「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」
もうすっかり夏の季節となったある日。勇者部の部室に樹のゾンビみたいな声が響いた。折角の可愛い声が台無しである。それを聞いた勇者部の面々はいったい何事かと樹の方を見れば、樹はタロットカードを机の上にぶちまけた状態で机の上に突っ伏しており、その目には生気が宿っていなかった。
いつも笑顔な樹ちゃん後輩のそんな姿を見た勇者部は、一発で樹に何かあったのだと察した。
それを見たハゲ丸が、ここ一週間ずっと作っては持ってきているジェラートを樹の目の前に置いた。
「新作のメロン味だ。これでも食って一旦落ち着け」
「カツラン・ズラ先輩……」
「没収」
「嘘ですごめんなさい」
そうしてなんとか没収されかけたメロン味のジェラートを口に運ぶ樹ではあったが、どうしてかその表情は未だに暗いまま。風に目線で何かあったのか聞いてもさぁ、と首を傾げるだけ。
「サプリでも飲んだら治るんじゃないかしら?」
と、もう完全に勇者部の一員となった夏凜がにぼしを齧りながら提案した。
そんな事で治るのはお前だけだ脳みそサプリが、と友奈を除いた全員が同時にそれを思い、暫くにぼっしーに黙ってもらうためにハゲ丸はにぼっしー専用のにぼしジェラートを差し出して黙らせた。ちなみにサプリ配合である。ちなみに、現在のハゲ丸のクーラーボックスの中にはバニラ、ストロベリー、醤油、メロン、にぼし、最近美森との合同で作ったぼた餅味のジェラートが敷き詰められている。もう店でも開いたらいいと思うの。
樹は暗い顔で美味しい美味しいとうわ言のように呟きながらメロン味のジェラートをおかわりする。お腹壊すぞ。
「で、樹ちゃん後輩よ。何か問題でもあったのか?」
二杯目のジェラートをもう半分ほど平らげた樹にハゲ丸は苦笑しながら質問する。無意識に食べ物に走ってしまう辺り、樹と風は姉妹なんだなぁと思いながらも出した質問に、樹は特にもったいぶることもなく悩みを口にした。
「実は来週、歌のテストがありまして……」
「……あー、そゆこと」
悩んだら相談の五箇条に従って口にした樹の悩みを聞き、ハゲ丸はそれだけで樹がどこからどこまで、何をどれだけ悩んでいるかを察した。
この間、樹が自分の歌を聞かれて顔を真っ赤にしている所を目撃したばかりだ。他の面々も、それをインターネットに流した結果、風とハゲ丸が吊るされたのをよく覚えている。故に、樹の言葉を聞いた瞬間に夏凜以外は納得したように頷いた。
つまり、歌のテストでクラスのみんなの前で歌うのが恥ずかしくて、上手く歌えるか分からないという事だろう。友奈も美森もハゲ丸も。はたまた風も、一年生のこの時期にそんな感じの歌のテストがあったことを朧げにだが覚えている。夏凜は転入生なのでわからないが。
だが、分かってしまったからにはどうにかしたいと思うのが勇者部である。
「つまりクラス全員の前で歌えるようになればいいのよね?」
「まぁそゆこと」
二杯目のにぼしジェラートをおかわりしに来たにぼっしーがハゲ丸から事の事情を聴いて、解決方法を口にする。
簡単に言ってのけるが、夏凜のように一から十まで自信満々、人前だろうとやることはやり遂げれる人間とは違い、恥ずかしがってしまう人間というのは何をどうしても恥ずかしがってしまうものだ。
樹のシャイがどれほどか、ハゲ丸は痛いほど知っているし、他の面々も知っている。初対面の友奈と美森に対して風の背中に隠れて初対面をやり過ごそうとしたほどだ。そんな彼女が何十人もの人の前で歌を歌うなんて。それも一人で歌うなんて、かなり辛い物だろう。
どうしようか、と全員が考える中、二杯目のにぼしジェラートを完食した夏凜が腰を上げた。
「あたしにいい考えがある」
明らかに失敗フラグな言葉を口にして夏凜は自分の鞄から色々な物を取り出しては樹のタロットを片付け樹を風に投げ渡し、並べていった。
ビン、シート、オリーブオイル、プロテイン。様々な薬品が机の上に立ち並ぶ。
え? それ全部鞄の中に入ってたの? と全員が疑問に思うが、夏凜は気にせず鞄の中から更に薬品、というよりもサプリを取り出し、更にどこから持ってきたのか学校指定の鞄ではない鞄からまたまたサプリを大量に取り出し、幾つかを取捨選択した。
「このサプリを飲めば完璧よ」
「人の妹を薬中にする気かお前は」
夏凜が取り出したのは、喉の調子が良くなるだったり人前で緊張しにくくなるだったり。様々な効果を持つサプリだった。それが、机の上を占領している。見る人が見れば明らかに自殺か怪しい錬金術の現場だと思うだろう。友奈はどこに入ってたんだろ、と無邪気に夏凜の鞄を覗き込んでいるが、ハゲ丸と美森はドン引きして風は思わずツッコミを入れた。
「さ、飲みなさい樹。これでパーフェクトよ」
パーフェクトよじゃねーよ。
「Hi-ν先輩にお手本見せてもらいたいです」
樹が引き攣った笑顔で夏凜に告げた。夏凜が取り出したのだから体に悪いという訳ではなさそうだが、この量のサプリを一気に飲んだら体に何かしらの支障が出そうだった。
故に尻込みして出た言葉がそれだった。
「いや何でよ」
既にHi-ν先輩と呼ばれる事に慣れてしまった夏凜。
「いや、流石にこれは……」
「そうよ。勧めるんならまずはお手本見せなさいっての」
確かに、その通りだ。毒舌樹ちゃんが尻込みしてしまう程だ。風だってこんなものを一気に飲んだら何かしらの問題が起こるかも、と思ってしまう。
その言葉を聞いた夏凜は、そのサプリを引っ込めるのではなく仕方ないわねと一言言ってサプリの入った瓶を掴んだ。
「このサプリを一気に口に含んで後はプロテインを溶かしたオリーブオイルで流しこおぼろろろろろろろろろろろろろろろ!!?」
「ぎゃあああああああ!!?」
「ちょ、雑巾雑巾!!」
「馬鹿じゃねぇのこいつ!? 馬鹿じゃねぇのこいつ!?」
「サプリで頭がやられてるのよ」
**大変お見苦しい絵が発生しました**
「流石にプロテインを溶かすのはマズかったわね……」
「いや前提から駄目だってことに気づけよオメー」
流石の風も辛辣な言葉を吐かざるをえなかった。
大惨事を巻き起こした夏凜ではあったが、夏凜は特に気にした様子もない。どうやらサプリを一気飲みしたことが悪いのではなく、プロテインをオリーブオイルに混ぜた結果、味が悪かったのだと判断したらしい。正真正銘のサプリ馬鹿である。サプリのやべーやつである。だって飲み合わせの事一切考えてないんだもん。
しかし夏凜は懲りずに今度は2Lの水が入ったペットボトルを取り出してそれをオリーブオイルと入れ替えて机の上に置いた。
「じゃあ水で飲んじゃいなさい」
「だから前提から物事を考えろってんだよテメー」
イラつく風。しかしそれを煽るのは夏凜だ。
「この程度飲めて当たり前よ。勇者ならね」
「だったらまずはアタシが飲んでやろうじゃない! ダメだったら謝れよお前!?」
「まぁ、駄目だったらもう少し考慮はするわ」
どうしてこうなった。樹は頭を抱えた。
しかしそんな樹を他所に風はサプリの瓶を掴んだ。
「一体何が始まるんです?」
「大惨事だ」
ボケる芸人を他所に風は覚悟を決め瓶をそのまま口へと運んでいった。
「一気に口に含んで後は全部飲みこおえええええええええ!!?」
「ほら見ろ」
「余裕の音だ。馬力が違いますよ」
「なんの馬力……?」
**大変お見苦しい絵が発生しました**
「女子力が口から出て行った気がするわ」
「元から垂れ流す程もないでしょう、犬先輩」
「お前後でぶっ殺してやる」
「物騒だなぁ……」
夏凜&風の新手の芸人が巻き起こしたテロをある程度片付けたハゲ丸、友奈、美森は改めて樹の方を見た。
樹は夏凜から渡された二つのサプリを水で既に飲んでいた。が、特に本人は何か変わったとは気が付いていない様子。それもそうだ。飲んですぐに効果が現れたらそれは新手の毒か何かだ。
おかしいわね、と首をひねる夏凜。この子、こんなにアホの子だっけ、とハゲ丸は首を傾げながら掃除道具を片付けた。だが、敵キャラが仲間になると弱体化する法則を思い出したため特に何も言えなかった。
「さて、どうしたらいいんだか……」
ハゲ丸がどうしたものかと、首を傾げる。それに対して答えを投げたのは、意外にも友奈だった。
「カラオケ行けばいいんじゃないかな?」
『採用』
友奈限定イエスウーマン美森とハゲ丸がその案を採用する。
そして美森と友奈が夏凜を羽交い絞めして運びだし、樹と風は普通にハゲ丸と共にカラオケへと向かうのだった。
本来なら死神フォーカードからのカラオケ直行でしたが、サプリネタをなるはやでやりたかったんだ。
そして樹ちゃん後輩はこれから芸人枠として動かすことが決定しました。あとにぼっしーも芸人枠になります。やったねフーミン! 周りにボケしかいないよ! でもにぼっしーもツッコミに混ざるときはあるから悲しくはないね!!
そして徐々に勇者部=やべーやつの集まりという風潮が広まっているような気がしないでもないけどどうでもいいや。今回はここまで