ここまでは神世紀勇者の出番は少しだけ有りますが、次回からは主人公は一旦ちーちゃんに移行します。
と、いう事で散々やるやる言っていたのわゆ編、スタートです。
唐突な別れ、唐突な始まり
神世紀301年は、日本の四国以外に人が住んでいない。いや、それまで住める環境ではなかったと言うべきか。
殺人ウイルスが蔓延した事による人類の過半が死んでしまった大災害。そんな大災害から四国を守ったのが神樹様。そしてつい最近、そのウイルス達は神樹様が完全に消し去ってくださり、四国は、人類は再び自らの力だけで生きていく事となった。
そう、千景は園子から話を聞き、安芸先生から社会の授業の一環として習った。
西暦の時代から三百年以上先の神世紀。社会の教科書の年表にも、確かに載っている。千景が生きていた時代、西暦2014年。そこから大体六年後の西暦2020年。そこが神世紀元年となっている。
つまり、千景が生きていた時代から六年後。四国の外は殺人ウイルスにより壊滅状態となり、人の九割以上が死滅。そして神が人を守る時代が、始まる。
「……まぁ、いいや。私には、関係ない」
社会の教科書を閉じ、千景は呟いた。
今から過去に戻りこの事を大々的にネットで書き込んだところで妄想乙、と一蹴されるだけ。
それに、千景からしたらこの事は既に過去の事だ。千景は既にこの神世紀の時代に生きる人間であり、もうすぐ正式に戸籍も作られる事になるし、園子の父と母が千景の養親という形で千景はこの時代に生きていく事となる。
だから、関係ない。後は父に絶縁状を叩きつけて終わりだ。
「ちーちゃん? 何してるの~?」
社会の教科書を本棚に片付け、ついでに広げていたノートを閉じた所で風呂上がりの園子が千景の部屋を覗いた。
「宿題……してただけ」
「宿題か~。わたしも出てる課題、明日にでもやらないとな~」
宿題、とは言っても安芸先生から復習としてここからここの範囲をもう一度読んで覚える事、とか教科書のこの問題をもう一度やる事、とか。そういうのを指示されるだけなので、そこまで量が多いわけではない。
なのでそこまで時間を取られたわけではない。精々園子が風呂に入っている間に終わるような宿題だ。
千景は園子の困ったような表情に笑うが、果たして彼女が千景がここに来てから今日まで、一回でも課題に嘆いたことがあっただろうか。
なんか嫌々言っているが大抵千景が風呂に入っている間とか、寝る前に数分程度で終わらせている気がする。
来年からは千景も中学生なので、園子のそういう所を見ていると中学校もそんなに課題は大変じゃなさそうだ、なんて思っているが、果たしてどうなる事やら。
「それで~。安芸先生、わたしは最近会えてないけど元気にしてる~?」
「うん、元気。家庭教師を、してから……健康的になった、って」
「……まぁ、大赦での仕事と比べて今は定時帰りの高給取りだからね」
園子がちょっと闇を感じる表情をしたが、まだ子供の千景にはその理由が分からない。
まさか安芸先生が家庭教師をやるまで残業続きの休日出勤が当たり前な過労気味で、家庭教師を始めてから残業無し、休日出勤無し、しかも給料アップで、天職とも言える教師……ではないが、それに近しい家庭教師をできている。
これには安芸先生もニッコニコである。
「それじゃあ~、明日は色々とあるし~。ちょっと早めに寝る~?」
「うん」
そして寝る時は千景は自分のベッドではなく、園子の部屋のベッドで園子の腕の中で眠る。
西暦の時代では考えられない程、肉体的にも精神的にも充実した生活。趣味であるゲームは変わらないが、それを取り巻く環境が一変しただけで千景の毎日は灰色ではなくカラフルになった。
勇者部の皆は千景の両親の事を知っても、差別なんてしなかった。そして父と母以上に愛情をくれる姉代わりと兄代わりが居る。学校は行っていないが、それでも来年からは普通の中学生としての生活が待っている。
本当に、本当に充実している。
園子の体温を感じながら眠りにつけば、過去の事なんて一切思い出さない。華やかな未来の事だけを考えられる。
楽しい夢を見て、目を覚ませばそこには園子の顔のドアップが。涎を垂らしながら眠る園子は、中学生らしく見えず、ちょっと年下の女の子にすら見えてしまう。それにちょっと笑いながら、園子が起きないように園子の腕の中から抜け出し、自室で着替えれば朝食を作り始める。
一緒に住んでいるんだから、と始めた家事。みんなに料理を教えてもらって、最近じゃ簡単な料理はできるようになった。それこそ、目玉焼きとか味噌汁なんかはもう簡単に作ることができる。
味噌汁と、それから目玉焼きを作って昨日の内からタイマーでセットしておいた炊飯器の中にある白米を盛りつければ、匂いに釣られた園子が起きてくる。
「ちーちゃんおはよ~……」
「おはよう、園ねぇ。ご飯……できてるわ」
「わぁ~。ちーちゃん、ホントご飯作るの上手くなったよね~」
「みんなが、優しく教えてくれるから」
千景の言葉に園子は笑い、共に卓について朝食をとる。
料理のできる先代組の教えにより家庭料理は勿論、ある程度の料理はできるようになり、勿論うどんも調理できるようになった千景は、かつての千景を知る者が見たらきっと別人だとしか思えないだろう。
たった数か月だが、千景はたったそれだけの時間でしっかりと成長し、かつてをしっかりと過去にする事ができた。
そんな事を考えつつ朝食を終え、皿を台所で水につけ、それぞれの外出のための用意を済ませた所でインターホンが鳴った。
「あ、ズラっちが来たみたいだね~」
「一回、上がってもらう?」
「ううん。そのまま出ちゃおっか~。こんなイベント、さっさと終わらせたいしね~」
言いながら、園子は自分の荷物を持ち、千景も荷物を持ってから靴を履き、ドアを開けた。
そこには少しの荷物を持ったハゲ丸が立っており、二人が出てきたのを確認してから、よっ、おはようさん。と軽く挨拶した。
それに二人も挨拶を返し、ドアを閉め鍵をしっかりとしてから休日の四国の街へと歩を進め始めた。
「それじゃあ、行こうか」
「そうだね~。一応の義理は果たしに行こうか~」
「一発、殴る……」
今日、三人が集まったのは他でもない。
先日千景が決めた、千景の父を一発殴り絶縁を叩き込む。その約束を果たしに向かうためだ。
そのために千景は決心をしっかりと固め、園子の鞄の中には金やら何やらを要求された時のために使える物が沢山。ハゲ丸もそんな園子の補佐として、千景の兄代わりとして同行している。
故に、向かう場所は、あの時を超える社。そこで今再び時を超え、西暦の時代へと向かう。
他愛ない事を話しながら移動し、時間移動を可能とする社へとたどり着いた。
「ちーちゃん。準備は良い?」
「大丈夫……一発、殴って絶縁する」
「まぁ、細かい事は園子に任せておけ。園子なら全部やってくれっから」
ハゲ丸が千景の頭を撫で、三人は同時に社をくぐったのだった。
『ごめんね……こうするしか、無いの』
そんな友奈に似た声が聞こえたような気がした。
****
その先は、西暦の時代だった。夕方を越えて、夜中に近い時間となった、西暦の時代。
「夕、方……?」
「マジかよ……こんなに時間がズレてるモンなのか……」
神世紀の時代は四月下旬に差し掛かり、もうすぐゴールデンウィークになろうとしている日の朝方だった。だが、西暦の時代は何日かは分からないが確実に神世紀と比べてもかなり時間はズレている事だろう。
予めハゲ丸は一度だけこの時代に来てどれだけ時間がズレているのかを確認した事があった。その時ですら、時間はかなりズレいたのを覚えている。
そして何より、三人とも春物の服で来たのにも関わらず、暑い。蒸し暑いとも言えるその暑さに汗をかいてしまい、三人とも上に羽織っていた上着を脱いで少しばかり暑さを軽減させた。
が、暑い。
「あれから時間が経ってるから、今こっちは2015年……だよね、ズラっち」
園子が携帯を取り出し、その画面を見ながらハゲ丸に声をかけた。
そう、それは間違いない。一度ハゲ丸がそれを確認したし、園子にもそれを伝えてあるし千景もそれは理解している。
「あ、あぁ。俺が確認した時はもう2015年だった」
「2015年の夏で、神樹様の姿も見えない……これって、もしかして……」
頭の中に思い浮かんだのは、とある日付。
7月30日。天の神とバーテックスがその姿を人類の前に現し、人間を虐殺し始め三百年以上も続く敗北の歴史を刻む事となる運命の日。
だが、あり得ない。まさかそんなピンポイントでその日とかち合ってしまうだなんて。
「いや、流石にそんな……」
神がかったタイミングでそんな事が。
そう否定しようとした藤丸だったが、次の瞬間に園子が見せてきた画面に、言葉を失った。
西暦2015年、7月30日。しっかりとその日付が、液晶には表示されていたのだ。自動的にこちらの時間に合わせた携帯が、しっかりと。
「ッ!? ちーちゃん、今日はダメだ! 帰ろう!」
「えっ、でも……」
「今日だけはダメなんだ! 今日だけは……いや、もう駄目だ! こっちには来ちゃいけない!」
「ズラっち、早く戻らないと!」
ハゲ丸がすぐに千景の手を引き、後ろへと走ろうとする。だが、千景は困惑してそれに軽く抵抗してしまい、ハゲ丸も思わず足を止めてしまった。
園子は千景を抱えてでもその場を離れようとする。
――だが、遅かった。
全ては遅かった。
自分を覆い包むように局所的に巨大な影が生まれ、それが徐々に大きくなってきていた。その正体を判別するために千景は空を仰ぎ、園子とハゲ丸は実戦で鍛えられた勘に従ってハゲ丸が千景を抱え、園子が後ろに飛ぼうとするハゲ丸の襟首を掴み、自身も後ろに飛びながらハゲ丸を後ろに投げ飛ばし。
目の前に、白が落ちてきた。
「えっ……?」
困惑する千景。
落ちてきた白は自分達の通ってきた鳥居を押しつぶし、そのまま軽い地震を生み、脆かった神社の施設の幾つかが崩壊する。更に、それに呼応するかのように本物の地震が起き、足元が揺れる。そして、空を仰ぐ千景は見た。見てしまった。
落ちてきた白と同じような白が、空を飛んでいくのを。その無数の白が固まり、天の川のようになって空を飛んでいくのを。
その正体を園子達は知っている。
つい数か月前まで自分達が戦っていた人類の天敵とも言える存在。
見間違うはずがない。その存在を。
その名は。
『星屑……ッ!!』
そう、星屑。
2015年7月30日にその姿を現し、人類を絶滅寸前にまで追いやった、天の神の眷属にして劣兵。それが、現れた。現れてしまった。
「な、なに、あれ……」
星屑を見た千景はその異形さに。人間の神経を逆なでするような造形に思わず恐怖し、固まってしまう。そんな千景の様子を知ってか知らいでか、ハゲ丸は千景を下ろすと、千景の前に立ち、園子がその隣に並んだ。
手には罅割れたスマートフォン。その電源を入れ、二人は千景を守るようにそこへ立ちはだかった。
「ちーちゃん、逃げろ!」
「ここはわたし達が!」
「ど、ういう事……? あれは、一体……?」
訳が分からない。そう言いたげな千景だったが、後ろから声が聞こえてきた。
声、だけでは足りない。悲鳴や、怒声。それに近いような声が、村の方から聞こえてきたのだ。山の中にあり、少しだけ高い場所にある境内だからこそ、その声に反応して振り向けば、何が起こっているのかは分かった。
今、千景の目の前に居る白いのと同じものが、人を襲っているのだ。
豆粒程度に見える人が、それ以上に大きく見える白い存在に襲われ、そして、食われた。
「ひ、人が……!?」
「構えろ園子! 来るぞ!」
「急造品でやれるか分からないけど……!!」
二人の声に千景が振り向いた。
今、自分達と相対しているあの白い物体は、人を食らう。そんな存在の前に今、自分は居て、兄代わりと姉代わりが自分を守るように立っている。
つまり、この後起こる事は。
「そ、園ねぇ、藤にぃ! 逃げないと!」
「俺達は大丈夫だ、ちーちゃん!」
「わたし達は勇者だから。アレと戦うお役目を担った人だから!」
直後、白い物体が地面を削りながら迫ってきた。
殺される。そう思い目を閉じた。
だが、直後に感じたのは痛みではなく、暖かなナニか。そして聞こえたのは、鋼と鋼がぶつかり合うような音。
数秒待っても訪れない痛みに目を開ければ、そこには。
「ちーちゃんには手を出させない! 絶対に!!」
「俺達勇者を! その程度でどうにかできると思うなよ!!」
先ほどまでと違う服に身を包み、その手に鏡と槍を携えた二人の姿があった。
鏡と槍だけで明らかに超常である存在を押し留める二人を見て、千景の頭は困惑した。一体何がどうなっているのか。
それを問う前に二人は腕を思いっきり振るい、白い物体を吹き飛ばした後、園子が槍を携え一瞬で白い物体と距離を詰め、その槍で一刀両断して見せた。一刀両断された白い物体はそのまま地面に倒れるとドロッと溶けて消えていった。
「一応、何かあった時のために作っておいた最新式の試作勇者システム……よかった、西暦の時代でも神様たちは力を貸してくれたみたい」
園子達が今纏っているのは、勇者システムに相違ない。
防人達に当てられた劣化勇者システムとも言えるあのシステムを改良、改築して力の源を神樹様ではなく土地神達へと切り替え、人間に友好的な神から少しずつ力を貰う事により疑似的に勇者システムとして作り上げた、最新式にしてダウングレードを果たした勇者システム。それが今二人が身に纏う勇者システムだ。
出力的には防人一人より少し強い程度であり、精霊システムもない。本来は璧外探査に向かう元防人達に配る予定だったシステムであるので戦闘能力は完全に度外視した状態で作られたソレだが、園子、藤丸の勇者システムはそれのプロトタイプとも言える勇者システム。
故に、先代組はかつて使っていたお古の武器と、サイズだけを新調した旧デザインの勇者装束。勇者部組は外見こそ変化ないがスペックダウンした勇者としての武器と装束を顕現させることができるようにしてある。
唯一例外としては藤丸の鏡は前回の戦いで完全に割れてしまったため、予備として用意されていた少しサイズが小さな神獣鏡を装備する事となる。
美森がどこからともなく弓や銃を取り出したり、園子が槍を取り出していたのは既にこのシステムが手元にあったからなのだ。
「そ、園、ねぇ、藤にぃ……それ、なんなの……?」
「ちーちゃん、これはな」
鳥居が潰されたが、今はそんな事を気にしている暇はない。
一刻も早くこの周囲の星屑を倒さなければならない。だからこそ、二人は一旦千景を落ち着かせて、すぐ様飛び立とうとした。
しかし。
「あ、あれ……?」
「め、まいが……っ!」
二人はその場で膝を付いてしまった。その原因は、単純に眩暈。視界が急にホワイトアウトと回転を混ぜたような感じになってしまい、平衡感覚が狂わされて膝を付き、目を閉じてしまった。
千景が立ち上がって二人の元に駆け寄るが、二人はそれでも立ち上がれない。
未だに頭がくらくらする感覚を覚えながらも大丈夫だと二人は千景に言おうとしたが、目を開けた瞬間、見えた光景は。
「なに、これ……? ず、ズラっち。ズラっちは今、何が見えてるの……?」
「分からない。分からないけど……少なくとも、右目と左目が……別の場所をっ……!!」
右目は、確かに千景を映していた。
だが、左目は違った。左目は何故か自分達が先ほど訪れた社。それも、神世紀の方の社を映していたのだ。
それを二人が自覚した瞬間、今度は肉体の方に影響が出てきた。
「ふ、二人とも、体が……!!」
「ど、どうなってんだ!? 今、俺達はどうなってんだよ!?」
「分かんないよ! だって、左側は神世紀を見ているのに、右目は西暦を見てるんだもん!」
二人はその影響に気が付けない。
二人の左半身が花弁となって解けていっている事に。
輪郭だけは存在しているが、輪郭の中身が徐々に花弁となって空に消えていき、消えていった場所は白い光だけとなって触る事こそできるが、色が付いていない。
だが、右目だけはしっかりと西暦を見る事ができているので、二人は互いに互いの体を確認する事で自分達の体がどうなっているかを確認し、立てるのを確認すると右手に得物を持ち、頷いてから歩き始めた。
「待って! 藤にぃも園ねぇも……変身、したり……戦ったり! 意味が分からないけど、今は体をどうにか!」
「いや、ちーちゃん。そうも言ってられないみたいだ」
「星屑、わたし達に気が付いたね~。この中で一番神様に近い力をもった、わたし達に」
二人は左目を閉じ、右目だけで前を見る。
その先には合計六体の星屑が浮いており、二人を食い殺すのを今か今かと待ち望んでいた。それを見た千景は小さく悲鳴を上げ、後ろに下がる。そんな千景の前に二人は立ち、構える。
「たかが星屑程度で俺達をどうにかできると思うなよ!」
「この程度なら、精霊が居なくたって!!」
だが、星屑の数はたかが六体だ。
園子が飛び立ち、槍を振るえばそれだけで一体が細切れにされ、藤丸が鏡を振るえばそれだけで星屑が吹き飛ばされる。
光に包まれた左半身は、動く。力も入る。左目の視界は今は無い物として、しかし勇者として底上げされた身体能力と経験とコンビネーションを武器に一分も経たないうちに二人は星屑を壊滅させた。
だが、そのたった一分の間に二人の体は徐々に光に包まれていき、花弁となって空中に消え始めていた。あと数分も経たないうちに二人の体は完全に花弁となって消えていく事だろう。
「……ねぇ、ズラっち。今、右目もしっかりとここを見れてる?」
「まぁ、なんとか。お前は?」
「わたしもなんとか。でも、こうなったって事は、多分……わたし達は、もうすぐ神世紀に強制的に戻される事になる」
その現象を、園子は頭の中で冷静に分析していた。
考えられる事はただ一つ。神世紀への強制送還。こうして体が花弁となって消えていっているのも、視界が神世紀を映しているのも、強制送還を表している事に間違いない。
「園ねぇ! 藤にぃ!」
武器を下ろし、どうしようもないと言わんばかりに苦笑を浮かべる二人の元に千景が駆け寄ってくる。そんな千景の姿をしっかりと二人は視界に入れた。
「なぁ、ちーちゃん。俺達、どうもここまでみたいだ」
「ここまで……って」
「多分、俺達はもう数分もしない内に神世紀に戻される事になる」
千景を置いて。
藤丸があえて口にしなかったその言葉は、千景にも理解できた。理解できたが故に、千景は急に訪れた別れに言葉を失った。
理解できない。飲み込みたくない。そんな千景の思考を嘲笑うかのように二人の体は花弁となって消えていっている。そして園子は呆然とする千景をそっと抱きしめ、涙を流す。
こんな急なお別れ、嫌に決まっている。伏線も無ければ兆候もなかったこんなお別れに。まるでご都合主義のようなお別れ、跳ね退ける事ができるのなら、そうしたい。だが、それをこの奇跡を起こした存在は許してはくれない。
「ちーちゃん」
呆然とする千景に、藤丸は優しく声をかけた。
きっと、自分達はもう千景と会う事はできなくなる。それを何となく理解しているからこそ、最後に一言だけ、彼女に告げたかった。
「ちーちゃん。これから先、この世界には地獄のような日々が待っている。でも、死ぬな。絶対に死んじゃだめだ。お天道様指さして、今日も生き残ってやるって啖呵切って、笑ってやれ。死んじまったら、生きてる意味なんてないからな」
「……やだ。いやだよ、藤にぃ……お別れなんて。こんな世界で、生きていくなんて……!」
もし、あのダメ親父を殴りたいだなんて言わなかったら、こうはならなかったのだろうか。
もし、今日、ここに来なかったら、こんな事にはならなかったのだろうか。
そんな後悔が千景の中をぐるぐると巡っていく。そして園子と藤丸の中にも、無理にでも止めておけば。こういう可能性が少しでも考えられていたなら、と後悔が巡っていく。
だが、時すでに遅し。
二人の体はもう殆どが花弁となって消えてしまっており、あと数十秒もしない内に。
「ちーちゃん! 絶対に、絶対にまた会いに来るから! いつになるか分からないけど、また絶対に!」
「俺も、約束する。ちーちゃんを一人には絶対にしない。俺達は、またここに戻ってくる。ちーちゃんにまた会いに来る。だから、その日まで生き残っていてくれ」
それは、やくそく。
三百年という長い時が隔てようとも、再び会いに来る。そんな、無茶にも程があるやくそく。
だが、それでも。
「うん……うん! 待ってる、から……! いつまでも、待ってるから……!!」
千景は、待つ。
二人とまた会うその日まで、生き続ける。
そう約束した。
千景が園子の体温を感じながら泣き続け、気が付けば抱きしめていた園子の感触も、体温も、いつの間にか消えており、地面には二人が先ほどまで装備していた槍と鏡が、転がっていた。
千景はそれを抱きしめ、一人その場で泣き続け、星屑達を倒した人物を確かめるためにやってきた村人たちに発見されたのだった。
****
「ちーちゃん……! なんで、なんで……!!」
「どうしてだよ……! なんでちーちゃんはこんなにも辛い思いをし続けなきゃならねぇんだよ!! なんで、神世紀で生きる事を、許してくれなかったんだよ……!!」
そして、園子と藤丸も。
神世紀に強制送還され、もう鳥居をくぐっても西暦に行けない事実に絶望し、園子はその場で泣き崩れ、藤丸は何かに当たる事もできず、空を仰いでいた。
そんな二人を見下ろす、牛鬼に似た存在は、申し訳なさそうに二人を一度だけ視界に収めると、ピンク色の光と共に消えていった。
ここまで何とかタイトル詐欺ではない。ここから少しタイトル詐欺。
と、いう事で次回からは西暦にスポットを当てて、勇者部に汚染されたちーちゃんが主人公となった話になります。
一応、数話程書き溜めがありますので、それを投稿していく形になります。銀IF2は書け次第投稿する予定です。
それと、投稿ペースですが、書き溜めが無くなったら結構落ちると思います。今はシンフォギアの二次の方を週一更新しているので……