ここら辺から徐々に神世紀勇者を混ぜていくっていう初期プロットもあったんですが、沖縄と北海道に居る棗&雪花のためにやめました。二人の合流はもうちょっと……というか、神世紀勇者が合流してからになるので、結構後になりそうです。
ちなみに、今話は一万三千文字ありますが……まぁ、この作品を読んでる人なら一万三千文字程度、今さら感があるでしょうし、特に問題はないでしょう!!
歌野がバーテックスを倒して帰ってきた。その報告は、子供たちを安心させ、歓喜させるには十分だった。
だが、話し合わなければならない事は色々とあった。
「で、この人がわたしを助けてくれた四国の勇者、郡千景さん。で、こっちがわたしの大親友で、巫女をやってるみーちゃんこと、藤森水都よ」
「紹介に預かった、郡千景よ。よろしく、藤森さん」
「よろしくお願いします、郡さん」
その最初が、歌野の治療をしながらの自己紹介だった。
千景が大量に持ってきた医療用品で何とか歌野の傷を手当てしつつ、千景と水都は互いに自己紹介を終わらせ、歌野の治療をしつつこれからの事について話し合う事に。
現状、諏訪の生き残りに対して指示ができるのは、歌野と水都の二人だけ。なので、この二人に対して相談するのが一番適切だった。
「で、これからの事よ」
腹に空いた穴とかどうすればいいんだろう、と思いながらも、一応綺麗な布で傷跡を塞いで止血しつつ、千景はこれからの事。
つまり、これからの諏訪についての話題を出す事にした。
「単刀直入に言わせてもらうわ。見た感じ、諏訪はもう持ちそうにないわ」
「……そうね。郡さんの言う通りよ」
「わたしも、そうだと思います」
まず、諏訪はすでに限界だ。
大人たちは既に居なくなってしまい、残っているのは子供だけ。恐らく、結界を元に戻したとしても、畑などはもう壊滅状態。店売りの商品も、もしかしたらバーテックスに荒らされているかもしれない。
土地神様からの恵みで何とかなる部分も勿論ある。だが、それを子供たちだけでどうにかできるかと言われれば、否だ。神社の中には、成年直前の男女から数歳の子供まで沢山避難している。大人が居ない現状でそれを纏め上げたりするのは中々に骨が折れる事だ。
「だから、提案があるの。諏訪の生き残りみんなで四国に来ない?」
「四国に……?」
「えぇ。少なくとも、その方が生存率は格段に上がる筈よ」
前に千景は杏と話したことがある。勇者がバラバラに点在しているこの現状は、とても悪い状況なのだと。推定八人しか居ない勇者達が、それぞれの地で戦っている。そして、バーテックスはその内一つずつを集中的に狙い続ける。
そうして勇者達が一人ずつ倒れていくのは、悪手に尽きる、と。
故に、歌野と水都が守る諏訪がボロボロになってしまったこの現状を見る限り、二人を何とか説得して四国へと生き残りと共に連れ帰った方が、人類全体の、そして諏訪の生き残りの生存確率は大幅に上昇すると言っても過言ではない。
「私は乃木さんに言われて出てきただけだけど、あなた達を拒むような人はいない筈よ。居たらぶん殴ってでも言う事を聞かせるわ。だから、四国に来ない?」
四国民。いや、大社からしても、人類の総数が増えるのは悪い提案ではない筈だ。
今は人を産めや増やせやの現状。神樹様によりインフラ関係もしっかりと整っている四国ならば、この神社に収まる程に少なくなってしまった諏訪の人を受け入れる事だって難しい事じゃない。
ましてや、この中は全員子供だという。それを拒むような大人はきっと存在しない……と、一応千景は信じている。
「……いいわね。行きましょう、四国に」
「そうだね。わたしもそう考えてたよ」
だから、ここからどうやって説得しようかと思っていた千景だったが、あっさりとそれを飲んだ歌野と水都を見て、千景が目を見開いた。
そんな簡単に決めちゃっていいの? と。
「わたし達は大人の人達を犠牲にして、こうして生きているの。その人たちの命にしっかりと報いるために、わたし達は生きる必要がある」
「だから、四国に行った方がいいなって、思ったんです。その方が、この神社に避難している人たちもきっと安心して生きることができると思うから」
歌野と水都は、諏訪への愛よりも、自分達を生かすために犠牲となった人達の想いを重視した。
きっと、大人たちが生きていれば、こう言うだろう。子供たちだけでも、諏訪よりも少しでも安全できる四国へと行って生き延びてくれ、と。そう考えれば、壊滅した諏訪に残り続けるよりも、四国へと向かった方がいい。四国にたどり着ければ、それだけでかなりの安全を確保できるのだから。
その考えに千景は思わず感心しながら、しかしそうと決まればと背負っていたリュックと、歌野の治療の前に結界から一度出て、大量に持ってきたビニール袋を水都に手渡した
「こっちのリュックには食料と水を詰め込んであるわ。それから、こっちのビニールには道中で見つけたコンビニから手探りで拾ってきた缶詰や保存食と、にぼしが大量に入ってるはずだから、中の人達に分けてあげて」
「に、にぼし……? 何故に……?」
「にぼしは完全食よ。こういう時にこそ最適なのよ」
道中、千景は何度も廃コンビニを発見した。流石に寄っていては時間のロスに繋がって歌野の死に繋がってしまうかもしれないので、コンビニ内を一瞬で把握。一点目のコンビニで大量のビニール袋を、鏡に矛先を潰した槍を纏わせてアーム状にする事で大量に拾い上げてきて、二店目以降のコンビニではとにかくレトルト商品がありそうな場所を鏡と飛ばした槍でとにかく漁って拾い上げ、移動しながらビニールの中に詰め込んだ。
ある程度は選別したが、もしかしたら腐った菓子なども入ってるかもしれない。
その時は捨ててもらわないといけないが。
「走りながら鏡と槍で拾ってきたやつだから、何が入ってるのか分からないけど。多分、お腹空いてる子もいると思うの。足りないと思うけど、小さい子から優先して食べさせてあげて。勿論、白鳥さんと藤森さんも。あと、こっちの何も入ってないビニールは好きに使ってもらっていいわ」
「あ、ありがとうございます、郡さん! 早速みんなに配ってきます!」
「四国に行く事もちゃんと伝えるのよ? あと、カップ麺とかも入ってるから、お湯が必要なら焚火とかするから、すぐに教えて」
「はい!」
千景はリュックの中からカップうどんとカップそば、それからバーナー、コッヘル、必要な分の水だけを回収し、残りは全て水都に渡した。
水都が神社の中に走っていったのを確認してから、千景はコッヘルに水を注ぎ、ガスバーナーでコッヘルで湯を沸かし始める。その傍らで千景は手ごろな石で竈を作り、鏡で持ってきてしまった燃えそうな紙類と木の枝をその中に押し込んでいつでも火が起こせるような状態にした。
「……網と鍋が無いわね。あと箸」
「それなら、神社の中にあるわ。箸なら、わたしが作るわ」
「そう。なら、藤森さんが戻ってきたら着火ね」
火に関しては、バーナーで直接紙に火をつければいい。
お湯が沸いた所でコッヘルの中の湯をカップそばに注ぎ、歌野に差し出した。それをお礼を言いながら受け取った歌野は、手ごろな木を銃剣で切って割り箸を二本作製。千景にも手渡した。
二杯目の湯が沸いた所でカップそばができあがり、先に歌野がそれに口を付ける事に。
「それじゃあ、いただきます! うん、デリシャス! 戦いの後のそばは格別ね!!」
「安物のカップそばなのだけど……」
「十分よ! また生きてそばが食べられる。それだけで感謝すべきことよ」
「そこまで喜んでくれるのなら、持ってきた甲斐があったってものね」
歌野がそばを啜る音を聞きながらお湯を沸かし、沸いた所で自分のカップうどんにもお湯を注ぐ。そうしてできあがるまで待っている間に、水都が神社の中から動きにくそうな巫女服でパタパタと走ってきた。
「こ、郡さん、焚火してもらっても大丈夫ですか? やっぱりお湯が必要な食べ物が多くって」
「大丈夫よ。一応、中から鍋と網を持ってきてもらっていいかしら。水は、持ってきた分で足りる?」
「水は土地神様が恵みで出してくれてるので大丈夫です。それと、鍋と網ですね。すぐに持ってきます!」
そして水都がパタパタと神社の中へと走っていく。
その様子を見送り、千景がバーナーで紙に火をつけて鏡で仰ぎ、焚火をしていると、神社の中から数人の子供が千景の方を見ていた。それと目が合う千景。
何か言う前に子供達の方が神社の中から出てきて、千景の方へと集まってくる。どうしよう、と歌野の方へと視線をやるが、歌野は疲れ切ってしまっていたのか、そばを汁まで完食し、銃剣を枕にして夢の中へと旅立っていた。
これに関しては仕方ない。仕方ないが、どうしたものか。
「お姉ちゃんも勇者様なの?」
近寄ってきた子供の一人が、そんな事を聞いて来た。
聞かれた以上は答えるしかない。
「えぇ、そうよ。四国の勇者なの」
「歌野お姉ちゃんを助けてくれたの?」
「そう、なのだけど……ごめんなさい。私がもっと早く来てたら、あなた達のお父さんやお母さんも……」
千景は、歌野からこの諏訪の大人たちがどうなったのかを聞いた。
歌野を一秒でも長く生き永らえさせるため、その身を犠牲にして時間を稼いだのだと。だが、千景は自責してしまう。
もし、もっと早くここに来る事ができていたら、と。もっと早く来られていたら、この子達の両親や祖父母は助ける事ができたんじゃないか、と。だから、謝罪の言葉が出てきてしまった。
だけど、子供たちは千景の謝罪を受け取らなかった。
「お姉ちゃん、ありがと! 歌野お姉ちゃんを助けてくれて!」
「え……? でも、私は……」
「パパとママは死んじゃったけど……でも、お姉ちゃんは歌野お姉ちゃんとわたし達を助けてくれたんだもん! だから、お礼しないとダメなんだもん!」
責められるかと思ったら、お礼をされた。
それに思わず千景が困惑し、次々とお礼を言ってくる子供たちにしどろもどろしてしまう。
そんな千景の元に、同年代か年上の子供たちと共に網と鍋を持ってきた水都が合流する。
「千景さんはうたのんのためにここまで来てくれたんですから、誰も責め立てる事なんてしませんよ。むしろ胸を張ってもいいんですから」
「いや、でも、私がもっと早く来てたら……」
「勇者様は死ぬしか無かった私達を助けてくれたんでしょ? なら感謝こそすれど、責めるような真似はしないって。この神社の中に、そんな恩知らずの人はいないよ。それより、この上に網と鍋を乗せればいい?」
「え、えぇ、大丈夫よ」
「って、四国の勇者様って鎌と槍を使ってるのか! なんかすっげぇカッコいいな!」
「そ、そう? そう言われると嬉しいわ」
「この後は四国に行くんだろ? 俺、体力には自信があるから力仕事は任せてくれよな、勇者様!」
「だったら野郎共で台車に小さい子乗っけて運ぶぞ! こんな可愛い勇者様が頑張ってるのんだから、俺達だって頑張らないとな!」
「じゃあわたし達は荷づくりとかしないと!」
水都と共に出てきた少年少女達がワイワイと話ながら神社の中へと戻っていく。その様子に思わず千景は口が開いたままになる。
正直、責められる覚悟はしていた。
どうしてもっと早く来てくれなかったんだ。どうしてお父さんとお母さんを助けてくれなかったんだと。そう、責められ、軽蔑される覚悟もあった。そんな汚れ役はもう慣れているから。
でも、事実は違った。諏訪の人達は、一切千景を責めなかった。助けてくれたことに感謝し、礼をいい、自分達にできる事を率先してやろうとする。恐らく、四国で同じような事が起こっても、四国の人はこうも上手く一致団結はしないだろう。
「どうしたんですか? 郡さん……って、うたのん寝ちゃってるよ……どうしよう、これ」
「と、とりあえず寝かせておきましょう? なんていうか……諏訪の人って、凄いわね。私、責められてもおかしくないって思ってたのに」
「諏訪の人はそんな怖い人じゃないですよ。みんな、郡さんには感謝してますから」
そのみんなの中には、勿論歌野と水都も入っている。
神世紀で勇者部の活動をしていたころ、よく言われた。手伝ってくれてありがとう、とか。頑張ってくれてありがとう、とか。だが、西暦に戻ってきてからは、そんな事は無かった。
自分に媚び諂う者。悪口を言う者。下心が透けて見える者。そればっかり見てきたからか、人間の美しい部分を最近は忘れていたような気がした。
しっかりとお礼を言う。こんな簡単な事をできない人間だっている。
現に千景は、一度故郷の村で身内を失った者達から責められた。だから、それが普通なんだと、西暦の人間なのだと思い込んでしまっていた。
けれど、それは違った。アレは悪性の人間だ。善性の人間は、こうも眩しい人たちばかりだ。
「……ありがとう、藤森さん」
「へ?」
「私の周り、助けられてもケチ付ける人ばっかりだったから、それが普通なのだと思ってた。でも、諏訪の人達みたいな人がいるのなら、それも戦う理由になるわ」
つい最近、若葉に聞かれた。
どうして戦うのかと。その中で千景は、園子と藤丸にカッコ悪い姿を見せないようにするため、と答えた。だけど、それがちょっとだけ変わった。
「あなた達みたいな、根っからの善人のために戦う。そんな理由も、必要よね」
当たり前のことをしてくれる人たちを、守り通す。見知らぬ誰かが笑顔で居れる毎日のために戦う。
だって、その方がもっと二人に誇れると思うし。
「さて。白鳥さんが起きたら四国へ行く準備をするわよ。私もちょっと眠るから、藤森さんや神社の中の人達も、できるだけ休んでて。一応、またバーテックスが出ていたら私が出るけど……」
「土地神様曰く、ここら辺のバーテックスはさっきの戦いで大体片付いたみたいです。多分、次に攻撃があるとしたら一週間後に、かなりの少数が襲ってくる程度らしいです」
「そう。なら安心して寝れるわね」
言いながら、千景は硬い地面で横になった。
水都がそんな所で寝なくても、とか、神社の中に布団を、とか言っているけど、千景だって何時間も走りっぱなしだったのだ。流石に疲れて眠い。
横になればすぐに眠気が襲ってきて、気が付けば千景は夢の中へ。結局歌野と千景はその後、神社内の女子陣に神社内への布団へと運び込まれ、何時間も眠るのであった。
****
千景と歌野が寝ている間、土地神様はバーテックスが周辺から殲滅され、多少無理に結界を広げても問題ないと判断し、一時的に結界を今まで諏訪を囲っていた分だけ展開。その結界内で水都よりも年上の少年少女が車やトラック等、子供たちを運ぶための車両を発見してきた。
諏訪中へと農作物を運ぶ必要があった事から、数年前から使われている軽トラや、自分達の親が使っていた車など。約十台ほどのしっかりと動く車を発掘してきた。
どうして動かせたのかを聞けば、単純に親の操作を見様見真似でやった者、自前の知識で動かした者、もうこんな時代なんだし免許なんて要らねぇ! 動かしたいなら練習して動かせヒャッハー! あと農作物運ぶの手伝えってくれや! 的な感じの思考を持った大人により車を与えられた者など、そうした者が中心となって車を探してきたという。
そうして見つけた軽トラや乗用車に限界まで人を乗せれば、結構ギリギリだが全員が収容できることが判明した。勿論、勇者達は車の上が各自のスペースである。
そして、歌野と千景が目を覚ましてからもう数台の車を発見し、その数台の車にはとにかく食料や水、土地神様の恵みで出してもらったガソリンを入れたタンクなど、移動するうえで必要な物を詰め込んだ。
「荷物運びと車両運搬、燃料確保で約一日……乃木さん達、心配してなきゃいいけど」
「そうね。千景さんは早く四国に帰らないといけないものね。一度、顔を見せに一人で戻ってもいいのよ?」
「ここまで来たら最後の最後まで付き合うわよ。私はそんな薄情な女じゃないわ」
歌野の傷は、まだ塞がらない。勇者としての力で無理矢理動いているに過ぎない。
一刻も早く適切な治療を受けなければ、どんな不幸が待っているか分からない。だから、歌野の安全のためにも早く諏訪から出る必要があった。
子供たちがそれぞれで班を作り、自分達の荷物を自分達が乗る車に詰め込み終わり、物資運搬者の運転手となる者も、車に特に問題がない事を中間管理職的な立場に収まった水都に教え、いよいよ出発の時となった。
「それじゃあ、うたのん、郡さん。わたしが土地神様から神託を貰って四国までのナビをするから、二人は車の上で警戒をお願い」
「オーライ! 任せてみーちゃん! バーテックスは一匹も通さないわ!」
「一応、藤森さんに私の携帯を渡しておくわ。レーダーが使えるから、もしそっちの方が早く気づけたら、それで指示をお願い」
土地神様は最後まで諏訪に残り、歌野達が四国に入ったのを確認してから、神樹様と一体化して神樹様の力となり、歌野に力を与え続けるという。
行軍は、大体一日。運転を交代できる者が居ないため、運転手の休憩を数時間ごとに取りながら、事故を起こさないようにゆっくりと進んでいくため、一回野宿をして翌日に四国に到着する予定だ。
千景と歌野はそれを護衛する役であり、二人は基本的に交互に警戒と休憩を挟む形で常に誰か一人が動けるようにする。そして、バーテックスが来た際は二人が協力してこれを撃破する。
「なんだったら勇者様達は適当な車の中で寝ててもいいんだぜ? 敵が来たら俺達が教えるからさ!」
「いえ、大丈夫よ。勇者は案外丈夫なの。適度に休めば何の問題も無いから、あなた達は安全運転をお願い」
「了解、勇者様!」
何ともまぁ、頼もしい一般人である。
千景は諏訪の子供の明るさに思わず笑顔になりながら、先頭車である水都も乗る車の上に飛び乗る。そして歌野は遠距離武器を持っている都合上、最後尾となる車の上に乗る。一応、車の上には柵のような物を突き刺して千景と歌野が転げ落ちないようにはしてあるが、果たして効果はあるのか。
何はともあれ、これで出発である。
千景と歌野が上に乗り、子供たちが置き去りになっていないかを車内で点呼を取って確認し、予め決めておいた運転手間でのハンドサインで問題がない事を伝え、いざ発進。
「車の上で座っているのも、案外快適ね」
千景は車の上に座布団を括りつけ、それに座っているので結構快適なドライブを楽しんでいる。車はすぐに結界の外へと出たが、周囲にバーテックスの気配はなし。レーダーを逐一チェックしている水都からもバーテックスが居るという報告はない。
諏訪周辺のバーテックスは、先日の総攻撃で粗方殲滅する事ができている。土地神様が数か月は命を繋げられるほど、相手が消耗し尽くす総攻撃だったのだ。諏訪周辺からバーテックスがほぼ消えていてもおかしくはない。一応、最悪のパターンとして、結界を出てすぐに交戦が予想されていたが、それは杞憂に終わった。
数十台の無免許車が諏訪を出て、岐阜を通り、滋賀へと向かう。
人なんていないので、土地神様ナビに従って下道と高速道路の通れる部分を信号無視で通っていく。車の時速は、無免許車が安全重視で運転しているため、大体時速四十キロ前後。香川と諏訪は大体六百キロほど離れているため、大体十五時間ほどの長距離ドライブの予定だ。
そんな長時間、結界の外に居れば勿論バーテックスが襲来する。
「郡さん、左右からバーテックスの反応があります」
「左右からね、了解。車はこの場で一度止まって。私と白鳥さんで迎撃するわ」
そんな時は一度車を止め、千景と歌野が軽く作戦会議をしてバーテックスの迎撃に移る。
傷を残す歌野よりも機動力に優れる千景が即座に右方から来るバーテックス群を撃破。すぐに車の方へと戻り、歌野が交戦しているバーテックスを二人がかりで、車に一切の傷を付けないように撃破。
そうして迎撃が終われば、休憩も後退して千景が仮眠、もしくは休憩。歌野が警戒態勢に入る。
そんな風に襲撃を何度も無傷で終わらせ、大阪に入って神戸がそろそろ見えてくるあたりで日が暮れてきた。何度も休憩を挟み、ゆっくりと運転しながら日が暮れるまでに神戸目前だ。中々いいペースで進む事ができた。
日が完全に暮れる前に車はなるべく広いスペースを確保できる場所で停止。食料と水を配給し、全員で食事を終えれば、万が一が無いために全員が車の中に戻ってそれぞれの時間を取る。
そして、千景と歌野は勿論車の外で常に警戒態勢。水都も二人と共に外に出て、いつでも神託を二人に伝えられるように待機している。
「いやー、凄かったわね、みーちゃんナビ。おかげでもうすぐ神戸よ」
「神託の受け過ぎで頭が馬鹿になっちゃいそうだよ……」
神託を受けた際のアレコレはその神託によって差はあるが、中には頭が割れそうなほど痛くなり、生死の境を一瞬ではあるがさ迷うレベルの物が来る時だってある。
その中でも一番負担の少ない神託をナビ代わりに何度も受けた水都の頭痛は、割と本気でベッドの上で暫く寝込みたいレベルだ。しかし、そんな事も言ってられないので頑張ってナビする水都。四国についたら、暫くは寝込むことになるだろう。
「ほら、みーちゃんは明日も忙しいんだし、車でグッナイよ」
「でも、うたのん達が起きてるんだし……」
「勇者っていうのは、案外丈夫なのよ。一般人の藤森さんはしっかりと休まないと」
「……そこまで言うんなら、寝てきます」
いつでも神託を、とは言ったものの、水都は明日も土地神様からのナビを伝える役に徹してもらう事になる。だから、水都にはしっかりと休んでもらわなければならない。
水都が渋々車の中に入っていったのを確認してから、千景と歌野は火に薪をくべつつ空を見上げた。
何ともまぁ、綺麗な星空だ。バーテックスがうようよと居る、星空。
「……白鳥さん、今夜は寝てなさい」
「今夜はって……見張りは交代制よ?」
「あなた、体がもう限界でしょ? いくら寝ても、傷が痛んでいるはず。戦っている時も、何度か表情が渋い時があったわよ?」
いくら勇者と言えど、体に穴が空けば相応に痛いし、動きにくい。
あの行軍中は無茶のし時だったため、千景も何も言わずに歌野と共闘していたが、それでも歌野の体は常に限界ギリギリを行っている。
病院に行けば即入院判定をくらうほどの重症。それを包帯と塗り薬程度でどうにかできるわけがない。きっと今も、血を流しすぎたせいで半分貧血みたいな状態で笑っているに違いない。
「……でも、千景さんの負担が」
「私はいいの。オールは慣れてるから。だから、白鳥さんはゆっくりと寝なさい。じゃないと、四国に着く前にポックリと天国逝きよ?」
そう言われると、歌野も休まざるを得ない。
焚火に火をくべつつ歌野をじっと見つめる千景に、歌野も両手を上げて降参。千景が車の上に括りつけていた座布団を折りたたんで枕にして横になる。
「いたたた……」
「ほら、全身痛むじゃない。ゆっくりと休んで、少しでも傷を癒しなさい」
「そうさせてもらうわ……」
千景とて、オールした後に運動となっては流石に凡ミスをするかもしれない。だが、そんな危険性よりも、歌野に休みを取らせず、彼女をぽっくりと逝かせてしまう事の方が問題だった。
故に、歌野にはしっかりと休んでもらい、明日という正念場に耐えてもらわなければならない。一度変身を解除し、着ていた上着を歌野に毛布代わりに被せてからもう一度変身。勇者状態でとにかくバーテックスがいつ来ても対応できるように備える。
「……ねぇ、千景さん」
と、そこまでやって、後は根気との勝負となったところで、横になって眠っているハズの歌野から声が聞こえてきた。
無視して早く寝ろ、と言外に伝えるのもいい。だが、そんな身も蓋もない事をするのは人としてどうかと思うので、なに? と簡単に声にこたえた。
「ちょっと前にね。勇者が二人、やってきたの。その人たちは気が付いたら居なくなってたんだけど……郡さんみたいに、すっごく強かったわ。もしかして知り合いとかじゃないのかなって……」
「……えぇ、知り合いよ」
「……マジ?」
「マジもマジ。大マジよ」
こうも言われれば隠す事でもないだろう。水を飲みながら千景は歌野が知りたいであろう情報を、未来の事はちょっとだけ隠して教える。
「一人は、三好夏凜さん。赤色の方だと思うわ。多分、髪型はツインテ。ちょっとツンツンしてて、ぶっきらぼうに見えるけど、ホントはすっごくお人好しの優しい人。もう一人は多分、楠芽吹さん。夏凜さんの知り合いで、昔は何かを競った仲らしいわ。夏凜さんほどツンケンはしてないけど、いい人よ」
「……名前も教えてないのに、二人の名前を当てるなんて、ホントに知り合いなのね」
歌野は二人の名前を、一応ながら聞いている。
聞いているとは言っても、二人が互いに呼び合っていた名前程度だが。しかし、夏凜と芽吹。その名前は歌野がしっかりとその耳で聞いた名前だ。それに、夏凜の特徴も大体合っている。
その言葉を聞いて、歌野は千景の言葉が嘘だとは言えるわけがない。本当に千景は、彼女達と知り合いなんだと理解できた。
「二人は、どこにいるの? できればお礼とか言いたいのだけど」
「一応分かるけど、私達じゃ行けない場所よ。あっ、死んだとかじゃないんだけど、色々とあって二人は一時的に諏訪に来れただけなの」
「……? ワッツ?」
もし、彼女達の働きが無かったら、歌野はここまで総攻撃を持ちこたえる事はできなかっただろう。なので、是非ともお礼を、と言いたかったのだが、生憎、二人は今未来に居る。
なので、二人にお礼を言いたいと言っても会わせられないのが現実だ。
しかし、歌野からしたら釈然としない言葉であったのも事実。首を傾げどういうことかと考えている内に、もう一度千景からの言葉があった。
「でも、近い内に会えると思うわ。その時は会わせてあげるから、今は寝なさい。寝なかったせいで死んじゃったら、二人とも多分全力で泣いて謝るわよ」
「うっ……それは流石に申し訳ないわね……」
「でしょ? なら寝なさい」
「そうするわ……ちなみに、千景さん。あなたの槍と鏡。それも、あの二人からの贈り物なの?」
「これは……私の家族からの預かりものよ。ちょっと乱暴に扱ってるけどね。けど、夏凜さんと芽吹さんの友人でもある二人からの預かりもの。だから、私も夏凜さんと芽吹さんの事を知っているの。ほら、そんな事はどうでもいいから早く寝なさい。じゃないと殴って寝かせるわよ」
「案外千景さんってアグレッシブね……貴重な情報、ありがとう、千景さん。それじゃあ、グッナイ」
「えぇ、グッナイ」
歌野からの質問に一通りの解を返した千景は、歌野がしっかりと寝たのを確認して空を仰いだ。
綺麗な空だ。だが、この空の下、千景は一人であと何時間も警戒を維持しながら待っていなければならない。
暇だなぁ、と思いながら、千景は焚火が絶えないように薪をくべ、じっと炎を見つめているのであった。
****
翌朝。歌野は一番に目を覚まし、それから続々と諏訪の子供たちは目を覚ました。
今日も今日とて四国へと移動だ。朝から出て、上手くいけば昼過ぎには四国に到着する事ができるだろう。千景は寝不足で大きな隈を作り、うつらうつらして大あくびをかましながらも、自分の定位置である先頭車の上に乗り、歌野から帰してもらった座布団に座った。
「それじゃあ、郡さん。今日もお願いします……って、大丈夫ですか……?」
「えぇ。そこら辺の自販機でパクってきた缶コーヒーがあるから……」
「腐ってません……?」
「………………さっ、行きましょ」
腐ってはいないとは思うが、匂いが明らかに危険信号を発していました。
そこら辺の動いていない自販機をぶっ壊して取り出してきた缶コーヒーではあったが、人が飲むには大分アレな状態になっているようだった。
缶コーヒーだった物を投げ捨て、本来は無免許運転体に優先的に配られるエナジードリンクや缶コーヒーを好意で分けてもらい、それで無理矢理眠気を覚ましながら千景は車の上で揺られる事となった。
神戸に入り、そこから四国へと繋がる橋を探す。
四国に渡る前に島を一つ経由するのだが、そこへと繋がる橋達は千景が通ってきた時は特に問題は無かった。それに、土地神様ナビも壊れていないから大丈夫判定を出しているようで、水都ナビがゴーサインを出す。
ゆっくりと安全運転で、橋を見つけた時には既に時刻は正午当たりになっていた。なので、橋を渡り切ってしまう前に最後の休憩を取り、そして橋を渡し始める。
しかし。
「千景さん、うたのん! 橋の前でバーテックスが待ち構えてるみたい!」
「了解。鏖殺するわ。白鳥さんは援護と、車の警備を重点的にお願い」
「えぇ、分かったわ。千景さん、気を付けて」
「こんな所で死ぬような凡ミスは、絶対にしないわ」
橋の上には、千景達の先回りをしたのか分からないがバーテックスが大量に待ち構えていた。千景は一人それの迎撃に移り、歌野は主に車を守るために千景の攻撃をすり抜けてくるバーテックス一体一体を狙撃していく。
しかし、相手には進化体バーテックスすら混ざっておらず、星屑だけ。千景と歌野が今さらその程度の雑兵に負けるわけが無かった。
車も千景の行軍と共に進んでいき、三十分も経てば目に見える範囲でのバーテックスは無事壊滅させる事ができ、車も橋を渡り切った。
その後は島の中間辺りでもう一度休憩を取り、最後の橋を渡る。そこでもバーテックスが待ち構えていたが、そこからはもうエンジンフルスロットルで千景と歌野が全力で車と並走しながら近寄ってくるバーテックスだけを迎撃し、一気に四国の結界へと向けて車は駆けていった。
そして。
「よし、結界内に入ったわ!」
「イエス! わたし達の勝利よ!!」
千景と歌野、そして子供たちを乗せた車は無事四国の結界内に入る事ができ、車もフルスロットル状態から安全運転状態へと切り替え、車内は歓喜の声で賑わった。
水都もここでようやく安堵も息を吐き、胸をなでおろした。
後は橋をゆっくりと抜けて四国本土に上陸するだけだが、そんな千景達を出迎える者が橋の本土の方から飛び跳ねてきた。
「あら、あれは……乃木さん達ね」
「千景! ようやく帰ってきたか!!」
飛び跳ねてきたのは、勇者装束に身を包んだ若葉と、そんな彼女に抱えられたひなた。それから、高嶋の三人であった。
車を一度止めてもらい、車から降りると若葉達が一目散に千景の方へと近づいてくる。
「よく私が戻ってくる時間が分かったわね」
「神樹様から神託があったんです。諏訪の生き残りを連れた千景さんが、もうすぐ戻ってくると。だから、わたし達が代表で迎えに来たんです」
「大丈夫か、千景。怪我とか無いか?」
「バーテックス、入ってきてないよね!? 来てるんなら、わたしが全部といやー! ってやっつけちゃうよ!」
「高嶋さん、そこら辺は大丈夫よ。あと、私に怪我はないけど、白鳥さんが」
四国勇者がワイワイと話していると、見かけはぴんぴん、中身はボッロボロな歌野が車から降りて若葉の方へと歩いてきた。
二人は初対面ではあるが、顔を見た瞬間、この人がそうなんだとすぐに理解した。いや、若葉の方は消去法的に歌野の事を、諏訪の勇者である白鳥歌野であると理解したのだが。
「こうして会うのは初めてね、乃木さん。白鳥歌野よ」
「あぁ、初めましてだな、歌野。乃木若葉だ。よく、四国まで来てくれた」
二人は握手し、若葉は歌野の健闘を称えるが、そこで歌野は緊張が解けたのか、その場でいたたたた、と叫びながら座り込んだ。思わず若葉と高嶋がそれに焦り、すぐさま病院に連れて行こうとする傍らで、ひなたが車から降りてきた水都と会話していた。
「えっと、藤森水都です。諏訪で巫女やってました」
「上里ひなたです。神樹様と、土地神様の神託であなたの事も聞いてました。ここ、四国と大社はあなた達、諏訪の生き残りを歓迎します」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ、細かい話は後にして、今は移動だけしちゃいましょうか。昨日の内から諏訪の皆さんを迎え入れるホテルを、大社の方で用意しておいたので、一度そちらで落ち着いてから今後の事について話しましょう。若葉ちゃんと友奈さんがそこまで案内します」
勇者組とは違い、巫女組はちょっと現実的な話をしている。生き残りと合流できたことは嬉しいが、こんな所でそれを祝っていたら色々と台無しだ。
なので、まずは諏訪組が泊まるためのホテルへと若葉と高嶋が案内する事に。
諏訪組が案内された先で落ち着いている間に歌野は千景が引率して病院へ。そして千景は自室で睡眠をとる事に。
車がひなたを抱えた若葉と高嶋の引率で動き出したのを他所に、千景は歌野を抱えて全力で病院へと向かう。
「四国の勇者と巫女さんも、凄く頼もしそうね、千景さん」
「えぇ。私の自慢の仲間よ」
仲間をほめたたえる言葉に笑顔を零しながら、千景は歌野を病院へと連れて行った。
結果、歌野は即刻集中治療室に叩き込まれて入院が言い渡され、千景は歌野が治療を受けている間に自室へ戻って球子や杏に挨拶する前にベッドに倒れ込んでそのまま眠りに就くのであった。
そして、勇者装束がしわになってしまい、どうやって洗濯しようか悩むのであった。
ぐんちゃん、戦う理由が増えるの巻。応援にはしっかりと答えてこその勇者だからね。
そしてうたのん&みーちゃん、それから諏訪の子供達が無事、四国へと到着。次回はそこら辺の後処理をしてからのわゆ本編へと入っていく事になります。
原作だと、諏訪壊滅の翌日辺りにバーテックスが襲来してきて、四国勇者の初出動……って感じでしたが、今回は諏訪を包囲したバーテックスの方が壊滅したので、少し四国への進行が遅れた感じ。ついでに土地神様が神樹様と融合したので、ちょっと結界の強度が上がっていたり。
神世紀勇者の到着はまだまだ先。のわゆの先行きというか、流れが一気に悪い方向へと転じてしまったあの戦いで神世紀勇者を参戦させる予定です。なので、中盤辺りまでは本当に原作沿い……になりますね。
では、また次回!