ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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今回はちょっと視点を変えまして歌野の方で起こったとある一幕。

あの人達もちょっとだけ出てきますよ?


一方その頃諏訪では

 白鳥歌野にとって、この世界は救いがない世界だった。

 だが、だからこそ笑顔で頑張れると思っている。守るべき人がいるから、やりたい事があるから、生き続けたい理由があるから、みんなと一緒に頑張れる。ずっと一緒に居る藤森水都と共に頑張る事ができる。

 諏訪の人達も、最初は歌野と水都の事をあまり信用はしていなかった。

 何せ、たかが小学生の少女二人だ。二人がいつバーテックスの侵入を防げず、自分達が虐殺されるかなんて考えたくもない。だからこそ、信用しなかった。信用するだけ無駄だと思ったから。

 だけど、それは違うと気づいたのがつい最近の事だ。

 一番痛い立場で頑張る子が、鍬を持って一人頑張っている。その隣で、親友が傷つくことを見ていることしかできない子が、精一杯頑張って生きている。

 それを支えずに何が大人か。

 一番彼女達を支えなければいけない立場にある人間が燻っているのは何とみっともない事か。

 そう思えば自然と諏訪の大人たちは鍬を持った。それに子供も同調し、徐々に諏訪は一つになり始めている。バーテックスの戦力の増強と並行して、だ。

 

「うたのん、バーテックスが」

「オーケー、分かってるわ。今回もノープロブレムよ」

 

 鍬を持ち笑顔を浮かべていた歌野は、まだ笑顔を浮かべたまま、武器である鞭を片手に諏訪大社の中へと入っていく。

 勇者装束に着替え、戦闘準備は万全。

 星屑一体にすら苦戦するような歌野の装備では、いつしか限界が来る。それは彼女自身も分かっている。

 だけど、その日が来るまでは、と笑っている。水都と共に。

 水都は諏訪大社の中で待つ。歌野は戦いに赴く。水都からバーテックスが侵入してきた場所を聞き、そこへと走る。

 一刻も早く行かなければ付近の人が食われてしまう。だからこそ歌野は勇者として覚醒した身体能力を存分に使い、走り、跳ね、バーテックスの元へと向かう。

 

「全く、こちとら農家よ。少しは手加減してほしい物ね!」

 

 なんてボヤキながらも歌野は走る。この諏訪を、自分の畑を守るために。

 そして、バーテックスが進行してきたという場所へと辿り着いた時、歌野は驚きのあまりに口が開きっぱなしになった。

 

「ったく、来て早々星屑と未完成バーテックスって……えっと、年月は……二千十六年。んでもって場所は……諏訪ぁ!? あんの珍獣共、送る場所間違えたわね!? 一回だけテストで来てみて良かったわ……」

 

 なんか二本の刀を持った少女が携帯片手に吠えている。

 その近くには進行してきたらしい数百以上のバーテックスが細切れの状態で落ちており、明らかに今まで見てきた白いバーテックスとは別の、異形のバーテックスの姿までもがある。

 状況的にはこの少女が諏訪で戦ったのだろう。

 戦ったのだろうだが、それはおかしい。現在勇者が確認されているのは諏訪と四国のみ。北海道と沖縄とは無線が繋がらないため、本当に勇者が居るのかは定かではないが、四国から援軍が来たという話は聞かないし、知らない。

 なら、この少女は?

 

「あ、あの、エクスキューズミー?」

「ん? あれ、勇者? 諏訪にも勇者っていたのね」

 

 赤い少女は一人何か言っているが、何やら一人で言って完結している。マイペースでゴーゴーな歌野が困惑で言葉が出ない程度には。

 だが、そんな歌野が少女の後ろを見て即座に息を呑んだ。

 結界の端であるここで背中を向けているのだ。ならば、後ろからバーテックスがいきなり出てきてもおかしくはない。

 そう、赤い少女の後ろからバーテックスが出てきたのだ。それも、白い口の付いたバーテックスとは別の、何やら長く動く棒状の物を携えたバーテックスが。それが、歌野が反応する間もなく、棒状の物を赤い少女に飛ばしてきたのだ。

 死んだ。歌野がそれを確信しつつ、しかし何とかして少女を助けられないかと動いた瞬間。

 

「三好さん、油断大敵よ」

 

 歌野の更に後ろから銃弾のような物が風を切って飛んできて、新型バーテックスの表面を吹き飛ばした。だが、それでも構わず突き出される棒状の物だったが、それは赤い少女に当たる寸前に赤いバリアのような物で防がれた。

 

「はぁ……鈍ったものね。手出し無用よ、芽吹」

「もし精霊バリアが無かったら死んでたわよ?」

「無くっても何とかなったわ。今さら未完成のスコーピオンに遅れをとるとでも思ってるの?」

「それもそうね。なら余計な手出しだったわ」

「そうそう。でもお礼は言っておくわ」

「なら受け取る。どういたしまして」

 

 もう歌野にはよく分からない。

 諏訪には一人しか居ないと思っていた勇者が二人増えた。しかも、その二人が明らかに歌野よりも数段強い。

 赤い少女と、若草の少女。二人は軽口を叩き合いながら、もう一度棒状の物を振るってきた新型バーテックスに対し、剣と銃剣を振るった。

 歌野ならば確実に力負けするそれを、二人は簡単に弾いて見せ、そのまま攻勢に移った。

 一瞬で棒状の物を赤い少女が解体し、新型バーテックスが再生を始める。しかし、それを許さずに若草の少女が飛びあがり、新型バーテックスの頭らしき部分へと乗り、銃剣を突き刺してからトリガーを引き零距離射撃をお見舞いする。

 それに怯んだ新型バーテックスを見た赤い少女が赤い閃光としか言いようがない速さで駆け、二本の刀を巧みに使い、一瞬で新型バーテックスを解体した。

 

「ザっとこんな物ね。新型防人システムの調子はどう、芽吹」

「上々よ。前よりも火力が高くて使いやすいわ」

「そうなの? あたしは体が重くって仕方ないわ。相当なダウングレードくらってるわね、これ」

「未完成バーテックスでも一人でやれたんですもの。こっちは相当アップグレードをくらったわ。やーい下方修正」

「うるさいわね。その内こっちも上方修正来るわよ。で、あっちのバーテックスは?」

「根切りよ」

「なら安心ね」

 

 えっ、あれで?

 歌野の間抜けな声は届かなかったようで、あんぐりと口を開けていると、歌野のスマホに着信が。

 どうやら相手は水都かららしい。電話に出てみると、かなり焦った様子の水都の声が。

 

『うたのん! うたのんが出て行ってからすぐに違う場所からバーテックスの進行が!』

「え、えぇ……多分それ、ノープロブレム……」

『え?』

 

 だって若草の少女が根切りって言ったんだもん。さっきからバーテックスが来る様子がないし。

 そんなあんぐりな様子の歌野に気が付いた若草の少女は、赤い少女に待って、とだけ言うと、歌野に近づいて来た。歌野は若干驚いたが、そこら辺は持ち前の明るさでカバー。なんやかんやで諏訪のために戦ってくれたんだし、お礼の一つでも言わなければ失礼だ。

 

「あなた、勇者よね。仕事を取られてちょっと不機嫌な様子?」

「そんな事ないわ! 戦ってくれてサンキューよ! そっちの人も!」

「こっちの勇者は三好さんとは違って大分素直ね? お礼まで言ってくれるなんて」

「ほっとけ」

 

 赤い少女は不貞腐れているが、若草の少女は大分上機嫌な様子に見える。

 それもそのはず。若草の少女……まぁ、未来から来た芽吹なのだが、彼女が今纏う防人システムは相当な上方修正が加えられている。それこそ、現在赤い少女……つまり夏凜が纏っている勇者システムと相違ない程にまで強化する修正が。

 しかし、夏凜の勇者システムも、園子達が纏っていた勇者システムからの軽い上方が入っている。大赦が一日でやってくれました。最終的には先代勇者システム並には戦闘力が向上する予定だ。

 話は戻し、芽吹が上機嫌なのは、勇者並みに戦えるシステムが手元にある、というのが一番だ。なんやかんやで防人システムでは防戦一方が限界だった未完成バーテックス戦。それを圧倒的力で蹂躙できる程度には強化された現防人システム。それにより夏凜と背中を預け合えるのが上機嫌の理由だ。

 

「……そういえば、初代勇者システムって防人システムよりも性能が悪いのよね?」

「その筈よ。確か昨日の内に東郷と銀が触ってたけど、信じられないってくらいの性能差だったらしいわよ」

「ふーん……」

 

 芽吹は夏凜の言葉に軽く返事をすると、手に持っていた銃剣を歌野に差し出した。

 

「なんか色が似てるしあげる」

「ワッツ?」

「ちょっ、芽吹!?」

「予備なんていくらでもあるのよ。今回の防人システムは四人分しかないけど、武器だけは有り余ってるし」

「だからってアンタ。それ、弾薬とか……」

「東郷さんはリロードしてた?」

「……マジ?」

「無限バンダナじゃないけど、残弾無限よ」

 

 勇者の武器なんて、なんか分からんが不思議パワーで結構リリカルマジカルな事になっているので残弾無限なんて当たり前だ。

 初代勇者の一人である杏のクロスボウだって残弾無限なのだし、芽吹の銃剣が残弾無限でも何もおかしくはない。ライフルの形をしているのに連射できるし。

 

「え、えっと……どうも?」

 

 とりあえず歌野は差し出された銃剣を受け取った。

 そして手に持って分かったが、この銃剣は中々な力を秘めている。それこそ、歌野のメイン武器である鞭と同格か、それ以上か。歌野の鞭は当てる事で相手が朽ちていく武器ではあるが、相手が強いとその効果もロクに通じなくなる。

 だから、こういう武器があれば確かに戦いは楽になるが。

 

「それじゃあ、三好さん。帰りましょうか。仕切り直しよ」

「……そうね。あたし達の目的は四国だから。でも、ちょっとだけ残業してくわ」

「残業?」

「結界の外。ちょっくら掃討してくる」

 

 まるでちょっと散歩してくると言わんばかりの声色で夏凜が刀を担いで結界の外へと出て行こうとする。

 だが、それは無謀。結界の外はバーテックスがうじゃうじゃと存在している。そんな中に一人で突っ込んでいったらどうなるかなんて、分かり切っている事だ。

 

「だ、駄目よ! 絶対にノー!! そんな事したら死んじゃうわよ!?」

「死にゃしないわよ。成せば大抵なんとかなるなる」

 

 なんて言いながら、夏凜は外へと出て行こうとする。それを歌野は力づくでも止めようとするが、それを芽吹が止めた。

 

「任せておきなさい。多分何とかなるわ」

「多分って……」

「残エネルギーは八割。時間にして五分ってとこね。なによ、十分すぎるじゃない」

 

 歌野が止める前に夏凜が何かを呟きながら結界の外へと出ていき、そして。

 

「満開」

 

 囁いた瞬間、夏凜から赤色の光が溢れだした。

 結界の内側からすら分かる程の圧倒的光。それが夏凜を中心に溢れ、それが収まった時に夏凜の勇者装束は変化し、武器も変わっていた。

 夏凜の満開特有の四本腕と、神世紀勇者特有の満開装束に。

 防人システムと勇者システムの圧倒的な違い。それは、満開の有無。確かに勇者システムにはダウングレードが入った。しかし、機能はほぼそのまま。つまり、満開だって使用可能だ。

 だが、エネルギー源が神樹様の力ではなく、土地神様達から無理がない程度に受け取ったエネルギー。そして、ダウングレードしている上にリチャージ可能という点から総エネルギー量は少ない。

 故に、満開持続時間は、二番目に満開回数が多い夏凜ですら八割で五分。園子なら八割でも十分以上は持続できるだろうが、恐らく樹や風、銀と言った満開回数が少ない勇者では、初手で満開しても三分程度が限界だろう。それぐらいに満開はエネルギー消費が重く、本当に切り札同然の扱いとなった。

 

「ゲージ回復は三日でゼロからマックスだったわね。まぁ、それでも十分!」

 

 そして夏凜は空を飛び、次々と襲ってくるバーテックスを斬り捨てる。

 星屑程度、満開勇者ならば塵芥も同然。未完成バーテックスだってデカい的に過ぎない。完成バーテックスだって一秒あれば事足りる。

 それほどの圧倒的性能を持った満開勇者が結界の外を飛び回り、一瞬で星屑とバーテックスを殲滅する。

 その光景は歌野が変な笑いをしてしまう程。ついでに神託を受け取った水都が神託間違ったんじゃないかな、と思ってしまう程。

 しかし、現実に起こっていることである。

 夏凜がたった五分という短い間に、諏訪周辺のバーテックスを九割以上消し飛ばし、無傷で結界内に戻ってきたというのは。

 

「行き掛けの駄賃程度には仕事してきたわ。さ、帰るわよ、芽吹」

「そうね。あんまり長居するのも悪いだろうし」

「ちょ、ちょっと!?」

「生きてたら、またいつか会いましょう。その時は改めて自己紹介とかさせてもらうから」

「本当にいつになるか分からないけどね」

 

 歌野の静止も空しく、二人はどこかへと飛び立っていった。

 それを追う歌野であったが、追いついたと思った時には既に二人の痕跡はなく、ただ歌野の手に銃剣が残っているだけだった。

 結局歌野は暫く二人を捜索した物の、見つける事は叶わず。夏凜が綺麗にした結界の周辺を見回って、呟くしかなかった。

 

「なんなの、あの人……」

 

 残当の言葉であった。

 

 

****

 

 

『そういう事で、なんか知らない勇者二人組が諏訪の周辺を掃討してくれたの。凄かったわ』

「そんな事があったのか。ちなみに、二人の特徴とかは分かるか?」

『二人ともちょっと年上で、一人は赤い感じ。もう一人は若草、かしら。双剣と銃剣を使ってたわ』

「双剣と銃剣、か……外見の特徴とかは?」

『灰色っぽい髪色のツインテールと、黒髪としか……』

 

 そんな通信が四国と諏訪の間で行われた。ちなみに、歌野が二人の勇者と遭遇した大体二日後辺りの事である。

 勿論今回も千景が拉致られたのだが、歌野の言葉を聞いて大体誰か想像できた。

 灰色っぽいツインテで双剣を持った勇者。間違いなく夏凜だ。彼女が未来から来たのだ。そしてもう一人の黒髪は、正直誰か分からない。

 だが、夏凜と仲良さそうに話していた黒髪と言えば、美森か芽吹の二択。だが、美森が来ることがあれば友奈と一緒だろうという想像から、恐らく夏凜と共に居たのは芽吹。

 

『あ、そうそう! なんか勇者システムと、あとは防人システムとか言ってたわね』

 

 防人システム。その言葉に聞き覚えはないが、防人という言葉は聞いたことがある。

 園子やハゲ丸が、芽吹、雀、夕海子、しずくを一纏めで防人と言っていた事がある。その情報を統合すると、もう一人の黒髪は芽吹で確定となる。

 

「……そう、夏凜さんと芽吹さんが」

「ん? なんか言ったか、千景」

「いえ。別に」

 

 もしかしたら二人とも、四国に来ようとして間違って諏訪に行ってしまったのかもしれない。あの二人とも、ちょっと抜けている所があるから、それが結構容易に想像できてしまう。

 既に千景がこの時代に戻ってきてから一年と半年ちょっと。一年と半であの二人が来たのなら、もしかしたら一年以内。長くても二年以内には、また勇者部の皆と。

 

「白鳥さん。こっちの方でも二人の勇者の事は探ってみる」

『ありがとう。見つけたら、わたしがお礼を言いたいって言ってたって伝えて』

「分かった。絶対に伝えよう」

 

 まぁ、そこら辺のアレコレはあの二人とまた出会えた時に、千景から伝える事にしよう。

 それに、ようやく神世紀の勇者部メンバーたちがこっちにまた来る事ができるという証明にもなった事だ。今は、それを喜び、姉代わりと兄代わりとの再会を待つ事としよう。

 とりあえず千景は、うどんVSそばで、またもや四国勇者を引き連れ戦争を売りに行こうとした自分達のリーダーをバックドロップで止めるのであった。




今回は諏訪で一人戦っている歌野と、一回テストで来てみたら見事に送り先をミスった珍獣達によって諏訪にぶっ飛ばされた夏凜&芽吹ペアの話でした。ちなみに芽吹はテストするからって事で夏凜によって引き籠っている所を引きずり出されて防人システム無理矢理持たされて諏訪に飛ばされました。

という事でのわゆ編は神世紀勇者&防人も中盤辺りから混ざってオールスターバトルになります。おっ、ゆゆゆいかな?

っていうかうたのんの口調が難しすぎィ!!
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