ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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最初に杏、次に若葉&ひなた、そしてタマっちと来たら、最後はたかしーしかないでしょうと。

そう言う事で今回はたかしー回。ちょっと杏も暴れるよ。


落ちる時は落ちるもんだ

 西暦に戻ってきて、勇者となって他の勇者と顔合わせをしてから、千景は常に思う。

 結城友奈と高嶋友奈の、三百年の時を隔てて存在する二人の友奈。名前が同じなのはいい。あり得ないなんて言えない程度の確率だ。

 だが、容姿も髪型もほぼほぼそっくりで、性格まで殆どそっくりなのは果たしてどういう事か。そっくりさんとかでは効かないレベルで何もかもが似すぎている。

 こんな事、果たしてあり得るのだろうか。何か大きな陰謀的な物が裏にあるんじゃ、と千景の中二チックな思考が働き始めた辺りで若葉と話していた高嶋が千景の視線に気が付き、笑顔で手を振ってきた。

 千景もそれに手を振り返し、大社から支給されたスマホとは別の、千景個人のスマホを取り出し、ソシャゲの周回を始める。

 バーテックスの襲来により、殆どのソシャゲ及びオンラインゲームはサーバーが物理的に壊されたり、それを管理する人間が消えた事によってサービスが終了、ないしは継続できない状態となってしまった。しかし、それでも一部のソシャゲは未だにしぶとく生き残っており、今もサービスを継続している。

 恐らく人類の九割近くは既に死に絶えている。しかし、それでも娯楽というモノは誰もが求める物。それを提供する人というのは存外多かったようだ。

 

「ぐんちゃんぐんちゃん。何してるの?」

 

 とか思いながらひたすらポチポチと画面をタップしていたら、携帯を見下ろす自分を何者かに見下ろさた。

 わっ、と驚きながら顔を上げれば、それにより放たれた後頭部による頭突きをひらりと回避した高嶋の姿が。

 

「ビックリした……ただのソシャゲよ」

「え、まだやれるの?」

「一部のはね」

 

 どうやら高嶋もちょっとはソシャゲをやっていたようだが、彼女のやっていたゲームは既にサービス終了となってしまったらしい。試しに高嶋も、ちょっと前に流行った一頭身キャラを擦って消すゲームを起動したが、サーバーに繋がらず。

 インターネットなどは幸いにも神樹様が恵みにより通信を確保してくれているので何とかなっているが、サーバーまではどうにもならなかった。そういう事だ。

 生き残った少数の中でも更に少数の有志がまだプレイできるソシャゲ、できないソシャゲを調べたらしいが、八割か九割はサービスを終了していたらしい。

 

「それで、高嶋さんは、何か用……?」

「用事? 特に無いけど」

「そう、なの? でも、乃木さんと」

「若葉ちゃんとはちょっと駄弁ってただけだよ」

 

 どうやらそこら辺が自由気ままなのも結城の方の友奈と似ているらしい。ニコニコしている高嶋に思わず千景も表情が綻ぶ。

 

「あ、そうだぐんちゃん! この間、若葉ちゃんに美味しい骨付き鳥が出てくるお店、教えてもらったの。若葉ちゃんの行きつけなんだって。今度一緒に行かない?」

 

 そんな千景を見て、高嶋が唐突に思い出したのか、顔を一気に近づけて一つ提案をしてきた。してきてくれたのは有難いのだが、如何せん顔が近い。

 顔が良い、なんて限界オタクみたいな事を思い、顔を赤くしながら千景は高嶋を止めるため、両手を彼女に向けるが、徐々に徐々に近づいてくる。どうやら高嶋も人との距離を無意識のうちに近くしてしまうような人らしい。

 照れを自覚しながら高嶋を何とか引き剥がし、顔の熱を冷ましつつ千景はいいわよ、と言いつつ頷いた。

 

「わーい! じゃあ、今日の放課後にでも行こうよ!」

「随分急ね……でも、問題ないわ。やる事も、特に無いし」

 

 強いて言うならばソシャゲの周回だが、そんな物は簡単に取り返せる。それよりも誰かと一緒に遊んだほうが面白いに決まっている。ソシャゲなんてアニメ見ながらポチポチしてりゃいいような物だし。

 ニコニコわーいわーい。そんな高嶋を見ているとどこか千景も楽しくなり、ついつい笑ってしまう。

 それに、高嶋と一緒に居ると友奈と一緒に居るような気にもなる。ちょっとだけ、神世紀の事を思い出せるような気がする。そう思うと、自然と高嶋と一緒に居るのは千景にとっても心地よく、楽しいのだった。

 

 

****

 

 

 高嶋に連れてこられた美味しい骨付き鳥が食べれる店というのは、案外小洒落た所だった。若葉本人は否定しているが、良い所の出である若葉がオススメしてリピートするような店だ。多少の覚悟をしてこればよかったと千景は若干後悔した。

 一応、こういう所での食事は大社側が金を出してくれるので値段は気にせず食べる事ができる。勇者の金銭面でのサポートも大社の仕事、とでも言うのだろうか。

まぁ、それで調子に乗ったら怒られるので、程々にしなければならないのは事実だが。

 

「でも、美味しかったね!」

「そうね。何度も行ける程じゃないけど……」

 

 と、言うのも既に数分前の話。

 なんやかんやで骨付き鳥には多少うるさい若葉が選んだ店だ。味は一流であり、一口食べれば笑顔が浮かぶ程度には美味しかった。

 あんな店に若葉はいつも行っているのかと思うと、やはり育ちの違いというか、性格の違いがよく分かる。流石の高嶋も入ってすぐは若干固まっていた。

 

「うーん、それでも今から帰ると、ちょっと暇な時間ができちゃうね」

 

 空を見上げればまだ夕方。小学生の放課後なんて三時のおやつにギリギリ間に合わないか位なので、ゆっくり行ってゆっくり食べてもまだ時間には余裕がある。

 はてさてどうしたものか。別に千景的には帰ってもいいのだが、高嶋はちょっと帰るには惜しいと言わんばかりの表情。

 しかし、今の時間からカラオケなり何なりで遊ぶにはちょっと時間が足りない。

 一体何で遊ぼうか。そう思いながら案を頭の中で出しては消してを繰り返していると、丁度道の先にとある施設が見えた。

 

「ゲーセンね」

「え? あ、ホントだ」

 

 まぁ、千景が目敏く見つける施設なんてゲーセン位なのだが。

 だが、千景にとってゲーセンは暇をつぶすには十分な場所。流石にこういうのに対しては大社は金を出さないが、勇者として人々を守る宿命がある手前、ちょっとしたお駄賃という額を超える程度のお金は時折貰えている。

 なので、ゲーセンに行って遊ぶには十分な懐の温かさ。

 

「高嶋さん、どうせならゲーセン、行ってみない?」

「ゲーセンに? でもわたし、行くの初めてだよ?」

「大丈夫よ。そんな、一見さんお断りみたいな慣習……存在しないから」

 

 と、いう事で千景が半ば強引に高嶋を連れてゲーセンへと入った。

 ガヤガヤとうるさいゲーセン。思わず高嶋が耳を塞いでいる。しかし、千景にとってこの程度の騒音は慣れた物。普段ならそのままアケゲーコーナーに直行して一人でハイスコアでも狙うのだが、今日は高嶋がいる。

 ゲーセン初心者が楽しめるゲームと言えば。考えながら歩いていると、高嶋がとあるゲームにへばりついた。

 

「UFOキャッチャー……高嶋さん、欲しいやつ、あるの?」

「あ、えっと、あの子可愛いなーって思って」

 

 と、言いながら高嶋が指さしたのは、園子が持っていたサンチョ……によく似た友奈が持っていたアミーゴ……によく似た猫の抱き枕のようなぬいぐるみだ。

 あれ、西暦にもあったんだ……と千景が若干驚いたが、高嶋にとってあのぬいぐるみがどうやらビビっと来た様子。それなら、と千景がちょっとだけ張り切った。

 

「ちょっといいかしら」

 

 言いながら、百円玉を取り出して投入。

 高嶋が驚くが、その声を聞きつつボタンを押してアームを操作する。

 何も千景が得意なゲームはアケゲーやメダルゲームだけではない。UFOキャッチャーも勿論得意分野だ。

 まずは普通に動かしてアームの調子を確認。そしてぬいぐるみを持ち上げようとするが、アームはするりとぬいぐるみの脇を撫でるだけ。持ちあがることなくアームは初期位置に戻っていった。

 

「えぇ!? 持ちあがらないの!?」

「想定範囲内。あと……三回、ね」

 

 頭の中でぬいぐるみの動きを完全にトレースし、何回で取れるかを予測してから必要最低限の分、百円玉を投入する。

 合計四百円の投資。だが、千景は最初の調子の確認と、それからのぬいぐるみの動かし方を実機で精密に再現し、そのままぬいぐるみを見事景品獲得口に落とした。

 ピンク色の猫っぽい生物のぬいぐるみ。それを獲得口から引っ張り出し、高嶋へと押し付ける。

 

「高嶋さん、プレゼントよ」

「えっ!? で、でもこれ、ぐんちゃんが……」

「高嶋さんのために取ったの。貰ってくれると、嬉しいわ」

 

 千景は知っている。高嶋のような性格の人はこういうと人からのプレゼントは……特に、善意から来るプレゼントを断るなんてできない事を。

 高菜は暫し逡巡したが、恐る恐るぬいぐるみに手を伸ばし、そのまま千景から受け取るとぬいぐるみを抱きしめた。

 

「ありがと、ぐんちゃん!」

 

 そして、満面の笑みで千景に礼を言った。

 その笑顔を見た瞬間、千景の心臓が一際強く高鳴って、ついでに顔が熱くなったが、千景も笑顔を浮かべ、高嶋の礼を受け取った。

 

「あ、それでそれで、わたしにもちょっとこれのやり方、教えてほしいかな」

「私が、高嶋さんに? それはいいけど……」

 

 そしてその後すぐ、高嶋は千景にUFOキャッチャーのやり方というかコツを聞いた。どうやら高嶋はもう一つぬいぐるみをご所望のようで、千景が最初は代わりに取ろうとしたが、どうしても自分の手で取りたいらしく、結局千景がコツを教える事になった。

 そもそもこのUFOキャッチャーは千景のように慣れた人間ですら四百円使わないと景品が取れなかった台。高嶋のような初心者が取るには少しばかり時間がかかった。

 大体千円ちょっとだろうか。そこら辺まで金を使ってようやく高嶋はぬいぐるみを。ピンクとは色違いの、青色のぬいぐるみを獲得し、それを嬉しそうに景品獲得口から取り出し。

 

「はい、ぐんちゃん! わたしからのプレゼント!」

「わ、私に?」

 

 そのまま千景へと差し出した。

 別に千景はぬいぐるみなんて特にほしくはない、のだが。

 

「そ、その……だめ、かな?」

「うっ!? そ、そんな、事、ないわ!」

 

 ちょっと上目遣いに、儚げに千景を見る高嶋を見てしまうとそんな事口が裂けても言えなくなる。

 心臓に何かが刺さったかのような錯覚。しかも今の高嶋がどこか可愛く見える。

 どうしてかちょっとばかり早口になりながら、千景は高嶋からぬいぐるみを受け取った。

 

「えへへ、ぐんちゃんとお揃い!」

「え、えぇ……お揃いね。大事にするわ」

「わたしも! ずっと大事にするよ!」

 

赤と青のお揃いのぬいぐるみ。それを抱えて二人で笑いあう。

笑いあうのだが、千景はどうしてか高嶋の笑顔を見ていると心臓が高鳴って仕方が無かった。そして同時に、高嶋の事がいつも以上に可愛いと思えるようになったのだった。

結局、この日はこれ以上は補導されるかもしれないという事でプリクラだけ一緒に撮って寮へと帰った。二人でぬいぐるみを抱えて笑いながら、「ずっとともだち!」とカラフルな文字で書かれたプリクラを大事にしながら。

 

 

****

 

 

 調子に乗ると痛い目に合う。

 そんな感じの言葉を千景は自身で経験した。いや、している最中だった。

 始まりは、勇者&巫女の六人で遊びましょ、なんて高嶋が言って球子が乗り、それに続いて全員異議なしで集まりちょっとしたゲームをやろうとなった時だった。

 千景は自室にみんなを招き、某有名キャラが集まって大乱闘をするゲーム……俗に言うスマブラをする事となった。

 

「私は、手加減するわ。ハンデとしてストック一個で……勝負してあげる」

 

 スマブラを用意しながら千景はそんな事をドヤ顔で言った。言ってしまった。千景の中でスマブラは三スト、もしくは二ストが普通。例えアイテム有りでも負ける気はしない。

 それに対してニヤッと悪い顔をしたのは球子と若葉。球子はゲームも外遊びも等しく好きであり、千景とよくゲームで対戦する事がある。また、若葉も先日の件からちょっとずつゲームにも興味を持ち、千景の部屋でゲームをする事がある。

 故に、このゲームのルールはしっかりと分かっている。そして千景の方から先にハンデを言ってきた。ルールも言わずに。

 ならば、千景をボコるには、今日しかない。

 

「ならタマ達はストック十個な!」

「……は?」

「ついでにアイテム無しのちゃーじ切り札……だったか? は有りだ」

「ちょ」

「まさか千景ぇ。自分の言ったことを撤回するんじゃないよなぁ?」

「お前が先に言ってきたんだぞ? 勝負の前提条件も決めずにストック一個でいいと」

「ついでに最初に脱落した奴は最後まで生き残ってた奴の命令を聞く罰ゲーム付きだ!」

 

 チャージ切り札。つまり殴られたら殴られただけ切り札を使えるチャンスが増えるというコト。

 当たらなければどうという事は無いが、それでもぶっ放せば当たる可能性がある物をボコスカ撃たれたらたまった物じゃない。しかもこっちは一回やられたらアウトなのにドベだと罰ゲーム付き。全く持って冗談じゃない。

しかし、そんな千景のアレコレとは裏腹に、球子と若葉はニッヤニヤ。

 

「なぁ、千景」

「……なによ、土居さん」

「まさかここでやっぱ無しとか言わないよなぁ? ちぃかぁげぇぇ?」

 

 そして球子がクッソウザイ表情で千景の肩を叩き、顔を近づけてきた。

 ぶん殴ってやろうかと素で思ったが、こうも煽られたらゲーマーとしての威厳がズタボロだ。故に。

 

「……あぁやってやろうじゃないのよ! あなた達二人とも崖に突き落として思いっきり煽ってやるわ!!」

 

 千景さん、挑発に乗ってしまう。

 球子と若葉はそのままハイタッチし、他ゆるふわ系三人はそんな千景達を見て苦笑している。それに、千景には万が一最初に脱落しても一つだけ切り札がある。そう、罰ゲーム免除の可能性を孕む特大の爆弾が。

 球子と若葉が上げ足を取ってくるのならこっちはその裏をかく作戦を立てるだけ。千景はある人物と目線を合わせ頷くと、スマブラを起動。本体に直接コントローラーを、そして無線で接続したコントローラーを、ついでに過去のハードで使われていたコントローラーを使用可能にするハブまで付けて計六個のコントローラーを接続し、千景はコントローラーを握った。

 

「そんじゃ、タマはシークだ!」

「なら私は……そうだな、今回はクラウドでいこうか」

 

 そして二人は予想できていたが、千景を確実に倒し他三人を叩き落して千景に罰ゲームを与えるために強キャラを選択してきた。

 こいつら……! と千景は若干イラッと来たが、こうなったら本気も本気。千景はベヨネッタを選択。そして高嶋はリュウ、ひなたは可愛いからという理由でカービィ。そして杏は。

 

「じゃあわたしはカムイつかおーっと」

 

 迷わずカムイを選択。

 そして六人でやるという事で千景がこの時のために作っておいた終点よりもちょっとだけ広い大人数対戦用の平地のステージを選び、バトルスタート。千景はいきなり不意打ちして悪役でもやってやろうかと思ったが、無事若葉にコントローラーを奪われ、九回分自殺され、ストックが残り一個の状態でスタートとなった。

 

「よし若葉! 千景を落とすぞ!」

「あぁ、やるぞ球子!!」

「笑止千万よ! くらいなさい、ベヨ禁断の即死コンボ!!」

「はぁぁ!!? おまっ、それは反則だろ!?」

 

 だが、千景だって意地がある。

 球子のキャラの攻撃をガードし、反確の隙を見つけた瞬間、そのまま即死コンボを叩き込んで球子のキャラを即死させる。これならばチャージ切り札も使えない。

 そしてそのまま若葉のキャラも上空に連れていき、両者ともに一回。そして杏と友奈、ひなたの方はなんかこう、賑やかにやっていた。ガチなのは千景、若葉、球子の三人だけだ。

 

「落ち着け若葉! ダメージを与えていけばその内勝てる!」

「そうだ、人海戦術でごり押すぞ、球子!」

「甘いっつってんのよぉ!」

 

 ヒートアップしていく馬鹿三人。ゆるーく対戦しているゆるふわ三人。

 しかし、千景と言えど人間。若葉と球子のキャラを五回も落とすという快挙を成し遂げたが、代わりに千景のキャラは後一発でも攻撃が当たれば吹っ飛びそうな程ダメージを受けている。

 いくら千景でもその状態からノーミスで二人を後五回も落とせるわけがなく。

 

「トドメだ千景! 凶斬り!!」

「あぁ!?」

 

 若葉のキャラの必殺技が炸裂。そのまま千景のキャラは吹き飛んでいき、千景はゲームから退場となった。

 若葉、球子がハイタッチ。千景はいくら何でも無理ゲー過ぎるとコントローラーを投げたくなった。これにより千景の罰ゲームが確定した。

 だが、忘れてはいけない。命令権はこのゲームの勝者にあると。故に、この後も盤上は千景の思い通りに動き始める。

 

「千景に命令するのはタマだ! って事で落ちろ若葉!!」

「甘いぞ球子! 特に命令は思いつかないが勝負とあっては負けられない!」

 

 若葉、球子の二人は他三人はいつでも蹴散らせると思い込んでバトルし始める。

 この時点で友奈が七、ひなたが八、杏が九のストックを抱えている。正しくこれぞ千景が負けた際の最高のパターン。

 そのままゆるふわ三人とガチ勢二人が削り合っていき……

 

「よっしゃ! 若葉をやった!」

「くっ……! 負けてしまった……!!」

 

 球子が残りストックを二つも残して若葉をKO。いつの間にかゆるふわ組の方も友奈が既に脱落しており、ひなたが残りストック一個。そして杏が三つのストックを残していた。

 だが、初心者二人程度楽勝。そう思い込んだ球子はまずは杏ではなく、残りストック一個のひなたを玉砕。

 

「あらら」

「さぁて、後はあんずだけだ! 覚悟しろ、あんず!」

「覚悟するのはタマっち先輩の方だよ?」

 

 そして球子は杏へと仕掛けたのだが、突っ込んできた球子のキャラに対し杏がカウンター。それだけで球子のキャラはダメージを貰いすぎていたのもあり、吹っ飛んでいった。

 だが、残りストック一個で杏を倒しきればいい。そう思った球子だったが、降りてきて突っ込んできてからすぐに球子は杏のキャラに串刺しにされ蹴られ、光球にあたって吹き飛び、また串刺しにされ。

 

「ちょ、なんかあんずが強いぞ!?」

 

 そう、これこそが。

 これこそが正に、千景が思い望んでいた光景。

 

「ふ、ふふ。土居さん。まさか私が、伊予島さんと一度もゲームを……やらなかったとでも、思っているの?」

「ち、千景……まさか!?」

「そうよ。伊予島さんと私は、駄弁りながらゲームをしたり、本を読んだりする仲。スマブラだって、タイマンでしっかりと教えてあるわ! 伊予島さんは私の陣営の切り札よ!」

「な、なんだとぉ!!?」

「タマっち先輩って突っ込んでくるだけだから対処が簡単なんだよね~」

 

 そう、実はなんやかんやで千景とは気が合うが故によくゲームしたり一緒に本を読んだりする杏。彼女が余裕を残して球子、もしくは若葉と対戦する事。これが千景が思い描いた光景だ。

 自分がやられても、杏が勝てばそれでいい。杏に罰ゲームの主導権を譲ってもらい、そして罰ゲームを受ける対象を変更してもらう。これだけで千景は一瞬で勝者へと返り咲くのだ。

 これこそ完璧。正しくパーフェクトなプラン。

 球子はその後も奮闘したが、初心者に毛が生えた程度の球子が圧倒的なストック差があるのにも勝てるはずがなく、一位は杏。最下位は千景となった。

 

「くっ、これじゃあ千景に恥ずかしい命令ができない……!」

「さぁ伊予島さん。私を罰ゲームという地獄から解放を……!」

 

 命令権は今、杏が握った。

 だから後は千景が罰ゲームを逃れる事ができれば、完璧な――

 

「じゃあそうですね。千景さんはタマっち先輩、若葉さん、それから友奈さんから壁ドンされてください」

「……へ?」

 

 作戦、だったのだが。

 

「……い、伊予島さん?」

「千景さん。わたしはこういうお楽しみを前にして黙ってられる子じゃないですよ?」

 

 こういうお楽しみ。

 つまり、リアルな百合の観測。それが杏の本来の。

 

「い、伊予島さん……は、謀ったわね、伊予島さん!」

「恨むんなら数分前の千景さんを恨む事です!」

 

 杏、渾身のドヤ顔。しかし千景にはそれを歯噛みしながら受け入れるしか選択肢はない。そして球子と若葉、ついでに友奈はどうして? と首を傾げている。

 更に言うとひなたは杏に対してサムズアップしており、既にどこからか取り出した一眼レフを構えている。どうやらあっちもあっちで協定を既に結んでいたらしい。杏、ひなたが得をしてそれ以外が養分となる作戦。

 ハメられた。そう思っても既に時は遅し。拒否権が存在しない千景はただただ二人の養分となるしかない。

 そういう事で。

 

「じゃあ最初はタマっち先輩から!」

「お、おう……? ってかどうしてタマ達まで巻き込まれているんだ……?」

「さぁ……?」

「どうしてだろうね?」

 

 そしてサラッと罰ゲームに巻き込まれた三人は首を傾げたが、千景を一人絶望させる事により他三人は被害を被っていないと思わせ、サラッと罰ゲームに仕掛け人側として参加させ、もう退くにも退けないタイミングにするという杏の思惑は三人の性格もあり、成功していた。

 もしここで三人が拒否したらよかったのだが、サラッと流されてしまったため千景は壁ドンを受け入れるしかない。ゲームと言えど勝負は勝負。それは時に無常な物だ。

 そう言う訳で、杏の指示で千景は壁に押しやられ、球子がその前に立つ。

 

「さぁ、タマっち先輩! 思いっきりドンとやってください! ドンッと!」

「あんずがここまでテンション高いの、初めて見るんだが……え、えっと、こうか?」

 

 球子は杏のテンションに困惑しながらもとりあえず壁ドンをする。

 千景の前に立ち、壁を両手でドン。一気に千景との距離が近くなるが、なんやかんや球子自身他人との距離は無意識に詰めるような性格をしているのでこの距離でも特に動じない。ちょっと顔が近いかな、程度。

 暫しじっと見つめ合って、二人で同時に杏の方を向く。

 

『……十分?』

「タマっち先輩、そこは千景さんを赤くするような気の利いた言葉を言わないと!」

「えぇ……えっと……千景、好きだ?」

「どうして疑問形なのよ……」

 

 もうグッダグダ。仮に急にそんな言葉を真面目にかけられたとしても、千景自身球子にはあんまりドキッとはしないので意味は無し。

 顔近いなー、程度に互いに思っているのもあって特に照れる事も無し。結局杏が文句を言いながら球子にもういい、とだけ言って次は若葉の番となった。なったのだが、ひなたが何やら若葉に入れ知恵をしている。

 余計な事をしなきゃいいけど、と思いながら壁で待つ事数秒。若葉が千景の前に立った。

 

「じゃあ若葉さん、お願いします!」

「お、おう」

 

 そして杏はこのテンション。

 もう球子辺りをずっとストッパーにしておかないと彼女、定期的に暴走するんじゃ、なんて思っていると、若葉が一度咳払いをして、千景との距離を詰めた。

 そして、片手で壁をドン。

 はいこれで終わり、とか思っていると、若葉のもう片方の手が千景の顎をそっと持ち上げた。

 

「えっ、ちょ、乃木さん……?」

 

 若葉の身長は、千景よりも少し高い。故にちょっと顎クイをされると千景の意志関係なく目線があってしまう。

 そして、千景と目線を強制的に合わせたまま、若葉はちょっとずつ顔を近づけてくる。

 ここに来て千景、内心がパニック。まさかこのままキスされるんじゃ、なんて思い、若葉を思いっきり押し退けるわけにもいかず、更にどうしていいのかもわからないので目を閉じてしまい。

 若葉の顔がほぼキスの距離まで近づいてきたとき。

 

「千景。可愛いぞ」

 

 そんな事を囁かれた。

 若葉の囁きにより千景の心がオーバーヒート。顔を赤くしたまま思いっきり若葉を押し退け、無言で胸倉を掴んで若葉をシェイクする。

 

「よ、余計な事しなくていいのよ!! なんでそんな余計な事するのよ!!」

「い、いや、ひなたにこうしたら千景が喜ぶって言われて……」

「喜ぶわけ! ないでしょ!! 恥ずかしいだけよ!!」

 

 これだから天然は。これだから天然は。

 暫くシェイクしたが、若葉にはそれがダメージにならないらしく、ムカつく顔でハハハ、なんて言いやがる。多分半分くらいは確信犯だ。大方、照れてる千景でも見たいと思ったのだろう。

 これ以上やっても疲れるだけだと悟った千景は若葉を手放し、ひなたの方を向いた

 ひなたはグッジョブ、と言わんばかりに親指を立てている。どうやら若葉と千景のアレコレを撮れてご満悦らしい。畜生め。

 

「千景さん、今度は友奈さんからですよ」

「……もう煮るなり焼くなり好きにしなさいよ」

 

 そしてニッコニコでご満悦な杏がそっと千景を元のポジションに戻す。

 もうどうにでもしてくれ。そう言う千景は壁に背中を付けて最後の一人である高嶋の壁ドンを待つ。

 

「あ、じゃあアンちゃん。わたし、ちょっとやってみたいのがあるの」

「そうなんですか? ちなみにどういう?」

「えっと、ちょっと待ってね…………あった、こんな感じの」

 

 何やら杏と高嶋が悪い事を考えているようだ。

 だが、流石に若葉の時のような事にはならないだろうと思い、千景はそれを見るだけ。そして、杏が頷いてからすぐ、高嶋はちょっと悪い笑顔を一瞬だけ浮かべた後、そのまま千景の方に歩いてきた。

 杏の合図も無しに。

 

「た、高嶋さん? まだ伊予島さんは……」

 

 合図してない。

 そう言い切る前に、高嶋が真剣な表情を浮かべたまま思いっきり壁ドンをした。その勢いに思わず小さな声が出てしまう千景。

 合図という気持ちの切り替えが無かった事、高嶋が一切止まらず壁ドンをしてきたこと。それにより顔が近くなり、予想以上に恥ずかしいというか緊張すると言うか。それ故に熱くなる顔。

 

「ぐんちゃん。わたしの物になってよ」

「た、たかしまさ――」

「嫌だとは、言わせないよ?」

 

 真剣な表情。真剣な声。演技とは思えないその雰囲気に千景の心臓が高鳴る。

 相手は同性だと思い込んでも、予想以上に高嶋の事を意識してしまう。更に足の間に高嶋の足が入り込み、千景の事を逃がそうとしない。

 俗に言う、股ドンでもあるのだが、千景は今さらそんな事を気にする余裕、なかった。

 顔が良い、とか可愛い、とかカッコいい、とかいい匂い、とか。なんか限界オタクみたいに語彙力が低下していく頭で何とか高嶋を止めようとするが、高嶋の勢いは止まらない。

 

「ぐんちゃんは可愛いね。すっごく、可愛いよ」

「も、もうやめ……」

「ねぇ、ぐんちゃん。顔、動かさないでね」

 

 高嶋が囁きと共に顔を近づけてくる。

 それに伴い千景の心臓が更に細かいビートを刻む。頭が沸騰しそうで、顔が爆発しそうで。そのままキスされるかも、と思っても高嶋に顔を動かすなと言われて、ついでに体もマトモに動かなくて。

 だから千景にできるのは、精々目を閉じてこの後の事を何もせずに受け入れるだけで――

 

「――って感じ! どうだった、アンちゃん!」

「…………へ?」

「凄く良かったですよ、友奈さん! 本当に、本当にもう!!」

 

 急に迫ってきていた高嶋が振り向き、そのまま杏の方へと駆けて行った。

 千景は真っ赤な顔のまま目を開け、高嶋がいつの間にかいなくなっているのを確認すると、うるさい心臓を抑えたままズルズルとその場で座り込んだ。

 そのまま暫く呆然としていた千景だったが、ふと今の状況が勇者&巫女全員に見られている罰ゲームだと思い出し、即座に若葉と球子の方を向いた。二人はそっと視線を逸らした。

 

「……今度の訓練、覚えてなさいよ」

『なんて理不尽な……』

「ついでに伊予島さんも……その心を叩き折ってやる……!!」

「えっ、わたしへの殺意高くない?」

 

 当たり前である。

 悪戯成功、と言わんばかりの高嶋にも何か言おうとした千景だったが、どうしても高嶋には何か言う事ができず、とりあえず、まずは自分の痴態をしっかりと写真として保存していたひなたと鬼ごっこを始めて、彼女のカメラから自分の痴態を抹消する事を選んだ。

 なお、ひなたはその場で分身したり残像を出しながら逃げたりしたため、捕まえる事ができなかった。レズは人間の性能限界を超える機能が標準搭載されているのだろうか。千景は少し謎に思った。

 

 

****

 

 

 その日の深夜、千景はすっかり静かになった自室でとっとと寝てしまおうとベッドの上で横になっていた。

 そう、とっとと寝てしまおうと思っていたのだが、千景は眠れずにいた。

 と、言うのも目を閉じると思い出す今日の出来事。杏にハメられ、罰ゲームの受刑者となってしまった時の、高嶋との数秒程度のあの出来事。

 目を閉じるとついついあの光景を思い出し、顔が熱くなってどうしても眠れない。

 

「な、なんでよ……いつもならすぐ眠れるのに……」

 

 ついつい独り言を零しながら、千景は枕元に置いてあったスマホを手に取り、勇者+ひなたのトークルームを開く。

 そこには既に一眼レフからパソコンにデータを送ったのであろうひなたが送ってきた今日の罰ゲーム中の写真が。球子と特に何か照れるわけでもなく見つめ合う写真。若葉に顔を赤くされる写真。

 そして、顔を近づける高嶋と、目を閉じる千景の写真。

 それを見るだけであの時の光景を鮮明に思い出し、思わず携帯を乱暴に枕元に置いて布団を抱きしめてゴロゴロとその場で転がり悶える。

 友奈は呑気にぐんちゃんかわいー! なんて送っているが、かわいーと言われた本人からしたら複雑以外の何物でもない。

 だが、それ以上に千景が思うのは、この時の自分の心情。

 体が動かなくなったのはまぁいい。だが、どうして目なんて閉じてしまったのだろうか。

 これではまるで、高嶋からのキスを受け入れているみたいで――

 

「んーーーーーーーー!! んーーーーーーーーーー!!」

 

 そんな事を考え、枕の側に置いてある、青色のぬいぐるみに顔を押し付けて思いっきり叫んだ。

 一応防音はしっかりとしているので、この程度の音なら隣にも向かいにも聞こえることは無い。だから安心して叫べる。叫べるが。

 

「そ、そんな訳ないじゃない。お、女の子同士よ……?」

 

 いや、一応前例が三名ほどいるが。

 でも、まさか自分がそんな。そう思いながら千景は一旦体を起こし、電気をつけてからぬいぐるみを抱きつつスマホのカバーを外す。

 誰かに見られると恥ずかしいからと、自分で買ってきたスマホのカバーの裏に貼っておいた高嶋とのプリクラ。不慣れに笑う千景自身と、満面の笑みの高嶋。そんな高嶋を見るだけで顔が熱くなり、同時になんだかちょっと幸せな気分になる。

 そして、思い出す。あの壁ドンを。

 

「っ……ち、違うわよ」

 

 そう。違う。

 そんな、高嶋からのキスを受け入れ、高嶋とならいいや、なんて思っていたなんて、違う。そんな訳がない。

 そう思いながらも、思い返すのは高嶋と遊びに行った時の記憶と、真剣な表情で詰め寄ってくる高嶋の表情と、悪戯っ子みたいな表情を浮かべた小悪魔チックな高嶋の可愛らしい表情で。

 

「ち、違う……けど……」

 

 一応、今度から高嶋の事を写真に撮ってみようかな。

 そんな事を思い、千景はかつて美森から教わった(汚染された)内容を思い出しつつ、もう一度電気を消し、ベッドに潜るのだった。

 なお、その日は眠れず次の日、千景は濃い隈を作って登校し、無事居眠りを決め込んだのであった。でも中学生くらいの内容はちょっとできるので許された。




ぐんちゃん、色んな補正もあったのか分からないが、天然人たらしに見事に落とされる。たかしーも天然人たらしの一人なのであった。でも若葉の壁ドンにも顔真っ赤でしたし、案外チョロい子なのかも。

ちなみに今回書いたスマブラはforを想定しています。だってこの時代スイッチ無いし。for出たのがいつかは分からないケド。

これで西暦勇者とのコミュも一周できたので、暫くはコミュの事とか考えずにぐだぐだとやります。でも、長くて後十話とかかな? それぐらい経ったらのわゆ原作の最初に差し掛かります。
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