ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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しうゆ関連の話は一旦これで終わりの予定。次に二人が出てくるのはしうゆ本編&のわゆ本編開始になる……のかな?

という事でどうぞ。


未来には希望がある

 どうやら諏訪では既にバーテックスとの戦闘が繰り広げられているらしい、とは若葉から聞いた言葉だ。

 歌野が何の気もなく言うから、そっかそっか、そっちも大変だな程度に留めていたのだが、後々考えてみれば四国はまだバーテックスとの戦闘を迎えていない。しかし、諏訪は既に何度もバーテックスと交戦している。

 これに気が付いた若葉は即座に大社に報告、と同時に仲間達にそれを伝えた。

 

「そうか……長野の方じゃもう戦いが始まってんだな……」

「そう思うと、四国って平和だよね……」

 

 と、球子と高嶋は言い、ひなたも頷いているが、唯一杏だけはそうとは思っていなかった。

 現在、人類はそれぞれ神樹様というレイラインを確保、保持した状態で四か所に分かれて生きていると考えられている。もしかしたらそれ以上に人類が生きている地域はあるのかもしれないが、今は四か所とする。

 四国、諏訪、沖縄、北海道。そして今、四国は敵の襲撃に合っておらず、諏訪のみが襲撃を受けている形となる。いや、諏訪のみではなく、諏訪を含めた他二か所も、という可能性もある。

 しかし、今攻撃されているのは諏訪だけだと杏は考える。

 何故かと聞かれれば、理由は一つしかない。

 

「……バーテックスは、諏訪の勇者と人間を確実に殺すために集中攻撃をしている?」

 

 勇者の数が諏訪の方が少ないから、面倒を後回しにしているという可能性はある。 

 だが、それ以上にバーテックスは諏訪の勇者が四国と合流し、勇者側の戦力が一か所に纏まるのを阻止しようとしているのではないか。

 万が一にも敗北する可能性を秘めている勇者を、確実に滅しようとしているのではないか。

 戦力の逐次投入とは馬鹿がやる事だ。だが、もし戦力が延々と補充され続け常に最高状態を維持し、その戦力も自滅する事に何の意義も持たない道具同然だとしたら? 

逐次投入される戦力は外側からの援護の遮断と内側からの脱出を防ぐ壁となる。もし援護が来たとしても、全力を持って援護を押し返せば、援護戦力と残存戦力の合流による諏訪からの脱出を防ぐ事ができる。

 

「バーテックスは、諏訪に対して籠城戦を仕掛けている?」

 

 人間は補充が利くようなものではない。ましてや勇者に関しては、頭数が決まっているも同然だ。

 ならば、その勇者を確実に倒せるように籠城戦を仕掛ければ? 勇者を疲弊させ続け、援護が来る前に勇者の討伐に成功したならば?

 勇者というバーテックスに対する反抗戦力は減り、バーテックスは徐々に有利になっていく。

 

「だが、歌野なら大丈夫だろう。戦いも最近は楽になったと言っていたしな」

 

 と、若葉は言うが、違う。これは安心すべき状況ではない。

 歌野という個人戦力に守られている諏訪が疲弊しきるまでの時間が刻一刻と迫っているという事だ。そして歌野が倒れるという事は、人類を守る事ができる貴重な戦力が一人失われてしまうという事。

 人類の滅亡を秒読みとしてしまう事だ。決して笑いながら言えるような状況ではない。

 

「……伊予島さん、何を考えているの?」

 

 杏がそう考えていると、千景が杏の表情をうかがって質問を飛ばしてきた。

 それに対して杏は少し尻ごみをしたが、意見を言うだけならばタダという事で、千景に自分が考えていた事をぶつけてみた。

 杏の現在の思考回路は、あくまでも人間の情に溢れた物ではなく、勇者を戦力という数値で見た際の客観的意見だ。諏訪の人が生き残る事よりも、人類全体が生き残るための確率を上げるための意見だ。

 しかし、千景もそれを聞き、すぐに表情が曇ったあたり、同じような思考回路に切り替える事ができたのだろう。

 ゲームで言うならばシミュレーション系。現在、戦えるユニットは四か所に分散。その内一か所が永続的に攻められている。そしてそこが落とされれば戦えるユニットは減る。しかも相手は無限湧き。全ユニットが撃破されることが敗北条件。

 そう考えれば、ユニット、つまり勇者が減る事は。勇者を一人で放置しておくことは悪手であり、その勇者を現状では最も戦力が集まっている四国、もしくは北海道か沖縄に行かせてユニットの疲弊を防がなければ確実に敗北条件が迫ってくるという事になる。

 

「……でも、バーテックスがそんな知性を……いや、違う。いつから私は、バーテックスが知性の無い畜生以下の存在だって思い込んでいたの……?」

 

 しかし、杏の意見はバーテックスに知性があるという仮定があった場合だ。

 その仮定がもし現実的であれば? バーテックスに知性があれば? バーテックスは人と同じように思考できる存在なのだとしたら?

 バーテックスは、確実に人間を滅ぼすため、まずは孤立した諏訪を落とそうと攻撃しているのだとしたら?

 相手が人型ではない。喋らない。この前提条件が知性がバーテックスに知性が無いと思い込ませているのだとしたら?

 諏訪は安全なんかじゃない。今一番危ない、救援に行かなければならない場所だ。

 

「っ……! でも、救援は……」

「無理、ですよね……」

 

 しかし、四国勇者とて、他人を心配している場合ではない。

 いつ、四国にバーテックスが来るとも限らないこの状況下で戦力を少しでも薄くすればどうなるか。いや、そもそも四国の守りを任された身ゆえに、独断専行を行った場合、四国の人からのバッシングがどうなるか。

 諏訪の人達がここへと来たとして、その諏訪の人達からも何かを言われたら。もし、そのせいで勇者という存在があってはならない物とされてしまえば。

 人間はもう滅びるしかなくなる。四国という土地は現状維持をし続けなければ悪意により内側から崩壊する危うい状況下にあるのだ。

 

「……でも、もし。もしも、諏訪が危ない状況になったら、その時は私が行くわ」

「千景さんが……? まさか、一人で?」

「この中で誰かを運びながら守り、移動ができるのは私だけよ。二人以上この場を離れればそれこそマズいわ。だから、行くとしたら私一人」

 

 戦力的に見れば、千景は若葉、高嶋、球子を混ぜ合わせたような性能をしている。しかし、特化しているとは言えず、バランスが良い性能に収まった。

 しかし、武器を三つも持っているという他の勇者とは違った性能をこれまた持っている。故に、一人で誰かを守り、運搬しつつ移動を可能とする唯一の勇者でもある。そんな千景を一人外に放り出し、一人の勇者と数人の諏訪の人をここへと連れてくる事が精一杯だろう。

 しかし、それを公表した瞬間に四国の人……いや、悪意を持った人はこういうだろう。

 何故諏訪に行った。諏訪に行かず四国の防衛に専念しろ。四国がどうなってもいいのか。責任を放棄するな、と。悪意を持つ自分勝手な人間はこちらの内情も言わずにそうやって外から苦情を言い続けるのだ。少しでも考えれば諏訪の人を助け、更に諏訪の勇者までもを味方につけ、防衛力を増やしたファインプレーとも言えるのに、だ。

 そんな悪意を受けるのは、自分だけでいい。そうも思っているからこそ、千景は行くのなら自分一人だと。そう言っている。

 

「……でも、それは少し先の話よ。もしかしたら、バーテックスに知性なんてなくって、偶々諏訪に集中しているだけかもしれないわ」

「そ、そうですよね。こんな物量差で相手に人間並みとは言いませんが、簡単な作戦を考えられる程度の知性があったら人間には……」

 

 勝ち目はない。

 基礎スペックで負けて、知性が相手にもある。そんな物に勝てる道理なんて。

 そんな風に思考がマイナスの方面へと突っ切っている杏に対し、千景はデコピンを杏に叩き込んだ。

 まさかのデコピンに杏は額を抑えながら驚き、千景の方を見る。対して千景はと言うと、かなり呆れた感じの表情を浮かべていた。

 

「そんな事はないわよ、伊予島さん。きっと、私達は勝利する……いえ、きっとではなく絶対よ」

「絶対って……何でそんな事を……」

「最強の助っ人が来ることが確定しているからよ。一度世界をバーテックスから取り戻した、最強の助っ人がね」

 

 そう、三百年後の世界にてバーテックスを倒した勇者達。勇者部の面々が。

 園子とハゲ丸は勇者であった。そして、先日夏凜と芽吹が諏訪へとやってきた。芽吹は唯一防人と呼ばれた存在ではあったが、勇者部に所属している三人が勇者だった。

 ならば、間違いない。未来には合計八人の勇者が居る。その勇者達が今、時を越えて西暦へと来ようとしてくれている。バーテックスが居る時代なのにも関わらず、だ。

 勇者部が来たら勝てない敵なんていない。少なくとも勇者が十三人。更に諏訪の歌野をこっちへと引き込めれば十四人。沖縄、北海道にも一人いると仮定して、その二人も引き込めれば十六人。そこに防人組と言われた四人、芽吹、雀、夕海子、しずくが混ざれば二十人。

 今の四国の四倍近い勇者がここに集うのならば、勝てない敵なんて探す方が難しい。

 

「バーテックスから取り戻したって……まさかそんな、過去にこんな大規模な侵攻があったわけでも……」

「過去じゃなくて、もっと先。未来の話よ」

「み、未来……へ? どういうことですか……?」

「それは助っ人が来てからのお楽しみよ」

 

 そんな確信を持ち、杏にちょっとだけお姉さんぶってみれば、杏は意味が分からず首を傾げた。みんなの可愛い後輩なだけに弄り甲斐もそこそこある。

 楽観視している野武士と恐らく一生ロリ体系の陽キャとコミュ力モンスター、ついでにこっちの話を聞いていたのか手を振っているレズに手を振り返し、お気楽共に溜め息を一つ吐いてから千景は窓の外を見た。

 もうすぐ季節は冬。西暦に戻ってきてから二度目の冬がやってくる。しかしそれは数か月で終わり、千景は中学二年生となり、すぐにまた夏がやってくるだろう。

 勇者部の面々に会えるのはいつになるのか。それは分からないが、しかしその日まで頑張らなければならない。あの優しくも頼もしい人たちと再会するために。

 

 

****

 

 

 一方諏訪。

 夏凜と芽吹はあの日以来姿を見せなくなった。銃剣という置き土産を残して。

 それから一か月の間はバーテックスの進行は無く、そこから更に一か月は小型のバーテックスのみが進行してくるだけとなった。夏凜が行き掛け駄賃にと行った諏訪周辺のバーテックスの殲滅は諏訪へのバーテックスの進行をかなり遅らせる事に成功していた。

 そのせいか、諏訪の人は夏凜と芽吹の事を全力で捜索し、お礼を振舞おうとしたのだが、二人は見つからず。結局夏凜と芽吹へのお礼はできずじまいだった。

 しかし、あの一件で歌野は悟った事があった。

 

「……みーちゃん」

「なぁに、うたのん」

「メイビーなんだけど。わたし、近い内に死ぬわ」

 

 それは、あの棒状の物を生やしたバーテックスの事だった。

 あのバーテックスは夏凜と芽吹のコンビネーションによって無事倒す事ができた。しかし、アレを歌野一人だけで倒せるか、と言えば、誰かが居る前では勿論だと答えるだろう。

 しかし、水都の前では素直に言う。

 無理だと。

 アレは歌野一人では倒せない。とうとうバーテックスは勇者のスペックを越えるバーテックスを送り込み始めた。とうとう諏訪はそんな脅威にさらされてしまったのだ。

 故に、悟り、水都に白状した。これから一年か二年か。少なくとも、自分達が大人になる前に、歌野は死ぬ。そして、諏訪は終わると。

 水都はそれを否定しなかった。できなかった。それは水都も薄々感づいていた事だから。

 

「だから、みーちゃん。わたしが本当に駄目だと思った時。その時は、四国に逃げてほしいの」

 

 殿に歌野を置いて。

 ここから四国まではとても遠い。しかし、歌野は最後にその時間を稼ぎ、諏訪のみんなを四国へと送り出すだけの決意をした。

 四国の勇者達なら、水都達を守ってくれる。そう信じたから。

 しかし、水都はその言葉に首を横に振った。

 

「うたのん。死ぬときはわたしも一緒だよ」

「駄目よ。みーちゃんには生きていてほしい。だから、みんなと……」

「嫌だ。わたしはうたのんとずっと一緒に居たいの。死んだってかまわないから、うたのんと」

 

 最初で最後の水都の我儘とも言えるソレに、歌野は何も言い返せなかった。

 土地神様は言う。四国との連携が整えば、四国の神樹様と協力し、四国と諏訪間でバーテックスを挟撃と同時にそのラインを中心にこの国を取り戻す、と。

 だが、それを行うにはどちらも戦力が決定的に足りていない。

 諏訪からは、挟撃するだけの戦力が。四国からは、それを維持するだけの戦力が。

 勇者の数が圧倒的に足りていないのだ。そして、そのラインを維持するための土地神様の数も。何もかもが足りていない。

 だからこそ、歌野は告げた。四国へ逃げろと。

 

「みーちゃんは死ぬのが怖くないの!? わたしはみーちゃんが守れればそれでいい……それができれば怖くない! でも!」

「怖いよ。怖いけど、うたのんが居ない日の方がもっと怖いんだ。わたし、うたのんの事が大好きだから」

 

 笑顔で告白紛いの事をする水都に歌野は思わず赤面する。

 きっと、彼女は本心からそう言っている。しかし、言っていることが完全に告白のソレだ。歌野が赤面するのもおかしくはないだろう。

 

「逃げるんなら、うたのんも一緒だよ」

「……みーちゃん」

 

 もしも、諏訪を捨て、逃げる時があるのなら。

 土地神様もそう言っている。逃げるのならば逃げてもいい。ここは水都達が大人になるまで耐える事なんて不可能だと。

 歌野にだって限界は来る。土地神様にだって限界は来る。その限界は明日かもしれないし、今日かもしれない。だけど、もし歌野に限界がきて、膝をついてしまうのならば、水都はそれについて行く。歌野が逃げるのならば、それについて行く。

 水都にとって、歌野とはそれぐらいかけがえのなくて、とても大切な人だから。

 

「……それがいつになるか分からないし、その時わたしがどんな判断をするのかは分からないけど」

 

 そして、歌野にとっても。

 水都は常に歌野を支えてくれた。挫けそうな時も、痛い時も、悲しい時も。常に水都は隣に居てくれた。

 だから。

 

「例え死んだって倒れないわ。死んだって戦い続けるわ。死んだって生き続けるわ。みーちゃんの事を守り続けるためにね」

「なら、わたしだってうたのんを信じ続けるよ。うたのんがわたしを守ってくれるのを」

 

 だから、きっと大丈夫。

 二人はそっと手を繋ぎ、頷いた。

 大丈夫。二人で一緒に、大人になれるから。そんな希望が、きっと未来にはあるのだから。

 

「…………さぁて! トゥデイも元気に農業よ!! 将来の農業王として頑張らないと!! 冬野菜をたっくさん植えてたっくさん収穫するわよ!!」

「まったくもう。うたのんは相変わらずうたのんだなぁ」

 

 元気に張り切る歌野に、水都はついて行く。

 絶望に染まっていた未来は、既に切り開かれている。例え諏訪を守れなくても、諏訪の意志を継ぐ者を守る準備は、とうにできている。

 諏訪の終わりが訪れ、未来の意志を継いだ現代の勇者が救援に来るまで、残り一年半。




という事で最後に言った通り、諏訪へと歌野&水都の救出に行くのはあの子になります。結構前に諏訪への救援をうんたらかんたら~って言ってましたしね。

その時が来るまでうたのん&みーちゃんは暫しの放置。あと、何気にみーちゃんからの信頼と言うか愛が重い気がしますが、この子って本編中でも結構うたのんに対するアレコレが重いですし多少はね?

雪花と棗の二人の合流はもうちょっと先になる予定。一応、二人もしっかりと生存ルートに行ってもらいます。何気に二人とも死亡時期が定かではないので、ある程度は死亡時期を遅らせて好きなタイミングで四国側に加入させる事が可能なんですよね。

という事でまた次回。あと五話~十話の間にのわゆ本編開始したいかなーとは思ってます。
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