ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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樹ちゃん後輩の祈りの歌があそこまで涙腺をぶっ壊してくるなんて視聴していた時は思いもしなかったよ


君の前前前世からずっと光っているハゲ

 結局、カラオケはあまり樹に対して効果があったとは思えなかった。

 緊張からか声が震える樹のカラオケの得点は、とても歌が上手いとは言えない程であり、それを聞いていた五人も思わず首を傾げるほど。今からこんな調子では来週のテストは少しきついかも、なんて思いながらもカラオケは時間を迎えてしまった。

 そして翌日。勇者部はこっそりと樹を除いた五人が集まった。

 集まった場所は体育館の裏。既に今日はそこで活動すると先生には報告&許可を取っており、樹には今日は勇者部はないとだけ告げて先に帰ってもらった。風は今日は他にやることがあるから、と受験生らしいことを言って樹に少しの疑問も持たせなかった。

 

「で、どうしたんすか犬パイセン。こんな所に呼び出して」

「いや、樹が緊張で歌えないんなら、笑わせたらどうかと思ってね。最終手段の用意をするために呼んだのよ」

 

 緊張してしまうなら、その緊張を解くような笑いを与えてしまえばいいと風は思ったらしく、ここで思いっきり笑えるような写真を一つ撮ってしまおうと思ったらしい。

 笑えるような写真。つまりはネタ画像。既に風はアイデアを練っているらしく、一枚のメモを取り出してハゲ、友奈、美森、夏凜に見せた。そこには役割だけが書いてあり、風とハゲ丸の名前だけは既に役割の横に書かれていた。

 

「あー……なるほど」

「確かにあのポスターってこれならできちゃいますね」

「となると俺はまたハゲを晒さないといけないのか……まぁ今さらですけど」

 

 ハゲ丸の役割には、太陽拳と書かれていた。これだけでは何かわからないが、風が一緒に渡したとあるポスターを縮小印刷したものも一緒に見れば、配役とそれで一体何がしたいのかは察した。

 だが、問題は残りの配役だ。

 一人はカメラ兼背景設置。もう二人は演者。それを今日中に決め、今日中に撮影するという。

 

「……片方は友奈ちゃんがいいわ」

 

 今回の撮影は、二人一組だ。間にハゲ丸が挟まるとはいえ、友奈の隣だけで写真に写りたい。そんな願望丸出しの美森がそう告げる。友奈はえぇ!? と声を上げているが、それを止める者はいない。

 

「そうね。で、もう片方はあたし。これで決まりね」

 

 夏凜もそれに乗り、ついでに自分の役を滑り込ませようとした。

 だが、そうは問屋が許さない美森がそれに対して突っかかる。

 

「何言ってるのよ。友奈ちゃんの隣は私よ」

「は?」

「あ?」

 

 そして始まるレズ同士の視線のぶつかり合い。マフィアですらメンチを切られたらそっと目をそらしてしまいそうな熱烈な視線のぶつかり合いが発生している。

 それを見て焦る友奈。それをどうにかしてくれと言わんばかりに風を見るハゲ丸。だが、風はそんなハゲ丸を見てそっとついて来い、と手だけで合図すると、ハゲ丸だけを三人の視界に入らない場所へと連れて行った。まさか告白か何かかと思ったが、この人はハゲに告白するような人じゃないと思えばすぐに浮ついた気分も失せた。

 それに、風の表情は真剣だ。絶対に浮ついた話ではない。

 

「ハゲ丸。あんたに大赦から端末が届いたわ」

「え?」

 

 大赦から端末が届いた。その意味がよく分からなかったが、風はポケットの中から自分の物とは違う端末を取り出すと、それをハゲ丸に差し出した。

 どうしてまた、と思いながらも端末の電源を入れてみると、入っているアプリはNARUKOだけ。もう入っているのに、と自分の端末のNARUKOを起動してみると、NARUKOは起動せず。代わりに渡された端末の方で開いてみると、ハゲ丸のそれが表示された。

 

「……どういうことです?」

「あんたも、勇者になって戦えってことよ」

「はい?」

 

 勇者になって戦え。

 つまりは、風のように変身して戦えという事なのだろう。

 だが、ハゲ丸には僅かな勇者適正しかないため勇者にはなれない。しかし樹海に入ってしまうために自衛として精霊は出せる。そんな話だったような気がする。

 風はその話を思い出しているハゲ丸に対して首を縦に振った後、苦虫でも噛んだような表情で説明を続けた。

 

「バーテックスは本来、周期的に来るの。でも、それがずれてしまった。だから、帳尻合わせが来る可能性が高いのよ」

「……つまり」

「前のような三体同時がある可能性が出てきたのよ」

 

 三体同時。

 あの時は美森の加勢でなんとかなった。だが、次はもしかしたら五体。もしかしたら七体全部かもしれない。その可能性が出てきてしまっているという。

 

「よく言えば戦力の増強。悪く言えば……囮、実験台。かつての男勇者がどうだったのかは分からないけど……ただ、勇者にはなれないと言われたアンタが、勇者として戦うように端末を渡された。つまりは、そういうこと……」

 

 大赦は嘘をついていたのか。もしくは、一人だけ型落ちの性能ではハゲ丸が死んでしまうため今まで出さなかったが、今回ばかりはそうも言ってられない状況になったが。

 じゃあもしかしてこの端末は、とハゲ丸は渡された端末に目を落とす。

 

「男用の勇者システム。今の、何度も改良されたアタシ達の勇者システムの、下位互換。それがあんたの勇者システムになるわ」

「下位互換の、勇者システム……」

 

 今より少し後には防人と呼ばれることになる、量産型勇者システム。ハゲ丸が手にしているのは、その防人システムと似通った勇者システムだった。

 

「精霊バリアはあるけど、火力が根本的に低いし、身体能力の強化も、アタシ等程じゃない」

 

 しかも、精霊バリアはエネルギー式のようであり、戦闘開始直後から溜まっているエネルギーを切り崩していく形でバリアを張っていくらしい。そのエネルギーが尽きれば精霊バリアは使えなくなり、しかもハゲ丸自身の身体能力も、精霊バリアの再使用のためにガタ落ちしてしまうという代物。

 二年前に使われていた男用の勇者システムはもっと酷い物だったらしいが、今の勇者システムを考えればハゲ丸の勇者システムはとてもじゃないが危険が過ぎた。

 だから、風は渋い顔をしていた。これを渡して戦わせたら、ハゲ丸は死んでしまうのではないかと。

 

「一応、満開も可能らしいけど……ハゲ丸の満開は言うならばプロト満開。二年前の男の勇者も使ったらしいんだけど、それを使ってようやくアタシ等と互角になれる程度の時限強化システムらしいわ」

「……それを渡すってことは、そういうことなんすね」

「戦え、ってことよ」

 

 大赦からの命令で。

 風達のように精霊バリアを気軽に使えず、満開も本来の満開よりも性能が低い。そんな勇者システムで、あのバーテックス達と戦う。とてもじゃないが風には考えられなかった。もしもそんなシステムを樹に渡されたなら、風は確実に大赦に抗議していた。 

 しかし、ハゲ丸はそんな勇者システムを受け取っても、特に表情を崩さなかった。

 

「……まっ。やることはやりますよ」

 

 飄々とした感じでハゲ丸はポケットに端末をしまった。まるでそれが当然かのように。

 

「……不安じゃないの」

 

 戦う事。命を失うかもしれない戦いに出向くこと。もしも精霊バリアを使えなくなったらのこと。プロト満開を使っても死んでしまったらということ。

 風としては、不安で仕方ない。自分たちの精霊バリアですら、恐らく破られる時はある。ビームの直撃を受けた時も。サジタリウスの攻撃を防いだ時も。もしも、精霊バリアがなかったらと思うとゾッとしない。受けた時も受けている最中も、もし精霊バリアがなくなったらと思うと、それこそただの恐怖だ。

 ハゲ丸の精霊バリアは、更にそこにエネルギー式という欠点まである始末だ。そんなシステムで戦うことが、怖くないのかと。

 

「不安っすよ。でも、女の子ばっかにいいカッコさせられませんから」

「ハゲ丸……」

「それに、なんででしょうね。この端末、持っているとどうしてか安心するんですよ。こいつさえあれば、戦える。世界を守れる。どんな困難だろうが打ち倒せる、なんて。ちょっと中二病っぽいっすけどね」

 

 そう言いながら笑顔を浮かべるハゲ丸は、なんだかこれよりも過酷な戦場を経験した兵士のようで。その兵士が、この程度余裕だと。笑いながら言っているようで。

 風は一瞬呆けたが、すぐに笑った。

 

「なら、アタシ等を守ってみなさいよ、藤丸。アタシ等もあんた、守っから」

 

 そんな笑顔は、どうしてか風を安心させた。彼なら、きっと大丈夫だと。どうしてか思えた。

 だから、風はもうこれ以上、野暮を聞くことはない。精々頼って頼られて。先輩として守ってやるし、彼のメンツも立ててやろうと。藤丸の言葉に笑顔で返す。

 

「わーってますよ、風先輩。俺の背中、預けますわ」

 

 ハゲ丸もそれに合わせて笑い、一度だけ拳を合わせてからそのまま歩く。

 そろそろ騒いでいるレズ二人とそれを見守るしかできない標的を救わなければならない。

 

 

****

 

 

 それからまた数日が経った。

 今日は樹の歌のテスト当日。あれから色々とあり、樹は自分が勇者として戦う理由を。今まで姉が勇者として戦うからというふわふわとした理由を、しっかりとした物へと変えた。自分は、風と共に戦うことが誇らしい事なんだと。だから戦うんだと。そこに至るまでに色々とあったのだが、それは樹の宝物だ。無遠慮に掘り返すものではない。

 だが、それとこれとは話が別だった。

 みんなの前で歌を歌う事。それに緊張してしまうことはどうにも耐えられるモノではなく、近づいてくる自分の出番と緊張に、樹は思わず教科書を握りつぶしそうになりながらも耐えていた。

 手汗がひどい。喉が渇く。息が荒くなりそうだ。スカートで汗を拭いて、深呼吸。

 もうすぐ。もうすぐだ。

 

「では次。犬吠埼さん、前へ」

「は、はいぃ!」

 

 変な声が出てしまった。

 深呼吸をもう一度だけして、前へ。

 前に立つと、全員の視線がこちらを向く。その目に悪い物は籠っていないが、視線という物が歌う事を恥ずかしいと思わせてしまい、更にその恥ずかしいという感情が樹の精神を安定させない。

 あんなに練習したのに。練習に付き合ってもらったのに。部室でのサプリ事件だったり色々とあったり。ついでに今日はわざわざハゲ丸が樹のために必勝ジェラート、なんて言って少し高い素材を使ったジェラートまで、授業前にご馳走してくれた。

 だというのに、緊張で震えてしまう。

 手足の体温が奪われていくような錯覚に陥りながらも樹はなんとか教科書を開く。

 その時だった。教科書の間からクリップで何かを留めた一枚のノートのページが落ちてきたのは。それを慌てて拾い、中を見る。そして。

 

「ぶっ!!?」

 

 思いっきり吹いた。

 教師も生徒も、みんなが何かあったのかと怪訝な目を向けるが、樹は腹を抱えて笑いをこらえるのに精いっぱい。全身を震わせながらもう一度写真に目を通して、笑いそうになる。

 その写真には、左側に美森がいて、右側には友奈が立っている。二人は背中を向きながらも振り返っており、その間に太陽拳をしているのであろう。物凄い光量で頭を光らせるハゲ丸であろう人物がうすーく見え隠れしており、そのハゲ丸を中心にバックの絵は都会と田舎の二つに分かれている。最後に、その後ろにいるのであろう風が背中を向けて看板を持ち上げ、その写真のタイトルであろう文字を映していた。

 そのタイトルは『君の名は』。

 

「む、無駄に再現度が……!! ば、ばかじゃないの……!!」

 

 西暦の時代に有名になった映画の一つだ。神世紀となっても当時の映画やアニメというのは人気なこの世界。君の名はも当然の知名度があった。

 故に、それの太陽をハゲ丸で再現した無駄にハイクオリティな写真は樹の腹筋を見事に勇パンで殴り抜いていった。腹筋崩壊だ。

 

「い、犬吠埼さん? 大丈夫ですか?」

「だ、だいじょぶです……! で、でも……くくっ……ちょっと待ってください……!!」

 

 急いでクリップでノートに留めてあるだけの写真を取り外して自分のスカートのポケットにねじ込む。

 ひどい目にあったと思いながら改めてノートの方に目をやると、そこには。

 

『テストが終わったら打ち上げでケーキを食べに行こう! 樹ちゃんの分はおごっちゃうぞ!! 友奈』

『周りの人はみんなカボチャかカエルよ。東郷』

『気合よ』

『周りの人なんて気にしない! お姉ちゃんは樹の歌が上手いって知ってるんだから! 風』

『実は犬先輩、樹ちゃん後輩が風呂場で歌っていた歌を録音してたぜ。というのは置いておいて、俺の太陽拳どうだった? 無事合格で終わらせてジェラートでも食べながら聞かせてくれな。『藤』丸』

「友奈さん、東郷先輩、Hi-ν先輩、お姉ちゃん、ハゲ……お姉ちゃんは帰ったら締める……!」

 

 もうハゲ丸のせいでいいシーンが台無しである。

 だが、このメッセージとさっきの腹筋崩壊写真が緊張を和らげてくれたのは、事実だった。

 

 

****

 

 

 放課後の勇者部部室。樹は笑顔で入室してきた。

 それに気が付いたのは、友奈だった。

 

「あ、樹ちゃん! どうだった!?」

「えへへ。大丈夫でした!」

 

 その言葉に友奈と風が喜び、ハゲ丸と美森が安堵し、夏凜は満足げな表情を浮かべていた。

 そんな樹の元にハイタッチしにいったのも、また友奈だった。

 

「いえーい!」

「いえい!」

 

 ハイタッチする友奈と樹。

 

「さっすがアタシの妹ね」

「えへへ」

 

 風と樹のハイタッチ。

 

「きっと、周りをカボチャかカエルだと思ったのが効いたの」

「あははは……ありがとうございます」

「んじゃ、祝勝会でジェラートだな」

「はい、楽しみです」

 

 美森とハゲ丸とも、ハイタッチ。そして。

 

「Hi-ν先輩も、ありがとうございます」

「こういう時くらいちゃんと呼びなさいっての」

 

 夏凜とも。

 そしてこの後開かれた祝勝会という名の、いつもより気合の入ったハゲ丸のジェラートと美森のぼた餅を食べる会は、毎日の物よりも笑顔が溢れていたという。

 

 

****

 

 

 とあるカラオケ店。

 樹は自前のノートパソコンにマイクを繋げ、歌った。

 自分の歌が刻まれたファイルの名前は、オーディション用。

 

「……まだ言えないけど。やってみたいことなんだ。頑張る理由になるんだ」

 

 風と共にバーテックスを倒す、頑張る目標。

 歌手になるという、漠然とした夢。その夢を叶えるために、バーテックスを倒してお役目を終えて、平和な世界で。いつか、風にも告げて。勇者部にも告げて。立派な歌手になるために。

 風と並んで戦うための。精いっぱいの理由。

 この理由が、風を苦しめる原因となってしまうことを、樹は知らない。

 そしてこの理由を原因と化すバーテックス戦は。この日、唐突に始まった。




ハゲ丸参戦。ということで次回はレオ戦。

そしてハゲ丸の勇者システムにはどうやら満開も搭載されている模様。性能的には防人と最新の勇者システムを足して二で割ったような感じでしょうか。あまり強くはありませんが二年前の男版勇者システムよりかはちょっと強化されてる模様。

ちなみに、満開の後遺症は一人が変更されるだけでそれ以外は変わらない事にしました。というか、この一人は割と序盤の方でもう決めていたり。そうだお前の事だよ芸人さん。

ゆゆゆいで昔のイベント復刻されないかなぁ、なんて思いながらゆゆゆい開いたら、なんか亜耶ちゃんの自己紹介あったんで見たんですけど……何あの子、天使? 亜耶ちゃん可愛かったのでくめゆ買います。
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