ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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更新が遅れてすまなかった。代わりに今日から一週間ちょっと更新して一気に神世紀勇者参戦の部分まで話を持っていくから許してほしい。ここら辺から話の整合性がしっかりとしているか書きながらチェックしたかったんや……

ちなみに、話としては既に神世紀勇者参戦、秋原雪花の章を途中まで書けている状態なので、結構話は進むと思います。まぁ、カット多様してるから多少はね?

今回は原作では若葉ちゃんがやらかす回……ですが、ここの野武士はもう色々と吹っ切れている状態なので。果たしてどうなる事やら。
ちなみに神世紀勇者参戦までに一人一回は切り札を使わせる予定だったり。


物量差が無双ゲーのそれ

 元旦の演武が過ぎてから暫く。

 暫くはバーテックスの襲撃もないという事でぐでーっとしていた勇者達だったが、そんな勇者達&巫女達にとあるご褒美が用意された。

 四国内にある天然温泉が湧く旅館。そこをなんと貸し切りで使える事となったのだ。普通に止まるだけの費用を負担してくれるだけでも十分有難かったのだが、今や勇者達は有名人だが、同時に命を狙われる身分である。

 元旦の日に捕まえた男。アレはバーテックス信仰者の一人であり、その中でも特段信仰心が強いが故に暴走した人間だった。それをどうにかする権利を大社は持たないが、しかしもしかしたら今も街中のどこかにバーテックス信仰者が隠れ潜んでいるという事も考えられる。そんな中で温泉旅館に勇者を放り込めば、もしかしたら旅客の中に紛れ込んでいた信仰者が……という事が十分に考えられた。

 そのため、旅館を貸し切りにし、一部の旅館関係者と大社職員を除く全員を出入り不可にした状態で勇者達の息抜きを許可したのだ。

 思えば勇者達は半年以上バーテックスと戦いながらその身を鍛え上げてきた。そんな少女達に一切の気を休める間もなく戦い続けろ、と言うのが酷だ。

 そんな訳で用意されたのがこの旅館。

 既に若葉とひなたは温泉に浸かっており、ちょっと部屋でのんびりとしていた千景と高嶋も天然温泉の露天風呂へとやってきた。

 

「おぉ、千景ぇ。やっと来たかぁ」

「うわっ、乃木さんが気持ち悪いくらい溶けてる」

 

 言葉の尻まで溶ける程リラックスした若葉を見るのは、なんやかんやで初めてだった。だが、ひなたは何度か見た事があるのか、そんな若葉を見ても特に何も言わない。

 悪態づきながら千景もお湯に浸かり、大きく息を吐く。

 

「はぁ~。温泉なんていつ以来だっけ?」

「えっと、バーテックスが来る前のキャンプだから……半年以上前ね。思えば結構時間が経ってるわね……」

 

 思えば八月の頭から戦い続け、四か月近く。その四か月間、勇者達はまるで有名人にもなったような気分で丸亀城と寮を行ったり来たりする日々。外に出ればファンやマスコミに囲まれ、変装して気を張りつつ外出して帰ってきたころには一息吐くも精一杯楽しめた試しはない。

 こうやって何かに気を使う事も無くのんびりと外で羽根を伸ばせるのは四か月経った今日が初めてとも言えた。

 そして、その四か月の間一度も来れなかった温泉も、羽根を伸ばして休めるにはピッタリな施設だ。四か月間溜っていた疲れがお湯に染み出して抜けていっているかのようにも思える。

 頭までお湯につけると新種のクラゲになるし行儀も悪いのでやらないが、結局千景も若葉と似たような感じになった。

 

「寒空の下で露天風呂。中々いいものですねぇ」

「そうねぇ……っていうか上里さん、さっきから温泉から出て縁に座ってるだけだけど、寒くないの?」

「若葉ちゃんに付き合ってたら軽くのぼせかけちゃいまして。今はちょっと休憩中です」

「そんなに長い間浸かってるの?」

「ホント、ここに来てすぐ、ここまで一直線でしたから」

 

 千景と高嶋が部屋でぐだぐだとしていたのは大体三十分ほど。その間ずっとこの熱いお湯に浸かっていたのなら、確かにのぼせかけもするだろう。

 そうなるとこの野武士はどれだけこの熱い温泉で溶け続けているのだろうか。のぼせるまで待ってみたい気もするが、それだけお湯に浸かっていたら逆にこっちがのぼせそうである。

 

「しっかし、改めて見ると……」

 

 温泉に浸かった状態でジーっとひなたを見る千景。

 視線の先は、言うまでもないだろう。

 

「もう、千景さん。これは若葉ちゃん専用ですよ?」

「ん? 待てひなた? 今、私が使う予定の無い物を急に私専用にさせられた気がしたんだが?」

「それは分かってるけど、羨ましい物は羨ましいのよ……!」

「分かってるってなんだ? 周知の事実なのか? おい?」

 

 そんな物は既に勇者内では周知の事実である。

 高嶋だってそうだよね~、なんて言いながら納得している始末なのだ。ひなたの若葉ラブは本人が見ようとしていないだけで周りから見ればどうしようもない事実なのである。

 しかも若葉自身、徐々に外堀……というか、ひなた無しでは生きていけない体になりかけているとう事に気が付けていない。ひなたが一日でもどこかに行けば彼女はきっと半泣きになりながらひなたを求めて彷徨う事だろう。

 

「でも、千景さんだって綺麗な髪じゃないですか。それにスラっとして綺麗ですよ?」

「髪はよく分からないけど……私はスラっとよりも、ボンっと来るものが欲しかったのよ」

 

 しかし悲しいかな、小学生時代の栄養不足。成長するのに一番大事な時期にコンビニ弁当ばっかりだったのだから、成長してほしい所が成長するはずもなく。

 ついでに言えば、千景の母もどちらかと言えばスレンダー寄りの体付きなので、千景がそれに似てしまうのも仕方のない事。

 立っ端はもういいから胸を、と何度思った事か。

 

「でも、わたしもぐんちゃんの体は綺麗だと思うよ?」

「ちょっ、た、高嶋さん、急にそんな事……」

 

 そして高嶋からの一撃に顔を赤くする千景。

 これだから天然人たらし族は。照れ照れと顔を温泉の熱とは別の熱で赤くしながらも満更じゃない千景。もう殆ど友奈と同じ感じになってきた高嶋だが、今の千景なら絶対に結城の方の友奈と高嶋の方の友奈を間違えない自信があるのだった。

 千景がいやんいやんしている様子を見てから、ジーっと若葉の方を見つめるひなた。その視線に気が付いた若葉は首を傾げる。

 

「なんだ、ひなた」

「いいんです……若葉ちゃんからそういう言葉を聞けるときは暫く来ないって割り切ってますから……」

 

 とは言うが、やはり心のどこかでは言ってほしいと思うひなた。

 そしてその視界の端で。

 

「ぶくぶくぶく……」

 

 なんか千景が沈んでいた。

 

「ちょっ、千景さん!?」

「ん? ……って千景!? お前急にどうした!? なんかしたか友奈!?」

「わ、分かんないけど、ぐんちゃんに可愛いって言ってたら急に顔を赤くして沈んじゃって!」

 

 どうやら千景を沈めた犯人は高嶋だったらしい。

 これが天然人たらしの怖い所である。

 

「ゆ、友奈さん、恐ろしい人……!!」

「おい千景!? しっかりしろ千景! お前そこまでのぼせやすかったのか!!?」

 

 結局千景はのぼせかけていたひなたが肩を貸しながら温泉の外へと引っ張り出し、暫くの間、顔を赤くしながらも幸せそうな表情で目を回す千景に溜め息を吐きながらも介抱するひなただった。

一応、途中で若葉と高嶋が温泉から出てきたので高嶋に介抱を代わったのだが、高嶋は千景を膝枕し始めたので、きっと千景は意識を取り戻してからもう一度轟沈する事だろう。

 なんともまぁ慌ただしい勇者共である。

 

 

****

 

 

「割とマジで幸せ過ぎて逝くかと思ったわ。マジで逝く五秒前、MI5よ」

「千景さん、頭のネジ大丈夫ですか? また幾つかロストしたんじゃないですか?」

「その胸もいで捻り潰してやろうか伊予島」

「やだこの人、やっぱり頭のネジ外れてる」

 

 千景の頭のネジなんて神世紀で結構外れているので今さらである。

 勇者&巫女が露天風呂に入り、そして食事を終えて旅館の中の大人数が泊まれる部屋に集まってから、合計八人にも増えた西暦勇者チームはそれぞれの時間を過ごしていた。

 歌野と水都はお茶を飲んで次に植える野菜の種の話をしており、球子と若葉、ついでに高嶋は持ち込んだゲーム機で通信プレイをしており、ひなたは若葉のプレイを観戦。そして余った千景と杏は杏が持ち込んだ本を読みながら駄弁っていた。

 ふざけあいながらも駄弁り、そしてページをめくる。もう暫くしたらもう一度露天風呂に浸かってくるつもりだが、果たしてそれまでに杏は胸をもがれてしまうのだろうか。

 

「まぁ、それは置いておくとして。千景さんはタマっち先輩達の所に混ざらないんですか?」

「偶にはこうやって本を読むのもいい物なのよ。後で混ざるけど」

「本はいいですよねぇ。本は心を潤して知識を与えてくれる、リリンが生んだ文化の極みですよ。そう思いませんか、郡千景さん?」

「どうしてそこでカヲルくんなのよ。わたしはサルファのシンジくん派よ」

「あれはシンジくんじゃなくてシンジさんだと思うんですけど」

「でもシンジ×カヲルは好物よ」

「腐女子の餌ですもんねぇ」

 

 なんでか急にエヴァの話に行ったが、この二人の間で変なネタが挟まってから変な方向に話がぶっ飛んでいくのはいつもの事である。ちなみに杏もその二人のカップリングは普通に大好物である。忘れているかもしれないが、この二人は腐っている。

 

「でも、高嶋さんがあんなにも私を可愛いって言ってくれるなんて……もしかしたら、これは近い内に……」

「千景さん、おハーブでもキメていらっしゃるんですか?」

「伊予島さん、その口を閉じないとぶっ殺してさしあげますわよ」

「やっぱりおハーブキメてらっしゃいますね。まぁ、千景さんが友奈さんと付き合うよりも早く、私はタマっち先輩の初めてを……うへへへへへへ」

「おハーブキメてらっしゃるのはあなたですわね、伊予島さん」

 

 結局どっちもおハーブをキメているのである。

 おハーブをキメた似非お嬢様共は結局その後も暫くは互いに互いを煽り合っていたが、暫く経って千景がいい所まで小説を読んだところで千景が立ち上がり、杏に本を返してから今度は球子達ゲーム組の元へと向かった。

 

「さて、そろそろ私も混ぜなさいですわ」

「なんだお前その口調」

「おハーブキメた結果ですの。ジャッジメントですの」

 

 なんか似非夕海子(お嬢様)口調が気に入った千景なのであった。なんか変なの混ざっているが。

 ちなみに今三人がやっているのは某モンスターをハンターでハントするゲームだ。それの期間限定イベントクエストで何でかバーテックスを討伐するクエストがつい最近作られて配信されており、三人はそのプレイ中だ。

 ちなみに、倒して素材を入手すると勇者達の武器っぽい見た目の武器を作る事が可能になる。

 丁度球子が余所見をした瞬間に三乙をかまし、無事死亡。クエスト失敗となったところで千景が参加する事に。

 

「後は私に任せなさいですの」

「ぐんちゃん、ホントにその口調のままやる気……?」

「なんか変な癖になっちまったっぽいですの」

「言う割にはガバガバだぞお前の口調」

 

 ですのですの、と言葉を返しながら、集会場に居る三人の装備を確認する。

 バーテックス討伐クエストはかなりの高難易度であり、ワンパンで死ぬのが容易に起こるレベルなのだが、三人の装備は恐らくどんなに軽い攻撃だろうと当たったら体力を六割は持っていかれるレベルで脆かったし、スキル構成もガバガバだった。

 千景が火力を担当してもいいのだが、それだと三人が順調に落ちる未来しか見えないので、介護装備で行く事に。

 

「ほら、行きますわよ。おハーブを忘れたらぶん殴りますわよ、高嶋さん以外」

「だから何なんだよおハーブって」

「おハーブはおハーブですわ」

「いやわかんねーよ」

 

 ちなみに、三人の武器は、球子が片手剣、若葉が太刀、高嶋がハンマーである。何ともまぁ脳筋しかいないパーティである。しかもバーテックスは頭判定がかなりシビアなので高嶋が戦えるかどうか。

 まぁ、そこら辺は千景がどうにかするのだが。

 

「最初に笛を吹きますわ」

「なぁ、千景。その口調本気でキモいからもう止めろ」

「……しゃーないわね。ほら、笛吹くから動くんじゃないわよ」

 

 結局ここで似非夕海子(お嬢様)口調は止めたが、彼女達がマジの似非お嬢様である夕海子を見た時にどんな反応をするのかが楽しみである。

 そんな事を考えつつも最初に笛を吹き、バフをかける。そしてある程度バフが付いたらバーテックスの元へと特攻。そのまま殴り始める。

 

「ってかこいつら、雑魚の癖に硬すぎだろ。タマ達なら一撃だぞ」

「背負っているのが生太刀なら……!!」

「まぁ、ゲームだし仕方ないわよ。あ、高嶋さん、回復するから殴ってていいわよ」

「ありがと~!」

 

 広域化で回復薬の効果を全体に付与しつつ、ついでに殴りながら笛を吹いてバフを途切れないように動きつつ、頭を殴って気絶を取る。そしてタコ殴りしつつ、誰かの体力が減ったらすぐに下がって回復させ、そして殴る。

 それを延々と繰り返すものの、球子と若葉が順調に一落ち。流石の千景も即死だけはどうにもできないので避ける事を祈るしかないのだが、まぁこうなる。しかし千景も空いた時間に精一杯ぶん殴り、マップ上に見えるバーテックスのアイコンが弱り始めた事を示した。

 

「おっ、いけそうだぞ!」

「さっきまでと比べて結構楽だったな」

「私が介護してんのよ、野武士。いい、即死は無理よ。即死だけはどうにもならないから気を付けなさい。っていうか私ももう回復薬の在庫が……なんでグレートは残って回復薬が先に無くなるのよ……」

 

 三年前のこのゲームは回復薬グレートの広域化はできないので致し方ない事である。

 しかし、いよいよ終盤戦。ゲームシステムに則って眠って回復しているバーテックスに対して爆破で目覚ましを仕掛け、そのまま四人でタコ殴り。

 

「あっやべっ」

「ガードしなさい土居さん! 私を信じてガードしなさい!」

「うおぉ!?」

「飛びなさい乃木さん! 私を信じて飛びなさい!!」

「あっ、ピヨっちゃった」

「私を信じて諦めないで、高嶋さん! 私を信じて秘薬を連打しなさい!!」

 

 まぁその間も案の定三人が死にかけるのだが、その度に千景が新手の宗教的な事を叫びながら助け、千景の介護はしっかりと三人をサポートしていた。

 そして。

 

「よし、討伐だ!」

「結構楽だったな。もしかして私達、上手くなっているのか?」

「かもな!」

「私が介護してんのよ! 一から十まで! 回復もバフも!」

 

 実際、高嶋は結構上手く立ち回っていたのだが、この二人は結構危なっかしい立ち回りをしていたので千景がこういうのも無理はない事である。

 しかし、バーテックスを討伐した事により、勇者の武器っぽいデザインの武器を作る権利を得る事ができた。球子の旋刃盤は片手剣で剣の部分がオリジナルであり、生太刀は太刀、千景の鎌も太刀、槍の方がランス、杏のクロスボウがボウガン、高嶋の天の逆手は防具の腕部位である。

 そして勿論、勇者達はそれぞれの武器を作成しようとしたのだが。

 

「あっ、これチケット二枚必要なのか……一枚しか出なかったんだけどなぁ」

「ならもう一体狩りに行くか」

「その前にせめて防具くらい強化してきなさいよ……」

「あっ、わたしは作れたー」

 

 という事でもう一回。

 そして討伐し終えたら次はあのモンスターの素材が欲しい、この武器が作りたい、と留まるところを知らない。

 杏も杏で一人で本を読んでなんかテンション上げているし。

 暫くの間ゲームに熱中して時を忘れていると。

 

「ふあぁ……それじゃあわたしはもう寝ますね……」

「わたしもー。みーちゃんも眠そうだし」

「せめて他の人が寝るまで起きてないと……うたのんに夜這いが……」

「やっぱもうちょっと起きてようかしら」

 

 とは言うが、勇者も巫女もいい子集団であるのは変わりない。結局、ひなたと歌野、そして水都は日付が変更する前に寝付いてしまい、勇者達は夜更かししながらゲーム&読書に没頭するのであった。

 

 

****

 

 

 そんな風に夜更かししても平気だと言えたのは、それから半月が過ぎるまでの間だった。

 バーテックスの襲来。半年近くの間を空けて再開したソレは、樹海の中で彼方を見つめる勇者達に若干険しい表情を浮かべさせていた。

 その理由は、単純にバーテックスの数だ。

 今までは多くても百、二百程度。だが、今回のバーテックスはその十倍から五倍。つまり、千体以上のバーテックスがそこにはひしめいていたのだ。

 兵力を蓄えていた。そうとしか思えないほどの物量。それに険しい表情を浮かべない勇者は居ない。

 今までは五人で二十体換算で倒せば楽勝、という雰囲気だった。だが、これからは違う。

 一人二百体。それが勇者達に課せられたノルマ。今までの襲撃を一人で軽くどうにかできないといけないほどの物量。

 それが、迫ってきている。

 

「チッ、千体か……バーテックスめ、遠慮なくやってくれる」

「そうね……どうするの、乃木さん、伊予島さん」

「知らん。そういうのは杏の分野だ」

「とは言いますけど、わたしだって五対千をどうにかする算段なんてそう簡単には思いつきませんよ……」

 

 杏の言葉に勇者達はそれもそうか、と納得する。

 五対千なんて、特撮でも見ないような物量差だ。いかにバーテックス一体一体に対して勇者達のスペックが勝っているとは言っても、限界は存在する。

 天下無双の武将として特に有名であろう呂布や本田忠勝。バケモノ染みた逸話を持つ武将であっても千以上の敵に囲まれて無事で居られるかと言われれば、否だ。かの呂布だろうと、かの本田忠勝だろうと、雑兵百以上に囲まれれば死ぬしかない。

 とある漫画に、この世で最強の殺人拳を会得した主人公が、たった一人で軍隊へと特攻を仕掛ける話がある。主人公は銃弾にすら対応するほどの驚異的な身体能力と動体視力を持っていたが、しかし多勢に無勢。その主人公は、最終的に目標である指揮官を殺し、力尽きる。

 そう、いくら一人が強かろうと、軍隊には適わない。それが、この世の摂理なのである。

 しかし、それを成さねばならぬ時が来ている。

 ジャイアントキリングを成さねばならない時が。

 

「……切り札、を」

 

 使ってください。

 その言葉は、飲み込んだ。

 切り札の後遺症は、未だに判明していない。そして、十秒間だけとはいえ使用した杏も、体感でそれを理解できていない。

 使ってはいけない。そんな予感が理性を攻撃する切り札を、使うわけにはいかない。一度使えばたちまち千体だろうと蹴散らせる力を与えてくれる切り札が、軽い後遺症で済むわけがない。

 落とし穴がある。間違いなく、だ。

 けれど。

 

「杏。気にせず命じろ。無茶だと分かれば後で訂正しろ。なに、人に間違いはつきものだ、犠牲が出なければ何も言わんさ」

 

 そうして悩む杏に対し、若葉が肩を叩いて告げる。

 例えここで出した作戦が無茶だとしても、構わない。どれだけでも後から訂正していい。その結果、犠牲が無くなるのならば、多少の怪我程度は容認する。誰も怒りはしない。

 その言葉を聞き、杏は改めて呼吸を整え、一つ深呼吸を行う。

 

「……わたしが、後ろから援護します。若葉さん達前衛組は、自分の身と仲間の身を最優先で戦ってください。タマっち先輩もそこに混ざりつつ、わたしがどうしても対応できない時は呼びますから下がってください。切り札は、極力使わないようにお願いします。この戦場で一番起こしてはならないのは、戦力を減らしてしまう事です。絶対に、自分を含めた誰かを犠牲にしないでください。怪我してでも帰ってきてください」

 

 切り札の使用は、本当に危なくなった時。それまでは切り札を温存する。

 戦力の逐次投入を行っているようで、あまり心情的には穏やかになれない作戦だが……だが、出し惜しみをしなかった結果が後々に響くのも、やってはならない事。だから、切り札は使わない。

 個々の能力を最大限に用いて、可能な限り敵を殲滅する。

 

「つまり、生きながら暴れてこいという事か。ならば行くぞ、千景、友奈、球子」

「こんなに多ければ作戦なんて意味が無いものね。鏖殺、するわよ……!!」

「ぐんちゃんとみんなは、わたしが……!!」

「へっ。一人頭二百体なんざ軽い軽い!」

 

 杏が言っているのは、ほぼ無茶ぶり。その場で適切な動きを支持するからそれに遅れないように合わせろ、という。

 だが、命じられたのならばそれを遂行する。無茶ではない、それは杏が決めた事ならやれる事に違いならと、勇者達は立ち上がり、各々の武器を構える。

 直後飛び出し、煌めく星屑の中へと四色の光が埋もれた瞬間。

 バーテックスがはじけ飛ぶ。

 

「所詮は烏合の集まり!! 私の太刀に適う物か!!」

「私が率先して数を減らすわ! 三人は極力援護をお願い!!」

「大丈夫、ぐんちゃんは絶対に守るから!!」

「それには頷いてやりたいが、タマの方はちょっとキツイ! 手数が足りん! むしろ援護が欲しい!」

「鎌貸してあげるからそっちはどうにかしなさい! 十分!?」

「十分も十分! 使いにくいけどないよりはマシだぁ!!」

 

 前衛組が即席で組んだ作戦は、一番攻撃力が高く、突進力も高い千景が前に出て可能な限り場を荒らし、若葉と高嶋と球子がその援護を行いながら自分の方へと向かってくる敵を倒す事だった。

 千景の槍は、若葉の生太刀や高嶋の拳のように、一体に対して丁寧なダメージを与えるよりもチャージにより敵の中核へと突っ込み、そして同時に離脱を繰り返す直線状の一撃離脱が最も相手にダメージを与える事ができる。

 球子の旋刃盤もその類の武器だが、それよりも千景の方が一撃離脱には向いている。球子の場合は遠投できるという利点があるが、回収するまでは無防備という弱点が発生してしまうからだ。

 紫の光が戦場を直線状に貫いていき、若葉と高嶋と球子がその援護のために戦場を動き回る。

 しかし、その戦場の様子を杏は観察し、徐々に驚愕し始めた。

 

「……もしかして、バーテックスは千景さんを」

 

 千景は延々とチャージを繰り返し、他のメンバーも近距離で戦闘しているため気が付いていないが、杏はその異常に気が付いた。

 ほぼ全てのバーテックスが、千景へ向かって移動し始めているのである。

 バーテックスは知性がある。それは、それぞれの地域を各個撃破しようとしているバーテックスの行動から理解できていた事だ。しかし、今までバーテックスは作戦とも言える作戦を一度たりとも行ってこなかった。

 だが、千体という膨大な数で攻めてきた今回。バーテックスは、明らかに千景を狙い撃ちするという作戦を取っている。一番の脅威である千景を先んじて殺すための作戦を。

 それに気が付いた杏は、すぐに一番千景との距離が近かった高嶋へと通話をかける。

 

『も、もしもし、アンちゃん!?』

「友奈さん、今すぐ千景さんを止めて囲うような形で守ってください! バーテックスは千景さんを狙い撃っています!」

『やっぱり!? 明らかにバーテックスがわたしじゃなくてぐんちゃんばっかり狙っているから、そうじゃないかって思ってて……!!』

 

 直後、爆音。

 千景が丁度立ち止まっていた場所が紫の光によって弾け飛び、その中心から槍を杖代わりに立ちながら息を切らす千景の姿が現れた。

 

「くっ……幾ら蹴散らしても沸いてくる……!!」

 

 しかし、それも一瞬。爆破で吹き飛ばした星屑は再び千景に集り、一瞬で千景の姿を埋める。

 あのままだと、圧殺される。

 それを直感的に察した高嶋が拳を構え焦りながら前に出る。

 その直後。

 

「伊予島さん、使うわよ!!」

『っ……許可、します!』

 

 千景の叫び。そして、高嶋の携帯からスピーカーモードにしたおかげで聞こえてきた杏の声。

 その直後、千景の元へと集っていたバーテックスがはじけ飛ぶ。

 中心から飛び出してきた、鎌を手にした『六人』の千景によって。

 

「ぐ、ぐんちゃんが六人!?」

「いえ、七人よ」

 

 そう、数は六人ではない、七人。

 鎌を手にした六人の千景と、その中心から飛び出し高嶋の隣に降り立った槍と鏡を手にした千景の、計七人。

 千景の叫びは、切り札の使用の許可を求める叫び。それに応じたのは杏。ならば切り札を使わない理由はない。

 故に、使用した。神樹様の中に保存されている日本各地の伝承の力、妖怪の力。その中から千景に相性が良く、そして数的不利というどうしようもない戦力差を埋めるための精霊、『七人御先』の力を。

 しかし、本体とも言える槍と鏡を持った千景の肩からは血が流れており、圧殺されかけた時に傷を負ってしまったのだと理解できた。

 

「血、血が……」

「あら、本当。擦り剥いたのかしら?」

「そ、そんな簡単な事じゃないよ!? ど、どうしよう、結構勢いよく……」

「大丈夫よ。この私が死ねば……あ、ごめんなさい、やっぱ無理。自殺は普通に怖いわ」

「ど、どゆこと……?」

 

 千景の精霊、七人御先は七体で一体の精霊――七人御先に姿形は存在していないが――だ。故に、その力と特性を身に下ろした千景は、一人一人の火力は鎌を持った千景が増えた程度で収まる物の、一人が死ねどすぐに復活する。七人が全く同時に死なない限り、切り札を使用中の千景は絶対に死ぬことは無い、生存面では間違いなく最強と言える精霊だ。

 だから、傷を負った本体だった千景が死ねば、怪我がない千景が復活するのだが、いくら蘇ると分かっていても死ぬのは怖い。なので自殺できない。

 全てが終われば、もし分裂元、つまりは槍と鏡という、どうしても分裂させる事ができない武器を持つ千景が生存しているのであればそれを本体として、他六体が消滅するため、その本体がもし怪我を負っているとそれが残ってしまうというデメリットはある事にはある。

 まぁ、そこら辺の細かい話を戦闘中にはする物ではないので、頭にハテナを浮かべる高嶋にそれよりも、と言葉を告げる。

 

「出血程度なら大丈夫よ。白鳥さんだって風穴空いても一日以上生きてたのよ? 私も勿論大丈夫」

「で、でもぉ……」

「ほら、いいから戦わないと。残り六人の私は、この私ほど強くはないわよ」

 

 間違いなく、七人の千景の内、最も強いのは槍と鏡を持った千景だ。それ以外の千景は鎌の攻撃範囲による殲滅能力こそ持っているが、しかしそれでも限界がある。

 しかも物量に押しつぶされ続けている状態で残りの六人の千景は戦っているので、時折バーテックスに食われてふぁーーーーーーーーーーーー!! とか声を上げてる千景も居る。

あの自分、死んでも蘇るからふざけてやがるな。なんて思いつつ、暫定千景本体は槍を構える。

 

「ほら、何人の私が死ぬかもわからないし、行きましょう」

「う、うん……なんかあっちの方で変な声を上げてるぐんちゃんとか居るけど……」

「まぁ、どうせ死ぬならちょっとふざけたいじゃない? どうせ残機は七から減らないんだし」

「いや、そうだとしても、こっちの精神衛生上――」

 

 その瞬間、高嶋の隣に居た千景が突っ込んできたバーテックスに食われて空へと運ばれて行った。その時に舞った血が高嶋の頬にびちゃっとかかる。

 高嶋の目が死んだ。

 

「全く。残機が余分にあると思うとすぐに死ぬのがゲーマーの悪い所ね。で、何だったかしら?」

 

 そしてどこからか沸いて来た何も持っていない新たな千景が先ほど死んだ千景が落とした槍と鏡を手に装着する。そして高嶋の目が生き返る。

 

「サラッと生き返ってるけど、こっちは割とマジのトラウマ負いそうだよ!!? 真横で友達が食われるのって結構精神的に来る物があるよ!!?」

「まぁまぁ。そんなに叫ばないの、高嶋さん。何か良い事でもあったの?」

「悪夢の権化みたいな光景はあったよ!!」

 

 高嶋が頬についた血を手の甲で払いながら叫ぶ。全く持って高嶋の言う通りである。

 しかし千景はどこ吹く風。槍を両手に、鏡を腕に装着し、改めて構える。ちなみに、千景の意識は影分身のように分裂はせず、槍と鏡を持った千景を本体として他の六人はそのコピーのような状態で別れているだけであり、本体の千景が死ねばずっとその記憶は残り続ける。残り六人はどうなろうと千景本体には記憶を持ってこないのでどれだけ死んでも安心である。一応、知識や経験は持ってきてくれるが。

 本体の千景が先ほど死んだが、その際は即死だったため特に痛みは感じずリトライである。何ともまぁ便利な切り札な事で。

 

「もう、ぐんちゃんは下がってていいよ! わたしがぐんちゃんを守って、全部倒すから!」

「そんな高嶋さんを守るためにわたしが五人ほど壁になるわ」

「お願いだから下がってて!! じゃないとお肉食べられなくなりそうだから!!」

 

 エキセントリックな事を言い散らかす千景に向かって叫んだ高嶋がいの一番に飛び出し、一人の千景は杏の元まで下がって七人同時に死ぬことが万が一にもないような状態にしてから残り六人の千景がそれに追従する。

 元々五人だった勇者が十一人にまで増殖した結果がどうなるかなんて、それは語らずともわかる事だろう。結果的に、勇者達は今回も犠牲無しで襲撃を突破するのであった。




エキセントリックぐんちゃん。残機があると油断して自殺していく様はまさしくゲーマーの鏡。

とりあえず今回はぐんちゃんが七人御先を使用。本当はここら辺でたかしーにやらかしてもらおうかなと思ったけど、この後の展開を考えて却下。ぐんちゃんにエキセントリックになってもらいました。

多分ゆゆゆベストアルバムが届くまでは毎日更新するのでお楽しみに☆
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