という事で今回は諏訪勢の、アレコレが公表されてからの話&やっぱり不安定になるたかしーの話。
もう一番最初みたいに色々とカットしてしまった方がいいんじゃないかと思った今日この頃。だってバーテックスにこの頭勇者部共が負けるわけないですし。
勇者達の戦いの記録が報道されてからすぐ、諏訪の事についての報道がなされた。
現在入院中である歌野は声明を発表できないため、大社からの事務的な報道と、若葉本人による諏訪の生き残りの収容を知らせる言葉。
ほとんどの人はその報告に喜んだ。
しかし、一部の人間はそう思わなかった。
諏訪にも勇者が居た。その勇者は現在傷つき、重傷を負ったため入院中である。この情報も大社が情報の一環として流してしまったせいで、一部の人間が悪意を持ってしまった。
『諏訪の勇者は負けたんだろ? そんなのを置いておいても無駄だろ』
『四国だけでも手一杯なのに諏訪の人間なんてどうする気だよ』
『諏訪の勇者を助けに勇者達が諏訪に向かったらしいけど、その間にバーテックスが来たらとか考えなかったの?』
『やっぱり勇者なんて無能の集まりだ。大社も無能だ』
そんな事を匿名だからといいことに書き出す人間が、何人も。
そして、同じようにテレビ番組すら、悪意を持って噛み付いてきた時もあった。諏訪の勇者は重傷を負って戦えない。しかも、バーテックスにそこまでやられたのなら、やはり勇者はいらないのでは。
勇者なんて居ない方がいいのでは、なんて言いだす者まで現れた。
ローカルのテレビ局だったり、四国内に本拠地を構えるテレビ局だったり。その全てが歌野について否定的だったわけじゃない。しかし、有識者だなんて免罪符を被ってそんな事を言う人でなしが出てきてしまったのは、事実だった。
「……どうも、わたし達は四国の人に全面的に受け入れられたって訳じゃ、ないみたいね」
「……本当に、面目ない事だ。どうして人はこうも……!!」
諏訪の人は、優しかった。
歌野が戦い、背中を向ける事に心を突き動かされ、彼女と共に生き抜くことを決めた諏訪の人達と比べ、四国の人は悪意が過ぎた。
諏訪は小さかったから、歌野の声が全面的に届いた。そして、勇者の事も諏訪では誰もが知っていることだった。しかし、四国はつい先日、やっとその情報を明かしたばかり。そして、諏訪の何倍も広い土地と何倍もの人口を有している。
勇者がどれだけ頑張っているかを知らしめるには、いささか四国は広すぎたのだ。
「まぁ、別にいいわ。今が駄目でも、じっくりゆっくりと認めてもらえばいいもの。諏訪だって、最初はみんなヒッキーだったもの」
とは言うが、少し歌野は辛そうだった。
人は、最悪の脅威を前にしたら分かり合う事ができる。手と手を取り合う事ができる。未来を紡ぐために、その身が犠牲になろうとも構わないという黄金の精神を持っている。
それを信じているからこそ、歌野は四国の現状に、少し悲しさを覚えてしまった。
若葉はそれにすまない、と謝るのみ。既に諏訪の生き残りの子供達はそれぞれの学校、職場に移るためホテル暮らしを次々と止め、寮などに引っ越しをしているらしい。
歌野が見るテレビには、そんな諏訪の子供へと大社の護衛を振り切ってインタビューしている様子が映されていた。
『君は、勇者についてどう思う?』
『勇者様……歌野お姉ちゃんの事? 歌野お姉ちゃんは凄いんだよ! バーテックスを全部倒しちゃうくらい強いんだ!』
『でも、諏訪から来たのは君達だけなんだよね? お父さんとお母さんは?』
『パパとママは、死んじゃった……でも、歌野お姉ちゃんはその分頑張ってくれたの! 四国からも勇者様が来てくれたし、勇者様は本当に凄いんだよ!』
「……インタビューだからと人の心を抉る馬鹿があるかッ」
親が居ない理由なんて、少し考えれば分かる事だろうに。それを分かっていながら、声に出させるなんて。
そこまでして歌野を非難する声が欲しかったか。
若葉はテレビの電源を切ろうとしたが、それを歌野は止めた。大丈夫だから、と。
『でも、諏訪の勇者の子は、お父さんとお母さんを守ってくれなかったんでしょ?』
『違うよ! でも、歌野お姉ちゃんはずっと一人で頑張ってて……パパとママは歌野お姉ちゃんのお手伝いがしたいからって言って戦ったんだもん! わたしもお手伝いしたかったけど、パパとママは元気でねって!』
そして、インタビューの映像は終わった。
その後にスタジオでその映像を見ていた有識者は言う。諏訪の勇者は、大人を盾に使い諏訪に逃げてくる日まで戦ってきたんじゃないか、なんて。
子供の声からそこまでの悪意を作り上げる。思わず若葉が拳を握り、歌野は悲しそうな顔をするだけ。
これが、四国の現実だ。
勇者を受け入れたくない。自分達の知らない者を排除したい。普通じゃ無い物を排除したい。少しでも自分がいい気になりたい。倫理的に間違ってる云々と言い、勇者を否定しようとする者が居る。
「……大社に行く。この有識者とやらと話を」
「いいのよ、若葉さん。私が最後、大人のみんなを盾に使って時間を稼いだのは、事実よ」
「違う!! 諏訪の子供達から私は聞いた! 諏訪の人達は未来へと子供たちの命を繋ぐため!! 自分達の命を子供たちの数秒へと繋ぐために戦った英雄だ!! この番組が言ったのは、その気高き魂と歌野の苦しみを全て侮辱する言葉だ!! 許していい言葉じゃない!!」
若葉も、諏訪の人の事は聞いた。
諏訪の子供達を連れて行く際に、不躾に聞いてしまった。若葉はその時の自分の言葉を恥じた。大人はどうした? という言葉を何も考えずに言ってしまった自分を、恥じた。頭を下げ、謝りもした。
諏訪の人達は、それを許した。知らなかったんだし。四国の勇者は自分達を助けてくれたんだし。事実だし。そんな事を言って、全力で若葉を許した。
そして、真実を聞いた。真実を聞き、若葉はその胸にしっかりと諏訪の人達の想いを刻んだ。今は動けない歌野に代わり、この子たちを全力で守ると。
だと言うのに。
「若葉さん、いいの。仕方のない事よ」
歌野は、首を横に振った。
若葉はそれが悔しかった。歌野にこんな事をさせてしまう事が。こんな事をさせても平然としているこの地に住む人が。
「っ……!! クソっ!! どうして四国はバーテックスという共通の敵を見て団結ができないんだ!! こんな事なら、もっと早く私が勇者である事を公言し、悪意を持つ者を浄化すべきだった……!! 情けない……本当に、情けない……!!」
この世界は、まだ人が一丸となっていない。
もしかしたら、バーテックスとの戦いはあと百年以上、早かったのかもしれない。もっと人が共通の敵に危機感を覚え、自分のために戦う者達を応援し、せめてもの手助けをし、共存していく世界になってからでないと、バーテックスは。
若葉の情けないという言葉に、歌野は何も言わなかった。
四国は、少し可哀想な所だ。なまじ広いだけに、色んな思想を持った人がいる。その思想の中には悪意を含ませている人もいる。そんな人が団結できてしまう土地。
この地は、バーテックスを相手にするには十分に広い。だが、同時に広すぎた。
人の団結には、まだまだ時間がかかりそうだと、歌野は窓の外を眺めながら夢想し、俯く若葉に大丈夫、の声をかけた。
「いいのよ。本当にわたしは気にしていないわ。ただ、唯一気にしていると言えば……」
そう、歌野はこの事を気にしてはいない。
気にしてはいないが……
「よくもこの間逃げてくれたわね? 尿瓶プレイは一応どうにかなったけど……後は、分かるわね?」
「じゃあの!」
「逃げるなぁ!!」
この間、自分を見捨てて逃げた勇者達の事は根に持っている。スタイリッシュに窓から飛び降りて去った若葉は後ろから聞こえる歌野の声を無視して走って逃げたのだった。
ちなみに、歌野の貞操はまだギリギリ守れている状態である。尿瓶は突っ込まれなかったが、いつか違う物が突っ込まれるんじゃないかと不安になってきている今日この頃。みーちゃんは好きだけど、なんか愛が受け止められないほど重くなったんですとは歌野の言葉。
****
四国勇者のメディア露出は、留まるところを知らない。
あっちこっちに勇者達は呼び出され、あっちで撮影、こっちでインタビュー、そしてテレビカメラに見つかれば追われる。そんな忙しい毎日を送っている。
高嶋が切り札を使用したことによる後遺症が無いかの検査のため検査入院しているため、そんなメディア露出のヘビーローテーションを四人が一身に引き受け、毎日毎日メディアからのアレコレに答え、そして帰れば訓練し、終われば死んだように眠る毎日。一応、一日ずつ休みをローテーションしているのだが、この忙しい毎日が終わるにはもう少し時間がかかりそうだった。
「あーもう、気が狂う程、気が狂う!!」
「乃木さん、汚い」
「仕方ないだろ!? 毎日毎日外に出ればカメラの光に目を焼かれ、飯を食いに行けばどこからかマスゴミが駆けつけ、部屋に居れば大社の職員からインタビューが来てるから出てくれと!! 髪が抜けてないか心配になるレベルでストレス溜まる!!」
「ほらほら、若葉ちゃん。落ち着いてください」
「もう疲れたよひなたぁぁぁぁ!!」
「若葉さんが幼児退行してる……」
「気持ちはわからんでもないがな……」
若葉が幼児退行しているが、そうやって現実逃避したいのは何も若葉だけではない。
千景だって最近はゲームをやる時間を奪われてちょっとご立腹だし、球子も杏も自分の趣味に使う時間を全部別の物に使わなければならないのだからフラストレーションが溜まっている。
それを解消したいが、解消するためにどこかに行こうとしたら周辺をウロチョロしているマスコミに捕まり、部屋に居れば暇しているんならとインタビューに連れていかれる。
もう疲れた、というのが西暦勇者の本音だった。
「すみません、勇者様方。どなたか、雑誌のインタビューのため……」
「もうやだ! タマはあんずと部屋でごろごろするんだ!!」
伝令役の大社職員が来た瞬間、球子が杏に抱き着く。球子まで幼児退行してしまった。
「た、タマっちせんぱ……!? う、うへへへ……」
そして人前に出してはならない顔をし始める杏。
若葉は現在幼児退行中。こうなると、逃げ場のない千景が行くしかなくなる。イラッとしながら手に持っていた携帯ゲーム機を机の上に叩きつけ、仕方ないからと千景がインタビューに向かう。
その様子をひなたが見送り、はてさてどうした物かと現在の惨状を見渡す。
見渡すとは言っても、ひなたの膝に顔を埋める若葉と、杏に抱き着く球子。人前に出せない顔をする杏。そろそろ西暦勇者も人としての部分が駄目になってきたかもしれない。
とりあえずひなたは若葉を抱き着かせたまま、冷凍庫からあまーいアイスを取ってきて若葉に渡し、食べさせる。若葉はとても幸せそうな表情でそれを食べ始めた。
「うへへへへ……タマっち先輩ちっちゃいしかぁいいよぉ……」
「あんずぅ……もう人前は暫く嫌だ……」
「な、ならタマっち先輩、わたしと一緒に部屋で気持ちいい事を――」
杏がとうとう球子に手を出そうとしたその瞬間、三人の携帯から音が鳴った。樹海化警報の音が。
直後、流石に杏を一度正気に戻すために立ち上がろうとしていたひなたが動かなくなり、この時間は勇者だけのものになる。
なるのだが。
『……は?』
若葉&杏、ブチギレ。
若葉のアイスはアイス本体とスプーンが空中で不退転を決め込み、動かない。いくら力づくで引っ張っても動かない。食えない。
そして杏は折角球子とオタノシミできるかと思ったらコレだ。
キレないわけがない。
あまりのタイミングに二人がブチギレ、は? と呟いた瞬間、世界は樹海へと変貌する。
『…………ハァ?』
若葉のアイスはツタに飲まれ、オタノシミの時間だと思って興奮していた杏は強制的に戦場に立たされ、ブチギレ。
「よし、これでインタビューから逃れ……ごめんなさい、悪鬼羅刹の集会と間違えました」
「樹海化したのに検査入院とか暇オブ暇だからわたしも参……ごめんなさい、和製妖怪の集いと間違えました」
その様子を見た、インタビューから逃げる事ができちょっとご機嫌だった千景と、樹海化したのに樹海化した病室内で寝ているなんて暇なのでできず参戦した高嶋がそっとキレた二人から距離を取った。
だって表情と雰囲気が悪鬼羅刹のソレなんだもん。
あまりの雰囲気と恐怖に二人は思わず抱き合い、カタカタと震える。流石の千景も恐怖するほどの怒気を、あの二人は出しているのだ。
「た、高嶋さん。病院から抜け出してきちゃダメでしょ……?」
「だ、だって暇だったし……体は何ともないから、大丈夫だよ……」
とは言うが、ちょっと離れた場所に居る二人がやべー。
球子はあんずぅあんずぅと未だに抱き着いているが、若葉と杏の表情がただの妖怪のソレだ。見た事ないレベルでキレている。だが、キレていても抱き着いている球子を絶対に離そうとしない杏を見ると、なんだかいつも通りだなぁとは思う。思うが、雰囲気と表情が鬼である。
これには思わず千景も高嶋も一緒に距離を取るレベル。そっと無意識に抱き合っていた状態から一度離れ、二人で少し離れた所で変身し、杏も一度球子を宥めて離れてもらってから変身する。
「……なぁ杏。やるこたぁ、分かってるな?」
「えぇ若葉さん。分かってますとも」
キレた二人が武器を取り出し、樹海の先を見る。
今回の敵は、前回と同じ百ちょっと。しかし、それは十分に樹海の先に白い壁を形成するに至る。
それを見た二人は、おじけづくことは無い。グラサンでもかければ某コマンドーみたいな感じの雰囲気を醸し出しながら、それぞれの武器を肩に担いだ。バーン。
「アイスの恨みだ。ぶっ殺す!!」
「サモン、雪女郎!! KILL’EM ALL BABY!! Hiyahaaaaaaaaaaaa!!」
『ちょっ!?』
そして杏、まさかの切り札使用。
雪女郎を自らの中へと宿し、勇者装束が変化する。同時に冷気が吹き荒れ、杏がヒャッハーと叫びながらクロスボウ連射。連射速度があまりにも早いからか、冷気を纏った矢がビームみたいな感じで一直線にバーテックスの方へと伸びていき、着弾。
同時に、バーテックスの半数以上が一瞬にして凍り付いた。それを確認した杏は、クロスボウの銃口に息を吹きかけ、さもライフルを撃ったような感じで肩に担ぎ切り札を解除した。
一応、まだ残っていた理性が切り札という曖昧で危ない物を継続的に使うと危ないかも、と判断して切り札の使用は十秒未満で抑えたが、果たして。
まさか切り札を使うとは思っていなかった千景&高嶋。そして、急に冷気を感じた球子は思わず声を上げたが、しかし若葉は声を上げなかった。
それどころか、いねぇ。
杏の隣からいつの間にか姿を消してやがる。どこだ、と探せば。
「ハハハハハハ!! 冷気に乗って我参上!! さぁ疾く死ね豆腐共が!!」
『はぁ!!?』
野武士はなんと、杏の攻撃にわざと巻き込まれて冷気に吹っ飛ばされ、最短で真っ直ぐにバーテックスの元へと一人突貫していた。しかも杏が即座に援護に入り、五十のバーテックスを相手に立ち回る若葉が後ろから援護をもらいひたすら暴れるという地獄が繰り広げられていた。
一応、千景と高嶋、球子も走って若葉の援護に向かったが、着いた頃には若葉と杏が残り半数以下の敵を更に半数以下にまで減らしており、なんかもう色々と滅茶苦茶だった。
勿論その後はバーテックスを進化体にする間も与えずに相手を完封。二戦目は、食い物の恨みをぶつけた野武士と暴走したレズのほぼ二人だけでどうにかこうにかなってしまったのであった。
樹海化は解け、全員が元の世界へと戻る。時も進み始め、四国の結界内はいつもと変わらない時間を再び歩み始める。
「ふん、所詮は豆腐のバケモノだな。一昨日きやがれ」
「タマっち先輩とわたしの閨事を邪魔した罪は重い……!」
何言ってんだこいつ、という視線を千景は若葉と杏に向け、球子はよく分からないのか首を傾げ、歳相応にはそういう言葉を知っているらしい高嶋は杏の言葉にちょっと顔を赤くしていた。
二回目の四国防衛戦は、こうして二人の勇者を基点として無事、犠牲無く突破できたのだった。
****
結局、病院を抜け出した高嶋はその後、こってりと叱られた。
同時に二度目のバーテックスの撃退は四国の人への勇気となったらしく、勇者を肯定する意見も増えてきた。そんな勇者を疲弊させるような、過度なインタビューも徐々に減り始め、時折インタビューこそまだ来るが、それでも勇者達は自分達の時間を確保する事が容易くなった。
黒い意見も目立つ今の世の中だが、勇者全体をポジティブな意見で受け止めている者も勿論少なくない。いや、黒い意見が目立つ程度には白い意見が多い。
しっかりと今の現状を見極め、勇者しか対抗手段が無いからこそ、勇者に全てを託し、願い、応援する人の方が割合は多い。しかし、その白を黒で塗りつぶそうとするメディアも存在する。
そんな物を見るたびに高嶋はどうしようもない感情に心を塗りつぶされるが、しかし、今の高嶋にそれらをどうにかする術はない故に、拳を握って溜め息を吐くしかなかった。
精神にダメージを与えてくる黒い話は尽きない。高嶋はそれを思い出しつつ、病室から外を眺め、ボーっとしていた。
何せ、病室なんて暇の塊だ。杏から借りてきた小説も読み終わってしまい、ゲームも持ってこなかったのでやる事が無いし、時折嫌な事を思い出しては溜め息を吐いてしまう。検査自体は数分で終わるのだから、検査が終わり次第結果はまた後日、という事にして帰らせてほしかった。
一応、歌野の見舞いのついでに水都が何度か高嶋の元へと訪れてくれたり、高嶋が歌野の病室に遊びに行ったりするし、千景も結構な頻度で来てくれる。しかし、暇な時間というのはどうしてもできてしまう。
つまらない、と今日何度目かの溜め息を吐いて窓の外を見るしかない。
体が鈍りそうだと思ってしまうのは勇者の性。ボーっと外を見れば、ふと見知った顔を外で見かけた。
「やっと辛気臭い病室から解放されて、気分アゲアゲよ!」
「まだ車椅子から降りちゃダメって言われてるけどね」
そう、同じ病院で入院している歌野と、そんな彼女の見舞いによく来ている水都だ。
どうやら今日から車椅子でなら病院の敷地内なら出歩いてもいいという許可を貰えたらしく、歌野の表情は明るく、水都の表情も同様に明るい。いいなぁ、と思ってしまうが、しかし車椅子だったら病室にいるのと変わらない、とも思ってしまう。
別に病院内を歩くのなら、ある程度は許可されている。トイレは病室内にあるため、精々行くとしたら売店程度だが。その売店でも買えるものは限られており、水や本程度しか買う事ができない。
本当に、暇だ。水都のように千景ももっと頻繁に来てくれないかな、と思わないでもないが、しかし千景も忙しい身だ。考えるだけ駄目、というもの。
「あ、あの、誰ですか、あなた達」
と思っていた時だった。
外から、水都の困り声が聞こえてきた。意識を戻し外にいる歌野達の方を見れば、そこにはカメラを持った男と、マイクを持った女性が。
無意識に高嶋は拳を握ってしまう。
アレが、悪意を発するかもしれない存在。
アレが、勇者達を殺すかもしれない存在。
アレが、千景を虐げるかもしれない存在。
「諏訪の勇者の、白鳥歌野さんですよね? 少し、お話をよろしいですか?」
「ごめんなさい、うたのんは今怪我をしててあんまり無茶させられないんです。また今後、大社の方を通して……」
「いいのよ、みーちゃん。話す程度なら別にどうって事ないわ。ただ、わたしもあまり多くを語れない立場だから、インタビューの様子を自由に使うのは大社に許可を取ってからにしてほしいわ」
高嶋が拳を握っている間に話は進んでいく。
歌野の表情は穏やかだが、水都の表情はとても険しい。
当たり前だ。彼女も諏訪の人達の意見がどれだけねじ曲がった状態で受け入れられようとしているのか。歌野がどんな存在として受け入れられようとしているのか、知っている。だからこそ、そんな人たちに歌野を差し出すなんて真似、できるわけがなかった。
だが、歌野はそれでもいいと水都を止めた。
一応、何かあった時のために大社のフィルターを通す事を約束させて、だ。
――そんな約束、守られるわけがないのに。
「では。白鳥歌野さん、あなたは諏訪で三年間バーテックスと戦ってきたのですよね?」
「えぇ、そうよ」
「ですが、四国へと逃げてきた諏訪の人達はかなり少ないようですが、そこに至るまでに何があったんですか?」
「……諏訪では樹海化が起こらなかったから、どうしても人のいる場所で戦わざるを得ず、犠牲が出てしまった事は一度や二度ではないわ。それを免罪符にする気はないけど、力不足で守れなかったのは事実よ。そして、みんな知っている通り、最後は大人の人達全員が結界の外で戦い、死んだわ。生き残りが少ないのは、それが理由よ。それほどまでに、わたし達はギリギリを生きていた」
歌野は、何も悪くない。
悪いのはバーテックスだ。歌野は、本来滅びるしかなかった諏訪の人達をその手で救い続けた。そして、最後は百数人もいない僅かな生き残りを引き連れ、四国へと来る事ができた。
歌野は、諏訪の人を救った救世主だ。
何も、悪くはない。
「白鳥さんは、大人の人達を見殺しにしたと?」
「……したわ。大人の人達の死を受け入れて、動かなかったのは――」
歌野は、あの時の事を忘れることは無い。一生、その胸に刻み続ける。
あの犠牲は必要な犠牲だった。だが、同時に歌野が起こしてしまった犠牲でもある。
そう思っているからこそ、歌野はそれを認める。諏訪の大人たちが死ぬまでの僅かな時間を自らの糧とし、一秒を勝ち取ったのだから。その一秒こそが、諏訪を救ったのだから。
例え何と言われようと、歌野は大人を犠牲にした事を認め続ける。
だからこそ。
「うたのん、そんな事言っちゃだめだよ!! あなた達も、どんな神経でそんな事を言ってるんですか!!」
水都が、それを止める。
あれは仕方なかった事だ。歌野がその身に刻む罪ではない。
大人たちが託した時間を、大人たちの決意を、歌野の罪として刻ませるわけにはいかない。だからこそ、水都が歌野の前に立ち、矢面にその身を晒す。
「諏訪のみんなは、うたのんしかわたし達を、子供たちを守れないから、一秒でも長くうたのんに休んでもらうために戦ったんです! 見殺しとか肉壁とか、そんなの酷い言葉でそれを纏めないでください! わたし達は、あの人たちの大きな背中に守られたんです! 罪を背負わなければならないのなら、それはうたのん以外の諏訪の人達全員が背負うべき罪です。うたのんだけを責めてうたのんを……勇者を悪者にするのは、やめてください!」
水都の声は、怒りを含んでいた。
見殺しにした。肉壁にした。そんな言葉は、歌野と、それ以上に諏訪の大人たちを侮辱する言葉だ。そんな言葉を、認めるわけにはいかない。罪としようとするソレを、歌野だけに背負わせるわけにはいかない。
歌野は悲し気な表情を浮かべたままだ。あの日あの時、自分がもっと戦えていたらという後悔に。戦える者のみしか感じる事のできなかった後悔を、ずっと背負っているから。
だから、そんな後悔を罪としようとする言葉は、水都が受け止める。
「で、ですが、白鳥さんが戦えば……」
「じゃああなた達は、うたのんに死ねって言うんですか。うたのんが死ねばよかったとでも言うんですか!? 連日連夜戦い続けて、眠る暇もなくバーテックスと戦い続けて、自分よりも強い敵を何度も何度も倒して、肉体的にも精神的にも限界だったうたのんに戦わせて! 勇者は機械でも兵器でもなく、普通の女の子なんですよ!? なんでそれが分からないんですか!?」
「み、みーちゃん……それ以上は……」
「うたのんは黙って。うたのんは優しすぎるから、黙ってて」
そんな言葉を諏訪の人に言ってみろ。
その言葉には全力の怒りが返ってくる。命の恩人を侮辱し、守り通してくれた勇者に死ねと告げるその言葉に、諏訪の人達は怒るだろう。
水都だってその一人だ。そんな言葉に、平然として居られるわけがない。
普段から人前に出る事が苦手で、自分の意見を伝える事も苦手な、奥手な女の子である水都ですらここまで怒りを顕わにする言葉を、諏訪の子供達が許せるわけがない。
「何を言いたいのか分かりませんけど、これだけは言います。わたし達諏訪の人間は、何があってもうたのんを責め立てる事はありません。諏訪の子供達に匿名のアンケートをしたってそれは変わりません。それもせず、わたし達が見てない所で何を言おうと勝手ですけど、そこにわたし達を巻き込まないでください。不愉快です。話しかけるなとは言いませんが、勝手な憶測をこっちに押し付けるのなら、もう二度とインタビューや会見なんて物、生き残った諏訪の人間の代表としてこのわたし、藤森水都が許しません。では、さようなら」
もっと別の事を聞けば、こうもならなかっただろう。
だが、水都の中には怒りの感情しかない。歌野を悪者に仕立て上げて四国の勇者を陥れる材料にしようとしている質問に。
四国の中にある、大人たちの汚い思想に。
こんな事態になってしまった事は、勇者も巫女も大社も悪くない。
悪いのは、悪意を持った人間だ。
四国の人間全体を恨まないよう、水都はそれを何度も何度も心の中で反復させ、歌野の車椅子を押して病院の中へと歌野を連れて行く。
「……水都ちゃん、凄いなぁ」
その様子を、高嶋はずっと見ていた。
彼女は、力を持たないのに歌野をああやって守ってみせた。
かつて、高嶋は千景が悪意に晒された時、動けなかった。あんな人の悪意をその身で受けた事が無いから、動けなかった。
けど、今は違う。
悪意を知った。どうしても芽生える人の悪意を知った。その悪意が与える恐怖を知った。その悪意が与える害を知った。
だから、守らないと。
もう二度と、千景があんな悪意に晒されないように、守らないと。
「……ぐんちゃんは、わたしが守るんだ。水都ちゃんみたいに、わたしが……!!」
守らないと。
結果が全て、という言葉はありますが、その言葉に捉われてそこまでにあったアレコレや本人達の意志、被害者達の言葉を一切合切無視して自分達の意見を、さも正義の言葉として発信する者はいつの時代にも居ます。勿論、ここの四国にも。
バーテックス戦は原作とは違い、杏が十秒程度切り札を使用したのみで無事終了。なんかちょっと若葉と杏が壊れましたが、まぁいつもの事です。タマっち先輩、よかったね。可愛い後輩にレ〇プされなくて。
そんな一幕があった後に、諏訪勢へと忍び寄った悪意。うたのんに精神攻撃を仕掛けた結果、みーちゃんがガチギレ。当たり前だよなぁ? もし、うたのんが切り札を使用して精神汚染されていた状態でこうなっていたらと思うと、割と洒落にならない状況だったり。
それを病室から見てしまったたかしー。あんな悪意にぐんちゃんが晒されたら……と思った結果、やはり暴走率が増えていく。これで酒呑童子とか使った暁には……