今回はバーテックス戦三回目……ではなく、その一個先のイベントである演武の方の話です。三戦目は、まぁ皆さんお察しのように大体原作よりもちょっと勇者優勢状態で話が終わるのでカットです。
演武の方は原作ではサラッと流されたのであまり追求するつもりはなかったのですが、結構前のひなた回でちょっと触れた物についてちょっと触れようと思いまして。
公的に二回目のバーテックスの戦いとされる四国内での戦いからすぐ、勇者達は三度目の戦いへとその身を移す事となった。
三度目の戦いでは新たな進化体バーテックスが現れ、高速で走るソレが神樹様へと迫ったものの、球子と杏を中心とした遠距離攻撃部隊による攻撃による足止めからの連撃によりなんとか進化体バーテックスを撃破。そして星屑を掃討していた三人も怪我無く戦いを終える事ができ、三度目の戦いも無事勝利を収める事ができた。
ちなみにその際、球子が高速で走る進化体バーテックスの足止めとして最高級うどん玉を投げたが、見事に無視され勇者全員が驚愕で固まったというちょっとしたギャグもあった。
しかし、三度の戦いを終え暫く経った頃には戦いが始まった八月頭から既に四か月の時が経過し、二千十八年は終わろうとしていた。
「バーテックスも案外のろまだよな。だって八月頃に二回来て、数か月前に一回来ただけだぞ? もっとこう、激しい攻撃が来るとか思ってたんだけどなぁ」
そう、二千十八年内での戦いは、たったの三回のみ。
一回目と二回目の戦いは、あまりスパンが空かなかったが、二回目から三回目の間は数か月のスパンがあった。若葉達はもっとバーテックスの攻撃は激しく、一か月以上のスパンが空くなんて思っても居なかったので、ちょっと拍子抜けしていたりする。
もしかしたら今来るかも、とは思わないでもないが、ひなたと水都が神託で暫くはバーテックスはやってこないという物を受けており、名実ともに現在の四国は安全地帯となっていた。
しかし、だからこそ不完全燃焼な球子の言葉に答えたのは、つい最近、新たに若葉達の特別学級へと編入してきた一人の勇者だ。
「最初はそんなものよ、球子さん。バーテックスは徐々に攻撃の頻度を増やしてくるから、今のうちに休むのがベストよ!」
「まぁ、歌野の言う通りだ。いつか私達は攻勢に打って出る。それまでの時間を相手が作ってくれているのだ。今のうちに休んでおくことが一番だな」
その一人というのは、勿論歌野の事だ。
歌野はつい先日、ようやく体に空いた穴などが塞がり、長い入院期間があったせいで衰えた筋力などもリハビリでなんとか元に戻し、年明け寸前に水都と共に学級へとやってきたのだ。
二人も若葉達と同じ寮に住む事となり、諏訪の子供達も今は無事、それぞれの学校に馴染んでいるという。
そんな情報を引っ提げつつ編入してきた歌野であったが、彼女の勇者としての力はまだ全て戻っているとは言えない。大社と復活しかけている土地神様の尽力により、歌野の勇者装束は何とか元に戻ったものの、鞭の方が未だに紛失している状態なので、銃剣を持てば一応戦えるものの、他の勇者達と比べれば見劣りする程度の戦力しか持っていなかった。
「それよりも、土居さん。あなた、演武の方の準備とかできたの? 一応、パフォーマンスを考えてやってくれって言われた事だから、今までみたいなのよりも派手にしなきゃダメなのよ?」
「えー。別に今まで通りでいいだろー?」
「そうですよ、千景さん。あんまりわざとらしいパフォーマンスだと、大社の人から怒られるかもしれませんよ?」
そんなダレている球子に声をかけたのは千景だったが、千景の言葉に球子が反論し、水都も球子の意見に乗った。
演武。それは、大社主導で行われるお祭りイベントのような物で行われる物であり、勇者がどのように戦うか、どんな風にバーテックスを倒してきたのかを披露する場だ。
大社の狙いとしてはそこで勇者達に演武をしてもらい、一般人と勇者の間では隔絶した戦闘力の差があることで文句を言っている者を黙らせつつ、勇者を信じている者達への希望となるように自分達が信じている者の強さを見せつける。そんな狙いがあった。
これに出るのは、若葉、球子、千景の三人だ。歌野も本来は参加しようとしていたが、明らかに戦闘力の差が出てしまうので、今はまだお留守番という形になった。
高嶋と杏は恥ずかしいから、とこれを拒否。元より強制イベントではないので、大社はそれを了承した。千景も恥ずかしいっちゃ恥ずかしいのだが、なんかこう、ノリで普段はできない技をやっても怒られないかも、と参加を表明した次第だ。
「そうかしら……? こういう時こそ思いっきりパフォーマンスした方が……」
「いや、ここは水都の言う通りだな。あんまりわざとらしいと、ふざけて戦っているのかとか言われかねんぞ。特に千景、お前は戦闘スタイルがスタイルだ。にわかからはちょっとふざけたら何を言われるか分からん。まぁ、球子の態度はちょっと問題があるがな?」
「うっ……そ、それもそうね。ちょっと浮かれていたみたい」
「別に本番はキッチリするからいいだろー?」
「そうね。今はそれぐらいでいいけど、本番はベストを尽くすのよ?」
ちょっと浮かれた感じでいた千景だったが、結局は浮かれている所を指摘されて謝った。
なにせ、千景の戦闘スタイルはかなり特殊。長物二つに鏡という、普通だったら選ばないスタイルだ。鎌というただでさえ使いにくい刃物と、槍、そして鏡。これを自在に使いこなすのを見せる場でふざけてしまったら、本当に千景がそれらを使いこなせるのか怪しくなってしまう。
そこを突かれたら自分達から弱みを見せてしまうのと同じだ。黒い意見が絶えないこの西暦の世、あんまりふざけすぎるのも良くない事だ。
球子の今のぐでーっとした態度も、ちょっと目に付く事には目に付くが、しかしそれは緊張なんてしていないという事とほぼ同一だ。本番にキッチリとしたら何も言うことは無い状態なので、若葉も歌野も、本番は気を付けるように、と言うだけ。
「まぁ、大衆受けする動きをしろ、というのも事実だがな。お前の槍はちょっと光らせるだけで大衆受けするし、それでいいだろ?」
「それもそうね。ちなみに乃木さんはどんなことを?」
「一応、居合と適当に立ち回るくらいか。後は、千景がやっていたゲームからちょっとした技をやるくらいか」
「あら意外。乃木さんの事だから、藁とか的を食い散らかすかと」
「ん? ちょっと私の認識についてお話が必要みたいだな、千景よ? ん?」
「だって乃木さんだもの」
「そろそろキレるぞおい?」
「はいはい。ドーモスミマセンデシタ、ペッ!!」
「めっちゃ凄みながら謝った上に地面に唾吐き捨てた時点で斬り殺しても問題ないよなぁ!?」
ニコニコとしながら二人でにらみ合う。こいつら仲がいいのか悪いのか。
と、ここで暫くカメラマンに徹していたひなたが自身の携帯に来た通知に気が付き、携帯の画面を見てからすぐに歌野の元へと歩いた。
「歌野さん歌野さん」
「ん? どうかした?」
「歌野さんが退院前から言っていた畑の事ですけど、大社が土地を用意できたみたいなので、明日からそこを好きに使っていいとの事です」
ひなたの携帯に来た通知とは、大社からの伝令だった。
歌野が退院一月前からずっと、四国でも畑を作ってそこで農作物を作りたいと懇願しており、大社もそれに応えるために土地を用意しようと頑張っていた。
その結果、歌野が使える土地を無事用意する事ができたらしい。
「リアリー!!?」
「丸亀城から少し離れますが、なんとか用意できたとの事で。今日、下見に行きたいですか?」
「えぇ、ぜひ!」
「それじゃあ、歌野さんと水都さんの端末に位置情報を送信しておくので、どうぞお二人でデートにでも」
「ありがとう、ひなたさん! じゃあ、みーちゃん! 一緒に行くわよ!」
「う、うん! う、うたのんとデート……でへへへ……」
テンションが上がりまくった農業王は水都の手を引っ張って携帯片手に自分に用意された畑に向かって行った。
それをひなたは手を振って見送り、そして改めて勇者三人の方を向いた。
なんかバチバチしている若葉&千景、ぐでーっとしている球子。なんやかんやでこの三人は一緒に居る事が多い三人組だが、高嶋と杏が居ないのがなんだか珍しい。ひなたも若葉の居場所なら二十四時間いつでも分かるのだが、流石に高嶋と杏の居場所は分からない。
なのでちょっとその二人はどこに居るのだろうかと考えると、またもやひなたの端末に通知が。その通知の送り主を見てみると、それは丁度今思考内で話題に出た杏だった。彼女が送ってきた通知の内容は位置情報を送りつけており、ひなたに巫女という事がバレないようにした状態でここに来てほしい、という内容だった。
「一体なんでしょう……杏さんがこんな風に呼び出すなんて、珍しいですね」
杏が要件を特に書かず送りつけるのは結構珍しい事だ。しかし、何かあった際はもっと別の方法で用件を伝えてくるため、緊急では無い物の見せたいものがある。そんな感じだろうか。
わざわざ勇者&巫女全員が入っているグループではなく、個別にこうやって連絡を伝えてきたという事は、今ちょっと遠くでぐだぐだしている三人にはあまり見せたくない、という事なのだろう。だったら、その意図を無視するわけにはいかない。
「若葉ちゃん、ちょっとわたし、コンビニで買い物してきますね」
「ん? あぁ、そうか。何買ってくるんだ?」
「アイスでも」
「お前今真冬だぞ? 正気か?」
「うふふ。次そんな事言ったら丸亀城の天守閣から突き落としますからね?」
「う、うっす……」
怒ると怖いひなたお母さんなのである。千景が怒られてやんのー、と笑い、若葉がキレる。球子があーもう滅茶苦茶だよと頭を抱えている間にひなたは一度寮の自室に戻る。
そして、巫女っぽくない格好と言われたのでジャージを着て髪を括り、明らかにランニング中の誰かという体で寮を出て、小走りで杏に指定された場所へと向かう。まさかジャージで走り込みしている巫女さんがいるなんて想像もつかないだろう。
と、言う事で、体型維持も兼ねて走って暫く。杏に指定された場所が近づいてきたが、なんだか騒がしい。片耳だけにイヤホンを付けて走り込みしていたのだが、両耳で付けていてもこの喧騒は何となく察する事ができていただろう。
足を止め、杏に電話をかける。
『もしもし、ひなたさんですか?』
「はい、もちろんです。指定された場所の近くに来ましたが、これは……?」
『ちょっと待ってください。わたしと友奈さんが一旦合流します。どこに居ますか?』
「えっと……」
足を止めたまま杏に今の現在地を教え、合流を待つ。どうやら杏は高嶋と行動を共にしていたらしいが、何があってそうなったのだろうか。
待つ事暫く。後ろから肩を叩かれたので振り返ると、そこには服装と髪型をガラリと変え、伊達眼鏡をかけた杏と高嶋が居た。
「すみません、急に呼び出して。というか、どうしてジャージ……?」
「ジャージを着て走る巫女さん、なんていないと思って」
「流石にそれは寒いでしょ、ヒナちゃん……上着貸そうか?」
「いえ。走ってきたので体が温まってますから大丈夫です」
そこまで言うのなら、と高嶋も上着を貸すのは止め、杏もひなたが合流した事で本題を切り出し始める。
「わたしと友奈さんは今日、ちょっと服を買いに来てたんですけど……あそこの方でちょっと聞き捨てならない事を聞いてしまいまして」
「聞き捨てならない事、ですか?」
「うん。あっちの路地で話すふりしながらなら聞けるから、移動しよっか」
目を付けられたら厄介だし、と高嶋は加えた。
高嶋の雰囲気に若干違和感を持ったが、杏の方も結構険しい雰囲気を醸し出している。とりあえず杏から予備の伊達眼鏡を貸してもらい、二人に連れられて移動を始める。
だが、移動してすぐに、どうやら二人が聞かせたい、見せたいものが分かった。
『バーテックスは天が遣わせた救世主なのです! そう、バーテックスこそが人を極楽浄土へと送り届けてくれる神そのものなのです!!』
「……これ、は」
「まぁ、結構大きなボリュームでやってますから聞こえますよね……そういう事です。バーテックスを信仰している人が道端で大々的にスピーチしてるんですよ」
「昔、キリスト教の勧誘が学校の帰り道に居た事とかはあったけど、流石にここまで大きな声じゃなかったし、胡散臭くもなかったかな」
そう、バーテックス信仰。
今、人類全体を脅かしている存在であるバーテックスを信仰し、それを神として崇める者達が居るという事は、ひなたも知っていた。同時に、勇者全員もそれは知っていた。
それがこうやって表通りで堂々とスピーチを行っているのは流石に知らなかった。
杏と高嶋もどうやらここを通りがかって偶々知り、すぐにひなたに連絡をした、というのを歩きながらひなたは聞いた。
なんで若葉達は省いたのかと聞けば、あの三人、絶対にこれを聞いたら武器片手に突撃しそうだから、と。納得した。
『勇者は無礼にも我らが神、バーテックスを殺める忌々しき存在! 皆さんも勇者などではなくバーテックスこそ信じ、共に極楽浄土へと行こうではありませんか!』
「忌々しいなんて、どの口で……!」
「ひなたさん、抑えてください。ああいうのは言っても無駄です」
声を荒げて何を言うか。
思わずひなたが真正面から説教でもしてやろうかと進路を変えてスピーチ集団の真ん前に乗り込もうとしたが、杏がその肩を掴んで止めた。
言っても無駄、というのは事実だろう。だが、言わないと気が済まない。
そんな風に思ったが、しかし高嶋も同じように止めてきたので、渋々止めて三人で近くにあった喫茶店へと入り、腰を落ち着けた所で改めて先ほどのバーテックス信仰者について話し始める。
「まぁ、言いたい事はアレです。今はこうやって街角の一角で、みんなから白い眼で見られるだけで済んでますけど……」
「もうすぐ演武もあるからね。もしもあんな人たちが何かテロでもしてきたらって思うと……」
「勇者を疎ましく思う人、何も考えずに勇者をバッシングする人はテレビに居ますけど、まさかバーテックスを信仰する人がこうも大っぴらに出てくるなんて、流石に予想外でした」
勇者を疎ましく思う人間の思考回路は、よく分からない。だが、その大半が三年半前の悲劇で犠牲者が身内に出た人間だ。それが、自分達の身内を助けられなかった勇者は無能、そんなのよりももっといい案を出せ、倫理的にもそっちが合っている、という、後先考えずに物事を言うだけの思考回路。
勇者をバッシングする者は、倫理がー、とか、結果がー、とか、三年半前はー、とか。そうやって知識人ぶってカタルシスに浸っているだけの人間だ。
だが、バーテックス信仰者。アレは宗教じみた信仰が根付いてしまった人間。何を言っても無駄な、自分達の信じる物こそが正義であると信じ込んでしまっている人間。根絶やしにするにはそれを信じる人間を殺す以外道はないだろう。
信仰者だけは、例え壁の外に放り出しても自ら死にに行くような、破滅主義者なのだから。
「……わたしを呼んだのは、あれの相談がしたいからですね?」
「はい。タマっち先輩はまだしも、他二人の思考回路はネジが数本外れてる感じなので……こう、慎重な話題を話しているのに物騒な事言いかねませんから……」
杏の視線を逸らしながら言いにくそうなことを言うように紡いだ言葉に、ひなたは思わず納得してしまう。
あの二人にこの事を言えばどうなるか? 若葉ならうるせぇそんな事知るかと一刀両断で終わり。千景なら、死にたいなら殺しちゃえばいいじゃない、と信仰者全員壁の外に放り出すとか言いかねない。
マジであの二人は思考回路が物騒オブ物騒なのである。頭勇者部は加減なんて知らないのである。
「とは言われましても……友奈さん、何か思いつきますか?」
「え? わたしは特に……何かあったら、ぐんちゃんやみんなを守らないと、くらいしか」
「宗教家というのは言論程度でどうにかなる人じゃありませんから、何かが起こるまでは受け身に徹するしかないんですけど……一応、ひなたさんには、ああいうのが実際に居ると知ってもらった上で、こちら側に問題が起きないように対策を」
「分かってますが、わたしもそういうのはあまり得意ではありませんし……精々、演武の時には大社の人に護衛として勇者の皆さんについてもらう、程度にしか……」
一応、勇者装束には多少のダメージを軽減させる効果がある。
しかし、だからと言って爆弾や銃弾、あるいは刃物で攻撃された場合はダメージを通してしまう。もしも勇者に対して自爆テロ、なんてされたら死にはしなくても暫く再起不能状態になってしまうかもしれない。
そんな事が起きれば、バーテックス信仰者の狙い通りになってしまう。しかし、それらが本当に行動するかどうかは分からないので、演武の中止なんて事もできない。
だから、受け身で全てを考えるしかないのだ。
もしも大社の独裁政権による法律の改変なんて事ができれば、先んじてバーテックス信仰者を檻に叩き込む事だって可能なのだが、それは流石に人道やら倫理やらで許されない。
「でも、わたしは演武に出るあの三人にも、伝えた方がいいと思いますよ? 守れる範疇にも限界はありますし、戦える人が知っていても損はないでしょうし」
「わ、若葉さんとか暴走しそうで怖いですよ……」
「流石に若葉ちゃんもそんなヤバい人じゃないから、ね……?」
一応、こうやってスピーチしている現場を見せなければ教えても別にいいだろうと言う事で、危険人物+αにもしっかりとバーテックス信仰者が最近は表立って活動し始めている、という事を伝え、この日は帰宅する事となった。
四国には色々な思想が、悪意が芽吹いてしまっている。
勇者達の活躍が、この悪意を消し去ってくれればいいのだが……
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演武の日、つまりは元旦。
勇者達は元旦であっても休むことを許されず、演武のためにステージ裏にて待機している状態だった。ステージに出るのは三人の勇者。他の三人の勇者は裏方で待機だ。
その裏方に居る勇者&巫女も、表に出る勇者達が戻ってきたらすぐに今年も一年頑張ろうという意味を込めたうどん&そばを作っているため、一応勇者全員が頑張って働いている、という事になる。
「それじゃあ、行ってくるからな! タマの雄姿をバッチリと見ていタマえ!!」
「まぁ、パッとやってパッと戻ってきましょ」
「そうだな。というか、勇者装束って寒さとかどうにかしてくれるんだな。肌が出ている所もあんまり寒くない」
「えっ、ホント? じゃあわたしも変身だけしておこっと」
「それじゃあわたしも」
「四国組は羨ましいわねぇ……わたしの勇者システムはまだ調整段階で勇者装束を出せないのに……」
ステージの方では既に見物客が大勢待っている。ちょっと気恥ずかしい所はあるが、球子は元々目立ちたがり屋で、若葉は人目に怖じ気付かないタイプ。そして千景も、時折人前で演劇の手伝いなどをしてきたため、人目には案外慣れている。
そんな三人が武器を手に持ちステージの上に立った。
演武は、かなり好評だった。若葉が居合で一気に藁束を斬り裂けば歓声が上がり、千景が三つの武器を巧みに使い、鎌で藁を斬り、槍で看板を突き、飛んでくる藁束を蹴り飛ばした鏡で弾き飛ばし、そのまま鏡を足場に空中で鎌と槍で藁を斬ればそのアクション性から主に子供からカッコいいという声が上がった。
球子も旋刃盤という特殊な武器を巧みに使い、殴って藁を破壊し、ワイヤーで繋げたソレを投げて周囲を一気に斬り裂いたり。
しかし、一番演武が盛り上がったのは若葉だった。
居合や仮想敵との戦い。子供の頃から繰り返しているソレを美しさと素早さ重視で行えば静かな歓声が上がる。しかも、途中で行った大技。千景がやっているゲームで見た、急所突きからの跳躍。そして超威力の兜割りはとても好評で、若葉の切り札なんじゃないか、とまで言われる程となった。
ゲーム風の技が使えない残りの二人は、ちょっとカッコつけた若葉にぐぬぬしたが、千景は槍の矛先をエネルギー状にして特撮っぽい技を披露したら子供から歓声が上がった。
そして一頻りの演武を終え、三人は手を振りながらステージの上から去った。
「ふぅ。なんだ、案外好評だったな」
「そうね」
「くっ、全部二人に持っていかれた感が……!!」
若葉と千景は結構注目を集めたが、言ってしまえば地味だった球子はあんまり注目を集める事ができなかった。それでも、珍しい武器をここまで巧みに扱う球子は二人ほどではないがしっかりと注目を集めていたが。
「……で、乃木さん。怪しい人はいた?」
「いや。まだ表立っては出てきていないと思ったが」
「私もよ。バーテックス信仰者なんてのが自爆テロでも仕掛けてきたらちょっと面白そうとか思ってたのに……拍子抜けね」
「まぁ、そう言うな」
そして若葉と千景は、一度球子と別れて屋台で食べ物を買ってくると言い、上にコートを羽織って城下へと繰り出した。一応若葉は生太刀を腰に差し、千景は鏡の上に乗って他の武器は持たずに移動する。
そんな若葉と千景を見つけた見物客だった者達から囲まれかけたが、囲まれかけるだけで、ちょっとファンサービス程度に手を振れば進行方向はモーゼのような感じで割れて道を空けてくれた。
二人はそのまま屋台を見つつ、適当に駄弁る。
「こう見ると、本当に季節外れの夏祭りね。私達の演武がそこまで楽しかったのかしら」
「まぁ、そうだろうな。見世物としても、勇者がどんな物なのかを見る場としても、私達の動きは楽しい物だっただろう」
「それもそうかしら」
と、言いながら若葉がフランクフルトを購入。
それを食べている所を千景が写真を撮ってちょっとモザイク加工してから加工前と後の写真をひなたに送りつつ、駄弁る。
「で、だ。千景、もしここから残業と言ったらどうする?」
「そうねぇ。残業手当出るならいいわよ」
「大社に請求しておくか。んぐっ」
若葉がフランクフルトを一気に口の中に頬張り、串を手に持ってプラプラと揺らす。千景はそれに頷き、鏡の上から降りる。
そして二人が足を止め、若葉がフランクフルトの串をゴミ箱へと投げようとした瞬間。
二人の背後から、何者かが駆けてきた。
「
「なっ!?」
その人物が若葉に接触する前に既に若葉は動いた。
生太刀を鞘ごと抜き、駆けてきた者が突き出してきた物を下から上へと叩き上げる。
「行儀悪いわ、よっ!」
「がっ!?」
そしてその場でしゃがんだ若葉の頭があった位置を右腕に鏡を装着した千景の手刀、というよりも鏡の縁を使った打撃が炸裂。それが炸裂したのを確認してから、若葉はフランクフルトの串をゴミ箱に向かって投げ、生太刀を鞘に入れたまま構えて一気に肉薄する。
「いっつ……って!?」
「ごくっ。うん、お前知らん奴だな。身内ならまだ許したが、こんなものを持って突っ込んでくる知らん奴は見逃せん。という事で没収だ」
と、咀嚼していたフランクフルトを呑み込んでから、若葉は男が持っていた物、大振りのナイフを腕を捻り上げる事によって手から落とさせ、落ちたナイフを後ろの千景の方へと蹴って渡す。
それを受け取った千景はうわっ、と呟いた。
「なんか塗ってあるわよ、これ。ローション?」
「やっぱ馬鹿だろお前。私も知らんが、ロクなモンじゃないのは確かだ」
軽くそんな事を口にしながら、若葉は捻っていた腕を更に捻り上げて背中側に回し、もう片方の腕も背中側に回して男の両手を片手で極めた状態で拘束する。
「これにて不審者拘束だ。仲間が居ても構わんが、来るのなら覚悟しろよ? やられたらやられた分だけやり返すぞ、私は」
「等倍じゃすまないでしょ、あなたの場合。それよりも、大社には今連絡したわ。すぐに来てくれるみたい」
「そうか。だが、楽しい祭りでは終わらせてくれなかったな。残業をする羽目になってしまった」
「ステージの上に居る時から分かってたくせに、何言ってるのよ」
「あんなにねっとりとした殺意をぶつけられたからな。熱烈歓迎したまでだ」
結局、勇者の中で一番怖い、というよりも脳筋なのはこの二人なのかもしれない。
ここで拘束した不審者は無事、大社から警察へと引き渡され、若葉と千景はそれをひなた達に報告し、どうして二人だけで行動したのかと小一時間ほど説教されて、ついでに大社職員からも同じような説教をされたのち、なんやかんやでうどん&そばを食べつつ初っ端から忙しい二千十九年に挑むのであった。
そういうとこやぞ勇者共。
という事で、ちょくちょくと活動を始めたバーテックス信仰者。黒いメディアの他にもこういう奴らもこれから時折出てくるかも。まぁ、バーテックスを実際に見た人だから破滅願望をバーテックスに託せる訳で、多分一世代後になればバーテックス信仰者なんて消えると思うの。
演武の方は無事成功。多分勇者襲撃事件も二人がサラッと終わらせたのでそこまで大きな話題にはなってないでしょう。
次回は温泉回ですね。温泉回という事は、あの話がある訳で……でも、ここの若葉ちゃんは既に杏に作戦参謀を譲っているので……?
いやー、台風大変でしたね。自分は十階に住んでいるので、特に避難するとか無くジッとしてました。ツイッターで見た、窓にクウガのマークをテープで貼るやつを真似したりしてました。
ではまた次回。