「……さて、肝心の総攻撃が来たわけだが」
「敵が八、空が二って所ね……どこかで聞いた言葉だけど、なんだったかしら」
千景が口にしたソレは、総攻撃にて四国へと侵入してきたバーテックスと、その間から見える空の割合だった。
バーテックス八割、空が二割。地獄としか言いようがないその光景を、六人は「どーすんだこれ」と言わんばかりの目で見ている。空が綺麗とかそういう事はふざけても言えないような状態である。
辺り一面のバーテックス模様。今日はバーテックス時々樹海。時折バーテックスが降る事でしょう。地獄絵図である。
「ちょーっとこれは切り札を使っても……」
「それどころか、今まで以上に戦闘が長引くかもしれませんね……」
高嶋と杏の嘆きにも似た声が聞こえるが、バーテックスの間からは明らかに進化体となろうとしているっぽいバーテックスが見え隠れしてる。地獄である。
勘弁してくれ、と溜め息吐きながら呟いたとしてもバーテックス達は人類を滅ぼす事に全力だ。
そして杏の脳内での作戦は、ある程度固まってきているが、大きく分けて幾つかある。
まずは、全員切り札を使って短時間で殲滅をする。これは恐らく一番安定性と確実性、そして速攻性が存在する作戦だ。
そして二つ目。千景と、千景と同じような武器を持つ歌野を中心として戦う作戦。
三つ目は、一人に休憩をさせて残りの勇者で戦い続けるか。
四つ目は、作戦なんか知らねぇ! 全員突撃の蛮族スタイルだヒャッハー!!
面倒なのでしょーじきに言えば四つ目を選択したい。しかし、そんな事したらなんかこう、確実に誰か死にそう。だって馬鹿しか居ないもん。
「ねぇ伊予島さん。面倒だから切り札使いましょう」
「初手でなんてこと言い出すんですか気分屋サイコパス野郎」
「は? キレそう」
戦力の逐次投入はしたくない。しかし、しなければこちらの体力が持たない可能性がある。
というか、一人に休憩を取らせるスタイルは、確実に休憩待ちが出てきてしまう。
これはどうしたらいいだろうか。
こいつら大体蛮族だし、もう適当にしちゃった方がいいんじゃないか。
「……じゃあ、皆さんに質問です。全員でヒャッハーするか、誰か一人が休憩を取り続けるか、どっちがいいですか?」
もう面倒だったので、とりあえず蛮族共に聞いてみることにした。
こういう時は本人たちに聞いてみた方がいい気がする。全員でヒャッハーするのが無理そうなら、早々に誰かを下がらせて休憩を無理矢理取らせればいいのだから。
「これは誰か一人が休憩を――」
それに対して歌野が即座に自身の意見を口にしたが。
『圧倒的前者』
「ちょ」
馬鹿共が前者を選択した。勇者内のストッパーとも言えるし癒しとも言える比較的常識人な高嶋までもが参加しており、勇者共が馬鹿しか居ないというのが改めて判明した。こいつらの頭の中にはとにかくバーテックスを殲滅する、という事で固まっており、それ以外の判断を行う思考回路が無いのである。
これには思わず歌野が一つ文句でも言おうとしたが、そう言われたのなら杏が止める理由もない。
「よし行け馬鹿共! バーテックス共を殲滅するのです!!」
『ヒャッハー!!』
ブレーキなんて存在せず。馬鹿共動く。
歌野が勇者達を止めようとした状態で固まり、バーテックスの大軍の中へと突っ込んでいった馬鹿共に呆けている。
しかし、歌野が動かないとなれば丁度いい。
「じゃあ歌野さんは交代要員ですね。暫く休んでいていいですよ」
彼女が動かないのなら、彼女も言った通り、彼女を交代要員として暫く後ろに下がらせて休んでもらうのが一番いいだろう。誰かが疲れ始めたらこちらから呼びかけて歌野と交代したらいい。
クロスボウで狙い撃ち、勇者達の援護を的確に行う杏はそんな算段を立てつつも、馬鹿共が無茶しないかしっかりと監視する。
「……え、えぇ。そうさせてもらうけど……大丈夫なの、あれ?」
「さぁ。バーサーカーの考えなんて分かりませんから」
「バーサーカー……と、とりあえずわたしの銃剣貸しておくから、スナイプと自衛用にでも」
「じゃあそうさせてもらいますね」
と、言いながら杏は銃剣を借り受け、両手にクロスボウと銃剣を持ってバーテックスを一体一体スナイプし始める。
「は? なんですかこの銃剣。威力高すぎてなんか怖いんですけど」
「千景さんの槍と鏡みたいなモンよ」
「あー……あのわたし達以外の勇者的存在が持ってたって言う……一体何者なんですかね、これを持ってた人達って」
「さぁ」
勿論それは三百年後の勇者達なのだが、そこら辺を杏が理解できるわけもなく。
しかし、前で大暴れし続ける四人は杏からの援護の威力が増したことに気が付いたのか、先ほどよりも更にイケイケドンドンで前へ前へと出ていく。特に凄まじいのは若葉と千景の二人組であり、若葉は八艘飛びとすら言える程の超人的な身のこなしで地上よりもバーテックスを足場に戦闘している時間の方が長い程であり、千景も地上で槍を変形させ、ドリルのような形状の槍を作り出し、それでチャージを繰り返している。
千景のチャージ一回で何十体ものバーテックスが消し飛び、若葉の丁寧で素早い斬撃が一瞬で千景の一回のチャージと同じ程のバーテックスを屠っていく。
武器性能の差を身体能力の差で縮めていく若葉の存在は、正しくバケモノだとか物の怪だとか、そういう類にしか見えないほどである。
しかもそこに高嶋、球子の確実性がある攻撃に加え、杏の貫通性能までもを得た銃撃が混ざり、バーテックスの反撃を一切合切許さない攻撃を繰り広げている。
しかし、バーテックスとて殴られ続けるサンドバッグではない。いつの間にか馬鹿共を潜り抜けて杏から先に仕留めようと接近してきたバーテックスが大口を開け杏を食らわんとする。
が。
「イージーね!」
それを待機していた歌野が鞭で打ち、一瞬で撃退する。
「わっ。気づきませんでした。ありがとうございます、歌野さん」
「良いって事よ。それよりも、わたしは杏さんの護衛に徹した方がいいかもしれないわね。少なくない量がわたし達を囲み始めているわ」
「護衛に徹するって……一人で大丈夫なんですか?」
「諏訪を一人で守っていた勇者は早々甘くないわ。任せなさい」
そして、杏の方へと抜けてきたバーテックスは歌野が相手取る。
援護に意識を割いて両手の銃を撃ち続ける杏の周りを飛び回るバーテックス達は歌野が鞭で打ち払い、一匹たりとも杏へと近づけさせない。
恐らく、この状況は誰か一人を残すという作戦を最初から取っていたとしても起こるべくして起こっていただろう。休憩中、援護中の勇者を囲み、孤立させて一人を確実に仕留め崩壊させる。いくら勇者達を四方に散りばめて杏を中心に戦ったとしても、高嶋や球子のような単体との戦闘に向いているが多数を相手取る事を不得手とする勇者がいつかは抜かれ、襲撃は起こっていた。
そう思えば、一人で何かを守りながら戦う事に慣れている歌野を杏の護衛に置き、杏は好き勝手に殲滅する勇者共の援護に回らせるのは良い作戦だったのかもしれない。
完全に行き当たりばったりな意見だが。
――そうして戦い続けて、二時間程度が経過した――
「ったく、数が多すぎるったらありゃしない!」
「乃木さん、下がりなさい。もう一度チャージするわ!」
「すまん、一度下がる!」
「問題なしよ!」
前衛四人が倒したバーテックスの数は、約二千。武器を振れば当たるレベルでバーテックスが密集している場所に若葉と千景が突入し、一瞬で壊滅させるという手法を取り続け、高嶋と球子はその撃ち漏らしを確実に倒すという援護を繰り返し続け、勇者四人は先日襲ってきたバーテックスの倍の数を倒す事に成功していた。
だが、まだバーテックスはうじゃうじゃと湧いてくる。流石に疲れを感じは始めた若葉と千景が下がりつつも何度も迎撃し、休憩する時間を見つけようとするが、しかしバーテックスは即座に襲ってくる。
キリがない。この中に戦術爆撃機みたいなことができる人間が居たらそれで済むのだが、それが居ない以上、個人のできる技でなんとかするしかない。
歯噛みしつつも何度もチャージを繰り返し、そして下がる。しかし、バーテックスはすぐに襲ってくる。
どうしたらいいのか。そう思いながら改めて槍を構える千景だったが、そんな千景の後ろから集中的な援護射撃が飛来し、そして若葉と千景の上をその援護射撃を行った張本人、歌野が飛び越えてバーテックスの中へと突っ込んでいった。
「歌野か!?」
「白鳥さん、あなた後ろに居たんじゃ!?」
「ちょーっと、戦況がバッドな事になりそうだったから選手チェンジよ! 三十分は持たせるから、二人は休んでなさい!」
既に杏を狙ってきたバーテックスは歌野が倒し終え、銃剣を回収すると同時に杏には自分の身を守る事に意識を半分割くように言ってから二人と交代するために前へと出てきた。
先ほどよりも援護射撃の質は落ちるが、しかし歌野が前で銃撃する。矢と銃弾の量は一切減っていない。それどころか最前線で放たれる弾丸はバーテックスを何体も貫いて一発で何体ものバーテックスを倒すという戦果を挙げる。
「し、しかしだな!」
「いいから! わたしは諏訪を守った勇者よ? この程度、何度も経験したことの一つよ!」
歌野は叫びながらも二人が切り開いた戦線を維持し続ける。
鞭と銃剣。相反する属性を持つ二つの武器を巧みに使い、バーテックスを一切寄せ付ける事無く倒し続ける。いつしか若葉と千景を狙うバーテックスは歌野へと狙いを切り替え、突撃を繰り返すものの、それを避けながら反撃を確実に与え続ける歌野。
正しく天性の才能を持つが故の戦い方。千景と若葉という二大切り込み隊長が空けた穴を現状維持という形で塞ぐその戦い方は、正しく天才とまで言える。
それを見てしまっては無理にも戦うわけにはいかない。二人はそれ以上何かを言う事を止め、杏の元へと飛んだ。
杏は戻ってきた二人を援護するように矢を放ちながらそっと自分の後ろへ来るように誘導しつつ、口を開く。
「言っておいてなんですけど、もうちょっとこう、馬鹿正直に特攻するのやめません? 友奈さんとタマっち先輩は大分セーブしつつ戦ってますよ?」
「いつもいつでも振り返らない、全力疾走の女なのよ、私は」
「良い事言ったな、千景。その通りだ」
「黙れ猪武者」
「は? キレそう」
いつも通りいきなり豹変しかける若葉だったが、まぁまぁ、と杏が落ち着かせる。
改めて前線に視線を戻すが、前線では歌野がかなり張り切って頑張ってくれている。千景と若葉が抜けた穴を埋めるように戦っているため、完全に戦線のキープができているとは言いにくいが、しかし一時間程度ならこの二人で即座に巻き返せる程度のペース配分で後退と戦闘を繰り返している。三十分と言っておきながらそれぐらいやってのける歌野には思わず感心してしまう。
一人で勇者五人で分割せざるを得なかった役割をやらなければならなかった立場からか、歌野の立ち回りはとても洗練されており、自分に一切の無理なく、余裕な表情でじんわりと後退を繰り返す。
「流石白鳥さんね。どこかの前に行くしか能がない野武士とは大違い」
「あぁ、そうだな。特に暴れる事しか考えていない陰キャとは大違いだ」
「乃木さん、ちょっとあっちで喧嘩しましょうか」
「そうだな。そろそろどっちが上の立場か分からせる必要があるな?」
「アンタ達もうちょっと静かにできないんですか」
どうしてこの二人はちょっと目を離すと煽り合い宇宙をし始めて殴り合い宇宙を開始しようとするのだろうか。
喧嘩するほど仲がいいというのは分かっているが、止めないと殴り合いかけるのはちょっとどうかと思うのは杏の心境。しかし、変な事を言いながらも二人の体力はしっかりと回復し始めている。
暫くは杏も歌野の援護に集中し、大体一時間程度だろうか。高嶋と球子の体力が徐々に切れかけ、肩で呼吸をしているのが杏から見てとれた。
「そろそろ潮時ですね。おい馬鹿二人、とっとと前に行け」
「ん? なんか軍師から変な言葉が聞こえたなぁ?」
「伊予島さん、今度じっくりとオハナシよ」
「うるせぇ矢で後ろの処女失いたくなかったらとっとと行ってきやがれボケ共」
『うっす』
なんか文句言ってきたボケ共を脅して前に行かせると、暫く経ってから高嶋と球子の二人が戻ってくる。
「あー、疲れたぁ。なんか結構長い時間戦ってた気がするぞ」
「そりゃそうだよ。だって三時間も前線に居たんだから」
「ふへぇ。そりゃ疲れる筈だよぉ……」
球子と会話しつつ前を見る杏だったが、恐らくこの六人の中では特に戦闘力と突破力に優れたトップスリーがガンガン戦線を押し出している。
高嶋と球子が弱いわけではない。だが、二人は体力を残しつつ戦線の意地に務めていたため、こんな真似はできなかったし、そもそも二人とも武器の問題で派手に戦線を押し出す事ができない。
なんか前から野武士と陰キャと農業王の半分トチ狂った笑い声みたいな物が聞こえてくる気がするが、多分気のせいだろう。
「いやー、あの三人を止めれるバーテックスっているのかって思いますね」
「流石に進化体とか出てきたら止まると思うぞ?」
「あっ、とうとう出てきた進化体がぐんちゃんの槍で一瞬で消滅した」
「ごめん嘘ついた」
「それじゃあ嘘ついちゃったタマっち先輩は後でわたしと一緒に部屋で気持ちのぐへぁ!!?」
「あっ、飛んできたバーテックスの破片がアンちゃんにぶつかった」
「あんずぅ!? 割と痛い感じで人中に入ったけど大丈夫かあんずぅ!?」
「あ、あの陰キャぁ……!! いつか誤射してやる……!! 穴もう一個増やしてやる……!!」
ちなみにバーテックスの破片を飛ばしたのは千景である。ボケに回ったりツッコミに回ったりと忙しい陰キャである。
バーテックスの破片が顔面に当たった事で白い勇者服を鼻血で赤に染める杏だったが、そんな杏を他所に徐々に戦況は変化し始めていた。
今まで一体も出てきていなかった進化体バーテックスがバーテックスの合間を縫って現れ始めたのだ。これには思わず三人も足を止めたが、即座に行動開始。若葉が八艘飛び擬きで雑魚バーテックスを狩り、千景と歌野が中心となり進化体バーテックスを一撃で屠っていく。
武器性能に任せた完全なるゴリ押し。しかし、勇者としてのスペックが進化体バーテックスに負けている時点でこうして武器性能でゴリ押すしかない。
しかし、そのゴリ押しすら三人は止める事となる。
今まで壁となって三人の進行を受け続けていたバーテックス達がその場を離れたために現れた、超巨大な存在によって。
「で、デカ……!?」
「なんだありゃ!? 怪獣かなんか!?」
「進化体……なんでしょうけど、にしては大きすぎますね……」
その全長、約三十メートル。しかし、一部が欠けていることから完全に完成はしていないと推測する事ができる。
しかし、その大きさは勇者達を圧倒するには十分すぎた。今までの進化体バーテックスが可愛く見える程のソレは、明らかに今までの攻撃方法では。千景と歌野の武器だろうと一撃では屠れないのが目に見えていた。
一応、二人はこのバーテックスの更に未完成な状態と交戦したことがある。あの時は口部分は完成していたが他の部分が全体的に未完成であった事から、ただの一芸特化型となっていたが、しかし今回の巨大バーテックスはそれよりも更に完成されている。
明らかに尋常ではない。
勇者のスペックなんて簡単に超越して見せる程のスペックを持っているに違いない。
そんな風に予測した瞬間だった。巨大バーテックスの体の一部が光を受けて煌めき、そして何かがアーチ状の軌跡を描いて杏達の元まで飛んでくる。
戦国や三国物のアニメや映画でしか見ないような、大量の矢が。
「やべっ!?」
「こなくそっ!!」
それを見た瞬間、高嶋が地面を殴り、そのまま一気に腕を持ち上げ、球子も旋刃盤を盾状への簡単な変形を行ってから杏を抱えて自分の真上に掲げる。
地面を畳返しのように抉って持ち上げた高嶋の天然地面盾と球子の旋刃盤に大量の矢が突き刺さり、それに耐える二人の声すら掻き消される程の矢が地面と盾に当たる音が響き渡る。
その斉射も十秒も経たないうちに終わる物の、なんとか無傷でそれを潜り抜けた三人は呆然としつつも盾としたものを下ろした。
「な、なんじゃありゃ……」
「これ、割とマジで一体出るだけで数人の犠牲が出ますよ……」
「うわっ、よく見たら数本貫通しかけてる……あっぶなぁ……」
しかし、同時に杏は巨大バーテックスを見てとある事にも気が付いた。
壁となっていたはずのバーテックスも巨大バーテックスへの融合に使われており、後ろの方にもバーテックスの姿はほとんどない。居ても、精々百とか二百とか。勇者一人で十分に勝てる程度の量しか残されていない事を。
つまり、あの巨大バーテックスさえ倒してしまえば後はどうにでもなる。
今が攻め時だ。
「タマっち先輩、友奈さん、攻めますよ! わたしも前に出ます!」
「あんずもか!? いや、でも……まぁいいや! 三人で行くぞ!」
「うん!」
ここに居ても狙い撃ちにされる。それを理解し、即座にその場を駆け抜ける三人。直後に後ろの方でまた矢が突き刺さりまくる音が聞こえてきたが、そんな物は気にしない。
三人で飛び跳ねながら時折出てくる星屑をアクロバティックな動きで倒しつつ、下がりながら襲ってくるバーテックスを倒し続ける三人と合流する。
「ん? あぁ、休憩中の二人と杏か。どうした、私達はまだまだやれるぞ?」
「どうして三人で倒す事がデフォになってるんですか。いや、単純にここからは六人であれを倒しますってだけです」
「六人で? ……あぁ、そういえば小さいバーテックスの数もかなり少なくなってるものね」
「なるほど、アレがあっちのジョーカーって事!」
六人が並んで巨大バーテックスを見上げるが、近づけばその大きさの異常性が分かる。
明らかに人間が戦っていいような大きさではない。大きさだけで勇者達の戦意を削ぐことだって容易であろうソレは、どうやって倒せばいいのか分からない程だ。
しかし、やらねばならない。
これを倒さねば、自分達にも、四国にも、明日はない。
「……という事は、だ。ここは切り札を使ってもいい場面だな?」
「……そう、ですね。ちょっと不安ですけど」
後遺症は怖い。
だが、それを怖がって通常状態で倒せるような相手でもない。ならば、切り札を使わなければ。
「ならば今回は私が行こう。千景の切り札は生存特化だ。私が攻撃特化を引けばいいだけだ」
「そうね。なら、私達はその手助けかしら」
「頼んだ。と、いう事でリーダーとして華々しく敵軍の秘密兵器を屠ってみせよう」
生太刀を振り回しながら若葉が前に出て、勇者達が散開する。
まだ巨大バーテックスは融合しきれていない部分が存在する。その綻びとも言える部分を既に発見していた千景が真っ先に攻撃し、遅れて杏と歌野が同じく発見して銃撃。そして球子と友奈がそれを阻害しようと襲ってくるバーテックスを倒しつつも同じように融合が未完成な部分へと攻撃を行う。
さて、お膳立てされてしまった。ならば、決めねば乃木家の長女として、勇者として、五人の友人として恥ずかしすぎるし後で煽られる事だろう。
ならば、殺る。
「さて、来い」
生太刀を納刀し、体勢を低く。
いつでも飛び出せるように準備を終えてから若葉は巨大バーテックスから矢が射出されると同時に、駆けだす。
一歩、二歩、三歩。抜刀の用意をしつつ飛び跳ねながら徐々に加速していき、そして矢の雨と衝突しようというその瞬間。
「『源義経』」
矢の雨の中へと若葉の姿が消える。
その次の瞬間、若葉の姿は巨大バーテックスの真ん前に現れ、バーテックスが若葉を迎撃しようとする前に一閃。
三十メートルもあるバーテックスの一部がこれにて切断されるが、若葉の攻撃は終わらない。そこから更に空中を文字通り駆け抜け、源義経がかつて行ったとされる八艘飛びを再現せんと、空中を足場に駆け、更に加速していく。
その加速を利用し、一気に巨大バーテックスの周囲を駆け抜けながら巨大バーテックスを斬り裂いていき、更に綻びにも攻撃を加える。
「乃木さん、使いなさい!!」
そんな高速で空を駆ける若葉の元へと千景が槍を投げ渡す。
槍の矛先は既にチャージ用に光を纏い、紫色のエネルギー状となっており進化体バーテックスすら一撃で倒せる程の火力を叩き出せるようになっている。
何故だか手に馴染む。そんな感想を抱きながらも若葉は一度地面に着地し、生太刀を納刀。そして突入部位を視認し、もう一度空を駆ける。残像すら出ているのではないかという速度で一瞬にして巨大バーテックスの中へと槍を突き出したまま突っ込み、そのままバーテックスの体内を槍で一気にズタズタに荒らしていく。
時間にして十秒程度だろうか。
巨大バーテックスの体内を完全に荒らしきった若葉はそのまま体表の一部を突き破って着地し、切り札を解除。
「所詮は言葉を解せぬバケモノだ。人間サマの敵じゃなかろうさ」
槍を肩に担ぎ、一息つくと同時にバーテックスは内側から崩壊していき、そのまま消えていった。
残すバーテックスは、残り五十もない。適当にやれば倒せるのには変わりないので人類の勝利……なのだが。
「……うっぷ。気持ちわおろろろろろろろ」
「うわっ、乃木さんが吐いた!? えんがちょ!」
「あー、まぁ、あんだけ高速であっちこっち飛び回ってたものね……」
「なんていうか、わたし達ってやる事なす事、全然締まらないよねー」
「勇者ってそういうのの集まりなんだろうな」
「うーんこのいつも通り感。なんだかなぁ」
若葉が自分の移動に酔って胃の内容物(一割程バーテックス)を吐き、そのまま目を回して気絶。バ肉(バーテックスの肉)交じりの吐しゃ物にダイブすることは無かったものの、なんかこう、ぐだぐだになってしまった雰囲気の中、勇者達は残党の処理を終わらせて現実へと帰還するのであった。
総攻撃を犠牲無しで終わらせたと言うのに、あーもう滅茶苦茶だよ。
今回のサブタイのサブタイは伊予島暴走する。
中々に激しいキャラ崩壊をした伊予島さんでしたが、若葉ちゃんの切り札もあって無事総攻撃を突破。何気にうたのんも結構活躍してるというか、若干バーサーカーしているというか。
原作通りの作戦にしても全然よかったんですけど、そうするとつまらないなーと思ってよし行け馬鹿共。たかしーにもキャラ崩壊してもらいましたが時折友奈族もキャラ崩壊するのがこの作品だし多少はね?
そして切り札を使った若葉ちゃんは原作だと気絶でしたが、今回はゲロインに。どうしてだろう、この子をどこまでもキャラ崩壊させても微塵も申し訳ないと思わないのは。