ハナトハゲ   作:黄金馬鹿

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今回は秋原雪花の章その一、という事になります。古波蔵棗の章は次回の一回で終わりですが、秋原雪花の章だけはちょっと長くなりました。

とりあえずせっちゃんがスペックお化け共にドン引きするお話となります。どうぞ。


北海道にて

 雪花の隠れ家は、誰も来なさそうな山の中に掘られていた。

 中は見事なもので、机からベッド。本棚にちょくちょくと備蓄していった大量の食糧が置いてある。それを見た二人は思わず声を上げる程だった。

 勇者と言えど、防人システムに劣る性能でここまでの穴を作るのは、とても大変だっただろう。

 

「悪いけど、ベッドも椅子も一個だけなの。必要なら作るか持ってきてちょうだい」

「あたしはそれでいいけど、ベッドだけはちょっと友奈に使わせてあげられないかしら。雪花が寝ても、多少は余裕があるでしょ?」

「えっ、わたしだけ? それは流石に……」

「あたしは訓練してるし椅子で寝ても何とかなるわ。でも、友奈は違う。駄目かしら、雪花」

「まぁ、いいけど……枕ないよ?」

「構わないわね、友奈」

「別にいいけど……でも、夏凜ちゃんと交代で使うよ。夏凜ちゃんもベッドで寝なきゃだめだよ。無理せず自分も幸せであること、だよ?」

「うっ……はいはい。そうしますよ」

「あらあら、いい言葉。あたしも使わせてもらおうかにゃ~」

 

 軽い言葉を言う雪花だったが、自分が座っているベッドの横を叩いて友奈を座らせ、一個しかない椅子には夏凜が座る事となった。まだ寒いので、勇者装束は着たままだ。これを着たままなら服も汚れないし、シャワーを浴びなくても清潔感は保たれる。

 が、シャワーには入りたい。雪花は雪を溶かした水で何とかシャワーもどきを浴びている状態らしいが。

 さて、一度腰を落ち着けた所で、夏凜が話を切り出す。

 

「で、雪花。あたし達は四国へと行かなきゃいけないの。あたしの満開ゲージが溜まるまであと二日とちょっとだから、それまでは最低でも協力するわ」

「満開ゲージ? なんじゃそら」

「そこら辺は長くなるから割愛よ」

 

 友奈に運んでもらえばそれで済む話なのだが、こうして協力を申し出た以上は少なくとも期間を設けておきたいし、何より北海道を放っておくのは夏凜の中の勇者としての感情が許さなかった。

 雪花は満開が分からないので首を傾げたが、それは追々。とにかく、そういう事で、と告げると、まぁしょうがないか、と一言漏らし、肩を落とした。

 

「か、夏凜ちゃん。どうせなら、ここら辺のバーテックスを狩るまでは……」

「友奈」

 

 それを言ってしまっては、キリがない。

 限度を設けて行動しなければ、いつしかこの土地に、人に、魂を引っ張られてしまう。未来という帰らなければならない場所がある事。そして、合流しなければいけない仲間が居る以上、それは許可できないのだ。

 だから、いつかは雪花と別れるか、雪花を連れて四国へと向かわなければならない。これは、決定事項だ。どうしようもない、決定事項。

 

「でも、雪花。もし北海道の人を纏めて四国へと移すのなら、協力するわ」

「え? いいの?」

「えぇ。物は次いでよ。あたし達の切り札、満開を使えばある程度の人を守って移動できるわ。四国には、あたし達の仲間がいる。北海道よりも勇者の数は多いし、安全だと思うわ」

 

 友奈の通信から、園子達は四国。犬吠埼姉妹は沖縄に居る事が既に確認できている。そして、四国には六人の勇者が居る事と、沖縄には一人の勇者が居る事も確認ができた。もしも雪花が四国へと来るのならば、四国の勇者は少なくとも合計で十五人という大所帯になる。

 その人数を聞いて流石の雪花も悩んでいるらしく、顎に手を当てた。

 それもそうだ。この穴倉は、もしも本州からの援軍が来ず、北海道の人を本州へと避難させる算段が出なかったとき。自分が疲れ果てて守る事を放棄した際に使おうと思っていた隠れ家だ。

 もしも四国へ行けたのならば。人の多い場所へ、勇者の多い場所へ行けたのならば、自分の生存率は確実に上がる。夏凜と友奈という戦力が離れて一人で戦い続けるよりも、圧倒的に生存力は上がる。

 これは、間違いがない事だ。

 

「……そこら辺は、あたしに任せて。ちょーっち話付けてくるから」

 

 ならば、動くしかない。

 夏凜が満開とやらを使用可能になるまでの間に、頭の固い大人たちを説得せねばならない。

 及川(一番悪徳的な人間)は、この間守り切る事ができずに死に、物事はスムーズに片付いている。今、大人たちを説得して四国へと向かう事ができれば。そうじゃなければ、自分はこの穴倉で、数年も経たない内に何もかもの備蓄が来て、死ぬ。

 生き残りたい雪花だからこそ、話はここまでスムーズに進んだのだ。

 

「んじゃ、ちょっくらあたしは……」

 

 二日だ。

 タイムリミットは、二日。その間に大人たちをと動き始めた雪花だったが、その隣に精霊が現れ、雪花に話しかける。

 敵の到来だ。

 

「あー……悪いんだけど、敵が出たみたい。手伝ってくれない?」

「バーテックスね、任せなさい。行くわよ、友奈」

「うん、夏凜ちゃん!」

「元気っ子の元気ってすごいわー……で、バーテックスって何? 美味しいの?」

「え? あぁ、呼称が違うのね。そこら辺は移動しながらでも」

 

 

****

 

 

 戦闘は、勇者達の圧倒だった。

 樹海化しない場所での戦闘と言うのは、いささか友奈と夏凜に戦いづらさを与えた物の、全く問題はない。

 今さら星屑程度に後れを取る勇者達ではないがために、二人は逃げ行く人々を庇うように飛び回りながら戦い続ける。

 

「勇者キック! もう一発!!」

「この三好夏凜に斬り殺されたい馬鹿から出てきなさい!! どりゃああああああああああああ!!」

「……えっ、なにこのスペック差。理不尽すぎない?」

 

 もうあいつらだけでいいんじゃないかな。

そう言いたくなる程の圧倒的暴力。一撃で星屑は弾け斬り割かれ。更に勇者キックと叫びながら炎を纏って突撃したらバーテックスが明らかにキックの範囲以上に広がった炎に引火して消滅する。

 そして夏凜の方も、超高速で建物から建物へと飛び回り、友奈の撃ち漏らしを一瞬で殲滅していく。

 雪花にできるのは、それでも時折出てくる一匹二匹の星屑にチクっと槍を刺して倒すだけ。しかも驚くべきことに、二人が倒している星屑の数は、普段雪花が倒している量の倍近く。それを、まるで無双ゲーのように蹴散らしているのだから雪花も思わず口を半開きにしてしまう。

 チクチクと星屑を刺していると、運悪く巻き込まれてしまったらしい、よく終わらない会議をしている重鎮の一人が雪花に話しかけてきた。

 

「ゆ、勇者様。あの子たちは一体……?」

「あー……よく分かんないんですけど、援軍? どうやら本土の方に行こうとしたら迷ってここに来たらしくって」

「そ、そうですか! あんなにも強い勇者様が二人も……!!」

「そこら辺はほら、後で話しますんで、今は避難をお願いします。いつあの二人に限界が来るか……」

 

 と、言いながら前を見て。

 

「スピキュール勇者キックバージョン!! ひっさびさにドーンッ!!」

 

 なんか一番リーチが短いハズの子が炎で範囲攻撃を決めこんで迫ってきていた星屑を全部燃やし尽くしていた。

 口を開けたまま巻き起こる炎の柱を見て口が開きっぱなしになる雪花と男。ついでに雪花のメガネがあまりの光景を見たことによりズレる。ついでに槍も落としてしまう。

 友奈も勿論避難が完了しているのを見てからぶちかましたので被害者は無し。夏凜も最後の一体を倒し終わって特に何かを言うまでもなく双剣を消す。

 

「お疲れ様! 夏凜ちゃん、せっちゃん!!」

「えぇ、お疲れ友奈。雪花も、撃ち漏らしをやってくれて助かったわ。ありがと」

「……あ、うん。その、乙っす、お二人さん」

 

 まるで自分が二人と同等の活躍をしたと言わんばかりにお疲れ様と言ってくる。

 しかも、二人は全くの悪意無し。本当に雪花も自分達と同じくらい頑張ったんだと思って言っているので、素直に受け取るしかない。しかし、何とも人柄がいい二人のせいで、なんかこう、言葉が変になる。

 もう本当にこいつらだけでいいんじゃないかな。そう思ってしまう。

 

「あと友奈。勇者キックの火力が強過ぎよ。ほら、あっちのお店が焦げちゃってるじゃない」

「あっ、ホントだ! ど、どうしようせっちゃん! わたし、謝った方がいいよね!?」

「あ、その……あたしの方から言っとくんで、これからも気にせずぶっ放してください。建物よりも人命優先なんで、はい」

「ほんっとうにごめんなさい! あれでも三割くらいの火力だったんだけど、調子乗っちゃった!!」

「さ、さんわり……」

 

 実際、友奈の今回の勇者キックは、建物という邪魔者がありながらも、それの間にある路地を縫うように炎が走り、そこから炎の柱が上がって敵を一気に燃やし尽くした形であり、友奈が十割の力で勇者キックをしたのならば、雪花の目の前には炎の柱ではなく、炎の壁ができあがっていた事だろう。実際、友奈は集中的に火力を上げたのではなく、全体に分散させて柱を作って周囲のバーテックスを一気に燃やし尽くしたため、かなり周囲に気を使ったと言える。

 建物も壊す勢いでやればその勢いは恐らくもっと強く、道路が焼けて溶け始める、なんて状況にもなる。

 つまり、まだまだ余裕。普段の二倍でも、全く持って。

 これには雪花も絶句してしまうし敬語になってしまう。夏凜も少なくない数の星屑を倒したと言うのに、全然息が上がっていない。めっちゃ余裕である。

 しかも、これで人命優先である。

 もしも人命関係なく二人に戦ってもらったら、どんな事になるのか。

 考えたくも無かった。

 

「あっ、あっちの方にバーテックスの反応だよ! 大体、二百体? それも全部星屑だ」

「なに、楽勝じゃない。ほら、雪花。行くわよ」

「に、にひゃくを……あ、はい。行かせていただきます、はい……」

 

 そして次の現場。

 

「もういっちょ勇者キック! 建物に考慮して火力抑えめバージョン!!」

「よし、終わったわね」

「わぁ、たてものがきれいだー」

「あっ、まただ! 今度は三百体だって!」

「まぁ、星屑三百体ならウォーミングアップね。さ、行くわよ」

「うぃっす」

 

 そして次の現場。

 

「はい勇者キックドーン!!」

「もう、友奈。撃ち漏らしているわよ? んじゃお掃除してっと」

「もう何も言うまい……」

「うーん、楽勝すぎて怖くなってくるなぁ……精霊バリアも使わなかったし」

「せ、精霊バリア……?」

「エネルギー式の無敵バリアよ」

「ははははは……あたしの苦労って一体……」

 

 もう本当にスペック差が酷過ぎてお話にならない。

 雪花のスペックは、星屑一体に大体五秒くらいの時間をかけてようやく一体。それが一回の戦闘で五十体も出てきたら多い方で、それを倒すだけでも一苦労。精霊バリアなんてものはなく、切り札なんて物も存在しない。

 対して友奈達のスペックは、一発ドンっ、とぶちかませば星屑が十単位、火力を調整しても百単位で消し飛び、夏凜もまるでアニメの剣豪キャラのように移動しながらスパスパと敵を斬っていく。一秒に三、四体は簡単に倒して見せる。しかも無敵バリア持ちでもっと強くなれる切り札まで持っている。

 今まで真面目に戦っていたのが馬鹿らしくなってくるほどだ。

 どこのなろう系主人公だお前ら。

 

「で、友奈。調子はどう? 弱体化入ってるけど、どうにかなりそう?」

「うん! 前の七割程度だし、牛鬼が居ないからあんまり勇者パンチの威力も出ないけど、全然大丈夫だよ!」

「……え? じゃ、弱体化? 入ってんの、それで?」

「えぇ、そうよ? 体が重いったらありゃしないわ」

「ははははは……いい夢なんだろうけど、なんだろう、この無力感……あぁ、これが人生……」

 

 なんかもう。

 もう。

 何とも言えねぇ。

 そんな感情で支配される雪花さん。あんだけ無茶苦茶やっておいて本人たちは七割程度にまで戦力が激減する弱体化をくらっているというのだ。しかも、嘘は吐いていない。そこら辺のアレコレは、雪花はしっかりと分かるから。

 つまり、十割時代の十割威力の勇者キックはどれだけヤバかったのか。考えたくもない。

 そう、考えたくもない。夏凜が全力で斬っても斬りきれないような硬い物体を局所的に燃やし尽くしながら目に見える範囲全部焦土にするレベルの炎をブチかます勇者キックなんて。

 実際に二回目のジェミニ戦で起こった事である。

 

「あ、これでおしまいみたい。やったね、せっちゃん!」

「あぁ、うん……結城っちはいい子だねぇ……ホント、いい子だねぇ……泣きそうになるくらいいい子だよ、うん……」

「え? なんで抱きしめてくるの? なんで撫でるの? え? なんで?」

 

 そして友奈の優しさに触れて、なんかもう泣きたくなった。

 この世の無常感と、空しさと、無力感と。それでも自分を認めてくれる友奈の優しさが心に染みたのだ。だって彼女の言葉は一切の悪意が無いのだから。本当に、本当に善意百パーセントなのだから。

 一頻り無力感に浸って、一先ず気持ちを切り替えねばと自分の頬を叩いた所で、雪花は改めて二人にこれからの事を話す。

 

「うし! そんじゃ、あたしはあたしにできる事をやりますわ! とりあえず、みんなに北海道からの脱出と四国への避難、提案してみるよ。二人の強さはあの人が見てくれてたし、北海道にゃ大きな船が幾つかあるからね。こっからはあたしに任せんしゃい!」

 

 この二人の庇護下を離れる? 冗談じゃない。

 自分の生存率のため。そして何より、自分にありがとうを言ってくれた小さな子供のため。自分の事を信じてくれるみんなのため、この千載一遇のチャンス、無駄にはできない。

 大きなフェリーは幾つかある。二人がここを離れる前に、それらのエンジンを動かし、腰の重い大人たちの尻を蹴ってでも二人に守られながら四国に行かなければ、北海道民の命はない。

 今回の襲撃の量。そして、二人の戦闘力。それらを総合して考えた結果だ。北海道と言う土地を捨ててでも生き残りたいのならば、そうするしかない。

 だから。

 

「えぇ。一緒に来るのなら来るもの拒まずよ。そこら辺は雪花に一任するわ」

「ついでにベッドも枕も全員分持ってきちゃる! 二人にゃ働いてもらうからね! とりあえず、隠れ家に戻って二人は休んでて。夜までには何とか戻るわ」

「わかった! じゃあせっちゃん、また後でね!」

「えぇ、また後で! うっし、生き残るために頑張りますか!!」

 

 ついでに二人の体を休めるためのアレコレも、しっかりと用意しなければ。

 秋原雪花十四歳。ここが一番の頑張りどころである。

 

 

****

 

 

 会議は、難航していた。

 一番足を引っ張っていたと言っても過言ではない及川が死に、食料の供給などがスムーズになったとはいえ、依然として戦闘が続いている状態なのには変わりないし、それぞれの思惑が交錯しているのも変わりない。

 そこに一人の男が入ってくるとほぼ同時に、雪花がドアを蹴破ってエントリーした。

 

「うおっ、勇者様!? 一体どうなされたので!?」

「四国! 四国に行くわよ! 準備しなさい!」

 

 勇者様ご乱心。

 理由も言わずに喚く勇者に、一部の大人は「あぁ、とうとう度重なる戦闘で精神が……」と落胆したが、そうじゃない。

 れっきとした理由がある。一人……というか、雪花が入るちょっと前に入った男は、それを知っている。しかし、黙っている。

 この男は、勇者の力を自分の娘に移して自分がこの北海道の実験を握ろうとしている男だ。それが、勇者の数が増える事。即ち、実権を握れる存在が増えるという悪条件を口にするわけがない。

 が、そんなもん雪花には関係ない。

 どうして四国に、と聞く大人たちに荒ぶる精神を落ち着かせ、交渉の席に着く。

 

「つい数時間前に、この北海道に二人の勇者が迷い込んだの」

「勇者が、二人も!? しかし、何故北海道に迷い込んで……?」

「それはどうでもいいんです。その二人は、三日以内に四国へと向かうつもりなんです」

 

 三日以内に、四国へ、折角来てくれた勇者二人が行ってしまう。

 嬉しい知らせだが、同時に由々しき事態だ。

 

「そ、それはどうにかせねば! 勇者様、どうにかその二人の勇者にここに留まっていただくように……」

「四国には、その二人の仲間である勇者が四人もいるそうです。そして、沖縄にも。現在、四国には勇者が十名。少なくともその後に二人増えるから、合計で十四人になるそうです」

 

 勇者が、十四人。

 雪花一人でも十分すぎる戦力であるのに、それと同等の戦力が十四人も四国というただ一つの土地に集まるという。単純計算でも勇者の数が十四倍に増えるというのは、魅力的意外に何と言えようか。

 しかし、四国は広い。北海道程ではないが、広い。既に北海道は旭川周辺の、北東とも言える四分の一の地域以外は破棄されている。勇者がそこまで広大な土地を守り切れないからだ。それはきっと、十四人になっても変わらない。四国を守り切る事は、恐らく不可能。相手の数が多すぎるから。

 だが。

 

「言っておきますけど、今居る勇者二人は、あたしなんかよりも数倍。いや、百倍以上は強いですよ。あのバケモノを、二人は一撃で百体以上倒せる攻撃ができましたし。あなたは、見てましたよね?」

「い、一撃で百体……!? そ、それは本当なのかね!?」

「た、確かに。私はそれを見た。炎の柱とも呼べるものが上がって、バケモノ共が燃え尽きたのを」

 

 こうなっては隠し事はできない。

 男は白状し、その情報はこの場に居る偉い人間の思考をぐらつかせるには十分な情報だ。

 何せ、今こうして北海道を守り通す事ができている雪花よりも遥かに強い勇者が二人も、この地に居る。そしてその二人は、三日以内にここを離れる。

 

「ゆ、勇者様、その二人にここに留まっていただくように、なにとぞ……」

「嫌です。死にたくないです。あの二人に喧嘩を売って、あたしに死ねと?」

 

 あの二人はそんな事をしないが、後で謝る事にして今は汚名を被ってもらおう。

 しかし、雪花の両足は震えている。あの炎がちょっとでもこっちに来たらと思うと。この馬鹿たちに苛立った友奈が、脅し程度に勇者キックを見せつけたらと思うと。そこに無理矢理にでも友奈達を引き留めろと言われて戦いになんてなったら。

 なんて、あり得ない妄想をしてわざと恐怖しているのだ。

 ちなみにその結果は、塵も残さず死亡である。正直チビりそう。

 

「それに、四国には少なくとも、その二人と同じくらい強い勇者が六人もいるそうですよ。だったら、あたし達も四国に行く事こそが、最善だと思いますが」

 

 だったら、友奈達に守られながら四国へと行く事が最善だ。

 

「二人は、もしも北海道の人が一緒に四国へ行くのなら、守ると約束してくれました。それに二人にはどうやらもっと凄い切り札があるみたいで、確実に守ってくれます」

「だ、だったらそうだ! その二人を説得して、その他の勇者様に北海道に来てもらえば!」

「それが一番いい! 四国なんかよりも北海道を守ってもらった方が!」

 

 だと言うのに。

 二人は守ってくれると約束したのにも関わらず、この大人たちは自分達の権力欲しさにそんな事を喚きたてる。

 そうまでして権力が欲しいか。

 そこまでして偉い人として立ち続けたいか。

 

「……あたし達は、助けてもらう立場ですよ」

「ここを守ってくれるのなら、どんな物だって与えよう! 勇者様にもその分だけの報酬を――」

「じゃあ死ねば?」

 

 我慢の限界だ。

 あの二人は、相当譲歩している。

 自分達はこんな場所を見捨ててとっとと仲間たちの所へ行けばいいのに。その満開とやらは、戦える勇者一人を守りながら四国へ向かう事なんて、容易な筈だ。だって、戦えない人間を守りながら移動できるほどなのだから。

 そう、二人は完全な善意で。あのバケモノに一般人が殺されるのが嫌で、協力してくれているのだ。報酬なんて無くていい。そんな事よりも、誰かが殺されるのが嫌だから。

 生き残りたいのならその力で好き勝手やればいい。それをしないのは、それだけ二人が優しいからだ。

 ここに二人は居ないのだから、好き勝手言うのは勝手だ。この後会うであろう二人にそう言うのも勝手だ。

 だが、二人は絶対に首を縦に振らない。振る訳がない。

 振らせない。

 

「言っときますけど、あたしは嫌ですよ? 四国に一人でだって行きますよ? 死にたくないですもん」

 

 笑いながら雪花は告げる。

 これは、本当に最後の手段だ。この地に住む人たちが生き残るための、最後の手段。

 

「そ……そ、それがこの地を守る勇者の言う事か!!?」

「勇者以前にこちとら一人の人間よ!! 権力が大事なのはよーく分かるけどねぇ! それに取りつかれた人たちに飼い殺しにされるぐらいなら、その喉元に噛みついてでもあたしゃ生き残る!! 死にたか無いからね!!」

 

 雪花の慟哭に、権力者たちは黙り込む。

 だが、一部の、先ほどの騒ぎに便乗しなかった権力者は、重々しい空気の中で口を開いた。

 

「……その勇者様二人は、本当に私達足手まといを守りながら四国へと連れて行ってくれるのかね?」

「二人はそう言ってる。あたしはそれについて行くつもり」

 

 約束を破られれば、その時はその時だ。

 みんなで仲良く死にましょう。

でも、あの二人の善意は、偽物じゃない。それが分かるからこそ、雪花は断言する。二人は、自分達を助けてくれると。

 

「ならば、この地を捨ててでも勇者様三人に守ってもらい、勇者様の多い四国へと行くべきだろう」

「しょ、正気か!?」

「正気じゃないのはどちらだ、権力に取りつかれた魔物が!! 勇者様、私は四国へと行きたい。どうか、私を四国へと連れて行ってください……!!」

「わ、私もだ! どうせならもっと安全な所に行きたい!!」

 

 続々と、権力者たちが声を上げる。その中で震えているのは、権力に取りつかれた者達だけだ。

 生きるか、権力か。

 雪花は、好きな方を選べと言った。その結果、正常な思考回路を持った人間がどんな判断をするかなんて、言うまでもない。

 

「くっ、裏切り者共が!! 貴様等何を考えている!!」

「あ奴等は無視しましょう。それで勇者様、私達は何をしたら?」

「移動のために船か飛行機が必要ですから、それの用意をお願いします。希望者全員を乗せる船は、多分二つまで何とかなりますから、それの呼びかけもお願いします」

「おい!!」

「どっちにしろ、あたし達は救援を待たなければ耐えられなかった身です。生き残る方法なんて、もうこれしかないんですよ。そんじゃ、あたしは変な人に暗殺でもされないように帰りますわ。船が出る場所はそっちで指定してください。明後日、あたしが二人の勇者と一緒に確認しに来ます」

 

 言いたい事だけ言ってそのまま退散。なんか会議室からは怒号の応酬が聞こえてくるが、無視して飛び立つ。道中で布団と枕を少ないお小遣いで買おうと思ったら、いつものお礼だとタダでくれたのでありがたくいただき、それを手に移動。

 つけられる事なんてないので安心して飛び跳ねながら隠れ家へ。隠れ家では友奈達が待ている。

 

「ただいまー……ってあれ? いない」

 

 と思ったら、友奈達は居なかった。

 おかしいなぁ、と思いつつ、とりあえず布団を敷いて待っていると。

 

「うーさむっ……あっ、雪花。先に戻ってきてたのね」

「ふー、あったかぁ……」

 

 冬服に着替え、もこもこの状態で友奈達が隠れ家に入ってきた。しかし、勇者装束をどこにも持っていない。

 

「あれ、どこ行ってたの二人とも」

「いや、ちょっと服を取りに行ってたのよ」

「服って……勇者の服は?」

「それはアプリで出てくるんだよ。ほら」

 

 と思ったら、アプリのワンタッチで光と共に勇者装束に着替える友奈を見て目を見開いた。

 そんな便利なものがあるのかよ、と。

 

「服取りに行くついでに食事してきたの。ちょっと留守にしちゃって悪かったわ」

「いや、それはいいんだけど……どこに服取りに行ってどこに食べに行ってたん?」

「普通に讃州でうどんだけど?」

「……ん? んん?」

「あー……そこら辺、説明するわ」

 

 そしてなんやかんやとありまして。

 

「……えっとつまり? 結城っちと夏凜は三百年後の未来から来た勇者で、身内がこの時代の四国に居るから会いに来るついでにバーテックスを倒しに来ただけと」

「一応、さっきもう一回だけ通信したのだけど、その会う予定の子が勇者になってたっぽいのよ。だから、関与するんならもう関与するとこまでしちゃいましょうって事で」

「ぐんちゃん元気にしてるといいな~」

 

 雪花は二人の身の上話をある程度聞き、ちょっと安心した。

 あの戦闘力がこの時代のどこかで生まれた物ではなく、三百年の時が過ぎた後の世界で開発されたのなら、そのインフレ具合も納得だった。

 納得だが。

 

「ちなみに、三百年後って北海道は?」

「……ごめんなさい。あたし達が産まれた頃には、もう」

「あー、いいのいいの。なんか察してたし」

 

 夏凜の、本当に申し訳なさそうな声に雪花は特に気にしていないと返す。

 まぁ、何があったにしろ、三百年後まで自分は絶対に生きていないし。いつ北海道が沈したのかは分からないが、まぁ分かり切っていた事だ。とりあえず聞いておきたかっただけで。

 と、なるとだ。北海道はいつか終わる定めにある。だったら、二人が来たという、三百年先まで存続が確定している四国へと向かうのは、やはり強行意見を通してでもやらせておいて本当に正解だった。

 

「んじゃ、二人とも。頭でっかちのお偉いさんは説得しといたから、二日か三日後にはあたし達北海道の人間も四国へ行くわ。多分、フェリーか何かで移動すると思う」

「フェリー!? それ、わたし達も乗れる!?」

「そりゃ勿論。二人にはソレに乗ってみんなを守ってもらわにゃいけませんから」

「やったー! 夏凜ちゃん、フェリーだって、フェリー! 本物を見るのも乗るのも初めてだよ!!」

「そうなの?」

「あたし等の時代は、四国しか残ってないのよ。だから、フェリーなんて物はとっくに捨てられて残ってないわ。強いて言うなら、映像記録だけね。船も残ってるのは、漁船とかその程度」

「はーん。となると飛行機とかも無いんだ」

 

 四国しか残ってないのなら、フェリーなんていう大人数を乗せて移動する船は必要ない。飛行機だっていらない。きっと、新幹線が通っているか通っていないか。そのレベルだろう。

 いくつの人類の遺産が三百年の時を経て消えていったのか。考えてみるとちょっと楽しかったり。

 

「そんじゃ、二日間くらいは暇だし、一緒に北海道観光でもしとく? 結城っちと夏凜からしたら、人生初北海道なんでしょ?」

「いいの!? わたし、四国以外もいつか行きたいなーって思ってたんだ!」

「ま、まぁ、そうね。あたしもちょっと気になってたし」

「うむうむ。それなら適当に案内するよ。とは言っても旭川周辺しか残ってないんだけどね」

 

 とりあえず、この二人にはこれからちょっとキツイ仕事が待っているのだ。その報酬として、二人は未来では見る事ができない、人が住んでいる北海道というのを見せてやっても、きっと罰は当たらないだろう。

 勇者の身体能力なら、車でもかなり時間がかかる移動も楽ちん楽ちん。ついでに、雪花自身も四国行きの事を北海道民の末端も末端まで知らせるため、観光ついでの仕事を行うのだった。




北海道の汚い大人たちにゆーゆ達は触れず、せっちゃんが一人で頑張ってくれました。まぁ、普通に考えれば助けてもらう立場なんだし、大人しく従うのが一番ですよねっと。

次回は古波蔵棗の章です。こっちはゆゆゆいで公開されている一話だけでも結構話が進んでいたので一話だけで終わる感じとなります。

P.S
勇気の歌届きました!! ついでにソロCDも届きました!!
ぐんちゃんの歌い方がキボウノツボミと勇気のバトンの二曲で結構違っているのもいいなぁと思いましたし、たかしーがゆーゆとの歌い分けがあるせいかちょっと舌足らずな感じの勇気のバトンになってて可愛かったり。
パチスロ限定ソングも改めて収録されていますし、まだ全然楽しみは残っているこのアルバム。とりあえず暫くはソロ二人分を同時に流したりとかして色々と楽しんでいきたいと思います。
ぐんたかいいぞぉ……
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