誕生日でしょ? だから、お祝いのケーキ」

 

 思わず呆然とする夏凜。

 いつの間にか戻ってきていたハゲ丸と美森。そして目を回している樹と、そんな樹がちゃんと立てるように補助する風。そして、笑顔の友奈。

 

「ど、どうしてそれが……」

「入部届。わたしが発見したんだよ」

 

 住所に続いて、誕生日も。

 そう言えば鬱陶しいと思いながらも記した記憶がある。

 まさかそれを見て、態々家にまで来てお祝いしようとでも思ったのか。

 

「というわけで。サプライズお誕生日会の開催、だよ」

「ハゲ、鍋焼きうどんを作るわよ」

「任せろクソレズ」

「じゃあアタシ等はお菓子とジュースを並べるから」

「じゃあわたしもうどんの手伝いを……」

「樹ちゃん後輩は来るな。いいか、絶対にだ」

「ひどすぎません!?」

「当たり前の処置ね」

 

 固まる夏凜を他所に着々と進んでいく誕生日会。

 それを呆然と見る夏凜を見て。友奈は一言声をかけた。

 

「本当は、児童館で大勢で祝おうって思ったんだけど、夏凜ちゃん来ないから……」

「だったら家に押しかけちゃえってなってね。折角隣町までケーキの発注したんだし、祝わないと損じゃない?」

「というわけで祝いに来ました!」

「ほら空中で切りなさいハゲ!」

「その程度できて当たり前だクソレズ!」

 

 笑顔の友奈。悪戯が成功した時の子供のような笑顔を浮かべる風。どや顔の樹。飛ぶ料理の実現をする芸人コンビ。勇者部の面々は、頭のネジが一本二本外れていても善人であることには変わりない。慈善活動を行って笑顔になるような、お人よしであることには、変わりないのだ。

 そんな彼女らに目を付けられたのだ。夏凜にはもうこの善人集団に祝われるしかやることはない。

 ないのだが、固まっている。口を開けて、何かを言おうとした状態で。それ以上の言葉を口にできていない。

 

「……どうしたのよ。もうちょっとなんか言いなさいっての」

 

 うりうり、と夏凜の肩を突っつく風。

 そんな彼女に対して夏凜が示した行動は、拒否ではなく、まるで照れ隠し。顔をそらして風を視界内に入れないようにしようと。そんな感じの必死な照れ隠し。

 

「わ、分かんないのよ……誕生日会なんて、されたこと無いから……どうやって反応したらいいのか……」

 

 頬を染めてそう告げる夏凜は、いつも纏っている刺々しい雰囲気が無くなっていた。

 それに風が笑って。樹も、友奈も。いつの間にか料理の手を止めていた芸人も。一度だけ視線を合わせて。同時に口を開いた。

 

『お誕生日、おめでとう』

「っ……あ、ありがと」

 

 恐らく、夏凜はこの誕生日会を一生、忘れることはないだろう。

 

 

****

 

 

 その日の深夜。

 誕生日会は大騒ぎしたまま終わり、夏凜のカレンダーにびっしりと予定が埋め込まれたり友奈が脳内で決めていたらしい、文化祭での出し物。演劇について軽い話し合いをしたり。色々とあった。

 特に印象深かったのは、芸人コンビが喧嘩しながらも息ぴったりだったことだろうか。いや、違う。友奈が笑顔で自分を楽しませようと色々としてくれたことだ。芸人はどうでもいい。

 夏凜は未だにうるさいNARUKOのトークに目を通しながらそうして今日の事を思い返していた。

 

「……まったく。なんでトーク欄でもこんなにうるさいんだか」

 

 ハゲとレズの煽り合いとそれに油を注ぐ樹の発言、それを一瞬で鎮火する友奈と、進行役の風。なんともまぁ、バランスのいいこと。

 夏凜はそれを見ながら高速で流れていくハゲとレズの煽り合いに時々笑い。気が付けば時間はもう深夜に近い時間帯となっていた。もうそろそろ寝ないと明日に支障が出てしまう。そう思い携帯の電源を切ろうとしたが、そう思ったのは他の勇者部の面々も同じなのか、友奈のもう寝るね、の発言でトークがおやすみで埋まった。

 やはり友奈にはあの芸人コンビも勝てないか、なんて思いながら夏凜もおやすみと一言送信して寝ようと……

 

「うわっ!? めっちゃ反応してきた!?」

 

 秒速で飛んできた勇者部の反応にしどろもどろした。

 

『あ、夏凜ちゃんだ!』

『レスポンスいいじゃない』

『Hi-νガンダム先輩ちっすちっす』

『ぼた餅食えよ……ぼた餅食えよぉ!!』

『ジェラート、ご期待ください』

「カオスだなオイ」

 

 五人の様々な反応に夏凜はうっさい! とトークを送信する。

 

『ふはははは』

『ぼた餅を信仰するのです……ぼた餅を崇めるのです……』

『ジェラート神に祈りなさい……ジェラートは全てを救うのです……』

『そう』

『これこそが』

『友奈様のお導きなのです』

『友奈様のお導きなのです』

『えっ、わたし!?』

『唐突に巻き込まれる友奈さんに草』

『出たな怪人紫錬金術師』

『出たな怪人スペシャルうどん』

『屋上に行こうぜ……久しぶりにキレちまったよ……』

『やはりガチンコ勝負か……アタシも同行しよう』

『お姉院』

『芸人コンビVS犬吠埼姉妹! 中継は明日のお昼休み!!』

『トーク上でくらい少しは落ち着きなさいよ!!?』

『出たなツンデレ』

『出たなツンデレ』

『出たなツンデレ』

『出たなツンデレ』

『出たなツンデレ』

『誰がツンデレよ!!』

 

 もう収拾が付かなくなってきた。

 が、こういうトークを眺めているのもなんとなく面白いわけで。

 

『そんなツンデレ夏凜ちゃんに今日の写真をプレゼント!』

『明日から騒がしくなるぞぉ』

 

 送られてきた写真を見て思わず頬を緩めてしまい。

 夏凜はそれを自分の携帯に保存し、携帯の電源を切って天井を見上げた。

 

「……ばっかみたい。あたし達は世界を救う勇者なのに」

 

 悪態付きながらも、夏凜の顔はどこか嬉しそうだった。

 なお、この後も勇者部のトーク上でのどんちゃん騒ぎは止まらず、結局夏凜がそのまま寝た後も続いた結果、友奈、美森、ハゲ丸、風、樹の全員が授業中で居眠りするという事態が発生し、夏凜が呆れたのは完全なる余談だ。




樹ちゃん後輩はいったいどこへ進んでいくのか……もうこれ、樹ちゃん後輩の散華内容を変えた方がこのままのギャグ一辺倒にできるような気がしてきた。でも樹ちゃん後輩の散華内容を変えるとストーリーに支障が出るからなぁ……

で、次回は樹ちゃん後輩のターン。既にフリーダム樹となった樹ちゃん後輩がシリアスに耐えられるのか。ってか絶対に東郷さんよりも樹ちゃん後輩の方が崩壊っぷり激しいよ。だって完全にギャグキャラだもん。天使じゃなくて芸人になりかけてるもん。

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