ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

117 / 184
前回のを一応若葉&ひなた回とするなら、今回はタマっち先輩回。

原作だと多分一番犬猿の仲みたいな感じだった二人ですが、今回は共通の趣味に近い物を持っているからか、結構仲がいいみたいですよ?


タマにはお外でのんびりと

 案外バーテックスとは呑気な存在だったらしい。

 恐らく神樹様がバーテックスの進行を食い止めてくれているのだろう。だが、すぐにでもバーテックスが来るぞー、戦うぞー、と意気込んでいた勇者達にとっては少しばかり拍子抜けとも言えた。

 だが、平和なのはいい事だ。本来は勇者が戦うような事態、起こらない事が一番なのだ。故に、勇者達は未来の戦いなんて想像せずに自分達の時間を楽しむ。

 

「千景ぇ。お前、アウトドアが好きだって言ったくせに体力なさ過ぎてタマはぶっタマげたぞ」

「ど、土居さんが……体力お化け、な、だけよ!」

 

 一週間の内に二日間だけある貴重な休日。その一日を千景は球子とのキャンプに使う事にした。なんてことはない、球子とちょっと泊りがけで遊びに行く。その程度の事だ。

 途中まで電車で移動して、荷物を持って最寄りのキャンプ場へと向かった……は、良いものの、二人でテントだったりコンロだったりを持って行くのは中々にキツく、荷物の大部分を球子が持ったにも関わらず、千景がキャンプ場に着いた頃には既にバテバテで、近くの木陰に座り込んでしまった。

 一応小学生だけのキャンプというのは少しばかり危険だと考えた大社が護衛として近くに職員を寄越しているらしいが、千景の目に職員らしき姿は見えない。相当上手く隠密か、客の中に溶け込んでいるのだろう。

 

「そうかー? タマは普通だと思うが。まぁ、そんな事は置いておくとして、テント建てるぞ、千景!」

「くっ……こういう時に、友奈さんや銀さんみたいな……無尽蔵に、近い体力が、あれば……!!」

 

 息を整えながら独り言を恨みったらしく吐き出し、千景は球子と共にテントを組み立てる。地面にマットを敷き、支柱をテント本体に通し、ペグを打ってその上からもう一枚布を被せ、完成。

 文字にするだけなら簡単だが、千景と球子にとっては結構な重労働。いっちょまえに大人用のそこそこいい値段がするテントを買ってしまったからか組み立ては相当複雑で、球子も終わった頃には少しばかり息が荒れていた。そして千景はテントが完成するや否や、即座にテントの中に入り込み、マットの上にもう一枚マットを敷いてその場で寝転んでしまった。

 

「おーい、千景―。タマと外で遊ぼうぜー?」

「ぎ、ギブ……もう、ちょっと……待って……」

 

 勇者部でボランティアをして体力が付いたと言っても球子のペースに付いて行ける程ではない。一般的に見たら体力あるねー、程度なので野生児球子には遠く及ばないのだ。

 暫く死んでしっかりと体力を回復させた千景は重い腰を上げ、テントから這い出た。

 テントの外では球子が二人分の椅子を展開し、焚火台も既にセッティングしていた。

 

「おぉ、千景。ようやく復活したか」

「ごめんなさい、土居さん。任せっきりに、しちゃって」

「いいって事よ! それよりも千景。腹が空くまでキャッチボールなんてどうだ? ここら辺、他に人居ないし多少の暴投は大丈夫だぞ!」

 

 そう言いながら球子はバッグの中からグローブ二つと野球ボールを取り出した。もうあと数年で華の女子中学生なのにキャッチボールって。

 なんて思った千景だったが、偶にはこういうのも悪くない。

 

「キャッチボール……そう言えば、やった事……無いわね。いいわ、やりましょう」

 

 そう言う訳で暫くの時間潰しとして二人はキャッチボールをする事にした。

 球子がボールを投げ、千景がそれを拙い動きでキャッチし、千景がちょっと狙いから逸れた場所にボールを投げると、球子がダッシュでそれをキャッチし、笑う。

 千景も球子も汚れてもいいようにちょっとボーイッシュな服装で来ていたのだが、案外動きやすいソレは予想以上にキャッチボールをやるには最適だった。

 

「そう言えばさ。タマは最初、千景の事ちょっと根暗っぽい奴だって思ってたんだ」

「急に、どうしたの?」

「いや、なんか話題作ろうって思って」

「にしても、急ね。それで?」

「いや、それで話してみたら案外いい奴で、タマはちょっとおっタマげた」

「昔は……土居さんの、予想通りよ」

「そうなのか? あ、すまん、すっぽ抜けた」

「大丈夫よ。でも、とある人達と……一緒に居る、うちに、こんな感じになった、わっ!」

「おー、ナイスパス。で、とある人達って誰だ?」

「やべー集団よ」

「やべー集団か」

「とびっきりやべー集団よ」

 

 だって初対面で熱情の律動を見事に歌い上げながら人を祀り上げるような人達をやべー集団以外に何て言えばいいのか。

 勿論、冗談だが。やべー所もあるが、良い所もそれ以上にあるのを知っているためそんな風にふざけた紹介ができる。勿論球子もふざけてそう言った事を理解しているので特にそこにツッコミを入れたりはしない。

 あぁ、やべー集団なんだな、程度に記憶した。

 

「まぁ、人は見かけによらないってやつだな」

「そうね。ほんっと、見かけによらないわ」

 

 勇者部とか防人ーズとか。

 そんな事を考えて、ふと亜耶の事を思い出した。元は大赦の巫女さんだった彼女、もしかしたら彼女はひなたの後輩的ポジションになるのではないか。なんて思って投げたボールはすっぽ抜けて球子の右後ろへと飛んでいった。

 しかし球子はそれを何とかキャッチ。代わりに女子小学生が投げるにしては速すぎるレベルのボールが飛んできて、キャッチした千景の掌が若干痛んだ。

 

「ふぅ。大分いい汗かいたな」

「……私、明日は……筋肉痛ね」

「軟弱な奴め」

「うるさい体力馬鹿」

 

 軽口を叩き合いながら二人は椅子を一旦影に移動させて程よく吹く風に、どこか涼しさを感じながら青空を見上げた。

 水を飲みながら見上げる空は、案外綺麗で、つい数日前にこの空をあの白い怪物が飛んでいたとは思えないほど。

 

「涼しいなぁ。こーいう時にロードバイクでも走らせたら気持ちいいんだろうなぁ」

「持ってるの?」

「おう。立派なの一つ持ってるぞ」

「いいじゃない。今度走ってきたら?」

「千景が行くんなら行く」

「経費で落ちるかしら」

 

 こんなにも綺麗な青空だが、今の世の中、空を見るだけであの日の事を思い出し日常生活に支障をきたすような人までいるという。

 病名はまだ存在しないが、近い内に精神病の一つにカウントされる事になるだろうと授業中に言っていたような気がする。だが、そんな精神病もこの空を取り戻してしまえばいつか消えていく。

 神世紀ではそんな精神病、聞いた事が無かった。だからきっと、そんな精神病が無くなるような戦いを自分達はする事ができる。

 そう確信しながら千景は鞄の中からゲーム機を取り出すと、椅子に座りながらプレイし始めた。

 

「こういう時くらいゲーム止めたらどうなんだ?」

「いいのよ。こういう時にやる、ゲームも……乙な物なのよ」

「わっかんねー」

「伊予島さんなんて、ずっと本、読んでるわよ」

「あーそれ想像できる。あんずは本の虫だからな」

 

 流石の杏も外に出てまで本の虫というのは無いだろう、とは言えないのが少し悲しい所。教室でも部屋の中でも、しかも歩きながらだったり食べながらでも本を読んでいる杏の事だ。想像が難しくはない。

 二人して笑いながら空を見上げていると、ここまで歩いてきた疲れと、先ほどまで体を使って遊んでいた疲労感があったからか。腕の怠さでゲームをやる気にもならず空を見上げていると、いい感じの眠気が千景を襲った。

 半分ほど寝落ちしかけているのを自覚し、目を擦りながら隣を見ると、球子は既に夢の中だった。

 二人だけなら寝るわけにはいかないが、大社の見張りがどこかに居る。きっと今も自分たちの安全を確保してくれている事だろう。そう思い、千景はウトウトしてしまい、そのままこてん、と夢の中に落ちていった。

 

 

****

 

 

「淫売の子」

「出来損ない」

「根暗」

 

 そんな事を言われ続けたのを千景は覚えている。

 あぁ、いつもの悪夢か。かつて自分が言われた事が頭の中でリフレインするが、最早それも慣れた事。園子と一緒に寝なくなってから、千景は再び悪夢を見るようになった。

 だが、その悪夢も案外千景の精神にはダメージを与えなかった。

 あぁはいはい。そんな事言いたいの? そんな事のために時間を割くなんてごくろうさん。図太くなった千景は夢を自覚しながら聞こえてくる声を無視する。

 最初は、怖かった。だが、今はもう怖くはない。

 

『ちーちゃん』

 

 その最大の理由は、恐らく最後。

 この悪夢の最後には、決まって後ろから声が聞こえてくる。今は会えない二人の声が。それに気が付き振り向けば、そこにはいつも二人が――

 

「……げ。……かげ? 千景? おーい、千景―?」

「……んっ」

 

 球子の声が聞こえ、千景の意識は現世へと浮上した。

 目を擦りながら開けると、そこには球子の顔のドアップが。それを掌で押しのけ、球子のくぐもった声をBGMに空を見上げれば、短くはない時間を眠っていたようで、空は既に赤くなっていた。

 夏凜と銀の色。なんて思いながら球子の顔面に押し付けていた手を離す。

 

「おはよう、土居さん。今は何時かしら?」

「乱暴な事をした謝罪くらいしてもいいとタマは思うんだが」

「振り返らない女なのよ、私は」

「何カッコつけてんだお前。今は六時だぞ」

 

 今から夕食を作れば、食べれるのは大体七時くらいになるか。半分寝ながら座れる布が張られたちょっとだけ高い椅子に座って寝ていたのだが、案外体は凝り固まっていたようで、背を伸ばすと小気味良い音が鳴る。

 どうやら球子も今起きたばかりのようで、千景と同じように手を空へと伸ばしている。

 

「じゃあ、夜ご飯……作るわね」

「おー。手伝う事あるか?」

「じゃあ、火を起こしてくれないかしら。やり方分からないから」

「あらほらさっさー」

「ヤッターマンなんて懐かしいネタを……」

 

 言いながら、千景は自分達が使うように持ってきた折り畳み式の小さなテーブルを組み立て、その上にペラペラなまな板を乗せ、今日の具材を用意する。

 今日作るのは、かつて銀や藤丸に習った無水カレー。まさか初披露が勇者部の皆じゃなくて球子になるなんて、思ってもいなかったが。

 

「あんずから千景の炒飯が美味しかったって聞いたから、楽しみだ」

「あら、伊予島さんから、聞いてたのね。任せなさい。美味しいの……食べさせてあげる」

 

 千景が予め買って持参してきたダッチオーブンという名の鍋に油を引き、そこにスライスしたニンニク、カットした玉ねぎとジャガイモを投入し、一旦玉ねぎを飴色になるまで炒める。

 そのためには球子の火が必要なのだが、彼女の方はどうだか。

 

「おーう! 着火剤入れすぎたぁ!! おーう! おーう!!」

「馬鹿が居る……」

 

 なんか一人でキャンプファイヤー擬きをしていた。

 千景が笑いながら視線を逸らし、とりあえず鍋の半分くらいまで具材が入った鍋を、なんとか火を鎮火させた球子の元へと持って行く。

 

「おー、音からも分かったけど手慣れてんだな。千景みたいなのは料理できないと思ってたぞ」

「ちょっと前までは、できなかったわ。教えて、もらったの。女子力も上がるし」

「教えてもらったのか? ……あぁ、さっき言ってたそのねぇ、って人とふじにぃ、って人か?」

「……私、教えた記憶ないのだけど」

「寝てる時、嬉しそうに寝言で言ってたぞ」

 

 嬉しそうに。

 そう言われてちょっとばかり気恥ずかしくなったが、それでも二人の名前を今も笑えて口にできるのがちょっとだけ嬉しかった。

 それにちょっとだけ気分が良くなった千景は鍋を置いてから他の具材を小気味よく切り始める。

 

「なぁなぁ、千景。そのねぇとふじにぃってどんな人なんだ?」

「どんな人……そうね。とても優しい人よ。勇者って称号がぴったりなくらいには」

「そうなのか? でも勇者はタマ達の事だぞ?」

「いつか、二人とまた会えたら……教えるわ」

 

 そう、二人も名実ともに勇者なのだから。

 そして勇者部の他のメンバーも、恐らくは三百年後の。

 勇者部員達が優しく、強かった理由を何となく今になって再認識しながら、鍋の様子を見つつ次々と具材を投入していく。

 トマト、ナス、ニンジン。ついでににぼし。

 

「なんでにぼしなんだ……?」

「にぼしは完全食よ。女子力だってきっと上がるわ」

 

 赤いのと黄色いのの汚染が若干にじみ出てきているが、球子はそれに気が付けるわけがなく。

 肉も入れ、後は蓋をしてじっくりことこと煮込むだけとなってから今度は米を炊く準備なのだが、それは球子が具材を切っている最中に用意してきたらしく、飯盒の中に米がしっかりと入った状態でスタンバイされていた。

 後はトマト等からたっぷりと水分が出てルーを入れ、煮込んで混ぜたらカレーは完成。飯盒の米はそれに合わせて火にかける。

 

「そんじゃ、待ちながら肉でも焼くか!」

「カレー、食べきれるの? ちょっと多めに作っちゃった、わよ?」

「余裕余裕! 千景も結構食べる方だろ?」

「……まぁ、最近は」

 

 神世紀の方で量を食べれるようにはなっていたし、こっちに戻ってきてからは訓練をしている事もあってか自分の予想以上によく食べるようになった。

 ちょっとばかり体重が心配なのは変わらないが、それでも食べた分だけ動いているのは事実。故に千景は最近、結構な量を食べるようになっている。というか、実は杏以外は結構食べたりする。

 二人して鍋の前で待ちつつ焼き肉を味わって暫く。もうすぐ夕方は夜に変わろうという時間帯で鍋を開いてみると、鍋の中は具材からあふれ出した水分でたっぷり満たされていた。

 

「おー、凄いな! 水を入れてないのに水が沢山だ!」

「後はここに、ルーを……よし、これでいいわ」

 

 後はルーを投入し、煮込むだけで完成。

 焼き肉を一旦止めてから米の方もしっかりと面倒を見つつ、千景が一回だけ鍋の蓋を開け、かき混ぜてからもう一度蓋を閉め、煮込む。そして米の方が一足先に完成したので机の上を片付けてから飯盒の蓋を開ける。

 

「どうだ千景! 完璧だろ!」

「流石ね、土居さん」

「そんじゃ、ちょっと摘まみ食い……うん、美味い! 芯も無いぞ!」

「それじゃあ私も……あ、ホント。美味しいわね」

 

 周りの雰囲気と、外で食べるという開放感があるからか。もしくは飯盒で炊くという特別感があったからか。もしくは両方か。球子の炊いた米はいつも食べている白米よりもより美味しく感じた。

 後は冷めないように蓋を閉じて蒸らしつつ、カレーの方の完成をちょっとだけ待つ。

 蓋を少しだけ開けて中の様子を確認し、カレーがしっかりとできている事を確認した千景は球子を呼び、鍋の蓋を開けた。

 

「おぉ、カレーだ! 匂いも見た目もしっかりとカレーだぞ、千景!」

「よかった、ちゃんとできた、みたい。味見の方は……うん、美味しい」

「そんじゃタマも……うん、カレーだ! 美味い!!」

 

 はしゃぐ球子にドヤ顔をしつつ拳を見せると、球子は笑顔で千景の拳に拳をこつんと当てた。

 夕食は大成功。千景も無事球子の前でカッコつける事に成功した。

 あとはカレーを盛りつけ、ついでに焼いた肉も別の皿に移して完成。

 

「よし、じゃあ食べるか! いただきます!」

「いただきます」

 

 後は楽しいディナータイム。

 球子が一々オーバーリアクションで美味い美味いなんて言う物だから千景もついつい嬉しくなって笑いが零れる。

 他愛もない事を話して笑いながら美味い美味いとカレーを食べ進め、気が付くと満腹感と共に鍋の中はすっかり空となり、持ってきた食材は粗方食べ終えていた。

 

「ふー、満足満足。千景と来れてタマは大満足だ」

「それなら、よかった。じゃあ、洗い物して、お風呂に行きましょう?」

「善は急げ、だな」

 

 食べ終えたなら後はお片付け。

 しっかりと使った物を洗い、火の後始末もしてから二人はキャンプ場内にある温泉施設へ。どうも風呂の時間が他に来ているキャンプ客とかち合わなかったのか、女湯に入ったのは千景と球子の二人だけ。

 球子は目をキラキラさせながら浴槽にダイブしようとしたが、それを千景が止めて、先に二人で体を洗う事に。

 

「ほー。千景の髪、結構綺麗だな」

「そう? 普通だと思うのだけど」

「あと肌も。タマはあんま気にしてないからちょっと傷跡とかあってなぁ」

 

 言いながら球子は小さく自分の肌に残る傷を千景に見せた。だが、それは擦り剥いてできたような小さな傷跡であり、あんまり目立つような物ではない。

 もっと酷い状態というのを千景は自分の体で見たことがあるので、尚更目立つとは思わない。

 

「そんな事を言ったら、私だって。こことか、こことか」

「え? ……あ、ホントだ。ちょっと残ってる」

 

 一応千景の体から当時の傷跡は殆ど消え去っているが、それでもちょっとだけ残っている傷跡はある。それでも、また神世紀に戻れたら消す事は可能かもしれないと言われる程度の小さな傷跡。

 指をさされ、顔を近づけたら見える程度の小さな傷。忌々しい傷だが、前よりはマシだと思えばあまり気にもならない。

 

「どうしたんだ、これ?」

「殴られたり蹴られたり斬られたり」

「……え? それ、どういう?」

「残念、詳細を聞くには、好感度が足りないわ」

「なんだそりゃ」

「いつか話すわよ。いつかね」

 

 球子に言っても、彼女はそれをネタにどこかに言いふらしたり千景に何か言ってきたりはしないだろう。寧ろ、あの村の連中に怒る事だってあり得る。ガサツだが、優しい所が沢山あるのが土居球子という少女だ。

 だが、楽しいキャンプの最中にそんな事を言うべきではない。揶揄って球子からの反感を買いつつ体を洗いきり、既に髪の毛も洗い終わった球子の方へと視線を投げる。

 

「ん? どした?」

 

 千景は髪を下ろした球子の顔を見て、徐に手を伸ばすと濡れたままの球子の髪をちょちょっと弄った。

 

「……うん、この方が可愛いわよ、土居さん」

 

 何となくこうした方がいいんじゃないかと思って手を動かしたのだが、予想は的中。

 球子は自身の容姿をあまり好ましくは思っていないようだが、千景からしたらそんな事はない。彼女だって間違いなく美少女だ。

 そんな彼女の服を剥いでちょちょいと髪の毛を弄れば立派な美少女のできあがり。

 だが、球子は千景の言葉に顔を赤くすると、思いっきり髪の毛を両手で崩した。

 

「こ、小恥ずかしい事言うなぁ!」

「事実よ。土居さんも、可愛いんだから……オシャレとか、したら?」

「う、うるさい! タマはそーいう柄じゃないんだよ! タマったもんじゃない!」

「あらら、残念」

 

 球子は顔を赤くしながらタオル片手にドカドカと浴槽の方へと向かっていった。

 きっと園子辺りに見せたら思いっきりオシャレさせるんだろうなぁ、なんて思っているとバシャーン、と音が。飛び込んだわけではないが、ちょっと勢いよくお湯の中に入ったのだろう。

 溜め息を吐きつつ、丁寧に髪を洗った千景は、温泉に浸かった際に髪がお湯に浸かってしまい、クラゲ化しないようにタオルを使って纏めてから球子の後を追い、温泉に浸かった。

 

「ふぅ……いいお湯ね」

「そうだなぁ」

 

 肩までしっかりと浸かって今日の疲れを癒す二人。なんやかんやではしゃぎまくったからか予想以上に疲れが溜まっており、温泉に浸かって一息ついた途端、何となくその疲れを自覚し、同時に徐々にそれが消えていっているのも自覚した。

 だが、明日、腕の方は筋肉痛だ。それにちょっとだけ不満を覚えつつも千景は隣に視線を向ける。

 半分蕩けている球子。そっと首から下、お湯に浸かってる球子の体を見る。

 なんというか、一回り小さい子供を見ている気分になった。

 

「……おう、タマの体を見て何を思ったか聞こうじゃないか」

「将来性は、ありますか?」

 

 笑顔で煽った。

 球子が爆発した。

 

「千景だって似たようなもんだろぉ!!」

「ちょっ、飛びかからないで!」

 

 飛びかかってきた球子を引き剥がそうとする千景だったが、思いっきり擽られるし揉まれるし。お返しに擽ったり揉んでやったりもしたが、数分も経つと悲しい気持ちになった。

 

「あんずやひなたみたいに大きなお餅が欲しかった……」

「……いいのよ。スレンダー美人だから。いいのよ……需要はあるから……」

 

 杏は歳と病弱体質だったという割には中々立派な物を持っているし、ひなたもひなたで立派な物を持っている。千景の知るところでは風は結構大きかったし、美森なんて最早規格外レベルだった。園子も服の上からはあまり分からないが、脱いでみたらかなり大きかった。

 だと言うのに自分達は。多少の膨らみしかない自分達のお山を見て二人は溜め息を吐いた。

 そんな幼女たちの溜め息はしばらくしたら聞こえなくなり、のぼせない内に温泉を出て体を拭き、服を着てから髪もしっかりと乾かし外へ。

 ちょっとばかり涼しい風が吹く外に何となくの心地よさを覚えつつ、球子の握るランタンの明かりを頼りに歩き、自分達のテントへ。

 

「いやー、まさかあんな事が起きた後にこんなにのんびりキャンプができるなんてな。タマは満足だ」

「私も。勇者として、すぐに戦う……のだと思ってたけど。でも、予想以上に、楽しい毎日、だわ」

 

 それに、いつかこの勇者達のメンツには園子や藤丸も混ざってくれる。

 そう思うと千景は未来が楽しみだった。

 バーテックスなんて知った事か。負ける理由が無い。ならば、勝って勝って勝ち続けて、勇者部のみんなをこっちに呼んで、新旧の勇者達で遊ぶ。

 そんな未来を、千景は今から楽しみにしている。

 園子と藤丸に、立派な友達ができたよ、って言える事を。

 

「にしても、夜ってあんまやる事ないよなぁ。あんまりはしゃげないし、走れないし」

「なら、ゲームでも、やる? 私は、伊予島さんから借りた本……読んでる、から」

「いいのか? じゃあやる」

 

 球子にゲーム機を渡し、千景も杏から借りた小説を取り出してランタンの明かりに照らされながらそれを読む。

 夜中に外で、ランタンの優しい明かりに照らされながら読む本。中々に乙な物だ。ちょっと杏にもこういうシチュエーションで本を読むことをオススメしたくなる。

 対して球子の方は音を消して、一人でアクションゲームに苦戦している様子。

 

「なー、ちかげー。ここどーやんだー?」

「ん、任せなさい」

 

 そして時々球子のヘルプに答え、千景は本を読む。

 夏特有の虫の合唱を聞き、ランタンの明かりで本を読む。そんな事をしている間に体の方がちょっとばかり限界に近くなったらしく、自然と欠伸が漏れた。横を見れば欠伸が移ったのか球子も大きな欠伸をした。

 時間を見れば、もう夜の十時。寝るには十分な時間だろう。

 

「土居さん、まだ起きてる?」

「いんにゃ、もう寝る。千景は?」

「寝るわ。もう眠いし」

 

 夜更かしに慣れてるとは言え、体は小学生で今日は思いっきり体を動かした後。眠くなるのは仕方が無い事だ。

 二人で目を擦りながらランタン片手にテントの中に潜り、寝る準備を済ませるとランタンの明かりを消した。

 静寂と暗闇に包まれた空間。でも、それが何となく心地いい。

 いい感じに眠気も襲ってきて、いよいよ寝れるぞ、と思った時。

 

「千景」

「……なに?」

 

 球子が声をかけてきた。

 だが、球子も眠い様子。ちょっと声に元気が無かった。

 

「また、来ような。二人でもいいし、みんなと一緒でもいいし」

「……もちろんよ」

 

 そんな球子の眠そうな声を聞いて、千景は小さく笑いながら両省の言葉を返し、二人はほぼ同時に夢の中へとその意識を落としていったのだった。

 ちなみに、その日千景は悪夢を見る事無く目が覚め、目を開けるとそこには、寝ている間に抱き着いてきた千景を何とか振りほどこうとしたが失敗し、力尽きた状態で二度寝している球子の顔があった。

 だが、まだ朝の五時くらいだったので千景はそのまま球子を抱き枕にして二度寝した。なんかこう、いい感じに球子が温かったので安心して眠りに就けた。

 なおその後もぐだぐだやっていた結果、キャンプ場を離れる時には既に時刻は昼に差し掛かろうとしていたそうな。




キャンプのアレコレは殆どキャンプ動画やゆるキャン△とかでの付け焼刃。行ってみたいなーとは思うんですけど、道具が高くて手を出せない。

体の傷も大体消えているので、タマっち先輩と一緒に温泉も大丈夫。女の子の肌に傷とか、タマっち先輩みたいなやんちゃな子の元気の証とか、しょうがない事故での傷以外はダメでしょ。あぁ、村人へのヘイトが……

自分はキャンプに行ったら椅子に座ってボーっとしつつ、酒飲みながらゲームしたり本読んだりしたいです。という事でまた次回、お会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。