西暦勇者の中では、既にペアのようなものが確立されている。
まず、幼馴染コンビの若葉とひなた。現地で出会って意気投合し義理の姉妹みたいになった球子と杏。そして、徐々に千景からの視線が怪しくなっているが気にしない千景と高嶋。
しかし、その三つのペアもペアでしか固まっているわけではなく、比較的長くいる時間が多いと言うだけで、違うペアが組まれていたりトリオになっていたりすることも少なくない。
例えば、若葉と高嶋。若葉と球子。彼女達も自分達の想像以上に意気投合するのか、よく一緒に居る所を見かける。そして、ひなたと杏のようなおっとりペアもよく一緒に居るのを見かけるし、若葉と杏、ひなたと高嶋なんてペアも時折見かける。
そして千景も同じように、高嶋以外にもよく絡む人が居る。
ひなたは若葉と一緒に居る時に会う事が多いが、高嶋、球子とはよく遊びに行く仲なので、そこそこの時間一緒に居る。
そして、部屋の中にいる時は。
「千景さん、この恋愛ゲーム、すっごくよかったです」
「でしょ? 私の、一押しなの。それと、この本。とても、面白かったわ」
「よかった、千景さんの趣味に合ったみたいで。後でこの作者の本、持ってきましょうか?」
「じゃあ、お願いするわ。代わりに私は、続編のゲームと、この設定資料集を」
大抵、杏と一緒に居る。
元々杏は本の虫。それが球子と出会ってから時折外にもいくようになっただけで、本質は変わらない。そんな杏が千景と息が合わないわけがない。
杏も時折ゲームをやるが、基本的に球子とやる時のためにパーティーゲームを練習するくらいで、やるゲームのジャンルはADV。それも恋愛ものだ。
ギャルゲーから乙女ゲー。果てには百合物からBL物まで。基本的にR-18でなければストーリー重視の物を千景から借り、それに泣いたり笑ったりして満足する。そしてハマったならば設定資料集などを読み込んで満足。それがゲーマー、というよりはゲーム好きとしての杏の姿だ。
杏をこの道に落とすのは容易だった。
最初はゲームで恋愛物。しかも読み物と言われてもパッと来なかった杏も一本やればこういうゲームか、と理解し、そして二本やれば本もいいしゲームもいい、なんて思い、三本もやれば立派なゲーマーだ。
「それにしても、凄い量のゲームですね……」
「伊予島さんの本程じゃ、ないわ」
千景の部屋にある本棚の半分以上はゲームソフトで埋まっている。それ以外は設定資料集や、時折気分で買う漫画や小説くらいか。
確かに、同年代と比べれば十分に多い方だが、杏の本程ではない。
彼女の部屋の壁は本棚ばかりであり、その中には所狭しと本が丁寧に並んでいる。しかもそれだけでは足りないのか、図書館から借りてくる事まで。
球子や高嶋が見ればどっちもどっち、なレベルなのだが、二人ともまだまだこんな物じゃないと言わんばかり。
「そうね……伊予島さん、今日はこんなゲームをやってみない?」
そして、千景は杏が部屋に来ると、自分のおすすめのゲームをプレイさせてみたりする。
今日千景が手に取ったのは、FPSゲーム。
単純に千景がオススメという点もあるのだが、彼女の頭の中には美森が浮かんでいる。何故かゲームについては銃を扱う作品だけは特筆して上手かった美森。恐らく彼女も三百年後の勇者の一人であり、もしかしたら銃を使っていたかもしれない。
そんな思考から、杏にやらせてみたら面白い事になるんじゃないか。そう思い、杏にやらせてみる事に。
「銃を撃つゲーム、ですか?」
「ストーリーもいいって、評判なの。恋愛要素はないけど……どうかしら?」
言いながら、千景はふと勇者部の面々を思い出す。
勇者部内天下一武道会近接格闘の部、なんて言われていたアレ。結果的には友奈が圧倒していたあの天下一武道会だが、こうして武器に触って戦闘の訓練を受けると友奈の異常性、夏凜や銀、風の強さがよく分かった。
高嶋もほぼほぼ友奈と同じように徐々にヤバイ動きを身に着け始めているので、論外とするが、夏凜や銀のような腕になるまでは相当な年月訓練し、実践を積まないといけない領域だったと分かる。
そして夏凜が時々口にしていた完成型勇者。
やっぱり勇者部って神世紀の勇者の集まりだったんだ、と思いながら口を上手い事動かして無事、杏をその気にさせる事に成功。ゲームを起動し、説明書を杏に読ませて自分は杏が新たに持ってきた本を読む。
「わっ、始まった。これどうしたら……あっ、ヘルプは出るんですね」
「今日中には終わらない、から。疲れたら止めていいわよ」
「そうしますね」
なんて言いながら杏は一度熱中すると時を忘れるのを千景は知っている。何度彼女がゲームによるオールをするのを見てきたことか。
明日は休み。例えオールをしたとしても支障は特に無い。今はこのゲーマーの卵がどんな風に成長していくのか、それを見守るだけだ。なんて、カッコつけながら本を読む。
流石、本の虫杏が持ってきた本。とても読みごたえも有れば面白い。
「この人、すっごいいい人だなぁ……軍隊の人ってもっと厳しい人ばっかりだと……」
なんて呟きながらゲームをする杏には千景もちょっとニッコリ。
そして、その人、実は序盤の内に死ぬんですよ、と愉悦を感じてさらにニッコリ。
まだかなまだかな、と楽しみにしながら大体小説を半分ほど読み進め、時間的には二時間ほどが経過した頃。そろそろか、と千景が顔をあげると。
「えっ、うそっ、死んじゃうの!? さっき帰ったらパーティーだって……そんなぁ……」
ビンゴ。
丁度、杏が気に入っていた、主人公の部隊を率いていた隊長が名誉の戦死をしてしまい、杏の目尻には小さく涙が浮かんでいた。
だが、悲しみながらもストーリーは進み、隊長の死を迎えながらも主人公が新たに部隊の隊長となり前進。敵を倒しながら撤退のために走るのだが、その際の杏のエイムはかなり冴えていた。
やっぱり実際に銃に近い物を撃っているとそこら辺の吸収も早いのだろうか、と思いながら杏を見守り、無事主人公たちが撤退できたところでチャプターは終わり。
「あのシーンは、私も驚いたわ。まさか、死んじゃうなんて」
「うぅ……千景さん、分かって黙ってましたね……?」
「ネタバレは、しない主義なのよ。それよりも、伊予島さん。小腹、空かない?」
「……空きました」
「それじゃあ、お夜食でも作りましょうか。あと、さっきの隊長を主人公にした、前日談の小説なんかも……」
「貸してください!」
杏は本が好き、ではあるのだが、格別に本が好きなのであって創作全体も好きな子だ。故に、千景がストーリー重視のゲームを貸してみれば千景の思惑通りにハマってくれる。
このまま杏をゲーマーに仕立て上げる計画を進めていけば、いつか杏も自分と並ぶゲーマーになってくれるかもしれない。
そう思いながら杏を連れて共に食堂へ。
「そうね、今日は……何を作ろうかしら」
「にしても、千景さんは凄いですね。まだ小学生なのに自炊できるなんて」
「藤にぃ達から教わったの。みんな、料理が上手かったから」
先代組の四人は勿論の事、風からも千景は料理を教わったためレパートリーはそこそこ多く、料理を習い始めてから数か月の少女とは思えない程度には作れる料理の幅は広い。
それに、分からない料理もレシピを見ながらならまず作れるし、簡単なアレンジもできる。
コンビニ弁当なんかよりもコスパも味もいい食事を作れる。そう思うとやっぱり自炊って面倒ではあるがやるだけ得だと思える。
食堂に着いて冷蔵庫を覗けば、大量のうどんと他の食材がちらほらと。
「これなら、うどん関連の物は作れそうね。伊予島さんは、食べたい物あるかしら?」
「うーん……千景さんにお任せします」
「そう……なら脳死でうどんね」
だって大量にあるんだから。
冷蔵庫の中からうどんを取り出し、他に何があるのかをせっせせっせと確認する。冷蔵庫の中には野菜が幾つか。簡単なサラダが作れそうな程度にはあった。
何もしなくても大社側が勝手に補充してくれる冷蔵庫だ。ここは遠慮なく野菜を使わせてもらう。
「サラダうどん、なんてどうかしら。オシャレで、可愛くて、さっぱりしてるわよ」
「あ、いいですね!」
杏をここに連れてきたのは、流石に一人で料理をするのは寂しいので、寂しさを紛らわすための話し相手となってもらうためだったのだが、杏は千景がうどんを茹でている最中、サラダうどんを作るためのサラダの部分を作ってくれていた。
サラダとは言っても、所詮は一口大にちぎったレタスをうどんの上に乗せ、その上にシーチキンやらマヨネーズやら海苔やらで味付けする程度。シーチキンは缶詰の物だし、海苔も適当にバリっと砕いてパラパラ散らすだけ。案外簡単な料理だ。
「手伝ってくれて、ありがとう、伊予島さん」
「手伝いとは言っても、レタスを千切っただけですけどね」
苦笑する杏に、それでもよ、と答えてから千景は茹で上がったうどんを冷水で冷やすついでにしめる。
後はそれを皿の上に盛りつけ、その上からレタスを乗せ、シーチキンを乗せ、マヨネーズをかけてから海苔を砕いて散らし、麺つゆをかけて、簡単で美味しいサラダうどんの完成だ。
「じゃあ、後片付けをして……これで大丈夫ね。戻りましょうか」
「タマっち先輩達が起きないように慎重に、ですね」
後は完成したサラダうどんを手に千景の部屋に戻り、食べるだけ。
うるさくしないように千景の部屋に移動し、二人でうどんを啜りながらゲームのストーリーを見る。
ムービーを共に見ながらちゅるちゅるとうどんを啜っていると、杏が口を開いた。
「……わたし達も、近い内に戦うんですよね。人相手じゃなくて、人よりももっと恐ろしい物を相手に」
ムービーでは戦争の様子が映し出されている。
歩兵が、歩兵と戦い、銃を撃つ。そんな光景を見て、杏は不安を感じたのだろう。もう十年も経たないうちに。まだ自分達が子供の時期に、自分達も戦場へと赴くことを使命付けられている事に。
いくら超常の力を持った勇者とはいえ、所詮は人間。バーテックスの攻撃一回で死ぬ事すらあり得るのだ。一回でもダメージを貰ったら死亡確定残機無しのタワーディフェンスゲーム。しかもユニットは五人で固定され、相手の戦力は万を超えると想定する。
とんでもないクソゲーだ。
だが。
「大丈夫よ。所詮、相手は知能を持たないエテ公以下。人間の敵ではないわ」
ちょっとだけカッコつけた。
だが、バーテックスに知能なんて恐らくない。あれはきっと、近くにいる人間を食うという行動を繰り返すだけの存在だ。故に、所詮は猿以下。
「確かに戦いは、数よ。でも……その数の暴力を押し返せる、程の、暴力的スペックがある」
「暴力を押し返せる暴力スペック」
「私達は仮面ライダーで、相手は攻撃力がインフレしたショッカー戦闘員、よ。負ける気がするかしら?」
言ってしまえばこんな物だ。
ウルトラマンと怪獣墓場の再生怪獣とも言えるだろうか。所詮相手がどれだけ物量で押して来ようとも、単体スペックが上なのは既に分かっている事。若葉、球子、杏、高嶋は生身の状態でバーテックスと交戦し、倒した経験がある。唯一実戦経験が無いのは千景だけなのだが、その千景も勇者システムの出力は星屑を凌駕していることを知っている。
故に、例え相手がどれほどの数を用意してきたところで、余裕。負ける道理にはならないのだ。
言葉にパワーワードが詰め込まれている気がしてならない杏だったが、言われればその通りだと思える。
「それに、伊予島さんは後衛よ。私達が、死ぬ気で守る、重要拠点なのだから……心配はいらないわ」
そして何より、杏は勇者の中で唯一の遠距離攻撃持ち。そんな彼女をみすみす敵前に晒すなんて真似、できるわけがない。それをしないために前衛が存在し、球子や千景のような盾持ちが存在している。
若葉の突破力、高嶋の爆発力、球子の安定した守備力と攻撃力、千景の手数。四人の勇者にはそれぞれの長所があるが、それを活かすには、的確な援護を入れてくれる後衛が必要不可欠。
故に、杏は前衛三人が死んだところで死ぬことは無い。彼女が死ぬとしたら一番最後であり、この世の終わり。そんな、あり得ない状況だけ。
「でも……」
それでも、と杏は口を開く。
やはり、実践というのは何が起こるのか分からない物。様々な本を読んできた杏は、作戦がその通りに事を進め勝った戦も、時の運だけでそれが瓦解し、一気に崩壊した戦も知っている。
知っているが故に、不安なのだ。もしかしたらを考えてしまうから。
しかし、千景はそんなもしもを考えない。
「大丈夫、よ。少なくとも、向こう三百年は、人類は生きているから……この世界は、少なくとも三百年、生き続けるわ」
「え? 三百年……? それって、何が根拠で……」
「さぁ? 女の勘……かしらね」
既にこの世界は三百年先まで存続する事は確定しており、そこで神樹様は役目を終える事も分かっている。
それを成すのが、三百年後の勇者なのであろう事も理解している。
だから、何の憂いも無い。今の自分達の役目は未来へと現在を繋ぐことであり、未来へと災禍を持ち込まないために足掻き続ける事だけだ。
「……そんなに、心配しなくてもいいわ。私の方が、伊予島さんよりもお姉ちゃん……なんだから。情けない姿なんて、見せないし……絶対に守ってみせる、から」
だから、未来へと現在を繋ぐ中で、悲しい犠牲を出すわけにはいかない。
絶対に守ってみせる。守り通してみせる。そう告げれば、杏は少し不安そうな顔をしたが、それでも笑顔で千景の言葉に頷くのだった。
夜中は本の虫とゲーマーの時間でもあり、ちょっと悪い子達の時間。という事で夜中だと言うのにバリバリゲームしたり、本読んだり、夜食食べたり。
杏をしっかりと守ると決めたちーちゃん。ですがこのまま原作通りに事を進めてしまってはタマっち&あんずんは……ちーちゃんは原作ブレイクを無事できるのか、という事でまた次回。