ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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今回は若葉回。これ書いてる最中、一応諏訪との通信回は若葉回だったような……と思いましたが、原作主人公なので多少出番が多い方が丁度いいだろうという事で。

色々と二人が腹割って話します。

そういえば、執筆しながらウルトラマンの主題歌を流してたんですけど、Unite(ウルトラマンXの映画主題歌)を聞いてて、やっぱいい曲だなぁって思いました。この歌こそ、人に必要な物ですよね……


海の向こうへ思いを馳せて

 アウトドアというのは結構色々な物を指す。

 例えば、球子とよく行くキャンプ。球子がそろそろ誰かと行きたいと文句を言い始めたロードバイク。そうした物の他にもアウトドアというのは存在する。

 その中の一つに釣りもある。千景はボーっとしながらでもできるソレに目を付け、必要な道具を安く買い揃え、大社職員の中で釣りができる者から糸の結び方などを教えてもらい、一人竿とクーラーボックス、貸してもらったタックルボックスを手に近くの海へと向かい、糸を垂らしていた。

 餌釣りなのでウキに対して当たりが来るまではボーっとしていても問題は無し。竿の先に鈴をつけ、それで当たりを取り、ドラグを緩める事で竿を放置していても竿が海へと引きずり込まれるのを防ぐ。

 餌を何度か付け替えつつ、そうやって防波堤の上で餌釣りをしていれば、ちょっとずつ魚は釣れる。既にクーラーボックスの中は数匹の根魚が入っている。

 

「どこにいるかと思ったら。こんな所で釣りか、千景? しかも一人とは」

 

 そうやって携帯を見つつ当たりが来るのを待っていると、後ろから聞き慣れた声をかけられた。

 振り向けば、そこには我等勇者がリーダーの若葉が。

 彼女は千景に何の許可もなく隣に座り込み、共に海を眺め始めた。何の用かと思えば、ただ暇だったから探しに来ただけらしい。

 

「一人寂しくて悪かったわね」

「悪かないさ。ただ、何をしているのかと気になってな」

「電話くらいしなさいよ。電子機器もマトモに使えないのかしら、この野武士は」

「なんだとアウトドア陰キャ」

 

 若葉が小突いて来るので思いっきり小突き返せば、はははこやつめ、と言いながら若葉が拳を握った。

 ファイッ!! でもいいのだが、流石に海を見ながらそんな馬鹿な事をする気はない。胡坐をかいて膝に肘を置いて手で顎を支えれば、若葉も同じような格好で海を眺め始めた。

 

「はしたないわよ」

「お前が言うな」

 

 その通りである。

 だが、この場にははしたないのが二人しか居ない。風でチリンチリン、とまるで風鈴のように鈴が鳴るが、そんな物は雑音にもなりやしないし、それを気にする第三者もココには居ない。正真正銘、ここから海を眺めているのは若葉と千景の二人だけだ。

 釣りとはこういう暇も楽しむものだとは言う。ルアーを使っているのならばルアーを変えたりして如何に魚が釣れるかを楽しむのだが、既に自分が食べる分の魚は釣れてしまっている。これ以上釣っても食いきれないか、誰かにあげるかしかできない。

 

「……こうやって海を眺めていると思い出す。あの日、死ぬ気で四国まで逃げてきた記憶をな」

「急に何よ。回想シーンはバッサリカットよ」

「暇なんだ。回想に付き合え陰キャ」

「これだから陽キャは……」

 

 と言っても、若葉が話すのは十分もない。

 精々、バーテックスが襲来したあの日、自分達は修学旅行中で、友達は殺されて、それでも生きねばと四国まで戻ってきて。

 だから、バーテックスを憎いと思っている。その程度の回想だ。千景もその程度なら文句の一つも言わずに聞き続ける。バーテックスと直接対峙したことはあるが、戦ったことは無い。だから、若葉がどれだけ死にそうな思いをしたのかは分からない。

 分からないが、まぁ胸には留めておこう。若葉が戦う意味として。

 

「千景は、戦う理由はあるのか?」

「戦う理由? そうね……」

 

 言われて、考えた。

 そして、すぐに理由は見つかった。

 

「立派に生きたてきたって。そうやって胸を張って言うためよ」

「姉代わりと兄代わりの二人にか?」

「えぇ。あの二人に、今日までの私を誇れるように、ね」

 

 だから、勇者として戦う。愛を求め、愛を知ったからこそ、愛のために戦う。

 二人の愛を、胸を張って再び受け止められるように、千景はバーテックスという人類の敵と戦い続ける。

 そして。

 

「あとは、大切な友達もできたから。その友達が戦おうとしてるんですもの、手伝いくらいはしたいって思うのは間違いかしら?」

 

 高嶋が戦うから。球子が戦うから。杏が戦うから。ひなたがそれを応援してくれるから。

 若葉が前に立つから。

 そんな友達のためにちょっと人類の敵と戦って未来へと希望を繋げる。それが、新しくできた千景の戦う理由でもある。

 家族愛と、友愛のために。

 

「……なるほど。優しい千景らしい理由だ」

「優しかないわよ。自分本位なだけで」

 

 若葉は笑いながら言うが、千景は特に興味も無さげな顔であしらうだけ。

 だが、満更でもない。なんやかんやでこの二人は結構仲がいい。だからこそ多少荒い口調で追いやっても大丈夫だと思っているからこそ、結構本音をぶつけ合う。

 

「別に私はこの国のために、とか、この国の誰かのために、とか。そういう大層な事は言わないわよ。ただ、友達が頑張ってるのに胡坐をかくのが嫌なだけ」

「私だって復讐心からの闘争心だ。少年漫画じゃ真っ先に止められて刀を折られる奴だぞ?」

「そんな事言ったら、私なんて下手すりゃ愛が重いやべーやつよ」

 

 言い合って、互いにそれもそうかと笑いあう。

 そんな感じで一通り笑った所で、チリンチリンと。今までよりも大きく鈴が鳴った。直後に千景は竿を握り、鈴を外してからドラグをしっかりと締めてから軽く合わせ、しっかりと魚がかかっているのを確認してからリールを巻き始めた。

 

「釣れたのか?」

「えぇ。やってみる?」

「いいのか?」

「やりたそうだったもの」

 

 リールを巻いてみた感じは、根魚。根に潜られでもしない限りは糸が切れる事もない。

 故に、若葉に糸を垂らさないように竿を渡し、なるべく糸を張り続けるようにと指示を飛ばしてから、若葉に好きにリールを巻かせてみる。

 根魚と言えどしっかりと引いてくる。若葉釣り独特のその感覚に困惑しながらも、リールを拙い手つきで巻いて行く。対して千景は、クーラーボックスを開けて若葉が釣り上げるのを待つ。

 そして浮いてきた魚は、赤色の根魚。

 

「カサゴね」

「カサゴって……あれか? 毒があるやつ」

「それはミノカサゴよ。アラカブとか、ガシラとか。結構色んな呼び方があるわ。ほら、見てないで引っこ抜いて」

「だ、大丈夫なのか? 糸が切れたりしないのか?」

「案外丈夫なのよ、釣り糸って。ほら、早く」

 

 なんか無駄にビビる若葉を急かしてカサゴをとっとと釣り上げさせる。

 上がってきた糸を千景が手で掴み、カサゴの下顎を掴んで針を抜き、まだ元気に動くカサゴを若葉に突きつける。

 

「ほら、あなたが釣った魚よ」

「お、おう……よくそんな躊躇いなく触れるな」

「慣れよ」

 

 実際、千景は料理を作る際に魚を素手で何度も触っているし、内臓の処理もよくするので、今さら生きている魚一匹程度にきゃーきゃー言うほどではない。

 しかし若葉は釣りなんてしたこと無いので、生きている魚なんてそうそう触った事が無いだろう。どうやればいいのかを懇切丁寧に千景から聞き、若葉も千景と同じようにカサゴを手に持った。

 

「おぉ……! なんやかんやで初めて魚なんて釣ったぞ」

「良かったわね。案外楽しいでしょ? 魚釣り」

「あぁ。ちょっとナメていた」

 

 餌釣りは待っている間は確かに暇だが、しっかりと魚が釣れれば楽しい物である。笑顔で魚の口の中に指を突っ込んで持ち上げている若葉を見れば、それはよく分かる事だ。

 とりあえず若葉からカサゴを回収してクーラーボックスの中に入れ、もう一度餌を付け直し、ベールを動かしてロックを外し、糸をフリーの状態にしてから指を糸にかける。そのまま竿を振りかぶって思いっきり振りつつ、糸から指を離せば餌付きの糸はすっ飛んでいく。

 着水し、しっかりとウキが立ち上がったのを見てからベールをもう一度動かしてロックをし、竿立てに竿を立てかけ、ついでに鈴をつけた。

 

「……色々と手慣れているんだな。というかその餌は何だ? ミミズか?」

「ゴカイよ。似てるけど。手慣れているのは、それだけ練習したからよ」

 

 と、言いながら、千景はもう一本の竿を取り出した。

 

「まだ投げるのか?」

「そっちは乃木さんに任せようと思って。私はこっちでずっとルアー投げてるから」

「ん。まぁ適当に見ておこう」

 

 千景が次に取り出したのは、スピニングリールではなくベイトリールの竿。ちょっとばかりスピニングリールよりもやらなきゃならない事が増えるリールだ。千景も部屋で練習したっきりで、海に向かって使ったことは無かったが、まぁ何とかなるだろう。

 しっかりとルアーが付いているのを確認し、クラッチレバーを押し込んでリールに指をかけて糸が出て行かないようにする。後はそれを先ほどと同じように振り、ルアーを投げ飛ばして着水する前に指でリールを止める。バックラッシュという現象を防ぐためにやったそれがドンピシャで成功したことに安堵しつつ、もう一度指をリールから離し、ある程度沈んだところでクラッチレバーを戻すためにハンドルを軽く動かしてクラッチレバーでロックをかける。

 

「それ、振るだけで糸が出るのか?」

「ちゃんとロックがあるわよ。振るだけで糸が出たらこうやってルアーで誘いとかできないでしょ?」

 

 と、言いながら竿を振ってルアーをしっかりと魚に食わせるためのアクションをする。

 一定間隔に竿を振り、ちょっと待ってから糸の弛みを取るためにハンドルを回し、もう一度竿を振る。それを繰り返してルアーを回収したら、もう一度ルアーを投げ、再び同じような事の繰り返しだ。

 その後は暫く若葉と色々と話しつつもルアーを投げ続けていたが、当たりの一つもない。魚を使った夕飯を作るにはそろそろ帰らないと遅くなってしまうと考え、千景は即座に撤収準備を始めた。

 

「なんだ、もう終わりか?」

「夜ご飯作らなきゃいけないのよ。折角釣ってクーラーボックスに入れたんだし」

「流石千景だな。どれ、私も部屋に戻って飯の時間まで待つとするか」

「それなら一緒に食べない? 一人で食べるにはちょっと多い程度には釣っちゃったし、折角こんな時間まで一緒なんだもの」

「いいのか? ならご相伴に預かろうか」

 

 今日日聞かないわね、その言葉。と千景は若葉の言葉に一言物申し、二人で一緒に撤収。タックルと竿一本を若葉が持ち、千景は竿一本とクーラーボックス。

 

「しかし、千景は外見から想像できない程度にはアウトドアな事をするな」

「やってみたい事に片っ端から手を付けてるだけよ。折角やれる多いんですもの。やりたい事やった物勝ちなのよ、青春は」

「懐かしい歌だな。なんのやつだったか」

「忍たまよ」

「そうだ、それそれ」

 

 誰だって一度は聞いたことがあるだろうアニソン。それの歌詞を出せば若葉は思い出せそうで思い出せないような仕草をして千景に助けを求める。

 軽く答えて見せれば、軽くあっちも思い出した、と言わんばかりに声を上げる。

 もう人類の九割近くが死滅したと思われてから数年も経っている。NHKなんて既に写そうと思っても写る物じゃない。四国のテレビ局がドラマやバラエティの再放送をしつつ、一つの局が数人のタレントで新しい番組を作る程度。

 なんともまぁ、テレビ番組も寂しくなってしまったものだ。最近は新しい深夜アニメも放送してくれやしない。

 

「まぁ、なんだ。その内、私達も戦いが始まるからな。そうなってしまったら、やりたい物を好きにやる事もできなくなる。その前に楽しみつくすのがいいのかもしれないな」

 

 その内、というのがいつかは分からない。

 だが、少なくとも千景達が大人になるまでに、バーテックスは進行を始めるだろう。そうなったら、やりたい事を好きにやる人生は無くなってしまう。戦って、戦って、戦い抜いて平和を勝ち取るために戦うだけの人生に。

 そう若葉は思っているが、千景はその言葉に対して溜め息を吐いた。

 

「だからあなたは野武士とか言われるのよ」

「なに?」

 

 確かに、若葉の言う通りだ。

 だが、硬い。同時に目の前しか見えていない。

 

「戦いの最中でも、息抜きは大切よ。その息抜きで特訓じゃなくて遊びをしたらいいじゃない。それに、あなたは一生戦い続けるつもり? バーテックスを全部倒せば世界は元通り。私達は世界を救った勇者様。報酬はとてもじゃないけど想像できないほどになるでしょうね。そうなったら、もうやりたい事なんてやりたい放題よ。遊びに行ったり引き籠ったり。非人道的な事はできないけど、勝ち残ればその先には自由がある」

 

 言われて、若葉は間抜けな顔で千景の方を見ていた。

 どうやらそこまで想像できていなかったのか、それとも自分は死ぬ気だったのか。どちらかは分からないが、若葉は暫く千景の言葉に対して、そうか、そうか、と数度呟いた後、溜め息を吐きつつ背筋を伸ばした。

 

「千景の言う通りだ。どこか思考が凝り固まっていた」

「そうよ野武士」

「今日はそのあだ名を甘んじて受け入れるとしようか」

 

 若葉の脳内は、四国を救う事。この世界を取り戻す事。バーテックスを倒し尽くす事。それでいっぱいいっぱいだった。その先にある事を想像できていなかった。

 だが、自分達が勝利し、バーテックスを倒し尽くした後。それを考えれば、バーテックスとの戦は終わりではなく始まりにも成り得る。こちとら世界を救った勇者五人だ。その功績を讃えて多額の報酬を貰ったとしても何らおかしくない。

 だって人類を未来へと続けた功績があるのだから。

 そんな功績を振り回して大人になっても好き勝手遊びまわる毎日。なるほど、悪くない。いや、面白い。やりたい事をやりつくせる人生。それが待っているのだとしたら、戦いに対する気の持ちようも変わるという物だ。

 

「バーテックスに勝ったら、大社に直談判するか。我世界の救世主ぞ? これ以上働かせる気かぞ? とな」

「いいわね。その時は私も混ざるわ。後ろで鎌持っとけばいいかしら?」

「いいじゃないかいいじゃないか。私お付きの死神だ。胸を張れい」

「ははは。張る胸が無い私に言うかしら?」

「お前、その他人の言葉を無理矢理自爆に持って行く思考やめない?」

 

 なんて、中学生らしく馬鹿な事を話しあいながら、二人はそのまま寮へと戻っていった。

 この日食べた、自分達で釣った魚の出汁から作った味噌汁と焼き魚は大変美味しかった。

 

「こんな美味い物を食い続けるためにも頑張らねばな。うどんだってまだ食い足りやしないんだ。あんな豆腐の怪物みたいなのに殺されてたまるか」

「私もね。まだやりたい事沢山あるもの。人生はまだまだ長いんだから、あんなのに殺されないように抗いましょうか」

 

 笑いながら、二人は楽しい未来を想像し、笑った。

 戦いが始まるまで、あと少し。




自分は基本的にベイトリールはあまり使った事がありませんでしたが、去年末のタイ旅行でベイトリールを触った感想は、キャストがちょっとめんどくさいでした。

そして今回で若葉ちゃんの野武士脳がちょっとほぐれた様子。人生、息抜きが大事ですよ、息抜きが。

と、いう事で次話は既に書き終わっているので、明日投稿予定。内容は、前話で宣言したように高奈回です。で、本来は全員回を入れようと思いましたが、キャンプしてるしもういいや。ってなりまして、次々回からのわゆ本編、という名のしうゆ編です。そこら辺までは書いているので、今日から四日ほど連投します。
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