暫く神世紀勇者達の出番はありません。割と本気で二十話近く出番ないかもしれない。その間ハナトハゲがタイトル詐欺になるけど許してね!
PS.ソロじゃ天下無双刀すら作れねぇ!!
バーテックス。
7月30日を切欠に人間に牙を剥いた、人間の天敵とも言える存在。その存在を日本政府、そして大社が正式に公表しそれに対する有効手段は無いに等しいとも発表された。
人間の持つ兵器の事如くはバーテックスには意味を成さず、人間はバーテックスに捕食されるのを待つ身。
そんなニュースを聞きながら、千景は数か月は離れていた自宅で目を覚ました。
あの日。園子と藤丸と唐突な別れを経験してから、千景は星屑達を倒した『勇者』ともてはやされ、村ぐるみの苛めなんて無かったかのように千景を持ち上げ始めた。自分を苛めて笑っていた同級生達は「わたし達、友達だよね?」と言ってきたり。大人たちは「君はいつか凄い事をする子だと思っていた」なんて言ってくる始末。
一部の人間はなんだか変な感じだったが、まぁ苛めっ子がこうなったのだ。こんな感じにもなろう。
――千景がもし、園子と藤丸に会っていなかったら、これを千景は愛だと思い込み、受け入れていた事だろう。
だが、今の千景は違う。この言葉の全ては、まるで権力者の庇護下に入ろうとする醜い欲望の塊だ。どれもこれも聞くに堪えない言葉の数々。思わずお前ら全員槍の石突でぶん殴ってやろうかとか思った千景だったが、そこはグッと我慢して。
「悪いけど、話しかけないで。気分が悪いの」
冷たく、それだけ口にして実家へと帰った。
実家に帰ると、父は今までで見たことがあるかどうかわからないくらいの満面の笑みで千景を出迎えた。千景が手に持つ槍と鏡。そして何故か「これ、郡さんのでしょ?」と持たされた鎌の先端の部分を見て顔を顰めていたが、確かに笑顔だった。
だが、この笑顔も村人達が投げかけてきた言葉と変わらない。
千景の父は、千景の事を愛してはいない。ただ、自分の娘があの化け物を倒した張本人であり、自分の立場も変わって今までの生活から脱却できるからこそ、それを成してくれた千景を笑顔で出迎えただけだ。
ここでぶん殴っても良かった。だが、殴ったらホームレス。小学生の身で生きていけるかは怪しい。
園子と一緒に居たからこそ鍛えられたそういう思考がこういう時に役立ち、千景は決めた。
とりあえず、甘い汁を吸える分だけ吸ってしまおうと。
「ただいま、お父さん。でも、ちょっと気分が悪いの。部屋に戻ってるわ」
千景はそれだけ言って服以外ほぼ何も無い自室に戻った。
千景は確かに別れに泣いた。泣きじゃくって泣きじゃくって、もうどうしたらいいか分からなかったが、それでも二人はやくそくしてくれた。
また、会いに来ると。
だからこそ、千景はこれ以上泣かなかったし、落ち込まなかった。また二人は会いに来てくれる。だから、その日まで二人に頑張って生きてきたよ、と笑って誇れるようにその日まで生き抜こうと。
勇者部に属し、彼女達の強烈なキャラに当てられ、ついでに図太くなった千景だからこそ、そう思えた。二人から注がれた愛は確かに本物であり、その愛は未だ消える事が無いからこそ、二人とのやくそくはいつか必ず果たされると信じており、勇者部の皆にもまた会えると信じている。
故に、その日まで恥ずかしい生き方はしてられない。自暴自棄になったり、変な言葉に惑わされたり。そんな事はしない。
だからこそ、今は父の元で世界が動くのを待つことにした。
そう決めて、数日が経った。
「……園ねぇと藤にぃに会いたい」
そんな事をボヤくのは、小学生故に仕方ない。
だが、頑張らねば。二人と会った時に笑顔を浮かべられるように、無理しない程度に頑張らねば。勇者部六箇条、なるべく諦めない、なせば大抵何とかなる、無理せず自分も幸せであること、だ。
頭の中に勇者部六箇条を思い浮かべながら、千景はメモしておいたこの先の歴史を見た。
「2019年……元号は、神世紀になる。2015年、7月30日は、世界中に殺人ウイルスが、ばら撒かれた日。その後、すぐに……神樹様? が現れて、四国に結界を張る」
そして、国の実権を握るようになるのは、この頃から日本政府ではなく、大赦。いや、今は大社と名乗っている組織。
千景は未来を知っている。だが、知っているとしてもその程度だ。
詳細に何が起こるのかは分からないし、何がどうなって元号が神世紀になったりするのかは千景には分からない。だが、確実に世界は悪い方向に動き始めている。人類の生存圏が四国のみになる程の、最悪の事態が。
それでも、大丈夫。
やくそくがあるから。二人がいつか会いに来てくれるから。また二人に会えるから。バーテックスなんてキモイ生命体に殺されてなんてやらない。
「……にしても、なんなの、この鎌は」
一旦暗い思考は打ち切って、千景は自身の部屋の端に転がっている鎌の先端部分を手にした。
一応まだ刃はあるようで切れ味もかなりいいが、それは二の次。重要なのは、それを握ると体の内側に何かポカポカした物が湧き出て力が増すという事だ。試しに外で飛び跳ねてみると身体能力はかなり向上しており、楽々家の屋根に飛び移る事ができたり、大人でも苦戦する瓶の蓋を簡単に開けられるようになったり。明らかに人を越えた身体能力を手に入れられる事が発覚した。気分はスーパーヒーローだ。
だが、それは園子と藤丸が残していった槍と鏡も同じ。鏡は千景の意志一つであっちこっちに動かせるし、槍も三つに分裂して浮いている矛先が傘になったり一つになったり。
「……まぁ、どうでもいいわ。これは園ねぇと藤にぃが戻ってきたときにしっかりと返さないと」
ただ、時々傘替わりに使うのはいいよね? と槍を傘に仕立て上げる事を考えていたり。
そんな事を考えながら数日が経った時だった。
バーテックスの襲撃は無く、何やら空に薄い膜が張られたような張られなかったような。そんな気がしながら家事が壊滅的な父を部屋の隅に追いやって千景が実質家の主となった時。
「郡千景様ですね? あなたには勇者としての素質があると、神託が下りました。至急、香川へと来てほしいのです」
珍しく来客だと思ったら仮面被った不審者にそんな事を言われた。
「……セ、セールスは、お断りしてますので」
千景は自分にできる精一杯の笑顔を浮かべてドアを閉じようとした。
が、その前に他に居た仮面の人間がガシッと扉を掴んだ。
「セールスではありません。郡千景様、あなた様も感じているでしょう。あの日以降、自分の中に流れ込んでくる力を。それを感じている少女が他に四名、いらっしゃいます。千景様にはその方達と共にこの世界を守る存在、勇者となってほしいのです」
勇者。
その言葉を聞き、千景は手に込めていた力を抜いた。
勇者という言葉にはなじみ深い。何せ、千景は勇者部に所属していた。だが、それ以上に、だ。
藤丸があの日叫んでいた言葉。勇者という単語。勇者システムという、園子が漏らしていた言葉。それを聞いたことがあるからこそ、千景はこれ以上この不審者を不審者扱いはできなくなった。
「……あなたは、誰ですか?」
「私は、大社の遣いです。郡千景様。あなたを迎えに来ました」
そして、繋がった。
大社と、勇者。この組織は将来、園子がトップに立つ事となる組織なのだと。
それが分かったため、千景は頷いた。
「……わかり、ました。ただ、少しだけ、時間をください」
四国へと行く。
つまり、千景の身柄は少なくとも大社によって保護されるという事。それに、千景自身、自分が勇者というこの世界を守るための絶対防衛線にも等しい、今この場にたった五人しか居ない貴重な存在だという事も十分に理解している。
故に、千景は家の奥でソファに座っている父の元へと向かった。父は千景と大社の職員の言葉を聞いていたのか、笑顔を浮かべている。
自身の娘が、勇者として認められた。故に、自分の地位も今までよりも遥かにいいモノになると、そう思っているから。
「お父さん……そういう事、だから、出ていくわ」
「そ、そうか……! 千景、お前は俺の自慢の娘だ!」
その言葉に対して千景は笑顔を浮かべる。
表面上だけの、冷ややかな笑顔を。園子譲りとも言えるその笑顔でそっと千景は父に近いた。
「そう、そうなの」
そう口にする千景の手は、血が流れ出るんじゃないかと思う程に握りこまれている。
何をするか? そんなの聞かなくても分かっているだろう。
ぶん殴るのだ。この男を。
「歯ぁ、食いしばりなさい!!」
「え? ちか、ぶはっ!!?」
千景の友奈譲りの拳が父の頬に突き刺さった。後ろの方で見ている大社仮面は呆然としているし、父も殴られたのを理解できていないのか呆然としている。
「私はずっと助けてほしかった! 私は何もしてないのに、私が何か悪い事をしたと言わんばかりに殴ってくるこの村の人間から! なのに、お父さんは何もしてくれなかった!」
「ち、千景……?」
「お金を出してくれた事と家に住まわせてくれた事だけは感謝するわ。でも、それだけ。これから私はもう貴方の娘じゃない。貴方が私の事を娘扱いするのはいいけど、私は貴方を家族としては見ない。私の家族は園ねぇと藤にぃだけよ。お金なら、将来返すわ。でも、ここには帰ってこない。精々逃げた女の尻でも追いかけてなさい。だから、さようなら」
父を殴り、そして言いたい事を……絶縁を言い渡した千景は、小学生の少女に殴られた頬を抑えたまま自分の部屋に向かい、必要最低限の荷物だけを手に家を出ていく千景を、何も言わずに見送るしかなかった。
こうして千景はやりたい事も言いたい事もズバっと言い切ってスッキリして、どこか晴れ晴れとした気持ちでこの世界を守る五人の勇者の内一人として、車内で勇者やら自分達の立場やらの説明を聞きながら四国は丸亀城へと招集されたのであった。
****
四国に来てからすぐに行われたのは、他の勇者との顔合わせだった。
千景は大々的にバーテックスと戦ったわけではない……厳密には千景は一度もバーテックスと交戦はしていないのだが、戦ったバーテックスの数が少なかったため、発見がかなり遅れ、千景は一番最後に合流する勇者となった。
「よろしく、私は乃木若葉だ」
そんな千景が最初に顔を合わせたのは乃木若葉という少女だった。
歳は、千景の一個下。だが生真面目にも程がありそうな雰囲気と言うか、どことなく切れ者とでも言うべきかそんな雰囲気を感じた。
そして、千景が次に注目したのは、乃木という苗字。
もしかしたら、彼女は。そんな事を思いながら千景は若葉が差し出してきた手を掴んで自己紹介をする事にした。
「郡千景よ。よろしく、乃木さん」
「あぁ、よろしくな、郡さん」
「そんな堅苦しい呼び方、じゃなくて……千景、でいいわ。そっちの方が、慣れてるから」
「そうか? なら、遠慮なく千景と呼ばせてもらう」
そしてその次に出会ったのはそんな若葉の幼馴染であるという少女、上里ひなただった。歳は、若葉と同い年。
「えっと、千景さん、でいいんでしょうか? 私は勇者ではないけど、よろしくお願いします」
「えぇ、よろしく、上里さん」
上里。園子から聞いた、神世紀におけるツートップの家柄の一つ。この時代ではそんなことは無いが、恐らく彼女はこの後大社のトップになるのだろう。という事は、若葉も恐らくは将来ひなたと共に大社のトップとなり、その子孫は。
そんな事を漠然と考えた。
更にひなたからはどことなく園子のおっとりした感じの部分を感じた。同時に、ひなたの若葉を見る目からはどことなく美森のような視線を感じた。
あっ、とついつい声を漏らしたが、何でもないと誤魔化してその場を切り抜ける。勇者部で鍛えたコミュ力は伊達ではない。
「もしかして園ねぇって乃木さんと上里さんの……いえ、そんな恐ろしい事を考えるのは止めましょう……」
IPS細胞という単語は頭から消し去った。
もしもひなたがそれを利用して……と考えると三百年後の乃木家の深い闇に関わりそうだったからだ。
未来を知るが故の恐怖。千景はそれをそっと自分の心の内に秘めた。悩んだら相談? 流石にこれは当人達の問題なので千景がとやかく言う事ではない。
決して誰に相談したらいいのか分からなかった訳ではない。ホントダヨ?
次に千景が出会ったのは、二人組の勇者だった。
「土居、球子だ」
「土居さんね。私は、郡千景よ。千景でいいわ」
「お、おう? あれ、なんかイメージと違う……」
その内の一人は、土居球子。背は小さく、今は千景を警戒してか後ろに隠れる少し背の高いもう一人の勇者を庇うように立っていたが、千景が案外フレンドリーなのを見て少し呆然としていた。
千景の事を怪しんでいたのか、それとも陰キャの代表格みたいな奴とでも思ってたのか。
まぁ、その辺はどうでもいい事だ。第一印象なんて宛にならない事を千景はよく知っている。
よーく、知っている。主に青いのとかの例で。
そして暫く話していると。
「おぉ、千景もアウトドアに興味あるのか!?」
「一応、だけれど。もし良かったら、色々と教えてくれないかしら?」
「勿論だ! タマに任せタマえ!!」
「ふふっ。ならその時のご飯は、私が作るわ」
球子は、どこか風に近い印象を受けた。風と比べると若干男勝りな所だったり、活発にも程がある所はあるが、どこか風に似ている。そんな印象。
図太くなってコミュ力も人並み程度になり、アウトドアにも最近興味が出ていた千景にとってそんな球子は案外親しみやすく、知り合ってから数分程度で球子本人のコミュ力と、勇者部でコミュ力を鍛えた千景はそこそこ仲良くなった。
そして、次は。
「ほら、あんず。千景は大丈夫だ。案外良い奴だったぞ?」
やっぱ陰キャの極限とでも思われていたらしい。
失礼な、なんて言おうとしたが、まぁ千景も球子の事をもしかしたらちょっと面倒くさい子かも、なんて思ってたしお相子だ。
なんて思ってたら球子の後ろにいた、球子よりも背が大きく、大体千景と同程度か少し小さい程度の少女が球子によって前に押し出された。
「あ、あの……伊予島、杏です……」
「伊予島さんね。郡千景よ」
杏の方は、どこだか樹に似ている……ような気がしたが、多分気のせい。樹がここまで人見知りをした所を千景は見たことないからだ。
本人は人見知りと言っていたし、もしかしたら身内以外だとこんな感じだったのかもしれないが、真相は果たして。
杏とのファーストコンタクトは、杏自身が恥ずかしがって、ついでに千景を少し警戒してこれ以上マトモに話せなかった。その内、共通の話題でもできたらいいけど。
だが、球子と並んで歩く彼女にどこか青いのと似た雰囲気を感じるのは気のせいだろうか。
というか青いのの同類っぽいの多くない? と千景は首を傾げた。
そして、最後に出会ったのは。
「初めまして! わたし」
「ぶっ!!?」
「えっ、どうしたの!? 大丈夫!?」
友奈だった。
千景はその時、最後の一人が中々見つからないので、エイプリルフールの日など、偶々夕海子と会ったときに習ったどこかお嬢様っぽい仕草で食堂内で紅茶を飲んでいたのだが、見知った顔を見てしまいついつい紅茶を軽く吹き出してしまった。
「ゆ、友奈さん!? ど、どうして西暦に!? まさか自力でタイムスリップを!?」
「え、えっと……初対面、だよ?」
「いえ、そんな筈がないわ! 世界には似たような顔の人間が三人は居ると言うけど、明らかに似すぎて……で、でも確かにちょっと小さいし……髪留めの位置もよく見たら……」
確かに目の前にいるのは友奈だったが、千景の知る友奈ではない。
千景の知る友奈よりも少し幼く、髪留めの位置も逆。そして髪型もまるで鏡写し。
「……急に取り乱して、ごめんなさい。あなたに似た人を……昔、見たことがあるの」
「そうなの? あ、わたし、高嶋友奈! よろしくね、ぐんちゃん!」
名字は違ったが、下の名前に加えて呼び方まで同じ。
恐らくここに来るまでに名簿でも貰ったのだろうが、郡を群と読み間違えるまでそっくり。
思わず笑いながらそれを訂正する。
「ぐん、じゃなくてこおり、よ。私は郡千景」
「えっ、そうだったの!?」
「でもぐんちゃん、でいいわ。昔会ったその人も、同じ呼び方……だったから」
次はいつ会えるか分からない、桜色の誰とでも仲良くなれるコミュ力モンスター。もしかしたら目の前の少女も、同じかもしれない。
最初は友奈、もしくは名字と名前を混ぜてあだ名として高奈、とでも呼ぼうとしたが、なんやかんやで高嶋さん呼びがしっくり来たので高嶋の事は高嶋さんと呼ぶ事にした千景だった。
そして勇者達が揃い、勇者達は丸亀城を改築して作られた特別学校の特別教室で授業を受けて一般教養を身に着けていく事となり、同時に丸亀城のかなり近くに六人しか住まない寮も作られ、千景たち勇者はそこに住む事となった。
買いたい物は大体経費という名の税金から落ちるそうなので、千景は即座に神世紀に持って行ったがために手元にないゲーム機を幾つか買い戻し、ついでに今までプレイした事が無かったゲームを買った。それと、槍と鏡は千景が私物と言い張って大社の職員には触らせなかった。
そんなこんなで。千景は無事自分の住む場所をゲットしたのだった。
「……で、はしゃいだらもうこんな時間」
ゲットしたのだが、チラッと時計を見ると時刻は既に深夜の二時。小学生ならとっくに寝ていてもおかしくはない……というか寝ていなきゃ駄目な時間だ。
買ったのがADVゲームだったのでキリが良い所まで読み進めて……とか思っていたらこんな時間。いつもは園子が止めてくれるのでこんな時間までゲームをやることは無かったが、ストッパーの園子が居ないだけでこれだ。
「……夜食でも、食べようかしら」
学校の開始は明日ではなく、明後日から。というのも、まだ学校の方が完全にできあがってないらしく、明後日までには完成するとの事。
なので明日は昼まで寝る事が可能。だったら夜食でも食べてもうちょっとゲームを進めたって、と思ってしまうのがゲーマーの悪い癖。寮内の食堂に入り、使いたかったら使ってもいいと言われている冷蔵庫内の食材を拝見。
「炒飯作るよ」
なんて、どこかで見たAAのポーズをしつつセリフを口にし、勝手に材料を持ち出してパパっと炒飯(にぼし入り)を作った……のだが。
「作り過ぎた、わね……どうしましょう」
いささか量が多すぎた。
何せいつもは園子と一緒に食べていたから、ついついその癖で二人分作ってしまった。気が付いたのは具材を切って米を炒めている時だったのでどうしようもなかった。
が、作り過ぎた物は仕方ない。何とかして胃に押し込んでしまおうかと思いながら廊下を歩き、自室に戻ろうとした千景だったが、ふと杏の部屋から明かりが漏れている事に気が付いた。
なるほど、彼女も悪い子の一人だったか。千景は真夜中に炒飯を食べた共犯者を作るべく、杏の部屋のドアをノックした。
『……あれ? 今ドアが……』
「伊予島さん。私、千景よ。少し、いいかしら?」
『え? 千景さ……は、はい!』
どうやら最初は周りに聞こえないように配慮した千景のノックを気のせいだと思っていたらしいが、千景の声を聞くと杏は半分飛び出すようにドアを開け、千景を出迎えた。
「ち、千景、さん……? あの、なんのご用で……」
「炒飯、作り過ぎちゃったの。一緒に食べてほしいのだけど」
「え? 炒飯……?」
杏の視線は千景の手に行き、確かに一人で食べるには多すぎる量の炒飯を発見した。
同時に、炒飯の醸し出すいい匂いに気が付いた。
「どうかしら?」
「どうって……こんな時間に……」
体型の事でも気にしてるのだろうか。どうせ学校が始まれば義務教育の他に勇者としての特訓が開始されるので体型維持なんて簡単だと千景は思っている。
それとも単純にこんな時間に食べるのは悪い事だと思っているいい子ちゃんなのか。とか思っていたら杏の腹から小さな音が。それに気が付いた千景が杏の顔を見ると、杏は顔を真っ赤にして俯いていた。
「私も、もうお腹が鳴りそう、なの。一緒にどう……?」
「……じゃ、じゃあちょっとだけ」
小学四年生の少女にとって目の前の食べ物はとても魅力的だったらしい。杏は千景を部屋の中に招き入れ、一緒に炒飯を食べる事にした。
「あ、美味しい……でもなんでにぼし……?」
「にぼしは、完全食よ……どんな食材にも、合うのよ」
「ほ、本当かなぁ……」
千景の中ではそれが真理だ。にぼしは完全食。ついでにサプリも有れば完璧。ガバガバ理論なのに千景は気が付いていない、というか赤いのの洗脳がかなり効いているが、杏はそれが分からない。
暫く他愛もない話を重ねながら炒飯を共に消化していると、ふと千景は杏の部屋にある大量の本と読みかけの本が目に入った。
「……本、好きなの?」
「あ、はい。わたし、昔は病弱でずっと本ばかり読んでましたから……」
「そうだったの。今は大丈夫なの?」
「この間、勇者に選ばれてから体調が凄く良くって。大社の人からも、人並み以上には頑丈になってるって」
それは良かった。
もしバーテックス戦で病弱なのが祟って倒れたりしたら大惨事だ。それが原因で杏が死んでしまったら目も当てられない。
「それは良かった。それで、何の小説を読んでいるの?」
「そ、その……恋愛小説を……」
どうやら杏が読んでいる小説は恋愛小説らしい。今、杏が読みかけとしてしおりを挟んだ状態でベッドの上に置いてある小説のタイトルは恋愛ものとは思えないタイトルをしている。
だが、恋愛小説は千景もそこそこ嗜んでいる。本当は漫画を好んではいるが、園子と趣味を共有した際に様々なBL、GL小説も読んだので恋愛小説が好きという感覚はよく分かる。
「恋愛小説、いいわよね。私もちょっとだけ読むわ」
「そ、そうなんですか?」
「えぇ。それに、私のお姉ちゃん……じゃなくて、義姉って、言った方が……伝わりやすいわね。その人が小説を、趣味で書いてるの。その影響……かしら」
「義姉……? お姉ちゃんが居るんですか?」
「血は、繋がってないけれど」
いつか杏を始めとする仲間達にもあの二人を紹介できたらいいな、なんて思いながら千景は笑う。
そしてちょっと箸休め代わりに杏が読んでいたらしい小説を手に取って開いてみた。
「あ、それは!」
開いてみた。
その結果、思いっきり半裸の男と男が絡み合っている挿絵が出てきた。
なるほど。腐ってやがる、早すぎたんだ。
だがそれは千景も同じ。
「いや、その、それは、あの!」
「BL、ね。いいじゃない。私も、好きよ」
「えっ……? ほ、ホントですか!!?」
「BL小説、BL漫画、BLゲー。百合物だって好きよ」
実際、千景は園子の汚染のせいで恋愛系の創作の好みはBL、GLとなった。NLよりも同性間で育まれる禁断の愛にドギマギするようになってしまったのだ。そして、杏が同類ならば隠す理由もない。
そんな心情から出た千景の言葉を聞いた杏の目が変わった。好きな物を共有できる類稀なる人と見つけたと言わんばかりの目に。歳相応にキラッキラと輝いていらっしゃる。
好いているモノがちょっとばかり小学四年生には早い気がするが。
「わ、わたし、千景さんとは仲良くなれそうです……!」
「奇遇ね。私も、同じことを思ったわ」
こうして初対面ではちょっとぎこちなかった二人の関係は、趣味が似通っているという事からかなり発展し、親友に近い形と変わったのだった。
ちなみに、その後は二人で炒飯を食べきり、杏は自分のオススメの恋愛小説を千景に貸し、千景は自分がオススメの携帯ゲーム機でできる恋愛ADVゲームを貸し、ガッチリと握手したのだった。
なお、その後杏と色々と話し、実は杏が病弱で寝込んでいたころ、出席日数が足りず留年していた事をサラッと告げられ、結構ビックリしたそうな。まぁ、ビックリしただけでそういう事もあるのか、程度で流したのだが。
ぐんちゃんの装備は大葉刈、園子の槍、神獣鏡となっております。あのバケモノ硬度の鏡を防御に使いながら槍と鎌で中距離を維持しつつ刺して斬ってくるとかいう陰キャの極限みたいな戦法。武器がインフレしているので恐らく一番強い……かもしれない。
原作ぐんちゃんは今までのせいで中々他の勇者とはコミュニケーションを撮れていませんでしたが、勿論ここのぐんちゃんは図太くなってコミュ力も上がっているので、みんなとは普通にいい仲に。
特にアンちゃんと仲がいいみたいですよ?