ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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伊予島なら絶対に国立図書館行って本をあるだけ掻っ攫っていくって、と思って書き始めた璧外調査編。果たして伊予島はどれだけの本を璧外から掻っ攫っていくのか。


いざ東京……?

 遠征二日目では、大阪に寄る事となった。

 大阪は日本の三大都市とも言える場所だ。だからこそ、探索する意味があったのだが。

 

「荒廃、しきっているな」

「一応、探索はしてみましょう。もしかしたら、生き残りが……」

 

 ひなたの言葉に続ける言葉は無かった。

 勇者達はしっかりと目の前の光景を記憶に焼きつけながら大阪の街を歩いて行く。道中、杏や千景の我儘に付き合って食料調達を兼ねた数分の自由行動を取る時こそあったが、その程度。

 千景と杏は徐々に満足げな表情をしているのが、勇者達にとっては心の底から暗くならないための心の柱とも言える物だった。

 そして、勇者達は地下道への入り口を見つけた。バリケードこそ壊されているが、しかし崩壊していない地下を。

 

「……一応、見ていこう。もしかしたら、下手なグロ画像よりも酷い状況になってるかもしれん。平常心を保てる自信がある者はついてこい。そうじゃなければ、ここで待っていてくれ。無理強いはしない。ただ、来るのなら、せめて吐かないという意志だけは固めてくれ」

 

 嘔吐の臭いが、という理由ではない。

 無念にも死んでいった人達の前で吐くのは、あまり褒められた行為ではないと思ったからだ。人として生きていった者達を弔う事ができないから、せめて態度だけでも。

 そんな気持ちで呼びかけた若葉だったが、誰もが入り口で待つという選択肢を取らなかった。

 強いな、と若葉は一言呟き、地下道を歩いて行く。既に電気が死に、明かりは巫女が持つスマホのライト機能だけだ。他のメンツは武器を握り、前に前にと歩いて行く。

 崩壊したバリケード。人の血痕。まるで争ったかのような跡。それらを見ても小さな悲鳴一つ上げる事無く、前へ前へと。

 そしてその最奥に近い場所。地下の噴水広場とも言える場所。そこに着いた時、思わず巫女二人は両手で口をふさぎ、目を見開く。そして勇者達も、目の前の惨状に声を出す事ができなかった。

 何とか声を出せたのは、比較的精神が強い若葉と千景の二人だけだった。

 

「白骨、か……」

「バーテックスに食われた、なんて生易しいものじゃ、ないみたいね」

 

 ほぼ閉鎖的で、外からの空気が入り込まない場所だからか満ちる死臭。何かが腐り落ちた臭いが何年も閉じ込められて、そして出来上がった胃がひっくり返るような刺激臭。

 あちこちに散らばる、洗っても取れないような血痕。

 

「……日記があった。私が読む」

 

 その白骨死体の中に残っていた、一冊の日記帳。血痕が残るソレは、その日記を持っていた者の無念が感じ取れる。しかし、目を背けてはいけない。そっと手に持ち、意を決してその日記帳を開く。

 日記の内容を読んでいくと、徐々に若葉の日記を持つ手が震え始める。

 それは怒りからだった。

 同時に、悲しみからでもあった。

 日記を書いたのは、一人の女の子だった。一人称と、文字の書き方。それが、この日記の持ち主は女の子だった事を告げている。

 その少女は、妹と共にこの地下へと避難してきた。しかし、バリケードを張った地下で起こったのは、人間同士の醜い争いだった。自分こそがこの地下で周りの人間を支配できる優越種であるとでも勘違いしたのか分からないが、仕切り始める大人。それに振り回される者達。起こる食糧難。

 口減らしに殺される老人、子供。少女の妹。自分達が生き残る事しか考えていない者同士の衝突。

 そして最後は、人間自らがバリケードを破って外に出て起こる、絶望。

 少女はそれを書き、ここで死んだのだろう。バーテックスに食われ、妹の死体と最後まで一緒に居る事ができないままに。

 

「……クソッ!!」

 

 若葉は思わずその日記を地面に叩きつけたくなったが、それを理性で抑えた。

 そんな事をしてはいけない。これは、四国に持ち帰らなければならないものだ。

 璧外で起こった惨状を伝えるために、残していかなければならないものだ。

 同時に、人の愚かさを事細かく記したモノだ。

 

「人間はどうしてこうも!! どうして人は人を支配したがるんだ!! 命に上も下もあるものか!! どうして、こんな時ですら人は人を殺すような愚行を……!!」

 

 その惨状は、四国にだって言える事だ。

 人は人の上に人を作らず。しかし、そんな事を知ったものかと蹴り捨てて人を支配し、自分こそが優れてるんだと言う人間は絶対に存在する。

 そんな人間を上に置いて上手くいく例があってたまるか。

 人は、平等だ。平等だからこそ、人は人の事を考え、人のために動ける。だと言うのに。

 

「落ち着いて、乃木さん。ここの人達にとっては、もう何をする事もできなかったのよ。徐々に無くなっていく食料と物資。着々と目に見えて迫ってくる自分達の死に耐えられる人なんて、そうそう居ないわ」

「だからと言って人殺しが正当化されるものか!! 人が人に殺されるなんて、本当はあってはならない事だ!! 自然界に自分の同族を殺して悦に浸る生命体が存在するか!!? 間違ってるんだよ、同族殺しなんて馬鹿な真似はなぁ!! なぁおい!!」

 

 激昂する若葉が千景の襟元を掴み上げるが、即座に千景が若葉の額を殴り、力が緩んだところで逆に胸倉を掴み上げる。

 

「もう終わったことよ」

 

 そして千景が返した言葉は、たった一言。

 この現実を突きつけるのに最適で、同時に最も残酷であろう言葉だった。

 その言葉は今の若葉には十分に効く。理性を半分失った者になまじ優しい言葉をかけるよりも、キツイ言葉をかけるほうが、一番効果的なのだから。

 

「っ……分かっている! 分かっているが……」

「ここは死者が眠る場所よ、静かにしなさい。私達にできるのは、こんな死に方をした人達に安らかに眠れるように祈りを捧げて、そして誓う事だけ」

「………………す、まん」

「納得できないのは、ここの全員がそうよ。でも、起こってしまったのは仕方がない事。だから、誓うのよ」

「……そう、だな。すまん、千景。急に掴みかかって」

「殴ったからお相子よ」

 

 若葉を小突いた千景は、白骨死体たちの前でそっと膝を付き、手を合わせる。

 祈る。神の力を身に纏い戦う勇者達が、ここで悔いを感じながら死んでいったこの生存戦争の被害者にも等しい者達の安らかなる眠りを。

 そして、誓う。もう二度と、こんな人間同士の醜い争いで、これ以上の死者が出ないようバーテックスを確実に倒し、平和を取り戻す事を。

 神に選ばれし無垢なる少女達が祈り、誓う。

 きっと、これ以上に祈りを捧げ、誓う者として適切な者は居ないだろう。

 閉じていた目を開け、そして立ち上がり、武器を構える。

 

「……招かれざる客の登場だ。やるぞ。この地をこれ以上、荒らす愚行を許してはならん」

 

 振り向けば、その先にはこちらへと迫ってくるバーテックスの姿が見える。

 勇者達は武器を構え、巫女を守りながら戦う。この、死者が安らかに眠る地をこれ以上醜いバケモノに穢されないように。

 

 

****

 

 

 大阪を出てからは、一度諏訪に寄るため名古屋も探索する事となった。

 しかし、その道中も、そして名古屋そのものも、完全に荒廃しており、人っ子一人の気配すら感じ取る事はできない。そんな荒廃した地の中でバーテックスの気配だけは感じる事ができた。

 そう、卵のような物で繁殖するバーテックスの気配を。

 それを見た球子は、思わず切り札を使ってそれを焼き払った。精霊『輪入道』の炎を使い、一気に、だ。

 

「おい球子」

「すまん。けど、タマだってあんなの見てジッとしていられるほど、大人しくもないんだ」

「……分かるが、せめて切り札は温存しておけ。もう遅いがな」

「……あぁ。分かってら」

 

 思わず、という気持ちは若葉にだってわかる。若葉だって、あの卵群を見た瞬間、切り札を使ってでも一匹残らず消し去ってやりたいと思った。だが、球子がそれを先にやったので、しなかった。

 しかし、使ってしまったものは仕方ない。球子の切り札は炎を旋刃盤に纏わせる他、旋刃盤を浮かせて巨大化させるという性質も持っていたため、勇者達はソレに乗って諏訪へと移動する事となった。

 そして降り立った諏訪は、土地神様が居なくなったからか、荒らされつくしていた。歌野が丁寧に作り上げた畑も、二人が暮らしていた神社も、悲惨と言える程に。

 

「……あの時、わたしは死んでいったみんなのために、手を合わせる事もできなかったわ。そんな余裕も無かったし。だから、せめてお墓を作りたかったの。わざわざ寄らせちゃってごめんなさいね」

「いや、いいんだ。むしろ、私達にも手伝わせてくれ。お前を助け、諏訪を守り抜いた英雄たちの墓作りを」

「えぇ、勿論。断る理由なんて、あるはずないじゃない」

 

 そう、ここに眠るのは確かに生き残る事が適わず散っていった者達だ。

 しかし、同時に英雄だ。彼らは確かに諏訪を守り抜き、子供たちを助けてみせた英雄に変わりないのだ。

 彼らが守ってみせた諏訪の子供達は、勇者は、四国にて生きている。彼らの思いを継いで生きている。だから、それを伝えるためにも、墓は必要だと考えた。考えたからこそ、作る。

 遺骨なんて物は残っていないが故に、下には何も埋まっていない大きくも無ければ小さくもない墓。名前だって全員分なんて覚えていない。刻むのは、諏訪の英雄ここに眠るという文字だけ。しかし、無いよりはマシだ。きっと、何もしないよりも、こうやって墓を建てた方が。

 

「みんな、ちょっとした里帰りに来てみたわ。すぐに行っちゃうけど……いつか、諏訪は取り返して見せる。だから、見守ってて。あなた達が助けてくれたこの命、絶対に無駄にはしないから」

「あなた達が繋いだ命、私達四国の勇者が必ず守ってみせる。今は窮屈な世界で引き籠るしかできていない私達だが、いつかこの諏訪で、武器を持たずに手を合わせる日を必ず掴み取ってみせる。それまで安心して、眠っていてくれ」

 

 諏訪の生き残りを代表して歌野が。四国を代表して若葉が、墓に手を合わせ告げる。

 結局この日は諏訪から移動しようとは思ったものの、ここから移動できる距離にキャンプできるような場所がない事。比較的諏訪は物資が残っていることから一度諏訪でキャンプし、泊まる事となった。

 そして翌日。いよいよ東京へと歩を進めようとした時だった。

 

「今、神託が来ました。どうやら、四国が再び危機的状況に陥ったようで、神樹様がわたし達に帰還するようにと神託を」

「わたしにも土地神様から同じような神託が……」

『は?』

「タイミングェ……」

 

 そのタイミングは、他の勇者が思わずちょっと同情する程度には完璧すぎたのであった。

 この後、千景と杏はなんとしてでも東京に向かおうとしたが、高嶋と球子に引きずられてそのまま四国へと強制送還の刑となったのだった。

 二人が夢の地へと足を踏み入れるのは、まだ先の事だ。

 

 

****

 

 

 四国へと戻ってきた勇者達だったが、ちょっと不機嫌になるんじゃないかと思っていた千景と杏の機嫌は案外いつも通り。それどころか、ちょっと機嫌がいいとまで言える程だった。

 その理由は単純に、遠征の際に時折掘り出してきたゲーム、本が予想以上に掘り出し物であり、この四国ではもう存在していないようなモノ、プレミア価格でウン万円という値段が付いたモノばかりであり、それを独り占めできるというのは予想以上に二人の機嫌を良くしていた。

 球子も最近はできていなかったキャンプができてご機嫌だし、歌野と水都も自分達のために散っていった大人たちの墓を作る事ができたからか、どこか晴れやかな雰囲気を纏っている。

 しかし、その中であまりいい雰囲気を纏っていなかったのは、予想外に高嶋だった。

 若葉は一人自主練をしている高嶋を見つけ、その思いつめたような表情を見て、放っておく事なんてできないからと木刀片手に高嶋に声をかけた。

 

「友奈、精が出るな」

「若葉ちゃん……うん、まぁ、体を動かしている方が落ち着いて」

「ん、そうかそうか。ならば、一つ手合わせしてみないか? 私も、ちょっと体を動かしたい気分だ」

「うん、いいよ」

 

 肩に担いだ木刀を構え、高嶋もファイティングポーズを取る。

 今日はどうやらボクシングスタイルらしい。まぁいいだろう、と心の中で呟きながら息を吐き、高嶋が動くのに合わせて木刀を振るう。

 

「どうした友奈。表情が暗いぞ?」

「っ……集中してるだけだよ」

「いや、違うな」

 

 上っ面の言葉を違うと断言した若葉に思わず驚き、高嶋が拳を止める。その瞬間、若葉の容赦ない上段が襲い掛かり、咄嗟に八極で受け流し、そのまま八極の構えを取る。

 

「ほら、隙だらけだ。ほら、お姉さんに話してみなさい」

「お姉さんって……同い年じゃん」

「数か月私の方が年上さ。ならば十分お姉さんだろ?」

 

 そんな事は無いと思うが。

 しかし、あまり悩みは内側にためておくべきではない。きっと若葉は言わなかったらドンドンあっちから根掘り葉掘り聞いて内情を暴いてくる。

 それが分かっているから、高嶋も観念して掌打を繰り出しながら口を開いた。

 

「……実は、ちょっと不安になっちゃって」

「不安?」

「大阪駅であんなのを見た後だから……もしかしたら、バーテックス関係なくみんなが殺しあっちゃうんじゃないかって……ぐんちゃんもそれに巻き込まれちゃうんじゃないかって」

 

 震脚からの拳、それをインパクトの瞬間に握りこんで威力を高める。しかし、若葉はそれを木刀の腹で受け止め、お返しと言わんばかりに高嶋の側頭部へと木刀を振るった後、軌跡を途中で曲げてしゃがんでそれを回避した高嶋の顔面へと木刀を叩き込まんとする。

 それを高嶋はさらに体勢を低くし、足払いを仕掛けつつ上から降ってくる木刀を手で払いのける。木刀を払いのけられ足払いを仕掛けられた若葉は一度その場で飛んで足払いを躱し、空中にその身が居る間にもう一度上段から思いっきり木刀を高嶋へ向けて叩きつける。

 不安定な体勢から後ろに飛んでそれを避ける高嶋。そして若葉も改めて地面に叩きつけた木刀を持ち上げ構える。

 

「馬鹿か。千景がそんなくだらない事に巻き込まれるタチか」

「でも! ぐんちゃんはあの村でイジメられて……」

「またそれが起こるかもしれない、と?」

「……」

 

 高嶋は、それに近しい物を見た。

 見てしまった。

 だからこそ、不安で仕方がない。いつしか人の悪意が千景を殺してしまうんじゃないかと。バーテックスよりも人間が、千景を殺してしまうんじゃないかと。

 迫りくるものへと呪詛は、人間には通用しない。

 この両手は、人を殴るためにできていない。だから。

 

「もう一度言うぞ。馬鹿か」

 

 だが、それに対する若葉の返答は簡単なモノだった。

 

「あいつが人の悪意に殺されるような人間なら、既に何度か死んでいようよ」

 

 そもそもそんな物で勇者が死んでいたらバーテックスとの戦いで生き残るなんて事はできやしない。

 ファンです握手してください! からの自爆スイッチぼかーん、とかなら確かに死ねるが、そんな間抜けな自爆テロに巻き込まれる程勇者達は慢心も油断もしていない。

 

「それにアイツは、世界を救ったら共にニートして自堕落に過ごす志を持った私の友だぞ? そう簡単に死ぬザマかよ」

「だけど……だけど! どんなに一人で強くても、人の言葉は、簡単に心を折る事ができるから……誰をも殺す刃になるから……」

「はっ。千景が今さら誰かの言葉を気にしているのならハゲているさ。少しは千景の事を信じろ、友奈」

「信じてる! 信じて、大切に思っているから! だから、守りたいんだ!!」

「だったら、考えを改めることだな。お前の今の拳じゃ、守れる物も守りきれんぞ」

 

 若葉の言葉に高嶋は黙りこくり、拳を下ろしてしまう。

 重症かもしれん。そう思いながら若葉も木刀を肩に担ぎ、高嶋の肩を叩く。

 

「存分に悩め。お前の拳が翳る間は、私がお前の分まで頑張ろう。代わりに、答えが見つかったら今まで翳った分働いてもらう。私とて、死にたかないからな。権力に任せてニートする将来をつかみ取るまではな」

 

 頑張れよ、と一言告げ去っていく若葉の姿を、高嶋は見つめる事すらできなかった。

 自分の拳が翳っている。

 そんな事はないのに。

 この拳には呪詛があって。迫りくるものを倒すための力があって。

 誰よりも、千景を守れる拳なのに。

 

「……守るんだ。わたしが、守るんだ」

 

 高嶋の心を黒いものが、徐々に染めていく。




タマっち先輩の切り札カウンターが一つ増えました。と言う事で、これにてうたのん以外の切り札が一回ずつ使われました。うたのんの切り札を使う事も考えたんですけど、確かうたのんの精霊って攻撃向けじゃなかったと思ったので神世紀勇者参戦後に浸かってもらう事になると思います。

そして東京へと行こうと思ったら強制送還。オラ外から物かっぱらってくる前に戻ってくるんだよぉ! これには伊予島とエキセントリックぐんちゃんも半ギレ。

戻ってきてからは安定の翳るたかしー。もうやめて! たかしーのライフはゼロよ!!

それはさておき、そろそろスコーピオンの季節ですね……
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