諏訪の方は最早風前の灯火状態。果たして、うたのんはそれまで持ちこたえる事ができるのか……!!
それと、勇者アプリのレーダー機能ですが、効果範囲がどの程度かよく分からなかったので、とりあえず勇者の位置とバーテックスの位置は分かる程度の大雑把な感じにしております。
千景は勇者として強化された身体能力をフルに使い、ひたすらに四国から長野の方へと向けて走っていた。淡路島と四国を繋ぐ橋を車並みのスピードで駆け抜ける事ができる身体能力は伊達ではないが、しかし結界から出ればあの存在が居る。
バーテックス。それが、結界から飛び出してきた千景へと向かって飛んでくるのだ。
「久しぶりね、バーテックス……! 悪いけど、今は急いでいるのよ!!」
やる事は、一点突破。
最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に、ただ諏訪へ向かって駆け抜ける。最早白い壁としか言いようがない存在になったバーテックスの大軍に対してその身一つで飛び込み、園子の槍の矛先三つを分裂させ自分に纏わせる事により斬れる結界をその身で作り出し、バーテックスの壁を強制的に突破する。
そして包囲してこようとするバーテックスには鏡を飛ばし、それでぶん殴り、鏡でヘイトを引き付けている間に千景が戦線から一気に離脱。そしてバーテックス達の射程圏内から離れた所で鏡を回収。
既に携帯のGPS機能を先んじて使う事により、どの方向に進んだら諏訪があるかは既に検索済みである。故に、千景はその方角から少しも逸れないように全力で走り続ける。
そして、走り抜けていると目に付く物は色々とある。
既に人がいなくなった廃墟の数々や、破壊された施設の数々。
突っ切る予定の都道府県は、全部で三つ。大阪、滋賀、岐阜だ。途中にある障害物は全て鏡に乗って真正面から突っ切っているのだが、かつては三大都市とも言われた大阪は既に悲惨な状態になっている。
一応、走りながら誰かいないか、いたら返事をするようにと呼びかけはしているが、その声に答える者は居ない。もうバーテックスがこの地球上に現れて三年も経っている以上、結界の外で生存者が存在すると考えるのは絶望的なのだろう。
走りながら時折水を飲み、鏡の上に座って小休止をしつつ移動を繰り返す。
「大体、五時間かかるかかからないか……その間、諏訪が持ちこたえるのを願うしかないわね……!!」
こういう時に飛行機でも使えれば、数十分で諏訪に行けるのに、と歯噛みしながら、千景は鏡に乗って走るのが無理な地形を無理矢理突破していく。
千景の到着まで、あと数時間。
****
若葉との通信が終わってから数十分後。歌野はすぐにバーテックスとの交戦に入った。
おちおち休む事すら許してくれないバーテックス達に苛立ちを感じるが、同時にもうすぐ終わりが近づいてきているのだと自覚してしまう。
再びの戦闘を終え、神社に戻ると、どうも神社の方が騒がしかった。神社の前では巫女服を身に纏った水都が待っており、ボロボロの歌野を出迎えた。
「うたのん!」
「し、死ぬ……! 戦闘以前に過労で死ぬ……!!」
「ゆ、勇者が過労死って笑えないよ……」
割とマジな表情で過労で死ぬと言った歌野。割とマジで冗談に見えない辺り、本当に切羽詰まっている状況だ。
歌野は水都の肩を借り、近場の木陰に座り込んで水を飲むと、水都から何があったのか、何をしたのかを聞いた。
「大人の人達が、未成年の人達をみんなここに集めたんだよ。少しでも、長く生きられるようにって」
「少しでもって……」
「それで、大人の人達は少しの間……数分も持たないだろうけど、バーテックスの侵攻が来たら、壁になるって。その間にうたのんは休んで、少しでもみんなをって……!!」
「何を馬鹿な事を!? 壁になるって……自ら死にに行ってるだけじゃない!!」
水都が口にした言葉は、あまりにも歌野からしたら受け入れられない事実だった。
自分が守ってきた人たちが、自分を守るために。それも、たった数分のために犠牲になろうとしている。老人と、成年済みの大人たちは、みんなそれを飲み未成年の子供たちを、自分達の未来を少しでも長く生き永らえさせるために、神社へと避難させた。ここが、バーテックスに攻撃されるとしたら最後の場所になるだろうから。
歌野がそれを止めさせるために立ち上がろうとするが、水都はそれを止める。
「みーちゃん!」
「みんな、もう決めちゃってたの! 子供が戦っているのに逃げ隠れているんじゃ、そんなの大人失格だって!! どうせ死ぬんなら、少しでもうたのんに恩返しがしたいって!!」
「だからって死んじゃったら意味がないでしょ!!」
「その死に意味を持たせるのがうたのんなんだよ!! 無駄死にじゃなかった、その数分のおかげで、これだけ生き延びる事ができたって!! そうやって胸を張って言えるようにならなきゃだめなんだよ、うたのんは!!」
ただ、守られるだけじゃない。
せめて、守られただけの恩を返して、そして歌野が少しでも長く戦えるように。少しでも長く、子供たちが生き延びれるようにするために。
諏訪の大人たちは、未来のためにその命を投げ出す事に決めたのだ。
一見すればただの無駄死にだ。神風にも程遠い、犬死とも言える光景が繰り広げられるだろう。だが、そうやって投げ出した命は、未来へと繋がる。子供たちの胸の中に、こんな大人が居たんだと、残り続ける。
その意思を一秒でも長く残らせるため、歌野は戦わなければならない。
守っていた物を犠牲にしてでも、未来へと子供たちを守り抜かなければならない。
「……あそこのみんなは、それを受け入れているの!? 自分達の親が、兄が、姉が、死のうとしているのを受け入れたの!?」
「受け入れられるわけないでしょ!? そんな簡単に!!」
歌野の叫びは、水都の叫びに返される。
子供たちが死ぬのを納得したか? そんな訳がない。死に納得なんて存在しない。死がもたらすのは悲しみだ。
子供たちだって、それを分かっている。
「でも、大人の人たちはうたのんを信じたんだよ!! うたのんなら、自分達が守るよりもずっと長く、子供たちを守る事ができるって!! だから、うたのんは大人の人達の……この諏訪で死んでいった人達の命を吸ってでも、一秒でも長く戦わないといけないんだよ!! 子供たちと、自分を守るために!!」
たった数分。されど、数分。
その数分で歌野が一秒でも長く戦えるように願い、大人たちは散っていく。例え止めて、歌野が前線に無理矢理出たとしても、農具片手に大人たちは前に出てくるだろう。
歌野を守るための肉壁として。
きっと、怖いし痛い。叫んで後悔しながら死んでいく人だっている。泣きながら食われる人もいる。
そんな姿を見せたくないから。せめて最後は、子供にデカい背中を見せた立派な大人として死んでいきたいから。
死を美化なんてしない。死を立派な物だなんて思わない。
でも、その死で数秒の命を繋げられるのなら。その命が、子供たちの脳裏にしっかりと焼き付くのなら。
喜んで犠牲になろう。喜んで壁になろう。
それが、大人としての最後のプライドだから。
「大人の人達は、総攻撃が始まる直前に結界の外に行って時間を稼ぐみたいなの。だから、バーテックスがここに入ってきてからが、うたのんの仕事。それまで寝て休んで」
「……そう、するわ」
もう、止められない。
歌野に残された選択肢は、その数分で一秒でも長く戦えるように休む事だけ。
水都の膝に頭を乗せ、歌野は目を閉じる。涙を流しながら、しかし一秒でも長く寝られるように。
「……ごめんなさい。ありがとう、みんな……!!」
そして歌野の思い出にも、大人たちの背中は残り続ける。
自分を一秒でも長く戦えるように犠牲になってくれた大人たちの背中が。歌野は、その背中を、彼らの頼もしい姿を、たった一秒だって忘れることは無いだろう。朽ち死ぬその時まで、たった一秒たりとも。
そんな人たちと共に在れた。それは、歌野の中で間違いなく幸せな事の、一つだった。
その数分が、その数秒が、歌野を助ける奇跡となるとは、大人たちは知らない。
****
歌野は深い眠りの中で唐突に体を揺すられて起きた。
戦いの時間だ。起きてすぐに歌野はそれを自覚した。目を開ければ、すぐ目の前に自分を覗き込む水都の姿が。
「……みーちゃん。もう、時間なのね」
「バーテックスの総攻撃が始まったよ。もう、数体は結界の中に入ってきている」
つまり、大人たちは。
だが、その分だけ歌野はしっかりと休めた。銃剣を杖代わりに立ち上がり、鞭を握る。
大人たちが託した勇気のバトン。無駄にするわけにはいかない。
一秒でも長く戦い抜いて、一秒でも長くこの諏訪を存続させる。
「みーちゃんは神社の中に」
「……うん」
歌野の言葉に、水都は神社へと向かっていく。だが、その直前、水都は歌野の方へと駆け寄り、抱き着いた。
きっと、最後だ。これが、歌野と会話できる、最後のチャンス。
「うたのん、大好きだよ……!! ずっと、ずっと……!! 死んだって、この想いは消えないから!!」
「……わたしも、大好きよ。バーテックスに食われても、この想いだけは手放さないわ」
それが友愛なのか、永愛なのか。それは分からない。
だが、歌野は水都の想いを受け止める。きっと、最後の人の温もりで、最後の言葉だから。次に会えるのは天国か地獄か。もしかしたらその先でも会えないかもしれない。
だから、最後にここで。
長く、長く抱き合い、水都が涙を流しながら歌野から離れる。歌野はそんな水都に、笑顔を見せる。
「それじゃあ、行ってくるわ。アイラブユーよ、みーちゃん」
「うん、うたのん。わたしも、大好きだから」
そして、歌野は戦場へと向かって飛び立つ。
その場で跳躍し、結界の端へと走っていけば、すぐにバーテックスは見つかった。口元に赤い何かが付着した、バーテックス達が。
「行かせ、ない!!」
そのバーテックス達にすれ違いざまに鞭を叩き込み、そして銃剣の銃弾で一気にバーテックスを蹴散らしていく。
残弾は無限。ならば、負ける道理はない。
鞭で的確にバーテックスを叩きながら銃剣で一気にバーテックスを斬り裂き、少しでも距離があれば惜しげもなく銃弾の雨霰を叩き込む。そうして戦っていると、歌野が戦っている地域が結界から切り離される。
「なるほど、少しでも結界を小さくして守りを! ナイスよ、土地神様!!」
バーテックスは目の前の人間に対して襲い掛かってくる。ならば、結界を最小限の状態で展開して強度を増やし、歌野がバーテックスの侵攻を気にせずに思う存分戦えるように戦場を整える。
結界の外から見る土地神様は、まるで光の柱だ。その光が、水都達がいる神社周辺に飲み降り注ぎ、結界を作っている。そんな土地神様の方を向けば、声が聞こえた気がした。
こっちは気にするな、思う存分戦え、と。
「分かっているわ、土地神様!! 今のわたしは、死んだって負けやしないわ!!」
後ろを気にする必要が無いなら、思う存分戦える。
遠距離を銃弾で、中距離を鞭で、近距離を銃剣で、まるで踊るかのように戦い抜く。大人たちが紡いだ、たった数分。その数分は、確かに歌野を動かうだけの動力となってくれている。
鞭で叩き、剣で斬り、銃で穿つ。
もしも、バーテックスがこの白い物。星屑だけなら、歌野の反抗は意味を成し、数日の猶予を作る事ができただろう。だが、そうは言ってられない存在が、すぐに表れる。
星屑の間を縫うように、棒状の何かが突っ込んでくる。それを見切り、銃剣の腹で受け止めれば、その正体が姿を現す。
「ったく、何体目よ、アンタ達……!!」
そこに居るのは、未来で未完成バーテックスと呼ばれる存在の更に未完成系。言うならば、進化体。
夏凜と芽吹が撃退した進化系バーテックス。それが、三体も。
素のスペックでは歌野を遥かに上回る化け物達だ。だが、それでも歌野は逃げない。
「こんな所で、死ねるか!!」
叫びながら、歌野は突貫する。
進化バーテックスに一気に肉薄し、棒状の物を銃剣で払いのけ、進化体バーテックスとの距離を一気にゼロへ。そして、バーテックスの体を駆け上がり、顔面と思われる場所に銃剣を突き刺す。
「ぶっ潰れなさい!!」
そして、銃弾を連射。五秒も経たないうちにバーテックスの顔面はそれで吹き飛び、更に歌野はバーテックスの全身を鞭で打ちながら撤退。進化系バーテックスの一体はそれで何とか倒す事ができた。
そうやってやっと一体の進化系バーテックスを倒した歌野の後ろに、星屑が。
「っ!」
すぐさま歌野は鞭を振ってソレを迎撃するが、手ごたえがおかしい。視線をしっかりと星屑のようにやれば、その光景に目を見開いた。
星屑が、自分が朽ちるのを構わずに鞭を噛んでいるのだ。
「しまっ!?」
思わず声を上げながら、それでも銃剣で鞭を噛んでいる星屑に対して攻撃を仕掛けようとするが、それをする直前に今度は矢のような物が歌野へ向かって振ってくる。故に、苦肉の策で鞭を手放してその場を飛ぶ。
矢のようなものはそのまま星屑達もろとも、歌野の鞭をずたずたに斬り裂き、歌野が数年間苦楽を共にした鞭は無残な姿になってしまった。
「シット!! 新手って事ね!!」
矢が降ってきた方を見れば、そこには矢のような物を発生させた進化体バーテックスが浮かんでいた。
しかも、それが贅沢にも五体。なんともまぁ豪勢な事だ。
歌野がすぐさま銃剣を構えて弾丸を一体の進化体バーテックスに叩き込んで一体を撃墜するが、もう四体が同時に矢を放ち、歌野を殺さんとする。
「無茶苦茶を!」
それを歌野は天性の才能で完璧に避けきってみせ、仕返しにと弾丸を叩き込む。
二体目の矢のような物を生やした進化体バーテックスが爆散した所で、もう一体へと照準を向けるが、その瞬間、歌野の目の前に赤い何かが現れた。
言うまでもない、棒状の物を生やした進化体バーテックスの棒のような物だ。それが、歌野の全身を打ち、吹き飛ばした。
「あがっ!!?」
打たれ、吹き飛ぶ歌野。
だが、すぐに体勢を整えて棒状の物を生やした進化体バーテックスを叩かんとするが、それにばかり気を取られていた歌野の肩に星屑が噛み付いた。
「いっ!? よくも、やったわね!!」
すぐにそれを銃で穿ち、吹き飛ばす。
その一瞬の隙をバーテックスは見逃さなかった。歌野に向かって矢が降り注ぎ、棒状の物が突っ込み、星屑が特攻をする。その一斉攻撃を歌野は半分以上。いや九割以上を無我夢中で弾いて見せるが、矢が左腕に刺さり、棒状の物が脇腹に突き刺さり、星屑が足に噛みついた。
けど。
「負けるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
歌野は噛み付いて来た星屑を銃剣で突き刺し、そして上空に居る矢のような物を生やした進化体バーテックスを銃弾を乱射して三体一気に吹き飛ばした。
そして、更に来る棒状の物を銃剣で斬り裂き、そして弾丸を叩き込んで一気に爆散させる。同時に、周りの星屑に対しては一気に銃剣で斬り裂き、自分の周囲を一掃した。
「は、ははは。どうよ、わたしの底力。これには流石のバーテックスも……」
根を上げるかも、なんて言いたかった。
そんな言葉は、歌野の真正面からやってくる、進化体バーテックスよりも巨大なバーテックスによって失われた。
口から矢のような物を生やしたソレは、明らかに先ほどの矢を飛ばしてきたバーテックスなんかよりも強力な矢を放ってくるに違いない。しかし、体のあちこちが欠けていることから、きっと未完成な状態である。
しかし、あの矢を避ける程の機動力は、今の歌野には無い。だから、苦笑するしかなかった。
「……あんたら大人げないわよ。いや、マジで」
言いながら、歌野が銃剣を盾にしようと構えた瞬間、その巨大な矢は放たれた。
防御は間に合わない。直撃する。つまり、死ぬ。
迫りくる死に歌野は目を閉じ、本能的に顔を庇うために腕を動かす。無駄だとわかっているのに。
そして、矢は歌野へと迫り――
「見切ったわ!!」
死は、来なかった。代わりに、甲高い音と、聞いた事の無い人の声が聞こえただけ。
いつまで経っても来ない死に疑問を抱き、歌野は目を開け前を見る。そこにあったのは。
「……か、鏡?」
鏡だった。それが、巨大なバーテックスの巨大な矢を空中で受け止めていた。
金属質な音を立てて地面に転がる巨大な矢に歌野は驚き、そして声が聞こえた方を……いや、巨大なバーテックスの方を見た。
「園ねぇの槍の錆にしてあげるわ。覚悟しなさい!」
そこに居たのは、紅の勇者服に身を包み、槍と鎌を持った勇者だった。
彼女はそのまま巨大なバーテックスに取りつくと、鎌で傷を付けんと片腕だけで鎌を振るい攻撃を行うが、鎌はバーテックスに弾かれてしまう。しかし、彼女はそれに舌打ちを一つした後にすぐさまもう片方の手に持っている槍を突き刺す。
槍の方は、突き刺さった。それを確認した瞬間、彼女の槍の矛先がバーテックスの体内で紫のエネルギーを纏い、回転と同時に巨大化。バーテックスを体内から破壊しながらその矛先がバーテックスの体外へと出ていく。
しかし、バーテックスとてそれを許す程馬鹿ではない。その前に星屑が彼女を食わんと接近してくる。
流石にこのまま攻撃し続けていては食われてしまうので退避。そして、地上で流れるように両手の鎌と槍で星屑を鏖殺していく。
そんな彼女の元へ、もう一発、巨大バーテックスが矢を放った。
「危ないわね!!」
それを叫びながら、手元へと呼び戻して蹴り出した鏡を矢に叩き込むことによって相殺する。確実に歌野、いや、彼女ですら真正面から貰えば即死する攻撃を、彼女は鏡一枚だけで防いだ。
その鏡の性能。そして、明らかに歌野の鞭が効かないレベルの装甲を持つ巨大バーテックスを貫く、矛先が浮いた槍。明らかに、この現代では作れるような、発掘されるような武器ではない。
「それで終わり?」
矢の発射には暫しの時間がかかるようで、その間巨大バーテックスは何もしてこない。そんな欠陥兵器しか持たない相手に、彼女は負けることは無い。星屑を矛先を無数に増やした槍を振り回す事により一気に殲滅し、その矛先で階段を作り上げ、駆け上げっていく。
その階段の中間に進化体バーテックスが現れ、彼女を止めようとするが、彼女は鎌でそれを斬るのではなく押し退ける事により一時的に進化体バーテックスを除外。そして、浮いている巨大バーテックスの眼前に到達した所で跳躍。空中に鏡を設置し、その鏡に空中で反転し、蹴る。
その勢いで急加速した彼女は、鎌を投げ捨て、矛先を三つに戻し急速回転させ、紫のオーラを纏わせた状態で巨大バーテックスの脳天へと差し迫る。
「決めるわ!!」
そして、紫のオーラを纏ったチャージにより、巨大バーテックスを脳天から貫通。更に、着地してからすぐにもう一度飛び上がり、自分が通ったバーテックスの風穴内で槍の矛先を巨大化、拡散させる事により一気にバーテックスを内側から四散させた。
拡散した刃は、そのまま周囲に居た星屑と進化体バーテックスまでもを巻き込んで引き裂いて行く。その刃は決して歌野を巻き込むことは無い。
そのまま周囲を拡散する刃で一気に蹴散らした彼女は、残っている星屑と進化体バーテックスを、拾い上げた鎌と槍で器用に立ち回る事により殲滅していった。
「あ、アンビリバボー……」
その様子を見ていた歌野はただ一言、そう言うだけで限界だった。
巨大なバーテックスを無傷で倒し、そのついでにと進化体バーテックスや星屑を殲滅した少女は、右腕に鏡を装着し、両手に鎌と槍を持って歌野の方へと近づいて来た。
「白鳥歌野さん、よね」
「え、えぇ、そうよ。あなたは?」
「私は郡千景。乃木若葉の仲間の勇者だって言えば、分かるかしら?」
そう、この土壇場で。あと数秒しか持たなかった歌野の命を拾ったのは、今ようやく諏訪へと到着した千景だった。
「乃木、さんの……? で、でも、四国からの援軍は!」
「乃木さんにお願いされちゃったのよ。諏訪の友達を助けてきてって。だから、急いで走ってきたのだけど……遅かったかしら?」
遅くない、と言えば嘘になる。
あと数十分、千景の到着が早ければ、大人たちは犠牲にならなかったかもしれない。そうも思えるが、違う。
大人たちが決死の思いで稼いだ数分が、あり得なかった四国からの援軍を間に合わせたのだ。大人たちの死は、確かに今、歌野の命をしっかりと未来へとつないだのだ。それをしてくれた千景に、罵倒の言葉なんて誰が浴びせられようか。
「いえ……いえ。ナイスタイミングよ、郡さん!!」
「それなら、よかった。白鳥さんは、ここで待ってて。後は全部、私が倒すわ!」
「そんな事できないわ! ここはチームアップよ! ボロボロだけど、援護程度ならできるわ!」
「そこまで言うのなら、諏訪を守り通した勇者の力、是非とも借りさせてもらうわ」
千景が槍と鎌を構え、鏡が周囲を舞う。そして歌野が銃剣を構える。
「郡さん、今はバーテックスの総攻撃中よ。一応、ある程度は減らしておいたけど、多分敵は半分以上は残っているわ」
「それなら大丈夫よ。ここに来るまでの間にここを囲んでいたバーテックスはちょっと片付けてきたわ。むしろ、片付けないと来られなかったから。一応、レーダーで見てみたけど、多分あと四分の一も残ってないわよ?」
と、言いながら千景が自分のスマホの画面を見せる。
そこには青色の光点で勇者の印と、赤色の光点でバーテックスの印が打たれていた。幾つか大きい点はまだ数個残っているが、千景が言うには先ほどの巨大バーテックスのような反応はもうないと言う。
つまり、進化体バーテックスを後数体と、星屑を倒せば後は終わり。
総攻撃は、凌げる。
「……って事は、郡さんってどれだけバーテックスを倒したの……?」
「さぁ。数えるのも馬鹿らしい程度の数が道を塞いでいたから、覚えてないわ」
千景が握る園子の槍は、歌野が何発もの弾丸を叩き込まなければ倒せなかった進化体バーテックスだろうと一撃で屠る事ができる。あの巨大バーテックスは、恐らく歌野の銃剣では倒すのにもっと手数が必要だっただろう。
未来の勇者事情を知る物ならば分かるが、曲がりなりにも勇者と防人の武器だ。ただの銃剣と、臨機応変に機能を変化させる事すらできる槍では応用力も火力も段違いである。
「じゃあ、とっとと倒して色々と話すわよ」
「えぇ!」
そして、千景と歌野の蹂躙が始まった。
****
結界が小さくなったと思ったら大きくなった。その意味が水都はよく分からなかった。土地神様はさっきから後でのお楽しみ、とかそんな感じの神託を飛ばしてくるし。
だが、結界が大きくなったから神社の外に出る事はできるようになった。なので水都はちょっと外の様子を見てくる、とだけ言ってから神社から出た。広くなったとは言っても、神社から百メートル前後の範囲しか結界は張られていない。
先ほどの、神社だけを覆う結界よりは遥かに広いが、かつてを知る水都はそれでも小さい、と思わざるを得ない。
だが、その小さな結界の端から、誰かが入ってきた。
水都が知る勇者と、知らない勇者。銃剣を持った勇者、歌野がボロボロで血を流しながらも笑いながら、その足で水都の方へと歩いてくる。
「う、うた、のん……?」
「やっほ、みーちゃん。生き残っちゃった」
ボロボロで笑いながら、歌野は水都を抱きしめた。
暖かい。生きている。それを実感した水都は思わず涙を流しながらも、歌野を抱きしめる。
「よかった……よかった、うたのん!」
「色々と噛み合ったら何とかなっちゃったわぁ……あー、疲れた」
「うん、うん! お疲れ様、うたのん!」
「……ただいま、みーちゃん」
歌野は、大人たちの決死の覚悟により、生き残る事ができたのだった。
諏訪の大人たちは、たった一秒でも歌野と子供たちを生き永らえさせるために、犠牲となりました。それでも、その一秒が歌野の生死を分け、諏訪を救いました。
歌野が諏訪の人達と心を繋ぎ、そして引っ張っていったからこそ生み出せた一秒です。その一秒でちーちゃんは無事救援に間に合い、諏訪を何とか救えました。
自分はしうゆを読んだ時に、諏訪の大人たちが好きになったので、全員生存で……というのも考えたのですが、流石にそれは無理があると思い、苦肉の策として犠牲となりました。ですけど、大人たちが紡いだ意志はしっかりと歌野達へと受け継がれました。
あと、そのっちの槍に関しては、結構滅茶苦茶やらせてもらいました。まぁ、お古の槍とは言っても途中までは改良されていた名残、とか思ってもらえれば。じゃないと槍で未完成バーテックス解体とか渋すぎますからね。
と、いう事で、恐らく次回でしうゆ編は最後となるでしょう。この諏訪の生き残りが果たして原作にどう介入するのか……