まぁ、元々棗の所には犬吠埼姉妹を送るつもりでしたし、多少はね?
あと、最初の方はそのシーンを書くのは流石に面倒というか、それだけで一話くらい使いそうだったので割愛した所の解説的なのが結構多いです。
先代勇者チームが四国勇者チームと合流し、少し話をしてから先代勇者チームのリーダーである園子は大社のお偉いさんに呼び出される事となった。
それもその筈だ。自分達が知らない勇者、それをわざわざ放置し続ける理由なんて、ありはしない。
巫女ンビに加え、大社側で常に生活している巫女にも神託は既に飛んでおり、それを聞いた大社が即座に四国勇者を病院に叩き込むついでに先代勇者チームを迎えに行ったのだが、それに応じたのは園子だけ。他のメンバーは戦闘の疲労もあるという大義名分で待機という事になった。
その理由は。
「だって三人とも、結局は甘い所あるし~。もしかしたらそこを突かれて変な事を約束させられるかもだし~」
つまり、お前ら交渉には邪魔だからこっち来るな、という事である。
なんやかんやで勇者は善人の集まり。もしも泣き落としとかされたら、ある程度の条件なら呑んでしまうかもしれない。それがなんとなーく予想できたので、三人は何も言わずに頷く事となった。
それに、こういう事は園子に任せておけば上手くいくし。
そうして数時間の交渉の結果、先代勇者チームの存在は、メディア露出は避ける事となり、同時に園子は自分達の素性をある程度話す事となった。
自分達の素性をある程度。つまり、未来から来たことを話し、千景を助けるついでに戦いに参加するという約束をこちらから口にしたのは、単純に信用を得るためだ。もしもお前ら怪しいからどっか行け、と言われたら千景を助けるどころじゃなくなるからだ。故に、自分達の素性は話す事となった。
そして、メディア露出を控えた理由は幾つかある。まず、先代勇者チームの存在をバラしその素性もバラしてしまうと民衆の暴動が予想できるからだ。
神世紀は既に、バーテックスを排除しきった時代となった。そんな所から援軍に来た勇者達。それが戦うのを待つよりも、未来へと移住した方が安全性は高い。なので、未来に行くために暴動やテロなどが起こる可能性が考えられたからだ。
ならば勇者が増えた事だけを伝えて、その勇者の素性を隠したとなると、それはそれで暴動が起きる。
新たな勇者の誕生により、一部の自称識者はかつて口にした少女達の兵器化が進んでいると大口を叩く事だろう。また、新たな勇者を作れるのならと、もっと多くの勇者を作れという暴動も起きるだろう。もしかしたら、自分の娘を勇者にしろと脅迫してくる者も現れるかもしれない。
しかし、それは大社側が用意した言い訳であり、先代勇者チームの中のリーダーである園子が、大社からのその打診を一蹴した事が、恐らく一番の理由に挙がるだろう。
何故なら。
「わたし達はちーちゃんとそのお友達を助けに来ただけで~、他の人達がどうなろうと正直どうでもいいので~」
マジでド直球にこんな事を言ったのである。
いや、流石に困っている人は見過ごせないが、今は心を鬼にしてこう言わないとそうした善性を利用されるかもしれないから、心を鬼にして自分達はそういう人間なのだとアピールを行う必要があった。
そして、こんな事も。
「わたし達をメディア露出って形でここに縛り付けようとしても無駄だよ~? 無理矢理されてちやほやされても、わたし達は帰る時には帰るし、本当に嫌になったら勇者の関係者だけ連れて未来に逃げるので~」
そう、メディア露出という囲い込み。未来に逃げようにも逃げられない。そんな状況を作り出そうとしても無駄、だと。きっと大社の中ではもっと黒い案。例えば、先代勇者達を薬漬けにするなり、ハニトラなりでこの時代に縛り付けるという案だって出ているとは思うが、それも園子は読んでいる。
精霊バリアは薬にだって有効だ。そして、ハニトラなんて美森には百パーセント通じないし、銀だって面食いだがそこら辺の見極めはできる。園子に至っては心配不要。ハゲ丸だって自分がモテるという可能性を既に捨て去った悲しい人間なのでハニトラには引っかからない。
大赦もとい大社が考えそうなことなんて園子には読めている。薬とかハニトラとかは言外に出したが、縛り付けようとしても無駄だという言葉はよく伝わったようで、大社からの手出しは完全に消えた。
「という事で、大社の方とも取引が終わったよ~。勿論、ご先祖様達には無条件で協力するから、ご安心を~」
「お、おう……頼もしいには頼もしいんだが、ご先祖様と呼ばれるのはなんかこう、違和感ヤバいな……」
そういう事で大社に対して園子が突きつけた協力条件は以下の通り。
まず、自分達はあくまでも大社ではなく、郡千景及びその仲間である勇者の協力者である事。そのため、大社からの命令には従わず、勇者達からの要請に応じる形、ないしは自己判断による勇者達の援護のために動くという事。
先代勇者チーム及び、この後合流する未来勇者の勇者システムに関してはその劣化である防人システムのサンプルのみを提供する代わりに、活動拠点の用意と援助を約束する事。活動拠点の没収と援助の断ち切りを判断した場合、防人システムのサンプルの破壊を行う。
勇者システムではなく防人システムを提供した理由としては、単純に神世紀勇者達の安全確保のため、そして悪用を防ぐためである。防人システムなら、悪用されたとしても神世紀勇者が止める事ができる。
協力はするが、万が一の時は自分達『勇者』とその『関係者』の生命維持を最優先するため、無断で未来へと向かう可能性がある。その自分勝手を行う対価として自分達が持つ『バーテックス』の情報を開示する。
メディア露出には応じない。もしもそれが強制的に成された場合は『勇者』とその『関係者』を連れて未来へと戻り一切の取引を断絶する。また、神世紀勇者側の過失により存在が民衆にバレた場合はこれに関与せず可能な限りの協力を約束するが、大社側からの情報開示は一切行わず民衆の判断に任せる事。
つまり、自分達は勝手に勇者達を手伝うついでに世界を守るから、その対価として活動拠点と援助寄越せや、という事である。
という事なのだが……
「……えぐいな、園子のやつ」
「えぇ、えぐいわね……」
サラッと園子はこう言っているのである。
『勇者』と『関係者』の生命維持を最優先する。
つまり、園子は再び天の神戦が起こった際に敗北色が濃厚となったら西暦勇者全員とその関係者を本人達の意志次第で、できるだけ未来へと拉致すると言っているのだ。大社はこの『勇者』の括りに西暦勇者までもが入っていることに気が付いていない。
そして、情報開示。これは『バーテックス』と限定していることから、その先に居る天の神の存在をバラしていないのだ。つまり、神世紀勇者ですら太刀打ちできなかった天の神の情報を隠して敗北の可能性が無いと思わせ、上記の条件に気が付いている者が居たとしても、一度倒してるからダイジョーブ! と告げて無理矢理首を縦に振らせる。
無知は罪とは言うが、言ってる事がもう暴君のソレである。
だって、自分達は勇者達に協力するよ! でもダメそうならこの世界を捨てて未来に仲間達だけで逃げるんでそのつもりで! と言ってるような物なのだ。
これが暴君ではなくなんなのか。
最も、例え園子がこれを大っぴらに言っても大社は首を縦に振らざるをえなかっただろう。何故なら、西暦勇者達は先の戦闘にて敗北したからだ。勇者六人がかりでも倒せない敵が出て来てしまったという絶望的状況で、それを一人でだって倒せる戦力が三人と、六人+三人を纏めて守れる一人が共闘してやると言っているのだ。
どんなにマズい提案でも一方的に呑んで協力をしてもらうしかない。断れば世界はバーテックスの手によって滅びるかもしれないのだから。
暗殺して勇者システムを奪おうにも、薬も炎も溺死も何も効かない無敵のバリアを未来の勇者全員が標準装備しているため、奪う事すら適わない。一人から力づくで奪っても、残りの三人と後から合流する四人が、この時代の勇者六人を蹴散らしてでも取り返すだろうから、力づくも適わない。人質を取ろうにもその人質が無敵なのだからもうどうしようもない。例え携帯を奪われても精霊バリアは発動し続けるのだから。
つまり、大社側は本当に園子の言う事に首を縦に振るしかできない状況となっているのだ。
言ってる事やってる事がえげつないにも程がある。
「アタシ、これから先、園子を敵に回したくねぇわ。敵にした瞬間多分死が確定する……」
「奇遇ね、銀。私もよ。多分、断るための材料を全て封殺した状態で社会的に殺してから肉体的に殺してくるわ」
以上の条件を取りつけたのが、数時間前。
今、西暦側は既に夜中であり、美森たちは丸亀城近くのホテルに一人ずつ部屋を用意されたので、そこへと移動して寝る前に初代勇者達との仲を深めようとしている最中だ。もっとも、球子と杏は仮にも毒を体の中に入れられたので神樹様の恵みで回復する前に検査のためにと入院を余儀なくされ、高嶋は全身打撲で自分で動けないので勿論顔合わせの後即入院。この場に居るのは巫女二人と若葉、歌野、千景の五人だけだ。
園子は先代組のリーダーとして西暦組のリーダーである若葉と話しており、巫女二人は内緒話をしている銀と美森の前に。そして歌野と千景、そしてハゲ丸は。
「くっ、ちーちゃんやるな! でも白鳥と俺が組めば!」
「えぇ、二人がかりなら倒せるわ!」
「甘いわ死ねぇ!!」
『ぎゃーす!!?』
ゲームして遊んでいる。
なんやかんやで精神年齢が子供な三人は息が合うのである。
「えっと、確か、東郷さんと三ノ輪さんでしたか?」
「えぇ、そうよ。上里さん、だったわね。あとそっちが藤森さんだったかしら」
「あ、はい、そうです……」
「アタシの事は銀でいいからな? 三ノ輪って長いし呼びにくいべ」
「じゃあわたしもひなた、でいいですよ」
「わ、わたしも水都でいいです」
「私も美森でいいと言いたいのだけど、東郷呼びの方が好きなの。東郷のままでお願いするわ」
「はい、分かりました。で、東郷さん。乃木さんの事なのですが……」
乃木さん。つまりは園子の事だ。
一応園子の事も、園子と呼んでいいと美森と銀が勝手に許可し、じゃあ園子さんで、となったのだが。
ひなたは、かなり真剣な顔で自分が最も気にしていた事を口にした。
「園子さんは、若葉ちゃんの子孫で間違いないんですね」
「そのはずよ。そのっちの家から若葉さんの勇者御記……日記のような物が出てきたし、写真も出てきたのよ」
園子が若葉の子孫である事は、確定している事だ。
乃木家は代々大赦のトップに立ってきた家系であり、その血が一度でも途絶えたという話は聞かない。それに、乃木家の蔵からは三百年近く前。つまり、この時代の若葉の写真が発掘されたし、その若葉が書いた勇者御記も同時に出てきた。
それらの事から園子が若葉の子孫である事は確定である。
ならば、ひなたが気になる事はただ一つ。
「若葉ちゃんは、一体誰の子供を産んだんですか!!?」
そう、園子に繋がる家系図。そこの、若葉の隣に書いてあろう名前だ。
園子が居るという事は、若葉が子供を産んだという事。つまり若葉が誰かと結婚したという事。
若葉の事を恋愛的な意味で愛しており、性的な意味で抱きたい。オブラートに包まず言ってしまえばセ〇クスして子作りしたいと思っているひなたにとって、それはかなり重要なファクターだ。
若葉は自分の物。そのために幼いころから若葉が自分に依存するように仕向けてきたのだから。
「……どうなのかしら。聞いた事無いわね」
「アタシも聞いた事ねぇな。というか、乃木若葉って名前自体、園子から聞いただけだし。上里家も大赦のトップで子孫がいるけど、上里ひなたって名前も聞いた事無いからなぁ」
「えっ、わたしと若葉ちゃんがトップになってるんですか!?」
「上里って人が他に居ないのなら、そのはずね」
だが、二人は若葉の夫もひなたの夫も聞いた事が無い。それどころか若葉とひなたの名前は園子から聞かされて初めて知ったのだから、知る訳がない。
と言う事で、そういう時は園子に聞くしかない。
「園子ー、乃木家に家系図とかあるのかー?」
「家系図~? あった事にはあったけど~……」
「あったんですか!? それで、若葉ちゃんは一体誰の子供を!?」
やはり良家、というか三百年後で最も権力を持っている家となっては、確かに家系図だって残っているだろう。
勿論園子はその内容をしっかりと見たことがある。自分に繋がる名前を見た事はあるが……
「それが、ご先祖様の所の隣に、名前は書いてなかったんだよね~」
「……書いてない、んですか?」
「上里の方も同じらしいんだよね~。ひなタンの名前はあったけど、隣の名前は消されてたみたいで~」
その言葉を聞いて、ちょっと遠くでゲームしていた千景が目を見開いていた。
やっぱり園子って。
「……つまり、未来のわたしは……うふふふふふ」
「あっ、明確な同族の気配が」
「須美がそういうって事は……あぁ、そういう……」
なんかひなたが察した。
やっぱり園子って。
「それを理解して見てみるとなるほどなるほど。園子さんは可愛らしいですね」
「え? そう~? えへへ~」
「えっ、ひなた、お前は何を理解したんだ? おい、ひなた? 何でお前ニコニコしながらこっち見てるんだ?」
確かに若葉とひなたの容姿と性格をミックスするといい感じに園子になる気がする。いささか容姿はひなたに寄っている気がするが、時折見せる鋭さは確かに若葉に似ている気がする。
やっぱり園子って。
「ん、んん。まぁ、大体話は終わったな。とりあえず、園子。お前達には礼を言っておかねばならんな」
「お礼、ですか~?」
「あぁ。うやむやになって後回しにしていたが、改めてな。園子。それから、確か東郷と銀、藤丸と言ったか。先の戦いでは私達を助けてくれて本当に感謝する。お前達が来なければ、私達は死んでいただろう。お前達は命の恩人だ。そして、こんなに頼りない私達に力を貸してくれること。それを、改めて感謝する」
若葉は、改めて園子達先代勇者達に頭を下げた。
そう、なんやかんや色んなことがあって流してしまったが、若葉達は園子達に命を救われたのだ。もし、園子達の到着が遅れていたら、少なくとも球子、杏、若葉、歌野はバーテックスに串刺しにされ、死んでいただろう。
「そういえばそうだったわね。わたしからも、改めて礼を言うわ。本当に、サンキューよ」
「それなら私も、ね。園ねぇ、藤にぃ。それから、東郷さんに銀さん。四人が来てくれたから、みんなを守る事ができたわ」
「そうですね。なら、わたしもお礼を言わなければなりません。若葉ちゃん達を助けてくれて、ありがとうございます」
「わ、わたしも。うたのんを助けてくれてありがとうございます」
改めてこの場に居る西暦出身の全員が、先代勇者チームに頭を下げる。
それに対して先代勇者チームは、照れた。
「こ、こうも礼を言われるなんて初めてだな」
「そ、そうね。ちょっと照れくさいわ……」
「案外照れるな……」
「そ、そうだね~」
だって神世紀勇者は戦ったことに対してお礼なんてあまり言われ慣れていないのだから、照れるのも当たり前だ。
「まぁ、なんだ。これからは共に戦う身だ。今日は戦闘もあって疲れたであろう。ゆっくりと、休んでくれ」
****
少し過去に戻って。
友奈と夏凜。二人は共に過去へのゲートに入り、西暦の時代へと足を踏み入れた。そして、止まった。
「……えっ、寒くない?」
「雪降ってるじゃない」
まさかの出た場所が雪原。思わず呆然とする程度には目の前の光景は現実味が無かった。
すぐに夏凜が携帯を取り出して日時と年を確認したが、日時は春目前。年は、二千十九年。数時間前に来てから三年も経っているが、それ以上に気候がおかしい。
一応春服を着ているので寒すぎるという事はないが、流石に寒い。すぐに勇者装束を身に纏い暖を取るものの、春先でこれは明らかに異常だ。
「ふぅ。落ち着いたけど……ここ、本当に四国? それに、東郷さん達が居ないけど……」
「あー……これはまた四国外に出されたパターンね。友奈、多分ここは四国じゃないどこかよ。とりあえず、上に飛んで周りを確認するわよ」
「それならわたしが! 跳躍勇者キック! といやー!」
とりあえず周りを確認するには、上に飛んで上空から確認するのが一番手っ取り早い。と言う事で上に向かって飛ぶと、ここが山の近くであり、同時に街まではあまり距離が無い事が判明した。
「えっと、あっちとあっちに街があったよ。で、あっちにも街はあったけど、ちょっと遠いかな?」
「んじゃ、適当にあっちへ行きましょうか。勇者服も、適当なコスプレと言い張りましょうか」
「はーい」
という事で、一度近くの街へ降りてここがどこなのか、そして人は居るのかを確認しようと思い、移動を始めた。一応携帯の方も見たが、何故かこの土地の名前が出てこなかったのである。
日本ではないという事なのだろうか。それを疑問に思っていたが、まぁなんとかなるだろうと楽観。
「でも、燃えてない四国の外なんて、わたし初めてだよ」
「あたしもよ。まぁ、そもそも四国の外にまだ人がいるのか……構えなさい、友奈」
「え?」
移動を始めたが、すぐに夏凜が両手に双剣を召喚して構えた。
友奈も暫く狼狽えていたが、拳を構えた。が、すぐに違和感。拳を握ってふと自分の手を確認するが、力があまり入らない感じがする。いや、十分に戦えるラインではあるが、かつての勇者パンチ程の火力は出ないというのが、何となく理解できた。
試しに牛鬼の力を引き出してみようとするが、代わりに出たのは炎。
「えっ、火車? 久しぶりだね~」
そう、炎。
精霊を出してみれば、そこに出てきたのは火車であり、牛鬼ではなかった。牛鬼は勇者パンチと勇者キックの火力を底上げする役割を担っていたという、何気に重要な存在だったのだが、それが無くなり炎を出せる役割を持った、友奈の第二の精霊、火車が出てきたのだ。
しかし、今はそれでもいい。火車の力で両手両足に炎を纏わせながら構える。
「あちゃ、気づかれちった? こーさんこーさん。ほら、両手挙げてるから斬っちゃやーよ?」
そんな夏凜の双剣を見てからか、夏凜に剣を持たせた人物が山の木の上からその姿を現した。
出てきたのは、紫色の勇者装束を身に纏い槍を持った少女。もっとも、すぐに槍は地面に置いたが。
間違いなく、勇者だ。
「ゆ、勇者?」
「……何者。答えなさい」
「か、夏凜ちゃん。あの子両手を上げてるよ?」
「いいよいいよ。そうされるくらいの事はしたんだし」
槍を持った少女がしたのは、槍を投げるために構えた事だ。
もちろん投げる気はなかったのだが、しかし十分に夏凜が敵対心を持つには事足りた。少女もそれを察しているので、両手を上げながら夏凜の声に答える。
「あたしは秋原雪花。一応、勇者よ」
「……三好夏凜。勇者よ」
「え、えっと、わたしは結城友奈! 勇者やってます!」
秋原雪花。その名は聞いた事が無いが、本人が自称しているのなら間違いなく勇者なのだろう。現に彼女の隣には、精霊らしき存在が浮いている。
名を名乗り、武器は地面に。本当に敵意は無いのだろう。あったとしても、夏凜も精霊バリアは展開できる程度には満開ゲージが回復しているし、友奈も満開ゲージは満タンだ。少なくとも、ここから不意打ちで殺されることは無い。
「……まぁ、いいわ。で、ここはどこ?」
「え? 北海道は旭川だけど。というか君達どこから来たの? 精霊は新しい勇者が来るから出迎えてやれって言ってたから来たんだけど……もしかして本州からの援軍?」
北海道。
雪花が嘘を吐いていないと言うのなら、本当なのだろう。友奈は北海道か~、初めて来たよ~、なんて呑気な事を言っている。そして自分達の携帯の機能はどうやら北海道までカバーできていなかったのも判明したが、まぁどうでもいいだろう。場所を知ったなら後はどうにでもできる。
夏凜も武器を下ろし、消してからとりあえず雪花との情報共有、そして情報を引き出すために口を開く。
「北海道ね。悪いけど、あたし達は本州からの援軍とかじゃないわ。迷い込んだだけ。すぐに四国へと行くつもりよ」
「なーんだ、援軍じゃないのか。残念」
「まぁ、行き掛け駄賃程度には戦うつもりだけど……北海道って、人はまだ居るの?」
「居るよ居るよ。まさか北海道が人がいない不毛な地だとでも思った?」
「えぇ。だって、三百年後にはそんな感じだから」
「……ん?」
「まぁそこら辺はおいおい話しましょうか」
ここは北海道。三百年後には炎に包まれている土地だ。
つまり、雪花は。
それを頭で理解しつつも、しかし夏凜はそれ以上何も言わなかった。未来から来たという事は四国でみんなと合流してから、もしそこに雪花が居るのなら告げた方が色々と都合もいいだろうと思ったからだ。
友奈の方は友奈の方で通信が終わったらしく、夏凜の横に改めて並んだ。
「まぁ、なに。あたし達も雪花に協力するから、代わりに寝床を貸してくれない?」
「ん、それはいいけど……うん、いいよ。勇者なら特に隠す必要もないしね」
「それじゃあ暫くよろしくね、せっちゃん!」
「せ、せっちゃん? まぁいいや。よろしくね、結城っち。あと夏凜も」
「えぇ、よろしく」
友奈と夏凜は暫くは雪花に協力する事を成り行きで約束したが、彼女達は知らない。
北海道の一部の人間の。いや、人間が元来持つ漆黒を。雪花が人を守る事に疲れ始めている現実を。
****
「……お姉ちゃん、海だよ」
「えぇ、海ね。いやー、綺麗なもんねぇ」
一方その頃沖縄。
風と樹の犬吠埼姉妹はいざ過去の四国へ、と歩を進めた結果、なんか海の真ん前に出た。思わず現実逃避したくなるが、一体ここはどこなのだろうか。携帯を見ても何も出てこない。
二人そろって体育座りをして海を眺める二人。
「……いやぁ、ホント綺麗ね」
「あぁ。この海は沖縄の自慢でもあるからな」
そんな海を眺める二人の横に座ってこの海の事を自慢げに語る少女。
「へぇ、沖縄の海ってこんなにも綺麗……って、誰!?」
「うおいつの間に!!?」
いや誰だよ。二人が思わず立ち上がって飛び退きながら声を荒げる。しかし少女は特に動じることなく立ち上がった。
「わたしは古波蔵棗。沖縄の勇者だ」
「ゆ、勇者?」
いつの間にか犬吠埼姉妹の隣に居た、白い髪と褐色の少女。彼女の名は古波蔵棗と言い、この沖縄で勇者をやっているという。
思わず目が点になる犬吠埼姉妹だったが、それに構わず棗は口を開く。
「海が新たな勇者がやって来ると言っていたから、待っていたんだ。海が、新たな勇者はわたしの助けになってくれると言っていた。それなら、こちらから尋ねるのが道理だと思ってな」
棗は今から数分前、海から声を聞いた。
新たな勇者が来る。その勇者達はきっと、棗の、沖縄の人の助けになってくれると。棗自身、どうして新たな勇者が来るのかは分からなかったが、海が言うのならその通りなのだろう、という事で勇者達が来る浜辺で数分間スタンバり、出てきたところで隣に座ったという事だ。
「う、海が……? よく分かんないけど、現地民に会えたんなら心強いわ。私は犬吠埼風。こっちは妹の樹よ」
そんな事情はよく分からないが、とりあえず現地民に会えたのならいい。と言う事で、自己紹介されたので自己紹介し返す風。
「初めまして、棗さん。犬吠埼樹です」
それに釣られる樹。
「うん、よろしく頼む」
と言う事で自己紹介は一旦終わり。ここからは情報を得るために会話をするフェーズだ。
「で、棗。ここは沖縄、なのよね?」
「あぁ、そうだ」
「沖縄か……四国からは大分離れてるわね」
「四国? 四国に行きたいのか?」
「えぇ、そうなの。そっちに私達の仲間が行ってるはずなのよ……っと、誰かが通信してきたわね。ちょっと待ってて」
ここが改めて沖縄である事を理解した風はどうやって本州、と言うよりも四国に行こうかと悩むが、通信機が音を出したため、一度棗に待ったをかけて通信機を取り出して園子との通信に入った。
その間は樹が棗と話す事に。
「そういえば、四国は避難場所になっているとおばばが言ってたな……」
「はい。四国に行けば、沖縄の人達も安全だと思いますよ」
「……そうか」
棗は樹の言葉を聞き、頷いた。
それから暫くして風が通信を終えて戻ってくる。
「お待たせ。園子達は無事四国に居るみたいよ。でも、友奈と夏凜が北海道に居るみたい」
「ほ、北海道!? なんでそんなに離れてるんだろ……」
「一応、現地の勇者と会ったそうだから、あっちは大丈夫でしょ。四国の方も、千景と合流できたそうよ」
一応、風は園子、友奈とこれからの事を話した。
とりあえず友奈の方はもう少し様子を見てから四国へと向かう算段を付ける、との事。そして園子達は四国側でのゴタゴタが終わり次第、援軍が必要なら派遣するとの事。そして風側からは、二人が満開を使用できることから、すぐにでも向かおうかと思ったが。
「よかった~。じゃあ、わたし達も四国に行かないとだね」
「えぇ、それはそうだけど……まぁ、行き掛け駄賃ね。棗、暫くはバーテックスを倒すの、手伝うわ」
棗を放っておくことは、できなかった。
少なくとも、沖縄周辺の安全を確保するまでは、戦ったとしても罰は当たらないだろう。折角、貴重な情報を教えてもらったのだ。その程度の恩義は返さねばならない。
それに、自分達が離れたからという理由で、棗が戦いで死ぬのは、後味が悪すぎる。
「あぁ、そうしてくれると、助かる」
「任せなさいっての。アタシの女子力パワーでバーテックスなんて根こそぎ狩りつくしてやるわよ!!」
「出たよ、お姉ちゃんのいつもの女子力理論……」
北海道と沖縄。この日本の両極端にある島で、小さな。しかし、大きな戦いが幕を開けようとしていた。
とりあえずそのっちは大社に対して、自分達は好き勝手動くけど、それを邪魔されたら何されても文句言うなよ? 的な事を突きつけた感じです。これは暴君。
あと、そのっちのご先祖たる若葉ちゃんの子供とひなたの子供に関しては……公式の方で二人がその後どうなったか書かなかったのが悪いという事で。
というか絶対この二人の子孫って……
そして残りの勇者達ですが、ゆうにぼが秋原雪花の章に乱入、ふういつが古波蔵棗の章に乱入と言う感じ。多分古波蔵棗の章は結構簡単に終わる。
あと、これは結構ゆーゆの戦力に関係する事なのですが、ゆーゆの精霊が牛鬼から火車へと変わっています。これによりゆーゆの勇者パンチと勇者キックの火力が大幅に減少した代わりに炎による広範囲攻撃を習得しました。まぁ、牛鬼が今回神世紀の方で待機というか、高奈神が明確な意思を持ってどっかに居るので、その代わりに火車が貸し出された感じですね。
なので他の勇者は基礎スペックダウンだけですが、ゆーゆだけは基礎スぺダウン+火力ダウンという大幅弱体化が入っています。まるでレベルが初期化されて仲間になった旧作の主人公みたいだぁ……
まぁ、それでも西暦勇者の何倍も強いんですけどね。