とりあえず今回は北海道が主な話となります。
それではどうぞ。
「それじゃあちーちゃん。ちょっとみんなを連れて戻ってくるね~」
「うん、園ねぇ。無理はしないでね」
「大丈夫だよ~。だってズラっちっていう防御特化も居るし~、精霊バリアもあるから~」
出陣直前。先代勇者は既に変身し、千景も一応勇者装束を纏って武器を手に四人と共に壁ギリギリの場所まで来ていた。
先代勇者達の強さは千景だって十分に理解した。何せ、あのサソリ型巨大バーテックスを倒す程の強さだ。それが道中の雑魚に後れを取るとは思わない。それに、精霊バリアという謎のバリアまであるのは既に千景だって知っている。だから、万が一は無いと思うが。
それでも、四人が二か所に向かって。即ち、二人ずつで日本の最北端と最南端へと向かうのは少しばかり不安があった。
「でも、本当に槍と鏡、返さなくてもいいの?」
「いいんだよ~。それ、お古だし~」
「俺のはまだ予備があるらしいし、一枚くらい誤差だよ。ちーちゃんが自分を守るのに使ってくれ」
だから、千景が持っている槍と鏡を返そうとしたのだが、二人はそれを拒否した。
現在二人と、そして先代組全員が纏っている勇者装束は、かつて小学生時代に纏っていた勇者装束をリサイズした物であり本来は武器もそれに合わせて性能も調整されていたのだが、園子の槍はもう一種類あるし、ハゲ丸の鏡は比較的出土が多いと言われる神獣鏡なので、もう数枚ほど予備があったのだ。
なので、別に返さなくても問題はない。むしろ二人が若干性能がいい今の武器と千景が持つ槍と鏡を交換したい位だった。
もっとも、それは千景が申し訳ないし、それで二人に何かあったら嫌だと言って拒否ったので現状維持という形となった。
「じゃあ、千景ちゃん。どうせなら私の弓も持ってみない?」
「おっ、それならアタシの斧もどうだ? まだ予備あるし」
「そ、そこまで持てないわ……」
「それは残念」
現状維持となったのだが、美森と銀がどうせなら千景を本当のフルアーマー千景にしたら面白いんじゃないかと、自分達が先代時に使っていた武器を出して手渡そうとしたが、千景はそれを拒否した。
だってそこまでの武器を持ち変えて戦うなんてできやしないし、満足に使う事もできないのだから。
「何かあったら、俺達の分の通信機を使うんだぞ」
「そしたら満開を使ってでも戻ってくるわ」
「あんまり呼び戻すのに使いたくはないけど……何かあったら、すぐに使うわ」
そして、四人が人数分持っていた通信機に関しては、未来から同じものをもう一個取ってきて千景に手渡した。
何かあった時に自分達と通信を行い、先代勇者を呼び戻すために使うように、と。
千景はそれに頷き、先代勇者達は結界の外へと出て行った。千景もそれにちょっとだけついて行き、結界の外を走り移動するであろう先代勇者達をもうちょっとだけ見送ろうとして。
「なんか目の前にレオいるんだけどぉ!!?」
「ふぁー」
「なんか他にもバーテックスが完成しそうだし掃除していくわよ!!」
「はいはいお掃除お掃除!!」
なんか明らかに今までのバーテックスよりも強そうな巨大バーテックスが先代組に蹂躙されているのを見て、そっと後ろに下がった。
多分、あそこに混ざっても邪魔にしかならないだろうし。
****
沖縄も北海道も、既に出発前夜。沖縄の方は無事出港準備が整ったらしく、風と樹からは予定通りに港を出発し、生き残りを乗せた船と共に四国へ向かうと連絡があった。そのため、既に先代組二人は鹿児島の最南端で待機を行っており、船の出発と同時に携帯を見つつ海の上を移動して船へと向かうらしい。
そして北海道の方も、沖縄に少しだけ遅れて準備の方を行っていた。
北海道は沖縄と比べても広い。そのため、各地から集まってくる人々に注意事項などを言ってから実際に船に乗ってもらい、荷物などの選定も行っていたらそこそこの時間がかかったのだ。
既に点呼や注意事項などの報告を雪花が済ませ、現在は出発までの間、フェリー内で待機してもらうために続々とフェリー内に北海道民たちを乗せている最中である。
ちなみに友奈と夏凜は影であったかい飲み物を飲みながら待機しており、もしもこの場にバーテックスが襲来した場合は即座に殲滅を行うため、既に勇者装束を身に纏ってその上からコートを着ている状態である。
「……いやー、なんか凄いわねぇ。あんな大きな船があるなんて」
「テレビとかでたまに映ってたけど、実際に見るとこんなに大きいんだねぇ……」
しかし、二人にとって星屑なんて雑魚同然なので特に緊張することなくフェリーの方を向いて凄いねぇ、と小学生並みの感想を口にするだけ。
一応、友奈と夏凜の存在は北海道の人には秘匿されている状態である。これは、現地に集まった北海道の人に初めて見る事になる二人の勇者の元へと一般人が集り、二人が身動きが取れない、なんて状態を防ぐためである。
そのため二人の姿を実際に確認できるのは、移動中の戦闘のみとなる。ちなみに、あてがわれたフェリーの部屋は、二つのフェリーの中でも一番いい部屋だったり。
「ふい~。まとめ役ってのも案外疲れるわ~」
「あ、お疲れせっちゃん。コーヒーいる?」
「いや、だいじょぶ。それより、結城っち達はお腹とか空いてない? 二人には一番働いてもらうんだし、欲しいものがあったらなんでも言って」
「大丈夫よ。持ち込んだ備蓄もちょっとはあるし。それより、本当にあたし達は何もしなくても大丈夫なの? 力仕事とか、手伝うわよ?」
「いいよいいよ。これはあたし達の問題だしね。それに、お二人にゃバーテックスとバトってもらうお仕事が残ってるんだし」
実際、たったの三日しか準備期間が無かったがため、フェリーの方はかなり慌ただしい状態になっている。
人を限界まで詰め込むために車等は勿論詰め込む事ができず、食料や水もできる限り最低限のみを積んでその分だけ人を積む。不必要な娯楽品なども全部下ろし、必要最低限の物と人間のみを積む。そうしてようやく、避難民全員をフェリーに乗せる事ができたのだ。
そして、フェリーでの移動時間は、ほぼ丸一日。船員も交代制で丸一日船を動かすつもりだし、その間避難民には辛い生活を強いる事となるが、生き残るための必要最低限の条件だ。我慢してもらわなければならない。
「一応、青森辺りからあたし達の仲間が二人、援軍で来てくれるわ。だから、雪花も最初の方は休んでいて大丈夫よ。多分、青森辺りまでならあたし達二人でも何とかなるし」
「いやいや。現地勇者として、せめて最後までは手伝いますよっと」
だが、勇者達にもそれを強いることは難しい。
そのため、フェリーを出してから大体数時間も経たない内に青森が見えれば、そこの青森から交代要員とも言える先代組二人が合流予定となっている。友奈と夏凜は今晩と移動から数時間の間は戦いのために備え、先代組の合流と同時にバトンタッチして数時間の休憩を行う予定である。
雪花だけはそれに当てはまらず、今晩から明日、もしくは明後日の四国到着まで働き詰めの予定だ。友奈と夏凜が休んでいろと言っても本人が頑張りたいから、せめて雑用くらいはやりたいから、と懇願したので、二人は顔を見合わせてそれなら、と言うしかなかった。
だってこれぐらいしか働けないんだもん。
「おぉ、勇者様。こんな所にいらっしゃったのですか。先ほどはお疲れ様です」
と、そんな感じで短い談笑を行っている最中だった。
雪花の後ろから誰かが来て、雪花に声をかけた。振り返れば、そこに居たのはいの一番にフェリーの中に入った筈の権力者の一人。この間の会議では雪花や避難を行うと言った他の権力者に対して裏切り者とか言った男だ。
雪花は顔を顰めつつも、どうもと一言。
こういう男は何を考えて何をしでかすか分からないから、フェリーに乗り込んでくれたならそれで十分。そこから動いてほしくなかったのだが、何を考えてか一度外に出てきたらしい。
自分の部屋だけ確保して満足したのだろうか。
「そちらにいらっしゃいますのが、外部から来たという勇者様方で」
「えぇ。この避難計画を実行するための貴重な人材ですよ」
「ゆ、結城友奈です」
「三好夏凜よ。まぁ、船の方はあたし達に任せなさい。なんとかするわ」
「おぉ。それは心強い」
と、言いながら男は夏凜に向かって手を差し出した。
握手のつもりだろう。まぁ、それを拒否する必要なんてどこにもないので、夏凜はそれに応じて男の手を握り返す。そして数秒も経たない内にそれを離し、今度は友奈の方にも手を出しだす。
もちろん友奈もそれに応じて手を握り返す。
が、その瞬間。男が悪寒を感じるような笑いを浮かべた。雪花がすぐに動こうとしたが、その前に男は友奈の手を引っ張り、そのまま友奈の体を自分の方へと引き寄せると、そのまま友奈の首を腕で絞め、懐から取り出したナイフを友奈に突きつける。
「あれっ」
「友奈!?」
「結城っち! ちょっ、あんた、何してんの!!」
「う、動くな! 動けばこの娘の命はないぞ!」
この期に及んで、と雪花が歯を食いしばるが、夏凜は今にも飛び出しそうだ。もちろん、雪花がそれを抑えるが、一番心配なのは友奈の方だ。
友奈自身、今、自分がどういう状況なのかよく分かっていないらしく、視線があっちに行ったりこっちに行ったりとしているが、それを見ている雪花からしたら冗談じゃない状況に追いやられたと言っても過言ではない。
友奈を。一番優しく、一番交渉事には向いていないとも言える優しい子を人質に取られた。
夏凜みたいなちょっと気が強い少女なら、ここから自分で何とか出来るかもしれないが、友奈は人を傷つけるなんて真似、恐らく慣れていない。だから、ここから相手を傷つけてでも脱出するなんてことはできないだろう。
少しでも友奈が動けば、もしかしたら脅しとしてナイフで顔に傷の一つでも付けられるかもしれない。もしもそうなったら。
「ふ、ふはははは! この娘の命が惜しいのならば、今すぐこのふざけた計画を白紙に戻す事だ!」
「この期に及んでまだ権力にしがみつくつもり!?」
「折角手に入れた権力を、こんなぽっと出の小娘共に握りつぶされてたまるか! お前には私が支配する北海道でまだまだ働いてもらわねばならん!」
「自分のエゴで何人の人に迷惑をかけるつもりよ!」
「迷惑などではない! 大移動などと言う四六時中死に見舞われる行為よりも北海道の地で上に立つ者の支配を受け入れた方が人間は長生きできると言っている!」
「それがエゴで迷惑じゃない筈がないでしょうが!!」
醜い。
あまりにも醜い。
こうなったら友奈に傷がつく前に自分がこの男を殺してしまった方が、とまで思ってしまうが、ふと気づく。
夏凜が静かすぎる。そして、友奈の表情も特に恐怖には見舞われていない。
「……まぁ、園子から聞いていたけど、本当にこんな大人っているのね」
「なんだと?」
少しの沈黙が差し込まれた瞬間に、夏凜が口を開いた。
園子、というのが誰かは分からないが、夏凜の声には若干の失望が混ざっていた。
「友奈。投げなさい」
「で、でも、そんな事したら……」
「いいから。怪我しない程度でも、なんでもいいから投げなさい」
「こ、この状況で動けるわけが……ぬおぉ!!?」
投げなさい。
その言葉の意味が雪花には分からなかったが、すぐに分かった。
友奈が自分の首を絞める腕を力づくで解き、同時に迫ってきたナイフを手のひらで受け止めてから思いっきり男を背負い投げしたのだ。
その表情は本当にごめんなさい、とでも言いたげな表情だったが、しかし男の方は投げられたのにも関わらず全く痛がっていない。恐らく、かなりの手加減をして相当相手に気を使って投げたのだろう。音だって、あんまり派手にはなっていなかった。
「悪いわね。あたし達には薬も洗脳も何も効かないバリアがあるのよ。ナイフ程度じゃ傷一つ付かないわよ」
「な、んだと……!? だったら、秋原雪花を!」
「友奈、そのまま押さえつけて」
「ほ、本当にごめんなさい!」
「ぐえぇ!!?」
なんだそのバリア、マジで無敵じゃないか。と雪花が驚いていると、まだ抵抗を続けようとした男を思いっきり友奈が押さえつけ、そのまま意識を刈り取った。
友奈はやりすぎちゃった!? と狼狽え、夏凜はそんな友奈の肩を抱いてそっと男から距離を取らせる。対して雪花は、一応事態の鎮静化はできたがかなり気まずいと言うか、申し訳ないというか。
なんて言えばいいのか分からなかった。
「……雪花。一応言っておくけど、気にしなくてもいいわよ」
「で、でもね……」
「いいのよ。こうなるかもとは、園子……あたし達の仲間から聞いていたから」
こうなるかも。
つまりは、権力者やそれに溺れた者による襲撃。勇者の力や勇者システムそのものを狙って誰かが害を成すかもしれないという事。友奈も夏凜もそれを園子から既に聞いており、もしもそうなったら自分の身を一番に考えて、最も効率よく最も手際よくそれを片付ける事、とも。
友奈が夏凜の言葉に即座に従えたのは、園子からその事を一番に聞かされていたからだ。申し訳ないと思っても、まずは危機の脱出を最優先する事、と。精霊バリアがある故にそれは容易いのだから、そうしろと。
なので友奈はそれを思い出し、投げた。しかし、それで気絶まで持って行かなかったのは、友奈の優しさゆえ。
「……その、失望したよね」
「別に、雪花が何かしたわけじゃないでしょ。体の機能を奪われるとか、そういう事をされたら流石に怒るけど」
「逆に聞くけど、そこまでの事やられたことあんの?」
『うん』
「三百年後の勇者事情おかしいよ……」
確かに生きるか死ぬかの二択しかない世界で、こんな事を考えている人がいるという事実は、ちょっとばかり堪えた。だが、だからと言って本当に生き残りたいと思っている人たちを見捨てるだとか、雪花に切望するだとか。そういう事は一切ない。
それに、無傷で事は済んだのだ。それ以上事を荒立てる気だって、勿論ない。
後始末は雪花に任せるだけ。
「えっと……その、せっちゃんが気にする事じゃないからね?」
「あー、うん。大丈夫だよ結城っち。とりあえずあたしが腹立ったし、この人は檻にでもぶち込んでおくから二人は休んでて。無かったら部屋に頑丈なバリケード設置して檻にしておくから」
「檻って……」
「……もしも嫌気が差したら、二人だけで逃げてもいいからね?」
「何言ってんのよ。ここまで来たら一蓮托生よ。そんな事するわけないでしょうが」
「そ、そうだよ! 最後までちゃんと付き合うから!」
「…………あーもう、ほんっと。この子達のいい子っぷりにあたしマジ泣きしそう。ってかする。今する」
「わー!?」
「ホントに泣き出す奴がある!?」
マジで泣き始めた雪花を慌てて友奈と夏凜が慰めるが、ほんっとうに久しぶりに善意の塊みたいな人に触れ、色々と参り始めていた精神が癒された雪花は暫くの間マジ泣きをかまし、途中からはそれを見かけた一般の方々からも思いっきり慰められ、友奈を人質にした男は檻が無かったのでバリケードを設置して檻と化した部屋に閉じ込められるのであった。
****
一方沖縄。
「はーい、乗って乗ってー。ちゃんと全員乗れるから焦んないでねー」
「棗さん。食料とか水とか全部運び終わったので、わたしも誘導手伝いますね」
「うん、頼んだ。あっ、そこの人。大きいゲーム機は持ち込み禁止」
「うっ……すみません……」
「持って行きたいのは分かるけど、我慢して。そこに置いたら乗っちゃって」
なんか結構、平和だった。
北海道の方ではちょっとした事件はあったが、避難の準備はこれにて終わった。既に先代組も所定のポイントについたという報告を讃州勇者組に伝えたので、もう後は移動するだけ。
四国に勇者達が集結するまで、あと少し。
大赦にされたこと→急に命のやり取りに駆り出される、しかも世界滅亡の危機をサラッと告げられる、満開の後遺症を告げられない、その後遺症についてずっと秘密にして騙し通そうとする、その後遺症が下手したら一生もの、それを隠したままもう一回戦わせようとする、最後は何とかなったけどそのあと裏で生贄の事とか神婚の事を勝手に進める。
これぐらいされなきゃガチで人を見捨てることは無いと思われる勇者部。
まぁ、急に首を絞められてナイフを突きつけられたくらいじゃ精霊バリアなんて抜けないのでゆーゆは特に気にしてない模様。まぁ、雪花さんの方が結構キレてますけど。にぼっしーもどう思っているか。
それではまた次回。