切り札の精神汚染って、結構色んな事をキャラにやらせるような不安要素になるよね!!(キラキラ)
P.S
いつの間にか感想が千件超えてました! 感想をくれた方々、本当にありがとうございます!!
中学三年生の夏も、もうすぐに近づいて来た。
既に西暦に戻ってきてから何度目かの新年度。いつの間にか最後に見た義姉と義兄と同い年になった千景は、今日も変わらず授業を受けながらノートを取っていた。
神世紀でつけた知識はもう過去のものとなり、今は新しい知識を身に着けつつ、過去の知識を反復する作業。勇者という立場にいる以上、どこかの高校の校舎に足を踏み入れることは無い。高校生となったとしても、四人の勇者と一人の巫女と一緒に勉強をし続けるため、きっとバーテックスを倒すその日までこのメンツは変わる事が無いだろう。
それに、大社側も千景の事はエスカレーター式の学校で進級したという事にして、千景に受験勉強を強いる事はしなかった。そんな事をするよりも、人類の未来を取り戻すために戦ってほしいのだろう。
戦ってほしいからこそ、千景の負担を減らすためにそういう手段を取った。その裏には千景の成績が並み以上はあるから、という背景もあったのだが。
だが、勉強は大事だ。未来を取り戻した後、最低限の知識はある状態で居なければいつか痛い目を合う。だからこそ、今の内に沢山勉強して沢山遊ぶ。かつての環境ではできなかったソレを思う存分やる。
「ぐんちゃーん! お願い勉強教えてー!!」
「もう、高嶋さん。授業聞いてなかったの?」
「聞いてたけど分かんないんだよぉ!!」
そんな環境に飛び入り参加してくる面子はあまり珍しくない。
それを鬱陶しいなんて一度も思ったことは無い。頼ってきてくれてうれしい、なんて感情が勝り、ノートと教科書、それから筆記用具を手に半泣きでやってきた高嶋を迎え入れる。
なんやかんやで同年代の友達みたいな関係にはなっているが、その実は高嶋の方が一つ年下だ。先輩、だなんて言われるのは似合わないし、相手側もする気が無いので特にそんな関係にはなっていないが、こういう時にちょっと年上面できるのは利点かな、とは思っている。
「どこがわからないの?」
「この問題……」
言われて、高嶋が指を指した教科書の問題を見る。
見てみれば、それは結構難しめの応用問題で、基礎の部分がしっかりとできた上で、他の部分で習った事も使わなければならない問題だった。どうやら、最後の最後でこれを出題され、分からなかったら分からなかったで明日聞きに来ること、で済まされてしまったため、もやもやしていたらしい。
しかし、千景ならそれもしっかりと解ける。
一つ一つ懇切丁寧に教え、高嶋がノートにシャーペンを叩きつけている間、千景は高嶋の顔を盗み見る。
「……似てきたわね」
高嶋が、友奈に。
あの半年未満の間に千景が出会った友奈と、今の高嶋はかなり似てきた。いや、髪型と服を一緒にしてしまえば、若葉や球子なんか見分けが付かないんじゃないか、と思うほどには友奈と高嶋は似ている。
日に日に似てきている高嶋に何となく友奈を重ねてみれば、懐かしい気持ちになれる。
「似てきたって……ぐんちゃんが昔に会ったって言う、わたしにそっくりの人?」
「えぇ。丁度今の私と同い年なの。だから、高嶋さんとその人は一歳差なんだけど、相当そっくりよ」
なんて言いながら、あの頃は絶対にできなかった、友奈にそっくりの高嶋の頭を撫でる、なんてこともしてみる。
高嶋は顔を赤くして恥ずかしいよ、なんて言ってくるが、こうしているだけで千景は自分が成長したんだと強く実感する。義姉と義兄と同い年。三歳の差があったのにも関わらず、その差は気が付けば埋まってしまっていた。
あっちだと、もう義姉も義兄も高校三年生。来年には大学生なんて、今の千景にはちょっと想像できないような歳になっている。
それでも、二人はいつか来てくれる。
「ほら、手が止まってるわよ?」
「あっ、いけない。早く解かないと……」
話しかけてしまったのはこっちなのだが、手が止まっていることを教えれば高嶋はあたかも自分がやらかしてしまったと言わんばかりに焦ってシャーペンでもう一度ノートを叩き始めた。
去年の丁度今頃。高嶋は人生で初めての中間テストを受けたのだが、大丈夫大丈夫と笑いながら受けたテストは見事に惨敗。赤点はギリギリ無かったのだが、それでも最低限何とかできている、としか言えない程度の点数。
流石の高嶋もこれにはショックを受け、次からのテストはしっかりと受けるようになり、勉強もしっかりとするようになった。
余談だが、球子のテストは見事に爆死。赤点が半分以上という、ちょっとどころではないやらかしをしてしまい、その結果が両親に届けられた結果、電話越しで説教されるという面白い光景が繰り広げられた。
当時の光景を何となく思い出して小さく笑い、千景は教科書を次の教科の物に変える。
「できた! ぐんちゃん、これ合ってる!?」
「えぇ、合ってるわ。よくできたわね、高嶋さん」
「やった! これもぐんちゃんのおかげだよ!」
と、言いながら高嶋は千景に抱き着いてくる。
これだからコミュ力モンスターは。千景は突然のハグに顔を真っ赤にしながらも何とか高嶋を引き剥がす。あのまま抱き着かれていると心臓が爆発してしまいそうだったから。
急にされるのは心臓が悪い。かと言って許可を取られるのも困るのだが。
「ほ、ほら、高嶋さん。もうすぐ授業よ? 準備とか大丈夫?」
「あ、そうだった! ありがとね、ぐんちゃん!」
そう言い、笑いながら高嶋は自分の席へと戻っていく。
本当に彼女は友奈に似ている。外見も、内面も。ああやって誰にでも笑顔で接して、誰にでも心を開いて、誰にでも平等に接する。そんな二人の友奈は、本当に似ている。違う時代の同一人物なんじゃないか、と思うほどに。
名前も、外見も、性格も。全部似ている。
そんな高嶋を後ろから眺めながら、次の授業が始まる。退屈な授業の時間は、あと少しだ。
****
高嶋友奈の詳細を知る者はあまりにも少ない。
彼女は、勇者達の色んなことを知っている。聞いている。例えば、若葉が戦う理由や、あの日に何をしていたか。どんな家の生まれで、どんな友達が居たか。例えば、球子と杏の馴れ初め。彼女達が武器を持ち戦う事となった理由。彼女達の間にどんな絆があるのか。
千景の事も。千景が、どんな過去を経験し、どんな事を踏み台として今、この場に勇者として立っているのか。それも知っている。
だが、高嶋の事を詳細に知る者は少ない。千景でさえ、彼女が奈良出身で、あの日、高嶋はたまたま四国に家族と旅行に来ていたから助かった。ついでにその先で勇者になった、くらいにしか。
「うん、お母さん。大丈夫だよ。元気にしてるから。お父さんも、そんな声出さないでよ、情けないなぁ」
だから、高嶋が電話越しに家族と笑顔で会話している所は初めて見た。
少しだけ高嶋に聞きたい事ができたため、彼女を探すために歩き回っていた千景がようやく見つけた高嶋。どこかに電話しているのでちょっと様子を見てから出て行こうと思ったら、彼女は家族と電話をしているようだという事が分かった。
ちょっと困ったような。でも嬉しいような。そんな感じの表情を浮かべる高嶋の会話を邪魔したくない。そう思った千景は電話が終わるまでの暫くの間、物陰で待機をする事に。
そして暫く。高嶋がじゃあね、の一言で電話を切ったのを確認してから、千景は物陰から出ていった。
「家族と電話?」
「あ、うん。聞かれちゃった?」
「ちょっとだけよ」
勿論、会話の内容はなるべく意識の外に追いやって殆ど覚えてはいない。
家族との会話を聞かれた高嶋はちょっと恥ずかしそうに笑った後、スマホをポケットの中に突っ込んだ。
ここから暫く家族の事で色々と質問をしてもいいのだが、それはどうでもいい。
千景が気になる、高嶋の事。その答えは調べても出てこなかったので高嶋に聞く必要があった。
「高嶋さんの武器って、天の逆手よね?」
「うん、そうだよ」
それは、彼女が握る武器の名前。
天の逆手。それはカッコいいし、天から始まる名を持つ武器はあまり数は多くないものの、存在する。天羽々斬剣などがその最たる例だろう。
しかし、天の逆手を調べればそれは違うという事が分かる。
「天の逆手について、ちょっと気になったから調べてみたの。そうしたら、天の逆手はただの柏手だって。いつもとは違う手順で行う柏手だって出てきたのよ」
柏手。つまりは、神社などの前で手を合わせる行為。
それを違う、特定の手順で行う事。それが天の逆手と言われるものだ。
生太刀、大葉刈、旋刃盤、金弓箭。この四つは文献などに出てくるモノだ。旋刃盤はゲームでしか出てこないが、少なくともゲームで使われるような、実例、もしくは文献が存在する武器だ。
しかし、天の逆手は違う。
「それで、ちょっと気になったの。それ、本当に天の逆手なのかって。高嶋さんはそこら辺、何か聞いていたり……」
言って、気が付いた。
高嶋の表情が、変わっていることに。
どんな表情だろうと思って少し考えれば、分かった。驚きとか、そういうの。高嶋は、千景に天の逆手について聞かれた事について驚いている。
「……ご、ごめんね。わたしはよく分かんないや。天の逆手っていうのも、大社の人から聞いた事だし」
だが、すぐに高嶋は困ったように笑いながら分からないと言った。
千景は少しその反応にどこか違和感を感じたが、すぐにこの違和感は気のせいだと気が付く。高嶋だってあの日まで天の逆手なんて知らない一人の少女だったのだ。今まで特にツッコミが入る事もなくこの武器は天の逆手だと思い込んでいたのだから、それを急にただの儀式の名前だと言われても実感が沸かなかったのだろう。
「そう、ごめんなさい。急にこんな事聞いて」
「う、ううん。別に大丈夫だよ」
特にこのまま高嶋にべったりと引っ付いている理由もないので、千景は自分の部屋に戻るとだけ告げ、そのまま戻っていった。
そんな千景に笑顔で手を振り、彼女の姿が完全に見えなくなってから高嶋はその笑顔を消し、手を下ろした。
天の逆手。
その名の起源は、高嶋も知っている。むしろ知っていた。
あの日、天の逆手と呼ばれる手甲を手にしたとき、それが分かった。
同時に、高嶋の両手には呪詛が込められた。
「……みんなを守るための、迫りくるものへの『呪詛』」
あの手甲は、神社に祀られていた物だ。
それを手にしたとき、高嶋はその呪詛を受け取った。迫りくるもの……つまりはバーテックスへの物であろう呪詛。それが高嶋の手には込められている。だから、高嶋は若葉のような刀でもなく、球子のような中距離を制する武器でもなく、杏のような遠距離を制する武器でもない。
相手に零距離のレベルまで近づかなければいけない拳という武器で、自らに迫りくる災厄を打倒す事ができた。
その呪詛の名が『天の逆手』、だと思われる。
「……まぁ、わたしもよく分かってないんだけどね」
とは言っているが、もしかしたら天の逆手は本当に武器の名前なのかもしれない。自分の呪詛の名が天の逆手というのは高嶋が勝手に言っている事だ。
だが、高嶋が呪詛を持っているのは事実だ。
彼女の両手には確かに今も、迫りくるものへの呪詛が込められている。
呪いは、祝福でもある。同時に祝福は、呪いでもある。この呪詛は、恐らく神樹様からの祝福。バーテックスへの、呪詛。
これを隠しているのは、大社からそう言われたからだ。
この情報が漏れたら、確実に高嶋は一人、最前線に放り出される。いや、もしかしたら切り札中の切り札として、最後まで出動を許可されない事だって考えられる。それを民衆は確実に望むからだ。
だから、言えない。この呪詛は、言う事ができない。
それを千景が突っついて来たから、ついついビックリしてどう反応したらいいか分からなくなった。
でも、なんとかなった。
この呪詛の事は、誰にも話さないし話せない。
「バーテックスがすぐに居なくなっちゃえば、隠す事でもなくなるんだけどなぁ……」
なんてボヤキながら、高嶋はもう一度自分の心の中で決意を固める。
この事は誰にも話さない。そして、この呪詛でみんなを守り抜いて見せる。
例え、自分がボロボロになり、いつか擦り切れるのだとしても。若葉を、ひなたを、球子を、杏を。
千景を。
絶対に、守ってみせる。
「……よし、頑張るぞ! 勇者は挫けない! 負けない! 諦めない!」
高嶋は一人自分を鼓舞しながら、自分の部屋へと戻るために歩を進めた。
彼女の手は、誰かを……仲間を守るためにある。
そう、仲間を。
****
西暦2018年、7月30日。
若葉は丸亀城から海を眺めていた。
あの、忌々しいバーテックスの襲来の日から丁度三年が経った。あの日から、暇をしない毎日を送ってきた。
もう三年も経った。この平和が続いて、三年だ。いくら今日までバーテックスの襲来が無かったと言えど、既に諏訪への襲撃は始まっている。ここがバーテックスの襲撃にあうのも時間の問題だ。
だが、絶対に取り戻して見せる。
この海の先を、この世界を。あんな豆腐のバケモノみたいな奴らから、人間の物に再び。
「一人で何黄昏てるんですか、若葉ちゃん」
「中二病よ。気にしない方がいいわ」
「あー、中二病ね。分かるわソレ。タマもなんか無性にああしたくなる時あるし。恥ずかしいからしないけど」
「まぁ、若葉さんもお年頃だから……」
「え? 中二になるとみんなああするの? じゃあわたしもした方がいい?」
「しなくてもいいわ、高嶋さん。アレは将来、恥ずかしくって枕に顔を埋める事になる行為よ」
なんて決意を決めていたら、後ろからなんか聞こえた。
ちょーっとカッコつけたらコレだ。これだから勇者共は。
若葉はわなわなと震えながら腰に差していた生太刀を抜き、振り向きながら笑顔で構えた。
「お前ら、ぶっ殺してやる」
『散開!!』
「逃がすか待てやゴルァ!! 特に千景ァ!!」
「まさかの名指し!!?」
勇者達の戦いの日は、近い。
「海に落ちろ千景ァ!!」
「あなたも落ちるのよ乃木さ……あっ」
「って自分から滑ったら止まれなぁ!?」
「あっ、千景と若葉が海に落ちた!」
「見捨てて帰りません?」
「そうですね」
「二人とも仲いいな〜」
『助けて!!』
近いったら近いのだ。
若葉「千景ァ!!」
ゆゆゆいで発表された、友奈の因子やら何やらをぶち込んだ話でした。もうこの話が出てからかなり経ってるし、大丈夫だよね? ね?
あと、高奈ちゃんに若干不穏な雰囲気があるのは……まぁ、原作ではぐんちゃんが精神汚染も相まって暴走しましたが、こっちでは……つまりそういう事です。
高奈のバーテックス特攻とも言える呪詛に関しては、のわゆ本編内では一切触れられず、勇者御記で少し触られた程度で、ゆゆゆいで初めて明かされた設定になりましたよね。ゆゆゆいの最初の方で高奈がバーテックスに拳の効き目が悪い、とか言ってたような気がしますし。
それに、高奈ちゃんって誰かを守る事に固執している感じがすると言うか、ゆーゆの更に危なっかしいバージョンと言うか、時代が時代なだけに危なっかしい状態のまま放置されたゆーゆというか。そんな感じなので、そこに精神汚染叩き込んで、守る対象であったぐんちゃんを巣立たせてば……ね?
次回からはのわゆ本編と同時にしうゆ編です。
さぁ、うたのんを助けるよ!
……ところで、素朴な質問ですが、頭勇者部って誰が言い出した事でしたっけ。気が付いたら使ってたので覚えてない……