満開。それによる勇者のスペック上昇はすさまじい物がある。
何せ本来は封印の儀を行わなければ火力不足やらのせいで御霊の破壊までできないバーテックスを、まるで赤子の手を捻るかのようにして一瞬にして殲滅できてしまうのだ。その力が弱いとは決して思えない。まるで夢のような強化だ。
誰よりも早く満開した風、続いて満開した美森、更に満開した樹は倒れたり自力では抜け出せない他の三人を救出した。満開の力には空を飛ぶというのも含まれていたため、救出は容易だった。
「友奈ちゃん、大丈夫?」
「――」
「こ、これは人工呼吸を……!!」
『馬鹿止めろ』
ただ、友奈だけは長時間地面に埋まっていたためか、顔を真っ青にして虫の息状態だった。それを美森は私欲しか混じっていない人工呼吸で救出しようとはしたが、全力で他の者に止められ、結局樹が何故か持ってきていたハゲ丸のジェラートを見せびらかす事によって友奈は目を覚ました。食べ物の力は偉大である。
そして勇者部がレオ・スタークラスターへと向き直る。
今までのどのバーテックスよりも強大な合体バーテックス。満開していない勇者では一撃で壊滅状態まで持っていかれたが、満開した勇者が三人もいるのなら、勝ち目は十分にある。が、恐らく上昇しているであろう耐久力の事も考えれば満開勇者三人の一斉攻撃よりも、御霊を吐き出させてから攻撃した方が勝ち目は高い。
故に、作戦はいつも通り。封印の儀。
しかし。レオはそれをさせまいと、勇者を壊滅させるために先ほどよりもより巨大な。まるで太陽そのものなのではないかと思える程の火球を生み出し、それをぶつけようとしてくる。
避ければ樹海に影響が出る。対してそれをマトモに受け止めれる勇者は満開した勇者くらいだろう。
「ここはわたしが……!!」
「いや、アタシが行く!!」
だが、それを受け止めるために友奈が拳を握り飛び出そうとした瞬間だった。風がその後ろから火球へ向けて大剣を構え飛び出し、それを大剣の腹で受け止める。
なんと無茶な。全員がそれを思うが、その行動を決して無為にはできない。五人でレオ・スタークラスターを囲み、己が武器を掲げる。
「勇者部、封印開始!!」
風の決死の叫びが聞こえた直後。火球は爆散し風が普通ならそのままミンチになりそうな程の速度で樹海に叩きつけられた。
思わず樹が風の救助に行こうとするが、それを風自身が止めた。
「そいつを、倒せぇぇぇぇぇぇ!!」
それで力尽きたのか満開が解除され倒れる風。
このまま風を助けに行くことは、彼女が体を張ってでもレオ・スタークラスターを止めた意味がなくなってしまう。故に、全員が振り返らず封印の儀を続行する。
そして吐き出された御霊は。
「……ねぇ、わたしの見間違いじゃなきゃガンバスターとかイデオンとか、そういうのが必要なくらい大きいように見えるんだけど」
「ガンバスターもイデオンもわからないけど、宇宙まで行く必要はあるわね……」
「ハハワロス」
「樹ちゃん後輩がキャラ崩壊起こしてんぞおい」
「いつもの事よ」
宇宙にまで届いた、というよりは宇宙にあった。勇者たちが見上げてもなお、全長が見えない程度には大きな御霊。友奈がガンバスターやイデオンが欲しいとついつい思ってしまうくらいには御霊は大きかった。
樹も内心ではコロニーレーザーとかないかなぁ、なんて思いながら御霊を見上げ、夏凜も何このクソゲー。と額に手を当てて空を仰いだ。仰いだ結果御霊しか見えない。ファッキン。
だが、それでも友奈は諦めない。どんな状況でも諦めないのが、勇者だから。そして、美森も同じように。友奈を信じているがために彼女のために動くと決意する。
「東郷さん!」
「友奈ちゃん、乗って!」
友奈と美森の完璧なまでに息の合った動きで、美森が友奈を、自身の満開によって生成された浮遊戦艦とも呼べるそれに友奈を乗せ、そのまま宇宙へ向けて飛び立った。
「ちょっと行ってくる!」
「ちょ!? 酸素とか大丈夫!?」
「……勇者だから!!」
「考えなしかい!!」
夏凜のツッコミも空しいかな。そのまま友奈は美森と共に空へ向かって飛んで行った。他の勇者にできるのは、封印の儀の維持くらいのものだ。
こうなった以上、バーテックスは身じろぎもしない。友奈と美森に四国の未来を託して空を見上げるだけだ。
だが、そうして待っているうちに見る自身の携帯に表示されるエネルギー残量は、今までよりも遥かに早く減っていく。あまり悠長にしていると時間切れとなってしまう可能性がある。
直後。空で爆発が相次いだ。
何が起こっているのかと樹が空を飛んで様子を見に行けば、何が起こっているのかはすぐに分かった。
「御霊が何か落としてきて、それを東郷先輩が迎撃しています!」
「鼬の最後っ屁ってやつね……」
「でも、それでクソレズの満開が途中で終わっちまったら……」
満開が、戦闘中に溜めたエネルギーのようなものを開放して行う限定的な強化のようなものだという事は既に聞いている。だが、それを全部使い果たしたらと考えれば、どうなるかはすぐに分かった。
ハゲ丸は一つ覚悟を決め、携帯から友奈に電話を繋げる。
『はいもしもし。こちら宇宙ロケット東郷号』
「案外余裕だなオイ!?」
電話に出た友奈はすぐにふざけてきた。ハゲ丸は思わずツッコミを入れてしまったが、すぐに咳払いをして空気を入れ替えると、本題を口にした。
「クソレズに言っておけ。地上への攻撃は無視していいって」
『え?』
地上への攻撃は無視していい。その意味が一瞬、友奈は分からなかった。
もしも御霊を破壊できても、樹海が爆撃されてしまったら確実に現実世界への影響は凄まじい事になる。そうなってしまった場合、とてもじゃないが勝利を手放しに喜ぶことはできないだろう。
だが、ハゲ丸とてそれを考え無しに言ったわけではない。ちょっと無理するという自覚と共に、その作戦、というよりは案を口にした。
「ここに居るのは防御特化の勇者だぜ? 空からの爆撃くらい何ともねぇよ」
つまり、落ちてくる爆撃全てをハゲ丸が迎撃する。
無茶だと樹が叫んだ。何考えてんだと夏凜が吼えた。
しかし、そうでもしないと確実性が失われるかもしれない。だから、ハゲ丸が美森の負担を幾つか引き受ける。そう口にした。
直後だった。空の爆発が止んだのは。
『ちょ、東郷さん!?』
『ハゲ。もしも友奈ちゃんの期待を裏切ったら打首獄門よ』
「おぉ怖い。まぁ、何とかするよクソレズ」
美森は信じた。
なら、それに応えるだけだ。
既に空から降ってくる御霊の攻撃が見えてきた。そう悠長に事を構えてはいられないだろう。
ハゲ丸はそれを見据え、封印の儀は頼んだと樹と夏凜にその場を任せ、飛び立った。
「んじゃ、景気よくいきますか。満開!!」
そして、花が咲く。
ガクアジサイ。中心にあるハゲ丸を彩るかのように花が咲き誇り、その中心にいるハゲ丸は巫女服ではなく神主が着るような和服をアレンジしたかのような。勇者の満開衣装の男版とも言える衣服へと勇者装束は変わっており、ハゲ丸も宙に浮く。
防御特化勇者の満開。しかし、それでも単純な戦闘力は友奈や夏凜、風には劣るだろう。きっと、一対一をあまり得意とはしない樹と一対一で、ようやく互角かそれ以下の戦闘力しか持たない満開。
だが、それでも。しないよりはマシだと満開をした。
「さぁて……バッター一番、藤丸! 千本ノック入りまーす!!」
そして始まるハゲ丸のたった一人の迎撃。
神獣鏡、八咫鏡。二つの鏡の力を使い、落ちてくる爆撃を迎撃する。
「どっか飛んでけやオラァ!!」
風は単純な戦闘力の強化。樹はワイヤーの増加。美森は機動力と火力の確保。満開にはそれぞれ、何かしらの恩恵があった。
ならば、ハゲ丸の満開による恩恵は何か。
それは実に単純なものだ。だが、単純故に防御特化としては強い、鏡の巨大化、移動速度上昇、そして反射角度の自由な調整だ。それによってハゲ丸の鏡は残像すら生んでいるのではないかと思ってしまう程の速度で移動し、全ての落下物を宇宙へと跳ね返していく。
「ハハハ場外ホームラン連発ぐっへぇ!!?」
だが、こうして気を抜くと飛来物はそのままハゲ丸を打ち爆発する。が、それでも神獣鏡は止まらない。ついでに爆発の中からハゲ丸が生還する。
「畜生痛かった!!」
「それで済むんだ……」
精霊バリア様様である。
そうして神獣鏡を使いながら地上を守り待っていると、唐突に飛来物はなくなった。
「お?」
直後、自分たちの頭上を覆っていたレオ・スタークラスターの御霊が弾けて消え、同時にレオ・スタークラスター本体も砂となって消えて行った。
それが意味することとは。
「あの二人……やったんだわ」
「はふぅ……よかった……」
夏凜と樹が無意識のうちに抱き合いながら座り込む。そしてハゲ丸も満開を維持できる時間が残り少ないのを自覚しながら二人の傍に降り立つ。
プロト満開。あまり使いたくはなかったが、使った結果レオ・スタークラスターを倒せたのならいい事だ。特に何か体に異常があるわけでもなく。そして風が吹き飛んで現在進行形で気絶しているが、被害がその程度で終わるのなら十分な戦果と言えるだろう。
だが、一つ忘れていることがある。
友奈と美森は宇宙へ行ったのだ。その二人が力を振り絞って御霊を壊し落ちてくる。それが意味することとは。
「あれ? なんか空から流れ星が……」
「いやちょっと待て。このタイミングで落ちてくるとしたら……」
空から流れ星が落ちてきた。しかも、自分たちの方へ。
まさか御霊の欠片かと思ったが、そんなものとっくに砂となっているだろう。なら、このタイミングで落ちてくるものがあるとしたら、ただ一つ。
『我が魂はZECTと共にありぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』
友奈と美森だ。
どうやらあの流れ星は美森の作った物らしく、二人一緒に纏まっているらしい。友奈の声が聞こえてきたためまさかと思ったが、やはりレーダーを見れば美森と友奈の名前がとんでもない速度で落下してきているのが見えた。
「ちょ、あれ友奈とクソレズじゃねぇか!!?」
「い、樹! キャッチ! ワイヤーでキャッチ!!」
「いや、あれ案外余裕なんじゃ……まぁやりますけど……」
あんなことを叫びながら落ちてくるものだから余裕なんじゃ、なんて思いながら樹は渋々ワイヤーを大量に張り巡らせて落ちてくる友奈と美森をキャッチする。
最後の最後まで二人は止まらなかったが、樹の決死のワイヤーによって何とか止まり、二人を守っていたらしい紫の花弁がゆっくりと開いた。
中からは友奈と美森が現れ、それに安堵した樹の満開が終わる。同時にハゲ丸の方も満開が終わり、これで本当に終わったと息を大きく吐きながら座り込んだ。
「はぁ……点呼ー。生きてる人挙ー手」
夏凜が一応と思い言った言葉には、気絶していた風も、大気圏突入してきた友奈と美森も。満開が終わった樹もハゲ丸も何も言わずに手を上げた。
夏凜はそれに笑いながら、案外平気なんじゃない。なんて呟き、自分も手を上げた。
全十二体のバーテックスが、これにて全て討伐された。これにて、讃州中学勇者部のお役目は、たった四回の戦いではあったが、無事に終わったのであった――
樹ちゃん後輩の声を失う前の最後の台詞が「いや、あれ案外余裕なんじゃ……まぁやりますけど……」という。そしてゆーゆがケタロスみたいな台詞吐きながら落ちてきました。案外余裕だったそうで。
次回は散華後。ここは原作通りではなく、変更しても原作の流れと大差ないあの人が散華内容変更となります。
東郷、お前の事だ。芸人として散華すら芸にしてくるがよい。